2011年03月19日02時18分
放射線の妊婦(胎児)への影響 - 安田洋祐
3月13日のニューヨークタイムズに、「Radiation and Pregnancy」(放射線と妊娠)という衝撃的な記事が掲載されました。(リンク。情報を提供して下さった経済学者の下松氏に感謝します)この記事では、米コロンビア大学のDouglas Almond准教授(研究用ウェブサイトはこちら)らによる以下の学術論文を引用しながら、
・成人への健康被害が生じないとされている微量の放射線であっても、胎児に悪影響が生じる危険性がある
・この科学的知見を踏まえて、日本政府が妊婦の放射線被害に対してより強い警鐘を鳴らすべき
と訴えています。
"Chernobyl's Subclinical Legacy: Prenatal Exposure to Radioactive Fallout and School Outcomes in Sweden"
by Douglas Almond, Lena Edlund, Marten Palme, The Quarterly Journal of Economics, 124 (4): 1729-1772, 2009.
(2009年1月段階でのワーキング・ペーパーはこちら、2007年9月にNBERに掲載されたバージョンはこちらから、それぞれダウンロードできます)
論文要旨は次のとおり:
本論文は、チェルノブイリ原発事故が発生した後にスウェーデンで生まれた子供たちのデータを使った実証研究で、以下の事実を明らかにしています。
・原発事故当時、妊娠8-25週目を迎えていた子供達は、中学校における学術テストの得点が(統計的に)有意に低い
・数学での得点が特に低くなっており、認識能力への悪影響が生じていると考えられる
・スウェーデン国内で放射線量が多かった地域で生まれた子供たちの得点が、全国平均よりも約4%ほど低くなっている
・しかし、学術成績以外の健康への悪影響は観察されなかった
スウェーデンは、チェルノブイリから約500マイル(800km)離れています。当時のデータに基づく放射線拡散のシミュレーション(リンク)を見ると、確かにこの地も放射線に襲われていることが確認できますが、汚染量は比較的軽微にとどまっています【註】。
実際に、当時のスウェーデン政府も放射線が人体に影響を与えるものではないとアナウンスしていました。しかし、Almondらの研究によって、このような軽度の放射線被爆であっても、妊婦(胎児)に悪影響が生じる危険性があることが明らかにされたのです。
本論文は、経済学のトップジャーナルの一つである、Quarterly Journal of Economicsに2009年に掲載された、筋金入りの学術論文です。
現在、福島の原発事故によって生じている放射線が、すでに妊婦へ影響を及ぼすレベルであるのか、あるいはどの程度深刻な影響を及ぼし得るのか、正確なところは私には分かりません。
しかし、本論文が明らかにした学術的成果を踏まえて
・成人に健康被害が及ばない量の放射線であっても、胎児の将来の認識能力に悪影響が生じ得る
・したがって、妊婦(特に妊娠8-25週)は十分に注意する必要がある
という危険性が存在することは、できるだけ多くの方々ーとりわけ妊婦の皆さんーが把握しておくべきではないかと思います。
現在、私のチェックした限りでは、放射線が妊婦(胎児)へ与え得るこの悪影響は、国内大手メディアでは一切取り上げられていないようです。
本稿をご覧になった方は、ぜひ一人でも多くの周りの方々に、記事の内容をお伝え頂ければ幸いです。どうか、ご協力お願い致します!
【註】スウェーデン国内で記録された最も高い放射線量は約1000ナノシーベルト/時(=1マイクロシーベルト/時)で、これはチェルノブイリから約1000マイル(1600km)離れたNjurundaという町で検出されました。以下に、Njurundaの放射線量のグラフを転載させて頂きます。
(安田洋祐 政策研究大学院大学助教授)
・成人への健康被害が生じないとされている微量の放射線であっても、胎児に悪影響が生じる危険性がある
・この科学的知見を踏まえて、日本政府が妊婦の放射線被害に対してより強い警鐘を鳴らすべき
と訴えています。
"Chernobyl's Subclinical Legacy: Prenatal Exposure to Radioactive Fallout and School Outcomes in Sweden"
by Douglas Almond, Lena Edlund, Marten Palme, The Quarterly Journal of Economics, 124 (4): 1729-1772, 2009.
(2009年1月段階でのワーキング・ペーパーはこちら、2007年9月にNBERに掲載されたバージョンはこちらから、それぞれダウンロードできます)
論文要旨は次のとおり:
We use prenatal exposure to Chernobyl fallout in Sweden as a natural experiment inducing variation in cognitive ability. Students born in regions of Sweden with higher fallout performed worse in secondary school, in mathematics in particular. Damage is accentuated within families (i.e., siblings comparison) and among children born to parents with low education. In contrast, we detect no corresponding damage to health outcomes. To the extent that parents responded to the cognitive endowment, we infer that parental investments reinforced the initial Chernobyl damage. From a public health perspective, our findings suggest that cognitive ability is compromised at radiation doses currently considered harmless.
本論文は、チェルノブイリ原発事故が発生した後にスウェーデンで生まれた子供たちのデータを使った実証研究で、以下の事実を明らかにしています。
・原発事故当時、妊娠8-25週目を迎えていた子供達は、中学校における学術テストの得点が(統計的に)有意に低い
・数学での得点が特に低くなっており、認識能力への悪影響が生じていると考えられる
・スウェーデン国内で放射線量が多かった地域で生まれた子供たちの得点が、全国平均よりも約4%ほど低くなっている
・しかし、学術成績以外の健康への悪影響は観察されなかった
スウェーデンは、チェルノブイリから約500マイル(800km)離れています。当時のデータに基づく放射線拡散のシミュレーション(リンク)を見ると、確かにこの地も放射線に襲われていることが確認できますが、汚染量は比較的軽微にとどまっています【註】。
実際に、当時のスウェーデン政府も放射線が人体に影響を与えるものではないとアナウンスしていました。しかし、Almondらの研究によって、このような軽度の放射線被爆であっても、妊婦(胎児)に悪影響が生じる危険性があることが明らかにされたのです。
本論文は、経済学のトップジャーナルの一つである、Quarterly Journal of Economicsに2009年に掲載された、筋金入りの学術論文です。
現在、福島の原発事故によって生じている放射線が、すでに妊婦へ影響を及ぼすレベルであるのか、あるいはどの程度深刻な影響を及ぼし得るのか、正確なところは私には分かりません。
しかし、本論文が明らかにした学術的成果を踏まえて
・成人に健康被害が及ばない量の放射線であっても、胎児の将来の認識能力に悪影響が生じ得る
・したがって、妊婦(特に妊娠8-25週)は十分に注意する必要がある
という危険性が存在することは、できるだけ多くの方々ーとりわけ妊婦の皆さんーが把握しておくべきではないかと思います。
現在、私のチェックした限りでは、放射線が妊婦(胎児)へ与え得るこの悪影響は、国内大手メディアでは一切取り上げられていないようです。
本稿をご覧になった方は、ぜひ一人でも多くの周りの方々に、記事の内容をお伝え頂ければ幸いです。どうか、ご協力お願い致します!
【註】スウェーデン国内で記録された最も高い放射線量は約1000ナノシーベルト/時(=1マイクロシーベルト/時)で、これはチェルノブイリから約1000マイル(1600km)離れたNjurundaという町で検出されました。以下に、Njurundaの放射線量のグラフを転載させて頂きます。
(安田洋祐 政策研究大学院大学助教授)
池田信夫氏を中心とした"言論プラットフォーム"。
「使える経済書100冊特集ページ」
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