2011年3月19日17時16分
道路は通行できるのに、放射線の影響を心配してか、医薬品や食料が届かない。ガソリン不足で出勤できない職員が続出し、さらに原発への不安から県外へ避難するスタッフも相次いだ。「院長命令で病院に残れとは言えない」。医師は108人から約60人に、看護師は約730人から3分の2程度に減った。
看護師は「このままだと、職員はみな過労で体を壊してしまう」と訴える。樋渡院長は「必要最小限のスタッフと物資で、最高の治療をめざそう」と医師らに呼びかける。
入院患者のうち、軽症者ら約半数は退院や転院をしてもらった。妊産婦や新生児は原発のリスクを考え、全員を県外の病院へ移送。外来診療は4日前から急患に絞った。
スタッフからは「入院患者と一緒に全員避難すべきだ」という声もあがった。樋渡院長はこう返した。「うちが閉まれば、重症患者はどこにも頼れない。国の避難指示が出るまでは最後まで残ろう」
とはいえ、院長も自分の判断が正しいのかどうか、悩む毎日だという。「国には考えられる最悪のシナリオを示してほしい。そうすれば、最悪の事態を前提に患者を守る方法を考えられる」
一方、患者のために県外への退避を決めた医師もいる。
原発から約55キロ離れた郡山市の病院。医師3人は16日、がん治療をしている患者15人と東京へ向かった。
「気分は悪くないですか」。東北新幹線が動いているJR那須塩原駅から乗った車中で、医師らは点滴やカテーテルをつけた患者一人ひとりに声をかけた。
同行した医師は「点滴も輸血も満足にできない環境では、患者を危険にさらすと判断した」と言う。受け入れ先を探すのに苦労した末、つてを頼って大阪の病院などに避難先をようやく確保した。
郡山の病院には、まだ約420人の患者が残る。医師は語る。「どこでもいい。患者を受け入れてほしい」(富田祥広、川口敦子)