2011年3月19日17時16分
危機が続く福島第一原発の南にある福島県いわき市で、医療現場が崩壊の瀬戸際に立たされている。被災住民や原発に近い町村から逃れてきた患者らが治療や薬を求めて押し寄せる一方、原発事故の行方を心配する医師や看護師らが次々と市を去っている。「このまま踏みとどまれるのか」。揺れる病院の医師らを記者が訪ねた。
常磐道いわき中央インターチェンジを降りると、カーナビがメッセージを表示した。
《福島原発付近 この先20キロ圏内! 立ち入り禁止!》
近くの住宅地に人影はなく、コンビニ店のドアの貼り紙には「放射能のため閉店」と書かれていた。
インターから車で15分。第一原発の南45キロ付近にある「いわき市立総合磐城(いわき)共立病院」は地域の中核病院。11日の地震では壁に数カ所ひび割れが走ったが、施設や医療機器は幸い無事だった。
いわき市も津波の被害を受け、次々と救急搬送されるけが人への対応で院内はさながら野戦病院のような状況になった。だが、危機はそれで終わらなかった。12日には第一原発1号機が爆発。連鎖反応のように事故が拡大し、原発近くの町村から避難する人の波が市に押し寄せた。
「地震直後より今のほうが患者が多い」。樋渡(ひわたし)信夫院長(62)はこう語った。市内の診療所の多くが休業し、同病院のロビーは連日、ソファに座りきれないほどの人たちでごったがえす。院長や大半の職員が院内に泊まり込んで診療を続けている。
助けを求める患者は外来ばかりではない。約7千人が避難生活を送る市内の小名浜、平の両地区にある避難所を17日に巡回した山本義人医師(51)は、被災者から悲鳴のような訴えを聞いた。
「糖尿病なのに津波でインスリンを流された」「持病の薬がなくなりそう。回数を減らしてのんでいる」……。診療した大半の人の血圧は通常より高かった。薬が足りず、低血糖の人にはチョコレートを渡してしのいだ。
樋渡院長は当初、「被災しなかったスタッフで事態を乗り切ろう」と考えた。しかし、事態は予想を超えた。