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'11/3/20

被災者の疎開 細やかで迅速な対応を

 36万人余りが避難所に身を寄せ、不自由な暮らしをしている。持病の悪化や感染症などで亡くなるケースも増えている。

 東日本大震災の大津波で生活基盤を根こそぎ奪われ、自宅に戻れる見通しのない人が多数いる。東京電力福島第1原発の事故による避難も加わった。

 仮設住宅が整うまでには何カ月もかかる。今まで通り暮らせる保証もない。しかもこれだけの大人数である。

 被災地から県境を越えて避難した人は1万5千人を超えた。東北地方は既に受け入れの余裕がなくなりつつある。

 「疎開」という言葉がにわかに現実味を帯びてきた。被災者が全国各地に一定期間、分散して避難する方法だ。

 被害が大きい宮城県の知事は県外への集団疎開を呼び掛け、政府も検討に入った。西日本を含め、全国で避難受け入れの準備を進めていきたい。

 各地の自治体から受け入れの動きが出ている。被災者の行き先を決め、交通手段を確保しなければならない。スピードと細やかさが求められる。政府が司令塔になり、広域にわたる調整をするのが最も効率的である。

 大きく分けて二つの方式が考えられている。

 一つは避難所ごと移るやり方だ。行き先さえ決まれば比較的早く移動できる。地域社会のきずなが維持でき、被災者の精神的な安定にもつながる利点がある。

 役場機能ごと県外に疎開するケースも出ている。福島第1原発がある福島県双葉町はきのう、町民千人以上をさいたま市のホールに移した。1カ所に集めた方が支援がしやすいからという。

 関西広域連合(7府県)は、避難所を丸ごと移す形で数万人を受け入れる。中国地方から唯一参加する鳥取県は、宮城県から2千人を受け入れる想定で、避難所の準備を進めている。

 もう一つは、公営住宅などの空き部屋の提供だ。既に中国5県では約2400戸が確保されている。こちらは集団生活が難しい高齢者や乳幼児のいる家族を優先すべきだろう。

 県営住宅を使ってもらう際、広島県は生活用品を無償提供し、島根県は1世帯に30万円を支給する。このほか、旅館や企業の研修所などの活用も考えられる。県には、民間施設を紹介する窓口の役割も果たしてほしい。

 病院や障害者施設、老人ホームにいる人の受け入れも忘れてはならない。被災者の受け皿の量と種類を増やすことが大切だ。

 政府は入居希望を一元的に受け付ける電話相談窓口を設ける予定だ。まだ電話が通じない場所もある。支援が最も必要な被災者から移ってもらうような配慮が要る。

 被災状況や健康状態などを記した一人一人の支援台帳をつくるなどの工夫も欠かせまい。

 地震、津波、原発事故という未曽有の複合災害の被災者に、日本全体が手を差し伸べる時だ。



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