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鳥取

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東日本大震災:今、やるべきこととは 記者が見た被災地の姿 /鳥取

 東日本大震災が発生した11日、たまたま仙台市内にいた。それから約5日間、主に宮城県庁で取材にあたった。被災地では今も行方不明者が多数おり、避難生活での死者も出ている。一人でも多くの人が救われ、一日も早い復興を願いつつ見てきた限りの被災地の姿を伝えたい。【宇多川はるか】

 ◇実際に起きた大災害

 ■想像を越えた

 耳を疑うような被害の大きさを前に同県庁では重い議論が連日続いた。発生から3日たった14日の同県災害対策本部の会議。担当者が南三陸町で約1000体の遺体が確認されたと報告し、町から「土葬にしたい」という要望を受けていることを報告した。とても手が回らない膨大な数の遺体。衛生面などを考えての要望という。

 同県警の竹内直人本部長が「検視もせずに土葬など、とてもそんなことできない。身元確認を粘り強くやっていくしかない」と声を荒げた。

 同県はその日、検視する立場を崩さなかった。町と竹内本部長のどちらが正しいのか、私には分からなかった。

 空前の規模となった被害を数日間で把握することはとうてい不可能だった。津波で水没した地域も多く、市町村からの連絡は滞った。石巻市は発生3日後の14日になって、住民約16万人のうち約11万人が避難していると県に報告。15日になっても1000人単位の孤立地域が明らかになった。

 30万人を超える避難者で避難所は飽和状態。遺体の安置場所の確保も困難を極めた。県警は検視にあたる医師らのためのゴム手袋、ドライアイス、遺体にかける毛布の不足を訴えた。ひつぎも足りない。だれも想定していなかった途方もない被害に備蓄などあるはずがなかった。

 ショックと困惑を隠せない同県職員は多く、過労で倒れる人も出た。

 ◇人々を襲う混乱と不安

 ■避難生活

 同県庁の庁舎内にも被災者が次々と身を寄せた。外からの冷たい風が吹き付ける1階ロビーは、新聞紙にくるまって寒さをしのぐ人たちであふれた。頭を抱えてうずくまる高齢の男性。「大丈夫だよ」と言い合い、泣きながら抱き合う若い女性たち……。庁舎はどこも混乱と不安の表情でいっぱいだった。

 発生から3日たつと、各避難所から仮設トイレや歯ブラシ、生理用品などの要望が相次いだ。備蓄すべきは、水や食料だけでないと思い知った。

 仙台から鳥取への帰途で立ち寄った新潟県三条市の市総合福祉センターでは17日、福島第1原発の事故を受けて福島県南相馬市から避難してきた高齢者ら約260人が大部屋で身を寄せ合っていた。

 1日に小さなおにぎり1つと水一杯でしのいできたという高齢者が多かった。避難所を転々とし、ここが3カ所目という女性(77)は「ここはお風呂も入れて食事もあり、温かくて天国」と笑みを見せた後、「帰りたい。いつ帰れるのか分からないのが一番つらい」と疲れ果てた表情を浮かべた。先の見えない避難生活には、物資だけでは足りない。こころのケアが欠かせない。

 ■「72時間」

 被災者の生存率が大きく下がるとされる「発生72時間」を迎えた14日。村井嘉浩知事は会見に臨み、今後も人命救助を最優先する方針を示した。

 「72時間が過ぎても生存している可能性はある。一人でも多くの人を救いたい。最後まであきらめないので、気を強くもってほしい」と村井知事は呼び掛けた。「助かった命を守ることに重点を置くべきだ」という考え方もあったが、村井知事は「行方不明者の捜索が最優先。次の段階で避難者をより良い場所に移す」との方針を明示した。

 危機時の首長の判断の重さを感じた。

 ■支援受け入れ

 同県災害対策本部には、全国各地からの支援の申し出が次々と寄せられている。鳥取からも支援の動きがあることに胸が熱くなった。一方で、避難所や遺体安置所の確保も困難な中、「ボランティアをどこの施設で受け入れようか……」と同県職員は頭を悩ませた。ボランティア活動でガソリンが減少する懸念もあった。

 物資が不足し、被災者の疲労もたまる中、支援の輪は確実に被災地を救うと思う。ただ、善意からくるものでも、被災地の状況に即していなければ、被災地の負担になりかねない。

 ◇災害時の砦は自治体

 ■鳥取ならば…

 「この地震が鳥取で起こったら、どうなっていたのだろう」という思いが常によぎった。

 宮城県は地震発生直後から、1日数回、県幹部のほか、県警、自衛隊、消防など関係機関が一堂に会す災害対策本部会議を公開で行ってきた。ほかにも約2時間ごとに報道機関向けのレク(説明)を行い、対策本部に入った情報をすべて個条書きにして説明した。鳥取県だったら、情報を即座に共有できただろうか。

 また、自家発電していた病院で燃料切れが深刻な問題になった。道路整備が遅れている鳥取で同じことが起こったら、各病院は燃料の運搬ルートを確保できるだろうか。県と市町村との災害時の連絡手段は整っているのだろうか。発生72時間で平井伸治知事だったらどんな言葉を発しただろうか。

 未曽有の災害は実際に起きた。災害時、自治体が砦(とりで)となる。被災地支援のためにも自治体自らの強じんな防災体制構築に向けて総点検が必要だと思った。

毎日新聞 2011年3月19日 地方版

 
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