表情豊か、ゴリラがニヤリと…
気の置けない友人らと集まり、くだらない冗談に腹を抱えて笑ったときに、ふと思う。笑うことができる「人間」に生まれて本当によかった。ああ、この幸せをほかの動物にも分けてやりたい。…ん? そういえば、そもそも動物が笑うことってあるんだろうか。同じ地球に暮らす生き物同士、ともに笑い合えれば、何てすてきなことだろう。(黒川裕生) |
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満面の笑み、ほほ笑み、はにかみ。人間の笑いは表情も種類もさまざま |
▼動物の心の中、分からない
「笑いませんね」
夢見る探偵に早速先制パンチをくれたのは、神戸市立王子動物園(同市灘区)の獣医師、浜夏樹さん(44)だ。「チンパンジーなどヒトと似た大型猿(類人猿)は、表情筋もヒトと似ているため、笑っているように見えることもある。だが個人的には、それは人間がそう思って見ているからにすぎない、と思う」
浜さんによると、類人猿をはじめほとんどの動物は、ヒトに比べて表情筋が乏しい。このため、ヒトと同じように笑うことができないという。
「ここで約十五年働いていますが、(動物が)笑っているのを、少なくとも自分は一度も見たことがない」と浜さん。例えばチンパンジーが、なじみの飼育員を見て「大急ぎで寄ってくる」ことはあっても、それが「喜んで駆け寄ってきている」のかは不明。なぜなら、誰もチンパンジーの心の中までは読めないからだ。「動物が笑うかどうかは、『よく分からない』というのが妥当では」
▼「感情の有無」米に事例も
ところが、である。世界中のサル七十種以上を飼育する日本モンキーセンター(愛知県犬山市)の園長、加藤章さん(52)は「類人猿は表情が豊富。もちろん笑うこともできる」と力強く言い切るのだ。
実際に加藤さんとチンパンジーを観察してみて驚いた。飼育員が近づくと、おりにしがみつき、こちらに向かって何やらしきりに頭を下げる。口の両端が上がって、うれしそうに笑みを浮かべているように見える…。そんな気がする。
加藤さんの話では、チンパンジーは好きな果物をもらったりすると、「笑顔」によく似た表情になり、「ククク」などの呼吸音に近い“笑い声”を出すらしい。ゴリラも胸をたたいて来園者が驚くと、ニヤッと口角を上げるといい、その表情はまるで「やったね」と言わんばかりなんだとか。
実は類人猿の感情の有無については、幾つかの事例がある。アメリカで手話の訓練を受けたゴリラは、映画を見て「涙が止まらない」と感想を“述べた”。同センターのチンパンジーは、独房に入れられると“涙を流した”。これらを踏まえ、加藤さんは「類人猿が豊かな感情を持っているのは間違いない」と話す。
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笑っているようにも見えるチンパンジーだが、獣医師らは「思い込みでは」と指摘=神戸市灘区、市立王子動物園 |
▼人が望めばそう見える
では、人間にとって身近なペットはどうか。というのも、「うちの犬は笑う」と主張する愛犬家が探偵の周りにも実は結構いるのだ。ペット界の両雄、犬と猫について専門誌に聞いてみた。
雑誌「愛犬チャンプ」は、写真投稿のページで「笑顔自慢」をテーマにしたことがあり、読者から多くの「犬が笑っている」写真が寄せられた。自身、雌のパピヨンを飼う同誌編集部山本亜由子さん(29)は「笑います」と断言。「一緒に遊んでいるときやご飯のときは、明らかに目が輝くし、笑っているように見える。飼い主の思い入れかもしれないけど…」
一方の猫。数誌の写真投稿ページに目を通したが、どうも「笑顔」が見当たらない。「猫は笑いません。むしろ笑ってほしくない」と力説するのは、雑誌「猫の手帖」編集部の山内忠浩さん(46)。愛猫家は、猫の「こびない」ところに引かれるのがその理由だそうだ。
以上、一部見解が分かれている点もありましたが、あえて結論めいたことを書かせてもらおう。「動物は笑う」。―人間がそれを望む限り。さあ、人間も動物も手(足)を取り合い、ともに笑おうではありませんか。
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さあ、新しい年が始まりました。今年こそは笑いの絶えない明るい年にしたいものですね。ところでみなさん、「そもそも『笑い』って何なんだろう」と疑問に思ったことはありませんか? ―え、「ある」? そんなときは、そう、われわれ「はてな?探偵団」にお任せを。今回は少し趣向を変え、各探偵が「笑い」に秘められた効果や謎を解明すべく、さまざまな切り口で調査してみました。読めばあなたも「お笑い博士」になれる?かも。 |