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2011年3月18日(金)付

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原発との闘い―最前線の挑戦を信じる

福島第一原子力発電所に、自衛隊員が操縦するヘリコプターが何度も、水をまいた。地上からは警視庁の機動隊員と自衛隊員が放水を試みた。原発のまわりは、漏れ出た放射性物質でひど[記事全文]

自治体の連携―被災者を支え、迎えよう

避難生活の中で、亡くなる人が出始めた。食料品も燃料も、被災地で待つ人々になかなか配れない。これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。国と力を合わせ、全国の自治体が被災地の救援を急ぐときだ。[記事全文]

原発との闘い―最前線の挑戦を信じる

 福島第一原子力発電所に、自衛隊員が操縦するヘリコプターが何度も、水をまいた。地上からは警視庁の機動隊員と自衛隊員が放水を試みた。

 原発のまわりは、漏れ出た放射性物質でひどく汚染されている。いずれも重い防護服に身を包み、被曝(ひばく)量を測りながらの、決死の作業だ。

 きのう朝から夜にかけて、原発の冷却に向けての作業を、多くの国民がかたずをのんで見守った。

 東京電力や協力会社の作業員、消防隊も、地震の発生以来、不眠不休で経験のない災厄に挑んできた。津波やこれまでの爆発で、行方不明やけがをした人もいる。さらに、第一原発の制御を取り戻すため、多くの作業員が電源の復旧作業に取り組んでいる。

 事態が少しでも好転してほしい。

 そして、まさしく生命をかけてこの難局に立ち向かう人びとの被害が、最小限に抑えられるように――。

 努力が結実することを願う。

 ひとたび重大な原発事故が起きたとき、だれが、危険をおかして作業にあたるのか。これまで突っ込んだ議論を避けてきた私たちの社会は、いま、この重い課題に直面している。

 軍国主義時代の日本や独裁国家ではない。一人ひとりの生命がかけがえがなく、いとおしい。そこに順位や優劣をつけることはできない。

 一方で、誰もが立ち向かえる仕事ではない。電気をつくり、供給することを業務とし、専門の知識と技術をもつ人。一定の装備をもち、「事に臨んでは危険を顧みず」と宣誓して入隊する自衛官。同じく公共の安全の維持を責務とする警察官。

 もちろん自衛隊や警察にとっては、およそ想定していなかった仕事だ。しかし、事態がここまで進んだいま、私たちは、そうした人たちの使命感と能力を信じ、期待するしかない。

 危険な作業はこれから長く続く。この先も、苦渋の選択が求められる場面が何度もあるだろう。

 その判断をし、指揮・命令する立場にある人は、適切な情報に基づいた確たる覚悟が求められる。最終責任を負う政治家も同様である。

 多くの知恵を結集して様々な場合を想定し、三重四重の対応策を考え、物資を調達し、決断する。

 ここを誤り、右往左往し、あるいは責任を転嫁するような振る舞いをすれば、作業にあたる人やその家族はもちろん、国民は何も信じられなくなる。

 私たちは、最前線でこの災禍と闘う人たちに心から感謝しつつ、物心の両面でその活動を支え続けなければならない。

 電気を使い、快適な生活を享受してきた者として、そしてこの社会をともに築き、担ってきた者として、連帯の心を結び合いたい。

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自治体の連携―被災者を支え、迎えよう

 避難生活の中で、亡くなる人が出始めた。食料品も燃料も、被災地で待つ人々になかなか配れない。これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。国と力を合わせ、全国の自治体が被災地の救援を急ぐときだ。

 救援物資は全国から集まりつつある。だが、うまく運べていない。緊急車両は高速道路の通行が認められているが、「通行証がないから」と一般道へ回るトラックなども少なくない。燃料、食料品、医薬品などを積んだ車も優先して高速道路を通れることを政府などが呼びかけてほしい。

 被災地内の配送網も脆弱(ぜいじゃく)だ。道路の寸断に加え、車を動かそうにもガソリンがない。避難所が広範囲に点在していることも困難の一因だ。

 簡単に解決できることではないが、たとえば近隣の県でガソリンを補給した車を被災地内でのさまざまな物資の輸送にもっと活用できないだろうか。バスなどで、救援に当たる人や避難中の人々も多く運ぶようにすべきだ。避難所を集約・統合して物資を運びやすくすることもできる。

 寒さも襲った被災地の状況は厳しい。特に高齢者や病気の人は、衰弱や医薬品の不足が命の危機に直結しかねない。避難所から安全で暖かい地域に運び出すことも考えたい。

 医師の私的なネットワークを頼りに患者の移送を始めた病院もある。輸送手段や燃料費などは地元のバス会社や医薬品メーカーが協力した。

 だが、行き先が定まらなければ多くの人たちが避難所から出られない。カギになるのは、全国各地の自治体が積極的に動いて、とりあえず安心して落ち着ける場所を確保したり、情報を提供したりすることだろう。

 すでに自治体ごとに公営住宅などの提供を公表し始めているが、企業に研修施設や社員寮などの空室も募り、受け入れ先の情報をできる限り多く提供してほしい。全国の自治体からの情報一覧をつくり、更新する窓口の設置も検討してはどうか。

 現地の自治体は建物が損壊したところも多く、手いっぱいだ。域外から、災害復旧や自治体業務に慣れた職員を派遣して力づけることも大切だ。

 大阪府などでつくる関西広域連合は、福島、岩手、宮城の3県に対し、担当府県を決めて支援に乗り出した。岩手県への支援は大阪府と和歌山県が担う。連絡所を置き、物だけでなく人も送り込んだ。阪神大震災の経験を生かし、心のケアにも取り組む。

 緊急対応への支援態勢を土台に復興を進めるためにも、自治体間の協力は大きな力となりうる。前例にとらわれない形で全国の地域が被災地を支える工夫が求められる。

 大災害はどの地域にも起こる。助け合いの真価がいま、問われている。

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