2011年3月16日 20時5分 更新:3月17日 0時54分
東京電力福島第1原発では16日も冷却に向けて作業が続いた。陸上自衛隊は同日夕から、新たにヘリコプターで3号機に海水を投下する予定だったが、周辺の放射線数値が高かったことから断念。17日に再び実施を検討する。警察庁も放水車による作業を準備している。地上からの放水と、ポンプ車による海水の炉心への注水活動は続けられているとみられるが、冷却作業の進展状況を東電は発表しておらず、不透明さを増している。東電は同原発の緊急炉心冷却装置(ECCS)を稼働させる電力を供給するため、東北電力からの新たな送電線を設置する作業に入った。
「本当に最悪の事態になったときには東日本がつぶれるということも想定しなければならない。(東電は)危機感が非常に薄い」
菅直人首相は16日夜、首相官邸で会談した笹森清内閣府特別顧問に強い危機感を吐露した。東電と経済産業省原子力安全・保安院に任せている間に、福島第1原発の周辺は高濃度放射線に汚染された。そこまで事態が悪化するに至り、首相が「命がけの冷却作戦」を託した先は自衛隊だった。
特に危険な状態にある3、4号機のうち、原子炉格納容器が損傷したとみられる3号機に、陸上自衛隊のヘリで上空数十メートルを通過しながら機体につるしたバケットから海水を投下する作戦が練られている。防衛省は当初、数十メートル上空でホバリング(空中停止)しながらピンポイントで狙う案を検討した。それでは乗員が放射線にさらされる時間が長くなるため通過方式に切り替えたが、同省幹部は「放射能との戦いだ。通過時だと(水が拡散し)冷却効果が薄くなる」と懸念する。
陸自は大震災の発生後、大型輸送ヘリCH47Jなど16機を霞目駐屯地(仙台市)に配置し、輸送任務などに使用してきた。今回の消火・冷却作戦では、放射線量のモニタリング調査のためUH601機を先行させて飛ばし、安全を確認したうえで放水用のヘリが現場へ向かう。17日に基準値を下回る保証はなく、放水を実施に移すには「放射線が低いとウソをつくしかない」との冗談まで漏れた。
もともと防衛省・自衛隊サイドには「我々に原発のノウハウはない。防護服は核攻撃後でも活動できるようになっているが、(原子炉から放出される)高濃度の放射能には耐えられない」(自衛隊幹部)との慎重論が強い。統幕幹部は「命の保証がない。非常に危険な任務だ」と17日以降も放射線量を慎重に見極める姿勢を示す。
「ノウハウを持っているとすれば米軍しかない」(同)と米軍の協力にも期待した。しかし、大震災被災者の救助・救援に空母ロナルド・レーガンなど艦船9隻を派遣している米軍も、放射線被ばくには警戒感を隠さない。15日には消火ポンプ車2台を東電に引き渡しながら、地上からの給水活動には加わらず、海上の艦船は原発の風下にならないように配置を変えている。
「自衛隊がトライする前に、一番危険な業務を米軍にお願いしますとは言えない」。統幕幹部は16日、こう語るとともに、「今回は有事だ。最高司令官である首相の判断。『やれ』と言われればやるだけだ」と、首相から命がけの任務を命じられた重みを強調する。
15日の時点で防衛省が検討していたのは4号機の使用済み核燃料プールに核分裂を抑えるホウ酸入りの水を投下する案だった。しかし、4号機は建屋の横にしか穴が開いておらず、上空からの放水には効果を疑問視する意見も強かった。
16日朝、建屋の屋根が吹き飛んでいた3号機から白煙が上がり、菅首相は3号機への放水を指示した。同日午前、記者会見中の北沢俊美防衛相の携帯に直接電話するなど、首相の強い意向が自衛隊を動かした。北沢氏は午後の省内の会議で「首相は『最後のとりでは自衛隊』という気持ちを非常に強く持っている」と理解を求めた。【犬飼直幸、坂口裕彦】