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[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/02/13 14:09
KCAさんゴメンナサイ

巴マミは「魔法少女」である。
しかもグリーフシードの収集より一般人を魔女から守ることを優先しているという、この世界の魔法少女の中ではいささか毛色の異なる存在といっていい。
そんなマミの戦いは孤独である。
たまたまマミの住む町が魔女が多く発生する地域だったことから、魔女との戦いが頻発するだけでなく、よい“狩場”を独占しようとする流れ者の魔法少女との戦いも少なくない。
その夜も赤い槍使いの魔法少女と戦い、苦戦しながらもこれをを退けたマミは、消耗した体を引きずっての家路の途中であった。
チャリーン!
背後で聞こえた物音に振り返ると、孤独な街路灯の投げかける寒々しい光を受けて、アスファルトの上で銀色に光る円盤状の物体。
それが時の列車に無賃乗車した腕怪人から毀れ落ちたセルメダルだということを、勿論マミは知らない。
だが魔女のものとは異質の超常の力を宿していることは即座に感じ取れた。
屈みこんでセルメダルを手にとったマミの上に、複数の影が落ちた。
顔をあげたマミの目に映ったのは、絵に描いたようなチンピラゴロツキの皆さん。
時刻は草木も眠る丑三つ時。
場所は人気の絶えた運河沿いの倉庫街。
もうイヤな予感しかしない。
「脱げ」
男の口から吐き出される最小限にして最悪のセリフ。
(変身?でも相手は魔女でも魔法少女でもないし…)
一瞬の躊躇が心優しい魔弾の射手を窮地に追い込む。
両腕を捕られ、壁に押し付けられたマミの肢体に男たちの手が伸びる。
ブラウスが肌蹴られ、淡い黄燈色の光を放つソウルジェムが路上に転がる。
こうなってしまっては歴戦の魔法少女も早熟な女子中学生でしかない。
「いやッ、いやあぁ!」
泣き叫ぶマミ。
ソウルジェムがひときわ強い光を放ち、その輝きにセルメダルが吸い込まれる。

“ そ の と き ふ し ぎ な こ と が お こ っ た ”

「ぶふぉ!?!」
男Aが吹っ飛んだ。
「ぺぶら!?!」
男Bが宙を舞った。
「あかぷるこ!?!」
男Cが美しいアーチを描いて橋の下に消えた。
ちなみに下は川なので死にはしないだろう、多分。
マミは驚愕に胸を隠すのも忘れ、突如現れた救い主を見つめた。
黒光りするキチン質の外骨格に覆われた逞しい体。
「許さない…」
胸に宿す正義の炎が漏れ出たかのような真紅の複眼。
「悪い奴は許さない」
そこには飛蝗と人間を掛け合わせたようなフォルムの漆黒の怪人が立っていた。
「俺は欲望の王子、バッタヤミー・BLACK!」

「お早うマミ!さあ起きて、朝食が冷めてしまうぞ!」
快い眠りを破ったのは、快活を通り越して暑苦しいほどの精気に満ちた若い男の声。
目覚めたマミの目の前には、人間―二十台前半の男性―に姿を変えたバッタヤミー。
ちょっと鼻の穴が大きめだがなかなかのハンサムといっていい。
バッタヤミーはマミの従兄弟の“巴てつを”を名乗り、なし崩し的にマミのマンションで同居を始めてしまった。
本人の説明によればヤミーはセルメダルを投入された人間の欲望を満たすために生み出される存在で、てつを(=バッタヤミー・BLACK)の場合、両親と死別し、正義の魔法少女として孤独な戦いを続けるマミの“一緒に戦ってくれる家族のような存在が欲しい”という想いから生まれたのだという。
そしてマミはてつをを受け入れた。
なんといっても、この男ならたとえクライシス帝国が襲ってきてもなんとかしてしまうだろうという理屈抜きの頼もしさがある。
後になってクライシス帝国って何?としばらく悩んだが。
あとてつをの作るご飯が意外と美味しい。
何故か献立はやたらと肉料理が多いが。
ステーキとかステーキとかステーキとか。
その朝のメニューも歯にしみるようなコンソメスープにチーズとカリカリに焼いたベーコンをトッピングした野菜サラダ、香ばしいガーリックトーストに加えハードボイルドな佇まいを見せるゆでたまご、そして殿を務めるは縦3インチ、横4インチ、厚さ1インチの堂々たるビーフステーキだった。
「ああ、朝からこんなモノ食べてるとまた胸に余分な肉が…でもこの手が、この手が止まらないぃぃ!」
などと言いつつヘヴィ過ぎる朝食をハイペースで平らげていくマミを見つめ、てつをはうんうんと頷くのであった。

ガラッ!
唐突に入り口の引き戸を開けて、てつをが教室に入ってきた。
もちろん授業中である。
「すいません、罹りつけの産婦人科から緊急の呼び出しがあったので!」
マミの手を引っ掴むと、有無を言わせず学校から連れ出す。
しばしの沈黙ののち騒然となる教室。
「なに、あのイケメン?なに、あのイケメン?」
「産婦人科ってまさか…」
「イヤー!お姉さまぁ!?!」
「不潔よぉ、でも嫌いじゃないわッ」
「夏に薄い本が…」
一方こちらは強引にバイクの後部座席に乗せられたマミ。
「一体どうしたのよ?」
てつをの答えは簡潔だった。
「魔女だ」
説明しよう、バッタヤミー・BLACKはバイクでぶらついているだけで敵と遭遇してしまうスキル「ご都合主義」の持ち主なのだ!
(ナレーション:政宗一成)
バイクごと魔女の結界に突入する二人。
そこではいつぞやの赤い魔法少女=佐倉杏子が戦っていた。
「手ェ出すんじゃねえぞ!コイツはアタシの獲物だ!」
そして赤の少女が身長より長い槍を向けるその先には、あぶない薬をキメた代●木アニメーション学院のお兄さんが作画を担当したような魔女。
そしてその声。
「ガチャピンッテアレダヨネーッ!アノキイロイホウダヨネーッ!」
話す内容もアレだがその声質は聞いているだけでガリガリとSAN値が削られる。
「な、成程…これが噂の金●地獄というやつか!なんて恐ろしい攻撃だッ!」
「いけない、杏子ちゃんが!」
いま到着した二人より長く魔女の声に晒されていたからか、杏子の足取りがかなりおぼつかなくなってきている。
このままではやられるのも時間の問題だろう。
「てつを!」
「応っ!」
ソウルジェムを取り出すマミ。
“あのポーズ”をとるてつを。
「「変身ッ!」」

【続かない】



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・第二話【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/02/13 19:00
続かないと言ったな、あれは嘘だ。

前回の、みっつの出来事!
ひとぉつ! 巴マミはセルメダルを拾った。
ふたぁつ! ソウルジェムの魔力を浴びて、セルメダルからバッタヤミー・BLACKが誕生。
みぃっつ! 黒い太陽が輝く無限の銃の丘で、マミとバッタヤミーは義兄妹の契りを交わした。

「とうっ!」
黒い飛蝗が走る!跳ぶ!吼える!
「ヤミーパンチ!」
ヤミーパンチの衝撃力は2.54トンだ!
「ヤミーキック!」
ヤミーキックの蹴脚力は8.8トンだ!
飛蝗の跳躍力とヤミーの怪力から繰り出される攻撃は単純素朴な打撃技といえども、否、シンプルなだけに鋭く、強い。
「今だ!」
そしてトドメの一撃。
「ティロ・フィナーレ!」
黄金のゴン太ビームが魔女を飲み込む。
「リフレ―――――ッシュッ!」
どこか懐かしい悲鳴を放って散るお茶目な魔女。
「さあ」
差し出した手の中には回収したグリーフシード。
バッタヤミーの手のひらに乗せられたそれに黄色と赤のソウルジェムが寄せられる。
「グリーフシードが必要なら分け合えばいいじゃないか」
「はあぁ?寝言いってんじゃねーよ、佃煮にすっぞイナゴ野郎」
バッタヤミーの提案を一蹴する杏子だったが-
「魔法少女は助け合いだろうッ!」
「ゴメンナサイ」
てつをヴォイスで一喝されるとプライドとか厨二気質とか、その他色々なものが根こそぎ吹っ飛ばされてしまうのだった。
「チッ、今日のところは借りといてやるよ」
それでも去り際に憎まれ口を叩かずにはいられない。
「ああ、助けがいるときはいつでも呼んでくれ」
漆黒の怪人から返される誠実さと思いやりに溢れた声。
「う、うるせーばーかっ!」
何故かうろたえたような挙動で跳び去る赤い子。
バッタヤミー・BLACK、ニクイ野郎だぜ。
人間体に姿を変えたバッタヤミーは変身を解いたマミにそっと手を伸ばし、髪の乱れを優しく直してやるとシリアスな表情で言った。
「帰りにおでんでもどうだ?」

「こういう所は初めてか?」
屋台の前に置かれた木製の長椅子に並んで座り、目の前でグツグツと煮えたぎるおでんの具を珍しそうに見つめるマミをからかうようにてつをが言う。
「普通の女学生は二の足を踏む場所ですよ」
そう答えるマミだったがてつをは無言で少し離れた席を指差す。
そこには瞳をキラキラさせてガンモドキを注文するたくあん眉毛の女子高生がいた。
「そうでもないみたいだぞ?」
「うじゅ~」
珍妙な唸り声をあげて凹むマミ。
大変レアな光景と言っていいだろう。
「ありがとう…」
唐突にマミが言った。
「なにが?」
問い返すてつを。
「言ってみただけ」
カウンターに突っ伏したまま、顔だけてつをに向けるマミ。
裸電球に照らされた瞳がオパールの輝きを放っている。
「そうか…」
てつをは日本酒の入ったグラスを掴んだ手をマミの方に伸ばした。
マミもオレンジジュースを満たした自身のグラスを掲げる。
二つのグラスが触れあい澄んだ音を立てる。
そんな二人を横目で見ながら、屋台のオヤジは心の中で呟いた。
(リア充氏ね)

翌日-
「成程、では先日の産婦人科云々はお従兄さんの狂言だったというのですね?」
場所は職員室。
「はい、従兄は絵描きなんですが凄い気分屋で…」
時刻は放課後。
「で、突発的に芸術の神が降臨してパッションの赴くままモデルを連れ出しにきたという訳ですか?」
マミは釈明に追われていた。
「ご明察の通りです」
真木教諭の眼鏡がキラリと光った。
「ヌードですか?」
マミは眉を顰めた。
「冗談です」
「失礼-」
それまでマミの隣で貝のように口を閉ざしていたてつをがいきなり言葉を発した。
「なぜ先生はこっちを向かないんですか?」
「私の勝手です」
真木教諭は、人と会話するときも左腕に乗せた人形を見つめたまま話す、という奇癖の持ち主だった。
「人と話をするときはちゃんと相手の顔を見るんだ!」
てつをの手が人形を叩き落とす。
「ロッロロロロロロロロロロゥリィッ!」
人形を失うと同時に理性も失い、奇声を発しながらチャヤクロ族に伝わるカンムリワシの舞いを踊りはじめる真木教諭。
「なんであんなのが教師をしているんだ?」
「謎だわね」
二人は職員室をあとにした。
「…ッ!」
突如マミの背中を悪寒が走る。
「魔女だな?」
てつをも怪異の気配を感じ取っていた。
「近いわ…まさか校内!?!」
「あっちだ!」
取り壊し予定の旧校舎に向かって走り出す二人。
「「変身!」」
魔女の結界に飛び込むと同時に戦いの装束に身を包む。
(む、この発育速度なら90センチの大台に達するのも時間の問題だな)
変身の過程でコンマ数秒だけ生まれたままの姿になるマミのプロポーションを高性能な複眼で抜かりなくチェックするバッタヤミー。
無数のマニ車が回り続ける結界の中央に鎮座する、全長8メートルはあろうかという双頭のカミツキガメ、その甲羅の上で全身にベビーオイルを塗り、ブーメランパンツ姿でアブドミナル&サイを決めた筋肉質の黒人4人が支える玉座の上に、魔女はいた。
「帰りたい…」
「耐えろ」
マミの呟きにあえて冷徹な声で答えるバッタヤミー。

さあ、戦いだ!



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・第三話【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/02/15 18:51
天空に輝く黒い太陽。
無数のマスケット銃が墓標のように突き立つ荒野を、乾いた風が吹き抜ける。
さしずめBGMはエンニオ・モリコーネの「黄金のエクスタシー」といったところであろうか。
無限の銃が連なる丘の上に立つ二つの人影。
ひとつは心優しいツインドリルの魔法少女。
いまひとつは胸に正義の炎を宿した漆黒の飛蝗男。
「誓いをここに-」
飛蝗男が魔法少女の前に跪く。
「これより先、わが身は貴女の盾、わが拳は貴女の剣、この命が燃え尽きるその瞬間まで、わが運命は貴女とともにある」
白馬の王子とはかけ離れた姿ではあるが、それはまさしく姫に忠誠を捧げる騎士の姿であった。
言葉にできないほどの感動にうち震えるマミ。
決して尿意をこらえているわけではない。
「じゃしよっか?」
イキナリ姿を変えるとともに軽~いセリフ回しになるてつを。
「はい?」
目をパチクリさせるマミ。
「だからさぁ、オトコが命張るって言ってんのよ?それ相応の“ご褒美”を出すべきでしょう?人として」
「え?え?」
マミは完全に混乱している。
インターネットの画像掲示板ならば、ミルコ・クロコップの「お前は一体なにを言っているんだ?」が張られているところであろう。
「とりあえずチチ揉ませろやあっ!」
せいやぁー!とばかりにルパンダイブを敢行するてつを。
「マミちゅわぁ~~~~~~~~~ん!」
「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
自分の悲鳴で目が覚めた。
「夢…か…」
マミは布団から半身を起こすと、普段は自分が使っているベットに視線を向けた。
本来の主に代わってそこに横たわるのは、マミの予備のパジャマを着た佐倉杏子。
先刻マミがあげた大声にも、目を覚ます気配はまったくない。
黙っていれば可愛らしい顔は血の気がなく、額に脂汗が浮いている。
マミは水を張った洗面器に浸したタオルを絞り、杏子の顔をそっと拭いた。

七時間前-
「援護してくれ!」
「任せて!」
魔女に向かってダッシュするバッタヤミーの背後でマスケット銃を構えるマミ。
テケリ・リ!テケリ・リ!
鰯の頭と蛙の脚を持ち、狒狒の胴体から茨の腕を生やした魔女が笛のような声をあげる。
すると結界のあちこちでカラカラと音を立てていた回転して止まぬ無数のマニ車が一斉に浮かび上がり、高速で飛び交いながら梵字を銃弾のように飛ばしてきた。
マミに向かって。
「しまった!」
慌ててマミのもとに戻ろうとするバッタヤミー。
だがとても間に合いそうにない。
「っらぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ガガギグゲゲゴン!
マミの身体を貫こうとした梵字を打ち落としたのは多節棍に変形させた槍を振るい、赤い彗星のように飛び込んできた佐倉杏子だった。
「…どうして?」
尻餅をついたままポカンとした表情で杏子を見上げるマミ。
「宵越しの借りは持たねー主義でね、とは言え…」
言った途端に膝から崩れる杏子。
「やっぱ馴れないコトするもんじゃねーや…」
ドサリと倒れた杏子のわき腹に開いた穴を中心に、真紅のドレスを赤黒く染める染みがじわじわと広がっていく。
「杏子ちゃんッ!」
それを見たバッタヤミーの全身から憤怒のオーラが立ちのぼる。
「許さんっ!」
バッタヤミーの腕がベルトのバックルを叩く。
カポーン!
シリアスな雰囲気を台無しにする効果音とともにバックルから飛び出すセルメダル。
「これを使え!」
「分かったわ!」
国友五十匁筒に似たものごっついマッチロックを錬成したマミは、受け取ったセルメダルを引き金のすぐ上に設けられたスロットに挿入する。
『FULL・CHARGE』
何故か鳴り響く電子音声。
「いいわねッ?いくわよッ!」
火縄銃を構えて見栄を切るマミ。
セルメダルの魔力に当てられたのか、ちょっとばかしノリがおかしい。
「ヴェスパ・アピンターレ(ハチの一刺し)!」
ヅトンと撃ち出された黄色い光弾は空中で花火のように弾け、猛毒のスズメバチの群れとなってマニ車を襲う。
全てのマニ車が破壊されるまでに要した時間はジャスト三秒。
テケリ・リ!テケリ・リ!
再び魔女が歌うと魔女とマミ達の間に踏切の遮断機が下りる。
カミツキガメと黒人がレゴブロックでできた名鉄電車(7000系)にトランスフォームし、魔女を乗せて走り出す。
「逃がさんッ!」
「恐怖」が若者を一夜にして白髪の老人に変えてしまうようにッ!「怒り」はバッタヤミー・BLACKに爆発的なパワーを与えるぞッ!!
「バーニングヤミーチョップ!」
黒い炎を纏った手刀が魔女を十七分割した。

その後、マミとてつをは重症を負った杏子をマミのマンションに運んだ。
「医者を呼ばなくていいのか?」
「二~三日安静にしておけば自然に回復するわ、その分魔力を消費するけど」
そう言って倒した魔女のグリーフシードから抽出した魔力を、全て杏子のソウルジェムに注ぐマミ。
「命の恩人だもの」
てつをはそれでいいと言わんばかりに頷くのであった。
-冒頭に戻る。

寝室を出たマミは足音をしのばせてキッチンに向かう。
「ふう…」
コップに注いだ深層水を飲み干して大きく息をつくマミ。
「あれは夢だったけど-」
クラスの男子が揃って飢えた野犬のような視線を注ぐダイナマイトな二つの膨らみをじっと見つめる。
「てつをさんもやっぱり…も、揉みしだきたいとか思ってるのかしら?」
「眠れないのか?」
いきなりてつをが入ってきた。
「はわわ!」
驚きのあまり羅漢仁王拳の構えをとってしまうマミ。
「ほぁた!」
てつをも荒ぶるコブハクチョウのポーズで対抗する。
「プッ!」
「ハハッ!」
しばらく睨み合ったあと同時に吹き出す二人。
楽しそうだなおまいら。
「どこに行ってたんですか?」
「もともとヤミーに睡眠は必要ないからな、見張りをかねて外で筋トレをしてたんだ」
「ひょっとして毎晩?」
「毎晩だ」
深夜、マンションの踊り場でひとり黙々と「ワンモアセッ!」を繰り返すてつをのイメージ映像を脳内再生し、思い切り微妙な表情を浮かべてしまうマミであった。

んでもって数日後-
「あのねえ、ウチは寮でも食堂でもないのよ?」
「ケチケチすんなよー、こんなギガ美味いメシ独り占めするなんて独禁法違反だぞー」
佐倉杏子は三日と空けずに巴家の食卓に乱入を続けていた。
どうやらマミ&てつをとは敵対するよりも共闘したほうが旨味が大きいと判断したらしい。
そしてそうと決めたら徹底的にツルんで美味しいところをしゃぶり尽くすのが杏子のジャスティスである。
「まあまあ、食事は大勢のほうが楽しいぞ?」
「流石てっちゃん、愛してるぜー!」
てつをの右腕に抱きつき、発展途上の青い果実を押し付ける杏子。
「むぅっ」
マミも負けるものかとばかりにてつをの左腕に魅惑の完熟メロンを押し付ける。
「なんなんだこの状況は?」
気分はもうポルナレフなてつを。
はっ!こ…これはラブコメ!?!

【第一部完】



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・劇場版【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/02/18 20:25
ある日の巴家。
「修学旅行?」
リスのようにほっぺを膨らませ、口をモグモグさせながら、佐倉杏子は言った。
「そうだ」
黒地に白抜きで、「ゴルゴムの仕業だ!」がプリントされたエプロンを畳みながら、巴てつを=バッタヤミー・BLACKが答える。
今日も今日とて、杏子はマミのマンションにメシをたかりに来ていた。
キッチンのテーブルに載せられた大皿には、極太麺を山菜&海の幸と一緒にラードで炒め、塩コショウをたっぷり効かせたボリュウム満点のナチュラルスパゲッティ(このメニューは中区新栄のスパゲッティ専門店に実在する)が、ついてこれるか?と言わんばかりに山盛りになっている。
ちなみに時刻は正午過ぎ。
まっとうなJC-ジョーカー/サイクロンではない-なら学校にいっているはずだが、どこまでもゴーイングマイウエイな赤い魔法少女は自らの家庭環境に関しては、コンスタンチノープルの城壁並みの沈黙の壁を作っている。
「てっちゃんはついてかねーのか?」
スパゲッティの山を制覇した杏子は、さも当然といった態度でデザートを待ちながら尋ねる。
「マミには留守の間この街を頼むと言われているからな」
食後の抹茶アイスを用意しながらてつをが言う。
「へぇー」
杏子の目が危険な光を放つ。
「そんじゃ~鬼の居ぬ間にマーキングっと!」
勝手口の隙間から台所に侵入する泥棒猫の身ごなしでてつをの膝の上に乗り、フレキシブルに腰を揺らす杏子。
「そういう悪戯をする子はこうだ」
ギュッと握った両の拳を杏子のコメカミに押し付け、てつをは情け無用のグリグリ攻撃を敢行する。
「ば!びぶっべ…ぽぉッ!」
胸に七つの傷を持つ男が脳天に打ち込んだノコギリを、ギギィ~ッと引かれたモヒカンのような悲鳴をあげてのたうつ杏子。
脚をばたつかせるたびに、ホットパンツに包まれたフトモモの付け根から、白とピンクのストライプがちらちらする。
二分十七秒後、ようやく解放された杏子は魚河岸のマグロのごとく、フローリングの床にぐったりと横たわる。
「そんで…マミは…どこに行ったん…だ?」
荒い息と潤んだ瞳がそこはかとなくエロティカル。
「ここだ」
てつをが差し出したA4版のチラシには、オサレな高層ビル群の真ん中にそそり立つ巨大風車の写真を背景にこう書かれていた。
「未来の風が吹くエコの街 風 都 へようこそ!」

マミさんヤミーの親になる~劇場版~「風の街の魔法少女」

「ニンニク入れますかぁー?」
「野菜増し増しニンニクアブラ!」
「私はチャーシュー大盛りだ!」
「あ、私はニンニク抜きの麺少な目で…」
修学旅行で風都を訪れた巴マミは、同じ班の宮内真夜と月夜野由佳に誘われ、丼を覆いつくす巨大なるとが名物の風都いち有名な店、「風麺」の屋台にやって来ていた。
黒髪ポニーテイルでハンサムな顔立ちの宮内真夜は空手の有段者であり、ヤワな大人などものともしないハードボイルドな女子中学生である。
ちなみに平行世界の同一存在が謎の島で絶滅動物と戦っていたりするが、それはこの物語とはなんの関係もない。
黒髪ショートカットでボーイッシュな魅力を放つ月夜野由佳は、父親がプロのマジシャンであり本人も手品の腕前は玄人裸足である。
こちらも平行世界の同一存在が中学生ギャンブラーのパートナーとして下剤を盛られたり、主人公の顔面に嘔吐したり、大勢の観客の前で脱衣させられたり、といった活躍をしているが、やはりこの物語とはなんの関係もない。
それぞれタイプの違う美少女三人がラーメンを啜る姿に、思わず通行人も足を止める。
「よーし、もう一軒行こうか!」
やたらオヤジくさい仕草で爪楊枝をシーハーさせ、まだまだ胃袋は余裕たっぷりと言わんばかりの真夜。
「私は甘味処がいいな!」
由佳も負けてはいない。
その底なしの食欲に、マミは恐怖した。
「お、恐ろしい子…」
そのときであるッ!
“きょほほほほほほほほほッ!”
脱力系の咆哮をあげながら急降下してくるバード・ドーパント。
「な、なんだぁ?」
あっけにとられる真夜姐さん。
「ば、バケモノ!」
月夜野さんの顔が引き攣る。
「逃げるのよッ!」
棒立ちとなった二人の腕を掴んで走り出すマミ。
流石にこういう人外絡みのトラブルに関しては、マミさんはスペシャリストだ。
だがまわりこまれてしまった!
「チッ、どーやらやるしかねーみてーだな…」
真夜姐さんがアップをはじめまみた。
だがちょっと待て、ドーパントはブロブレオプスより手ごわいぞ?
「キャオラッ!」
真夜姐さんの跳び回し蹴り!
ペチッ。
あっさりはたき落とされた!
「なうッ!?!」
月夜野さんの「なうッ!?!」が出た!
「大丈夫?」
「つ、強ェ…」
勝ち誇ったバード・ドーパントが嗚呼、クエッ!クエッ!をやっている間に、月夜野さんは真夜姐さんを抱き起こす。
「巴さん手伝ってって…居ないし―――――ッ!?!」
真夜姐さんと月夜野さんにトリが迫る。
「そこまでよッ!」
見よ、街路灯の上にすっくと立つボンッ、キュッ、ボンッ!なシルエット。
「何奴!?!」
あ、トリさん喋れたんだ、しかも何気に時代劇口調。
「人呼んで魔法の銃撃手、マスクド・カラビーナ!」
もちろんその正体はマスクとウイッグを装着し、正体を隠した巴マミであった。
それらの装備は人前で変身する事態を想定して、てつをが用意しておいたものである。
マスクのデザインがパピ☆ヨン!な点についてはスルー推奨。
ビル街を吹き抜ける風にたなびくマミのスカート。
見上げるトリが小さく呟く。
「黒のレース…だと?」
「ティロ・フィナーレッ!!!」
イキナリ決め技だ―――――っ!
黒焦げになったトリからガイアメモリがイジェクトされ、怪人は人生に疲れたサラリーマン風の中年に姿を変える。
「JCなんて…JCなんてみんな氏ねばいいんだ……」
なにか辛い過去があったようだ。

翌日-
三人は風都名所の一つ、「世界恐怖博物館」を訪れた。
館内には古今東西の拷問道具、地獄や悪霊、処刑場を描いた絵画に加え、「そんな時にはスペイン宗教裁判!」の実物大ジオラマなどがところ狭しと並べられ、ステージでは白塗りのダンサーがおどろおどろしい音楽に合わせて奇怪な舞踊を踊る合間を縫って、江角マキコと山口小夜子が銃撃戦を行っている。
バード・ドーパントに襲われている最中にマミが姿を消した件については、逃げる群衆に突き飛ばされて気絶したものの、親切な人に病院に運んでもらったという説明で納得してもらえた。
そしてマミは留守番のてつをに定時連絡を入れるため、ちょっと御不浄と断って二人のそばを離れる。
「う~トイレトイレ」
ツナギを着た若い男が腰掛けたベンチの前を通り過ぎるマミ。
男はノーリアクションだ。
次いで線の細い美少年―バイオリンとかやってそうだ―が、松葉杖をつきながら通り過ぎる。
ツナギの男は腰をあげ、松葉杖の少年の後を追って、男子トイレへと消えた。
その後ナニが起きたのか、それは誰も知らない。
残された真夜姐さんと月夜野さんの話題は、自然と昨日の異常な体験に関するものとなる。
「それにしても魔法少女か…まさかガチで実在していたとは」
「どっちかというと魔“砲”少女だと思うぞ?」
「それにつけても…」
「カッコよかったなぁ…」
「成れるわよ、貴女たちも」
突如投げかけられる第三者の声。
それは黒いコートに黒い帽子、顔全体を覆う包帯の上にサングラスをかけた、年齢不詳の女性だった。
さあ、皆さんご一緒に-
怪しさ大爆発だぁ―――――ッ!
「これを使えば貴女たちも今すぐ超人の仲間入り…」
怪し過ぎる女が差し出したのは、黒と金のガイアメモリ。
二人の視線が吸い寄せられる。

「お待たせー」
マミがトイレから戻ると、真夜姐さんと月夜野さんの様子があからさまにおかしかった。
そう、まるで魔女に魅入られたかのように。
二人は熱にうかされたような表情で、右手に握り締めたガイアメモリの起動ボタンを押す。
『ジョーカァーッ!』
『ルナアッー!』
炸裂するマダオヴォイス。
二人はスカートをたくしあげ、ガイアメモリをインサートする。
「ン…ッ!」
「は…あ…」
どこに“挿した”のかはご想像にお任せします。
そしてジョーカー・ドーパントに変身する真夜姐さん。
女性らしい身体のラインを強調した黒い装甲に紫のアクセントを散りばめたその姿は、「コブラ」のアーマーロイド・レディをイメージしてもらうといいだろう。
ヘルメット状の頭部からはトレードマークのポニーテイルが兜飾りのように飛び出し、往年のゴジラ映画の名悪役として活躍したサイボーグ怪獣を連想させる、ゴーグル状の紅い単眼と体の正中線に沿って配されたノコギリ状のスパイクが凶悪なムードを盛り上げる。
そして月夜野さんが変身したのはルナ・ドーパント。
こちらは黒地に金のラインが入ったフードで頭部をすっぽりと覆い、プロポーションも露わな金ラメに黒の水玉模様の入った全身タイツの首まわりと手足の袖口には、ピエロを思わせる派手なフリル。
さらに金色と黒の市松模様のリボンが全身に巻きつき、ギリシャ神話のメドゥーサの髪のようにうねうねとのたくっている。
二人の変わり果てた姿に声も無く立ち尽くすマミを尻目にジョーカーとルナはジャンプ一番、窓をブチ割って外へと飛び出した。
「いけない!」
我に返ったマミは大慌てで変身&変装を済ませて後を追う。
「お待ちなさい!」
大勢の買い物客で賑わう商店街で二人を見つけたマミは、通行人を追い回すドーパントの前に立ち塞がった。
「オンドゥルァギッタンディスカァ――――――――――――ツ!」
ジョーカー・ドーパントのラッシュを、逆手に構えたマスケット銃を棍のように使ってさばくマミ。
だが歴戦の魔法少女とはいえ、肉弾戦よりは射撃戦重視のマミがもともとのスペックが高いうえ、ジョーカーメモリの効果で技のキレが極限まで高められた真夜姐さんの攻撃を防ぎきることは不可能だ。
「あうっ!」
したたかに蹴り飛ばされ、駐車場の鉄柵に背中から激突するマミ。
ルナ・ドーパントのリボンが毒蛇のように絡みつき、マミの身体を磔刑のごとく鉄柵に縛りつけてしまう。
そして身動きできないマミを容赦なく鞭打つルナのリボン。
可愛い見た目に反してしっかり防護服としての機能も備わっている魔法少女の装束も、痛みまでは無効化してくれない。
「はッ、あ…ぅあッ、っああ!」
“女”のホットスポットを知り尽くした攻撃に、つい艶っぽい声を漏らしてしまう。
「やべー、勃っちまった…」
そんなマミを前屈みになりながら写メし続ける野次馬の皆さん。
「そこまでだッ!」
マミを拘束するリボンが一瞬にして切り裂かれた。
現れたのは風都の平和を守る青の騎士。
「貴方は?」
「ナスカ、仮面ライダー・ナスカだ」
ナスカブレードを構えるナスカに、ジョーカーとルナが襲い掛かる。
「超高速!」
ナスカの姿が消失した。
次の瞬間、剣を振りぬいたポーズのナスカがドーパント達の背後に現れる。
「…変移抜刀ナスカ斬り」
あとで言うんだ。
どさりと倒れた二人の身体からイジェクトされるガイアメモリ。
「子供にメモリを与えるとは…そんなにこの街が憎いのか、冴子」
誰にも聞こえないようにそっと呟くナスカ。
「貴方は一体…」
「この街の問題はこの街のものが解決する、君は君の大切なものを守ることに専念したまえ」
色々と質問したそうなマミの機先を制し、この件はこれで終わりだと言わんばかりのナスカ。
「縁があったらまた会おう、ナスカウイング!」
ハチドリの地上絵っぽい翼を生やし、颯爽と飛び去るナスカ。
だがちょっと待て、仮面ライダーを名乗るならそこはバイクで走り去るべきではないのか?
「ナスカ、きっとまた会えるわ…」
正気を取り戻した真夜姐さんと月夜野さんが起き上がるのをさっくりスルーし、マミはいつまでも空を見上げるのだった。



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・時代劇スペシャル【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/02/21 20:55
大滝よしえもん氏に捧ぐ(返品不可)

ズルズル、ブバッ!
杏子が噴いた。
ズルズル、ブバッ!
マミが噴いた。
ズルズル、ブバッ!
てつをが噴いた。
「頼む、不味いなら不味いと言ってくれぇぇぇぇッ!」
店主が叫んだ。
その店の名は「ウドうどん」。
うどんの汁がコーヒーになっているという伝説のうどん屋である。

「いや~聞きしに勝る味だったぜ」
B級グルメガイドを握り締めながら杏子が言う。
「まだ胃の調子がヘン…」
げっそりした顔のマミ。
「だがあと少しで新しい世界が開けそうではあったな」
てつをはまんざらでもないようだ。
「なんか雲行きが怪しくなってきたか?」
空を見上げた杏子がそう言った途端、厚く天を覆った黒雲から歩道を歩く三人に向かって、逆落としに襲い掛かる一条の雷ッ!

“ そ の と き ふ し ぎ な こ と が お こ っ た ”

マミさんヤミーの親になる~時代劇スペシャル~「時を駆ける魔法少女」

-元亀元年(1570年):鈴鹿山中-
「殿、こちらへ!お早く!」
「逃すな!必ず仕留めろ!」
「ええい寄らば斬るぞ!」
「馬鹿め、風下に立ったがうぬの不運!」
「目が、目がぁぁ!」
切り結ぶ白刃、飛び散る血しぶき。
土砂降りの雨のなか、旅装束の武士の一団と、着物も頭巾も明灰色で統一した絵に描いたような忍者の集団が、クロサワ映画のクライマックス顔負けの死闘を繰り広げている。
お侍さんの守りを突破した忍者の一人が、馬に乗ったお殿様風の武士に襲いかかろうとしたまさにそのとき-
突如空中に現れた、見ようによっては卑猥な形状の裂け目から吐き出された男女三人が、忍者の頭上から降ってきた。
「ぬお!?!」
慌てた忍者は反射的に目の前に着地したてつをに向かって刀を走らせる。
「おっと」
だがそこはてつを、慌てず騒がず右手の親指と人差し指を使い、朝刊を拾いあげるような気安さで刀の先を摘み、忍者が必殺を期して繰り出した一撃を苦も無く止めてしまった。
「テメーなにしやがる!」
そして横合いから繰り出された杏子の飛びヒザ蹴りが、あっけにとられた忍者を一撃で沈める。
「これはこれは、天からの助けはまた随分と傾いておるのう」
危機的状況を楽しんでいるかのような声に、馬上の武士に注意を向けたマミは思わず呟いた。
「せがた三四郎?」
「いや、織田信長『春日局』バージョンだ。まてよ?『おんな太閤記』バージョンだったかな…」
以外な事実、杏子は時代劇ヲタだった。
「二人とも、呑気に会話してる場合じゃないぞ!」
いつのまにやらお供のお武家さんたちは全滅してしまったようだ。
しんでしまうとはなさけない。
「てっちゃんが変身すればビビって逃げ出すんじゃねーか?」
「ほう、そんな芸があるのか?よし、苦しゅうない。やって見せい」
杏子のからかい半分の発言に瞳をキラキラさせる信長。
危険が危ないというのにこの余裕。
まさに史実通りというか、史実の上をいく大うつけである。
「いいのか?俺はノンケでも平気でチャリーンしちまうヤミーなんだぜ?」
雷に打たれたせいかてつをがヘンだッ!
「変身!」
黒いボディ、真っ赤な目、吹きすさぶ風がよく似合う漆黒の戦鬼と人の言う。
だがてつをが姿を変えたバッタヤミー・BLACKの雄姿を目の当たりにしても、驚きこそすれパニックに陥るなどということはない。
「これは凄い!いや、天晴れである!」
そして信長のハシャギよう、今にも御捻りを投げそうだ。
「面白い、この水馬流馬が相手だ!」
むしろ相手にとって不足なしと見たか、バッタヤミーに正々堂々、正面きって戦いを挑む根来忍軍の中ボス。
いや、忍者の本領はゲリラ戦だろ。
というか変身忍者-と相手は思っているらしい-も想定の範囲内なのかお前ら?
色々オカシイぞ根来忍軍。
「いざ尋常に-」
「ヤミーパンチっ!」
あっさり負けたッ!
一撃で負けたッ!
「ええい引け引け!」
顔面がパールハーバーと化した水馬流馬を戸板に載せて撤収する根来忍軍。
それはもう、見ていて清々しささえ覚えるほどの逃げっぷりであった。
「あ、ぶぁ~かぁ~めぇ~」
あおい輝彦演じる“すたすたの松坊主”のごとく見栄をきる杏子。
「必殺剣劇人」面白かったなぁ…。

紀州、根来の里にある暗闇寺。
ここは悪大将夕里弾正の依頼を受け、織田信長の命を狙う根来忍軍の本拠地である。
暗い堂内に胡坐をかく頭領・暗闇鬼堂を中心に、闇に紛れて姿かたちも定かでない忍びのものどもが輪になって控えている。
「ほう、水馬流馬が倒されたか…」
「ヤツは我ら根来十三忍の中では一番下位の小物に過ぎん、慌てることはない」
などと「魁!宝竜黒蓮珠」みたいなことを言っている。
「では、次は誰が行く?」
重々しい声を発するのは暗闇鬼堂。
さすが頭領、渋い演技である。
「ここはこの渦巻一貫斎にお任せあれ!」
名乗りをあげたのは将棋盤のように四角い形をした、いかにも東映京都撮影所といった感じの濃い顔の忍者であった。

桑名湊は木曽川、長良川、揖斐川が伊勢湾で合流する、水上交通の要衝である。
京の都を目指す信長一行は根来忍者の襲撃をかわすため一旦尾張那古野へと向かい、熱田の宮から海上七里を船で渡って桑名城に入った。
(ナレーション:芥川隆行)
桑名城は根来衆の襲撃に備え、ものものしい雰囲気に包まれていた。
警備につく侍どもの中に、先の戦闘で斬られたはずの者がなにくわぬ顔で復活していたりするが、気にしたら負けである。
マミさん御一行は、とりあえずインドの山奥で修行した変身忍者だということにしておいたら、その場で信長直属の護衛として召し抱えられてしまった。
さすが自称第六天魔王、いい年して邪鬼眼全開である。
そしてやたらと場慣れした感じで場を仕切る杏子がでっちあげた偽名は、杏子が紅影、てつをが黒影、マミが乳影であった。
「乳影ってナニ?なんで私だけチチカゲ!?!」
「だって黄影じゃ語呂悪いしぃー」
明らかに楽しんでいる杏子。
「キャラの特徴を現す名前としては妥当だと思うが?」
てつをの発言には一片の悪意もないだけに余計タチが悪い。
さらに言うなら、信長達の前で魔法少女に変身して見せたとき、侍どもが一番興奮したのはマミの胸を強調したコスチュームであった。
結論、おっぱい星人は戦国時代にも存在した。
「ニンゲンキライダ―――――ツ!」
血涙を流しながら絶叫するマミ。
いまにも小林昭二が乗ったバイクと浜辺で競走を始めそうだ。
そこに突如として起こる大爆発。
派手好きな渦巻一貫斎が、配下の下忍どもに命じて城内各所に仕掛けた火薬を、一斉に爆発させたのだ。
「それ、この機に乗じて信長の首をとれ!」
信長の寝所を目指す一貫斎と下忍たち。
「おっとここから先は通行止めだぜ」
その前に立ち塞がるのは槍を構えた赤い魔法少女だ。
「うぬ、邪魔立てするなら小娘とて容赦せん!」
襲い掛かる下忍たちを、杏子の槍は一片の容赦も無く貫き、切り裂き、刺し穿つ。
虚淵がホンを書くと決まった時点で、彼女らは凡百の魔法少女とは異なるステージに立っているのだ。
だが根来衆も歴史にその名を残すプロの暗殺集団。
一隊が杏子を抑えている間に、もう一隊が廊下を突破する。
「乳影、そっちは任せたぞ!」
「チチカゲ言うなぁぁぁぁッ!」
引き戸が内側から蹴り倒され、マミさん怒りの101挺マスケット乱れ撃ちが下忍たちを襲う。
「諦めろ、貴様に勝ち目は無いぞッ!」
一貫斎に詰め寄るバッタヤミー・BLACK。
「なんの、勝負はこれからよ。忍法大怪魚!」
横笛を口にした一貫斎が顔に似合わぬ澄んだ音色を響かせると、水掘の中から出現する山椒魚怪獣ガンダ。
「キャッ!」
カメレオンのように伸びたガンダの舌が、マミのせくすぃにくびれた腰に巻きつく。
宙吊りにされたうえ、勢いよく振り回され、物見櫓に叩きつけられるマミ。
「がは…っ」
漆喰を塗った土壁に大の字にめり込み、大きく口を開いて苦しげな息を吐き出す。
うーん、やっぱ女の子を痛めつけるシーンはゾクゾクするねえ。
カポーン!
バッタヤミーがバックルから取り出したセルメダルをマミに投げる。
「これを使うんだ!」
マミが錬成した火縄銃から撃ち出されたセルメダルは地面に巨大な魔方陣を描き、中から膨大な魔力と巨大な質量を持った何かが浮かび上がってくる。
「グランゾートか!?!」
いや、鉄甲アゴンだ。
あ゛お゛ん あ゛お゛ん!あ゛お゛ん あ゛お゛ん!
サイレンのような咆哮をあげ、頭部の角をギリギリと回転させながらガンダに立ち向かうアゴン。
二匹の巨獣のぶつかり合いの余波で、桑名城はみるみるうちに破壊されていく。
そのとき時間の波を飛び越えて、約束の場所でも無いのにやって来たのはデンライナー。
「私は時の列車のオーナー。正しい時の運行を守るため、皆さんを元の時代にお連れするために来ました」
開いたドアから現れたのは、上等な仕立てのスーツを着た中年紳士。
物腰は上品だが、日章旗を立てたチャーハンを食べながらでは色々と台無しだった。
「元の時代に返してくれるのは有り難いんですけど、いいんですか?アレ…」
マミが指差す先には、協力して桑名城を破壊しているとしか思えないガンダとアゴン。
「問題ありません、こんなこともあろうかと“本来の主役”を手配しておきました」
遠くから聞こえてくる忍者マーチ。
発車したデンライナーの車窓からマミは見た、半壊した天守閣にシュタッ!と降り立つ一人の男。
それはまさしく-
「赤影参上ッ!」

―おわれ―



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・杏子SP【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/02/26 00:15
「あ…」
口の中一杯に、いつか食べたあの味が広がった。
湯気の向こうに、懐かしい顔が現れる。
「杏子は本当にメンマが好きだなあ。ほら、父さんのも食べるか?」
「わぁい、お父さん大好き!」
捨て去ったはずの過去、葬ったはずの思い出が亡霊のように甦り、感傷の刃で心を抉る。
「お…とう……さん…」
杏子はドンブリと口の間にラーメンの滝を作ったまま、ぼろぼろと涙を零した。

マミさんヤミーの親になる~杏子SP~「はぐれ魔法少女純情派」

佐倉杏子の父親は、休日も休まず地域の奉仕活動に精を出す男だった。
公園の清掃、リサイクルショップの商品集め。
人のために進んで汗を流し、一切の見返りを求めない父の姿は幼い杏子の瞳には、とても尊いものと映った。
やがて小学生になった杏子は、父について毎週日曜の町内の清掃に参加するようになった。そして午前中で作業が終わり、教会に帰る途中で決まって父と一緒に昼食をとる、お気に入りの食堂があった。
「八兵衛」という名前のその食堂での、杏子の一番のお気に入りはあっさり味の醤油スープに縮れ麺、色鮮やかななるとしゃきしゃきのメンマ、そしてチャーシューではなくハム(ここ重要)を乗せた東京風中華そばだった。
なんの因果か「九兵衛」という名前の店の看板を見たときから、予感めいたものを感じなかったわけではない。
だが、ふらりと立ち寄ったラーメン屋で、まさに思い出の八兵衛ラーメンそのものの味に遭遇するとは、思ってもみなかった。
「泣くなよおめえよ」
隣のテーブルでチャーシューメンを食べていた、黒い背広にサンブラスをかけた、やたら背の高い男に声を掛けられ、ようやく我に返る杏子。
チャーシューメンを食い終えた男は勘定を払い、店の外に停めたクリーム色のベスパで去っていく。
それを見ていた杏子は、今更のように現金の持ち合わせが無いことを思い出した。
店に入ったときは、いつものように魔法少女の能力(チカラ)を使って切り抜ければいい、そう思っていた。
でも、もう出来ない。
佐倉杏子はラーメン代を踏み倒すくらいなんとも思わない、タフでダーティーな一匹狼の魔法少女。
自分に掛けたその魔法は、懐かしの味に出会って解けてしまったから。

その頃のマミさんとてつを-
「キャッ、使い魔が服の中に!」
「脱ぐんだ、早く!」
「ちょっと待って、心の準備が…」
「迷っているヒマは無い!キャストオフッ!」
「アッ――――――――――――――!?!」

んでもって数日後-
「佐倉さんッ!今日こそ決着を…」
「テメーはとっととスイートのアテレコ行けっ!」
フランクフルトの串を持って襲ってきた金髪ドリルを、ドラゴンスープレックスで地に這わせる。
「佐倉杏子ぉ―――ッ!俺と勝負…」
「ウザいッ!」
右手に果たし状を握り締めて突っかかってきた、声が勇者王な青年に愚地克己も全裸で土下座する正中線五段蹴りを叩き込む。
「はぁ~なにやってんだあたしゃ…」
いつもの出前先で、いつものブルドッグとの死闘の果てにミッションコンプリートした杏子は、準備中の九兵衛の店内で、カウンターに突っ伏していた。
考えてみれば、あの(ヴィジュアル面でも)母性に溢れたおせっかい魔法少女と、正義に努力と友情をまぶして熱血で揚げたようなバッタ男と係わるようになってから、少しずつ自分は変わっていたのかもしれない。
ぼんやりとそんなことを考える杏子。
ハードな魔法少女稼業で生きてきたとはいえ、そこはまだ十四歳(推定)の少女。
環境が変われば当然メンタル面にも影響が出る。
結局金がないことを正直に打ち明けると、彫りの深い顔と浅黒い肌、プロレスラーのような肉体を持つ東南アジア系ハーフのマリオという名の店長はこう言った。
「おやっさんの味を思い出して涙を流すような女の子を警察に突き出せねえよ」
聞けばマリオもヤクザな若造だった頃、八兵衛の店長にはひとかたならぬ世話になっていたという。
思い出話に花をさかせているうちに、いつの間にか行くあてがないのならウチで働かないかという話になっていた。
明らかに未成年の杏子に立ち入った事情を尋ねず、そのうえ変な下心を感じさせることもなく衣食住の世話をしようというこのマリオという男も、相当な人生を送ってきたのであろう。
あるいはこれも一種の、同病相哀れむというやつであろうか?
現在の杏子は九兵衛の無敵看板娘として、向かいのパン屋の看板娘や戦隊ヲタクの八百屋、緊縛マニアの太眉婦警といったご町内の皆さんと仲良く喧嘩しながら毎日を過ごしている。
とうの昔に諦めたはずの平凡な日常が思いがけず帰ってきたこと、そしてそれを純粋に喜んでいることに、他ならぬ杏子自身が驚いていた。
そしてこのまま魔女のことも魔法少女としての使命も忘れ、ただ毎日を生きていくのもいいかもしんない、とさえ思いはじめている今日この頃であった。

その頃のマミさん-
「惜しかったわね…」
時間操作で背後をとった黒衣の魔女にマスケットの銃身が突きつけられる。
マミがライフルを向けた先に魔女が現れたとしか見えない動きだった。
巴マミに死角は無い。
超高速を駆使する魔女や多方向から時間差で攻撃してくる使い魔の集団との戦いで鍛えあげられたマミの心眼スキルは、目で追えない相手や視界の外にいる相手の動きさえ正確に捉えるレベルにあるのだ。
頭をブチ抜かれた魔女は無数の黒い花弁となって風に舞う。
ティーカップ片手に優雅に一歩踏み出したマミは、足元に転がるグリーフシードを踏んづけ、派手に転倒した。
「アジジジジジジジジッ!」
顔面に紅茶をブチ撒け転げまわるマミさん。
大事なことなのでもう一度言う、巴マミに死角は無い。
“うっかり”さえ発動しなければ。

「なんだお前らは?」
マリオの声に続いて、複数の人間が揉み合う気配と椅子が倒れる音がした。
そのとき風呂に入っていた杏子が、バスタオル一枚という格好で様子を見に行ったのは油断というほかはない。
もっとも半年前、夜の盛り場でマリオに喧嘩を吹っかけ、顔を殴られて陥没骨折させられた歌舞伎俳優が、取り巻きを引き連れてお礼参りに来たなどということは想定の範囲外だったろうが。
結果、店内ではマリオが歌舞伎俳優とその取り巻きにタコ殴りにされ、バスタオルを身体に巻いただけの杏子は取り巻きの一人に羽交い絞めにされている。
魔法少女に変身しようにもソウルジェムは服と一緒に脱衣所に置いてある。
「クソ、放せ!放しやがれッ!」
暴れる杏子の身体を覆うバスタオルがハラリとはだけ、肉付きこそ薄いものの、均整のとれた美しい肢体が露わになる。
思春期の少女だけが持つ妖精のように瑞々しい裸身が、男たちの劣情に火をつけた。
「こっちのお嬢さんにも落とし前をつけてもらおうか」
四肢を押さえつけられ、床に大の字に寝かされた杏子に迫る飢えた野獣。
「その娘に触るんじゃねえッ!」
火事場のクソ力を発揮し、取り巻きたちをなぎ倒したマリオが歌舞伎俳優に掴みかかる。
歌舞伎俳優はスミスの38口径をコピーしたフィリピン製の拳銃を取り出してマリオを撃った。
胸から血を流し、壁に背をついて崩れ落ちるマリオ。
「烏賊蔵さん、マズいっすよ!」
さすがに殺しまでは予定していなかったのか、急にヘタレた取り巻きが心ここにあらずといった風情の歌舞伎俳優を引きずり、店の表に停めたワゴン車に乗り込んで逃走する。
ノロノロとたちあがった杏子は床に血溜りをつくりピクリともしないマリオを一瞥すると、機械のような足取りで脱衣所に向かいソウルジェムを手に取った。
「許さねえ…」
湾岸道路を爆走するワゴン車の中では、歌舞伎俳優の取り巻きたちがようやく落ち着きを取り戻していた。
「おい、ガキを放ってきたのはマズかったんじゃないか?」
「大丈夫だって、烏賊蔵さんは政治家にも顔が利くんだ。きっと何とかしてくれるさ」
そんな希望を打ち砕くべく、死を呼ぶ凶鳥のように舞い降りる赤い魔法少女。
ガギンッ!
一撃でワゴン車真っ二つ、返す刀で切りつけた槍の穂先を、なんと歌舞伎俳優は白刃取りに捕ってみせた。
そして歌舞伎俳優の身体が某次元転送悪魔のように二つに割れ、中からマッシヴな肉体にぴっちり黒タイツ、「タイガーマスク」のミスター・NOに似ているが、頭部だけは電動式の大人の玩具仕様という魔女が現れる。
ヴ~ンというモーター音を響かせ、ピンク色の頭部をクネクネと揺らしながら全盛期のドン・フライばりの高速タックルを仕掛ける魔女。
花も恥らう乙女なら思わず腰が引けてしまうヴィジュアルだが、絶対零度の怒りに支配された杏子にはチラシの裏ほどの効果もない
スタープラチナ顔負けのラッシュで魔女を千切りにした槍は、そのまま歌舞伎俳優にむけて突き出される。
「死ねェ!」
「待てッ!」
槍を止めたのはてつをだった。
「邪魔すんな!コイツだけはブッ殺す!」
「落ち着け、あの男なら大丈夫だ!」

目覚めたマリオは撃たれたはずの傷が全く痛まず、それどころか傷口さえ残っていないことに気付いて目を丸くした。
「もう大丈夫みたいね」
そう言ってマリオに微笑むのは、修学旅行で使ったマスクとウイッグで変装した巴マミである。
「あんたは?」
「通りすがりの魔法少女よ」
開いた窓から街路灯にジャンプし、屋根伝いに跳躍して去っていくマミを、マリオは呆然と見送った。
「はいて…ない…?」

その後、歌舞伎俳優は憑き物が落ちたように夜遊びを止め舞台に打ち込むようになった。
マリオはいつものように店を切り盛りしている。
そして杏子は今日も人知れず、人の心の闇に巣食う魔女と戦っている。

その頃の美樹さやか-
さやかは上條邸の植え込みに身を隠し、京介の寝室を監視していた。
暗視機能を持つ双眼鏡の緑色のフィルターがかかった視界の中では、志筑仁美から読んで感想を聞かせて欲しいと渡されたBL本を開いた京介が、脂汗を流しながら固まっている。
疫病に侵されたようにガタガタと震えだした京介を視姦し、目に涙を浮かべたさやかは恍惚の表情で呟くのだった。
「あたしってホント馬鹿…」



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・熱闘編【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/03/15 04:52
世の中にゃ信用しちゃいけねえ言葉が三つある
ひとつは中国人の「できました」
もうひとつは韓国人の「できます」
最後のひとつは日本人の「できません」だ
-アメリカのジョーク-

マミさんヤミーの親になる:熱闘編「スペースほむら」

「お姉さま!」
いきなり巴マミの胸に飛び込んできた三つ編みメガネの少女。
その犯罪的なまでにスカート丈の短い制服はマミと同じ見滝原中学のものだ。
不意打ちに弱いマミがフリーズしている間に、とても中学生とは思えないダイナマイトな二つの膨らみを思う存分マミマミした少女は顔をあげ、感涙に潤んだ瞳でマミを見つめる。
「私も魔法少女になりました、一緒にワルプルギスの夜を倒しましょう!」
マミは言った。
「それ、もう倒しちゃったんだけど?」
重苦しい沈黙が二人を包む。
「……………はい?」
暁美ほむらはかろうじて声を絞り出した。

マミのマンション。
リビングにはマミ、杏子、そしててつをが揃い、三人に囲まれたほむらは鍋にされる前の兎のように縮こまっていた。
「最初はもう駄目かと思ったのよね」
ゆっくりと語りはじめるマミ。
「そのときてつをさんにメダルを渡されて、それを込めて撃ったら-」
遠い目をしてそのときの光景を思い浮かべる。
“マギカライド”
響き渡る電子音声とともに続々と現れる多次元宇宙の魔法少女たち。
光の巨人と合体した魔法少女がいた。
筋肉の神に愛された魔法少女がいた。
フェニックスが、ソルジャーが、マリポーサがいた。
段々と顔を引き攣らせ、遂に沈黙してしまうマミ。
思い出すと色々辛いのだろう、意外と豆腐メンタルだし。
「それでワルプルの野郎をフルボッコにしちまったんだよなー♪」
楽しそうに締めくくる杏子の安定感は異常。
「そう…なんですか……」
嬉しいような悲しいような、なんともいえない表情を見せるほむら。
魔女に襲われ絶対絶命の場面に颯爽と登場したマミお姉さま。
引っ込み思案でクラスに溶け込めない自分に色々と気を遣ってくれたマミお姉さま。
私を、そして世界を守るため、単身ワルプルギスの夜に立ち向かい逝ってしまったマミお姉さま。
そんなお姉さまの力になりたくてキュウべえと契約し、時を遡ったのに…。
「そういえばキュウべえは?」
「消えたわ」
尋ねるほむらにそう返し、マミは一枚の紙を取り出した。
「これを残してね」
ほむらが受け取ったチラシの裏には、墨痕たくましくこう書かれていた。
“涅槃で待つ”
「沖昌也?」
なぜ知ってるんだその若さで?

ガコンッ!
ベコベコになったドラム缶が地面に激突する。
街外れの河川敷、高架下の空き地でマミと杏子、そしててつをは魔法少女暁美ほむらのデモンストレーションを検分していた。
ほむらの固有魔法である時間制御を使い周囲の時間を停めて近接、そしてゴルフクラブによる殴打。
はたから見ていると超高速か催眠術としか思えない攻撃だった。
「どう思う?」
マミは杏子を振り返った。
「たしかにスゲーけどよぉー、なんつーかなあ、もうちょっとドッギャーン!とかメメタァッ!てのが欲しいんだよなぁー」
すごく…アバウトです…。
「え~っと、てつをさんは?」
「角度が悪いな…」
てつをはといえば地面に敷いたハンカチの上に腰を下ろし、慣れない全力運動の後で息を整えるほむらのスカートの奥の神秘に僅かに手が届かない現実に落胆していた。
セルメダルから生まれた擬似生命にも人間味が出てきたと前向きに捉えるべきなのかもしれない。
「ま、まあ能力は凄いけどいまひとつ実戦向きとは言い難いわね」
無理矢理話しを纏めにはいる苦労人のマミ。
「となると手は一つだな」
てつをはほむらの両肩をガッチリと掴んだ。
「特訓だ、お・お・と・りぃ~~~~~」
そのとき少女の瞳に映ったのは、火の七日間で世界を滅ぼしたとされる蝗の王の姿だった。(「ほむら伝」序説第九章より抜粋)

ガッキィィィンッ!
ぶつかり合う棒と棒。
「オラオラ腰が引けてるぞぉッ!」
稽古をつけるというよりはイジメているとしか思えない杏子。
「血を滾らせるんだ!」
勢い余ってぱんつ一丁で1トンのトロッコを引っ張り上げているてつを。
ハラショーほむら!
「暁美さーん、ファイト(はあと)」
暖かい視線でみつめるほむらの態度は絵に描いたような「あらあらうふふ」であった。
「ナズェミテルンディスカ!」
たまらずあげた抗議の声は追い詰められているせいでものすごく滑舌が悪い。
「隙あり!」
「ぅぶあッ!?!」
棒の先端が鳩尾にめりこむ。
ドサリと倒れたほむらだが、内蔵までダメージが及んでいないあたりはノリノリのようでいてちゃんと手加減している杏子であった。
「おめ~それでも魔法少女かよ?」
「そ、それがどうも…よくよく考えてみるとキュウべえに上手くそそのかされたような……」
あらやだこの子ビッグボディみたいなこと言ってますわよ奥様。

「ああ窓に、窓に…」
ほむらが狂気に侵された芸術家の作としか思えぬ吐き気を催すような悪夢から目覚めたとき、すでにデジタル時計の表示は今日を昨日にしようとしていた。
点けっ放しのテレビは深夜放送の古い戦争映画を映し出している。
寝ぼけマナコのほむらがぼんやりと見つめるなか、画面では前髪フサフサのクリント・イーストウッドがルパン3世の声で喋りながらマシンガンでドイツ兵を虐殺している。
場面が切り替わり、扉を開けたドイツ兵が仕掛け爆弾の炸裂で部屋ごと炎に包まれたところでほむらの瞳に光が宿った。
「これだわ…」
少女の脳内でジェームス・ブラウン演じるクリオファス神父(CV:内海賢二)がソウフルに唄っていた。
“ハレルヤ爆弾ハレルヤ爆弾 昔いまし今いまし おお尊きものその名は爆弾 ああ聖なるかな聖なるかな”

結界を抜けるとそこはどこまでも続く青空だった。
「はわ?」
「おおう!」
「ひぃぃぃぃ!?!」
落下しながら変身し、なぜか夥しい数のセーラー服が干された洗濯紐の上に着地するマミとバッタヤミー・BLACK。
そして体全体でしがみつくほむら。
手にした槍をバランス棒代わりにして洗濯紐の上にすっくと立った杏子は押し殺した声で言った。
「どうも、綱渡郎(つなわたろう)です…」
セーラームーンスーパーズを観ていないと面白くもなんとも無いネタだった。
蜘蛛の巣状に張り巡らされた洗濯紐の中心に陣取るのは、セーラー服の袖とスカートから六本の腕を生やした魔女。
魔女のスカートから射出される無数の下半身(スカート付き)。
その全てが模範的なドロップキックの姿勢を保持して迫ってくる。
「とうッ!」
複眼を真っ赤に輝かせてバッタヤミーが跳躍する。
バッタ的にはキックで挑戦されては受けて立たないわけにはいかないのであった。
「大回転エビ投げハイジャンプヤミーキック!」
文章で表現する努力を放棄せざるを得ないアバンギャルドな動きで下半身(スカート付き)を蹴散らすバッタヤミー。
「今だッ!」
「オッケーイ!」
マミの振るったマジカルリボンが洗濯紐を寄り合わせる。
「暁美さん、お願い!」
「はいっ!」
ほむらはリボンと洗濯紐で編み上げた吊り橋の上に飛び降りると時間制御の魔法を発動させる。
カシャッ!
全てが静止し色を失った世界でわたわたと走りながら手製爆弾を取り出したほむらは、危なっかしい手つきで魔女のスカートに時限装置を作動させた爆弾を放り込んだ。
カシャッ!
時間が動き出すとともに大爆発が巻き起こる。
「ひゃあ!?!」
爆風に背中を押され空中に投げ出されたほむらを、マミのリボンが優しく受け止めた。
魔女の消滅とともに結界が解け、周囲の景色が現実世界-バブル崩壊で閉店しそのまま放置された巨大ショッピングモール-に回帰する。
「お見事ね」
マミが微笑む。
「ま、ギリギリ合格ってとこかな?」
杏子はポケットから取り出した林檎に噛り付く。
「さあ、今夜はほむらちゃんのために奮発してステーキだ!」
「おめーは毎日ステーキだろが!」
「失敬な、週に一度は違う料理も作るぞ?」
「それを止せってんだよ!」
いつものように漫才を始めたてつをと杏子、そしてそれを優しく見守るマミとうろたえるほむら。
西の地平線に傾いた陽射しが、四人を柔らかな光で包んでいた。



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・乙女大乱【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/03/16 23:00
赤毛のジャック様に感謝を
「 何 故 ビ ッ グ ボ デ ィ が い な い ! 」
この感想がなければ今回の話は生まれなかった
(生まれないほうがよかった?)

マミさんヤミーの親になる・乙女大乱 「 主 役 登 場 」

アストラギウス銀河を真っ二つに分けた百年戦争の末期、小惑星リドの漆黒の闇の中で運命の出会いがあった。
そしてそれとは全く関係なく、銀河の反対側に位置する太陽系第三惑星でも、ある意味運命の出会いがあった。
市立見滝原中学校に通う、水準以上の美少女なのに自分では平凡な中学2年生だと思い込んでいる鹿目まどかが自分の運命を狂わせたソレと出会ったのは、市場へと続く道を全てを諦めた暗い目をした牛たちが積まれた重トレーラーを牽引し、ガタガタと走るスキャメルTRVとすれ違ったある晴れた昼下がりのことだった。
まどかの足がピタリと止まった。
驚きで一杯に見開かれた瞳を、無機質な紅い瞳が見つめ返す。
「お嬢さん、キミは私が見えるのかね?」
「わッ!」
あまりにも非現実的なソレを息をするのも忘れて凝視していたまどかは、話しかけられたことに驚き思わずピョンと飛び上がった。
「なんか身長2メートルで白くてテラテラ光ってて全盛期のシュワルツェネッガーみたいなボディで顔だけやたらファンシーな謎の生命体が玄田哲章みたいな声でしゃべってる!?!」
「説明的なセリフありがとう。私はインキュベーター認識番号24639581、人は私を“剛力のキュウべえ”と呼ぶ」
爽やかに名乗りながらフロントダブルバイセップスを決める筋肉の悪夢。
逞し過ぎる上腕二頭筋がメキョメキョと唸りをあげた。
「あ、どうも。あたしは鹿目まどかです」
ちょこんと頭を下げるまどか。
異常事態も脳の処理容量を超えると逆に、植物のように穏やかな心になるらしい。
「いやじつによく出来たお嬢さんだ。私の姿は心の清らかな人間にしか見えないのだよ、感動した!」
冒涜的なまでにマッスルな外見に似合わぬ滑らかな動きで、軽快に腰を振りながら両腕をやたらめったら振り回す筋肉キュウべえ。
どうやら喜びの舞を舞っているらしい。
はたから見ているとキンチョールをひと噴きされたGの断末魔といった風情だったが。
だがしかし-
「いや~それほどでも…」
しまりの無い顔で頭をかくまどか。
たとえ相手が筋肉過剰の謎生物でも、誉められると臆面もなく相貌を緩めてしまう純朴すぎる女子中学生であった。
「そんな素敵なお嬢さんにはご褒美に魔法少女になって魔女と殺しあう程度の簡単なお仕事をあげよう」
イイ笑顔でまどかに迫るキュウべえ・ザ・マッスル。
その右手は見るからにヤバ気なショッキングピンクのオーラに包まれている。
「ち、ちょっとソレは遠慮したいかな…?」
いかに天真爛漫なまどかといえども、この提案にはさすがに腰がひけてしまう。
「問題ない、こっちは前任者の“知性のキュウべえ”が『未来に向かって脱出する』などどいう間抜けな書置きひとつ残して失踪してしまったおかげで、こんな辺境の営業区域に回されて、誰でもいいから八つ当たりする相手を探していたのだ。君の都合など知ったことではない」
微動だにしない表情が無駄に原作に忠実だった。
「ムチャクチャだよ!?!」
そのとおりでございます、あえて英語でいうとExactly。
「問答無用!ぬううん、心臓掌握(ハートキャッチ)ッ!」
キュウべえの手刀がまどかの胸に肘まで埋まった。
それでいて背中側には突き抜けていないうえに血も出ない。
まさにキュウべえ・ザ・ミューティレイター。
「はぐっ!うあぁ……」
「んん~、気持ちイイなあ君の体内(ナカ)は。柔らかくて暖かい、それでいてきついくらいの締め付けだ」
などと言いつつ突き入れた腕をピストンさせたり、グリグリと捻ったりする。
「はぉあ!くふぅう…う、動かさないでェ……」
目に涙を浮かべ、震える声で訴えるまどか。
だが筋肉の使徒は譲歩も妥協もしない。
「そおい!」
じゅぽんと淫猥な音を立てて、まどかの魂がぶっこ抜かれた。
ストロングキュウべえのごつい指が、清浄な薄桃色の光を放つカタマリをこねて、のばして、まるめて、またこねる。
「はう…っ、ンぅう…っっ!ぅあ…いっ……あわぁあっ!こんなの…ヘンに…なっちゃうよぉ……」
両手で薄い胸を押さえ、全身を小刻みにケイレンさせながら悶えるまどか。
うん、エロい。
「さあ、出来たぞ」
キュウべえ(肉)が差し出したソウルジェムは、やはりというか鉄アレイの形をしていた。
「今日から君は魔法少女まどか☆ビッグボディだ!」
「酷すぎるよ…こんなのってないよ……」
仰向けに倒れたまどかが弱弱しく呟く。
「大丈夫、理屈じゃないんです」
(そのセリフは羽佐間道夫だよ…)
その思考を最後に、まどかの意識はどこまでも深い全き暗闇の世界に落下していった。

「う…あ……」
腕が重かった。
足が重かった。
頭も、胸も、腰も、要約すると体中が重かった。
いつものメンバーでいつもの魔女退治と同じに結界に乗り込んだ三人と一匹。
だが待っていたのは抹茶プリンを型抜きして作ったテトラポットにピンクハウスを着せたような「重さの魔女」だった。
無限に重さを足すことのできる魔女の攻撃によって、ダンプに轢かれたカエルのように地面に張り付いた三人と一匹。
「み…みんなは……?」
仰向けに倒れた胸にマスケットがめり込み、とってもエロいことになっているマミが眼球だけを動かして周囲を見回せば、すでに杏子とほむらは標本状態。
なんとか立ち上がろうとしたバッタヤミーも、魔女が頭とも膝ともつかない突出部から生やした白熱電球のフィラメントのような触覚をプルプルと振るわせると、さらに重さを足されたのかペシャンコに潰れてしまう。
「このままじゃいけない…なんとかしないと…」
焦るマミ。
「そういやガキの頃観たアニメに重力操作を武器にした敵が出てくる話があったなあ」
いきなりアニメの話題を振るのは杏子だった。
「どうやって倒したんですか?」
律儀に尋ねるほむら。
「都合よく完成したばかりの超重力下でも活動できるパワー特化型ロボの活躍で」
「有意義な意見を有難う、とても参考になったわ」
つい皮肉が口をついてしまう、そんなマミさんがだいすーきーだー。
これは不思議なことが起きなきゃダメかな?
バッタヤミーが考えたそのとき-
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
妙にフワフワした悲鳴とともに結界を突き破って飛び込んできた白とピンクの塊りがあった。
「ゴルディマーグか!」
目を輝かせる杏子。
「いえ、あれはクラスメイトの鹿目まどかさんです」
密かに全女生徒美少女ランキングを作成済みのほむらに死角はない。
勢い余って顔から着地を決めたまどかは何事もなかったかのようにお嬢様座りで上体を起こすと、結果に空いた穴に顔を向けた。
「非道いよキュウべえ、思い切り投げつけるなんて!」
「なに!」
「キュウべえ!!」
「ですって!?!」
それぞれに含むところのある三人が一斉に同一方向に視線を向ける。
そして見てしまった。
結界の破れ目を押し広げて入ってくる、キュウべえの頭部を移植した白塗りのビスケット・オリバを。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?!」
火星語を口走るマミ。
杏子は泣きながら賛美歌を歌い、ほむらは意識を因果地平の彼方に投擲した。
「さあ行けまどか!今こそヒーローになるときだ!」
「ふえ~ん…」
半分ベソをかきながら、それでもキュウべえの筋肉が放つプレッシャーに背中を押されて魔女に向かっていくまどか。
どんどん体重が重くなり、腰まで地面に埋まりながらもその前進は止まらない。
「どういうことだ?」
ポリバケツひとつ運ぶにも難儀しそうな華奢な少女が地面を穿ちながら進んでいく光景に、流石のバッタヤミーも動揺を隠せない。
「この剛力のキュウべえの加護をうけたまどかの肉体は不可侵!たといトリプルドムに当て逃げされてもキズひとつ付かぬわ!」
などといっているうちに、遂にまどかは魔女のもとに辿り着く。
「ふんにゅ~~~~~っ」
持ち上げた。
「といや!」
投げた。
叩きつけられた衝撃で触覚がへし折れると同時に、魔法少女たちにかかっていた重さが消え失せる。
「ティロ・フィナーレ!」
すかさず美味しいところを持っていくマミさん流石です。

こうして魔法少女巴マミにまた頼もしい仲間が加わったのであった。



[25980] 【ネタ】マミさんヤミーの親になる・昇竜の章【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/03/18 22:46
「たぶん目の錯覚だと思うけど一応聞いとくね」
いつもと同じ通学路の途上で、美樹さやかは言った。
「まどかと並んで歩いてる、身長2メートルで純白のぴっちり全身タイツを着込んだやたらファンシーな顔のマッスルさんは何なの?」
まどかは顔を強張らせた。
「そおぉぉぉかあぁぁぁ!キミもワタシが見えるのかあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
剛力のキュウべえの、むせかえるほどに素敵マッスル七変化な巨体が化鳥のごとく跳躍する。
「剛力招来!ヒャッハァ―――――ッ!」
「さやかちゃん逃げてぇ―――――――――――――――――ッ!」

マミさんヤミーの親になる・昇竜の章 「いよいよキャスティング完了」

西陽がリビングを直射していた。
遠くで「強力わかもと」のネオンサインに明かりが灯る。
「キュウべえさん-」
テーブルの向こうで正座する、白さはじけるマッスルパラダイスを見つめ、巴マミはシリアスな口調で言った。
前任者は呼び捨てだったのにこちらには「さん」をつけてしまうのは、精神の根源的な部分でリンクしている別次元のマミからの、「筋肉には逆らうな」というシグナルを受信しているからかもしれない。
「当人の同意を得ずしての契約はルール違反、貴方の前任者―知性のキュウべえ―は確かにそう言いました」
目の前で堂々たる肉体美を誇示するコズミックホラー的超マッスル生命体と手を伸ばせば触れるほどの距離で対峙しているだけでも、全身の毛穴から浸透してくるマッスルな波動に内蔵をレイプされているような気がする。
その場に踏みとどまっているだけでも自分を誉めたたえてやりたくなる。
ましてやそんな相手に対しあえて苦言を呈するなんて、ああなんと気高く勇敢な巴マミ!
自分を歴史に名を残すあまたの殉教の乙女と同一視し、ヒロイズムに酔いしれるちょっとナルシーなマミさんであった。
「人は人、私は私だよお嬢さん」
そんなマミに対し、マッスルレボリューションの答えはどこまでも簡潔かつ明朗、そして歯切れが良くてとりつくしまがない。
「ともかく-」
深呼吸三回、どうにか平静を取り戻したマミが言葉を続ける。
「今後、女子中学生を見境い無しに魔法少女にするような真似は止めてください」
「断る!」
この間ゼロコンマ3秒。
ガタン!
てつをが立ち上がる。
ジャキン!
杏子が槍を顕現させる。
ほむらは筋肉から目を背け、ひたすらマミの胸をスケッチしている。
そして書き溜めたスケッチをパラパラアニメにして、たゆんたゆん揺れるマミッパイを堪能していた。
「-と言いたいところだが私は公平がモットーだ」
キュウべえはゆっくりと立ち上がった。
「ここはひとつ勝負といこう」

すでに陽はとっぷりと暮れていた。
一行がやって来たのは、ほむらがドラム缶相手に撲殺魔法少女を演じた、いつかの高架下だった。
「つまり私たちが勝負に勝ったら要求を受け入れると?」
「肯定だ」
マミの問いに答える筋肉殿下の態度はムダに貫禄たっぷりだった。
「よおしここはアタシに任せな!」
早速変身して駆け出そうとする杏子の肩を、背後からガシッ!と掴むてつを。
「待て、抜け駆けは許さんぞスベスベ星人!」
やめて合体美樹さやかとか出てきちゃうからやめて。
「まあ待ちたまえ、勝負といってもただの殴り合いでは芸がない。ここはひとつコレで-」
一人筋肉曲技団は左手に持ったサインペン(油性)を掲げ、右手の人差し指で自らの額を指差した。
「ココに『肉』と書くことができたら君たちの勝利ということにしよう」
「なんですと?」
あっけにとられる一同。
「それがエレガンテと言うものだよヒューマン」
爽やかに宣言しながらアブドミナル&サイを決める筋肉無法地帯。
わけがわからないよ。
「なるほど、確かにスマートかつオサレな決着のつけ方だ!」
水銀灯の光を反射してキラリと光るてつをの前歯。
そして槍を振り回して駄々をこねる杏子。
「いーやーだー!コイツが血を吸いたいって哭いてるんだぁー!」
すいません、ウチの杏子はこの方向でいきます。
「…本当にそれでいいのね?」
「インキュベーターに二言は無い」
“に た あ”
マミは嗤った。
笑ったではなく嗤った。
実にモハメド・アライ的な、ほれぼれするほど黒い笑顔だった。
そしてほむらを見た。
「暁美さん-」
「は、ハヒッ!」
ほむらはプルプル震えている。
「お願いするわ」
カシャ!
変身すると同時に時間を止めるほむら。
刻が凍りついた世界でキュウべえの左手からサインペンを取り、額へと伸ばす。
だがほむらは小柄だった。
ゆえにキュウべえの頭頂部に手を届かせようとすると、マッスル分割線が縦横に走る冒険筋肉大陸に密着しなければならない。
(やるのよほむら…お姉さまのために!)
ほむらとキュウべえの距離がゼロになる。
時間が止まっているのに柔らかくて張りのある筋肉の感触と、人間より12~14度ほど高い体温の温もりが伝わってくるのがとっても気持ち悪かった。
なんとか不快感を押し殺し、額の真ん中にキュコキュコと「肉」の字を書く。
「きゃん!」
書き終わると同時に慌てて後ずさり、勢い余って尻餅をついてしまう。
真っ赤のなって周囲を見回すも、ほむほむ時空ではだれも自分を認識できないことを思い出し、ホッと胸を撫で下ろす。
なにこの可愛い生物(ナマモノ)?
カシャ!
そして時は動き出す。
「だがそう簡単には…?」
マッスル新世紀はマミが差し出した手鏡を、そこに映し出された己の額に書かれた「肉」の一文字を見る。
真っ白な皮膚を持つ生物が血の気を失うと灰色になることを、そのときマミは知った。
絶叫するワンマン筋肉アーミー。
「ジィィィィィィィィィィィィィザァァァァァァァァァァァァァァァァスッ!!!!!」
どこかで左肩に兎のタトゥーを持つ教師がくしゃみをした。

「と、いうわけで勝負に負けたからには潔く謝罪しよう、正直スマンカッタ」
無意味に大きく胸をそらし、両手を腰の横にあて、力いっぱい偉そうにのたまう白い巨塔。
全然すまなさそうだった。
「うん、ちゃんと反省してくれるなら私はいいよ」
まどか、あんた天使や。
「じゃあ元の体に戻してよ!」
「それは無理だ」
キレるさやか。
「この悪魔!」
繰り出された拳がにゅみんと伸びて、直線距離にして3.14メートル離れた筋肉大戦略のアゴを捉える。
「おおアンドロ星人!」
「宇宙忍者ゴームズみたいね」
杏子にマミさん、キミ達本当は幾つなのかね?
「どういうことだい烈…じゃなかったキュウべえさん?」
「うむ、私が契約した魔法少女の能力は生来の性質を補完する形で発現する。貧弱なまどか嬢にはコンバトラーVが踏んでも壊れない抜群の身体強度と十万馬力、頭の固いさやか嬢にはそれを補う柔軟な肉体」
「柔軟すぎるわ!」
てつをの問いにしたり顔で答えるウルトラマッスルの顔面に、さやかのズームキックが炸裂する。
「こんな体じゃもう好きな人に抱きしめてなんて言えないよ!キスしてなんて言えないよぉ!」
泣き崩れるさやか。
「そ、そんなことないよ!さやかちゃんは美人だよ!」
「ダメよ、見た目は変わってなくても今の私はブニョだもん!怪奇スライム人間だもん!」
「いいや、そんなものではないぞ!」
まどかがかける慰めの言葉からさえも耳を塞ごうとするさやかにさらに追い討ちをかける筋肉の使徒。
「目覚めよ、その魂!」
不気味に脈動するホワイトマッスルから放たれたハンドパワーが、さやかの秘められた能力を引き出す。
涼しげな青い髪が突風が吹き抜ける葦原のようにザワザワと波打ち、爆発するような勢いで伸びた髪が、ひとつひとつが剃刀の切れ味を持つ触手の群れとなって四方八方に展開する。
(イカの人だ…)
その場にいた全員の心がひとつになった瞬間であった。
「もちろんイカスミも吐けるぞ(はあと)」

美樹さやかの明日はどっちだ?


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