この作品は旧題「今更だけどシスプリをえげつなくしてみた」というチラ裏に投稿していたものを
オリジナルの一次作品として編集しなおしたものです。
そのため、主人公の妹にあたる人物たちの兄に対する呼び方がどっかで聞いたことのあるものになっています。
以前投稿していた時に、二次創作よりも一次創作としての方が読みやすいという意見をもらったので
修正した次第です。
この作品には以下の要素を含みます。苦手な方、許容できない方はまわれ右を推奨します。
・15禁程度の要素を含みます。
・中二的要素をかなり含みます。
・主人公は最強ではありませんがかなり強い設定です。
・ハーレム的要素を含みます。
・不定期更新
・独自の解釈の宗教感とかも含むかもしれません。
(この作品内の宗教や、それに準ずる団体は実在するものとは何の関係性もありません。あくまでフィクションです。)
・近親婚や異類婚といったタブー的要素を含みます。
・無駄に主人公の妹の位置づけの人間が多数出てきます。
以上の要素が大丈夫という方はお進みください。
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木々が茂った森の中。
空に浮かぶ月の光は、重なり合う葉に遮られて地面までは届かない。
その暗闇の中を一つの影が疾走していた。
まるで修行僧のような、ぼろぼろの格好に大きく長い数珠を首にかけた男。
しかしその表情はとてもではないが悟りを開いたような顔には見えなかった。
それは背後から迫るものから与えられる死のイメージからくるもの。
恐怖と、逃げなければという焦燥感。
焦燥と恐怖が男の表情をこわばらせている。
ただ森の中には男が駆けることでできる足音と、葉や枝が彼の体にあたり擦れる音。
なにより荒く乱れた呼吸音が響く。
前方がよく見えない暗闇の中、葉枝が自身の顔や体を傷つけるのをいとわずに走る。
そのような小さな傷など気にしてはいられないのだ。
もし気にして立ち止まって、後ろから迫るモノに捕まりでもすれば自分は死んでしまうのだから。
「ぜ、はぁ、はぁ、・・・」
心臓が爆発しそうなほどに早鐘を打っている。
耳に聞こえる自身の乱れた呼吸がより焦燥感をあおり、恐怖心を高め、より痛いほどに鼓動する悪循環。
アレがどこまで追ってきているのか後ろを振り返って確認したい。
しかしその動作で生じる小さなタイムラグが何倍も自分の死ぬ確率を高めることになるは明白だった。
だから男はひたすら前を向いて走った。後を振りむいてはいけない。
自分の耳には、自分一人の足音しか聞こえない。
おそらく相手よりも走る速度は自分の方が早いと判断する。
相手の足音が無音なだけかもしれないが、そうでなければ既に自分は死んでいるだろう。
楽観的ではあるがそう思っていないと頭がどうにかなりそうだ。
このまま森を抜けて町の、人目の多いところまで逃げよう。
なりふりなど構ってはいられない。そこまで逃げれば、相手も一般人を巻き込もうとは思わないはず。
あとは人ごみに紛れるか、人質をとってもいい。
何か、自分が生き残る方法がみつかるかもしれない。
ただその希望にすがって男は走り続けた。
どれくらいの時間走り続けただろうか。
前方に木々の隙間から小さな明かりが見えた。
「・・・は、・・・はは・・・もうすぐ・・・だ・・・」
町が見えてきた。
逃げきる未来がすぐそこまで来ていると確信し、自然とこわばっていた頬がゆるむ。
木々の間を駆け抜け、広い空間へと飛び出した。
「は・・・はは・・・は?」
しかし森の茂みを飛び出して最初に見たものに足が止まってしまった。
いままで全速力で走っていたために慣性の力で前に倒れそうになる。
男がたどり着いたのは森の境目にある道路。
ちょうど正面、彼がいる側とは反対車線の脇に建てられた街灯の明かりの下。
そこに一人の男がもたれかかるようにして立っていた。
落ち着いたデザインのコートを羽織った十代後半と見られる青年。
その青年の瞳が、いましがた森から飛び出してきた自分を捉える。
「・・・ひぃ!?」
青年の目は冷たく、それでいてねっとりと男を見ていた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまう。
「はぁ、相変わらず詰めが甘いな、花蓮は。」
青年は一つ小さなため息をつくと、街灯に預けていた重心を取り返し、ぼやきながらもまっすぐと立ってこちらを見据えた。
コートのポケットに入れていた両手を出し、だらりと下ろす。
一見、体のどこにも力が入っていないかの様に見えるが青年の目は獲物を狙う蛇のよう。
その体勢が攻撃態勢であるのだと男は正しく理解した。
男は青年の背後に巨大な蛇の姿を幻視し、自分が一息に飲み込まれる相手の射程にいることを悟る。
それ以上に、自分ではこの化け物に勝てないことを悟った。
逃げ切れるという希望が見えたかと思えば、逃げた先には別の化け物が待っていた。
なんて悪い冗談だ、悪夢か・・・と男は思った。
しかしこれは夢などではない。そして次に聞こえてきた声に男はさらに絶望した。
「あれ、お兄ちゃん。どうしたの?」
自分が今しがた出てきた森。
そこからがさがさと音をたてて一人の少女が姿を現した。
フリルのついた品のいいシャツにロングスカート、黒髪を長く伸ばして一部だけ三つ編みをした十代前半の少女。
容姿は愛らしく、まるでおとなしい文学少女といった雰囲気だ。
しかし、ここは深夜の森の中だ。時間と場所に似つかわしくない格好をしている少女。
昼の町中にいれば違和感がないだろう普通の服装。だが今はその服装のせいで余計に異様に見える。
この時間、こんな場所に普通の少女がいるはずがない。
実際そのとおりであってこの少女は普通じゃない。
現に彼女は自分を殺そうとしている、まさに先ほどまで自分を追っていた相手なのだから。
立ち止まってしまったせいで追いつかれてしまった。
「お前のことだから、また取りこぼしたりしてるんじゃないかと思ってな。」
「もう、私だってちゃんと最後まで仕事できるよ。」
少女に兄と呼ばれた青年は少し気取ったように肩をすくませる。
その言葉に頬を少し膨らませて腰に手をあて、私怒ってますといったポーズを取る少女。
しかし本気で怒っているわけでもないようで、目はどこか嬉しそう。
「現に一人逃がしてるじゃないか。」
「大丈夫だよ、完全に逃げられる前に仕留めるから。
ほら、こうやって追い付いてるでしょ?
他は全部始末したし、あとはこの人で最後よ。」
「まぁ、そうだな。」
男をはさんで会話する男女。
その眼は互いが互いを慈しんでいるかのような優しい目をしていた。
しかしその会話の内容は物騒なもので、男は生きた心地がしなかった。
くそ、どうする?まさに前門の虎後門の狼といったところか。
どちらに向かっても勝てる気が全くしない。
「さて、あんたどうする?」
青年が男に問いかける。
「あんたは俺と花蓮、どっちに殺されたい?」
おそらく横に逃げようとしたところでどちらかが自分を殺せる位置にいる。
死にたくないのであれば前の青年か後ろの少女のどちらかを突破しなければならない。
究極の二択、ただしどちらを選んでもおそらく自分では勝てない。
だからこそのどちらに殺されたいかという問いなのだろう。
どうする?前にいる青年は得体が知れない。
どんな力があるのか、わからない。
どうする?背後の少女は、自分をさっきまで追っていた相手だ。
能力はわかっている。そう考えればまだ少女を相手にしたほうがいいかもしれない。
だが肝心のその能力が問題だ。
相対すれば逃げる前に今度こそ殺される。
ここは・・・
「くっ、・・・ぅっ、ぉおおおおおおお!!」
男は前方の青年に向かって走り出した。
首にかけていた数珠を外し振りかぶる。
その数珠は淡く光ると、棍へと変化した。
男はその棍を勢いをつけて青年に叩きつけようと振りかぶる。
そこで青年の口元がわずかに釣り上がるのを目にし、
「・・・ぐぎっ!?」
次の瞬間、気づいた時には男は顔面を掴まれ地面に叩きつけられていた。
あまりの衝撃に手から棍がどこかへと飛んで行ってしまう。
視界のほとんどを青年の掌がふさいでいる。
おそらくアイアンクロ―のような状態で抑え込まれているのだろう。
叩きつけられた後頭部が焼けるように熱い。
青年の指が顔に食い込み、めきめきと骨格が悲鳴をあげている。
「ぐっ、がぁああ!?」
圧迫され、自然と瞼が開き、眼球が飛び出しそうになる。
自分の顔から相手の手を引きはがそうとこころみるがびくともしない。
そのまま頭部を持ち上げられる。
自然と男の体も起き上がり、足がつかない高さまで中に浮かされる。
じたばたとみっともなく足を動かしてみるも地に足は付かず。
苦し紛れに青年を蹴りつけても変化は見られない。
「俺を選んだことは評価するよ。・・・だが、それだけだ。」
めりめりと頭蓋骨が歪む音に混じり、青年の声が男の耳に聞こえる。
その声を最後に男の世界から音が消えた。
ぐしゃり、と何かが潰れる音が夜の闇に響いた。
序章
街灯の明かりに照らされながら俺、加我智辰巳はため息を吐いた。
自身の右半身は、たった今頭部を握りつぶした男の返り血で染まっている。
いつからだったか、相手を殺すことに自身の感情が動かされなくなったのは。
仕事とはいえ、初めて人を殺した時は何かこう、胃液とともに湧きあがる物があったはずなのだが。
今では相手を殺したことよりも、返り血でコートが汚れてしまったことの方にため息がでる。
死体を前にして、買ったばかりのコートのことを考えてしまう自分。
随分とまぁ、一般的な感性とずれてしまったなぁと感じる。
「あ~あ、お兄ちゃんのコート汚れちゃったね。
せっかく新しく買ったばかりだったのに。」
似合っていたのにもったいない、と残念そうにする現在14歳の妹を見る。
こいつはすでに、いや、最初から誰かを殺すことに対して何の感情も抱いていないようだった。
俺が中学生のころは、さすがに何か思うところがあった・・・はず。
今の自分を一般社会から見れば異常であるとも、一応自覚している。
まぁ自覚しているからと言って自分を変えようとは思わないが。
でも、妹の花蓮はおそらく自分の異常性を自覚してすらいないのだろう。
「うふふ、最後はお兄ちゃんに取られちゃったけどちゃんと一人でもできたでしょ?」
足もとの死体を踏み越えて、暗に褒めろと上目使いでくっついてくる。
俺はとりあえず自分の胸元の高さにある花蓮の頭を、髪をすくようにして撫でてやった。
「頑張ったな~、花蓮。よくやった。」
「ふふ、はい、頑張りました。」
俺にくっついたせいで花蓮の頬に赤いものが付着する。
だが我が妹はそんなことを気にする様子もなく、嬉しそうにえへへ、とはにかむ。
あ~もう、可愛いなぁ。
このままずっとこの甘えん坊な妹の頭を撫で続けてやりたい衝動に駆られるがそうもいかない。
さっきからズボンのポケットに入れているマナーモードの携帯が、早く出ろとぶるぶると震えている。
番号を見てみれば、内閣特殊対策室の岩波さんだった。
俺は花蓮の頭を撫でるのを中断し、電話に出る。
「もしもし、加我智です。」
「ああ、辰巳君お疲れ様。岩波です。仕事の方はどうでした?もう終わりました?」
「ええ、たった今終わったところです。いつも通り後始末お願いします。」
「はい、了解。あとはこっちに任せてもう帰ってくれて構わないよ。」
「わかりました。それじゃ。」
事務的な会話を終えて電話を切る。
通話中、ずっとこっちを見上げていた妹を見る。
「さて、帰ろうか。」
「うん。」
満面の笑みで頷く花蓮。
「ねぇお兄ちゃん。車まで手つないでいってもいい?」
「うん?かまわないよ。」
「ふふ、ありがとう。」
そう言って俺の手を取り、微笑む。
この道を町の方向に少し降りて行けば、いつも通り迎えの車が待機しているだろう。
俺たち二人は、手を繋いだままゆっくりと歩き出した。
加我智家。
それは日本を昔から、霊的側面から守護してきた家。
俗に御霊三家と呼ばれるうちの一つの一族だ。
父親の源蔵は今の加我智家頭首、つまり俺は次期頭首というわけだ。
加我智は、他の二つの家と比べ戦闘に特化している面がある。
それはひとえに一族の血に宿る異能の力のせいだ。
加我智の血を色濃く受け継ぐ者には、異能を持つ者が多い。
人によって違うがそれは火を操ったり、水や氷を操ったり、念力だったりと様々なもの。
かくいう俺も一応異能持ちである。
まぁ上記したようなわかりやすく派手なものではないが。
今現在、俺の膝の上に頭を乗せて寝息を立てている花蓮なんかは氷を操ることができる。
ちょっとうらやましい。
普通の人間と違い、何故そんな能力があるのか。
それは加我智の血には祀っている蛇の血が混ざっているからである。
白姫という蛇の神霊と代々異類婚を繰り返してきたため、その血に白姫の力を宿しているのだ。
一代に一人、加我智の男は白姫の婿となり子供をなす。
その子供は加我智の歴史が始まってから何故か女の双子ばかりである。
白姫には女しかいないためおそらくそれが関係しているのだとは思うが、そういうものとしかわかっていない。
長女は白姫の一族に、次女は加我智に引き取られ育てられる。
こうして長い間、白姫という神霊と関係を結び力をその血に宿してきたのだ。
ただ、その弊害として加我智の血が濃ければ濃いほど近親相姦願望が生まれるというものがある。
同じ血を持つ者にひどく惹かれてしまうのだ。
普通、中学生にもなればここまで兄にべったりな妹というのもないらしいが、
花蓮がこうも俺にべったりなのはもしかしたら、もしかしなくても加我智の血が原因でもあるだろう。
まぁ、俺の周りには世の中の普通とやらにあてはまりそうな奴はいないからあまりピンとこないが。
話が少しそれたな、もとの話題にもどそうか。
異能を持つが故に、加我智は日本の神霊的な事件をその力を持って解決する任を昔の帝とやらに命じられたというわけだ。
簡単に言ってしまえばオカルト的な問題を異能という暴力で片付けるのが仕事だ。
今は内閣特殊対策室というところが加我智に仕事を回してきている。
物の怪や妖といった、最近では妖怪と総称されるような化け物や、
道を誤った修験者なんかの相手が主だったんだが、国際化の影響なのか、
他所の国から流れ着いた化け物や、好き勝手に暴走する宗教活動を鎮圧する仕事もある。
今回は、暴走して犯罪に走るようになった修験者の一団が相手だった。
もっとも相手の人数が少ないこともあったので花蓮に経験を積ませるために今回は一人でさせてみた。
だから俺はあまり疲れていない。最後しか動いてないしな。
最後に逃がしそうになったものの、出来は上々と言える。
妹が仕事がだいぶできるようになったことを喜ぶべきか。
それとも殺すことに対して忌避を感じていない妹に対して悲しむべきか。
兄としては微妙ではあるけれど、加我智の者としては歓迎するべきことなのかな?
「・・・今さらか。」
俺は何となく窓の外、流れる景色の中、空に浮かぶ月を見上げた。
今日はお仕事の日でした。
しかも今回はお兄ちゃんは付いてきてくれるけど、実質一人でのお仕事。
なんでも、花蓮もそろそろ自分一人である程度できるようにならないと駄目だよー、とのことです。
一人で最初から最後まで全部するのは初めてだったから、私は最初ちょっぴり不安でした。
でもお兄ちゃんが頑張れって言ってくれたから元気が出ました。
「大丈夫、私だって一人でちゃんとできるよ!見ててねお兄ちゃん。」
そう言うと優しく微笑んで笑ってくれるお兄ちゃん。
なんだかお兄ちゃんの笑顔を見ていると胸のあたりがぽかぽかしてきます。
よーし、頑張るぞー。
私は張り切って今回の仕事場所になる森に入って行きました。
相手がどこにいるかは、千影ちゃんに借りた影千代さんが教えてくれます。
影千代さんは烏の姿をした千影ちゃんの使い魔で、探索が得意なんだそうです。
あっ、千影ちゃんというのは私の姉妹の一人です。
いろいろできるすごい子なんですよ?
服に引っかかりそうな枝や葉を、氷で作った刃で切り裂いて進みます。
影千代さんに先導してもらった先にその人達はいました。
なんだか修験道?っていうんでしたっけ?
そういう風な格好をした男の人たちが4人、火を囲んで座っています。
「誰だ!?」
その中の一人の男の人が、私に気づいて石を投げてきました。
飛んできた石を氷の刃で切り落とします。
私を見据えて、全員が素早く立ちあがり構えています。
なんだか警戒されているっぽいです。
とりあえず見つかってしまったので挨拶することにしました。
「えっと、加我智花蓮といいます。皆さんを殺しに来ました。
どうぞよろしくお願いします。」
お辞儀をして顔をあげてみると眼前に一人の男の人の拳が迫っていました。
うひゃあ、と素っ頓狂な声を出してしまいました。恥ずかしい。
びっくりしたけど、攻撃が当たる前に全面に氷の壁を作って防御に成功しました。
危ない危ない。油断しちゃいけないってこの間お兄ちゃんに注意されたばっかりなのに。
もう・・・私ってお馬鹿さんなのかなぁ?
私に攻撃が届かなかった人は後ろに飛んでお仲間の所に戻ります。
「もう、女の子の挨拶中に攻撃するなんて。デリカシーがないですよ?」
腰に手を当てて怒ってますとアピールします。
でも私の言葉なんて男の人たちは聞いていないようです。
皆武器を構えてこちらを睨んでいます。
「皆の者、油断するな。女子といえど加我智の化け物だ。」
真ん中にいるリーダーさんみたいな人がそんなひどいことを言います。
「もう、女の子に化け物だなんてひどいです。ぷんぷん。」
花蓮、泣いちゃいますよ?
でも泣く前にちょっと怒っちゃいます。さっきの不意打ちといい、私ぷんぷんです。
「くっ、何がぷんぷんだ。馬鹿にしているのか貴様!!」
先ほども私を殴ろうとした人が突っ込んできました。
なんでこの人は怒っているんだろう?
わからないけど、たぶんこの人があの中では一番失礼な人。
とりあえずお仕置きもかねて楽には殺しません。
こちらにたどり着く前に下半身を氷漬けにして動きを封じます。
「なっ!?」
驚いているようですが、すぐに氷の部分を殴りつけて壊そうとしています。
だから腕も凍らせて胴体と首から上しか動かないようにしました。
「そこでおとなしくしておいてくださいね?」
そういってもがくその人を尻目に、私と男の人たちの周囲に氷をドーム状に張って即席の檻を作ります。
これでみんな逃げられません。
他の人を殺すのを鑑賞させてからこの人はゆっくりと殺しましょう。
皆さんがびっくりしている間に足もとに氷を張って、その上を滑り他の一人の懐に入ります。
その人が私に気づきますけどもう遅いです。
下から氷の刃を一閃させます。それだけでほら、体の真ん中でまっぷたつ。
血が飛び散ると服が汚れるので断面も氷漬けにします。これで血が飛び散ることもありません。
「ぬぅ、おおおおおおお!!」
リーダーさんが棍をもって私に向かって振り下ろして来ました。
それを横に滑ってかわします。
でもかわした所に別の人がいて、棍で突いてきました。
「ひゃあ!?」
とっさに身をよじって回避します。今のはけっこう危なかったです。
私が回避している動きの間に残るもう一人が同じく棍で突こうとしてきました。
今度は大丈夫。反身をずらして避けて、すれ違いざまに相手の目に氷柱を叩きこみました。
たぶん脳まで貫通しているはずなので殺せているはず。
背後でどさっと何かが倒れる音がしているのできっと大丈夫でしょう。
でも振り返って確認はしません。目の前にまたリーダーさんがいるからです。
「はぁああ!!」
リーダーさんは横に勢いよく棍を薙ぎました。
ものすごく大きな風斬り音がして、後ろに飛んで回避したのに風圧が襲いかかります。
「きゃあ!?」
何も痛くはなかったけど、風でスカートがぶわりとめくれあがってしまいました。
急いで手でスカートを押さえます。
私は恥ずかしさでたぶん顔が真っ赤になってたと思います。
あの年でスカートめくりするなんて変態さんです。痴漢さんです。
今はいているパンツ、まだお兄ちゃんにも見せてないのに。
怒った私はリーダーさんに向かって走りました。
走りながら氷柱を数本投擲します。
そのすべてを棍棒を回転させて防がれましたが別にそれはいいです。
この人は一撃では殺しません。
相手の間合いに入る手前で横に滑ります。
いきなりの軌道の変化に相手は一瞬動きが止まりました。
その隙にもっと近づきます。私の指先が彼の手に触れるくらいまで。
それ以上は近づくことができませんでした。
また彼の棍の一撃が来たからです。私は急いで距離をとりました。
やっぱりこの人は他の人よりも強いです。なかなか懐に入れません。
さっきも私の指先が一瞬触れただけでした。でも、それで十分。
「が?・・・っ、ぎ、ぎゃああああああああああああああああああ!!」
それまで私を睨んでいたリーダーさんの表情が一変しました。
腕を押えて苦しんでいます。それはそうでしょう。
でも苦しいのは、痛いのはこれからです。
彼の左腕から真っ赤な氷柱が何本も生えてきました。
ぶちぶちと音をたてて皮膚を突き破りながら生えてくる小さな氷柱たち。
肘から下がぶらりとぶらさがった状態になりました。
「ぐひぃ、ひぎ、・・・・ぎぃいい!!」
次は左の太ももから氷柱が生え出します。
次は右の脹脛から、その次は右腕から・・・
次々と真っ赤な氷柱が皮膚を突き破って生えてきます。
でもその氷柱は彼の血液そのもので、傷口はふさがっているのでそれ以上出血しません。
「あ・・・か・・・かが・・・」
血液が氷柱になって残りの身体機能も上手く働かなくなってきたからか、叫び声が無くなってきました。
そのかわりびくびくと痙攣してます。
涎や涙や、おしっこまで漏らして気持ち悪いです。
このくらいでもういいや。汚いし。
指をぱちんっと鳴らすと彼のまだ残っていた皮膚が全てはじけ飛びました。
跡に残ったものは真っ赤な氷柱が一杯生えた何かの塊。
これでよし。あとはさっき捕まえておいた一人だけ。
「さてと・・・あれ?」
振り返って一番初めに拘束しておいた男の人の方を見ると、そこはもぬけの殻でした。
氷のドームにも穴が開いています。
「あらら、逃げられちゃった。影千代さーん。」
どうやら私が他の人と戦っている間に逃げてしまったみたいです。
失敗失敗。でもまだそんなに時間はたっていないはずなので追いつくはず。
影千代さんを呼んで案内してもらいました。
影千代さんにまた案内してもらってしばらく、私は逃げた人に追い付きました。
氷の道を作って滑ってきたので速かったです。
でも何故か追い付いてみるとそこにはお兄ちゃんもいました。
「あれ、お兄ちゃん。どうしたの?」
「お前のことだから、また取りこぼしてるんじゃないかと思ってな。」
そういって苦笑して肩をすくめるお兄ちゃん。
そんな仕草も格好いい。街灯の下に光で照らされて佇むお兄ちゃん。
なんかハードボイルドって感じがする。
その後は、結局お兄ちゃんに最後の締めを取られちゃったけど褒めてもらえました。
えへへへへ。帰りなんか車まで手をつないで、車の中では膝枕までしてもらっちゃいました。
あ~、やっぱりお兄ちゃんっていいにおいだなー・・・
初めての一人での仕事だったからか、予想以上に疲れていた私はそのまま眠ってしまいました。
次はちゃんと最後まで一人でできるよう頑張ります。