きょうの社説 2011年3月19日

◎センバツ開催 経済の「停電」阻む妥当な判断
 東日本大震災の影響で、全国各地で開かれる予定だった文化やスポーツのイベントが相 次いで中止されるなか、伝統の第83回選抜高校野球大会の開催が決まった。東京電力の計画停電を考慮しなければならない首都圏などでは、各種大会の自粛はやむを得ない措置とも言えるが、被害を受けなかった地域にまでイベントを自粛する動きが広がれば、停滞感がまん延し、それこそ、社会を支える経済活動の「大規模停電」にもつながりかねない。そうした意味で「センバツ」開催は妥当な判断と言えよう。

 大震災の影響は、シーズンを迎えるスポーツ界に広範に及び、プロ野球では、被災地の 仙台に本拠地を持つ楽天を抱えるパ・リーグが、開幕を4月12日に延期した。サッカーのJリーグも、3月中の公式戦を中止し4月の開催も第2週以降にずれ込む方向だ。文化イベントではファッションの「東京コレクション」なども中止された。大震災で物資が欠乏する被災地への配慮や、放射性物質の拡散の恐れなどを考慮すれば、無理からぬところもあろう。

 こうした中で可否が注目されていたセンバツには、仙台にある東北高校が、開催されれ ば出場する意向を示していた。被災のダメージを背負いながらも、懸命にプレーするふるさとの高校球児の姿は、傷心の被災者たちの気持ちを前向きにさせる力になるに違いない。被害を受けなかった地域では、被災地のイベントの代替開催を受け入れるぐらいの支援の姿勢があっていいのではないか。

 かつて終戦から約2カ月後に金沢で始まった第1回現代美術展は、敗戦のショックと飢 餓感が漂い「美術や文化で、めしが食えるか」と言われた時代に、あえて心の豊かさを求めて開催され、荒廃した人々の心を潤し、戦後の復興に希望を与えた。

 直接的な被害を受けなかった北陸などでも、いたずらに自粛傾向に歩調を合わせるので はなく、被災者の心情を思いやり、復旧活動に影響が及ばぬよう配慮しながら、多くの人が楽しめる文化、スポーツイベントは、できるだけ開催していきたい。

◎円高協調介入 投機筋への「警告」になった
 先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議が、急激な円高を阻止するため、円売 りの協調介入で合意し、即実施に移したことは適時、適切な措置である。大震災に見舞われた日本経済が、投機による円相場の乱高下でさらなる打撃を受ければ、世界経済の脅威になりかねない。今回の協調介入は、そうした事態を回避するG7の意思を示すものであり、為替市場を翻弄(ほんろう)する投機筋への強い「警告」となる。

 世界経済は、東日本大震災と福島原発危機による日本経済の先行き不安だけでなく、中 東・北アフリカの政情不安というリスクも抱えている。国連安全保障理事会がカダフィ政権に対する軍事力行使を事実上認める決議を採択したことで、リビア情勢は重大な局面を迎えており、原油市場の不安定化懸念も増している。金融や商品などの市場の安定化は各国の共通利益と考え、今後とも国際協調の姿勢を維持してもらいたい。

 戦後最高値を更新した今回の円急騰は、日本企業が海外資産を円に替えると読む投機筋 の円買いが主因とみられる。市場経済は投機的行動が付きものながら、行き過ぎた投機による市場のかく乱は国際協調で抑制すべきである。

 昨年秋の円高で日本が単独介入を行ったとき、欧米各国は批判的であった。政府による 為替市場の操作は控えるべきだという建前より、むしろ景気回復のため自国の通貨安で輸出を伸ばしたい思惑が各国にあったからである。

 しかし、日本経済が震災と異常な円高の二重苦で疲弊し、日本からの高度な生産財、資 本財の輸出が滞ることになれば、世界経済も困る。日本経済が深手を負えば、世界経済も痛手をこうむるのであり、G7が非常時という認識を持ち、為替市場安定化の「切り札」ともいえる協調介入で投機筋をけん制したのは、日本として歓迎すべき妥当な措置である。

 G7の合意文には「日本の経済と金融セクターの強靱(きょうじん)さへの信認を表明 する」とある。経済の底力を発揮することはむろん、日本政府が国際社会の信認を失わないことが今、大変重要である。