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2011年3月20日(日)付

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電力不足―停電より「計画節電」を

この1週間、関東圏は計画停電に振り回された。大震災と原発事故で被害を受けた社会生活と経済に停電が追い打ちをかけている。だが、冷静に考えてみれば、現在の電力不足のもとでも[記事全文]

リビア介入―市民の保護を最優先に

リビアのカダフィ大佐に、最後通告が突きつけられた。フランスを中心とする多国籍軍機が、リビア上空の飛行監視を始めた。欧米諸国やアラブ連盟、国連などの首脳がパリに集まり、「[記事全文]

電力不足―停電より「計画節電」を

 この1週間、関東圏は計画停電に振り回された。大震災と原発事故で被害を受けた社会生活と経済に停電が追い打ちをかけている。

 だが、冷静に考えてみれば、現在の電力不足のもとでも停電をなんとか避ける手立てはある。石油危機の当時、電気事業法第27条に基づいて実施した総量規制などの手法で節電を徹底することだ。

 家庭も企業も、使う電力の総量を抑制するだけでなく、ピーク時の電力消費を抑える。そうすれば、停電しなくて済む。政府主導のもと、社会全体で取り組む「計画節電」である。

 停電より節電のほうが、家庭にも企業にも損害は少ない。政府は経済界やさまざまな消費者の声を聴いて早急に踏み切るべきだ。

 実施中の計画停電は、停電それ自体が生活や経済活動に打撃となるうえ、抜き打ち的な実施方法や方針の変更もあって、交通機関や病院、学校などあちこちで混乱と深刻な影響を引き起こしている。

 信号機が止まった交差点での死亡事故まで起きた。IT関連企業の中には、関東圏からの脱出を検討するところも出てきそうだ。

 電力不足がある以上、消費を減らす以外に手はない。だが、受け手がどうしても使いたい機器と、そうでないものを選べるという判断の余地を残した「節電」のほうが打撃は小さく、賢明なやり方ではあるまいか。

 例えば稼働するエレベーターを減らしたり、生産ラインの一部を休止したりする。操業を短縮して帰宅を早め、家庭では夕食を早く済ませて、早く寝る。操業の一部を土日に移す。学校の春休みを長くするのも一案だろう。

 さまざまな努力を積み重ねれば、かなりの節電ができる。

 電気事業法では、政府が強制的に電力使用を制限することができる。1974年の第一次石油危機で発動された時は、一定規模以上の事業者は電力の使用量を15%削った。もちろんネオンなどの照明も抑制した。

 今回は、最大時で1千万キロワットの不足に対応することが当面必要で、もっと大がかりな長丁場の節電に域内の誰もが取り組む必要がある。

 このため経済産業省内には「守ってもらえる確証がない」との反対論があるが、菅直人政権が指導力を発揮すべき重要な場面だ。

 経済同友会は緊急アピールで「計画停電に代え、総量規制を」と訴える。今でも節電の効果で停電がかなり見送られているのだから、使う側の知恵と努力をもっと信じてはどうか。そのうえで、どうしても足りなければ、最小限の計画停電で補えばよい。

 危機を克服するには、国民の節電意識をさらに高める政策こそが有効だ。

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リビア介入―市民の保護を最優先に

 リビアのカダフィ大佐に、最後通告が突きつけられた。

 フランスを中心とする多国籍軍機が、リビア上空の飛行監視を始めた。欧米諸国やアラブ連盟、国連などの首脳がパリに集まり、「国際社会の意思に基づく軍事行動」であることを最終確認した。

 すでに国連安全保障理事会は同国に飛行禁止空域を設定する決議を採択している。民間人を守るため「あらゆる措置を講じることができる」として、武力行使も認めた。カダフィ政権が即時停戦をしない限り、さらなる軍事力の行使は避けられない。

 事態は一刻を争う。リビア政府軍は戦闘機や戦車を使い、反体制派の「首都」、ベンガジに迫っている。

 サルコジ仏大統領は「我々はいかなる政府軍の攻撃にも対抗する」と警告した。現状では反体制派が制圧されるという危機感からだろう。確かに、外国人雇い兵や治安部隊による市民の虐殺や報復が始まるかもしれない。目の前で起こりつつある人道犯罪を見過ごしにできないという点は理解できる。

 だが、政府軍に対する大規模な攻撃へとエスカレートすることになれば、本格的な戦争に拡大しかねない。

 独裁政権による虐殺が起きようとしているときに、国際社会はどう対応すべきか。

 飛行禁止空域を認めた国連安保理決議は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の前例がある。少数派を空爆から守るためだった。双方が武器を持って戦っている内戦の一方を軍事的に支援する点で、今回は介入の度合いがいっそう強いと言える。1990年代のソマリア紛争では、国連部隊が反撃して内戦の当事者になってしまった。逆にルワンダ紛争やボスニアでは国連部隊が現場にいながら虐殺を防げなかった。

 こうした苦い教訓から、国際社会は「保護する責任」という新しいルールを決めた。国家には国民を保護する責任があり、もし国家がその責任を果たせないときは国際社会が代わって果たすべきだ、という考えだ。人権は国境を超えて守られるべきであり、内政不干渉の原則には例外があるのだ。2005年の国連の首脳会合の成果文書に盛り込まれた。

 今回は、この新しいルールの試金石となる。決議には中国やロシア、ドイツなどが棄権した。一方でアラブ連盟は武力行使を支持し、飛行監視に参加するというアラブの国もある。

 決議の目的は内戦へのてこ入れではなく「市民を保護する」ことである。政権側の地域にも守るべき民間人がたくさんいるのを忘れてはならない。

 国際社会は必要以上の威嚇や挑発を控え、停戦への努力を最後まで続けたうえで、最小限の介入で「保護する責任」を果たすべきである。

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