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≪内部汚染で問題となる核種とその特徴≫

放射性核種が体内に取り込まれると,その核種が崩壊して消滅するか体外に排泄されない限り,内部汚染は継続します。したがって,体内に長期間にわたって残留する放射性核種は,一般的に内部被ばくも大きくなります。

原子力施設で取扱われている放射性核種の多くは半減期が数年以上に及ぶため,内部汚染で問題となる核種として挙げられます。特に,原子炉燃料中に存在するプルトニウムについては,少量でも大きな内部被ばくとなるので注意が必要となります。放射性核種の内部汚染による放射線毒性は,実効線量係数(p41「内部汚染の評価方法」参照)によって表すことができます。表2-2に,主要な放射性核種に対する実効線量係数を示しました。

表2-2 主要な放射性核種に対する実効線量係数
核種(化学形) 半減期 実効線量係数
(Sv / Bq)
Co-60(酸化物) 5.27年 1.7E-08
Mn-54(酸化物) 312日 1.2E-09
Cs-137(全ての化合物) 30年 6.7E-09
I-131(全ての化合物) 8.04日 1.1E-08
U-238(UO2,U3O8 44.7億年 5.7E-06
Pu-239(酸化物) 2.4万年 8.3E-06
Tc-99m(酸化物) 6.02時間 2.9E-11

作業者の吸入摂取の場合における単位摂取量あたりの50年間預託実効線量(参考:ICRP Publication 68)

表2-2に示すように,プルトニウムは他の放射性核種に比べ,実効線量係数が高いことが確認できたと思います。この理由は二つあり,一つはα線を放出する放射性核種(α放射体)であること,もう一つは長期間に及び体内に残留するためです。α線は表皮で遮へいされてしまうために,皮膚に付着していたとしても被ばく上は問題となりませんが,体内に取り込まれると,放射線感受性の高い皮下組織や臓器にα線が直接達します。さらに,α線の放射線荷重係数はβ線やγ線に比べて20倍も高い値となります。また,プルトニウムは,骨や肝臓に数十年にわたって留まることが知られており,なかなか排泄されにくい性質を有しています。これらの理由により,プルトニウムは最も放射線毒性の高い核種の一つとなっています。

体内に取り込まれた放射性核種の特徴として,代謝をあげることができます。代謝とは,物質が異なる組織や臓器間を移行してゆく状態を指しますが,元素の種類によって集まりやすい組織,臓器があることが知られています。有名なものとしてヨウ素がありますが,ヨウ素は甲状腺に選択的に蓄積する性質があります。他の元素では,前述したプルトニウムは骨と肝臓に,ストロンチウムは骨に移行してゆきます。セシウムであれば特定の親和性臓器を持たず,全身に均一に分布してゆくことなどが知られています。

このような元素の代謝に関し,国際放射線防護委員会(ICRP)では,動物実験や過去の事故事例などのデータに基づき,図2-16に示すような体内動態(バイオキネティクス)モデルを開発し,内部被ばく線量評価に必要な実効線量係数等のデータを与えています。体内動態モデルとは別に,吸入による内部被ばくを考慮するため,粒子の大きさによる呼吸器官の各領域での沈着割合の変化,化学形による呼吸器官から血中へ移行時間の変化などを考慮した詳細な肺モデルも開発されています。しかしながら,これらのモデルは個人を忠実に模擬している訳ではなく,あくまでも標準的なヒトに対するモデルであることを認識しておくことが重要です。

前述した放射線毒性の高いプルトニウムですが,内部被ばくの治療の薬剤として,諸外国ではキレート剤が利用されています。キレート剤は主に静脈注射によって投与されますが,血液中でプルトニウムと結合して排泄を促進させる効果を有しており,内部被ばくを軽減させることが可能です。しかしながら,投与が遅れるとキレート剤の効果が軽減してしまうので,迅速な治療判断が求められますが,そのためには内部被ばくで問題となる核種のその性質,治療方法について熟知しておく必要があります。

図2-16 一般的な体内動態モデル

(出典:ICRP Publication 61.08)

図2-16 一般的な体内動態モデル
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