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[25912] 【ネタ】サギタリウス・マギカ(まどか×Fate)
Name: KCA◆1515fe95 ID:d426b585
Date: 2011/02/11 22:20
※本作は、まぎれもなく強引な一発ネタです(と言いつつ、4部構成ですが)。
 現在放映中のアニメに関する微妙なネタバレを含みますので、そういうのが嫌いな方も回避お願いします。

※言うまでもないと思いますが、本SSのタイトルは「魔法の射手」の意、もちろん彼のことであり、同時にマミさん自身も指しています。



[25912] 序幕:『贋作者は悪夢の牙から少女を護る』
Name: KCA◆1515fe95 ID:251c7024
Date: 2011/02/11 22:19
序幕:『贋作者は悪夢の牙から少女を護る』

 ──奇跡も、魔法も、あるんだよ。

 そう、それは本来あり得ないはずの「奇跡」。
 笑顔の虚勢の元で孤独に戦い、遺言あるいは恨み言を遺すことさえできずに無残に散ったはずの少女の元に舞い降りた「救いの手」。

 * * * 

 「答えは得た。大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくから」

 召喚されて以来一度も見せなかったような素直な笑顔を浮かべて、「彼」は、己が最高のパートナーだった少女に別れを告げる。

 これほど清々しい気持ちになったのは、どれほどぶりだろうか。
 (惜しむらくは、ココにいる「私」が英霊(ほんもの)のコピーに過ぎず、「座」に戻れば単なる「記録」として本体に吸収されることか。
 無論、本体にも何がしかの影響はあると思うが、できればこの想いを抱いたまま、今度こそ「俺」が望んだ道を……ムッ!?)

 本来は、単なる「記録(データ)」に分解されて、座にいる本体・英霊エミヤのもとに回収されるはずだった「彼」は、しかしその間際で、自分の「身体」がどこからか引っ張られるのを感じた。
 「バカな……私は、すでに実体化を保つことすら困難だったはず!?」
 と、その時、「彼」の心に、何者かの「想い」が流れ込んでくる。
 (なんだ、コレは……??)

 ──いたい……こわい……さびしい……つらい……どうしてわたしが……でもやらないと……

 混沌としたそれらの感情の中に隠された、どうしようもなく強い想い、いや「願い」。

 ──だれか……だれか、たすけて!

 それが少女の悲痛な心の叫びだと理解した瞬間、「彼」はすべての「壁」を飛び越えて、吸い寄せられるように、その声の主の元に舞い降りていた。

 * * * 

 「っ!!」
 自宅のリビングのソファ──すでに彼女以外に座る者もいないそこに、倒れるように突っ伏して、今日の「戦い」によって心身両面に刻みつけられた傷跡にうなされていた少女は、あり得ないはずの人の気配に身を起こして立ち上がり、慎重に警戒態勢をとった。
 (これは……魔力!?)
 だとすれば、単なる物取りの類いではありえない。
 魔女か……あるいは「同業者」か……。
 いずれにしても、負傷した身で対峙するのはかなり厄介な相手だった。不幸にして、唯一の「お友達」である白い獣とも、今日は別行動だ。
 それでも、少女──巴マミは、自らのソウルジェムを掌中に構えつつ、油断なくその「魔力の気配」の場所を探っていたのだが……。

 ──キュイイイイーン!
 ──ドサッ! バキ、メキ!!

 突如空間に歪みが生じたかと思うと、天井付近に現れた「穴」からいきなり男性が降って来たのには、「普通」とは程遠い生活を送っている彼女も、さすがに度肝を抜かれた。

 「やれやれ、乱暴な召喚だ……まぁ、室内に現れたぶん、前回に比べればまだマシとも言えるが」
 先ほどまでマミが身を預けていたソファに、尻からめりこむような形で落ちてきた、青年がボヤく。
 「だ、誰!?」
 「人に物を尋ねる時は、まず自分から……と言いたいところだが、此処では私の方が侵入者のようだから、いたしかたあるまい。
 私の名前は──そうだな。アーチャーと呼んでくれ」
 ……格好つけたセリフ回しだったが、半壊したソファに尻もちついたままなので、色々と台無しだった。



[25912] 第一幕:『狙撃手は最高の射手を師に仰ぐ』
Name: KCA◆1515fe95 ID:d426b585
Date: 2011/02/11 22:20
第一幕:『狙撃手は最高の射手を師に仰ぐ』

 リビングのテーブルをはさんで腰かけたふたりの男女が、静かにお茶を飲んでいた。
 ひとりは14、5歳くらいの少女、巴マミ。明るい栗色の巻き毛と、年齢に似合わぬ卓越したプロポーション(とくにバスト)を持つ、この家の主だ。
 彼女と向かい合って座っているのは、赤い外套(?)をまとった長身の青年。浅黒い肌と灰にも似た白い髪が特徴的な彼は「アーチャー」と自称している。
 無論、本名ではない。本人も「まぁ、通称のようなモノだ」と認めている。

 おっとりと優しげな女子中学生と、どこか危険な香りのする20代後半に見える青年。普通なら接点などおよそあるはずがない組み合わせに見えるのだが……。

 「……いい香り。シロウさん、また腕を上げましたね。ちょっと悔しいかも」
 「喜んでいただけたようで、光栄だよ。なに、キミの味覚とセンスがあれば、すぐに私なぞ追い越せるさ。
 紅茶を入れるために必要なのは、定められた手順(ゴールデンルール)を守ることと……」
 「飲んでもらう相手のことを想うこと、ですね?」
 マミの答えに、アーチャーは出来のよい教え子を見守る教師の目で頷いた。
 「それがわかっているなら、私から教えることは、なにもない」
 「フフフ、ありがとうございます♪」

 * * * 

 さて、今でこそ、こんな風にのどかなやりとりをするふたりではあるが、出会った当初は、これとは真逆の、むしろ殺伐といってすらよい空気に包まれていた。
 もっとも、ソレはどちらに責任があるというワケでもない。
 マミは、その穏やかな雰囲気とは裏腹に、「魔女と戦い、平和を護る」ための「魔法少女」などという非常識な職業(?)に就いている。
 その関連で超常的な現象に対する理解や耐性は、常人より高い方ではあったが、その彼女をしても目の前に現れた男の話は眉唾モノだった。
 なにせ、ココとは異なる異世界──あるいは並行世界から来た、「魔術使い」で、しかも「すでに死んで英霊となった存在の分身」だというのだから。
 実際、彼女以外の魔法少女にそんな説明をしても、狂人の戯言と一蹴されるか、もしくは「魔女」の手先か何かだと勘違いされて戦いになっただろう。
 しかしながら、マミは他の魔法少女とは少々毛色の違う娘だった。
 「魔法少女」は、グリフシードを得るために「魔女」と戦う──いや、戦わざるを得ない。
 そして、彼女達の大半は、戦いをグリフシードを得るための手段と割り切っている。時には、同じ魔法少女同士で、グリフシードを巡って戦うことさえあるのだ。
 しかし、巴マミの場合、そういう側面がないワケではないが、むしろ「魔女の手から、平和な世界を護る」という義務感、責任感によって動いている面が大きかった。
 あるいは、それを「正義感」と呼び変えてもよい。

 だからこそ、マミは胡散臭さ120%な正体不明の男、アーチャーに対しても、まずは対話を望み、会話を糸口としてある程度の相互理解に至ることができたのだ。
 数時間にわたる相談の結果、マミはアーチャーの存在を受け入れ、アーチャーは巴家の世話になることになった。
 もっとも、年頃の女の子の家に、(外見だけとはいえ)若い男が暮らしているという風聞がたつのは、あまり好ましくない。
 アーチャーのスキル「霊体化」で他人に見えないようにするという手段もあったのだが、マミがそれを望まなかった。
 ──おそらく、彼女は「家族のぬくもり」に飢えていたのだろう。
 そこで、「両親を亡くした未成年のマミの事情を心配した親戚の中から、又従兄であるアーチャーが保護者として同居することになった」というカバーストーリーをデッチあげることになった。
 翌日、アーチャーは「巴シロウ」という偽名を名乗って、周囲に挨拶回りをしている。その際、普段の皮肉屋な印象が嘘のような「好青年」を演じてみせたおかげか、近所の評判も上々だった。

 * * * 

 アーチャーにとって、巴マミという少女は、極めて好ましい人物である同時に、どこか古傷が疼くような懸念を抱かせる存在でもあった。

 平素のマミは、(一部の身体的特徴を除いて)以前のマスターであり、かつての旧友でもある少女・遠坂凛を思わせる、心優しく穏やかで優雅な、絵に描いたような「優等生」だ。
 しかも、凛のアレが日常を無難に過ごすための外部に対する仮面(ねこかぶり)の意味合いが強かったのに対し、マミの場合はほとんど素に近い「いい子」なのだ。
 無論、彼女とて人の子、他人には隠しておきたい嫌な面、暗い面のひとつやふたつはあるのだろうが、少なくとも「裏表がある」という評価とかけ離れた性格であることは間違いなかった。

 しかし。
 問題は、「魔法少女」としてのマミだ。
 いや、決して魔法少女としての彼女が、不真面目だったり、利己的だったり、不必要に好戦的だったりしたわけではない。むしろその逆だ。

 「この日常のすぐそばに、それをたやすく破壊しかねない非日常の──悪意の牙が潜んでいる」。
 「そして、それに対抗できるのは、「魔法少女」となった自分達だけ」。
 「だから──戦う」。

 ここで、何の気負いもなくその結論に至れる人間がどれだけいるだろうか?
 魔法少女と縁が深い白い獣をして、「珍しいタイプ」と言わしめるその心映えは、あるいは人としてみれば立派ではあったかもしれないが、同時にどこか危うい。
 そのコトを、かつて「正義の味方」の道を志した者のひとりとして、アーチャーは嫌というほど理解していた。
 無論、マミは衛宮士郎とは違う。彼ほど空虚な人間では、決してない。
 しかし……それでもどこか歪(イビツ)に感じられるのは、先入観故か。
 マミ自身から聞いた「彼女が魔法少女になった経緯」もまた、その印象を強めているのかもしれない。
 家族を失い、自身も瀕死であったところを魔法の力に救われ、自らもそうあらんと志す。
 細かい状況こそ違えど、字面だけ見ればそれは、衛宮士郎の過去そのものではないか!

 ふと、アーチャーの脳裏に、自分とは異なる道筋を辿ったもうひとりの自分──「とある世界の衛宮士郎」の言葉が浮かんできた。
 「やくそ…する。オ…は、……だけの……味方になる」
 もはや細部の記憶は擦り切れ、曖昧だが、それでもその意味するところは十二分にわかる。
 (そうか、エミヤシロウは「どこかの誰かの正義の味方」以外の何者かにもなれたのだな)
 答えは得た。凛に告げたその言葉に嘘はない。
 ならばこそ……と、アーチャーは考える。
 この少女が「世界を守る正義の魔法少女」であると言うなら、自分は彼女の身と志を守る「巴マミの正義の味方」になろう、と。
 それが、あの日、彼女の血吐くような心の声に召喚(よ)ばれた自分の責務だろう。

 当初、マミの事情を聞いたアーチャーは、「自分が代わりに戦う」から「これ以上マミが戦う必要はない」と主張したのだが、少女は困ったように微笑んで、首を横に振った。
 これは「自分(わたし)」の「義務(やくそく)」なのだから、と。
 押し問答の末、見かけによらず強情な家主に対して、アーチャーはふたつの条件のもと、譲歩せざるを得なかった。
 ひとつは、マミが戦う際、いざと言う時のため霊体化して身近に控えていること。
 もうひとつは、過酷な運命に負けぬよう、彼が彼女の戦闘技術を鍛えること。

 共に暮らし始めて数日が経過し、ある程度の信頼関係は築いていたため、マミも、躊躇いながらもアーチャーの提案を受け入れた。
 「じゃあ、お手柔らかにお願いしますね、センセ♪」

 魔法少女としてのマミの主戦法は、魔力で生み出す幾十幾百のマスケット銃による遠距離戦だ。
 それは双剣使いとしてのアーチャーの戦法とはかけ離れていたが、幸いにして彼は、彼女のソレと似た、そしてより強力な戦い方を心得ている。
 「無限の剣製(アンリミテッド・ブレードワークス)」。
 本来は彼の心象風景を現実に投影する禁忌の大魔法であるが、そこまでに至らずとも、全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)でも、マミと同様の戦法は再現できる。
 そして、この戦法の長所も短所も、彼は誰よりもよく知り尽くしていた。

 無論、抑止の守護者として幾多の戦いを超えて来たアーチャーの有する戦闘経験もまた、魔法少女としてはかなりの実力と実戦経験を持つマミと比較してさえ、桁違いだ。
 孤独だった魔砲少女は、ある意味、最高の師を得たと言えるだろう。



[25912] 第二幕:『先任下士官(ベテラン)は新米候補生(ヒヨッコ)に警告する』
Name: KCA◆1515fe95 ID:d426b585
Date: 2011/02/11 22:21
第二幕:『先任下士官(ベテラン)は新米候補生(ヒヨッコ)に警告する』

 「さ、入って」
 「えっと……」
 「じゃあ、お邪魔しまーす」
 マミと同じ中学の制服を着たふたりの少女が、彼女に招かれて巴家へやって来た。
 「ふわぁ~」
 「素敵なお部屋……」
 高層マンションの一室ではあったが、巴家の中は清潔で機能的で、しかも暖かみに溢れた雰囲気にまとめられていた。
 カーペットや調度類はごくありふれたモノなのだが、それらの配置やちょっとした小物・装飾類が、そこで暮らす人の心を落ち着き、和ませる。そんな意図のもとに整えられているのだ。
 その事を何となく感じ取ったふたりの少女──鹿目まどかと美樹さやかが感心していると、奥の部屋から男性の声が聞こえてきた。
 「──お帰りマミ。お客さんかね?」
 リビングの向こう、おそらくはキッチンがあると思しき場所から現れたのは、糊のきいた白いYシャツに黒のスラックス、そして同じく黒のベストとエンジ色のネクタイをピシッと着こなした長身の男性だった。
 歳の頃は20代後半か。イケメンというのとは少し異なるが、褐色の肌と白い髪という日本人離れした容貌を持ち、少々いかめしくも頼りがいのある好青年と年少の少女達の目には映ったはずだ。
 ──彼が水玉模様のエプロンを着けていなければ。
 「ブッ!」
 すでに見慣れているマミや、自宅で父の主夫っぷりを毎日目にしているまどかと異なり、さやかの目には「カッコ良さげな男のファンシーなエプロン姿」のギャップは、少々刺激が強すぎたようだ。
 思い切り噴き出して硬直している。
 「ただいま、シロウさん。こちらは同じ学校の後輩の、鹿目さんと美樹さんよ」
 「あ、あの、初めまして。鹿目まどかです。よろしくお願いします!」
 「ほぅ、礼儀正しいお嬢さんだ。こちらこそよろしく。私は巴シロウ。マミの……まぁ、保護者のようなことをしている」
 「シロウさんは、遠縁の親戚で、両親のいないわたしの面倒を見てくださってるの」
 ……が、そんなさやかを放置したまま、他の3人の会話が和やかに続けられている。3人ともなかなかイイ性格をしているようだ──いや、まどかは天然なだけかもしれないが。

 「あ、この紅茶、美味しい……」
 少女達がリビングのテーブル前に座って、目の前に紅茶とケーキを出された頃、ようやくさやかもいつもの調子を取り戻していた。
 「ほんと、ケーキも激ウマだしね。あ、もしかしてマミさんの手作りとか?」
 「ウフフ、残念ながら違うわ」
 マミはおっとりと微笑みながら、傍らで執事然と3人に給仕をする(ただし、さやかを慮ってエプロンは取った)男性へと視線を投げる。
 「気に入っていただけたようで何よりだよ。紅茶のお代わりはいかがかね?」
 「へっ? もしかして、コレ作ったの……シロウさん!?」
 「すっげーー!」
 美味なるスイーツを作れる者は、すべからく少女達の尊崇を得るものなのだ──たとえ、外見からくる印象とは少なからず食い違っていたとしても。

 ──カチャリ。
 「さてと。それじゃあ、そろそろ本格的に説明を始めてもいいかしら?」
 紅茶を飲み干したカップをソーサーに戻すと、マミは表情を改めてふたりの後輩の目を見つめた。
 マミの雰囲気に触発されたのか、まどか達も少しだけ真剣味まして、かわるがわる疑問に思っていることに対して質問を始める。
 その間、シロウ──アーチャーはマミに説明その他を任せていっさい口をはさまず、ただ彼女の背後にたたずんでいた。
 いや、より正確には、他の人間には悟らせないように細く集束した殺気を、テーブルの上で丸くなった白い小動物に向かって投げかけて、その動きを牽制していたのだが。

 * * * 

 初めてマミと出会い、共にあると契約、いや「約束」した直後から、アーチャーはこの白い小動物、キュウべぇに不審感を抱いていた。
 当然だろう。
 本来は、平和な日常の中、日々を笑顔で過ごして然るべき年若い──幼いと言っても過言ではない少女達を、ソイツは血なまぐさい戦いとそれに伴う生命の危険に満ちた、非日常の世界へと誘っているのだから。
 朴念仁に見えてこの男。じつはかなりのフェミニストだ。それは、正義の味方あるいは守護者として幾多の戦場を超えてすら完全に磨滅しきることなかった、旧友の言葉を借りれば「心の贅肉」なのだが、だからこそ彼なのだとも言える。

 また、そういった個人的な感傷を別にしても、この白い獣の存在は胡散臭いの一言に尽きる。
 そもそも、ヤツは、肝心の「魔女」の発生原因すら曖昧に口を濁してハッキリさせていないのだ。少なくとも台風のように自然発生する災害の類では決してない、とアーチャーはニラんでいた。
 あるいは、その行動原理にしたって曖昧だ。第一目的は何なのか? 「魔女の掃討」なのか、あるいは「魔法少女を増やすこと」自体なのか。
 前者であれ後者であれ、その動機は? 自発的なのか、誰かに命令されてやっているのか? もし命を下した者がいるなら、その上位者は誰あるいは何なのか? ……論理的に考えれば考える程、わからないコトが多すぎた。
 無論、ヤツを問い詰めることも考え、一度ならず実行に移そうとしたのだが、この白いぬいぐるみモドキは、魔法少女とその候補者以外とはいっさい口をきかない。
 あたかも、ソコに自分と彼女達以外が存在していないかのように振る舞うのだ。
 心情的にキュウべぇを庇ってしまうマミの目を盗んで、脅しじみた詰問もしてみたのだが、まるでのれんに腕押しで、あのつぶらな赤い目からロクな反応を引き出すことすらできなかったのだ。
 あくまで推測だが、アーチャーはこの白い小動物を、幻獣や使い魔の類いではなく、「世界に組み込まれたシステムの一部が具現化したもの」ではないか、と考えていた。
 例えるなら──あまり愉快ではないが──抑止力(そうじや)としてアラヤにこき使われる彼ら守護者のようなモノなのかもしれない。そう考えれば、あの無機質さにも納得がいく。
 いすれにしても、この白い獣の動向は警戒すべきだと、彼の勘が告げていた。

 最終手段として、アーチャーはソウルジェムに「破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)」を突き刺して、強引にマミの魔法少女契約を破棄することも考えてはいたが、今の時点で実行するには、あまりに不確定要素が強すぎた。
 ルール・ブレイカーの効果の有無については心配していないが、問題は「契約破棄」したあとだ。
 現在のアーチャーは、サーヴァントシステムとは異なるものの、マミと契約を交わし、魔力のパスを繋げることで、この世界で確たる存在を保っている。
 マミ自身に魔術回路はなく、おそらくは魔力そのものもソウルジェムが生み出していることから考えて、彼女が魔法少女でなくなれば魔力供給はほぼ無くなると、考えてよいだろう。
 もっとも、現在の彼は受肉こそしていないものの、その存在は破格の安定度を示しているので、「生きる」だけなら食事や睡眠による魔力補給でも何とか命脈を保つことはできるだろう(現に、普段はほとんどマミの魔力は使用していない)。

 だが、そのコトを計算に入れずとも、ほかにも問題はあった。
 たとえば、彼の世界の吸血鬼──死徒を例にとろうか。
 他の死徒に襲われ、死亡したものの、先天的に素質があったせいか、グール状態をすっ飛ばして死徒になった者がいたとしよう。
 とあるキッカケから生前に面識を持つことになった、なんちゃって女子高生吸血鬼のことを、彼は思い浮かべる。
 死徒化とはそもそも魂レベルの汚染──呪いであり、それをルール・ブレイカーで断ち切ることができるかどうかはアヤしいところだが、仮にそれが可能だったとして、それをかの不幸少女に実行したらどのような結果になるのか。
 「無事に死徒化が解け、人間の女の子に戻る」。それは一番望ましい結果だが、たぶんその確率は非常に低いだろう。おそらく、いちばんあり得るのが「死徒化が解けると同時に、生命を失い、死体に戻る」だ。
 それに鑑みて考えるなら、マミの契約を破棄するということは、彼女の「生きたい」という願いをも破棄することになるのだから、たちまち瀕死の状態に戻る……というのは、大いにありそうなコトだ。
 「遥か遠き理想郷(アヴァロン)」の力を使えば、たとえ死に瀕している身でも、ある程度回復させることはできると思うが、絶対確実とは言えない。
 逆に、単独行動のスキルがあるとは言え、あれほどの宝具を魔力供給なしで使用すれば、アーチャー自身が消えるのはほぼ確実だろう。
 そもそも本来はすでに(二重の意味で)死んだ身。庇護する少女の身の安全がはかれるなら、そのまま消えることを今更厭う気はないが……。
 (──もっとも、それではあの時の「ずっとそばにいる、ひとりにしない」という契約、いや約束を果たせなくなるワケだが、な)
 それが孤独な少女の心をひどく傷つける裏切り行為だと知っているが故に、彼はその選択をギリギリまで選ぶつもりはなかった。
 (フ……私も甘くなったものだ。これではあの小僧を笑えんな)

 * * * 

 「……だから、貴女達には、よく考えて決めてほしいの。本当に、命の危険と引き換えにしてまで、叶えたい願いがあるのかどうかを」
 マミがそう説明を締めくくるとともにお茶会は終了となり、ふたりの少女はマミに感謝しつつ、それぞれの家へと帰っていった。

 「──問答無用で「止めておけ」とは言わなかったのだな」
 手際良く食器を片づけつつ、アーチャーはチラとマミの方へと視線を投げかける。
 「あら、わたし自身も貴方のその申し出を跳ねのけているのに、他人にソレを強制する権利も資格もないでしょう?」
 「だが……」
 「あまりに危なっかしい」と彼が口にする前に、少女はボフッとアーチャーの背中に抱きついた。
 「うん、わかってる。彼女達は「まだ」引き返せる。でも、だからこそ、そうするコトに……非日常に背を向けて日常を選ぶことに納得してほしいの」
 そうでないときっと後悔する。あるいは半端にコチラ側を知ったことで、覚悟も知識もなしに、危険に足を踏み入れてしまうかもしれない。
 そんなことには、できればならないで欲しいから……。
 そう語るマミの言葉に、ヤレヤレと首を振るアーチャー。
 「わかってはいたが……キミは頑固だな。それに真っ直ぐ過ぎる」
 言葉のうえでは否定的だが、彼のその無骨な掌がマミの髪を優しく撫でる。
 少女の方も目を細め、いつもの大人びた態度とは異なり、珍しく甘えるような表情を見せている。まるで、歳の離れた、しかし仲の良い兄妹のような心のつながりが、そこにはあった。
 「まぁ、いい。少々難度は増すが、私も今後戦闘時の警戒をよりいっそう強めるとしよう」
 「ええ、頼りにしているわ、アーチャー。貴方がいてくれるなら……わたし、何も怖くないから」
 「そのご期待に添えるよう、努力はするがね。だからと言って、キミも油断はしないでくれよ。戦場では何が起こるかわからないのだから」



[25912] 終幕:『壊れた幻想、打ち砕かれた宿命(ブロークンファンタズム、ブロークンフェイト)』
Name: KCA◆1515fe95 ID:251c7024
Date: 2011/02/11 22:28
終幕:『壊れた幻想、打ち砕かれた宿命(ブロークンファンタズム、ブロークンフェイト)』

 巴マミ、そして霊体化して姿を隠したアーチャーに守られながら、マミの「魔女退治」を見学するまどかとさやか。
 非日常の世界の恐さを体感すれば、平和な日常の尊さを大切に思えるはず……というマミ達の思惑と裏腹に、ふたりの少女は徐々に「魔法少女」という存在に魅せられていく。
 あるいはそれは、マミがあまりに華麗かつ堅実に戦い過ぎたせいかもしれない。そのおかげでまどか達は、目の前の命をかけた死闘に対して「恐怖」を感じるよりも、彼女に対する「憧れ」を強く抱くようになっていたのだ。
 確かに客観的に見て、巴マミは同世代の少女の羨望を集めて然るべき存在ではあった。
 可憐な容貌と大人びた雰囲気。
 中学生とは思えぬ見事なプロポーション。
 普段のおっとり優しげな雰囲気と、戦闘時の凛とした振る舞いのギャップ。
 兄弟姉妹のいないマミ自身も、まどか達を妹のように感じて接しているせいか、「ひとつ年上の綺麗で優しいお姉さん」に対して、14歳の多感な少女達が憧憬を抱かない方が、むしろおかしいとも言えるだろう。
 そして、マミ(及びアーチャー)の目を盗んでキュウべぇが、主にまどかをターゲットに事あるごとに勧誘していることや、その目的がハッキリしない謎の魔法少女、ほむらの存在もあって、彼女達は「魔法少女となってマミと共に戦う」ことを検討し始めていた。

 ──そして、運命へと繋がる扉が開く。

 「今回の獲物はわたしが狩る……貴女達は手を引いて」
 「そうもいかないわ。美樹さんとキュウべぇを迎えに行かないと」
 黒髪の少女の主張を、色々な点からマミは飲むことはできない。
 隙をついて、魔力で作り出したリボンで彼女の身体を拘束する。
 「ば、バカ! こんなことやってる場合じゃ……」
 「もちろんケガさせるつもりはないけど……あんまり暴れると保証はしかねるわ」
 『──マミ』
 その時、パスを通じてアーチャーがマミに声がかけてきた。
 『どうしたの、アーチャー?』
 『その娘のことは任せてくれ。適度に暴れれば拘束が解けるようにしておいてくれれば、私が霊体化したままその後の行動を探ってみよう』
 『オッケー、わかったわ。いい加減、この子の思惑も知りたいしね』
 『ああ。それから、マミ。後輩(いもうとぶん)にいい格好をしたいのもわかるが、キミもゆめゆめ油断せぬようにな』
 『! そんなコト……いえ、そうね。約束する、慎重にいくわ』

 そして迎えた「魔女」との決戦。
 「──ティロ・フィナーレ!」
 いつも通り、それで終わりのはずだった。
 マミがその魔力で作り出せる最大規模のマスケット銃による、まさに「最後の一撃(ティロ・フィナーレ)」を、回避したならともかくまともに食らって斃れなかった魔女は、それまで存在しなかったのだから。
 背を向けて立ち去りかけたマミの脳裏に、しかしつい先ほど聞いたふたりの人物の言葉が甦る。

 ──今度の魔女はこれまでのヤツらとはワケが違う!

 ──キミもゆめゆめ油断せぬようにな。

 無意識に振り返ったマミは見た。ティロ・フィナーレで撃ち抜いたはずの「魔女」の身体から生まれ、より凶悪な姿に変貌した「魔女の影を!

 頭を噛み砕こうと迫るそれをかわせたのは奇跡に近いが、それでもマミは、反射的に顔をかばってあげた右手の手首から先を食いちぎられるハメになった。
 「くぅっ……」
 「ま、マミさんっ!!」
 彼女が普通の女の子であれば、その痛みとショックだけで失神していただろう。しかし、幸か不幸か、彼女「普通の」少女ではない。
 家族を喪い、自らも命を半ば落としかけた事故の際の痛みの記憶や、魔法少女としての戦いの日々で傷つき血を流すことに慣れてしまっていた経験が、皮肉なことに今、マミの身を救ったのだ。
 二度目の急降下を転がるようにしてかわしつつ、マスケット銃を撃つが、有効なダメージを与えているようには思えない。
 「あきらめる……もんですか!」
 それでも、マミの目から闘志が失われることはない。彼女の後ろには、まどかとさやか──大事な「妹」達がいるのだ。いま、マミが斃れたら、間違いなく「魔女」の毒牙はふたりに向かう。
 そんなコトを許すわけにはいかなかった。
 三度目の突進への反応が、右手の痛みで一瞬だけ遅れる。
 「……ッ!!」
 先刻以上に大きく、ほとんど120度近くまで開かれた「魔女」の顎がマミを飲み込もうとした瞬間も、彼女は勝負を捨てていなかった。
 自らの周囲に10を超えるマスケット銃を用意する。
 (外からの攻撃が効かなくても、内側からならっ!)
 荒海でクジラに呑まれたピノキオよろしく、マミが「魔女」に丸飲みにされようとしたその瞬間!
 『やれやれ、無茶をする……』
 マミの頭上10数センチのところに、直径2メートル近い花弁を重ねたような盾が出現していた。
 その盾にはばまれて、「魔女」は口を閉じることができない。噛み砕こうとしているようだが、どれほどの強度があるのか、それもままならないようだ。
 「戦いに於いて残心を忘れるなと、日頃から言っているだろうが」
 「アーチャー! 来てくれたのね!!」
 「ああ、何せ私は「巴マミの正義の味方」だからな」
 軽口めいたことを言ってはいるが、アーチャーの視線は油断なく「魔女」の動向を窺っている。
 「どうする。その手では無理なら、私が片付けるが」
 「……いいえ、あんな風に自信満々にあの子にタンカを切った手前、せめてわたしがケリをつけないとね。アレをやるわ。アーチャーはふたりを守ってあげて」
 「! アレはまだ……いや、いいだろう。マミ、君の全力を見せてくれ」
 魔力で作ったリボンで簡単な止血をすませたマミは、左手で自らのソウルジェムを掲げる。
 次の瞬間、マミの左手には、通常のマスケット銃の銃身を切り詰めた、あたかも拳銃のような銃が握られていた。
 ようやくアーチャーの作りだした盾──ロー・アイアスを吐き出すことに成功した「魔女」がいったん離脱し、勢いをつけて巴マミに迫るが、それすら意に介さず、マミは手中の銃に残った魔力を注ぎ続ける。
 「──ロトゥーラ・ファタル」
 ティロ・フィナーレとは異なり、高らかに叫ぶのではなく、静かにその言葉を呟いた瞬間、勝敗は決していた。
 マミの短銃から射出された魔力の弾丸は、襲いかかる「魔女」を無視し、緩やかな弧を描いて飛ぶと、少し離れた場所にある一見無関係な、あるいは無害な人形とも見えるソレを撃ち抜いたのだ。
 その直後、手を伸ばせば触れるような位置まで迫っていた「魔女」は溶け落ちるように崩れ落ちた。
 あの「人形」こそが魔女の本体だったのだ。

 * * * 

 「バカな……巴マミが勝った?」
 遅ればせながらその場に駆け付けた黒髪の少女──暁美ほむらは自らの目を疑っていた。
 巴マミが魔女シャルロットと戦えば、「必ず敗北し、命を落とす」はずなのだ。
 だからこそ、ほむらはマミに代わって自らが戦うことを主張したのだから。
 それが、かろうじて逃げのびたというならまだしも、右手と引き換えとは言え完膚無きまでに勝利するとは。それに……。
 「あの男、何者?」
 マミの傍らにいる青年にも、ほむらは見覚えがない。
 「何が起こっているというの……?」

 困惑する少女を尻目に、眼下では、まどかがわんわん泣きながらマミに抱きつき、さやかは突然現れたシロウ(アーチャー)に食ってかかるカオスな光景が繰り広げられていた。

 少女は、ひとりの男の助けを得つつ、自らの「宿命」を乗り越えた。
 それは、滅びを定められた世界に投げかけられた小さな波紋。
 しかし、それが後々大きな波へと成長し、「結末」と言う名の船を想像もつかない場所へと漂着させることになるのだった。

-fin-

────────────────
 以上で、「サギタリウス・マギカ」、ひとまず完結です。
 オリジナル技のロトゥーラ・ファタルとは「運命の破壊」の意。語感的には、「ブロークン・ファンタズム」っぽいですが、能力としてはむしろ「赤原猟犬(フルンディング)」や「刺し穿つ死刺の槍(ゲイボルグ)」に近いもので、必ず敵の急所に当たるというもの。ただし、破壊力自体は、ティロ・フィナーレに及びません。
 まどかは、マミの傷ついた姿に「強くて華麗な無敵の魔法少女」という幻想を打ち壊されることになる……というのが最終章のタイトル前半の意。後半分は言わずもがなですね。
 あ、無論、マミさんの手は魔法で直せる……と想定しています。
 では、拙いこのSSを読んで、感想を下さった皆様、まことにありがとうございました。
 ドキドキびくびくしつつ、私も今後アニメ本編の展開を見守らせていただきます。



[25912] 閑話1:『砂糖菓子の弾丸では絶望を撃ち抜けない』
Name: KCA◆1515fe95 ID:251c7024
Date: 2011/03/18 22:16
 「さて、何から話そうか……」

 「アーチャー」と呼ばれる男は、ぐるりと部屋の中を見まわし、「4人」の少女の顔に、順繰りに視線を注いでいった。

 ひとり目は、巴マミ。彼の今の「主」であり、彼をこの世界に「召喚(よ)び込んだ」魔法少女。
 一見、正義感が強く、戦い上手で、中学生とは思えぬ心身の強さを持つように見えるが、その反面、意外なほど精神的に脆いところがある。

 ふたり目は、鹿目まどか。マミが通う中学の後輩であり、魔女と魔法少女の暗闘に巻き込まれた少女。
 あの白い獣によれば、「マミ以上の魔法少女としての素質」を持つらしいが、彼が見た限りでは、ごく普通の大人しい女子中学生にすぎない。

 三人目は、美樹さやか。まどかの友人で、彼女と同じくマミの後輩であり、やはり同様に魔女がらみの騒動に巻き込まれている。
 さやかにも魔法少女としての資質はあるらしいが、まどかと異なり直情径行な気質で、なぜか魔法少女としての契約にも関心を持っているようだ。

 そして、最後のひとりが、暁美ほむら。まどかのクラスに転入してきた転校生であり、同時にマミと同様、魔法少女でもある存在。
 何か理由があってまどかの周囲に出没しているようだが……。

 おおよその事情を知っているマミからは信頼を、先ほどの戦いのショックから覚めやらぬまどかとさやかからは困惑を、そしてほむらからは疑念を込めた視線を返されつつ、考えがまとまったのか、アーチャーはゆっくりと話し始めた。

 * * * 

 弓の英霊の話に移る前に、何故、「あの」暁美ほむらが巴家のリビングでお茶を飲んでいるのか、説明しておこう。
 と言っても、たいして複雑な経緯があるワケではない。アーチャー本人が彼女を「招待」したのだ。

 先の「お菓子の魔女」シャルロット戦の直後、マミの右手の治療の必要もあって、一行はすぐに壊れつつある魔女の結界から抜け出たのだが、アーチャーだけは自分達のあとをつけている少女の存在に気づいていた。
 マミに後輩ふたりの引率を任せると、アーチャーはフイと姿を消し……気配もなく尾行者の背後に現れ、声をかけたのだ。
 「知りたいことがあるなら、コソコソせずに正面から訊いてみてはどうかね?」
 ほんの一瞬だけ驚いたように目を見開いたものの、すぐさま表情を消したほむらは、すかさず自分の耳元に囁いた男──アーチャーの背後に、自らの能力を使って回り込んだ。
 いや、そのはずなのだが。
 「おっと、物騒なものはしまってくれないか。こんなトコロで争うのは君にとっても本意ではないはずだ」
 まるで見透かしたかのようにアーチャーはすでに後ろ、つまりほむらの回り込んだ方に向き直り、彼女がつきつけるつもりだった拳銃の銃身を握っている。
 「……どういうつもり?」
 「別に深い意味も害意もない。君も私に関して色々疑問に思っているのだろう? あのふたりにもこれから説明するつもりだったから、どうせなら君にも一緒に聞いてもらう方が、説明する手間が省けるというものだ」
 「──わたしを信用するというの?」
 疑念に満ちたほむらの視線。だが、そこに隠しきれない真意と真実の色が混じっていることを、百戦錬磨の弓兵は見抜いていた。
 「ふむ。そこまで神経質に隠さねばならないというワケでもない──特に、君達のような非日常の世界に足を片方踏み入れている者には、な」
 弓兵と魔法少女の視線がほんのひと呼吸のあいだ交錯する。
 ──互いの目の奥に、どこか似た部分があると感じられたのは、単なる錯覚だろうか?
 「……条件があるわ。あのキュウべぇと名乗る存在は席を外させて」
 「奇遇だな。私も、それには同感だ。マミにもあの子たちにも、あの白い獣はできるだけ近づけたくない」
 共通の「敵視する存在」がいると分かったせいか、場の雰囲気が幾らか和んだ。
 「わかった。行くわ」
 先に折れたのはほむらの方だった。セーラー服めいたその戦装束を解除して、見滝原中学のクリーム色の制服姿へと戻り、マミの家に向かって歩き始める。
 (! やはり、か。ならばこの娘は……)
 胸の内でそう呟きながら、アーチャーも少女の後を追ったのだった。

 無論、巴家に着いた時点で、アーチャーが伴って来たほむらの姿は(特にさやかに)ひと波乱巻き起こしたのだが、アーチャーのとりなしと、家主であるマミが認めたため、最終的に客人として部屋に迎え入れられることとなった。

 * * * 

 「君達は、パラレルワールド、という概念を知っているかね?」
 アーチャーの説明は、一見彼の正体と関係なさそうなそんな言葉から始まった。

 彼は、その「並行世界の地球」から、マミに「呼ばれて」来たこと。
 彼の故郷では、人目を避けてではあるが、魔術とそれを扱う魔術師が実在していたこと。
 彼自身、実は人間ではなく、英霊と呼ばれる亡霊に近い存在であること。そして、限定的にではあるが魔術を使えること。
 ……大雑把な説明ではあったが、アーチャーは、少なくとも嘘はつかず、現時点で可能な限りの手札を少女達に示した。

 彼が予想した通り、まどかとさやかは、あまりよく分かってなさそうだが、元は読書好きで豊富な知識を持つほむらは、彼の言いたいことを(信用したか否かは別として)おおよそ理解したようだ。

 「──つまり貴方は、異世界の英雄で、巴マミを守るためにこの世界に来たと言うの?」
 「正面切って問われるといささか面映ゆいが……まぁ、概ねそういうことになるかな」
 「信じられないかね?」と問い返すアーチャーに対して、ほむらは緩やかに首を横に振った。
 「いいえ。信じるわ」
 そう、突拍子もない話ではあったが、ほむらは信じた。
 なぜなら、彼──アーチャーの存在は、彼女が未だ一度として感知したことのない異分子(イレギュラー)だったからだ。
 鹿目まどかとその周囲を取り巻く状況に関して、彼女は誰よりも詳しく熟知しているのだ。
 それなのに、そこに本来決してあり得ないはずの存在がいきなり出現したとしたら……正真正銘の異世界人だという話にも、ある程度の信憑性が生まれる。
 また、彼の目の色にも見覚えがあった。
 大切な誰かを救うために、必要とあらばそれ以外のものを切り捨てることを厭わない鋼の意志──それは、まぎれもなく毎朝鏡の中に見つける自分の瞳と同じ代物だ。
 もっとも、彼女は気づいていないが、同時に「しかしながら、可能であれば周囲の者も助けてやりたいと願う、捨てきれない甘さ」という共通点もあったりするのだが。
 「少なくとも、巴マミを守りたいと言う貴方の気持ちに嘘はないと思う」

 彼女の言葉を聞いた瞬間、固唾を飲んでふたりのやりとりを見守っていたまどかは、ホッと安堵の溜め息を漏らした。
 さやかやマミはあまりいい印象を持っていないようだが、まどかの方は、この張り詰めたような孤高の雰囲気をまとう少女を、どうしても嫌いになれなかったからだ。
 まどかに釣られて、さやかやマミの雰囲気も幾分和らいだかに思えたが……。
 「ところで、私達の世界の魔術師のあいだでは、「等価交換」という原則が非常に重視されていてね。私の方の事情を教えたのだから、今度は君の話を聞かせてもらえないだろうか」
 アーチャーがとんでもないことを言いだしたため、再び部屋の緊張感が高まった。
 「──わたしが、貴方の流儀に従う言われはないと思うのだけど」
 ほむらの言葉は、誠にもっともだ。
 「ふむ。確かに君は魔術師でも、魔術使いでもないから無理強いはできんな。ならば私の方から勝手にちょっとした質問をさせてもらおうか。答えるか否かは君に任せよう。
 君の魔法少女としての特殊能力は、未来予知か時間逆行を含めた固有時制御だと踏んでいるのだが?」
 アーチャーの言葉を聞いた途端、ほむらの目が表情が僅かに堅くなる。
 「こゆうじせいぎょ……って、何なんですか、シロウさん」
 「私の養父(ちち)が得意としていた高度な魔術なのだがね……簡単に言えば、自分と周囲の時間の流れを操る術と言えばいいかな。たとえば、周囲の時間の流れを止めて、自分だけが動けるとか」
 ?マークを浮かべたまどかの問いに、律儀に答えるアーチャーだが、視線はほむらから外していない。
 一方、ほむらは内心で葛藤していた。
 目の前の男に能力を見破られた事に関しては驚いたが、それ自体はそれほど致命的なことではない。
 しかし、これはある意味チャンスではあった。
 以前、「仲間」の魔法少女達にキュウべぇの真意を打ち明けた時は信じてもらえず、逆に悲惨な結果を生むことになったが、あれから自分も色々な面で成長していると思う。
 今ならまどかもさやかも魔法少女になっていないから、マミの心の負担もそれほど大きくはないだろう。
 彼もキュウべぇに不審を抱いているようだし、あるいはマミを説得してくれるかもしれない。
 素早くそう頭の中で思考をまとめると、ほむらは改めて背筋を伸ばし、言葉を紡ぎ始めた。
 「貴方の言う通り、わたしの力は、自分以外の時間停止……そして、ある特定条件のもとでの時間逆行よ」

-つづく-
────────────────────
#10話の衝撃と、11話が見れない落胆から、こんなモノを書いてしまいました。いろいろ破綻している部分はご愛嬌。
#10話を見たあとだと、繰り返しによる摩耗という点で、マミよりむしろほむらの方がアーチャーに近いのかもしれませんね。「魔法少女に助けられたから自分も魔法少女に」という流れも「切継→士郎」的ですし。


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