震災から1週間…林家たい平さんの独演会に感銘
2011年03月20日
笑点でおなじみの林家たい平さん(46)の独演会が18日、札幌市教育文化会館(中央区西13)で開かれ、私も見に行った。
東日本大震災(11日発生)からわずか1週間、落語会を催す側も、聞きに行く方も複雑な心境のなか、当のたい平さんが、どんな高座をつくるのか。
八方から寄せる空気をどう裁くのか。
それをとくに注視した。
結論から言うと、見事だった。
◇
「開口一番」は今回の震災の件。
まず自分の家族(東京在住)が地震の影響で苦難にさらされた経緯を披露して会場をシーンとさせた。
次に、東北現地へ向け哀悼と激励の気持ちを語り、会場内はいったん厳粛なムードに。
たい平さんの背筋がスッーと伸びていて、頼もしい。
「エールを送るためにも、第一にここにいるみんなが笑って元気になる必要がある」といった意味のことばで開口一番をまとめると、客席は一気に温まった。
◇
一席目の演題は「文七元結」。
主人公は、左官の職人で、ばくちにうつつを抜かしている長兵衛。娘•お久をカタに、吉原の店から再起のための50両を借りるが、帰路で、大金を紛失し自殺しようという文七に出くわし、不憫に思って50両を与えてしまう。やがて、文七の紛失金は見つかり、文七の店の主人が感動。お久を身請け、お久と文七が結ばれるというハッピーエンドの物語である。
人情話のうちの人情話。
日本人の弱さと強さ、本音と建前、人情の温かみ、家族の絆などが、ストレートに盛り込まれ、(以前どこかで書いたが)「外国の人が来て、日本人てどんな人たちと訪ねられたら、なんにも言わずにただ落語の『文七元結』を聞いてもらえばいい」というような話である。
震災のうめき声が聞こえてくるような空気の中、これを一席目に持ってくるとは、構成が上手い。
恐れ入る。
演じた時間は55分。
ホロリとさせられたり、独特のくすぐりが随所に入れられ、派手なアクションもあって大笑いする場面も。
見事だった。
◇
中入り後は、たい平さんの弟子という林家あずみさんが登場し、三味線漫談を披露。
修行中とみえ、震災を折り込んでの語りにするほどの芸ではなく、短い時間で下がった。
これも配慮か。
◇
二席目は「二番煎じ」。
話は、火の番の夜回りをした旦那衆が、番所へ内緒で持ち込んだ酒を呑んでいると、強面の役人が回って来る。獅子鍋もつついており、なんとか隠そうとおお慌てをするというドタバタ劇。
滑稽話の真ん真ん中だ。
たい平さんの得意ネタのひとつだということで、展開はトントンと進み、あっという間の25分。
客席は十分すぎるほど温まり、聞き手の心身の節々にあった緊張感はおかしいぐらいに和らいだ。
ありがたいことである。
たい平、やるなー。
▲札幌市教育文化会館での口演のあと、同館のロビーで震災支援の募金を呼びかけるたい平さん(中央の着物姿)
◇
嬉しいときに落語、悲しいときにも落語。
「震災の避難所になっている小学校では、みんなで笑顔になろうと、教師による落語会が開かれた=17日、宮城県女川町」
こんな記事が、北海道新聞の19日夕刊に載った。何度も熟読した。
落語っていいな。
人間っていいな。
▲避難所での落語会の様子を伝える道新の紙面
<口からカンシャ>
「なんとか一息つき、たばこを口にし、シエンをくゆらせる余裕がでましたな」
「はいこれも、みなさんのシエンのおかげです」
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