戦場のヴァルキュリア~怒りの脱出
ガリア公国にある、大きな風車が特徴の石造りの小さな街・・ブルール
一人の男が街の郊外で畑を耕し、たまに山で木を伐採しながら生活し、村人からは無口な男を変わり者として認識され、彼が会話を交わすのはちょくちょく来る近所の子供らと、パンを買いに行く店の店員だけであった。
今日も仲良い幼い兄妹が遊びきて色々話し、二人が帰った後である。
一台のガリア軍のジープが彼の家の前に止まり、意外な客に男は驚いた。
「久しぶりだなジョン」
ベレー帽を被った40歳程のガリア軍の大佐が現れた。
「お久しぶりです。中佐」
「今は大佐だよ・・ジョン」
互いに敬礼で返してから大佐は男の肩を軽くポンポンと触れた。
「それより大佐、どうしたんですか?」
「ジョン、単刀直入に言おう・・軍は君の力を欲している。」
「大佐、私の戦争は終わりました。」
「だがな、ジョン・・我が国ガリアは常に隣接する大国に翻弄される。第一次ヨーロッパ戦争のように正面で戦うだけじゃない。あの時の我々みたいな特殊部隊も平時にもまた必要となる」
「ここの空気は好きなんです。今はまだ軍に戻る気はありません・・」
「ジョン、いやジョン曹長・・もしまた戻る気が起きれば戻ってきてくれ」
元上官から渡された連絡先のかかれたメモをポケットにしまうとジープに乗り込み帰る大佐に手を振った。
そして数年後
征暦1935年ガリア公国に対して帝国が宣戦布告・・。
ガリアに対して完全な奇襲作戦となるはずだった。
しかし国境に展開していたガリア軍の部隊数は国境警戒部隊にしては多い上に練度や装備が良く、帝国軍に対して善戦しながらも物量と帝国軍のセリベリア大佐の活躍により予想以上の被害を被りながらも敵の退却により国境を越えてガリア本土に侵軍を果たす。
国境を越えて疲れた帝国軍が見た先には無残にも破壊された橋や主要な道、そして麦粒一つの食料も村人もいない廃墟の街が続いていた。
略奪を楽しもうとしていた兵士らは落胆し、テントを設営するが、設営に適した場所は瓦礫や対人や対物地雷が埋められ支援兵が昼夜撤去して何とか設営した。
そして帝国軍は見えぬもう一つの恐怖を味わう事となる。
「スープを運ぶのも命懸けだぜ」
「急がないと軍曹にどやされる」
前線部隊に食事を運ぶべく、二人の帝国兵が地面をはいつくばりながら進んでいた。
夜の月明かりもなく、辺りは暗闇であった。
彼らの幸運はその暗闇により狙撃で撃たれて死んだ仲間の遺体を見ずに済んでいる。
遺体は夜間に回収しに行く事が多い。
昼間では100%撃たれ、夜間でも4割は撃たれて遺体となるか、負傷する。
「ガリア軍のゲリラ部隊がかなり後方に潜んでいるって話だ」
「そうかよ、まあ俺達みたいな食糧運搬の奴らにも鉛玉が飛んでくる」
「昨日は例の物資集積施設や兵舎が吹き飛ばれて当直の将校が殺された。一昨日は前線視察に来た参謀本部の少佐と下士官数名が撃たれたって話だ。」
「俺達は下っ端一等兵でよかったぜ」
何とかはいずり回りながら前線の塹壕陣地に来たがやけに静かだ。
「見張りはどうしたんだ?」
「さあな」
古参の一等兵は一応拳銃に抜いてから辺りを見回すと、一人の歩哨が立っていた。
「何言ってやがる、歩哨がいたじゃないか」
「そうか・・いやはや驚いたぜ」
すぐに拳銃をしまってから合言葉を叫んだ。
「よう、合言葉は栄光だ!食糧コマンドだ。ぬるいスープと硬いパンを持ってきたぜ」
しかし歩哨は何のリアクションもない、軽く肩たたくといきなり歩哨が倒れた。
首筋に深く突き刺さったナイフに驚き一等兵は拳銃を抜きながら一緒にきた相棒に声をかけようとしたが、いきなり口を塞がれてナイフで喉を掻き切られた。
そして数秒もしない内に相棒が掠れた銃声で倒れる音が聞こえた。
「こちらキャットワン、玄関の鍵を外した。玄関の鍵を外した」
ナイフを引き抜きながら、顔にドウランを塗り付けたジョン曹長が通信機で仲間に指示を出してから数名の部下を残して更に敵後方に進出していく。
一時間後ガリア軍の一群が通過して、火災や爆発により混乱する敵拠点に向かっていく。
彼らガリア軍特殊部隊の活躍はガリア義勇軍の第7小隊やガリア公国軍422懲罰部隊と以上の戦果を上げたが、特殊部隊故に公式には残っていない。
戦後
ガリア戦争で帝国の捕虜となったガリア軍人らが捕虜収容施設より送還されずに帝国本土にている事が判明。
ジョン・ランボー曹長はトラウトマン大佐らガリア軍の特殊部隊と共に救出に向かう事となる。
この件でダモン将軍は捕虜の帰還で沸き起こる国内世論の高まりや自身の保身からガリア特殊部隊の計画を密告する。
それによりジョン・ランボーを残し作戦に参加したほとんどの隊員が帝国の捕虜となってしまう。
手足を縛られたトラウトマン大佐は帝国軍の拷問係に毎日毎日責めされ続けた。
“奴は一体何者なんだ!”
「奴は、生きるためならヤギの吐いたモノでも平気で食べることができる」
仲間のピンチもジョン・ランボーの活躍により捕虜共々全員が帰還する。
“まだ捕虜になっている奴らの場所は知っているだろう!!全員必ず帰還させろ。さもないと貴様を必ず殺す”
傷だらけでマシンガン片手にダモン将軍に銃口を向けて脅して約束させた。
“命をかけて戦った彼らの望み。俺たちがこのガリアを愛するように、ガリアもまた俺達を愛してほしい。それが望みだ。”
コーデリアにそう言い残してランボーはどことなく姿を消した。