「東日本巨大地震」

東日本巨大地震

2011年3月17日(木)

米メディアが見た東日本巨大地震

米メディアの手薄な対日取材体制を大震災が襲った

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 ニューヨーク・タイムズでかつて東京特派員を務めたコラムニスト、ニコラス・クリストフ記者は、地震発生直後の3月11日付けで、1995年の阪神淡路大地震を取材して目撃した日本人の対応を引き合いに出して、こう書いた。見出しは、「Sympathy for Japan, and Admiration」(日本への同情、そして尊敬の念)。

 「これから数日間、日本を見守ることで、私たちは何かを学ぶこと請け合いだ」

 「地震が起こった後の日本政府や行政の対応は、後手に回るだけで話しにならない。だが、事を処するに当たって日本の一般市民が示した弾力性とストイシズム、規律正しさには驚くべきものがある。日本語に『Gaman』(我慢)という言葉がある。英語では同じ意味の言葉はないのだが、あえて言えば『Toughing it out』といった意味だろうか。日本の被災者は驚くべきGamanをもって、秩序を守っている。あの大地震の後、水や食糧を求める長い列に黙々と並ぶ。自分のことは傍らに置いて、他人を助ける。商店から商品を盗み出すなどといったことは論外だ」

 「阪神淡路大地震の時に、日本でも商店から物を盗み出すものがいるか、について取材した。この最中、ものを盗まれたという商店主に出くわした。私が『こんな時にものを盗む日本人がいることをどう思うか?』と聞くと、その商店主は驚いたような顔して答えた。『誰が、日本人が盗んだ、と言ったかい。盗んだやつは外国人だよ』。」

 「今ウィスコンシン州やワシントン州で起こっている激しい政治論争やデモとは対照的に、日本人は一致団結して、この国難に立ち向かうだろうと私は予見する。我々アメリカ人は深甚から日本の方々に同情申し上げる。それと同時に、まもなく我々が目撃するはずの日本人の弾力性と我慢強さに最大級の尊敬の念を送りたい」

 クリストフ記者が先導役になったのか。第一報に続く米メディアの記事は、日本人の忍耐強さと規律正しい対応に集中した。

 もっとも、大惨事に直面した日本人の対応に対する欧米メディアの驚きは、阪神淡路大地震の時に始まったわけではない。関東大震災を取材したイギリス人特派員の記事は、今読んでも、通じる。100年たった今でも変わらないものなのだ。ただ日本人自身が気づかないだけだ。

「地震・津波に最も備えてきた日本」という揺るがぬ評価

 今回、さらに別の角度からも日本への称賛の声が出てきた。

 「地震・津波対策には他のどの国よりも万全を期してきた日本ですら、このような悲惨な事態になった。これが他の国であったら惨事はこの程度ではすまなかっただろう」(CNNの人気アンカーマン、アンダーソン・クーパー記者)

 技術大国・日本の技術をもってしても、今回のような地震・津波に立ち向かうことはできなかった、という認識だった。

 3月15日現在(米西海岸夏時間)、東京電力福島第一原子力発電所での炉心溶融事故をめぐってメルトダウンの可能性が、米メディアでも最大の関心事になっている。

 だが、今回の事故を「旧ソ連チェルノブイリ原発事故の再来」と危機感を煽っている一部欧州の報道に比べると、米メディアは極めて冷静沈着な報道に終始している。

 日本の科学技術に対する絶大なる信頼があるためだろう。

 3月14日付けのワシントン・ポストは、「If the Japanese can't build a safe reactor, who can?」(もし日本人が安全な原子炉を造れないのなら、いったい誰が造れるのか)という見出しで、日本への信頼感を表明している。筆者は、アナ・アップルバウム記者だ。

 「日本の原発は、細心の注意と精度で造られている。さらに、世界で唯一の被爆国である日本は、能力においても、法制度においても、規制においても、他のどの国をも上回る完璧さを持っている。もし優れた能力と技術力を持つ日本人が、完璧なほどに安全な原子炉を造れないとしたら、いったい誰が造れるだろうか」

 そして同記者は、こう付け加えて、筆を置いている。

 「今回の事故が大事に至らないことを祈るのみだ。ここ数日、自らへの危険を省みず、核関連施設で大災害を防ごうと働いている技術者の方たちに敬意と尊敬の念を表わしたい。もしこの危機を回避することができる者がいるとすれば、それは日本人しかいない」

福島原発のメルトダウン危機では政府の対応の遅さに批判

 もっとも、すべてが褒められているわけではない。

 緊急事態宣言が出された福島第二原発の一号機をめぐる対応で、菅政権は後手に回った。それに噛み付いたのは、フォックス・ニューズが特派したアンカーマン、ジミー・コルビー記者だ。

 「周辺住民に対する避難範囲が10キロ圏から20キロ圏へとコロコロ変わった。実際に爆発が起きてから発表まで2時間もかかった。危機管理がちぐはぐだ」

 同記者にのコメントに対して、元ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長だったジョン・バッシー氏がスタジオから相槌を打った。

 「日本人はバッドニュース(悪いニュース)を、少し間をおいて発表する傾向がある。これは今に始まったことではない。それよりも米空母の救援を受け入れた点に注目すべきだ。阪神淡路大震災の時には、地元の革新系市長が反対して、救援に駆けつけようとした米空母の入港を拒否した。今回は、それだけ被害大きくて、日本だけでは手に負えないからだろう」

 今後福島原発の動向次第では、アメリカのメディアの報道にも微妙な変化が出てきそうだ。

■変更履歴
記事掲載当初、小見出し「副産物的に日本の「今」がすべてあからさまになった」の後、2段落目「そうした中で新聞は」としていました。「そうした中でウォールストリート・ジャーナルは」と修正しまう。[2011/03/17 15:30]



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著者プロフィール

高濱 賛(たかはま・たとう)

高濱 賛=在米ジャーナリスト。米パシフィック・リサーチ・インスティテュート所長。元読売新聞ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。1995年からカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院客員教授、1998年から同上級研究員。「中曽根外政論」「アメリカの歴史教科書が教える日本の戦争」など著書多数。


このコラムについて

東日本巨大地震

3月11日午後、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の極めて強い地震が起き、宮城県北部で震度7の烈震を観測。過去最大規模の地震災害となった。大きな被害の出た東北、関東地方などの被災地ではライフラインが破壊され、都市機能が回復するまでには長い時間がかかる見通しだ。

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