チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25391] 【習作】「トラ!トラ!トラ!」銀英伝 転生パチモノ
Name: 一陣の風◆ba3c2cca ID:8350b1a5
Date: 2011/01/30 12:36
-見知らぬ天井だ

どうやらこうゆう話しは、こうゆう書き出しで始まるのが「決まりごと」らしい。
なので俺はもう一度、呟いてみる。

「おぎゃあああ」

「まぁまぁ、元気な泣き声ね」
「ほんと。 元気な男の子だわ」
「うむ。これで我が家も安泰じゃな」

……どうやら俺は赤ん坊らしい。



  「トラ! トラ! トラ!」 我、奇襲ニ成功セリ! -とある猛将への転生人生-



俺には前世の記憶がある。
だがそれはこの世界の記憶ではない。 ここではない別の世界の記憶だ。
これはどうやら、いわゆる「転生」とゆうヤツらしい。

俺は前世では、自分で言うのもなんだが、実に平々凡々とした男だった。
普通の家に生まれ、普通に成長し、普通に学生になり、普通に失恋し、普通に社会人になった。
取り得とてない。 ただの普通の一般人。

まぁ、多少なりとも他と違うのは、歴史。特に戦史が好きなのと、ネット上にある「二次創作小説」を良く読んでいたくらいだ。
特に戦史は、史実を丹念に追った真面目な歴史モノから、いわゆる「火葬」とも揶揄される仮想戦記モノまで、なんでも読んだ。
同じくらいに「二次創作」にもハマり、面白い作品となれば夜が明けるのも気付かず、読みふけったものだ。

だから最初に「転生」に気が付いた時でも、びっくりしたが驚きゃしなかった。
予備知識って大切。

でもこんなの特別でもななんでもないよね?


で、俺の前世での最後の記憶は、目の前に広がるトラックの大きなボンネットと眩し過ぎるヘッドライトの灯りだ。
その後、この世界に「おぎゃあ」と生まれるまで、神のごときものにも、死神のごときモノにも、ましてや魔法少女のような存在にも。
そのどれひとつとして出合ったことはない。
いや、ただ単に記憶がない。
あるいは、記憶を消されただけかもしれないが。

はっ。
あるいは、あのトラックこそが、いわゆる「転生」トラックだったのか?

いや……いやいや。
そのどちらにせよ、それが本人が望んだことでないのなら、転生になんの意味があるとゆうのだ?

けれど-
この世界は……訳の分からぬまま俺が転生してしまったこの世界は、実は俺のよく知る世界なのだ。
原作はもちろん。
幾多の「二次創作」でも読みふけった世界。


宇宙暦748年。俺はハイネセンで生まれた。
そう。ここはあの「銀河英雄伝説」の世界だったのだ!



   ****


それにしても-
ロースクールになった俺は算数の問題を解きながら考える。

-円周率っておおよそ『3』で良いんだっけ?

俺が好きで良く読んでいたネット上の、いわゆる「二次創作モノ」では大概、こゆう場合の転生者は、すでのこの世界で名の知れた者か、
あるいは主人公の側近か先輩かで、すでにある程度の武功を持ち、主人公と対等、もしくはそれに類する地位を得ている。
そしてすでに帝国の奴等と華々しく戦っているのだろう。

けれど俺はまだそこまで行けない。
まだ到達できていない。
「その時」まで。
俺は敷かれたレールの上を走り続けるしかないのだ。


それにしても-
ミドルスクールになった俺は思う。

-くそ、帝国公用語って面倒くさい

こうゆう転生モノでもそうだが、物語に書かれていない『時』って、どうゆうモノなのだろうか?
そう。物語が紡がれる前の主人公達の話しだ。
今まさに、その状況真っ只中にある俺は、そのことを考えざるを得ない。
俺の知っているキャラクター達。
その誰もが今、どこでどうしているのやら。

ヤン・ウエンリーは父の言いつけに従って、壷を磨いているのだろうか。
ローエングラム……今はまだミューゼル・ラインハルトか-は、姉を奪われ怒り狂っているのだろうか。
ユリアンは……まだ生まれてないだろうなぁ。

他のキラ星の如く輝くキャラクター達も、未来のことも知らぬげに、今を生きているのだろう。
くそっ。 なんだか気になるなぁ……
いったい、どんな生活を……青春を送っているのやら。
俺のように試験の結果に一喜一憂し、女生徒の笑顔に気を取られ、俺にはない将来の夢を語っているのだろうか。


きっとそうなのだろう。
-ハイスクール生になった俺は、そんなことを考えていた。



「卒業したら、どうするのかね?」
したり顔の担当教師が俺に訊ねる。
「士官学校に行きたいと思います」
俺のそのきっぱりとした答えに、担当教師は、にっこりと微笑んだ。

俺の住んでいた前の世界と違い、この世界の教師は自分の担任の学生が、どれだけ軍人になるか-で評価されるようだ。
ヤンやポプラン。アッテンボローといった連中が一緒に居れば、なにか気のきいたことの一つも言ってくれそうだが、残念ながら「あの時」まで、
自分の未来が決まっている俺には、それはもう既成事実として定まっていたことであるからして、なんの感慨もなかった。


予定調和-とゆうべきか。
俺はなんの問題ももなく士官学校に無事入学した。
同期生となるべきクラスメートが公表されるやいなや、俺は目を皿のようにしてその名前、ひとつひとつを確認していく。
いわゆる「730年マフィア」ほどではないにしろ、有用な仲間は多いに越したことはない。

いた。
意外な人物の名前を見つけた。
へぇ、こいつ、俺とは同期生だったのか……原作にもアニメにもそんなことは一行として書かれていなかったが……
これも神の思し召しか?
あとは知っている名前はほとんどない。
だいたい原作では、俺は何期生か、年齢すら知らないのだ。 仕方ないこととはいえ、やはり少々やるせない。
逆に、それなら少々の無理は押し通せるかもしれない。

俺はこの世界に俺を転生させた「何か」に、密かにそう願った。



士官学校の四年間は、それなりに楽しかった。
もちろん、いろんな事はあった。
上級生の靴を磨かされた事も。 
下級生に靴を磨かせた事も(決して強制した訳じゃないお! 自主的にやってくれたんだお!)


体育祭で棒の先のリボン(嗚呼っ。ジャン・○イ。みんなリボン付だ!)を取るために腕を骨折した事も。
空戦シミュレーションでゲロを吐きながら、敵機を撃墜した事も(けれど残念ながらパイロットにはなれなかった。やっぱりネ)

食堂で好物のプリンを得るために、脇目もふらず突撃した事も。
主計当番(ようするにコックさんの真似事だ)では「二度と包丁を握るな!」と怒鳴られた事も。

また野外の模擬戦闘においては奇襲をかけるため、自分の部隊を三日三晩、ほとんど飲まず喰わずで行軍させ敵の背後から突入。
勝利した事も(もう二度とやらん)

艦隊戦のシミュレーションでは開始の合図と共に、ひたすら相手の旗艦めがけて全戦力を突進させ、うむを言わさず殲滅した。
もちろん、こちらも被害甚大。 でも俺は気にしなかった。 勝てばいい。
それにこれは所詮シミュレーションだと割り切っていた。
自分はもとより、兵達が本当に死ぬわけではないのだ。

俺は無駄に兵士達を殺すような指揮官にはなりたくなかった。
死んだ兵士の家族から、恨み言の手紙なんざ欲しくないのだ。
まあ、実際問題としては無理だろうけどナ。

『後ろへ前進!」

俺の前世からのポリシーでもある。 本当は俺、チキンでターキィーな野郎なのサ。


もっとも、教官からの受けは悪くなかった。
『実に見事な軍人らしい敢闘精神である』 だそうだ。
うん。ヤンが苦労するわけだな。


ああ。そういえば-
やたらと威張りくさる、気に入らない若い指導教官を、闇夜、同級生数人で襲撃。 タコ殴りにした事もあった。
そいつの口の中に、食堂からくすねてきたジャガイモの皮を押し込んでやった時の爽快感!
実行には戦略級の作戦を立て、互いのアリバイを確認して、同期不在証明補完計画を実行。
そのかいあって、事件は未解決。
犯人は不明のまま、事件はウヤムヤになった。
学校側も、その教官も、恥をさらすのが嫌だったのだろう。 そこまでは俺の狙い通りだった。

のだが、後日、その教官が憎しみのあまり、
艦隊中のゴミ箱を漁りまわって、ジャガイモの無駄捨てを糾弾する事になるとは……
俺はその時は、すっかりその「未来」を忘れていたのだ。
反省。


気が付けばいつの間か俺は「超・攻撃的」な男と見なされていた。
「頭のネジのユルンダ」の二つ名をもらったことは言うまでもない。

前世の俺は喧嘩のひとつもした事のない平和主義者だったのに……まさに「運命には逆らえませんので」だ。





「諸君、卒業おめでとう!」
シドレー・シトレではない士官学校の校長が壇上で長弁舌を振るっている。
俺は背筋を伸ばして、そのいつ終わるかも知れぬ話しを聞いていた。

今日俺は士官学校を卒業する。
ハンモックナンバー(いわゆる席次ってヤツだ)は、残念ながらあまりよろしくなかった。
4800人中、1888番。
実技や戦技では、結構いいところまで行ったのだが、いかんせん学科はどうしようもなかった。

それでもヤンの、4840人中、1909番よりは少しはマシだよな?

最終的な俺の成績は以下の通り。

戦史・80点。 戦略論概説・80点。 戦術分析演習・90点。
機関工学演習・60点。射撃実技・75点。
戦闘艇操縦実技・65点。

おかしい。
俺の遠い先祖は確か「トンキン湾の人喰い虎」とまで言われた、エーズパイロットだったハズなのに…… 

まぁ、しょうがない。
実際、俺はパイロットや作戦参謀を目指してるわけじゃない。
実働艦隊の指揮官を目指しているのだ。


もっとも「あの男」は、その性格から何事もそつなくこなし、それなりの成績を収めていたが。
なにしろ奴は俺のたったひとつの「蜘蛛の糸」なのだ。
正直、最初話しかけた時は、そのあまりに生真面目な返事と態度に、とても友達になれそうにない! 
と、思ったものだが……
光と影。
磁石のマイナスとプラスが引き合うように、俺達は仲良くなった。
猪突猛進の俺を諌めるストッパーとして。
頭のネジのユルンダ俺の、理性的な頭脳として。
その頃からやっぱり、こいつも歴史の流れにのっていたのだ。



「醜悪で非人道的な専制制度を打破するために諸君等は……」
演説は続く。
俺はそっと周囲を見渡した。
俺と一緒に卒業する、戦場へと赴く戦友達を見渡した。
俺は知っている。
俺は知っていた。

この中の何人もが死ぬ事を。
この中の何人しか生き残れない事を。


-おい
俺は胸の中で呼びかける。

-おい。知ってるか。
四年間、共に過ごした仲間達に告げる。

-俺達は負ける
ひとりひとりの名前が呼び上げられる。

-イゼルローンで ティアマトで 
呼ばれた奴は元気よく返事をし、立ち上がる。

-アスターテで アムリツィアで  
ひとり、またひとりと希望と期待に満ち、恐れを知らぬげな顔で立ち上がる

-ランテマリオで マル・アデッタで
俺の順番が近付いてくる。

-俺達は負ける 完膚なきまでに叩きのめされる
あと五人。

-灼熱の炎の中で 極寒の宇宙(ソラ)の中で
あと四人。

-俺達は惨めな屍をさらす
あと三人。

-だから友よ。友たちよ。
あと二人。

-俺は……俺達は戦おう
あと一人。

-その最後の瞬間まで


「グエン・バン・ヒュー候補生。 卒業おめでとう」
「はいっ!」
俺は精一杯の声を張り上げると、恐れる事無く立ち上がった。



キタヨー! キタヨコレ! コレ、ドンナ死亡フラグ!?





                -続く
         続くのか。続けるのか。続けていいものなのか?






 
  *****

初めまして。一陣の風と申します。
昨年来よりここに掲載された数多の「銀河英雄伝説」のSSに魅了され、自分のモジカラも考えずに投稿させていただきました。

これからどうなるのか。この後、どう展開していくのか。
作者にもほとほと心細い限りですが、どうか寛容なお心と、生暖かい眼差しで読み続けていただければ、これに勝る幸せは、ありません。

ちなみに私は、小説は読んでいてもアニメor漫画版は、ほとんど見たことがない(フランツ・ヴァーリモント少尉? ダレソレ?)愚か者なので、あまりにも不融合な点は御教授していただければ幸いです。

それではお付き合いの程、よろしくお願いします。




[25391] 「第4次 イゼルローン攻略戦   前編」
Name: 一陣の風◆fc1b2615 ID:8350b1a5
Date: 2011/02/07 16:17
無限に輝く大宇宙。
その満天の星々の中に、ひと際煌めく銀色の星があった。
イゼルローン要塞である。



  第一話  【第4次 イゼルローン攻略戦   前編 】

イゼルローン要塞。
恒星アルテナの周囲を公転する、帝国の軍事拠点。
直径60kmの人工天体で、表面を耐ビーム用鏡面処理を施した超硬度鋼と結晶繊維とスーパーセラミックの四重複合装甲で覆っている。
(アニメ版では液体金属で覆われていた)

2万隻の艦船が収容可能で、400隻を同時に修復可能な整備ドック。
一時間で7500本のレーザー核融合ミサイルが生産可能な兵器廠、7万tもの穀物貯蔵庫。
20万床のベッドを持つ病院の他に、学校、映画館、民間人の居住施設も存在し、500万人の人口を有する巨大都市。

「雷神の鎚」(トゥールハンマー)と呼ばれるその要塞砲は、9億2400万メガワットの出力を持ち、
一撃で数千隻の艦船を消滅させることも可能だ。

「イゼルローン回廊は叛徒どもの死屍によって舗装された」
と、帝国の誰かが言ったとか言わなかったとか……


その星をみながら、俺は唖然としていた。

だって第4次だよ。第4次。
そも「4次」ってなにサ。 「4次」って(大切なことなので、二回言いました)
いや、通算四回目ってコトは分かるよ。 分かる。
俺そんなにバカじゃないもの。
だからこそ、30前で大尉に昇進し、この艦隊の作戦参謀として参加できてるんだもの。

でもね。でもね。
問題はその、第「4」次なのよっ。
だって俺の原作知識じゃ、イゼルローン攻略戦は、第5次からなのよ。
あのシトレ提督の並行追撃の奴。

当然、第5次があれば、その前に第1次から第4次にかけての戦いがあったハズなのだが……
書かれていない!
アニメ版でも見た記憶がない!
どんな戦力で戦い、どんな戦闘が繰り広げられたのか。
まるで分からない。
そんな、まったく見知らぬ戦闘に、俺は参加する事になったのだ。

うう……とりあえず俺はこれまでの(つか、こちらの世界で起こった)対イゼルローン戦を思い起こしてみる。


まずは、第1次攻略戦。
これは767年。 イゼルローンが完成した年に起こった。
要塞建造とゆう事実を軽視していた軍の上層部が、その完成にあわてて艦隊を送り込んだ結果、生起した戦い。
この時は半場「偵察」目的の「おっとり刀」で出動したため、ほとんど戦闘らしい戦闘は起こらず、艦隊は撤退。
損害もなければ、戦果もない。 なんとも煮え切らない戦いだった。
思えばこの時。全力でもって攻略していれば、まだその運用になれていないイゼルローンを攻略できたかもしれんのに……

んで、第2次攻略戦。
1年後の768年。二個艦隊、約30.000隻で行なわれたこの戦いは、無用心に接近した同盟艦隊をトゥールハンマーが吹き飛ばし、
同盟はその総戦力の三分の一を失って退却。 その恐ろしさを初めて見せ付けた戦いだった。

次。第3次攻略戦。
772年。 士官学校を卒業したての俺が初めて参加した戦い。
戦艦「ヴァガ・ロンガ」に最年少士官の一人として乗艦した俺は、いち砲術士官として砲塔の中からその禍禍しく輝く銀色の球体を見た。
(もちろん、スクリーン越しであるが)
最初の感想は「美しい」だった。
光り輝く星々の中に、ひと際輝く銀の星。銀鈴のように美しき人工の星。
俺は見せられたように、イゼルローンを凝視していた。

いずれ俺が帰る場所。
いずれ俺の墓標となる場所。

攻略戦そのものは、帝国艦隊の阻止と、やはりトゥールハンマーの攻撃により、少なくない損害を受けて撤退。
俺はなすすべなく、その様を呆然と砲塔の中から見送っていた。



そして今。 第4次攻略戦。
780年。 イゼルローン攻略戦が8年ぶりに発令された。
理由?
そんなのは簡単だ。 来年、総選挙が行なわれるからに他ならない。
戦果を上げ、人気をUPさせた上で選挙に臨みたい。 そうゆう政治家達の意識が丸見えで。
戦果を上げ、そんな政治家達に恩を売っておきたい。 そうゆう上層部の思惑がモロ見えで。
そんな「不健康」な理由が、この戦いの鐘を鳴らしたのだ。



「以上が我が軍の戦略の基本であり、これにより我が艦隊は同盟軍戦列の中央部分を担当することになった」
参謀長が、やや青ざめた顔で説明する。
そりゃそうだろう。 
鶴翼の陣で進んでゆく艦隊の中央。 ド真ん中。
それはつまり一番トゥールハンマーで打ちのめされる可能性が高い場所。
そうでなくても敵艦隊の砲撃を受けやすい位置だってのに……

「今回の作戦においては、いかに敵艦隊と要塞との連携を崩すかが命題である」
今度は我が分遣艦隊司令官が話しだす。
「いかにしてその命題を果たすか。各作戦参謀は明日朝の0900時までに、その作戦案を提出し給え。
 まずは艦隊を葬り、その後、要塞への攻略へと移行する。なによりも迅速な行動が要求される。 各自、最大限にその義務を果たすよう」
分遣艦隊司令官は、重々しく、そうのたまった。



「どうした作戦参謀殿。頭など抱えて」
俺が士官食堂で夕食のカレー(今日は金曜日であるが故に)を前に、文字通り頭を抱えていると、ひとりの男が声をかけてきた。

ムライ大尉。
この艦隊の後方参謀。補給や主計を取り仕切る会計屋。
ある意味、作戦参謀の俺より偉い男(補給や休養なしで戦えると思う程、俺は頭が良くない)
そして俺の士官学校での同期生。

  蜘蛛の糸

数少ない、俺のこの世界でのアドバンテージ。
いずれヤン艦隊の参謀長として共に戦う男。

「今度の相手はイゼルローンだからな。 いつものように無茶な突撃をされたら命がいくらあっても足りん」
「…………」
「じっくり考えて、最善の作戦を立ててくれ」
言うだけ言うと、ムライを踵を返して去って行く。

分かってる。分かってる。
これは奴の精一杯の励ましなのだと。
戦果を上げるコトよりも、無駄な犠牲は出さないようにしろ。 -と、そう言っているのだ。
それならば、案のひとつでも出してくれりゃあ良いのに。 けれど。

-作戦は作戦参謀が考えるもの
 後方参謀の私は、補給を確実に滞りなく行なうことが職務である

どうせそう言ってはぐらかされるのがオチだ。
けれどそれは職務放棄や、投げやりな態度とかではない。
ムライは本気でそう思っているのだ。 それが規律とゆうものだ-と。
相変わらず、固い奴だ。
いわゆるテッパン?
ある意味、信頼?
もしくはツンデレ?(キモっ)

まさにMr,「秩序」である。
しょうがないので俺は深夜までかかって、前世の記憶から引っ張り出した「妙案」(それらしい思いつき)のひとつを書き出し提出した。



翌日。
俺の提出した作戦案を分遣隊司令官は、眉間に皺を寄せながら読んでいた。
彼の名は、ウィリアム・パストーレ。
そう。史実「銀英伝」において、アスターテの会戦において金髪さんに撃破され、いの一番に物語から退場させられた悲運の提督。
一部では「無能」扱いされる悲しき人物。

けれど俺の見る限り、そんなに無能な人じゃないんだよなぁ、この人。
確かに頭が固く、融通が利かない(岩礁空域で野戦陣地を構築。 くらいの柔軟さはあれば良いのに)点はあるが
艦隊運動や攻勢&防御。そのどれをとっても、他の提督達に劣るところはない。

けれど、彼は「運が悪い」
これ結構、大切なことだよね。
一軍の将とゆうのは、知力も胆力も必要だけど、なによりも「運」が必要だ。

昔、日露戦争の折に、東郷平八郎を連合艦隊司令長官に任命した時の理由が
「運の良い奴だから」ってのは有名な話だ。

その点、この人はイマイチ運が良くない。
戦闘直前に乗艦が故障したり、補給が(本人のせいではないのに)滞って戦闘に参加できなかったり、
思わぬ所思わぬ敵に遭遇して、大騒ぎになってしまったり。
その最たるものが、アスターテで、一番最初に金髪さんに出合ってしまうことなんだろうけど……


「小艦隊をいくつも作って、敵陣をすり抜けて行く。 だと?」
「はい。陸戦で言うところの『浸透戦術』であります。 そうしてすり抜けた艦隊を敵の後方で集め、
 これにより敵の背後から一気に攻勢をかけ壊滅に落としいれる。 と、ゆうのがこの作戦案の骨子です」
「しかしそれでは、すり抜ける段階で敵に包囲、殲滅されてしまうではないか」
「はい。確かに。 ですからそのためには、他艦隊からの陽動、もしくは牽制が必要不可欠です」
「……ぬう。 面白い意見だが……君はどう思うかね」
パストーレは傍らに立つ、参謀長に訊ねた。
「確かに面白い意見ではありますが……一種の奇策にすぎないと思います」

-お前が言うなああああああああああああああああああ!

俺は思わず参謀長にツッコみを入れそうになった。

「うむ。正攻法で行こう。 グエン参謀の意見は遺憾ながら却下だ」
へーへー。そうでしょうよ。 仕方ないっスね。
あんたは南雲さんか。
確かに陸用爆弾で空母は沈められまへんがナ。
でもね、俺は知ってるんですよ。 今回の作戦も失敗するってことを。
だって彼の要塞は今から15年後。
ヤン・ウェンリーによって初めて陥とされるものなのだから。

なぜか熱心に俺の作戦案をガン見している参謀長には構わず、俺はパストーレ提督に敬礼すると、司令室を辞去した。


  ****


「ファイヤー!」

無数の光の矢が放たれる。
第4次イゼルローン攻略戦が始った。
俺はその様をただじっと見ているだけだった。

この時、我がパストーレ分遣隊は、やっぱり同盟軍艦隊のド真ん中のド真ん中に位置していた。
幾多の爆光が宇宙を照らす。
不幸な何隻かの船がその光の中で生涯を終える。
もちろん、その内に抱え込む人々と共に。

「よし。ゆっくりと前進だ」
命令通り。予定通り。艦隊はゆっくりと前進する。
帝国艦隊は、それに合わせてゆっくりと後退して行く。
もう「ミエミエ」にトゥールハンマーの射程内にこちらを誘い込もうとしている行動だった。

「停止。後退」
その手は喰わん!
とばかりに、今度はこちらが後ろに下がる。 そうすると帝国軍もノコノコとついて来て……
そんな一進一退の攻防(良い言い方だなぁ)が三日間続き、もう誰もがこの状況に飽きてきた頃。
それは起こった。


「敵が突撃してきます!」
オペレーターの声に驚くヒマもあればこそ。
いきなり我が艦隊の目の前に布陣していた帝国艦隊の一部が、猛然と突進してきたのだ。

-またいつもの調子の前進と後退サ

と、思っていた同盟艦隊は完全に虚をつかれた。
これまでに倍する爆光が宇宙を照らす。
熱狂的なその突撃は、散々に我々を食い荒らしてゆく。
その様はまるでアメーバの触手のように広がって……
「うむ。敵ながら見事な艦隊運用である」
参謀長が感嘆の声を上げた。

死ねボケぇ! ヘソ噛んで死ね! その台詞は10年早い!!

「司令。これは敵の組織だっての反攻ではありません。 あわてる必要はありません」
「グエン参謀?」
「それが証拠に、他の帝国艦隊は動いていません。 連動していません。 これはなんらかのアクシデントです」
なぜかボケっと惚ける参謀長に代わって、俺は咄嗟に声を上げた。
俺は最初、金髪さんか双壁さんが来たのかと思ったんだよね。
でもこの時代。 まだこの三人は戦場には出てきてないんだよね。
だからなんらかの思惑からの組織的攻撃。 ってセンはなさそうだなと。

「なるほど。参謀の言う通りだ。単に中央の一部が突出してきただけだな」
一瞬にして冷静さを取り戻したパストーレ提督は、すぐさま両翼の艦隊を前進させると、半包囲態勢へと陣形を移動させた。
うん。この辺は流石だ。
だてに艦隊指揮官をやってるわけじゃない。

後で分かったことだが、この帝国軍の突出攻撃はやっぱり計画的なものではなかったそうだ。
そのあまりにダラダラ続く戦況に、一部の青年貴族達が苛立ち、暴発したものらしい。
おかげで戦況は動いたものの、その青年貴族達も代償をたっぷりと払うことになった。
そう。
「死」とゆう名の代償を。


「敵艦隊、後退して行きます」
10時間前とは正反対の声色でオペレーターが叫ぶ。
無謀に突出してきた帝国艦隊は、半包囲網をひいた我が艦隊からしたたか打ち据えられ、その過半数を失って後退して行く。

「長官!」「よしっ」
この時ばかりは阿吽の呼吸でパストーレと参謀長の声が重なる。
「全艦全速。敵を追撃せよ!」
押せば引け。引けば押せ。 まさに正攻法。
俺達の艦隊は今度は逆に、突出し、敵艦隊の真っ只中へと突進して行く。
だが-
やはりこの時代にも、目の見える敵はいた。
突然。目の前に銀色に輝く銀鈴の星が現れた。
いつの間にか俺達は引き込まれていたのだ。

「イゼルローンとの距離は!?」
そう叫ぶ俺の声は恐らく震えていただろう。
けど、気にしない。
「ト、トゥールハンマーの射程内です!」
「全速後退!」
そう叫んだオペレーターと、艦隊司令官の声も、完全に震え裏返っていたからだ。

急激なGが体を揺する。
できうる限りのパワーで、艦が後退をし始めた。
けれど。 

もう遅すぎた。

「要塞の表面に高出力反応。 来ます!」

-チカリっ
イゼルローンが光った。



  爆発した。







  ウワー!ウワー!死ヌヨ 死ンジャウヨォ コリャドンナ死亡フラグ?




                          -つづく かな?かな?(鹿馬)







  *****

おもっくそ私信。

その①
-もしも友と呼べるなら
 許して欲しい過ちを
 いつか償うときもある
 今日とゆう日はもうないがぁ~♪

二つ名「ブルーゲイル」様。
こんなん書いてます。 いかがでしょうか?(鹿馬)


その②
まだ二本目なのにタイトル「銀虎伝」に変えてもいいスかね? みな様。






[25391] 「第4次 イゼルローン攻略戦  後編」
Name: 一陣の風◆fc1b2615 ID:8350b1a5
Date: 2011/02/09 20:38
爆音が鳴り響いた。
鼓膜を震わせ、大きな音が鳴り響いた。



 「光と人の渦が溶けてゆく。 あ、あれは憎しみの光だっ」



   第二話【第4次 イゼルローン攻略戦 後編】


そんなハズはない。
そんなワケがない。

宇宙で爆音が響くことはない。
真空で爆音が轟くことはない。

それでも俺は聞いた。
それでも俺には聞こえた。

船とゆう構造物が弾ける音を。
人とゆう構成物が弾ぜる音を。

業火に身を焼かれながら上げる兵士達の叫び。
内臓をぶちまけながら、のた打ち回る兵士達の叫び。
そして叫ぶことさえ許されず、一瞬にして消滅する兵士達の無念の叫び。

俺にはその声が、はっきりと聞こえていた。



「戦艦バウータ撃沈!」
「副司令、ナモナッキー准将戦死!」
「第12分隊はサフランだけだ! シスコも被弾している!」
「スネークル。スネークル!?」
「巡航艦ジュピター。 『さよなら』を打電し続けています!」

雷神の鎚の一撃は、一瞬のうちに500隻もの艦艇を消滅させていた。


「こ、これがトゥールハンマーの威力……」
パストーレが呟くように言う。
「司令。このまま、後退を続けますか!?」
本艦の艦長が問いただす。
「艦隊の四分の一が一瞬で消滅……」
「司令!」
唖然とし続けるパストーレに艦長が詰め寄った。
俺は慌ててパストーレの耳元に口を寄せた。

「提督、しっかりしてください。兵が見ている」
「あ、ああ。そうだな。このまま後退を続けよう……」
「声が小さいです」
「す、すまない。 ぜ、全艦後退を続けろ!」
パストーレは予想外の事態に心ここにあらず-だった。
参謀長も放心状態だ。

もちろん俺だって予想外だ。
こんなにもトゥールハンマーが恐ろしいものだったとは……
見ると聞くとは大違いってやつだ。
いやもう、逃げるしかない。
ヤンではないが、いっそのこと「ケツまくって逃げろ!」と言いたかった。
だけど、やっぱり間に合わない。


「再度、イゼルローン上に高出力反応っ。 第2射、来ます!!」
オペレーターが発狂レベルの声で叫ぶ。
彼等とて、そう叫ぶことで辛うじて自我を保っているのだ。
「3.2.1。インパクト!」

-ゴバァッ

光った。
風が吹き抜ける。
轟音が今度は本当に鳴り響いた。
殴り飛ばされたような衝撃で、俺は床に転がった。
被弾したのだ。

アカン。アカンて。ホンマ、もう死んじゃうよぉぉぉぉ!!
いや。いやいやいや。
俺は死なない。
少なくともこの場面では死なない。 それはまだ先のハズだ。
それだって、死なない。 俺には原作知識がある。
要は調子にのって追撃をしなければ……

俺が混乱する頭を振りつつ起き上がると、辺りは阿鼻狂乱の巷と化していた。
爆沈した船の破片が当たったものだろうか。
構造物の一部がひしゃげ、歪んでいる。
天井からはむきだしのコードが幾重も垂れ下がっている。
中には火花を散らしてる物もある。

1階のオペレート席では何人もの兵士達がひっくり返り、呻き声を上げていた。
幸い空気漏れはないようだ。
応急のバブル(泡)が放出され、自動的に亀裂を防いでいる。
もう少し当たった破片が大きければ、俺達は宇宙に吸い出されていただろう。
クワバラクワバラ。

「作戦参謀。大丈夫か」
こんな中でも冷静な声に振り向けば、顔を煤けさせ、その自慢の髪型も振り乱した同期生。
蜘蛛の糸がゆっくりと歩み寄って来るところだった。
相変わらずマイペースだ。

「ムライ……やられたよぉ」
「うむ。まぁ、積もる話しもあるだろうが、今は後だ。 司令官は何処だ」
その問いに俺はハッとする。
そうだ。
なによりも司令官の安否だ。 もちろん、まだ死んじゃいないだろうが……居た。

パストーレは、長々と床に転がっていた。
幸い命には別状ないようだが、頭を強打したのであろう、意識は朦朧としていた。
「司令官負傷。メディックは至急、艦橋へ」
俺はそう艦内インカムに叫ぶと、もうひとりを探し始めた。
そう。参謀長だ。
司令官も副司令官も亡き今。艦隊の指揮を執ってもらわねば。

「参謀長。 ホーランド大佐! ウィレム・ホーランド大佐!」
俺はウロウロと探し回る。
ムライと手分けして探し回る。

倒れたパネルを持ち上げる。
部屋の隅をのぞく。
腰をかがめ机の下も見てみる。
まさかと思って、机の上の書類を持ち上げてみる。
……やっぱりいない。
2階の指揮官フロアには、その影も形もない。

あんのボケぇカスなお調子モン。いったい何処へ……
もしや?
俺とムライは、ある予感と共に、恐る恐る1階を覗き込んだ………居た。
衝撃で吹き飛ばされたのであろう。
1階の床の上で「大の字」になって寝ッ転がっている、ホーランドを見つけた。

あっ。ぴくぴくしてる。 あっ。痙攣し始めた。 あっ。口から泡吹いてる。
まるでカニだネ。
そうだ。 このままここで奴が死ぬか再起不能になれば、後の11艦隊の悲劇はなくならね?
このまま放置しようか?
うん。うん。 それがいい。そうしよう。それで決定!

「メディック。1階で参謀長が負傷している。すぐさま手当てを」
そんな俺の思いを知るよしもなく、ムライが命じる。
「命に別状はありません。 意識はありませんが……」
ホーランドを診察した、メディックが言う。
ちっ。
つい、舌打ちをしちまった。


「作戦参謀」
こんな修羅場に全く似つかわしくない冷静な声が俺を呼んだ。
「はい。艦長」
そこには茶色のヒゲモジャを煤で黒くした旗艦「アキレウス」の艦長が立っていた。
「作戦指揮を、お願いする」
「はあ?」
「先ほど報告があった。後部指揮所が壊滅。副長以下、他の参謀全員が死亡、または負傷だ」
「そんな………」
「今、この場で命令を…艦隊の行動命令を出せるのは貴様だけだ」
「待ってください」
ムライが割って入る。
「お言葉ですが艦長。参謀に命令権はありません。正式な移譲手続きもなく、グエンが命令を下すことは規則違反です。 それに彼は大尉にしか過ぎません!」
「今は非常時だ」
「非常時であればこそ、規則は重視されるべきです」

ううむ。
さすがはMr.秩序。 言ってることは全く正しい。
けど艦長の恐ろしげな顔を見れば、俺なら絶対、そんなこと言えないお?
だが、艦長の方が役者が一枚上手だった。

彼はムライをひと睨みすると、今しも担架で運ばれようとするパストーレにかがみ込み、何事かを囁いた。
「はっ? 全権をグエン参謀に? 分かりました」
「艦長?」
「司令官の許可は取ったぞ。 大尉。今から君が臨時指揮官だ」
こらこらこら。
今、勝手にしゃべったよね?
今、勝手にパストーレの手を持ち上げて、俺を指差しさせたよね?
アンタ何そのデギン・ザビ。

「さあ。指示を出し給え」
俺はこのとき、ブライトさんや、アクバー提督。新城直衛の気持ちが、少しだけ分かったような気がした。


「全艦、前進。全速で敵艦隊の中に突っ込め!」
俺は命じる。
「おい、グエン……」
「了解。最大戦速!」
ムライが何かを言う前に、艦長の大音声が響き渡った。
「奴等の中に突っ込め。 そうすればトゥールハンマーは撃てん!」

-ああ。さすがはこの人だな
  その意味をよく分かっている
  まぁ難点なのは集中砲火を浴びるってことだが……
  この人には……猛将たる、この人には関係ないな。

俺は改めて戦艦「アキレウス」の艦長。 アップルトン大佐を見やった。
後に第8艦隊の指揮官として、俺の上司になる男を……


「空戦隊発進。 敵をかき乱せ!」
額に十字の傷を持つ、痩身長髪の男が率いるスパルタニアン達が飛び出して行く。
彼等は慌てる帝国軍の艦艇に肉薄すると、次々にビームやミサイルを撃ち込んでゆく。
そうして乱れた艦列に、俺達は全速で突っ込んでいった。





  袋叩きにされました。



爆光が瞬く。
炎が上がる。
破片が飛び交い、人が…人だったモノが血を撒き散らしながら宇宙(ソラ)を漂う。
直撃を受けたスパルタニアンが一瞬で消滅する。
エンジン部分に被弾した巡航艦が暴走の挙句、敵艦を道連れに爆発する。
どんな力が働いたものか、文字通り真っ二つになった戦艦が、前後ばらばらに漂いだす。

死が満ちる。

「突っ込め。突っ込め。 そのまま敵の反対側まで突き抜けろ!」
俺は叱咤する。
「止まるな。止まると助かるものも助からなくなるぞ!」
アップルトンが叫ぶ。
「絶対方位043。 間隙がある。 薄くなっている」
『秩序』をかなぐり捨てて、いつの間にか俺の作戦幕僚となったムライが告げる。
「全艦、我に続け」
俺達の艦隊は一丸となって突進して行く。
帝国艦隊は俺達を包み込むように追ってくる。

「いいぞ。前も後ろも右も左も敵ばかりだ。 撃ちまくれ!」
興奮したムライが叫ぶ。
いや、ちょっ、待っ。 おまっ。
それ俺の台詞だから!



突然、目の前に星空が広がった。
視界いっぱいの星空が広がった。

「ぬけた……」
気が付けば、あの狂乱の輝きもいつの間にか収まっていた。
誰もが不意におとずれた静けさに、惚け、安堵のタメ息をつく。
俺達はなんとか敵を振り切ったのだ。
目の前には元凶。 イゼルローンが妖しく輝いていた。

「艦長。このまま敵の背後につきます!」
呆けている暇はない。
俺はアップルトンに「命令」する。
「そのまま、敵艦隊とイゼルローンを牽制しつつ、味方の救助を待ちます」
「りょ、了解。取舵いっぱい。進路180っ」
「全艦、球状隊形を取れ。これからは防御に専念するぞっ」
「アイ・サー。全艦、球状隊形に移行。 これよりは防御戦闘に特化」

サーじゃねえっての! ムライさんよぉ。 俺はただの代理の臨時の大尉なんだからネ!

半数以下にまで撃ち減らされたパストーレ分遣隊が、前進してきた本隊に救助されたのは、
それから16時間後のことだった。



  ****


「君の報告書は読ませてもらった」
それからさらに36時間後。
首都ハイネセンに帰還する艦隊の中で、俺は今回の総参謀長。シドニー・シトレ中将の問責を受けていた。

「パストーレ分遣隊。出撃数2080隻。 帰還数996隻。 やられたものだな」
「しかし全体を見れば、我が艦隊が敵を混乱させた結果、帝国艦隊は我々に倍する艦艇を失っています。
 それを見ずして、我が艦隊の損失だけを評するのは、不公平な裁定と言わざるを得ません」
「はっきりと言う。気に入らんな……」
「どうも……」
「司令部が機能停止に陥った後、指揮をとったのは君だな」
「はい」
「浸透戦術か……なかなか見事だな」
「はあ?」
「ハイネセンへ帰還後、その戦術に対するレポートを私に提出し給え。 以上だ『少佐』。 退がってよろしい」


「よう、少佐殿。ご苦労さん」
「グエン少佐。お疲れさま」
狐につままれたような顔で俺がシトレの部屋を辞すると、ふたりの戦友が待っていてくれた。

「司令と参謀長は無事だ。しばらく養生すれば、すぐ復帰できるだろう」
アップルトン『准将』が言う。
「ちなみに、おふたりとも今回の件でのお咎めはないそうだ。 
 まぁ、しばらくは後方勤務だろうが、降格や軍法会議などはなさそうだ」
ある意味、危ないことをムライ『少佐』がサラリと言う。

「結局、イゼルローン攻略は失敗。これで誰かをスケープゴード(贖罪羊)にすれば、どこに飛び火するか分からん。
 死人に口なし。 死んだ奴のせいにして責任回避。
 そして命からがら逃げ出してきた俺達を昇進させて、口封じ。 
 なかなか上手い敗戦処理だな」
もっと危ないことを、アップルトンがさらりと言った。
うん。結構、この人も毒舌家なんだなぁ。

「まあ、私は生き残ったことを素直に喜びますよ」
旗艦「アキレウス」は結局、大破・廃艦判定。
乗員、司令部要員含めて、40パーセントが戦死または負傷。
そして、分遣隊だけでも、1万人以上の将兵が死んだのだ。

ある意味、俺が殺したのだ。
俺の命令で、それだけの人が死んだのだ。
ヤンの気持ちが良く分かるよ。  しくしく……



「どうだ。無事な生還を祝って一杯やらないか? いいスコッチがあるんだ」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、アップルトンが言う。
「昇進祝いもかねて、今からどうだ?」
「提督。艦内での飲酒は禁止されております」
秩序が言う。
「将兵の見本たるべき将官が、自ら軍律を犯すなど許されることではありません」
「……おいおい。お前の相棒は、本当に頑固だなぁ」
「はあ……」

ムライが『誰が相棒か!』と、ゆう目で俺を睨む。
いや、俺が言ったんじゃないし……

「それに……」
「ん?」
ムライがカミングアウトする。

「それに、この男は酒は飲めません」
「は?」
「この、グエン・バン・ヒューとゆう男は、食い意地だけの、まったくの下戸なのです」
「……マジなの?」
アップルトンの問いかけに、俺は無言でうなずく。
ちくしょう。 
酒が飲めたからエライって訳じゃないやい!
酒を飲まないと、言いたいことも言えないって訳じゃないやい!
俺は酒より、純粋ミックスジュースな方が好きなだけだい!

「そうゆうお前は、真面目な顔して、底なしのザルじゃねえか」
反撃! と、ばかりに今度は俺がカミングアウトしてやった。
憮然とした顔で、ムライが黙る。
ざまみろっ!

「くっくっくっ……」
「提督?」
不意にアップルトンが笑いだした。
顔中を覆った茶色のお髭を震わせて、笑い出す。

「無茶な突撃を命じる、頭のネジのユルンだ下戸な指揮官。
 秩序にうるさい、頭のカチカチな大酒飲みのテッパン参謀。
 やっぱりお前達は良い相棒(コンビ)だ」

ついにアップルトンは大きな声で笑い出す。
豪快な笑い声が響き渡る。
つい、つられて俺もムライも笑い出し……
怪訝な顔で俺達を見る乗組員達に構わず、俺達は笑いながら歩き続けた。

とても暖かな笑い声だった。




こうして俺の「第4次イゼルローン攻略戦」は終わった。



やれやれ、生き残れたよ。





  *****



そしてハイネセンに帰還した俺を待っていたのは、後方基地勤務の辞令だった。
そこで俺はひとりの若い中尉と出会う。
その男の名は-


それはまた次回の講釈で。

      ジツワコレガ 死亡フラグダッタリスルンダヨナー! 



         
                  つづく。 かもしんない。









参謀長落下ス のネタは>闇の皇子様よりいただきました。
感謝します。 使い切れてませんが(涙)

結局、私は「王道」「テンプレ」「ワンパターン」「ハッピーエンド」しか書けないのだと分かりました。
なにとぞお見捨てなく(星願)

そーいえば
ミックスジュースって、所によっては存在しないんですって?(鹿馬)




[25391] 「28 Times Later  前編 」
Name: 一陣の風◆5241283a ID:8350b1a5
Date: 2011/03/18 23:39
「間もなく到着だ」
特務輸送艦「ヴァガ・ロンガ」の艦長が、じきじきに教えてくれた。
俺は目の前に見えてきた茶色の惑星を、じっくりと見やった。



    第4話 「28 Times Later 前編 」


「グエン・バン・ヒュー少佐。 命により、出頭いたしました」
「ムライ・フローレンス少佐。 命により、出頭いたしました」
「リオン・S・ケネディ軍曹。 命により。出頭いたしました」

俺達は基地司令の、バラン大佐に申告する。
「うむ。ご苦労。詳細は、アンドレアヌフス中佐に訊ね給え。
 貴様等が、軍人の本分をつくすことを期待する」
言うだけ言うと、バラン大佐は『もう行っていいぞ』 と、言わんばかりの態度で右手を振った。

「なんだあのクソ虫野朗は……」
「少佐殿。着任早々、上官批判でありますか?」
司令官室から退室した俺は、つい本音を漏らしてしまう。
もちろん、小さな声でね。
けれど、すぐ隣にいた、レオン軍曹にはしっかり聞こえていたようだ。

ちなみにレオン軍曹は「ヴァガ・ロンガ」の中で知り合った。
まだ若い下士官で(歳を訊ねたら19歳だってサ)主計科勤務だそうだ。
コックと知り合いとなれば、なにかとオ・ト・クってことで、俺は彼との親交を深めていた。

「殿はいらねえよ。
 あのなぁ、軍曹。 着任の申告で、軍人の本分を尽くせ-なんてことを臆面もなく言える上官に、ロクな奴はいねえよ」
「確かに……」
リオンは、その精悍な顔を緩ませて、面白そうに微笑んだ。
「グエン少佐。 下士官の前で上官批判は感心せんな。 軍曹も、この男に感化されないように気をつけ給え」
「うるせいよ。 Mr.秩序。 こんな場違いな場所に飛ばされたんだ。 これ位の愚痴は言わせろ」
相変わらず、しかめッ面で、お堅いことを言うムライに、俺は脊髄反射で答えた。


「ようこそ、惑星ゴラスに」
副司令のアンドレアヌフス中佐は、バラン司令とは正反対の笑顔で俺達を迎えてくれた。

惑星ゴラス。
首星ハイネセンから、さほど離れている星ではないが、自然も資源もなにもない、ただゴツゴツとした岩場が広がる陰気な惑星。
俺とムライは、第4次イゼルローン攻略戦のあと、いわゆる「ご苦労さん配置」でここでの勤務を命令されたものの、
それはあまり幸運とは言えない配置だった。

だって空気も何もないんだもの。
基地の外に出るわけにもいかないんだもの。
美味しい郷土料理があるワケじゃないんだもの。
おまけに全然、畑違いな、研究所勤務なんだもの。
まぁ、確かに気楽な勤務。 らしいけど……

俺は妙に、にこやかな笑顔で辞令を手渡すシトレ中将の態度に、嫌な予感を感じていた。


「グエン少佐は警備主任として。 ムライ少佐は後方主任として。 
 リオン軍曹は主計科員として着任ですね。
 みなさんを歓迎しますよ。よく来ていただけました」
アンドレアヌフス中佐は、軍人らしからぬ物腰で言う。

「現在この研究所では、NBC兵器の内のB。
 つまり、生物兵器(Biological)の研究を行なっています。
 もっとも、主な研究は防御的なものですから、そんなに危険な研究はしていませんが」
「……アンドレアヌフス中佐は文官の方ですか?」
俺は上官侮辱とも取れる聞き方を、あえてしてみる。

「アンドレで良いですよ。 グエン少佐」
だがアンドレアヌフス中佐は、まったく気にもしなかった。

「はい。その通りです。私は科学科主任として配置されています。
 中佐なんて階級は、本来、身に余るモノなんですがねぇ」
ひょろりと長い身長の、その肩の上にちょこんと乗った優しげ顔立ちを、さらに微笑ませて、アンドレアヌフス中佐は
頭をかきながら言った。

「私は戦闘経験。ましてや銃器を扱ったことは、一度もありません。
 包丁ですら持ったことはありません。 せいぜい医療用メスくらいなもんで……
 もちろん、ペーパーワークも苦手で……いわゆる研究バカです」
そのあまりに正直な告白に、俺達三人は、そっと顔を見合わせる。

「ですから、みなさんに来ていただいて、とても助かります。
 各、専門分野は、おふたりに白紙委任しますので、よろしくお願いします。
 軍曹も、食べることしか楽しみがないこんな場所なので、美味しいものをたくさん作ってくださいね」

  「『 本分を尽くします 』」

俺達としては(真に不本意ながら)そう言うしかなかった。


その後、アンドレアヌフス中佐の案内で警備室に顔を出した俺は、そこの主任代理を勤める
曹長に引き合わされた。
六十歳を過ぎた古参過ぎる下士官で、間近に迫った年金生活を心から楽しみにしている、好々爺のような人物だった。
その下に、若い兵士が五人。
まだ二十歳を過ぎたかどうかも定かではない(聞けばやっぱり実戦経験は一度もなかった)
まだ、にきびが残る連中だった。

「ところで前任者の引継ぎとかはないのかい?」
俺は曹長に訊ねた。
「引継ぎとかは無理ですわぁ」

 あはははは

と、曹長は陽気に笑った。
「なぜ、無理なんだね?」
「あれぇ? 少佐殿はご存知ないんですか?」
「殿はいらないよ。 で、何を知らないんだい?」
瞬間。 曹長は顔をしかめると、言いにくそうに答えた。

「前任者の大尉は事故で亡くなったんです。 後方主任と一緒に」


  ****


「圧力隔壁の事故だったらしい」
晩飯のハンバーグをほうばりながら、俺は言った。
「後方主任と一緒に通路を歩いていると、急に隔壁の与圧が抜けて、ふたりともあっと言う間に外に放り出されたらしい」
「…………」
「なにも言うことはないのか?」
ムライはパンをちぎると、無言でそれを口の中に押し込んだ。
「突然、与圧が抜けるのも変だが、なせそれが警備と後方主任が一緒の時なんだ。
 なぜ、そんなピンポイントなんだ?」
「……偶然」
ポツリと言う。

「面白味のない答えだ」
俺は白飯をかき込みながら、唸った。
「口にモノを入れてしゃべるなーと、教わらなかったのか? それに事件や事故に面白みなど、最初からない」
「へぇへぇ。実に優等生な答えだな」
「ならば貴様はなんだと言うのだ」
俺の嫌味にムライは、ジロリーっと、こちらを睨みながらに言った。
「それはもちろん……」
俺はたっぷりの情感を込めて、言い切った。

 「計画的な殺人だ」


  ****


深夜零時。
俺は部屋を抜け出した。
左官クラスになると、個室を与えられる。 こっそり抜け出すには好都合だ。

俺は基地内を警備室のコンピューターから取り出したマップを手に徘徊する。
夜の時間帯に合わせて、薄暗くされた基地内の照明に照らされ、俺はゆっくりと歩きまわる。
やっぱり。
俺は確認する。
この基地にはマップにない区画が存在する。
パッと見た目には分からないが、注意してマップと照合していくと、どうにも『ムダ』な空間があるのだ。
それもかなりな数の。
警備室のコンピューターにも載っていない空間。

「明日は地下も調べてみるか」

そう呟きつつ角を曲がった俺は、危くひとりの男とぶつかりそうになった。
「リオン軍曹?」

そこには真っ白なエプロンをつけ、岡持ちを提げたリオン軍曹が立っていた。
すんごい恐い顔で。

「よぉ、軍曹。 そんなに怒るなよ。 ぶつからなかっただろ?」
「少佐……こんな所でなにを………」
「俺か? 俺は深夜の散歩。 寝付けなくてねぇ。 軍曹こそ岡持ちなんか提げてどしたん?」
「私は命令で司令のところへ夜食を届けに行くところです」
「夜食………」
リオンの話しによると、ここでは日常的なことらしい。
要するに「夜食」とゆう名目の酒の肴であるそうだ。

「そんなら俺もこれから、夜食を頼もうかな?かな?」
「勘弁してくださいよ。 こんな面倒くさいコトは司令ひとりで十分だ」
そう言ってリオンは、ようやく顔を綻ばせると、手を振りながら去って行った。


  ****


  -Vesperrugo,fluas enondetoj……

もう帰って寝るか……
そう独り言ちる俺の耳に、不意に小さな謳声が響いてきた。

  -Gi estas kiel kanto,bela kanto de felico……

それはとても清んだ謳声で……
セイレーンに誘われる船乗りのように、俺の足は歌の聞こえてくる方へと、自然と動かされて行った。

 -Cu vi rimarkis birdojn,portanta afableco……

それはどうやらリクライゼイション・ルームから聞こえてくるようだ。

 -Super la maro flugas,ili flugas kun amo……

基地に働く人々のための精神安定のために、緑成す森や、青き海の映像を全天に映し出すその部屋。
今は夜の時間に合わせて、降るような星々が映し出されている。

 -Oranga cielo emocias mian spiriton……

そっと覗き込む。

 -Stelo de l'espero,stelo lumis eterne……

小さな女の子だ。
褐色の肌を持ち、紫がかったシルバー髪を持つ少女が、満天の星空(の映像)を見ながら、
そっと謳っていた。


 -Lumis Eterne………


「綺麗な歌だね」
俺の声に少女は、驚いたように顔を上げ、こちらを見た。
とたんー

 ふわあん!

泣かれた。
いきなり泣かれたお?
何故?
優しく微笑んで声をかけたのに、何故だあっっ。

「そりゃ、こんな薄暗い照明の中で、スキンヘッドで厳つい顔の、目つきの悪い男から、
 いきなり声をかけられたら、誰でも泣くぞ。 私でも泣く」
「ムライ!?」
いつの間にか現れたムライが、ぼそりと言った。  失礼な!!
こんな紳士を捕まえて、なんたる暴言。

「ほら、お嬢ちゃん。 おぢさんは恐くないよぉ。 ほら、こんなに優しいよぉ。 にこぉっ」
俺は少女に顔を寄せ、にっこりと微笑む。 結果。

 びぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!!

さらに号泣されました。 しくしくしく。



「お名前は?」
なんとかなだめすかし、ようやく泣き止んだ少女にムライが訊ねる。

「う…グス…… れ、レディに名前を聞くときは、自分の方から先に名乗るのよ」
おーおー。いっちょ前に言ってくれるじゃん? このガキ。

「これは失礼。お嬢さん。 私の名前は、ムライ・フローレンス。 あっちの恐い顔した男は、グエン・バン・ヒュー」
「初めて見る顔ね……」
「今日、ここに来たばかりだからな」
俺のムスっとした答えに、少女はビクリっーと、体を震わせると再びしゃくり上げ始めた。
ムライがスゴい顔で睨む。
いやいやいや。
なんか俺、すっごく悪い人みたいじゃん?

「大丈夫。この男は見かけによらず、いい奴だから」
見かけによらずは余計だろ!

「ホントに恐くない?」
「ああ。本当だ。 私が保証しよう」
ムライがそう言うと、少女は頷き答えた。

「私の名前は、イヴリン。 イヴリン・ドールトン」

なんですとっ!
俺は腰が抜けるくらい驚いた。

 イヴリン・ドールトン

あのイヴリン・ドールトンか!?
あのフラれた男への復讐から、船団を…ヤンを含む200万人以上もの将兵を恒星に突っ込ませて、
皆殺しにしようとした,あの、イヴリン・ドールトンなのか?
こんな少女……いや、幼女が?

ーっかぁ
刻の流れというものは、恐ろしいモンである。


「もう三日も会ってないの」
聞けば彼女の両親は、この基地に勤務する研究員だそうだ。
それなのに、もう三日も顔を合わせてしないらしい。
「それで、ここで唄っていたのかい?」
「うん。ひとりで居てもつまらないし、それにここには同じ歳のお友達もいないから……」
「そうか……よし。それなら今から私とコイツが、君のお友達だ」

はっ?
ムライさん。 あなた、いったい何をコイているのでございますか?

「ホント? 本当にお友達になってくれるの?」
「ええ。 レディ。 これからも、よろしく」
そう言ってムライはドールトンと仲良く握手をする。
コイツもしかして、ロ〇コン(しらじらしい伏字だ)か?

「ほら、グエン。何をしている。お前を早く握手をせんか」
「命令すんな」
それでも俺は、ムライの言葉に、しぶしぶと右手を差し出す。
ドールトンは俺の手をしばらく凝視したあと-

 かぷっ

いきなり噛み付かれた!!

「ちょっ、な、なにすんのん!?」
「だって、グエンの右手。美味しそうだったから……」
こともなげに言う、ドールトン。
うん。やっぱりこの子ってば、サイケデリィィィィック!!



  ****

「で、なにか分かったか?」
朝食のご飯に、生たまごを落としながら俺は訊ねた。  醤油、醤油っと。
「一日では、まだ何とも言えんな。 いろいろと端っこくらいは分かったが……」
ベーコンエッグを切り分けながら、ムライが答える。

「端っこ……たとえば?」
「この基地は、その規模に対して、エネルギーの消費量が異常に高い」
「ふむ」
「補給物資の一覧に、わざと消去した物品の痕跡がある。 どんな物品かまでは分からんが」
「なるホロ」
海苔を巻いて、ざくざく食べる。

「…………ベーコン。もっとカリカリに焼いて欲しいものだな」
「リオン軍曹にお願いしとこか」
「うむ。 ……あとバラン大佐は、あまり熱心ではない」
「熱心ではない?」
鮭の身をほぐしながら、俺は聞き返す。

「ああ。彼がこの基地に赴任して、かれこれ1年。 なんの実績も上げていない。 
 もちろん不利益も生じていないので、問題にはなっていないようだが……」
ムライがサラダのミニトマトを口に入れ、言葉を切る。
「だが?」
けれどその先に、さらに言いたい事があるのは、長い付き合いの俺には分かった。

「これはハイネセンを出るときに聞いた話だが……このまま、何の成果も見られない場合には
 この研究所は年内に閉鎖され、バラン大佐は予備役編入らしい」


「バラダギ様がどうしたの?」
「イヴリン?」

 かぷっ

「……あの、イヴリン・ドールトン。 なぜ、俺の肘に噛み付いてる?」
「だって。グエンの肘が美味しそうだったから。 特に左」
かぶりついた口のヨダレを拭いながら、ドールトンが答える。
んじゃ、右の立場はどないなんねん!

「いや、少佐。 問題はそこじゃないから」
当たり前のように。
俺の背後に取り付いたリオン軍曹(白いエプロン付き)が言った。
「お前ぇは、テレパシストかよ! ひとの心を勝手に読むんじゃねぇっっ」
俺の叫びにリオンは、肩をすくめ小さく笑った。



「で。バラダギ様ってなんだい?」
ムライが訊ねる。
「バラダギ様は、バラダギ様だよ」
何故か俺の膝の上にちょこんと乗ったドールトンが、中華粥を食べながら答える。

(ちなみにこのとき『かゆ…ウマ……』とゆう、某SS小説の名台詞が、
 俺の頭の中でリフレインしていたことは、それは秘密です。 by人差し指を立てながら)


「バラン大佐はめったに姿を現さないの。 いっつもスピーカーから声が聞こえるだけ。
 姿も見せずに声だけで人を動かす。 まるで神様のようねって、ママが言ったの。
 だからみんなバラダギ様って呼ぶの」
 
どうやら基地司令のバラン大佐は、みんなからはバラダギ(漢字で書くと『婆羅陀魏』)様と呼ばれていうようだ。
俺達(リオン軍曹も、そこがまるで指定席かのように、自然と俺の隣に座っている。 仕事しろ!)は
初日のバラン大佐の尊大な、まるで神のような振る舞いを思い出し、クスクスと笑い合った。


「失礼します。 ムライ少佐。グエン少佐でありますか?」

 転機はいきなりやってくる。

ひとりの男が声をかけてきた。
階級章を見て、あわててリオンが立ち上がり、敬礼する。
男は尊大に返礼すると、言葉をつないだ。


「私は司令官付き士官、ヨブ・トリューニヒト中尉であります。
 おふたりのお世話を命ぜられました」


 ぐわんばらんどぼずぅぅぅん!

俺はひっくり返った。
朝食の残りをテーブルの上から吹き飛ばし。
膝の上のドールトンを空高く舞い上がらせながら。
俺はぶっ飛んだ。


  本当に腰が抜けた。



 
 ドヘェェェェッェエェェ! キタヨー! キタヨーコレ!
   コレ ドンナ死亡フラグ?  



                -つづく ……けたいなぁ







気分は第三次ソロモン海戦の戦艦「比叡」(鹿馬)

グエンの容姿(スキンヘッド等)は、>おもったこと様のご意見も受け、コミック版の方を使わせていただきました。
もちろん、その責任は、一陣の風にあります。 為念。

ドールトン嬢の容姿も、一陣の風の趣味(思惑)で、原作イラストとは髪の色が変っています。
なにとぞ、スルーしてください(伏)

 「 Lumis Eterne 」(エスペラント語)
すいません。すいません。 ごめんなさい。
この愚か者を、どうか、お許しください(土下座)

以上、今回の言い訳でした。



それと次回からタイトルを「銀トラ伝」に変えます。
変えるつもりです。 変えると思います(大鹿馬)

どうか変らぬご贔屓の程、よろしくお願いします。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.0747919082642 / キャッシュ効いてます^^