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2011年3月19日(土)付

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大震災予算―危機対応へ大転換せよ

未曽有の大震災に原発の大事故が重なり、被害が拡大している。被災地支援に全力を注ぎ、復興へとつないでいくには財源の手当ても急ぐ必要がある。政治全体が対立を克服し、危機に正面から挑む財政への転換[記事全文]

ボランティア―拠点づくりを急ぎたい

東日本大震災から1週間がすぎた被災地は、真冬のような寒さのなかだ。生活の基盤を根こそぎ奪われた人々は、文字どおり着の身着のままで避難所に身を寄せている。救援物資はなかな[記事全文]

大震災予算―危機対応へ大転換せよ

 未曽有の大震災に原発の大事故が重なり、被害が拡大している。被災地支援に全力を注ぎ、復興へとつないでいくには財源の手当ても急ぐ必要がある。政治全体が対立を克服し、危機に正面から挑む財政への転換をただちに合意しなくてはならない。

 まず急ぐべきは人命救助や被災地支援である。当座は今年度予算の予備費約2千億円と、新年度予算の予備費など1兆円余りで、何とか対応していくしかないだろう。

 だが、被災地は東日本の広域にわたる。救援と復興を支えるには、とうてい足りない。巨額の補正予算が必要とならざるをえない。

 被害額約10兆円と言われる阪神大震災では対策費として総額3兆円超の補正予算が組まれた。今回は与党内から「10兆円超の補正」の声も出る。まだ被害の全容がわからないなかでは、見通すことすら難しい。それでも阪神大震災を大きく上回る規模になるのは間違いないところだ。

 財源確保には思い切った規模の国債発行が避けられない。それに先立ち、まず新年度予算の赤字国債発行を認める特例公債法案を成立させるのは当たり前のことだ。

 与野党はこの危機を克服するため、大局的な判断に立って力を合わせねばならない。予算と関連法案をすみやかに成立させ、被災地の自治体や救援活動にあたっている人々の不安を取り除いてもらいたい。

 当然、政府は子ども手当や高速道路無料化、農家の戸別所得補償などのマニフェスト予算を全面的に見直すべきである。予算編成の前提となる経済社会の状況が、大震災で一変してしまったのだ。今は被災地復興にできるだけ多くの財源を回すためにも、削れるものは大胆に削るときだ。

 国債の追加発行をしても財政を破綻(はたん)させない、という決意を世界の市場関係者に示す必要もある。もともと借金頼みの予算に膨大な赤字を積み上げて財政が信用を失えば、やがて国債相場が急落して金利が上昇する危険がある。それではかえって経済復興の足を引っ張ってしまいかねない。

 自民党の谷垣禎一総裁が言及した「復興支援税」も一案だが、いずれ消費税や所得税を含む税制の抜本改革で負担を分かち合う、との意思を国民全体で共有することが不可欠だ。

 外国為替市場では大震災を巡る投機筋の思惑から一時、戦後最高値となる1ドル=76円台まで円高が進んだが、主要7カ国(G7)による協調介入で相場は落ち着いた。危機につけこむ動きに主要国が足並みをそろえて対応したことは評価できる。

 大震災に決然と立ち向かう姿を、財政運営でも内外に見せねばならない。その責任が政府と国会にはある。

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ボランティア―拠点づくりを急ぎたい

 東日本大震災から1週間がすぎた被災地は、真冬のような寒さのなかだ。

 生活の基盤を根こそぎ奪われた人々は、文字どおり着の身着のままで避難所に身を寄せている。救援物資はなかなか届かず、暖をとるための毛布も、ストーブも不足している。

 いますぐにでも駆けつけ、被災者を手助けしたい。いてもたってもいられない気持ちの人も少なくないだろう。

 しかし、被災した多くの自治体では職員も津波の犠牲になり、受け入れ態勢が整っていない。

 災害救援で実績のあるNGOなどはすでに活動を始めているが、ボランティアを志願する人はまず、自分の経験や能力を見極めて欲しい。宿泊施設や食糧が足りない現場で何ができるか。

 被災地に受け入れ態勢が整うまでは地元でできることを考えてみてはどうだろう。寄付を募ったり、毛布や衣服を集めたりすることも大切だ。

 ボランティアを志す人が十分に活動できるよう、被災地に拠点づくりを急がなくてはならない。

 そこで、被災地外の自治体の社会福祉協議会に期待したい。派遣の窓口となる協議会が被災地に乗り込み、受け入れ態勢を自らつくるのだ。活動実績のある民間団体が合流すれば支援の厚みは増す。そこに意欲のある人たちが加わればいい。

 参考になるのが兵庫県社会福祉協議会の活動だ。阪神大震災を経験した県庁OBや医師、柔道整復師ら約80人の先遣隊を18日、宮城県に送った。

 被災者のニーズを調べ、現地で受け入れ窓口となって、今後の本格的な派遣につなげる構えだ。

 先遣隊を組織した室崎益輝・関西学院大教授(都市防災)のもとには、学生たちから「何かさせてください」というメールが相次いでいる。大半は救援活動の経験がない若者だ。

 水や寝袋などは持参し、被災地に負担をかけない。被災した人が何を求めているのか、必ず相手に確かめてから行動する。勝手にことを進めてはいけない。室崎さんは学生たちに説く。

 ボランティア活動に単位を与える大学は少なくない。各地の大学は東北の大学と連携し、学生らが交流しながら支援活動を長期に続ける仕組みづくりに取り組んではどうか。

 多感な若者たちの経験は、きっと将来の生きる力にも結びつく。

 会社員らもボランティア休暇などを活用して救援に乗り出す時期を探ってほしい。企業も社員の意欲を後押しすることだ。

 社会経験が豊富なシルバー世代の力も役立つに違いない。

 阪神大震災の1995年は「ボランティア元年」といわれた。共助の精神が飛躍する年として、2011年を刻みたい。

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