「月夜見 -tukuyomi-」








      ──「月夜見」……


        それは、彼らの総称……。

        夜の世界でこそ、その生命を満ちた月のように輝かすことの出来る、魔の者たちのことである……。










      <1>









      その夜は、煌々と輝く、満月の夜だった。



      全ての魔の者たちにとって、夜の闇は自らの力の解放を促す。

      そして、完全に満ちた月の光は、更なる高揚をもたらす。


      この世界の頂点に君臨する、ヴァンパイア(吸血鬼)族もしかり……、

      そして、彼らの贄となって血を吸い尽くされ、アンデッド(死人)と成り果てた末にそのヴァンパイア自身に奴隷にされているという、

      実に哀れな、かつては人間であった者たちにとっても、その例外ではなかった。


      しかし、そのアンデッドたち以上に、満ちた月光の下、その強大な力を存分に奮っている者たちがいた。


      「33人目〜!、うっひょー、ゾロ目だ〜!、ゾロだゾロだ!!」

      群がってくる大量のアンデッドたちを素手で力任せにねじ伏せながら、黒い髪のまだ幼さの残る少年が大声で笑った。

      「あほなコト言ってんじゃねぇっ!、……ともかく、後は任せたぞ、ルフィ!。俺は城の中に入る!」

      もう一人、三本の剣を振るってアンデッドたちの唯一の弱点である、頭部を片っ端から斬り捨てていた男が、

      自分の周りにはもう一体も残っていないことを確認して、その剣を収めた。

      「おう、任せとけっ。その代わりゾロ、あいつの足引っ張んなよーっ、メシ抜きにされっぞー!!」

      ルフィと呼ばれた少年は、少々毛深い腕を振り回し、信じられないほどの怪力で、アンデッドたちの首を次々ともいでいく。

      ──テメェじゃねーんだよ……。

      ゾロと呼ばれた、強靭な体躯の剣士は、苦笑いを浮かべ、踵を返した。

      その先にあるのは、白い外壁を持つ、まさしく城と呼ぶに相応しい建物だ。

      そこへ急ぐ剣士の、黒いバンダナが巻かれたその下の顔が、月明かりに照らし出される。

      肉食獣のような縦に細長い瞳孔が赤く光を放ち、そして、口元にも鋭い犬歯が光る。


      彼は“人狼(じんろう)”、そして一緒にいた少年は“猿人(えんじん)”、二人とも『獣人(じゅうじん)』と呼ばれる種族。

      「月夜見」の、魔の者だった……。



      「ようこそ、我が城へ……。

      君らが噂の<アンデッド・バスターズ>かい?。……成るほど、獣人族……それも人狼か。どうりで私の奴隷どもでは敵わぬはずだ。

      本物の月夜見に、似非月夜見が敵う道理が無いからな……」

      玄関口に当たるドアを力任せに引き開けると、エントランスから二階へと伸びる階段の踊り場に、その城の主が待ち受けていた。

      背後にある等身大の窓から背に月明かりを受け、妖艶な笑みを湛えている。

      その瞳には、真紅の光。満月の夜だけ赤くなるゾロたち獣人とは違い、ヴァンパイアの瞳は常に紅く輝くのが特徴だ。

      ……一部のヴァンパイアを除いて……。

      「しかし、獣人ながらに剣を使うとは面白い……。

      昨今の人狼は、ようやく満月が夜毎続かぬことを悟り、力任せ以外の術を得たか。かなりの進化だな」

      まるで四足の動物が二足歩行でもしたかのように、しきりと感心した様子で頷いている。

      完全に小馬鹿にしきった態度だが、ゾロはあえて無視をした。

      (……それにしても、随分とクラシックな野郎だな……。ヴァンパイアはこう在るべきだっていう自論でもあるんじゃねぇか?)

      黒いタキシードに黒いマント、黒い帽子に黒いステッキ……。

      人間どもが好んで見る、映画とやらのこいつもファンなのかもしれねぇ……などと、ゾロは思った。

      「だが、いくら月夜見の力が解放される満月の夜であっても……、そして、人狼がいくら進化しようとも……、

      敵わぬものが、この世にはある……。まさか、知らぬ訳ではないだろう?」

      ゆっくりと階段を下りながら、クラシックな装いのヴァンパイアが問いかける。

      「……てめぇら、ヴァンパイア族がそうだって言いてぇんだろ?。ったく、マジにてめぇらってムカつくぜ。

      どいつもこいつも、他の種族を汚ねぇもんみてぇに見下しやがって。自愛趣味も大概にしてもらいてぇな」

      腕を組んでため息をつくゾロ。


      ヴァンパイアの同族主義、自愛趣味は有名だ。

      例え、元は人間だったヴァンパイア、“サーベント・ヴァンパイア”と呼ばれる者たちでさえも、同類である。

      この商売を始めてからというもの、これまで何人ものヴァンパイアにゾロは会ってきたのだが、

      ……そうでないヴァンパイアなんて、たった一人しか、ゾロは知らなかった……。



      「それが、生態系の頂点に立つ者の優越だ。まあ、私も元は人間だったがね。今では、人間は食料にしか見えんな。

      ……つまり、私はこうなるべき者だった。撰ばれし者、だった訳だ」

      話しながら、ヴァンパイアであるこの城の主人が、エントランスに降り立った。

      「で、如何する気だ?。“ハーフ・ヴァンパイア”でもない、獣人のお前では、私を封印することも出来ないだろうに……?」

      そう言い放つと、城の主人は、蔑むような視線で目の前の人狼を見やった。


      不確かではあるが、この世のどこかに、人間とヴァンパイアとの混血である、

      ハーフ・ヴァンパイアと呼ばれる者が存在するらしい。

      彼らはある特別な呪法で、ヴァンパイアを封印すると言われている。

      まったくもって小ざかしい限りとしか言えない話なのだが、

      この自分の目の前にいる、三本の剣を持った人狼にもそれが出来るとは、到底思えない。


      「封印なんて、生ぬるいこたぁ、俺たちはしねぇ。……依頼はあんたをぶっ殺すこと。それだけだ」

      はっきりと言い切ったゾロの言葉に、城の主人は、さもおかしなことを聞いたとでも言うように、腹を抱えた。

      「ふ、ははは……っ、じ、冗談がきついねぇ……君。いくら人狼が剣を持とうが、ヴァンパイアの私を殺すことなど不可能だよ。

      何しろ、ヴァンパイアを殺せるのは、ヴァンパイアだけなのだからね……」

      「ああ。そうだ。……だから、テメェをぶっ殺すのはそいつじゃねぇ。……この俺だ」

      突然、背後から別の声がした。

      振り向くと、主人である自分が先ほどまで佇んでいた場所に、別の男が立っていた。

      窓から注ぐ月の光に浮かび上がった細い影。

      黒いスーツに金髪の男が、タバコを咥えてこちらを見下ろしていた。

      「…………っ?、お、お前は……!?」

      「俺は、サンジ。あんたと同じ、サーベントだ。

      ……違うのは、人間のレディを不幸になど、絶対にしねぇトコだな」

      にっと笑った口元に覗く、尖った牙。月明かりに浮かぶ、尖った耳。

      確かにヴァンパイアの特徴だ。そして何より、その身に纏う気配は、正しく自分と同族のもの……。

      しかし……、その瞳の、色は…………?。

      「……瞳が……青、い?。そ、そうか、お前……っ、“生血断ち(いきちだち)”の呪を受けているなっ。

      マスターの怒りを買った、うつけ者か!」


      ……マスターとは、“マスター・ヴァンパイア”。

      ある儀式によって人間をヴァンパイアに出来る、数少ない真正ヴァンパイアのことだ。

      元来、ヴァンパイアは不老不死であるが故に、生殖能力が低い。

      その代わりに、儀式によって人間をヴァンパイアに変え、種族を増やすことが出来るのだ。

      彼ら、真正ヴァンパイアの特徴は、瞳が金色であること。

      そして、彼らによって作り出された、サーベントは紅い瞳……。

      それなのに、青い瞳を持っていると言うことは……、

      自分のマスターの怒りを買い、呪を受けた証なのだった。


      「は、はは……、屍の血しか吸えぬヴァンパイアか……。話に聞いたことはあるが、初めて見たな。

      生き血を吸えぬなら、ヴァンパイアとしての力も衰え、不死ではなくなるはず……。

      そんなお前が、私を?。冗談も程ほどにしてもらいたいもんだな……」

      男は少し、安堵した。

      近頃名を聞かれるようになってきた<アンデッド・バスターズ>。

      アンデッドだけでなく、ヴァンパイアでさえ退治するという噂に、

      もしかするとハーフ・ヴァンパイアが仲間にいるのではと思っていたが、

      まさか、自分と同じサーベントがいるとは思わなかった……。


      確かに、いくら同族意識が強いと言えど、裏切るヴァンパイアは皆無とは言えない。

      極稀に、人間の心を持ち続けるサーベントがいるらしいのだ。……自分には理解できないが。

      しかし、そんな奴らは大抵マスターに処分されるか、“生血断ち”の呪いを受ける。

      この男も、そうなのだ。

      つまり、生きた者の血を吸えぬ、不死ではない、出来損ないのヴァンパイア。

      混血どもと大差はない。……自分の敵では、ないだろう。


      「……冗談を言ってるつもりは、俺はねぇな。

      不死である恩恵にどっぷりと浸かって暇を持て余してる奴らなんぞに、俺が負ける訳がねぇ。

      それに……」

      靴音を響かせながら、サンジと名乗った男がゆっくりと階段を下り始めた。

      気圧されて、館の主人は思わず一歩退く。

      「ただ一人……どういうわけか“生血断ち”の呪がきかねぇヤツがいた……。

      そいつの血のお陰で、俺は一度命拾いしている。

      ……俺としちゃ、マリモ狼なんぞに借りは作りたくなかったんだが、

      まあ、お陰でこんな風に、人間のレディを不幸にする奴らを退治出来るってことだけは、感謝してるがな……」

      “誰がマリモ狼だっっ!”

      背後で吐き捨てられた言葉に、館の主人は驚いて振り返る。もちろんそこには人狼の剣士。

      「ま、さか……、まさか、貴様、獣人の血など……飲んだのか……?。

      せっかく高貴なヴァンパイア族に生まれ変われたというのに、

      よりにもよって汚らわしい、こんな底辺の種族の血などを……?」

      信じられない……という顔で、主人はもう一度金髪の男を見上げる。


      ヴァンパイアが食料としているのは、妖力を持たない、人間の血だ。後は、動物がせいぜいである。

      それ以外は、めったなことでは口にしないものなのだ。


      多少なりとも妖力を持つ魔の者、つまり月夜見の血には、人間や動物とは違って妖気が含まれている。

      いくらヴァンパイアといえど、自分と違う種類の妖気を、大量に体内に摂取することは出来ない。

      また、常に蔑み疎んでいる自分たち以外の月夜見など虫けら以下、

      そんな者の血など汚らわしくて体内に入れたくない、という思いも、強くあるのだった。


      「……ああ、そうさ。俺は、ある目的を果たすために、どうしても死ねないんでね。そのためなら、何だってやる。

      けどな……、俺に言わせりゃ、汚らわしいのは、ヴァンパイアの方だ。

      人間の血を吸い尽くした上に、アンデッドにして、そいつらを使って他の人間を襲わせる……。

      死んでからまでこき使うなんて、やり方が酷すぎる。それこそ、虫けら以下だぜ。

      ヴァンパイアは生態系のトップにいていい種族じゃねぇ。滅ぶべきだ。……一人残らずなっ!」

      そして、黒い影が、館の主人の頭上高く、跳躍した。

      人の何倍もの動体視力を持つはずのヴァンパイアの眼にも、まるで止まらぬほどの、速さで。


      いよいよ、金髪のヴァンパイアの、同族狩りが……始まったのだった。




      しかし、そのフォローに来たはずのゾロは、先ほどのサンジの言葉によって、

      忘れられない過去の悲痛な叫びを、その脳裏に思い起こしていた……。




      『やめろ!ゾロっ!。あいつは、くいなはまだ……くいななんだ!。頼む、斬るな!』

      『違うっ、もう、くいなは、死んだっ。ここにいるのは、ただのアンデッドだ!。

      それに……俺たちで斬らなきゃ、先生は……先生はきっと自分で……っ!。

      お前は、先生に……父親である先生に、実の娘を斬らせるつもりのかよっ?』

      『そうじゃない、そうじゃないけど……、俺たちだって、親友だろ?。

      ずっと一緒に暮らしてきたじゃないか!。そんなあいつを……お前は、斬れるってのかよっ?』

      『……斬れるさ……。俺には、聞こえるんだ。あいつの……声が……。

      あいつの……楽にして欲しいって、声が……っ!!』

      『や、やめろっ、ゾロ!。……やめてくれっ!、ゾローーーっ!!』




      剣が肉を切り裂く鈍い音と、その、重い感触……。

      一生忘れられないだろうと、ゾロはそのとき、思った……。




      「何、ぼんやりしてやがる……?。もう、終わったぞ……」

      かけられた声にはっとして見ると、ゾロの目の前には、城の外で散々目にしたアンデッドのように、

      首と胴を二つに引き裂かれたこの城の主人の、哀れな姿が横たわっていた。

      「……いつもながら、見事だな。蹴りでやったとは思えねぇぐらいに、ばっさりだ」

      サンジの得物は自身の足だ。妖気を全て利き足に集めて、刃物のように相手を切り裂くのだ。

      「ま、な。……けど、こいつ、まるっきしの口先野郎だ。全っ然弱いのなんのって……。

      こんな程度のクソ野郎が、今まで何人ものレディを犠牲にしてきやがったのかと思うと、腸が煮えくり返りそうだぜ……っ」

      吐き捨てるように言ったサンジの目の前で、ヴァンパイアだった男の死体は見る見るうちに干からび、

      砂のようになって、最後には跡形もなく消え去ってしまった。

      「ハッ、散り際だけか、見事なのは……」

      そう毒づいてタバコを燻らす、ヴァンパイアのくせしてレディ至上主義な男に、ゾロは苦笑する。

      「ま、ともかく、これで依頼は完了だな。……ナミに報告しなくて、いいのか?」

      「ああ、そうだvv。ナミさん、喜んでくれるかな〜〜vv」

      今までの不機嫌面はどこへやら、思いっきりニヤケ顔になったサンジは、

      急いで懐からケータイを取り出し、事務所で待っているナミに連絡を取る。


      <アンデッド・バスターズ>は総勢5名。ナミはその所長で、経理と営業面も担当する才女である。

      彼女も月夜見であり、その正体は猫の獣人、猫又だ。

      更にもう一人が、主に事務と機械関係担当のウソップ。そして彼も月夜見の一種、水妖だった。

      つまり、死人退治屋<アンデッド・バスターズ>は、月夜見の魔の者たちで、形成されているのだった。


      「しっかし、テメェ、一体何しにきやがったんだ?。剣も抜かずにぼーっとしやがって。

      ……俺様の戦いっぷりにでも、見惚れてたのか?」

      連絡を終えたサンジが、ゾロを振り返って言った。

      「……ああ、そうだな。見惚れてた」

      「…………っ!」

      あっさり返してきた言葉に、焦って赤くなったのは、サンジの方だった。

      「そ、そーかよ……。ま、俺様はカッコイイからして、見惚れるのも、仕方ねぇだろーけどなっ」

      照れ隠しにそう言って、城から出て行こうとする細い腕を、ゾロが掴んだ。

      「……?。んだよ?」

      怪訝そうに振り返るサンジ。

      「……けど、さっきのセリフはいただけねぇな」

      「…………?」

      「“一人残らず”じゃねぇ。少なくとも、お前は生き残れ。俺が生きてる限り、お前も生きろ。

      お前の生死を握っている者として、俺にはこう命ずる権利がある。……そうだろう?」

      そう言うと、ゾロは発達した犬歯で、ギリッと自分の唇を、噛む。

      ニヤリと笑うゾロの口元から、たらりと赤い糸がひいた。

      それを見たサンジの青い眼がすっと細められ、喉がゴクリと鳴った。

      短くなったタバコを吐き捨てて、ニヤリと笑う。

      「ったく……、俺の新しいマスターは、本当に我侭で、困ったもんだぜ……」

      「そういうサーベントも我侭だから、釣り合いが取れて、ちょうどいいじゃねぇか……」

      お互いの身を引き寄せ、自然に唇が重なる。

      サンジはゾロの血を、ゾロはサンジの口内を、思うままに味わう。

      血と唾液が奏でる水音が、主を失って静まり返る、エントランスに響いた。


      「……ヴァンパイアに血を吸われた獲物は欲情するって定説を、こんなとこで実践するつもりじゃねぇだろうな?」

      お互いを貪るような長い口付けの後、ゾロのものが堅くなりつつあるのを感じたサンジが、イタズラっぽく笑いながら囁く。

      「生憎、今夜は満月だ。人狼の理性がいつまで持つかなんて、俺自身にだって、わかりゃしねぇんだぜ……」

      自分の血で赤く濡れるサンジの唇に、瞳孔を細めながら、ゾロも口端を上げた。

      「はは、まるっきりの、ケダモノかよ……てめぇ」

      そう言いつつも、満更でもなさそうにサンジは微笑む。

      そして、今一度二人の唇が重なろうとしたとき……。



      「ハラ減ったぁぁーーーっっ!、サンジィィーーーッ!!、メシぃぃーーーーーーーーーッッ!!!!」



      夜の闇を切り裂く程の大きな大きな叫び声が、城の外からこのエントランスにまで、響き渡った。


      十分に聞き覚えのある声とセリフに、二人は顔を見合わせ、苦笑する。

      「はは……、我らがルフィ副所長殿が俺をお呼びだ。……ああなったら、早く食わせねぇと、巨大化して暴れだすぞ」

      冗談ではなく、猿人ルフィは満月の夜に理性を失うと、本当に巨大化してしまうのだ。

      「チッ、しょうがねぇ。あいつを暴れさせると、ナミのヤツ、損害は全部俺たちに負わせやがるからな。

      これ以上、借金を上乗せされちゃあ、たまんねぇ……」

      しぶしぶ、ゾロはサンジの身体を離した。

      離れ際、サンジは、まだゾロの口元を流れていた血を、ペロリと舐める。

      「いつもながら美味ぇよ、お前の血は。……お前の、真っ直ぐでキレイな、命の味だ」

      柔らかく微笑んで、それから少し、真面目な口調で続ける。

      「……そんなお前が、救ってくれた命だからな。せいぜい、大事にするつもりだ。

      ……ヴァンパイアのせいで命を落とした、大勢の人たちの分も、な……」

      先ほどの、“一人残らず”に対するゾロの文句への、彼なりの答えなのだろう。

      「……サンジ……」

      「……じゃ、先、行くぜ!」

      自分の言葉に照れたのか、サンジはさっと踵を返すと、足早に城を出て行った。




      その後姿を苦笑しつつ見送ってから、ゾロは頭の黒いバンダナを外し、左腕に巻いた。

      バンダナを外したことによって、彼の特徴でもある、鮮やかな緑色の髪が現れる。

      サンジが言う、“マリモ狼”のこれが語源だった。


      ふと、背後の窓から覗く、煌々と輝く満月に眼を奪われる。


      (……あいつと初めて会ったのも、満月の夜だったな……)


      ちょうど一年ほど前、ゾロは出会ったのだ。


      この世でただ一人、ゾロが心から失いたくないと願うまでになった相手、

      青い瞳のヴァンパイア……サンジに。






      ──……あれは、月が血のように赤く……真っ赤に輝く、そんな……夜だった……。
































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      完全に“えむりんワールド”(笑)ですので、
      細かい突っ込みはどーぞごカンベン下さいますようお願いしますね。(^_^;)


      05.12.12 ちょこっと修正シマシタ。