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[15968] 魔法少女リリカルなのは  夜天の主と殖装体0号(なのはAs×オリ主+強殖装甲ガイバー) 新章突入
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/07/11 20:11
~前書き~

 どうも、京橋と申します。


 この度はリリカルなのはAsとガイバーをクロスさせた小説を書きたいと思い投稿する事にしました。0号はガイバーの中で一番好きなガイバーなので(ちなみに原作では原始人でしたが、ここではちゃんとした人です)

 もし気に入らないのであれば読まないほうが良いと思います。

 投稿期間は長くなる時もあると思いますが、頑張りますので宜しくお願いします。



 ~読むに当たっての注意点~


 この小説ではオリジナル主人公が0号のユニットを手にしている状態。

 ゾアノイドなどは出てきません。(もしかしたら出していくかも・・・)

 若干キャラの性格が変化しているかもしれません。

 主人公以外にもオリジナルキャラを出していく予定です。

 かなりご都合主義全開な部分が多いです。


 これらの要素があっても構わないと言う人だけご覧下さい。



[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第一話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/01/28 22:19












「・・・・ここは・・・・何処だ・・・」


 降りしきる大雨の中、住宅地帯の塀に一人の少年が横たわって倒れていた。少年といっても見た目は17歳ぐらいの年の青年だ。


 しかし青年は全身傷だらけ、さらに雨で出来た水溜りには彼の血がにじみ出ていた。


「ハァ・・・ハァ・・・・」


 青年の意識は朦朧としていた。それもその筈、青年は既に大量出血によって意識が途切れ始めていた。


 助けを呼ぼうにも青年の視界には誰一人として人の姿はなかった。


(もう・・・駄目なのか・・・)


 自分に冷たく打ちつける雨が徐々に青年の意識を奪うように振りつづける。青年が諦めかけていた時だった。


 一台の車が家の前に止まった。そして車から一人の女性が傘を差して車内から車椅子を取り出すと今度は後部座席から少女を抱えて車椅子に乗せた。


「それじゃあ、はやてちゃん。また今度ね」


「いつもありがとうございます、石田先生・・・ってあれ?」


 女性が少女と話していると、少女の方がこちらに気づいたのだろうか、青年の姿を見た瞬間、驚きの声を上げる。


「石田先生!あそこに人が倒れとるっ!!」


「ホントだわっ!」


 少女の声に女性は青年の方を見ると急いで駆け出して青年の傍にいく。少女も車椅子を必死に動かして青年の傍に近づいていく。


「ひっ、この人・・・体中傷だらけや・・・」


「ちょっと君、大丈夫!?しっかりして!!」


 少女と女性の声が青年の耳に入るが、徐々に聞こえなくなり、ついに青年の意識は遠ざかっていった。


 青年が最後に見た光景は、女性が携帯で何かを呼んでいる光景だった・・・・・・














_______________________________________













 
 ここは晴海街にある晴海大学病院、その病院の個室の部屋にあるベッドの上にあの青年がいた。


 全身を包帯で巻かれ、左腕には点滴のチューブが繋がれていた。そしてベッドの傍には心電図の機械が「ピッ・・・ピッ・・・」と心臓の反応を表示しつづけている。


 暫くすると部屋の扉が開き、車椅子に乗った少女がベッドに近づいていく。


「・・・・まだ、目ぇ覚まさへんのかな・・・・」


 少女は寝たきりでいる青年の顔を覗き込む。あの雨の日に出会った青年はあの後、救急車で病院に搬送され、治療を受けてこの部屋に運ばれたのは二日前・・・・・・彼は意識の戻らないまま、二日間寝たきりになっていた。


 少女はず~っと青年の顔を見ていると、ふと瞼が「ピクリ」と一瞬動いたような感じがした。すると青年の瞼がゆっくりと開き、半目の状態で少女の方を見た。


「あっ、目を開けた!!」


 少女は声を上げると急いでベッドに備えられているナースコールのボタンを押した。暫くすると少女と一緒にいた女性と数人の看護婦が部屋にやって来た。


「石田先生、目を覚ましたで!」


「君、私の言っている事が分かる?」


 石田と呼ばれる女性が青年の様子を窺う。青年は「ぼ~」と天井を見上げていたが、石田の声に首を動かして石田の方を見る。


「うん、どうやら大丈夫そう。もう心電図は必要なさそうね」


 青年の動きに対し、石田は少年の目を見たり、体の状態を確認すると心電図のスイッチを切り、青年の胸に張り付けていたコードを外す。


 そして看護婦に何か話し掛けると看護婦達は機械を運び出していき、部屋から出て行った。部屋には石田と車椅子の少女と青年だけになった。石田は動けない青年と話しやすくする為にベッドを起こすと少年は初めて口を開いた。


「あの・・・ここは?」


「ここは病院よ、君がこの子の家の近くに倒れていたのを見つけてね。酷い怪我だったのよ・・・・二日間も意識不明だったんだから・・・」


 青年の質問に石田は車椅子の少女の方を見ながら答える。青年は車椅子の少女の方を見ると頭を下げる。少女は青年につられて頭を下げる。


「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はこの病院の医師をやっている【石田】という者です。そしてこちらが・・・」


「あっ、はじめまして・・・【八神はやて】と言います」


「それで、君の名前は?」


「俺の・・・名前・・・?」


 石田とはやては青年に自己紹介し、石田に名前を聞かれた青年は何故か頭を悩ませるような仕草をする。その様子に石田やはやては不思議そうな顔をする。


「・・・・・どうかしたんか?」


「いや・・・俺の名は・・・零(レイ)」


「零君か、苗字は?」


「苗字?・・・・分からない・・・」


『えっ!?』


 零の答えに石田とはやては驚く。零は何とか思い出そうと自分の手を見て考えるが、何故か何も思い出せない。


「分からない・・・名前以外の事を・・・思い出せない・・・」


「まさか・・・怪我のショックで“記憶喪失”になっていまったのかしら?」


「先生、キオクソウシツってなんです?」


 何も思い出せない零は頭を抱え、石田は零はショックによる記憶喪失ではないかと推測する。


 そんな中、はやては石田に記憶喪失とは何かと問い掛けると、石田は記憶喪失とは一時的な衝撃などの影響で昔の自分の事を忘れてしまう現象だと説明した。













「・・・ふう、それじゃあ今日はここまでにしましょう。はやてちゃん、家まで送るから一緒に行きましょう」


「あっ、はい。ほんなら零さん、元気でな・・・」


 それから数分が過ぎ、はやてを家に送る為に石田ははやてと一緒に部屋から退室し、病室には零一人きりとなる。窓から見える沈む夕日の光で部屋中がオレンジ色に染まっていた。


(俺は・・・零。それ以外の事は・・・駄目だ、思い出せない・・・・)


 一人の病室で、零はやはり何も思い出せずに目を閉じた。













_______________________________________














 零は夢を見た。そこは何処か懐かしく、そして憎むべき“敵”がいた。


 零の目の前には大勢の人達が何からから逃げていて、そして人々が必死に逃げているのを追いかけてくる獣のような姿をした怪物達。


 零はそんな怪物達の前に立ち塞がり、その怪物達を次々と倒していく。ある者は体に穴が開くと同時に倒れ、またある者は何かに切られたように真っ二つになった。


 しかしその時、ガラスのショーケースに映った自分の姿見ると、人ではない異形の姿となっていた。そして額にある銀色の球体が怪しく光を放っていた。


(こっ、これは・・・・なんだ!?)


 その姿を見た瞬間、零の意識は途切れた。












「わぁぁぁっ!!・・・・は?」


 零は声を上げながら目を開けた。見慣れた天井、一人しかいない部屋。外を見るとすっかり日が昇り、小鳥達が鳴きながら空を飛んでいる。


 零は体を起こそうと動いてみると、昨日の時点では痛みによって動けなかった筈の体が、嘘のように痛みも感じず起き上がれた。


 ふと左腕に打たれている点滴のチューブを見ながら点滴の液の入っている袋を見ると空っぽになっている。零は左腕に付いているチューブの先端を掴むとゆっくりと引き抜こうとするが、少し痛むのか顔を顰めてチューブを引き抜いた。


「くっ、ふう・・・・」


 抜ききったチューブをベットに備え付けられているタンスの上に置くと、零はベッドから降りて体を伸ばして深呼吸をした。体のダルさなどがなかったので、零は体を少し動かしてみる。そしてふと自分の体を見てみる。


(夢で見たあの姿・・・あれは何だったんだ?)


 夢で見た鎧のようなモノに包まれた異形の姿をした自分。あれは何だったんだろうと零は考えるが、頭の中に出てくるのは朧けなイメージしか出てこない。


 そんなことを考えながら窓から空を見上げていると扉から「トントン」とノックされ、零が振り返ると同時に扉が開いた。


「失礼します。零さん、気分はどう・・・です・・・か?」


 入ってきたのは昨日石田と一緒にいた看護婦の一人だった。しかし零の姿を見た瞬間、唖然とした表情で手からカルテを「バサッ」と落としてしまった。


「?どうかしましたか?」


「先生っ!大変ですっ!!」


「あっ・・・・・」


 零は看護婦にどうかしたのかと聞くと、突然看護婦は声を上げて病室から出て行ってしまった。零はやって来ていきなり出て行ってしまった看護婦の行動が解らず、だた病室で唖然として固まってしまっていた。


 暫くすると、息を切らしながら看護婦に連れてこられた石田が病室に顔を出した。そして零の姿を見るや否や零に駆け寄ってきて零の両肩を掴んだ。


「ちょっと零君!!」


「はっ、はい・・・!?」


「何処も痛くない!?体に異常を感じたりしない!?」


「えっ、ええ、大丈夫ですが・・・・」


 いきなり詰め寄ってきた石田の迫力に零はただ返事を返すしか出来なかった。


 その後、ベッドに寝かされた零は石田の検診を受けながら体に巻かれた包帯を一つずつ解いていく。傷に巻かれた包帯を取る度に石田は目を疑うような表情になる。


 何でも零の傷はどう考えても重症であり、普通の人なら完治するまで半年以上、最低でも三ヶ月は掛かるという。しかし意識の無かった分を含めると、零はたった三日で体の傷を癒し、なんの後遺症も無く完全な状態になっていたのだ。


「ハァ・・・全く不思議だわ。こうして見るとあんな大怪我をしていたなんてとても思えないぐらいだわ・・・」


 石田は零の頭の包帯を取ると呟くように言った。それを聞いていた零は黙っていたが、そんなにすごいのかと思ってた。


 そして石田は零を精密検査の可能な機械の部屋に連れて行き、そこで精密検査が行われた。その結果、零の体には何も異常は無く、次の日の朝、入院四日目で退院できる形となった。





 そして退院の時、病院の出入り口から石田と手荷物を持った零の二人。しかし零の服装だけは変わっていた。


 零の服装は見つかった際にボロボロになり、殆ど使い物にならない状態であったが、石田がいつの間にか用意していた服が零に丁度良いサイズだったのでそれを着ていた。見た目はそこらにいる若い者が着ているような活発な感じの服装だった。


 そして零の持っている荷物は、零が発見された際に近くに転がっていた物らしく、多分零の物だろうと石田が預かっていてくれた物だった。


「それじゃあ零君、退院おめでとう。それでこれからどうするの?」


「とりあえず、この間会った八神はやてという子の家にいってお礼を言ってから考えます。もしかしたら移動中になにか思い出すかもしれないですから・・・」


「そう。ならこの紙のある場所に行けば良いわ。その場所にはやてちゃんが住んでいるから・・・」


 零はとりあえずはやての自宅に行ってお礼を言ってから自分の記憶を探す旅に出ようと考えていた。なんでも零の治療費を出してくれたのははやてだったらしい。


 その事を石田ははやての自宅のある場所の地図を書いた紙を零に手渡し、零は石田に「お世話になりました」と頭を下げ、街に向かって歩き出した。








________________________________________









 海岸沿いを歩いていた零は潮風に当たりながら石田から貰ったはやての住所の書かれた紙を見ながらはやての自宅を探していた。そして途中までの道のりを近くにいた人から聞いた零は住宅のある場所を歩いていた。


「聞いた住所だとこの辺りの筈なんだけど・・・・・ん?あれは・・・」


 ふと零の視界に見た事のある車椅子に乗った少女の背中が見えた。よく見ると車椅子の車輪が溝に嵌ってしまい、身動きが出来ない状態になってしまっていた。


「大丈夫ですか?」


「えっ?れ、零さん!?どうしてここに!?」


「やっぱりはやてちゃんか。じっとしていて、今車椅子を持ち上げてあげるから・・・」


 ふいに声を掛けられたはやては振り返ると、そこに立っていた零の姿に驚きの声を上げる。零ははやてだと確認すると、手荷物を降ろして溝に嵌っている車椅子の車輪を持ち上げて溝から脱出させる。


「ふう、どうもありがとうございます零さん。でもどうしてここにおるんですか?怪我の方は・・・」


「ああ、怪我はもう完治したから今日の朝に退院したのさ。それではやてちゃんにお礼を言いたくて石田先生から君の住所を書いてもらったのさ」


「ええ!?あんな大怪我しとったのに!?」


 つい二日前に会ったばかりの零にどうしてここにいるのかをはやてが問う。はやての問いに零は事情を説明するとはやては驚く。その後、零は怪我の事やここにいる理由をはやてに説明すると「なるほど・・・」と納得した。


「あの零さん」


「んっ?」


「よかったら家に寄っていきまへんか?丁度お昼になる頃ですし、家でご飯でも食べていってください」


「えっ、でも悪いよ・・・」


「そんな遠慮せんでええです。助けてくれたお礼もまだですし、道案内は私がしますから・・・」


 はやての話に零は遠慮しようとしたが、はやては溝から助けてくれた礼をしたいと言って、零は渋々了承し、はやての車椅子を押してはやての自宅へと歩いていった。





 はやての自宅についた時、零はふと見た事のあるような光景だと感じた。


「ここは・・・たしか・・・・」


「せや、ここは零さんが倒れていた場所、そして私と零さんとが初めて会った場所や」


 零の言葉にはやてはここが零と始めて会った場所だと話す。零は「もしここではやてちゃんと出会わなければ、自分は死んでいただろう」と痛感していた。


 そしてはやては自宅の玄関の扉を開け中に入り、室内を見た時に零の目に靴箱の傍に置かれている雑巾が目に入った。はやてが車椅子から降りようとした時、零は荷物を降ろしてはやての肩に手を置いた。


「車椅子の車輪を拭くんだろ?俺がやるよ」


「あっ、そんな・・・客人にそんな事やらせられへんよ・・・」


「いいんだ、客人でも足が不自由のはやてちゃんを黙って見てる訳にはいかないからね」


 零ははやてを抱きかかえ床に座らせると、靴箱の傍に置かれている雑巾を手にして車椅子の車輪部分の汚れなどを拭き取る。そして完全に拭き終わって室内に車椅子を入れると、はやてを再び抱きかかえて車椅子に座らせている。

 
 はやては若干顔を赤くしていたが、零にお礼をいい車椅子を操作して奥に向かう。零も荷物を担いではやての後を追う。


「ほ、ほんなら、すぐにお昼ご飯の準備をしますから零さんはソファーに座って待ってて下さい」


「あ、ああ・・・・」


 先程の零の行動に少し緊張したのか、はやての声は若干焦っているような感じで零にソファーで待っているように言い、零は荷物を降ろして周囲を見渡す。暫くするとはやての声が聞こえ、テーブルには二人分の食事が置かれていた。


「ほんなら、頂きます!」


「い、頂きます・・・」


 はやては元気よく手を合わせて食事に手をつけ始め、零も手を合わせて食事を始める。食事を始めるとはやては零に「味はどう?」と問い掛けてきたので、零は「美味しい」と答える。するとはやてはニッコリとした顔で満足そうに自分も食事を進める。


 しかし零には一つだけ疑問があった。それはこの家が静か過ぎるという部分、そしてはやて以外の人の感じがしないという事・・・零はふと思った事を口にした。


「はやてちゃん、君のご両親は?」


「えっ、二人ともおらへん。ウチが小さい頃に亡くなってるんや・・・」


「!?」


 はやては進めていた食事を止め、理由を話すと零の顔は驚きの表情になる。それじゃあこの家にいるのははやてだけだ・・・それなら今の生活はどうしているのだろうか。


「それじゃあ、一体どうやって生活を?」


「ウチの両親の知り合いの人が金銭などの援助をしてくれているから生活には不住をしてないんよ。でもやっぱり一人は寂しいもんで・・・あっ、そうや!!」


 零の問いに答え、暗い表情をしていたはやては何かを思いついたような感じで表情が明るくなった。


「零さん、もしよかったら家で一緒に暮らさへんか!?」


「えっ!?」


「零さんはなんやったっけな・・・キオクソウシツっていう状態なんやろ?だったら生活だって困るし、行くあてもないんやろ?だったらここで一緒に暮らせばええんや!!」


 はやては「これはええ考えや!」と目を光らせる。零ははやての提案に暫し固まってしまった。それもその筈、いきなり記憶喪失の人間をあっさりと受け入れようとするはやての度胸にただ驚くだけであった。


「でもはやてちゃん、そんな簡単に決めちゃって大丈夫なのか?こんな自分の名前以外の事を思い出せない奴を・・・」


「大丈夫や!人が一人増えたぐらいで衣食住になんも支障もあらへん。だから心配しないでもええで」


 零の不安な言葉も「心配ない」と言ってはやては笑顔で答える。その笑顔に零も何も言い返せなくなってしまった。しかしここで断ったりしたらこの子はまた独りぼっちの生活に戻ってしまう事を考えてしまうとそんな事が出来ないと零は思ってしまう。


「本当にいいの?はやてちゃん」


「うん!」


「それじゃあ、よろしく頼みます。はやてちゃん」


「はい、よろしくお願いします。あっ、それと・・・・」


「何?」


「ウチのことは【はやて】でええから、零さんのこと【零兄ぃ】って呼んでええ?」


「えっ、別に良いよ」


 零とはやてはお互いに挨拶を交わし、零ははやての事を呼び捨てで呼ぶ事にし、はやては零の事を【零兄ぃ】と呼ぶ事にした。


 こうしてはやてと共に過ごす道を選んだ零。彼自身は自分の記憶の事は気がかりでもあったが、ここで過ごしながらもいいと考えながら日々を過ごしていった。この時のはやては8歳、彼女の出会う運命の魔導書が起動するまで、まだ一年を要していた・・・・・

















 第一話です。

暫くはバトルの無い話が続きますが、ちゃんとバトルも出てくるので気長に待っていて下さい。





[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第二話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/02/01 00:00











 零が八神家にお世話になることになった日から数週間後・・・・零ははやてと一緒に過ごしている内に色々な事を教えてもらっていた。


 家事や料理などなど様々な出来事、これには記憶をなくしている零にとって、どれも新鮮な事ばかりだった。


「え~と・・・・じゃがいも、ニンジン、タマネギと肉・・・・今晩はカレーかな?」


「うん、後はカレールーと、他に買っていかないといけないものを少しだけやよ」


 そして今、はやてと零はスーパーに買い物に来ていた。今までははやて一人で買い物に来ており、大きな買い物などは出来ないでいたが、零と一緒に生活するようになってからは、買い溜めも出来るようになった。


「ごめんな零兄ぃ、大荷物持たせた上に車椅子まで押してもらて・・・」


「気にしない、気にしない。車椅子に座っているはやてに荷物を持たせていたらそれこそ大問題だよ」


 レジで会計を済ませ、外に出たはやてと零は家路へと向かう。はやては食材などの入った大きな袋を片手に自分の車椅子を押してくれている零に謝るが、零は気にしていない様子で車椅子を押していく。


 ちなみに零の持っている袋に入りきらなかった分の少量の荷物ははやての膝の上に載せている。


「それにしても、俺がはやての家に居候させてもらってからもうすぐ一ヶ月経とうとしているんだよな?」


「せやね。なんだかあっという間やったな~」


 車椅子を押しながら零はもうすぐ一ヶ月経つ事を話し出すと、はやては頷く。零がはやての家に居候させてもらい始めたのは九月中旬・・・・そして今は十一月下旬になり、もうすぐ十二月に入ろうとしていた。


「最近は随分寒くなってきたみたいだし、季節は冬へと向かってきているな。はやて、寒くないか?」


「平気やよ・・・」


 零の問いにはやては答えるが、やはり少し寒いのか体を少し震わせていた。零は自分の首に巻いているマフラーを外して、はやての首に巻き始めた。


「れっ、零兄ぃ!?そんなことしたら零兄ぃが寒くなるやん!」


「大丈夫だ。それに俺が巻いていたから少しは暖かくなるはずだ」


 はやては零の心配をするが、零は構わずはやてに首にマフラーを巻きつけた。そして再び車椅子を押して家へと歩き出した。


 その間、はやては首に巻かれたマフラーに手を置きながら零の温もりを感じていた。














 そんな何気の無い日々の中でも、零には未だに慣れない時間帯が存在していた。晩御飯が終わり、はやてと共に食器を洗い終えた時に零は時計を見た。


(きたか・・・・この時間帯が・・・)


 時計を見た零は突然覚悟を決め始めた時だった。


「零兄ぃ、お風呂が沸いたでぇ。一緒に入ろか!」


 はやては元気よく零に声を掛ける。そう、零が未だに慣れていないのは、はやてを風呂に入れる時であった。


 それは零がここに住むようになってから二日後の事・・・・・
今までは石田が来てくれたおかげではやては風呂に入っていたが、零と一緒に暮らす事情を知った石田は「なら、お風呂いに入れるのは零君に任せましょう」と言い出し、はやても「石田先生は仕事が忙しい合間に来てくれるから、その方がええ」と言って了承してしまった。


 はやては足が不自由であることは承知していたが、まさか一緒に入る事になるとは零も予測していなかった。
初めの頃は零は恥ずかしさの余り拒んでいたが、さすがに一人で入らせるわけにはいかず、零は顔を真っ赤にさせながらもはやてを風呂に入れることにした。


 しかし零もさすがに恥ずかしかったので服を着たままではやてを入れ、はやてが出た後に風呂に入る事にしていた。


 しかし数日が経つと「零兄ぃも一緒に入れば一石二鳥や」とはやては笑顔で言い出し、さらには「石田先生が足をマッサージしてあげると効果がある」とも言い出す始末。
零は「出た後でも出来るだろ?」というが、「風呂に入っている時にやるのが効果的なんや」と言って零は追い詰められてしまった。











 その事もあって、零ははやてと一緒に風呂に入ることとなった。それからやっと最近になって徐々に慣れつつはあったが、やはり恥ずかしさだけは慣れないでいた。


 はやてが服を脱ぐ時は出来るだけ手を貸し、零も服を脱いで腰にタオルを巻き、風呂場へとはやてを抱えていくと、まずはやての体にお湯をかける。その後、風呂へと入れてやり、自分も湯につかる。


「はぁ~、やっぱり風呂に入ると癒されるわ~。それに零兄ぃの体がいい背もたれになって丁度ええ感じや~」


「・・・・その俺は今でも恥ずかしい事この上ないんだがな・・・・」


「まあええやん、別に見られてもウチは気にせへんで?」


 湯に肩まで浸かりながらリラックスするはやてに、零は顔を赤くしつつもはやての背もたれとなっていた。はやての家の風呂は、足の不自由なことも考慮してか、一部が段差になっており、そこに座る形で入る事も出来るが、肩まで完全に入るにはそこの深いところまでいく必要があった。しかし零の上に乗る形で入ればはやてでも肩まで入る事が出来る。


 暫く浸かった後、零ははやてを抱えて湯から出してやり、背中を洗ってやり、再びはやてを風呂に入れた後に自分の体を洗う。


「せやけど零兄ぃって、結構体つきがええ感じやな・・・」


「へっ?いきなり何を言い出すんだはやて・・・・」


「だってホンマの事やもん。見てるだけでもガッチリしてる感じやもん。でも・・・」


「でも?」


「・・・・体中に傷の跡が残ってるんやんか。まあ初めて出会った頃の傷やと思うんやけど・・・・」


 はやての指摘に零は自分の体を見てみると、たしかに体中に傷跡が残っていた。零は自分の記憶がなくなる前に何をしていたのかと疑問に思いつつ、体にお湯をかけて泡を洗い落とす。


「あれ?零兄ぃ、背中のところに蚯蚓腫れみたいなのが出来てるで」


「えっ?」


 零は自分の背中を鏡に写すようにして鏡を見てみると、背骨の両肩の辺りに蚯蚓腫れのような物が出来ていた。しかもその蚯蚓腫れは傷というか、大小様々の“何”かを差し込んだような穴が痕として残っていた。


(なんだろう?この痕は・・・・)


 零は何の痕なのか分からないまま結局その痕は放置する事にした。その後、風呂の中ではやての足のマッサージをした後、はやてと共に風呂から上がり、タオルで体を拭き、服を着せてから一緒にリビングまで行き、一休みした後、はやての部屋まで行き、ベッドに寝かせた。


「ほんならおやすみなさい、零兄ぃ」


「ああ、お休み・・・・っとおや?」


「どないしたん?」


「いや、はやての机の所に置いてあるこの本・・・・」


 零ははやての机に大切そうに置かれている分厚い本を見つけた。


「ああ、その本はウチが物心ついた頃からあったもんで、なんだか綺麗やったから大事にしてあるんよ」


「へぇ~」


 はやての話を聞いた零は、試しにその本を手にとってみる。その本には厳重に十字に鎖で止められ、中を見ることは出来ないが、随分年季の入った本にも見えた。


 














 

_______________________________________




















 それから十二月に入り、一週間半が過ぎたある日。はやてはリビングでテレビを見ており、零は雑誌を読みながらのんびり過ごしていた。


(そういえば、もうすぐクリスマスだったな)


 雑誌を読んでいるとクリスマスの季節なのか、何処のページにもクリスマスの話題が多く出ていた。その時ふとはやての姿が目に入った。


(はやてはやっぱりクリスマスでも独りぼっちだったんだろうか。石田先生ははやてによく連絡を入れているみたいだけど、仕事の関係上ここには来れないだろうな・・・)


 零はクリスマスでもはやては一人で過ごしているのだろうと考えていた。
石田は病院での仕事の関係上、一人の女の子の為に仕事を止めてくる訳にも行かず、来る事が出来たとしても、いつ病院に緊急患者がやってくるか分からない状況なのでどのみち無理だろう。


 はやての両親の知り合いと言っている人も、手紙などを送っては来るものの、実際には会った事がないと、はやては話していた。


(んっ?これは・・・・・よしっ!!)


 そんな事を考えながら零は雑誌のあるページの記事を見て「これだ!」と何かひらめいたように頷いた。












 クリスマスまであと十日となった日、零は熱心にある本を読んでいた。はやては今まで読んでいた本が読み終えたので図書館に返しに行くついでに、新しい本が無いか見てくると言って今は家にいない。


 いつもなら零ははやてと一緒に図書館に行っていたが、今日は送ったあと「帰る時は連絡を・・・」とはやてに言って、零はすぐに家に戻って来ていた。


「う~ん、まさかケーキ作りがこうも難しいものだとは・・・・」


 零が読んでいたのは、はやてが持っていた料理の本、というよりデザートに関する内容の本だった。その本の内容を見て零は、デザートを作るのにこんなに手間がかかるのかと驚いていた。


 こうしてみると、はやてはこのような作業を毎日行っていたんだなと痛感される。もちろん零自身も手伝いながら覚えていっていたのだが、ここまでくると「さすがはやてだ」と感心してしまう。


 その時、零の持っている携帯電話が鳴り出し、携帯を開いてみると連絡してきていたのははやてからだった。


「もしもし?」


『あっ、零兄ぃ?今、図書館での用事を終らせたから迎えにきてもらってええか?』


「ああ、分かった。すぐにいくよ」


『それと買い物もしたいから、買い物カゴも持ってきてくれへんか?』


「了解」


 はやてからの電話を切った時、買い物にいくというはやての為に買い物カゴを持っていこうとした時、ふとケーキに使う材料の中に必要なモノが不足していることを思い出し、慌てて本に書かれている材料の欄を見渡して足りない材料をメモに取る。


 そして本をしまった後、書いたメモを持って急いではやてのいる図書館へと駆け出していった。














 はやては借りた本を持って図書館の出入り口で零を待っていた。暫くすると、息を切らしながら向かってくる零の姿が見えた。


「も~、零兄ぃ遅いで!!」


「ごっ、ごめんはやて・・・・ハァハァ、必死に走ってきたんだが・・・」


 電話をしてかなり待たされた事にはやては頬を膨らませて怒っていた。零は遅れたことに必死に謝った。何とかはやての機嫌を治し、二人で買い物の為にスーパーへと向かった。



 スーパーの中に入り、はやては必要な食材などをカゴに入れて先を進む中、零は密かにメモを眺めながら必要な材料を探しては見たものの、一回の買い物で全ての材料を買うとはやてに「何に使うの?」と問われそうなので何とか誤魔化せる部類だけ購入する事にした。


 そして三日後、はやてと一緒に買い物した際に買った材料と、それ以外に密かに購入した材料が遂に揃った。ちなみにお金は、はやてがお小遣い(年上として情けないが)としてくれたのを貯めておいていたので、それを使用。


 そして夜の食事を済ませた後、はやてと共に食器を片付けていると、はやては突然口を開いた。


「零兄ぃが家に来てもう三ヶ月になるんやね・・・」


「そうだな。そういえば、もうすぐクリスマスだけど、俺が来る前はどう過ごしていたんだ?」


「えっ?・・・・・いつも通りやったよ。たった一人で食事してそれで寝るだけの一日だった・・・・」


 零の質問にはやては表情を暗くしながら答える。その表情に零の胸の中を締め付けられるような感覚を感じた。やはりはやては一人で過ごしていたのだと簡単に認識できた。


「はやて」


「何や?」


「今年のクリスマスは今までに無い、楽しい思い出にしような!」


「当たり前やん。今年は零兄ぃがいるんやから寂しくなんか無い。クリスマスは美味しい晩御飯を腕を振るって作るで!!」


 はやては今年は新しい家族となった零も一緒だと言って楽しい思い出にすると張り切っている。しかし零は今までの寂しさを吹き飛ばすぐらいの思い出をはやてに与えようと心に決めていた。


 その日の深夜、はやてを寝かせた後、零は一人台所にいた。そこには、密かに買い込んでいた材料が並んでいた。


「さて、早速始めるか!!」


 零は気合を入れて材料に手をつけた。
















_______________________________________













 


 それから日が流れ、ついにクリスマスの日になった。その日の天気は曇り空で、今年の中で一番の冷え込みとなっていた。しかし晴海街ではクリスマスであるが故に盛り上がっている様子だった。


 その日の晩、はやては鼻歌を歌いながら料理をしていた。もちろん零も一緒に手伝いをしていた。


「しかし今日は随分冷えていたな・・・」


「ホンマや、もしかしたら雪とか降るかもしれへんね」


 料理をしながら零の話にはやては答える。そしてテーブルの上に二人分の様々な料理が並んでいく。


「ほんなら・・・・」


「ああ・・・」


『いただきます!!』


 はやてと零はお互いに席につくと食事を始める。食事をしている最中、はやての顔は笑顔が絶えずにニコニコしながら料理を食べている。零もその表情を見ながら自然と口が緩んでしまう。


「はぁ~、美味しかった~。やっぱりこうして誰かがおると食事も楽しくなるもんやね~」


「ああ。あっ、そうだ。はやて、ちょっとここで待っててくれないか?」


「えっ!?零兄ぃ?」


 数時間後・・・・食事を終らせ、食器を片付けようとしたはやてに、零は待っているように言うと廊下へと出て行ってしまった。はやては「どうしたんやろ?」と思っていると、突然家の電気がふと消えてしまった。


「えっ!?いきなり電気が・・・零兄ぃ、零兄ぃぃぃ!!?」


 突然の出来事にはやては真っ暗の部屋を見渡しながら零を呼ぶ。しかし零は全く姿を現さない。その様子にはやてはその場から移動しようとしたが、周囲が暗くて何処に車椅子があるのか確認が出来ないでいた。


『パァァァァン!!』


「わぁぁぁぁぁぁっ!!???」


 突然何かが爆発したような音にはやては大声で叫んだ。その瞬間、部屋の電気がつき、はやては恐る恐る目を開けたときだった。


「メリ~クリスマァァァァァァスッ!!」


 目を開けた先にいたのは、サンタが被っている帽子を頭に被り、手にクラッカーを持った零が立っていた。先程の爆発音のような音はクラッカーの音だったのだ。


「れっ、零兄ぃ?」


「はははっ!驚いたか?はやて」


 依然何が起きたのか分からず、クラッカーの糸くずを頭に被って放心状態のはやて。そのはやての姿を笑っている零の姿があった。


「ふふふ。はやて、君にクリスマスプレゼントだ!」


「えっ?ええっ?」


 零は混乱しているはやての前にある食器を片付けると、そこへリボンで止めた箱を置いた。


「開けてみな、はやて」


「うっ、うん・・・・」


 はやては零に言われるがままリボンを解き、箱を開けようとしたが、また何かあるのだろうかと思ったのか若干警戒しながらゆっくりと箱を開けた。


 するとそこにあったのは、小さなイチゴのケーキが一つ入っていた。しかし少し形が歪な物になってしまっていた。


「まあ初めて作った物だから形は悪いけど、味の方は大丈夫なはずなんだけど・・・・ってはやて?」


 箱を開けたはやては零の言葉を聞いていないのか、黙ったまま固まってしまっていた。零は「ヤバイ、やりすぎたか?」と、内心オドオドしてしまった。
暫くすると、はやての頬に何か光るモノが流れているのに零は気づいた。


「はっ、はやて!?やっぱりやりすぎてしまったか!?」


「ちっ、違うんよ・・・・嬉しいんや。こうやって祝ってもらったのは・・・・はっ、初めてやもんで・・・・」


 顔を見ると、はやては目から涙を流しながら泣いていたのだ。零はさすがにやりすぎたかと謝ろうとしたが、はやては嬉しくて泣いていると答えた。


「あっ、ありがとうな零兄ぃ。ホンマに嬉しいよ、ホンマにありがとう」


 はやては涙を拭きながら零にお礼を言うが、いくら拭き取っても次から次へと涙が止まらずに流れてしまう。零はハンカチを取り出してはやての涙を拭き取ってやると、ようやく涙は止まった。 


「ほんなら、零兄ぃが作ってくれたケーキを食べさせてもらおうかな」


「ああ」


 箱から出したケーキに、はやては零から手渡されたフォークを使ってケーキを食べ始めた。零は初めて挑戦したケーキの味がはやての口に合うかやはり心配であった。


「どっ、どうだ、はやて?」


「美味しい、美味しいよ、零兄ぃ!初めて作ったとは思えんほど美味しい!!」


 ケーキを食べたはやては笑顔で美味しいと言ってくれた。その表情に零は安堵の溜息をつく。もし失敗していたらどうしようかと本当に心配していたのだ。


 その後、零と共にケーキを食べ、料理に使った食器を片付け終えて、零とはやてはお風呂に入っていた。


「はぁ~、ホンマに今日は最高の日や。零兄ぃのおかげで最高の思い出が出来たわ~」


「そうか、それは良かったよ・・・・」


 湯船に浸かりながら、はやてはいつものように零にもたれ掛かりながら目を瞑る。零はその様子に満足していた。


「うりゃ!!」


「わっ、きゃぁっ!!零兄ぃ、いきなり何すんの!?」


 零はもたれ掛かっているはやての顔目掛けて水鉄砲で攻撃し出した。その攻撃にはやては手で顔をガードしながら零に文句を言う。しかし零もはやてもそんなやり取りが楽しくてしょうがなかった。


 風呂から上がり、リビングへとやって来た二人はのんびりしていると、零はふとカーテンの一部が開いている事に気づき、カーテンを閉めようと窓の近くに来た時、ある事に気づいた。


「あっ、はやて。外見てみなよ」


「えっ?・・・・あっ、雪や」


 外を見ると、いつの間にか雪が降っていた。その光景に零はカーテンを開けてはやてと一緒に外を眺めていた。


「・・・・なあ、はやて」


「ん?なんや零兄ぃ」


「俺、これからも君を守っていくよ。記憶を無くした俺の居場所を作ってくれた君を・・・・いつでも君の傍にいる」


 零は外で降りつづける雪を見ながらはやてに「これからも守っていく」と伝えると、はやてはふいに零の手を握った。


「うん、いつも一緒にいてな。もちろん記憶が戻っても、零兄ぃがよければいつでもここにいてええよ・・・・」


 雪が舞い散る夜空を零とはやては二人、寄り添いながら見上げていた。二人の繋がる手と手の温もりはとても優しいものだった。


 そして零とはやては、今日は“特別”ということで一緒のベッドで寝る事となった。まあ実際は、はやてが手を離してくれなかったという理由が大きかったが・・・・・・ 



























 どうも第二話です。さてこの小説の勝手に妄想したオープニング曲は
水樹奈々さんの【深愛】です。この曲は紅白に歌われた曲ですが、聴いている内に
はやてと主人公が雪の降る中を手を繋いでいるという光景がビビッと頭の中に浮かびました。もうあの曲は最高!!
もちろん劇場版のOPも好きですし、ゲーム版のOPも大好きですし、EDの田村ゆかりさんの曲も聞いていると元気が漲ってくるような感覚を感じる時がありますw









[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第三話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/02/07 00:00


















 零がはやての家に住み始めてから約半年が経った。すでに季節は春になった4月10日。今日ははやてと共に外へ散歩する事になった。


 あのクリスマスでの零のサプライズを期に、はやてと零は本当の兄妹・・・・いや、まるで家族のような関係になっていた。


 そして場所は変わり、ここはある組織の一室。ここにはある人物が自分宛てに届いた手紙を読んでいた。


「グレアムおじさんへ
 今日はある報告があって手紙を書きました。それは私に・・・・・・お兄さんが出来ました。
と言っても、ちょっとした事情で去年の九月中旬から家に居候している人なんですけど、今では本当のお兄さんのように一緒に暮らしています。
 名前は零(レイ)と言って凄く頼りになる人で、いつも明るく、いつも私のことを気遣ってくれる優しいお兄さんです。
そのおかげで毎日が楽しい限りです。手紙と一緒に写真も送りましたので見てみてください。それでは・・・・・」


 はやての手紙を読んでいる人物の名は【ギル・グレアム】。はやての生活のバックアップをしていると同時に、彼はある組織の提督でもあった。


 その組織とは時空管理局。こことは違う別世界【第一世界ミッドチルダ】を中心に多次元世界の法を守る為の活動している組織である。


「お父様、あの子からの手紙ですか?」


「ああ、どうやらあの子にお兄さんが出来たらしい。ほら、写真も一緒に送られてきたよ」


 グレアムの傍に猫のような耳と尻尾を持った二人の女性がやって来た。この二人の女性は【リーゼ・アリア】と【リーゼ・ロッテ】。二人はグレアムの使い魔であり、同時に最も信頼している娘のような存在であった。


 グレアムの見せた写真に写っていたのは、はやてと零のツーショット写真だった。


「へぇ~、中々の好青年じゃない。まあクロスケやグラーべに比べたら格下だけど・・・」


「こらロッテ、そんなこと言ってはいけませんよ」


 写真に写っているはやての肩に手を添えて一緒に笑顔で写っている零の姿を見たロッテは格下だと言うと、アリアはロッテを叱る。


「・・・この様子だとまだ【闇の書】の覚醒はまだのようですね・・・」


「ああ、しかし天涯孤独だった少女に、偽りでも折角出来た兄に悲しい思いをさせる事になってしまうと思うと・・・・」


 グレアムは何か思いつめたような表情になり、額に手をやる。そんなグレアムの肩にリーゼ姉妹は手を置く。


「仕方ありませんわ。あの魔導書は存在してはいけないもの・・・・」


「犠牲が出る事を承知で今までやってきたのだから今更引けないよ・・・」


「ああ、そうだね・・・・そのために色々準備をしてきたのだから・・・・」


 二人の娘に励まされ、グレアムは再び顔を上げて空中にある映像を出す。そこには一冊の分厚い本が映し出される。


「そう・・・・今更やめる事は許されない。【闇の書】の永久封印を・・・・」














_____________________________________
















 その頃、晴海街を散歩している零とはやては、ゆっくりとした足取りで街を歩いていた。既に季節は春なので気温は暖かく、空は清々しい青い空が広がっていた。


「はぁ~、いい天気やな~」


「ああ、空気も澄んでるし・・・・絶好の散歩日和だ」


 車椅子に乗るはやてはゆったりとした表情で目を瞑り、零は車椅子を押しながら空気の澄んだ風を受けていた。暫く進んでいると、川沿いの広場で、はやてより少し上くらいの子供達がサッカーをしていた。


「零兄ぃ、あそこでサッカーをやってるで」


「あはっ、皆元気に走り回っているな」


「せやね。でも・・・・ウチもああやって走り回りたいな・・・」


 はやてと零は元気に走り回っている少年達の姿を見ていると、はやてが自分の足に手をやりながら小さく呟いた。零はそんなはやての頭を優しく撫でてやる。


「大丈夫だよ、はやて。君の足も絶対良くなって、ああやって走り回れる時が来るはずだ!」


「ありがとな、零兄ぃ」


 零の行為に、はやては顔を少し赤くさせながら受け入れていた。


「さて、散歩を再開しようか!」


「うん!!」


 はやての頭を撫で終えた零は、再び車椅子を押して歩き出した。


(んっ?なのは)


(どうしたの?ユーノ君)


(今、少し変わった魔力を感じた気がしたんだけど・・・・なのはは気づいた?)


(えっ?私は感じなかったけど・・・・・)


(う~ん、気のせいかな?)


 零とはやてが去った後、サッカーの試合を応援に来ていた【高町 なのは】の膝の上にいたフェレットの姿をした【ユーノ・スクライア】は、近くに微量の魔力反応を感じたような気がしたが、気のせいだろうと思い、再びサッカーの試合を見ることにした。















_____________________________________
















「今日は楽しかった~。色々なところにも行けたし、何より零兄ぃと一緒やったから、散歩というよりデートみたいな感じになってもうたな~」


「はははっ、はやてが楽しめたのなら俺も満足だよ」


 街で昼食を済ませた零とはやては、家路へと進路を取っていた。今日一日零と一緒にいたためか、はやてはとても上機嫌でいた。そのはやての膝には、帰り道に見つけたお菓子の袋が置かれていた。


「ねぇ零兄ぃ」


「なんだ?」


「またこうやってデートしよな!!」


「はやてが行きたい時に、また付き合うよ」


「えへへ♪」


 お互いに笑い合いながら二人は歩いていると、突然地面が激しく揺れ始めた。


「わわっ?」


「じっ、地震か!?」


地震とも思える激しい振動にはやてと零はその場から動けずにいた。そして近くに眩い光が立ち昇ると同時に何かがこちらに向かって伸びてきた。


「きゃぁぁぁっ!!零兄ぃぃぃぃ!!」


「はっ、はやてぇぇぇぇぇ!!!」


 伸びてきたのは木の根だった。しかも一本ではなく、何本もの木の根が生え、そこからさらに伸びる枝にはやてが巻き込まれ、さらには零にも枝が巻きつき、上へと持ち上げられるような感覚に襲われた。


「くっ、一体何が起きたんだ!?」


 少しの間、気を失っていたのか、零は呆然としながら周囲を見渡すと、先程までいた街が下に見えた。なんとそこには街中を覆う巨大な樹木が出現していたのだ。


「これは・・・・はっ、はやては!?はやては何処だ!!」


 目の前の光景に唖然とする零だったが、はやての姿がない事に気づくと左右を見渡して探していると、零のいる位置から上の方に気を失っているのか、グッタリしたまま動かないでいた。


「はやてっ、はやてっ!!」


 必死にはやての名を呼ぶ零だったが、それに反応したのか巻き付いた木の枝が零の体と首を締めはじめた。


「ぐっ!?」


 首と体に巻き付いた枝が徐々に零の意識を奪い始める。零は懸命にはやてに手を伸ばそうとするが全く届かない。


(くそっ、このまま俺は死ぬのか?)


 零の脳裏に死という言葉が浮かんできた。そして同時にはやての顔が脳裏に浮かんだ。その顔は微笑んだはやての表情ばかりだった。


(死ぬ?・・・・ふざけるな!!もしここで俺が死んだりしたら、はやてはまた独りぼっちになってしまう!また寂しい思いをしてしまう!!)


 自分が死んだらはやてはまた一人になると感じた零は薄れ掛けていた意識を叩き起こし、手に力を込めて腕を動かそうとする。


(力が・・・俺に力があれば・・・・はやてを救える力をっ!!)


 はやてを・・・・たった一人の自分を受け入れてくれた少女を救う力を欲した零の頭の中に、突然ある言葉が浮かんだ。その言葉は零が以前から知っていたような言葉だった。


「来いっ!ゼロォォォォォォォォォォッ!!」


 零は力一杯叫んだ。すると零に巻き付いていた枝が引きちぎられると同時に光が発生し、すぐ背後から人の姿をした物体が出現した。


 そして人型の物体はバラバラに別れると装甲のようなモノが零の体に張り付き始めると、徐々に零の姿は異形の姿へと変わってしまった。


 頭に一本の頭角を持つ異形の姿へと変貌した零の体は全身ダークブルーの装甲に、額には大きな銀色の球体が怪しく光り、頬の辺りには通気口のようなモノから煙が噴出し、頭の左右と角の部分にも銀色の球体が付いていた。


 そして姿が変わった零は太い木の上に着地すると、両手を見ながら今の自分の姿を確認した。


「・・・・こっ、これは・・・あの時の夢に出てきた・・・俺?」


 零の姿はかつて病院で寝ていた時に夢で見た姿そのものだった。零が自分の変わり果てた姿を見ていると、先程の木の枝が零に向かって伸びてきた。


 零は即座に伸びてくる枝の方に視線を移すと、額の銀色の球体が光だし、零の右肘部の突起の先端が光を纏いながら伸び、零は迷いもなく、ごく当たり前のような動作で腕を振るうと、伸びてきた枝は綺麗に切断できてしまった。


「これは・・・・俺はこの武装を知っている。【高周波ソード】・・・そして・・・」


 零は再び伸びてくる枝に向かって、今度は額に意識を集中させると、そこから赤いレーザーのようなモノが数弾発射され、木の枝を燃やしてしまった。


「そしてこれが【ヘッドビーム】だ」


 零はヘッドビームを連射しながらはやてに接近し、縛り付けている枝を掴んで引き千切るとはやてを抱える。そして一先ず大樹のいない安全地帯に移動してからはやてを降ろした。


「はやてっ!はやてっ!!」


「ううん・・・・」


「よかった、気を失っているだけで、何処にも異常はないみたいだ・・・・んっ?」


 はやての体には何も異常がない事を確認した零は安堵すると、頭の左右に付いている球体が何かに反応したかのように動くと、零はその方向に振り返る。


「・・・・あそこに何かの反応がある。あの真ん中の大樹の頂上付近だ!」


 この異常な現象の原因の位置を確認した零は、はやてを放置するのを一瞬躊躇うが、これ以上被害が出るとも分からないモノを放置しておくわけにも行かず、零は大樹に向かって飛び上がった。すると零の腹の球体が光だし、零は空を駆け出していった。













_____________________________________
















 その頃、とあるマンションの屋上に一人の少女が息を切らせながらやってきた。そして首から提げていたペンダントから赤い宝石を外して空へと放り投げた。


 この少女こそ、一週間前に魔導師となったばかりの【高町 なのは】だった。


「レイジングハート、お願い!!」


<スタンバイ・レディ、セットアップ!>


 なのはの投げた宝石は赤く光りだし、なのはの姿は今までとは違う服装へと変化し、赤い宝石はファンタジーに出てくる魔法使いなどが使っているような杖へと変化した。


 そしてなのはは、目の前に広がる住宅街に突如出現した大樹を見つめていた。


「酷い・・・・」


「多分、人間が発動してしまったんだ。強い思いを持った者が願を込めて発動させた時、ジュエルシードは一番強く発動するから・・・」


 なのはの肩に乗るユーノが出現した大樹の原因はジュエルシードが原因だと話す。その時、なのはの脳裏に午前中に行なわれていたサッカーのメンバーが、自分の親が経営している【翠屋】で昼食を取り、解散したメンバーの中にいた少年がジュエルシードを持っていたような気配を感じていたことを思い出した。


(やっぱり、あの時の子が持ってたんだ・・・・)


 ジュエルシードの気配を感じていたはずなのに、それを見逃したなのはは、自分がしっかりしていたらこんな騒ぎにならなかった筈だと後悔していた。


「なのは・・・・」


 ユーノは自分の行いに後悔しているなのはの顔を見つめていると、レイジングハートが突然光り出した。


「なのは!?」


「ユーノ君・・・・こんな時はどうしたらいい?」


「えっ!?」


「ユーノ君っ!!」


「あっ、うん。封印するには接近しなきゃ駄目だ、まずは元になっている部分を見つけないと・・・・でも、これだけ広い範囲だとどうやって捜したらいいか・・・・」


 ユーノの説明を聞いたなのはは「元を見つければいいんだよね?」と聞き返し、レイジングハートを構えた。


<エリアサーチ>


 なのははレイジングハートを自分を中心に円を描くように動かすと、足下に魔法陣を展開する。そして呪文を唱えるとそこから無数の光が大樹に向かって散らばっていった。













 大樹へと接近していた零は、迫り来る枝や木を両肘の高周波ソードで切断しながら先程見つけた原因の位置へと向かっていた。


「この辺りの筈なんだが・・・・何処だ?」


 零は周囲を見渡しながら中心部分であろう大樹の上を目指して上昇していく。するとそこにより大きな大樹があり、その中心部分に光る物体を見つけた。零は原因はあそこだと思い、すぐに近づいていくと、そこにいたのはまるで繭のようなモノに包まれた少年と少女が抱き合っていた。


「これが大樹発生の原因だっていうのか?」


 さすがの零もコレには驚いていた。しかし周囲からは枝などが懲りずに零に再度襲い掛かり、零の両腕、両足を縛り付けた。まるで二人の世界に入り込んでくる外部からの者の侵入を拒むかのように・・・・・


 しかし零はすぐに高周波ソードを振って枝を切断し、拘束から逃れようとした時、目の前にピンク色の光が通り過ぎていった。






「見つけた。けど・・・・」


「どうしたの?」


(近くに何か別の物が見えたような気が・・・・いや、気のせいだ!)


 エリアサーチを行なっていたなのははジュエルシードの位置を特定するが、近くに別の何かがいたような気がした。しかし封印を最優先に考えたなのはは再びレイジングハートを構える。


「すぐに封印するから!」


「ここからじゃ駄目だよ!もっと接近しないと!!」


「大丈夫、出来るよ!そうだよね、レイジングハート?」


<シューティングモード、セットアップ>


 なのはの問いに答えるようにレイジングハートは通常時のデバイスモードから射撃魔法に適したシューティングモードへと変形した。


「行って!捕まえて!!」


 叫ぶなのはの声にレイジングハートからピンク色の光が目標目掛けて飛んでいく。そして目標のいる場所のすぐ傍にいる零も光の接近に気づいたのかその方向へと振り返る。


「なっ、何だ!?あの光は・・・くっ!!」


 眩い光に思わず両腕を顔の近くに動かして身を守る体制にしてしまう。


<スタンバイ、レディ>


「リリカルマジカル、ジュエルシード・・・シリアルⅩ・・・・封印!!」


 なのはが叫んだ瞬間、レイジングハートから巨大なピンク色のビームのようなものが発射され、ジュエルシードのある場所に直撃すると、住宅街を飲み込むように眩い光が周囲を包み込んだ。


「これは・・・・大樹が消えていく!?」


 光が満ちる中、零は周囲にあった大樹が消滅していくのに気づき、先程までいた少年と少女のいた場所を見ると、今にも落下しそうになっていた。


「いけない!!」


 零は咄嗟に二人を両腕で抱き抱えると、光の中をゆっくりと地上に向かって降下していく。地上に降りると、既に日が傾き、夕暮れとなっていた。零は二人を道路に寝かせると二人を見つめた。


(こんな子供があんな大樹をどうやって・・・・んっ、これは?)


 どう見ても普通の子がどうやってあの巨大な大樹を発生させたのか考えていると、零の視界にあるものが映った。少年の右手に碧眼の瞳を思わせる色と形状をした宝石を持っていたのだ。零はその宝石を手にとって観察してみた。


「これは・・・・見た目は宝石のように見えるが・・・・」


 手に取った宝石を見ていると、額の球体が光だし、それに呼応するかのように宝石も青く光りだす。そして何事も無かったように光は消えた。


「コレが原因だったのか?・・・・って、不味い!はやてを放置したままだった!!」


 零ははやての事を思い出し、宝石を手にしたまま、はやてのいる場所へと飛ぼうとした時だった。近くの店の天井に、はやての車椅子が引っかかっていたのだ。恐らく大樹が出現した時に一緒に持っていかれてしまったのだろう。


 零は車椅子を拾うと、再びはやてのいる場所へと飛び去っていった。
















 ビルの屋上で大樹の消えたことを確認したなのはだったが、シーリングした筈のジュエルシードがやってこない。


「おかしいな。ジュエルシードが来ないよ?ユーノ君」


「確か変だ・・・・今までならシーリングしたらレイジングハートの所に来るはずなのに・・・・・・」


 なのはもユーノも一向に現れないシリアルナンバーⅩのジュエルシードを待っていると突然レイジングハートが警告してきた。


<マスター、シリアルナンバーⅩのジュエルシードの反応をキャッチ。しかし移動しています>


「えっ!?それって・・・・」


「まさか、ジュエルシードを誰かが持っていってしまっているってことだよ!!」


 レイジングハートの話に驚くなのはとユーノ。すぐになのははユーノを抱えるとジュエルシードの反応を追うために空を翔る。ところが・・・・


<マスター、ジュエルシードの反応が消えました>


「えぇっ!?そんなぁ・・・」


 レイジングハートの報告を聞いたなのはは速度を落として地上へと降りた。そこで普段の服装に戻り、周囲を見ると道路や家の屋根がジュエルシードによって発生した大樹の被害を受けていた。


「ごめんね・・・ユーノ君」


「なのは?」


「私、気づいていたんだ。あの子がジュエルシードを持っていることに・・・・でも気のせいだって思っちゃった。そのせいでいろんな人に迷惑をかけちゃった・・・・」


「なのは、悲しい顔しないで。元々は僕が原因だし、なのはは僕の手伝いをしてくれているだけなんだから」


 なのはの謝罪の言葉にユーノは「なのはは悪くない」といって励ますが、その言葉は今のなのはにとっては逆効果だった。その時、一つ先の十字路をあのジュエルシードを持っていた少年が少女を支えながら一緒に歩いていた。


 なのはにとって今回の事は失敗だと感じていた。自分のせいで周りの人に迷惑をかけるのはとても辛い事、そう思ったなのはは、単にお手伝いではなく、自分の意志で真剣にジュエルシード集めに取り組もうと決めた瞬間であった。





 しかし、今回のこの出来事は、魔法を手にしたなのはと、自分の過去の一部を思い出し、“力”を振るった零とのファーストコンタクトでもあった・・・・・・・・・






















 第三話・・・・今回はなのはと零との直接な遭遇・・・・ではなく、間接的な遭遇という感じで作成しましたが、いかがだったでしょうか?

しかし改めて無印を見ていると、あの大樹事件の被害に関して全く触れていないという点は、どうなったのか気になるところです。しかしそこがアニメの恐ろしいところです・・・・


 本編見ていてふと思った事があるんですが、管理局への手紙の配達はどうやってるのだろう?フェイト側からの配達は何とかなると思うのですが、なのは側からは宛先をどう書いて管理局に送っているという点。これはどうやってるんだろ?


そして感想でも多かった「0号ガイバーをそのまま流用するのはおかしい」との指摘があったので、この小説でのガイバーは、第四ユニットという感じにしようと思いました。(第四にするならタイトルも変えなきゃ駄目かな?)

それで姿ですが、基本的に他のガイバーと同じですが、高周波ソードが他のより少し太め。顔はガイバーⅠとⅡを足して割った感じ?で、口部金属球(ソニックバスターの部分)が下顎辺りに左右一つずつある。(分かりにくく申し訳ない)体の色はダークブルー。

 ちなみに呼ぶ時の掛け声は一応【ゼロ】にしていますが、他に案があれば教えてくれるとありがたいです。


それではまた次回・・・・・っというかガイバー(新しい方)に水樹奈々さんが出ていたんですね。



[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第四話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/05/31 20:05

















 ジュエルシードによって起きた巨大な大樹発生事件。はやてと共に自宅へと戻った零は戻るや否やテレビの電源を入れ、ニュースのやっているチャンネルに変えた。

『さて、本日は予定を変更し、本日午後未明に海鳴町で出現した巨大な大樹についての・・・・』


「あっ、やっぱりあの事が報道されとるね・・・」


「うん・・・でも、はやてが無事でよかったよ」


 テレビの報道番組では、やはり昼間の出来事で大事になっていた。周囲の住宅の屋根を破壊してしまった場所もあり、道路も根っこによる被害も出ているという事。


 さて、ジュエルシードを手に入れた零は、あの後どうなったかと言うと・・・・・












 大樹発生の原因であるジュエルシードを手に入れた零は、避難の為に安全な場所まで運んだはやてのいる場所へと車椅子を片手に向かっていた。
その間にも数台のパトカーやらが現場に向かっていた


「急がないと、はやても危なそうだな・・・・」


 零は急がないとはやても警察の厄介ごとになりそうな気がしたのか、全速力ではやての元に飛ぶ。


 暫く飛ぶと、建物の壁に寄り掛かっているはやての姿が見えた。


「いた!・・・・っと、この姿だとさすがに不味いか・・・」


 はやての傍に降下しようとした零だったが、自分の今の状態を見たら不味いと考え、近くの建物の陰に隠れる。
そして心の中で「元に戻れ」と念じると、額の球体が光だし、零の体を覆っていた鎧が剥がれ、元の零の姿に戻った。張り付いていた鎧は再び人型の形を取ると零の背後から消えた。


「よし、これなら大丈夫だ」


 零は自分の状態を確認し、手にしていたジュエルシードをポケットにしまい、駆け出そうとした時だった。突然、零の持っている携帯電話が鳴り出し、ポケットから取り出し発信者を確認すると、はやてだった。


「はい、もしもs・・・・」


『零兄ぃ!!今何処におるん!?怪我とかしてへんか!?どうなんや!?』


 携帯電話に出て一声を言おうとした瞬間、耳元にはやての大きな声が響き渡り、零は思わず携帯電話を耳元から離してしまう。


「はやて、落ち着いて!俺は無事だよ」


『ホンマ?ホンマに無事!?』


「ああ。今すぐ迎えに行くから!!」


 はやてに自分が無事である事を伝えると、車椅子を担いで携帯電話を片手に建物の陰から出ると、携帯電話を耳に当てたはやての姿が視界に入った。


「はやて!!」


「あっ、零兄ぃ!!」


 零が声をかけると、はやては零の方を見た。するとはやての顔は見る見る泣き顔になって零に抱きついてきた。零ははやての頭を撫でながらはやてを落ち着かせる。


「一体何処にいっとったん?目が覚めたらこんな所におるし、零兄ぃがいなかったから・・・・てっきり巻き込まれてしまったんかとハラハラしとったんよ?」


「ごめん、ごめん。気絶していたはやてを一先ずここに避難させた後に、車椅子を捜しに行っていたんだ。心配かけてごめんな・・・・」


 はやてに事情を話した零は、はやてを抱き抱えて車椅子に乗せる。幸い車椅子はどこも破損しておらず、移動には何も支障はでなかった。


 しかし零は、自分の過去を一部思い出した事をはやてには話さなかった。もっとも、思い出したといっても自分が持っていた“力”のみで、それ以外のことはまだ思い出せていなかった。










 そして現在に至る。はやては初めての零とのデートがとんでもない目にあったと話し、零はそれでも無事にこうして食事が出来るだけ良いと思わないと、と言ってはやてと作った晩御飯に手をつけた。


 そして海鳴町で起きた【巨大な大樹発生事件】は結局、原因が分からないまま迷宮入りの事件となってしまった。


 はやてが寝るのを確認した零は、最後の戸締りなどのチェックをした後、寝室へと行き、ベッドの上に寝転んだ。そして上着のポケットにしまっていたジュエルシードを取り出した。


「・・・こんな宝石があの大樹を出現させたのかな?」


 零はジュエルシードを眺めながら、こんな小さな宝石があのようなモノを生み出したのか疑問に思っていた。そして天井を見ながら自分のあの“力”について思い出したことを頭の中で整理した。


(あれは殖装体【ゼロ】。俺は何処かでアレを見つけ、“何か”と戦っていた。・・・・・・だけど、その“何か”がまだ思い出せない。できればゼロの力を使うのはこれきりにしたい)


 零は心の中で自分の持つゼロ・・・・・【規格外品】の力を使うのはこれきりにしたいと思っていた。これからは、はやてと一緒に平凡な暮らしが出来ればそれで良いと考えていたからだ。まるで今まで戦いばかりの世界にいたかのように・・・・・・




















_____________________________________

























 大樹出現事件から一ヶ月半が経ち、事件の際に出た被害の工事は大半が済んでおり、いつもの日常へと戻っていた。そんな中、はやてと零はいつものように二人で毎日楽しく生活していたのだが・・・・・


「う~ん・・・・」


「?どないしたん、零兄ぃ?」


「いや、今考えていたんだが、俺の誕生日っていつなのかなって・・・」


「誕生日?」


「ほら、この間、病院に定期検査に行った際に石田先生が「もうすぐはやてちゃんの誕生日だ」って言っていたから・・・・」


「そやね、もうすぐや」


 零の話を聞いたはやてはふとカレンダーを見る。現在の日付は五月二十五日、あと十日ほどで、はやての誕生日である六月四日になる。
その話を聞いた零はふと自分の誕生日はいつだったのかと考えるようになっていた。


確認をしようにも、零が持っていた荷物の中には自分の証明書などのものは所持しておらず、自分がいつ、何処で生まれたのかも不明のまま・・・・


「う~ん、ほんなら今のところはウチと同じ日が誕生日だってことにしとけばええよ!」


「へっ?」


「だって零兄ぃの誕生日が分からない以上、一緒に祝った方が賑やかになるからええやん!そうしよ?」


 はやての提案は、記憶のない零の誕生日が分からない以上、はやてと一緒に誕生日を祝えば一石二鳥になると言い出した。零も少し考えたが、はやてと一緒に祝えるのならそれもいいかと思い、はやての提案を受け入れる事にした。


 それから十日後の六月三日。零ははやての誕生日を祝う為の準備をしていた。何故一日前かというと、はやての誕生日の日は病院で検査があるのでその前日に行おうと、一日早い誕生日となった。そしてまず、はやてと共に誕生日ケーキを作っていた。


 以前、零がクリスマスの日にはやての為に作ったケーキが美味しかったということで、はやての誕生日にも同じように手作りのケーキにしよう、とはやてが提案したからだ。


 零もそれに乗り気になっており、以前より腕は上がっていると笑いながら話す零は「前のより少し大きめのケーキを作ろう」となり、スーパーで買ってきた大き目のケーキのスポンジを購入し、今は生クリームをスポンジを塗りつけていた。


「零兄ぃってクリーム塗るのうまいんやね~。もう手馴れた感じや」


「まあ目の前に“料理の師匠”がいるんだから、これくらいはね」


 零ははやてに「料理の師匠」と言って褒めると、はやては「何や照れるわ~」と言ってニッコリと笑う。そんなこんなで笑い話をしながらケーキを作っている時、はやては何やら真剣な表情で何かの作業を行っていた。


「はやて、なんだか凄いオーラを出しながら何をやってるの?」


「あっ、駄目や!!まだ見せられへん!!」


 今までにない真剣な顔をしているはやてに、何をやっているかと零はその作業を覗き込もうとしたが、はやての鉄壁とも言えるガードによって何をやっているのか結局分からなかった。













 それから数時間後の晩・・・・・食事を済ませ、風呂に入った後、テーブルの中心に手作りケーキの入った箱を置く。


「・・・・自分達で作ったのに、何故こう開ける時ってドキドキするんだろうな?」


「ホンマ、メッチャドキドキするわ・・・・・」


 零とはやては目の前にあるケーキの中に入った箱をドキドキしながら開けた。そこには一般のデパートなどに売られているシンプルなケーキが顔を出した。


 しかし零は、ケーキの上に置かれているチョコレートのプレートを見て唖然としてしまった。


「はやて、ここに書かれている文字って・・・・」


「気づいた?いや~細かい文字を書くのには苦労したわ~。少しのズレが全体のバランスを崩してしまうからな~」


 プレートには「ハッピーバースデイ、はやて&レイ」と書かれてあった。それははやてが真剣になって書いていたモノの正体だった。


「こうして書いてあると、俺の誕生日は本当にはやてと同じ日と思えてくるな」


「えへへ♪ホンマにそうだったらええな~」


 はやてが頑張って書いてくれた文字を見ながら零は嬉しくなり、はやての頭を撫でながらはやてに感謝した。そして二人でケーキを二つに分けて一緒に食べた。


「はやて」


「ん?なに?」


「俺から誕生日プレゼントだ」


 零ははやてにそう言うと、あるものをはやての前に差し出した。零が差し出した物は木で彫ったような物に青い宝石をくっつけた感じのペンダントだった。


「わぁ~、綺麗やね~。どないしたんコレ?」


「いや、綺麗な石を拾ったから、少し工夫してペンダントにしてみたんだ」


 はやてにプレゼントした青い宝石・・・・なんとこれはあの大樹事件の際に零が手に入れたジュエルシードだった。しかし零自身はこのジュエルシードがロストロギアである事は知らない。


 零からのプレゼントを受け取ったはやてはさっそく首にかけてみる。


「零兄ぃ、ありがとうな!!・・・・・・ああ!!そういえば、ウチは零兄ぃに何にも用意してなかった・・・・」


「別にいいさ。俺にとって今の生活がはやてからのプレゼントだよ」


 はやては「しまった!」と言わんばかりの表情で、零へのプレゼントを用意していなかった事に気づき、零に謝ろうとしたが、零自身は「毎日の生活がプレゼント」と言ってニッコリと笑顔を見せる。


 ケーキも食べ終わり、零ははやてを寝室に連れて行き、はやてを抱きかかえてベッドへ寝かせる。


「ほんなら零兄ぃ、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ。はやて」


 零にお休みと言って寝室から出ていく零。その後はやてはベッドに潜り込むと、生まれて初めて人から貰ったプレゼントであるペンダントを眺めながら自然と表情が緩んでしまう。


(零兄ぃから貰ったプレゼント・・・・大事にするから)


 はやては心の中で零にお礼を言うと、目を瞑って眠りについた。





















_____________________________________




















 時計の針が午後23時59分を回ろうとした頃、はやてが眠る中、部屋に響く時計の秒針の音が徐々に12の数字へと近づいていく。そして秒針が12に止まり、時が午前0時をさした瞬間、突然異変が起きた。


 はやての机に大事に置かれていたあの鎖で止められていた本が紫色の光を放ち始め、宙に浮いてはやての傍までやってきたのだ。


「うう~ん・・・・何か眩しいな~」


 本の放つ光に反応したのか、はやては目を擦りながら目を覚ました。そして光が放たれている方を見ると、そこにはあの本が今にも鎖を引き千切らんと膨れ上がり、まるで心臓のように「ドクンッ!、ドクンッ!」と脈打っていた。


「えっ、ええっ!?」


 はやては今目の前で起こっている出来事に驚きの余り全く動けないでいた。そして家全体が地震が起きたかのように揺れ始め、はやてはベッドから落ちそうになってしまう。


「んっ?何だ!?地震か!?」


 自分の部屋で寝ていた零は、突然の揺れに目を覚ました。


「これはでかい・・・・はやては大丈夫か!?」


 地震の揺れが大きい事に気づいた零は、急いではやてのいる部屋へと駆け出した。部屋を出て、はやての寝室へと向かおうとした時、突然何かに当たったような衝撃が零を襲った。


「うわぁっ!!?」


 何かに当たった衝撃で転がる零は何に当たったのか確認しようとしたが、目の前には何もないただの廊下しかなかった。そしてはやての部屋から紫色の光がドアの隙間から漏れていた。


 零は再度はやての寝室へと向かおうとするが、何か見えない壁のような物があるのか、寝室へ近づけなかった。













<封印を解除します>


 部屋の中では本が鎖を引き千切り、開かれた本は何も書かれていないページがひとりでにペラペラと開かれ、最後のページまで行った瞬間、再び本は閉じられ、はやての前までゆっくりと降りてきた。その光景にはやては恐怖を感じたのか後ろの後ずさる。


<起動>


 何処からか声が響くと、本の表紙の十字架が光だし、はやての胸からビー玉くらいの大きさのモノが飛び出し、本に吸い込まれてしまった。


「うわぁぁぁぁっ!!!」


 それと同時に眩い光が部屋一面に広がった。


 光が収まったのか、はやてはゆっくりと目を開けると、先程のビー玉が光りながら浮いていた。はやては何が起きたのか分からぬまま視線を下に向けるとそこには驚くべき事が起きていた。いつの間にか、そこには三人の女性と一人の男性が膝を付いて頭を下げていたのだ。


「闇の書の起動を確認しました」


「我ら、闇の書の収集を行い、主を守る守護騎士にてございます」


「夜天の主の下に集いし雲・・・・・・」


「ヴォルケンリッター、何なりとご命令を・・・・」


 先頭のポニーテールの女性から、金髪の女性、大柄の男、赤毛の女の子が一人ずつ言葉を発し、頭を下げたまま動かずにいた。


「あっ、あの・・・・・」


「はやてっ!!無事か!!」


 はやては驚きの余り意識を手放してしまいそうになった時だった。大きな音を立ててドアを開けた零が部屋に乱入してきた。
















 零は見えない壁にどうするべきか考えていた。こうなったら【ゼロ】で無理矢理でも突っ込もうかと思った時だった。突然眩い光がはやての部屋から出たと思ったら、立ち塞がっていた見えない壁が急に消え、急いではやての部屋のドアノブに手をかけドアを開けた。するとそこには、はやての他に四人の不審者がいたのだ。


「だっ、誰だ!あんた達はっ!!?」


 零はどう見ても不審者であろう者達に大声で叫ぶと、ポニーテールの女性が何処から取り出したのか片刃の剣を零に向けてきた。


「貴様こそ何者だ?主の御前であるぞ!!」


「妙な気を起こすのなら、我らヴォルケンリッタ-が相手だ!!」


 剣を向けてきた女性と、大柄の男は拳を構えて零に敵意を向ける。


「・・・俺ははやての家族だ!そっちこそ何者だ!はやてに危害を加えるというのなら・・・・・・」


 零は敵意を向けてくる二人に対し、自分ははやての家族だと言ってゼロを呼ぼうとした時だった。突然、剣を向けていた女性が剣を降ろしたのだ。


「主の親族の方でしたが・・・申し訳ございません。不審な者だと勘違いしてしまったので・・・・・」


「どうか、お許しを・・・・」


 零がはやての親族だとするや否や、女性がそう言うと、拳を構えていた男も両手を下ろしてしまった。その態度の変わりように零は戸惑いを隠せないでいた。


「なあ、ちょっと・・・・」


「何だ?」


「こいつ気絶してんじゃねぇか?」


『へっ!?』


 赤毛の女の子の言葉に零達ははやての方を見ると、目をグルグル回しながら気を失っているはやての姿があった。


















_____________________________________






















 翌日、気を失ったはやては海鳴市大学病院のベッドで目を覚ました。


「はやて!」


「はやてちゃん、良かったわ何ともなくて・・・」


「零兄ぃに、石田先生?」


 目を覚ましたはやてに零と石田は、気を失ってからここへ運び込まれてきたまでの経緯をはやてに話した。


「あの時はビックリしたわ。深夜に零君が息を切らしながらはやてちゃんを背負って来たんだから・・・・ところで・・・・」


「はい?」


「あの人達は誰なの?」


 石田の指摘にはやてが部屋の出入り口の場所を見ると、男性医師に取り囲まれたあの黒服の四人が立っていた。


 赤毛の女の子はこちらを警戒しているのか、チラチラと見ながらすぐに目を逸らしてしまう。金髪の女性は落ち着かない様子でオロオロしている。ポニーテールの女性はビシッとした姿勢で立っており、男は時折耳を動かしていた。


「どういう人達なの?春先とはいえまだ寒いのに変な格好をしているし、言っている事は訳が分からないし、どうも怪しいわ・・・・」


 確かに石田の指摘はごもっともだろう。四人の格好は明らかに薄手で、半袖、どう見ても寒すぎる格好である事は誰が見ても間違いない。


 特に零は四人と出くわしてからはやてを病院まで運んで来るまでの間、四人の格好を見る暇はなく、今ここで改めて見ると、確かにおかしな格好だと感じていた。


「あ~、えっと・・・・その、なんと言いましょうか・・・・・・」


『ご命令を頂ければ、お力になりますが・・・・』


「へっ?」


『思念通話です。心でご命令を念じてくだされば・・・・』


 石田の質問にはやてはどう答えようかと迷っていると、頭の中に声が聞こえた。はやては少し戸惑ってしまうが、言われたように心の中で念じながら返事を返した。


『ほんなら命令と言うか、お願いや。ちょうウチと話を合わせてな』


「はい」


「え~と石田先生、実はあの人達、私の親戚で・・・・」


「えっ?親戚?」


「いっ!?」


 はやての発言に石田と零は驚く。零に至っては「あの不審者が親戚!?」と思っていたが、はやては話を進めていく。


「遠くの祖国から、わざわざ私のお誕生日をお祝いに来てくれたんですよ。そんでビックリさせようと仮装までしてくれていたのに、私がビックリしすぎてもうたと言うかその・・・・ねえ、零兄ぃ?」


「へっ?えっ!?」


「本当なの?零君」


 いきなりはやてから話を振られた零に石田が問い掛ける。焦る零は、石田にどう説明しようか迷っていた。しかしはやての顔は「話しを合わせて」と訴えかけている表情になっており、焦った末に口が開いてしまった。


「あ~、ああっ!そうだった!!確かそんな話があったかな~あはははは・・・・なぁ?」


「そっ、そうなんですよ」


「その通りです」


 零は苦し紛れに笑いながら答え、今度は目の前にいる四人に話しを振ると、金髪の女性が手を合わせて話に乗ってくれて、ポニーテールの女性も零の発言を肯定してくれた。さすがに石田は手を顎に当てながら不審がっていたが・・・・・












 その後、零ははやてを背負って四人と共に自宅に戻り、一度はやての部屋に集合していた。帰宅している途中、零に背負ってもらっていたはやては顔を少し赤くしていたが・・・・


「そうか~、この子が闇の書っていうもんなんやね?」


「はい」


「闇の書って・・・・随分おっかない名前の本だな?」


 自室ではやてはあの鎖で巻かれていた分厚い本【闇の書】と呼ばれる本を眺めながら話していると、四人は再び膝を付いてはやてに向かって頭を下げていた。ちなみに零ははやてのベッドに腰をおろしていた。


「覚醒の時と寝ている間に、闇の書の声を聞きませんでしたか?」


「う~ん、ウチは魔法使いとちゃうから、漠然とやったけど・・・・あっ、あったあった」


 金髪の女性が話している間に、はやては自分の机に置かれている小物入れの棚に手を伸ばして何かを探していた。そして探し物が見つかったのか、再び車椅子を動かして四人の前に移動する。


「分かった事が一つある。闇の書の主として、皆の衣食住の面倒をきっちりと見なあかんということや。幸い住むところはあるし、料理は得意や。
さっそくやけど、皆の服を買ってくるから、サイズを測らせてな?」


『はあ・・・・・』


 はやては四人の責任者としてしっかり面倒を見ないといけないと話し、メジャーを出して四人のサイズを測ろうとする。そのはやての行動に四人はあんぐりとした表情になっていた。


「あっ!いけない、その前に自己紹介や。改めて、ウチは八神はやて。そんでこっちが・・・・」


「んっ?ああ、俺は零。はやての家族だ」


 はやては思い出したかのように自分の名前を言い、零もはやてにつられて自分の名前を四人に話した。


「私は烈火の将【シグナム】」


「同じく、湖の騎士【シャマル】」


「同じく、鉄槌の騎士【ヴィータ】」


「同じく、盾の守護獣【ザフィーラ】」


『我ら、闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターでございます!』


 シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラはそれぞれ自分の名前を言い、自分達は主を守護する騎士団【ヴォルケンリッター】であると高らかに宣言した。


























 どうも第四話、ついにヴォルケンズ登場です。
ふと思った事があるのですが、ザッフィーは魔力の蒐集や転移魔法は使用可能なのだろうか?
 本編中、大概誰かと一緒にいるってことは、転移魔法とか出来ないのかな?もし知っている方がいれば教えて欲しいです。

 さて、前回ガイバーになる時の台詞の案を多数頂きましたが、自分なりに考えたのは「コネクト!!」とか「フュージョン!!」とか「接続」などを思いついたのですが、どれがしっくりきそうですかね?










[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第五話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/02/21 00:00

















 八神家にシグナムらヴォルケンリッターがやって来たその日、いきなり大忙しとなった。
服を一着も持っていないヴォルケンズ一同に服を買うために、はやてと零はデパートへと向かい、服を買った・・・・・のだが、下着売り場ではさすがに男である零が行くわけにも行かず、服の入った袋を持って売り場の前で待機する事になった。


「零兄ぃ、お待たせ」


「ああ、これで一通り買ったかな?・・・でも驚いたよ。はやてがあの人達も【家族】同様に住まそうだなんて・・・・」


「だってウチは、あの子達の主やもん。それやったら家族同然や!零兄ぃも同じ気持ちやろ?」


「まあ、一応俺も居候の身だし、はやてが良いと言うのならそれで構わないよ・・・」


 両手に担いだ袋を持った零と、下着類の入った小さな袋をはやてがそれぞれ持って、突然現われた新しく加わった【家族】のいる自宅へと帰る。ちなみにヴォルケンズのメンバーは、さすがにあの格好でうろつかれるのは不味いので自宅で待機させている。


 家に戻るとさっそくはやてと零は袋から服を取り出す。幾つもの服を零はシャマルに手渡すと、シャマルはウキウキした感じでどれにしようかと選び、シグナムやヴィータは若干戸惑いつつも、はやてが差し出した服を手に取り、着替え、その姿を見たはやての表情はにこやかになっていた。


 ザフィーラに関しては、守護獣であるのか人型と獣型と二つになれるとの事で、家に戻った時には狼の姿になっていた。本人曰く「人型よりこの姿の方が落ち着く」とのことだ。


 それから夕食前に風呂に入ろうという事になり、零は着替えを持ってはやてと一緒に入ろうとした時だった。


「はやてちゃん、まさか・・・零さんと入るのですか!?」


「そやけど?」


「いけません!!いくら零さんがはやてちゃんのお兄さんでも、それだけは駄目です!!私が入れてあげます!!」


 はやてにとって零と風呂に行くのは既に日課になってしまっており、ごく当たり前だと思っていた。しかしシャマルは「それは駄目!!」と反論し、ヴィータと入るようにはやてに説得する。


 まあ、シャマルの言う事は正論なのだが・・・・・


 その後、零の代わりにシャマルがはやてとヴィータを一緒に風呂に連れて行き、零はリビングにいるザフィーラの傍にやって来た。


「はぁ~、シャマルには感謝しなきゃな・・・・」


「零殿、それはどういう意味なのだ?」


「いやな、今までは俺とはやてしか居なかったから二人で風呂に行くのは当たり前となっていたんだが、これでも少しは恥ずかしくてな。
今ならシャマルさんやシグナムさん、ヴィータちゃんの三人の内、誰かがはやてと一緒に入ってくれれば、俺も少しは安心できると思って・・・・」


「零殿も苦労していたのだな・・・・それと」


「ん?」


「我らの事は呼び捨てでも構いません。零殿は主の兄君であるのですから」


「だったら、俺の事も殿なんてつけなくていい。皆にも俺には普通に接してくれって伝えておいて」


「心得ました」


 ヴィータと一緒にはやてを風呂へ連れて行ったシャマルに感謝している零に質問するザフィーラ。いくら慣れてきたと言っても、はやてと入る時の零の心拍数は上昇しており、若干苦労をしていたのだ。








 その後、全員が風呂に入り終わると晩御飯の時間になる。今日はヴォルケンズ全員との初めての食事ということもあり、ご飯と味噌汁、煮物と刺身の晩御飯となった。


 いつもは零とはやての二人分だけの食事分でしか出していなかったが、四人分ともなると、いつもの食事も豪華に見えてくる。


「さあ出来た、食べようか!頂きます!!」


「頂きます・・・・ってほら、皆も」


『い、頂きます・・・・』


 手を合わせて合掌するはやてと零につられて、シグナム達も手を合わせて食事に手をつける。ザフィーラは狼の状態なので、犬のエサ用に使うカップにご飯とおかずを盛り合わせたのを出している。


 ヴィータは初めて見る食べ物なのだろうか、少し戸惑いを見せつつも食べ物を口に運ぶ。そして美味しかったのだろうか、次々に箸をすすめ、あっという間に茶碗の中のご飯を平らげてしまった。


「・・・・おかわり・・・・」


「はぁ~い」


「あっ、はやて。俺が注いでくるから・・・・」


 そんな感じでヴォルケンズとの一日目は終った。
















_____________________________________

















 それから数週間過ぎた頃には、シグナム達も生活に慣れてきたのか、少しずつではあったが段々表情が豊かになっていった。


 そんなある日、はやてと零、そしてヴォルケンズは家でのんびりと過ごしていた。その時、シグナムとシャマルがはやての傍にやって来た。


「騎士甲冑?」


「はい、我らは武器は持っていますが、甲冑は主から賜らねばなりません」


「自分達の魔力で作りますから、形状をイメージしてくだされば・・・・」


「甲冑っていうと・・・・やっぱこう・・・・」


 シグナム達ヴォルケンズは、武器は自分で所持しているが、自身を守る鎧、つまり騎士甲冑は闇の書の主になった者から貰わないといけないらしい。


 その話しを聞いた零は頭の中で鎧をイメージし、シグナムらが装備したらどうなるだろうと思い描いてみた。


 すると以前、雑誌で見たお城の通路に飾りとして置かれている全身鎧の騎士の姿が浮かんだ。


「やっぱり、こう・・・・かなりゴツイ形になるのかな?」


「あかんて零兄ぃ、そんなのシグナム達に似合わへんし、それに皆を戦わせたりせえへんのやから却下や!」


「ごっ、ごめん・・・・」


 はやては家族であるシグナム達を戦わせたりするのを嫌っており、零の思い描いたモノがどんなのだったか分かったかのようにプンスカと怒ってしまった。
しかし騎士甲冑が必要だと話すシグナムに、はやては頭を悩ませる。


「う~ん・・・・・鎧が駄目だったら、騎士らしい服にするっていうのはどうだ?」


「あっ、それええやん!さっそく資料探しにいこか!!」


「どちらにですか?」


 零は先程の失言の汚名返上を込めて、はやてに“騎士らしい服ならどう?”と提案すると、はやては同意してくれた。その後、シャマルとヴィータを連れて資料のある場所へとやって来た。


「ここは・・・・?」


「見ての通り、おもちゃ屋だ!」


「こういう所にこそ、それらしい材料があるんやで」


 はやてと零が二人を連れてきたのは見ての通りおもちゃ屋だった。シャマルは「こんな所に?」と戸惑いを見せているが、こういう所にこそ目的の“騎士らしい服”の資料があるのだ。


 はやてと共に資料探しをしている最中、ぬいぐるみ売り場の前を通り過ぎた時だった。ヴィータが足を止めてぬいぐるみの一つをじっと見ていた。


「んっ?ヴィータ、どうしたんだ?」


「あっ、いや、その・・・・・」


 零がヴィータに何をしているのかと聞いてみると、ヴィータは何やら焦りながらも問いに答えようとする。


 ヴィータが見ていたのは、ウサギのぬいぐるみ・・・・・だったのだが、赤目に黒の蝶ネクタイ、そして何故か口が縫い付けられている何とも変わったデザインの物だった。


「欲しいのか?」


「えっ!?」


「だったら買ってあげるよ」


 零はヴィータがいかにも気に入ったであろうウサギのぬいぐるみを手に取り、ヴィータを連れてはやてと合流、はやてとシャマルもいい感じの資料が見つかったという事で、零はレジにいって会計を済ませ、ぬいぐるみの入った袋をヴィータに手渡した。


「いい風ですね~、お天気もいいですし」


「ホンマや、絶好のお散歩日和やな~」


 帰り道、シャマルが車椅子を押してはやてと先を進んでいる中、零の隣を歩いているヴィータは、買ってもらったぬいぐるみの入った袋を大事そうに持っていた。


「ヴィータ、もう出しても大丈夫だぞ」


「えっ?・・・・・いいのか?」


「ああ」


 零はヴィータに一言言うと、ヴィータはすぐに袋からぬいぐるみを取り出すと、表情が満面な笑顔になる。


「零!・・・・あっ、あんがと・・・・」


「ふふっ、どういたしまして」


 零にお礼を言おうとしたヴィータだったが、零の顔を見るなり俯いてしまい、顔を赤くしながら小さく呟いた。ヴィータの反応に零は笑みを浮かべる。


 今までのヴィータは何処か遠慮というか、人見知りというか、余り笑顔を見せていなかったので、今の嬉しそうなヴィータの表情には自然とニヤけてしまう。


「零兄ぃ、ヴィータ、おいてっちゃうで~」


「おっと、いつの間にあんな遠くに!?急ぐぞ、ヴィータ!!」


「うっ、うん!!」


 いつの間にかかなりの距離まで遠ざかっているはやてとシャマルに追いつくために、零とヴィータは急いではやて達の後を追った。
























 それから三日が経った夜。はやてはシグナムに抱きかかえられながら庭に出て星空を眺めていた。その間に食器を洗い終えた零はシャマル、ヴィータ、ザフィーラと共にリビングで一休みしていた。


「そういえば、聞きたいことがあるのですが・・・・・」


「ん?何だ、シャマル」


「はやてちゃんはどうして闇の書のページを増やそうとしないんでしょうか?」


「えっ?」


「闇の書を完成させれば、本の主となった者は強大な力を得る事が出来る。それ故に我らを戦わせるなんて事は当たり前のこと」


「それにはやては、アタシらに今までの主みたいな酷い扱いをしないし・・・」


 シャマルの質問に零は疑問に思っていると、ザフィーラとヴィータも、はやては今までの主とは何かが違うと話す。


「ちょっと待て、それじゃあ今まで皆はどんな扱いを受けていたんだ?」


「それは・・・・・」


 零はシャマルに「どんな扱いを受けていた?」と聞くと、シャマルは少し暗い表情をしながら、以前の主や歴代の闇の書の主となった者達の事を零に話してくれた。


 闇の書とは、魔力を糧にしてページを増やし、666ページ全て埋めた時、主となった者は初めて大きな力を手にする事が出来る。それを知った歴代の闇の書の主達は、シグナム達ヴォルケンリッターにひたすらページの蒐集をするように命じていた。


 シグナム達は【リンカーコア】という魔力の源であるモノを奪う為に、毎日、毎日戦う事が当たり前の生活を送り、暖かい食事など与えられる事など無いに等しかった。


「なんだって!?そんな扱いを今まで受けていたっていうのか!?」


 零はシャマルの話を聞いて驚きを通り越して唖然としてしまった。


「ああ・・・それに前の主なんか、アタシらをまるで道具みたいに扱って・・・寝る場所なんか、冷たくて寒くてジメジメした地下牢みたいなところに押し込んでたし・・・・」


 ヴィータは思い出すのも嫌なくらい暗い表情で以前の主がどう扱っていたかを零に話す。さすがにその話しを聞けば、初めて出会った時の皆のあの戸惑いは、そんな理由があったのだと容易に推測できた。


「着る物も用意してくれませんでしたし、騎士甲冑も無骨な鎧型しかありませんでした・・・・」


「・・・・ごめん、甲冑の話をした時、俺はすぐに鎧の事を口にしてしまって・・・・」


「いえ、騎士としてのイメージなら誰でもそう思うのですから・・・・」


 シャマルの話を聞いた零は、前に騎士甲冑の話を聞いた際にすぐに重そうな鎧の話をしてしまった事に対して三人に謝罪する。零の言葉にシャマルは「仕方ない」と言ってくれるが、零自身やはり申し訳ないと思っていた。


「でも!はやてや零は、アタシらを【家族】として見てくれてるんだし、今更過去の事を考えてもしかたないじゃん。それに今の生活はアタシは気に入ってる!!」


「そうね。私も今の生活に満足していますし、何より零さんも私が失敗してもはやてちゃんと同じくらいに慰めてくれますし!」


 少し沈み気味の零にヴィータとシャマルは今の生活が気に入っていると話す。その言葉を聞いた零は内心安心した。


 その時、はやてを抱えたシグナムが部屋に戻ってきた。しかしはやてはいつの間にかスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまっており、シグナムははやてを起こさないように静かに寝室まで運んでいった。


 そして暫くすると、シグナムが戻ってきた。


「どうやらお疲れだったようだ。話をし終わった後、眠ってしまわれた」


「・・・・どんな話しをしていたんだ?」


「ん?どうした、零にしては随分落ち込んでいるような感じだが・・・」


「皆から今までの闇の書の持ち主の話を聞いたんだ」


 零がシグナムにそう言うと、シグナムの表情が少し険しくなる。仕方ないだろう・・・・シャマルやヴィータが言っていた話を聞けば誰もが嫌になるだろう。


 しかしシグナムは「私達の過去については、お前が気にすることはない」と言ってソファーに座った。


「それで主はやてが話していた事なんだが、皆も聞いてくれ」


 シグナムの一言にシャマル達はシグナムを見る。さすが将を名乗っている事もあってか皆のリーダーなのだろう、皆の反応も早い。


「主はやてから指示が出た。【主はやてがマスターである限り、闇の書の事は忘れ、ヴォルケンリッターの仕事は、皆で幸せに暮らすこと】・・・だそうだ」


 シグナムの口から出た言葉に、その場にいた全員が暫く固まってしまう。そして暫くすると皆笑い合っていた。


「あはははっ、いかにもはやてらしい命令だ!!」


「ふふふっ、今までそんな命令受けたことがない」


「ふっ」


 ヴィータもシャマルも、余り口を開かないザフィーラまで笑い出した。その光景に零も、はやての心に広さに驚くばかりだった。はやてはいつも守護騎士のことを考え、騎士達のことを気にかけている。


(俺も、同じようにはやてに助けられたんだな・・・・)


 零は笑っている守護騎士の皆を見て、自分も一年くらい前の頃は同じようにはやてに助けられたんだなと思う。記憶をなくし、何処にも行く当てのない自分をこうして受け入れてくれた。そして今ではもう家族であり、守護騎士達も家族同然として見ている。


「あ~笑ったらお腹空いてきた。アイス食って良いか!?」


「お前、あれだけ食べてまだ食べる気か?」


「うるせぇ、育ち盛りなんだよ!」


 皆が笑っていると、突然ヴィータが零にアイスを食べていいかと聞くと、シグナムは晩御飯をたくさん食べて、まだ食べるのかと呆れてしまっていた。


「もうヴィータちゃん、余り食べるとまたお腹壊しちゃうわよ。それにご飯食べる前に自分の分のアイス食べてたじゃない」


「ああっ!?そうだったぁぁぁぁ~!!」


「・・・・ヴィータ、俺の分のアイスを食べて良いよ」


「ホントか!?やったぁぁぁっ!!」


 シャマルの指摘に食事前に自分の分のアイスを食べてしまっていた事に気づいたヴィータは頭を抱えて座り込むが、零がまだ食べていない自分のアイスを食べていいと言うと、地獄から天国に舞い戻ったかのような笑みを浮かべてヴィータは冷蔵庫へと走っていった。


「全く、食い意地だけは人一倍だな・・・・」


「いいじゃないか。あの元気さがヴィータの良いところなんだから」


 笑いながら冷蔵庫に駆けて行ったヴィータの姿に、零は先程までの過去の話をしていた時の気分はすっかり晴れていた。


 零は思った。この何気ない毎日が・・・・この幸せな日々がずっと続けばいいと思っていた。






















_____________________________________





















 しかしそんな幸せな日々も、ある日を持って一変する事となる。それは10月27日の夕方、いつものようにはやてを病院に連れ、定期検査を済ませた後の事だった。


「えっ!?はやての命が・・・・危険ですって!?」


「ええ・・・・」


 石田の言葉に、はやての診断結果を聞いていた零は声を上げてしまう。一緒に同席していたシグナムとシャマルも同じだ。 
 

「はやてちゃんの足は、原因不明の神経性麻痺だと零君には話したけど、この半年で麻痺が少しずつ上に進んでいるの。
この二ヶ月は特に顕著で・・・・このままでは、内蔵機能の麻痺にまで発展する可能性があるんです」


 その言葉を聞いた零は頭の中が真っ白になってしまった。そして室内を出て廊下に出ると突然シグナムが拳で壁を殴りつけた。


「何故・・・・何故気づかなかった!!」


「ごめん・・・・ごめんなさい、私・・・・」


「お前にではない・・・・自分に言っている・・・・」


 壁を殴って叫ぶシグナムにシャマルは涙を流しながら謝る。そのやり取りに何か気づいたのか零はシグナムの方にゆっくりと振り返った。


「シグナム・・・・お前、はやての病気の事に・・・・何か心当たりがあるのか?」


「うっ!?」


「心当たりがあるのかと聞いているっ!!」


 零の質問にシグナムが反応し、零はシグナムの胸倉を掴んで問いただす。零の表情は今までの生活では想像できないような怒りに満ちた顔になっていた。その顔にシャマルは驚いたのか、全く動けずにいた。


「・・・・・主はやての足の病気は、ただの病気はなく、闇の書が原因だ・・・・」


「な・・・に・・・?」


 シグナムの言葉に零は唖然となる。シグナムが言うには、はやてが生まれた時から共にあった闇の書は、はやての体と密接に繋がっており、抑圧された膨大な魔力は、リンカーコアが未成熟なはやての体を蝕み、健全な肉体機能どころか、生命活動さえ阻害していたという。


 さらに、はやてが第一の覚醒を迎えた事でヴォルケンリッターの・・・・つまりシグナム達の活動を維持する為に、はやての魔力をごく僅かだが、少しずつ消費していた事も麻痺の加速に繋がってしまったいる・・・・と零に説明した。


「・・・・それじゃあ、このまま行けば・・・・はやては死ぬって言うのか?」


「・・・・・・・・・」


「そんな・・・・・」


 零の問いに答えないシグナム。その沈黙が真実だと零に突きつけられ、シグナムの胸倉を掴んでいた手が力無く下がった。



























 第五話です。

 しかしここで思った事があるんですが、デバイスと携帯電話ってどうやって繋いでるんですかね?本編第二話でもシャマルがクラールヴィント経由で、はやての携帯に電話している場面がありましたが・・・・

 さて、ついに闇の書の呪いの効果が出始めたはやての体、この先どうなる事やら・・・・次回をお楽しみに!!












[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第六話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/02/28 00:00
















 病院から帰ってきたその日の深夜、零は寝室でスヤスヤと眠るはやての顔をじっと見ていた。いつもと変わらないはやての表情からは、とても死に近づいているとは思えないほど健やかだった。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 今シグナム達は家にはいない。恐らくその場にいなかったヴィータとザフィーラに事情を説明している頃だろう。零は眠るはやての布団をかけ直し、優しく髪を撫でてやると一度目を瞑り、そして何かを決意したかのような表情で静かに立ち上がると部屋から出て行った。























 シグナム達は近くの海岸沿いのベンチの近くで話をしていた。はやての体の事を説明し終えたシグナムにザフィーラは顔を向け、ヴィータは下を向いたまま俯いてしまっていた。


「・・・・・助けなきゃ、はやてを・・・・助けなきゃ!!なあ、シャマルは治療系が得意なんだろ!?そんな病気ぐらい治してよっ!!」


「・・・・・ごめんなさい、私の力じゃ、どうにも・・・・」


 シャマルの得意能力は治癒系及び補助系統の魔法だが、はやての病気は闇の書自身の呪いであり、自分の魔法ではどうにもならないと言うと、ヴィータは涙を流しながら泣き出してしまった。


「シグナム・・・・」


「・・・我らが出来る事は、余りにも少ない。だが・・・・何もしない訳には行かない!!」


 シグナムは待機状態である自身のデバイスである炎の魔剣【レヴァンティン】を握ると顔を上げた。その時、シャマルの右手の指にしている【クラールヴィント】からメロディが流れ始めた。


「はい・・・・」


『シャマル、俺だ。今何処にいる?』


「零さん?今、皆と海岸沿いのベンチにいますが・・・・」


『分かった。そのままそこで待っててくれ』


 シャマルに連絡を入れてきたのは携帯電話を使って電話してきた零だった。暫くすると、シグナム達のいる場所に零が現われた。


「零・・・・・」


「シグナム、それに皆・・・・はやての病気を治す方法を知ってるんじゃないか?」


『!?』


「もし知っているのなら、教えて欲しい。はやてを救う為に・・・」


 零の言った言葉にヴォルケンズは驚きの表情をする。しかしシグナムはそんな零の発言に険しい表情で答えた。


「気持ちは嬉しいが、お前は魔導師じゃない。手伝える事なんて・・・・」


「確かに俺は皆みたいな魔導師とか魔法が使えるわけじゃない。・・・・だが、戦う“力”は持ってる!」


 シグナムは零の気持ちは嬉しく思ったが、どう見ても一般人にしか見えない零の要望を断ろうとしたが、零は深呼吸して目を見開いた。


「コネクトッ!!」


 零が叫ぶと、何もない零の背後から蒼い殖装体が出現し、零の体を取り込んで一つとなる。その姿を見たシグナム達は目を見開いて驚く。


「これが・・・俺のもう一つの姿だ」


『・・・・・・・・・』


 若干エコーの掛かったような零の声にシグナム達は黙ってしまっていた。それもその筈、殖装体を纏った零の姿は、いくら歴代の時代を巡ってきたヴォルケンリッターでも初めて見る存在だからだ。


「なっ、何だその姿は!?我々のデバイスや騎士甲冑とは全く異なるモノだ!!」


「これは殖装体【ガイバー】だ」


「ガイバー?」


「ああ、詳しい説明はまた後で話す。それよりシグナム、これなら文句は無いだろう?はやてを救う方法を教えてくれ」


「あっ、ああ・・・・」


 ガイバーという異形の姿になった零に戸惑いつつも、シグナムは零にはやてを助ける方法を説明した。


















 そして零を含んだ五人は、とあるビルの屋上に集まった。


「主の体を蝕んでいるのは、闇の書の呪い・・・」


「はやてちゃんが闇の書の主として、真の覚醒を得れば・・・」


「我らの主の病は消える・・・少なくとも、呪いの進行は止まる!!」


「はやての未来を血で汚したくないから、人殺しはしない。だけど、それ以外なら・・・・・・何だってする!!」


 シグナム達はそれぞれの思いでデバイスを構えると、足元の巨大なベルカ式の魔法陣が出現する。


(はやてを救う為なら・・・・俺は“咎人”にもなる事も恐れない!居場所を作ってくれたはやての為にっ!!)


 シグナム達は、はやてが一生懸命イメージしてくれた騎士甲冑を纏い、零も心の中で二度と使う事も無いと思っていた殖装体【ガイバーゼロ】の力を、はやてを救うために使う事を決意した。


 そして一つの思いと共に集結した五つの光は天に向かって飛び去っていった。それが例え罪を犯す事だと知りながら・・・・・・



















 魔力蒐集へ出発したガイバーゼロとヴォルケンリッター。しかし零には、魔力蒐集などの能力は持っていないと言う事で、今回はシグナムと共に行動していた。


「それでシグナム、魔力のある場所などはどうやって見つけるんだ?」


「今、シャマルが索敵魔法を使っている。それに引っかかれれば連絡がくるだろう」


 シグナムが言うには、シャマルのクラ-ルヴィントは主に広域探査が得意のようで、今は移動しながらシャマルの連絡待ちの状態である。


『シグナム、零さん。捕獲対象と、その対象がいる世界を見つけたわ』


「分かった、今から向かう。零も準備はいいな?」


「ああ、了解だ」


 シャマルからの連絡を受けたシグナムは、目の前に紫色のベルカ式の転移魔法陣を展開した。ガイバーゼロは初めて見る魔法陣をマジマジと眺めている。


「へぇ~、これが魔法陣か・・・・」


「ここをくぐれば、その先はこことは違う世界へと行くことができる。さあ、行こう」


 シグナムの魔法陣を見ているガイバーゼロの背中を「ポンッ」と叩きながら魔法陣に乗り、ガイバーゼロも魔法陣の上に乗る。すると魔法陣が光だし、次の瞬間には全く別の場所に移動していた。


「ここは・・・・森の中?」


「別世界だ。ここにいる原生生物のリンカーコアを奪う」


「奪うって、人以外にもリンカーコアって持っているのか?」


「ああ、生き物の中にも異常に進化したモノや、巨大な体であるモノ、その大きな要因が魔力を内包しているからである、と言われている」


 ガイバーゼロは人以外にも魔力を持っていることをシグナムから初めて聞いた。なにせ、魔法を使うのは、人間しかいないとしかイメージが無く、人を襲って奪うものだと覚悟はしていたが、まさか普通の動物などにもリンカーコアを持つモノもいるとは思いもしなかった。


「だが、魔力を一番有しているとしたら、やはり魔導師を狙うのが一番早いのだが・・・・」


「早いのだが?」


「主はやての未来を血に汚したくない。故に狙うのは・・・・」


 高魔力を一番手っ取り早く手に入れるのは、魔法使いである魔導師を狙うのが一番いいのだが、はやての未来を“犯罪者”という名を残すわけにもいかないとシグナムは話す。もちろん零自身もそんな未来は望んでいない。


 その時、森の中から巨大な蛇のような生き物が地面を這ってきた。その姿を見るや否や、シグナムはレヴァンティンを鞘から出して剣を構える。


「故に狙うのは、ああいった生物のみだ!!」


<Explosion.>


 そしてレヴァンティンの柄の部分がスライドし、そこから銃などに使われている薬莢が飛び出し、レヴァンティンの刃の部分に炎を纏わせる。


「シャァァァァァァァッ!!」


「紫電・・・・一閃!!」


 大きな口をあけてシグナムを食しようと飛び掛る大蛇に、シグナムはレヴァンティンを振り上げて大蛇に強烈な一撃をお見舞いした。大蛇は断末魔に似た叫び声を上げて地面に倒れ込んだ。


「・・・・たった一撃で・・・・これが烈火の将の力か?」


 ガイバーゼロは一太刀で決着をつけたシグナムの力に驚いていた。そしてシグナムは倒れている大蛇に手をかざすと、大蛇の体から光るビー球サイズのモノが出てきた。


「それがリンカーコア・・・・魔力の源か?」


「そうだ。あとはこれを闇の書に与えればページが増える。・・・・だか、これだけでは一ページにも満たない、良くて半分といったところか」


 そう言ってシグナムはコアをしまうと、レヴァンティンを鞘に収める。するとガイバーの頭の球体が何かに反応したように動きを見せた。


「ん?」


「どうかしたか?零」


「・・・この近くに今倒した蛇より、もっと大きな反応を持ったのを察知した。こっちだ!!」


 ガイバーゼロは強殖装甲のセンサーが見つけたは反応のあった場所に向かって駆け出してしまい、シグナムも慌てて後を追った。


 暫く進むと、ガイバーゼロは移動速度を落として足を止め、シグナムも足を止めた。しかし周囲を見渡しても一匹も生き物の姿がいない。


「零、ここには何もいないようだが・・・・」


「いや・・・・・どうやら下にいるようだ」


 シグナムは高魔力を持つ生き物なんて何処にいるのかと姿を探していると、ガイバーゼロは地面に手を当てて目標を探す。そしてある位置で突然手を止めた。


「ここだ・・・・ハァッ!!」


 ガイバーゼロは右手に力を込めると、地面に拳を叩きつけると、「ドゴンッ!」というもの凄い音と共に地面が揺れた。


 これはガイバーの腹の金属球の重力制御球【グラビディコントローラー】を介して【アーム・パワーアンプ】に得られたエネルギーが前腕部に供給され、威力が増幅されている為、ガイバーを纏っている時の拳は“重い拳”となっている。


 拳を叩きつけて数秒後・・・・・「ゴゴゴッ」と音と共に揺れが激しくなり、少し離れたところの地面が盛り上がり、そこから先程シグナムが仕留めた大蛇より二回りも大きくさらに凶暴性を増した巨大な蛇が現われた。


「こっ、これは・・・・零!さすがにこれは大きすぎる!!私でも相手にできるかどうか・・・・」


「大丈夫。俺が片付けるから・・・・」


 さすがに大きすぎる巨大な蛇にヴォルケンリッタ-の将であるシグナムも、無傷で倒せるかどうか分からない程の相手だった。しかしガイバーゼロは一人で倒すと言って巨大蛇に向かってゆっくりとした足取りで歩いていく。


 巨大蛇は眠りの邪魔をされたのを余程恨んでいるのか、シグナムには目もくれず、ガイバーゼロのみを直視していた。


「シィィィィッ!!」


「・・・・はやてを救う為だ、お前の魔力を頂く。悪く思わないでくれ・・・・」


「ジャァァァァァァッ!!!」


 ガイバーゼロの一言に怒り狂ったのか、巨大蛇は大きな口をあけながらガイバーゼロに向かって襲い掛かった。ガイバーゼロは向かってくる巨大蛇の上に向かって飛び上がって回避し、巨大蛇の攻撃は空振りに終った。そしてそのまま巨大蛇の頭に向かって急降下し、蛇の頭に強烈な一撃を与えた。


「シャガバァッ!!」


 脳天にガイバーの【レッグ・パワーアンプ】で威力の上がった“重い蹴り”を受けた巨大蛇は断末魔の声を上げて地面に倒れた。倒れた巨大蛇の口からは泡を吐き出し、脳震盪を起こしているのかガクガク震えながら昏睡状態に陥っていた。


「シグナム、今の内に蒐集を・・・・」


「あっ、ああ・・・・」


 自分でも倒せたかどうか分からない巨大な蛇を、たった一撃で倒し伏せたガイバーゼロの力に、シグナムはただ唖然としていた。そして巨大蛇から取り出したリンカーコアの量にシグナムは驚きの声をあげた。


「こっ、これは!?これだけでも五ページ分の魔力がある!!」


「そう。ならこの調子で次の相手を探そう・・・・」


「だが、一ついいか?」


「なに?」


「何故、相手を気絶させた?」


「シグナムと同じ理由さ。“はやての未来を血で汚したくない”・・・・それにシグナムだって、さっきの大蛇を殺さずにいたんだろ?」


「・・・・・気づいていたのか?」


「まあね・・・」


 ガイバーゼロとシグナムはお互いに生き物の命を奪う必要はないと判断しており、対象を気を失わせてその隙に魔力を奪う、という考えの下で行動する事を決め、次の蒐集対象を探すために再び空へと飛び上がった。


















_____________________________________




















 それから三時間後。シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、そしてガイバーゼロの五人は夜明け前に出発地点であるビルの屋上に集まった。


「それじゃあ、まずヴィータちゃんとザフィーラが四ページ半くらい。それでシグナムと零さんが・・・・ってこれって!!?」


「どうしたんだよ?」


「いっ、いきなり十五ページ分って、どれだけの相手を蒐集したの!?」


「十五ページ分も!?短時間でそんなに集めたのか!?」


「ああ、と言っても殆どが零のおかげでもあるんだがな」


 シャマルもザフィーラも深夜に出発してから夜明け前までの短時間の間にガイバーゼロとシグナムが集めたページ分の魔力に驚く。一緒にいたシグナムは殆どが零が集めたと教えると、三人の視線がガイバーゼロに向いた。


 あの巨大蛇を倒した後、ガイバーゼロのセンサーを頼りに移動を続け、魔力の高い生物を片っ端から見つけては倒して、倒しては蒐集・・・・を繰り返しているうちに結構な魔力が集まってしまったのだ。


「それで合計は二十ページはいきそうかい?」


「えっ、あっ、はい。今、闇の書に与えたところ、十九ページちょっとぐらいですね。でもいきなりここまでいけるなんて今までありませんでした」


「へぇ~、零って結構強いんだな」


 ガイバーゼロの問いにシャマルは持っていた闇の書を開いて魔力を与えると、白紙だったページに文字が浮かび上がり、十九ページ半ばの辺りまでいった。


 その後、五人は急いではやてのいる自宅まで戻り、寝室で少し仮眠をとる事にした。





















_____________________________________






















 部屋の窓に差し込む朝日の光で、はやては目を覚ました。ションボリした目を擦りながらベッドの傍に置いてある車椅子に乗ると部屋から出た。


 すると何やらキッチンから「トントン」とリズムカルな音が聞こえた。


「あれ?誰やろ、こんな朝早くから・・・・」


 いつもなら自分が一番に起床し、朝食の準備をするのだが、今日は誰かがキッチンにいると思ったはやてはキッチンに向かう。そこにいたのは・・・・・


「おっ、はやて、おはよう」


「零兄ぃ?どないしたん、こんな朝早く・・・」


「いや、たまにははやての代わりに朝食を作ろうと思ってね」


 キッチンにいたのは包丁を手に野菜を切っているエプロン姿の零だった。零はここに居候してきた頃に、はやてから簡単な料理のやり方などを教えてもらっていたので、大抵の料理などはできるようになっていた。


「はやてはリビングで楽にしていてくれ。皆もその内、起きてくるだろうから」


「ああ、うん。ほんなら今日の朝ご飯は零兄ぃに任せるわ」


 朝食の準備などを零に任せたはやては、リビングに向かうとテレビの電源を入れ、ニュース番組のチャンネルにして天気予報などを見始めた。


「はい、ミルク」


「あっ、零兄ぃありがとな」


 はやてが暫くテレビを眺めていると、零が牛乳の入ったマグカップを持ってリビングにやって来た。マグカップをはやてに手渡した零は、そのままソファーに腰をおろした。


「それにしても、零兄ぃのエプロン姿って、なんか新鮮や」


「ん?そうか?」


「そうやて。確かに一緒に食事を作ってくれたりしたけど、零兄ぃが一人で料理してるとこなんか初めてな気がする」


「はやてちゃん、おはようございま~す!って零さん!?」


 零から貰った牛乳を飲みながら、はやては笑みを浮かべながらエプロン姿の零を見ていた。するとキッチンへシャマルがやってきて、はやてに挨拶すると同時に零がいることに驚く。


「?どないしたんシャマル?」


「あ、いえ・・・・零さんがエプロンなんか着ていますから・・・・」


「おいおい、この姿の俺ってそんなに意外なのか?(涙)」


「いえ、そんな!凄く似合っています」


 初めて見る零のエプロン姿にシャマルは意外そうな顔をし、零はシャマルの反応に凹み気味になってしまう。


 そんな零にシャマルは慌ててフォローしようとするが、フォローになっているか微妙な感じになっている。


「主はやて、おはようございます・・・と」


「はやて、おはよう!!・・・・って、何で零は隅っこで蹲ってるんだ?」


 シャマルに続いてシグナム、ヴィータがやってきたが、部屋の隅っこで鐘の音と共に蹲って暗くなっている零の姿にどうしたのかと思い、はやてを見ると、その場にいた全員の視線が何故かシャマルに向いた。


「なっ、なに?」


「はぁ~、またシャマルが何か言ったんだろ?前は確か・・・・」


「そっ、そんなことないもん!!前のはちょっとした言葉の文で・・・・」


 ヴィータの指摘にシャマルは両手を上下に振って抗議する。そしてその後、気持ちを切り替えた零は、朝食の準備をして皆と食事をとることになった。























_____________________________________


























 その頃、管理世界のとある場所・・・・・そこでは、ある違法犯罪者二名が時空管理局の追っ手から逃げ回っていた。


「くそっ、まさかこんな所でドジるなんて・・・・・」


「だが、あの魔導師は一体なんなんだよ!とても管理局の連中とは思えないやり方で・・・・ああっ!!」


 必死に局員から逃れようと走っている犯罪者らの前に、赤いバリアジャケットを纏い、槍状のデバイスを手にした一人の魔導師が降り立った。


「・・・・そこまでだ」


「くっ、もうこんな所にまで・・・・」


 赤いバリアジャケットを着た男はデバイスを犯罪者の方に向ける。犯罪者の二人の内、一人は後ずさり、もう一人は果敢にも相手に向かってデバイスを構える。


「くそう!!こんな所で捕まってたまるかぁぁぁぁっ!!!!」


「・・・・当たらなければ、どうということは無い・・・・」


 犯罪者の一人は男に向けて魔力弾を打ち込むが、男は少し横に移動して回避する。そして男は容赦なく魔力弾を犯罪者の一人に撃ち放ち、犯罪者二名の内一人を気絶させた。


「さあ、犯罪者には罰を与えなくてはな・・・・・」


「まっ、待て!お前は管理局の者だろ!?いきなりそんな事をしていいのかよ!?」


「悪いな・・・・・私は管理局員ではなく、だた管理局に雇われただけの魔導師だ・・・」


 犯罪者の仲間を何も警告も無しに打ち倒した男に、犯罪者は驚きの声を上げるが、男は犯罪者に一言言うと、先程と同じように魔力弾を放って犯罪者を昏睡状態にしてしまった。


「犯罪者には罰を・・・・」


 男は一言そう口にすると通信回線を開いて犯罪者二名のいる位置を他の管理局員に教えてその場から歩き出した。


 すると男自身に何処からか通信が入ってきた。


「・・・・・誰だ?」


『誰だとは失礼にも程があるわよ、お師匠様に向かって・・・』


『やっほ~、随分久しぶりだね~、グラーべ!』


「アリアにロッテか・・・・一体何の用だ?」


 男に通信を入れてきた人物は、グレアムの使い魔であるリーゼ・アリアとリーゼ・ロッテの二人だった。


『クラーべ、今すぐに本局に戻ってきて欲しいの』


「何故だ?私はもう管理局の魔導師ではない。だたの傭兵だ」


『・・・・“アレ”が動き出したって言っても?』


「!?」


 アリアの言葉に男のクールの表情が一変して怒りの顔に変化した。そしてデバイスを握る手に力が込められ、ブルブルと震え出した。


「・・・何処にある」

 
『それを教える為に、一度お父様に会って欲しいの』


「分かった。一度そちらに戻る・・・・」


 アリアとの通信を終えた男は、すぐに自分の足下に転移魔法の魔法陣を展開させる。その魔法陣はまるで血に染まったかのような赤いミッド式の魔法陣だった。


「・・・・待っていろよ、今度こそ仇を取ってみせる!!」


 怒りを露にした男は魔法陣の中へと消えていった。



 男の名は【グラーべ・アースレイド】。かつて、ある物に大事なモノを奪われ、犯罪者には容赦の無い、冷酷な復讐者と成り果てた者だった。



























 第六話です。
 いや~こうして見ると、ガイバーってかなりチートな気がしてしまう。
まあここでは自分で武装の威力を調整できるというご都合な能力を持たせているので、なのはやフェイトと互角に戦う場面が出ると思います。
(ちなみに人以外の生物がリンカーコアを持っている理由は自分が勝手に考えた事なので本当かどうかは不明です)
 ちなみに零がガイバーを呼ぶ時は【コネクト!!】にしました。




 さて今回登場した第二のオリキャラ【グラーべ・アースレイド】。魔導師姿はAsラストで見せた杉田版クロノのバリアジャケットを参考に、長袖の部分が半袖になり、腕には手甲を付けている魔導師というより、魔導騎士って感じです。色は黒の部分が赤、灰色の部分がオレンジ。(説明が下手ですいません)

 ちなみにグラーべの脳内声優はもうあの台詞で分かるかと思いますが・・・・・・赤井彗星のシャア長(社長)です(笑)









[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第七話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/03/07 00:00


















 時空管理局本局。ここは時空管理局の本部でもあり、“次元の海”の守護を司っている重要な場所。


 そこへ管理局がまだ把握しきれていない管理外世界で起きた【ジュエルシード事件】又は【P・T(プレシア・テスタロッサ)事件】と呼ばれる事になる事件を終え、長い航海を終えて帰還してきた一隻の船がいた。


「管理局本部とのドッキング準備、完了しました」


「ふむ。予定は順調、良い事ね」


 船の名は【アースラ】。そしてアースラの艦長である【リンディ・ハラオウン】は順調に事が進んでいる事に安堵する。


「失礼します。艦長、お茶のおかわりはいかがですか?」


「ありがとうエイミィ、頂くわ」


 そこへアースラの通信オペレーターをやっている【エイミィ・リミエッタ】がお茶のおかわりを持ってきた。リンディの飲んでいるお茶は日本には当たり前に存在している緑茶であり、お茶菓子もようじの刺さった水ようかん。


「本局にドッキングして、アースラも私達も、ようやく一休みね」


「ですね」


 事件が終え、ようやく一休みできる事を喜ぶリンディとエイミィ。しかし話している最中、リンディは驚くべき行動をとる。


 リンディはごく当たり前のように角砂糖の入った容器を手に取り、なんと角砂糖を四つ緑茶に入れてしまったのだ。さらにその後にクリームまでも入れ、それを平然と飲んでしまったのだ。


 本人曰く、緑茶の苦味が苦手だったのを隠そうとした結果、このような飲み方が生まれたらしい・・・・・・


「でも、ジュエルシードが21個のうち、事件時に九個も紛失、残り一つは行方不明になってしまったのは痛いですね」


「そうね。なのはさんも頑張ってくれたおかげで残りの11個は無事回収できたけど・・・まあなのはさんが言うには「ちゃんと封印はした」と言っていたし、大丈夫でしょ」


 エイミィとリンディは事件時にプレシアが、伝説と言われた忘れられし都【アルハザード】へ行く為に、人為的に次元新を引き起こす為にジュエルシードを九個使用して消滅してしまった分と、事件の最初の頃・・・・つまり晴海町で発生した大樹事件の際に、ジュエルシードの一つに封印は施したが、その後、行方不明になってしまった分の事を気にしていた。


 しかしリンディ達は、その行方不明の一つが、まだ管理外世界に存在していた事を知りもしなかった。


 その後、管理局本局とドッキングを終えたアースラに、時空管理局の本局運用部に所属し、提督も務めている【レティ・ロウラン】が通信を入れてきた。


『お疲れ様リンディ提督、予定は順調?』


「ええ、レティ。そっちは問題ない?」


『うん・・・・ドッキング受け入れとアースラ整備の準備はね・・・・』


「?」


 リンディはどうも歯ぎりの悪そうなレティの言い方にどうかしたかと質問してみた。それによると、新たなロストロギアが発見されたのだが、そのロストロギアが第一級捜索指定のかかっている超危険なロストロギアだとリンディに説明する。


『いくつかの世界で痕跡が発見されているみたいで、捜索担当班はもう大騒ぎよ。今はその子達の報告待ちって所よ・・・』


「そう・・・・」


 話しを聞いたリンディは、大事にならなければいいのだがと内心思っていた。


























____________________________________

























 その頃・・・・11月30日。深夜から朝方までヴォルケンリッターの魔力の蒐集を手伝うことになった零ことガイバーゼロは別世界を飛び回っていた。ちなみに今回の相棒はシャマルだ。


『零さん。もうすぐあなたのいる位置に着きますけど、首尾はどうですか?』


「シャマルか・・・・こっちは大体終らせた。今回は結構大物がいたから、ページもぐっと多く増やせそうだ」


 シャマルの念話にガイバーゼロは答え、周囲に倒れている多くの原生生物達を前にシャマルの到着を待っていた。


 ちなみにヴォルケンズとの念話は、ガイバーの額にある強殖装甲の制御中枢である【コントロールメタル】を介して出来る事が後に分かり、普段から良く活用している。


 その時、まるでドラゴンのような容姿の生き物が、手負いの状態にも拘らず、その大きな口を開けながら地を這うように背後からガイバーゼロに襲い掛かってきた。


 しかし、ガイバーゼロはその場から大きく飛び上がってドラゴンの攻撃を回避すると、肘をドラゴンの脳天に向かって叩き込むと、気を失ったように倒れこんで動かなくなった。


 暫くすると、空中を飛んできたシャマルがガイバーゼロの傍に着地する。


「お待たせしました零さん・・・・って、また随分倒しましたね」


「ああ、とりあえず目の前にいる生物達だけでどれくらい集まりそう?」


「え~と・・・・・これなら20ページはいけそうです!」


 シャマルは改めてガイバーの力に驚きつつ、さっそく原生生物達の前に立ち、闇の書を差し出すと、原生生物達や先程ガイバーゼロが倒したドラゴンのリンカーコアが体外に取り出され、魔力が蒐集される。そして生きるのに最低限の所で蒐集を止め、本を閉じた。


「ふう・・・・」


「大丈夫ですか、零さん。ここの所、十分な睡眠を取っていないのでしょ?」 


「大丈夫だよ。はやての命が掛かってるんだ、多少の疲れぐらい・・・・うっ」


「零さん!!」


 零の体を心配するシャマルに、ガイバーゼロは大丈夫と答える。しかし、いざ移動しようとした時に突然足下がふらつき倒れそうになってしまい、そこへシャマルが慌ててガイバーゼロを支えてくれた。


「やっぱり・・・・もう今日は引き上げましょう?」


「そうは言って・・・・られない・・・・急が・・・ないと・・・」


「駄目です!零さんが手伝ってくれるおかげで、速いペースでページの蒐集が出来ているんですから、少しは休んでもらっても大丈夫です。ですから今日は・・・・」


「・・・・・分かったよ、それじゃあ今日は引き上げよう」


 疲労によって倒れそうになるガイバーゼロに、シャマルは今日の所は引き上げようと言って帰るように言い聞かす。


 ガイバーゼロは必死に話すシャマルに観念したのか、今日は帰ると告げた時だった。突然ガイバーのセンサーが高速で接近してくるモノの存在を感知した。


「シャマル、何かがこっちに向かってくる。これは・・・・人?」


「人?まさか、管理局!?」


「管理・・・・局?」


「零さん、急いで隠れましょ!!」


 何かがこちらに接近してきている事をシャマルに伝えると、シャマルは何者か分かっているかのようにガイバーゼロに急いで隠れるように叫んだ。


 暫くすると、ガイバーゼロとシャマルが隠れている地点の上空を、杖を持った二人連れの男性達が通り過ぎていった。


「・・・・行ったみたいだな。所でシャマル、あの通り過ぎていった人達の事を知っているのか?」


「ええ、あれは時空管理局。次元世界の管理を行っている組織です」


「次元世界の・・・・管理?」


「別の色々な世界で悪さをしている人達を取り締まっている・・・・まあ、警察みたいなモノです」


 シャマルの説明を聞いたガイバーゼロは聞き慣れない組織の名に首を傾げる。
管理局とは日本でいう警察のような組織と同じで、ガイバーゼロとシャマルがいるような別の世界で犯罪を犯した犯罪者などを取り締まっている存在であり、シャマル達ヴォルケンリッターも過去に何度かやりあった事があると話した。


「つまり相手は、俺達の動きに気づき始めたって事?」


「そうなりますね・・・・でも、まだ本格的な動きを見せていないようですし・・・・でも警戒しておいても損にはならないと思います」


「それなら戻ったら一度、シグナム達とも相談しないとな」


 シャマルとガイバーゼロは戻ったらシグナム達に今後の事を話し合おうと決め、シャマルの転移魔法で合流地点へと戻っていった。



















 合流地点に戻ったガイバーゼロとシャマルは、シグナム達の到着を待っていた。暫くすると、蒐集を終えてきたシグナムとザフィーラが到着し、その数分後にヴィータが戻ってきた。


「先に戻っていたか、それで今日の分の魔力だが・・・・・」


「待ってくれシグナム、皆に話があるんだ。時空管理局について・・・・」


『!?』


 ガイバーゼロの言葉に、シャマル以外は驚きの顔になる。


「管理局!?・・・・まさか遭遇したのか?」


「いや、直接な接触はなかったけど、その組織が何かしらの調査をしていると見て間違いないと思う」


「そっ、そうか・・・・・」


「まだ本格的な動きは見せていないみたいだけど、少し蒐集時には周囲の警戒をしていた方がいいみたい」


 自分達が過去に交戦した事のある時空管理局が少しずつ動き出している、その事にはさすがのシグナムも驚く。しかし、まだ交戦や接触などはしていないと言うガイバーゼロの言葉に一応安堵する。そしてシャマルは皆に管理局が動いているなら警戒するに越した事はないと注意を促す。


「それで、皆に一つ頼みたい事があるんだけど・・・・・」


「何だ?」


「この姿の時の俺の呼び名を零じゃなくて【ゼロ】って呼んで欲しい。相手が警察のような組織なら、身元を調べられて名前が発覚したら、俺達の位置がバレてしまう可能性があるし・・・・」


 ガイバーの姿の時にヴォルケンリッターの中の誰かが零の名を口にしたりしたら、管理局はその名前から身元を割り出してくるかもしれない、と考えた零は、今後ガイバーの姿の時は【ゼロ】と呼ぶように皆に促す。それを聞いたシグナム達は一斉に頷いた。


「よし、それ・・・じゃあ・・・帰ろう・・・」


 話し終えたガイバーゼロは家に戻ろうと動こうとした時だった。突然フラリと倒れ込むようになり、額の【コントロールメタル】が光りだすと同時に殖装が解除され、零に戻ってしまった。


「れっ、零!!?」


「零さん!!」


 うつ伏せに倒れてしまった零にシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラが駆け寄り、シャマルが零を抱き起こすと、零の意識は少し朦朧としていた。


「ハァハァ・・・・あれ?おかしいな、体に力が入らない・・・・」


「今までの疲れが溜まっていたのだな。すまない」


「謝らないでよ、シグナム・・・・俺だって・・・」


「とにかくこのままじゃ零さんは歩くのは無理だわ。ザフィーラ、お願いできる?」


「分かった。さあ零、俺の背に乗れ」


 シャマルに抱えられながら、ザフィーラは零を背負い、はやてのいる自宅へと移動を開始した。


「すまないザフィーラ、迷惑をかけて・・・・・」


「気にするな。お前は我らより多くの魔力を蒐集し、本来の睡眠時間を削ってまで手を貸してくれている。我ら全員、お前に感謝しているんだ」


 ザフィーラの言葉にシグナム達は零に向かって頷く。


「ありがとう。・・・・・少し寝させてもらうよ」


「ああ、ゆっくり休んでくれ・・・・」


 ザフィーラに背おられている零は、両手をダラリと垂らして目を閉じて「スゥスゥ」と寝息を立ててすぐに眠ってしまった。


「やっぱり疲れてたんだな、零は・・・・」


「零のあの鎧は強力であるが故に、我らはいつの間にか零に頼りすぎていたのではないかと考えてしまう」


「確かにそうね・・・・・零さんの負担も考えないで、蒐集を開始してから毎日毎日、はやてちゃんの相手をして、深夜になれば、魔力蒐集を手伝わせて・・・・」


 真夜中の誰もいない道路を歩くヴォルケンズ。ヴィータは零を背負っているザフィーラの隣を歩き、シグナムとシャマルは騎士服から普段着に戻り、前を歩きながら自分達はいつの間にか零に頼ってしまっていたと考え込んでしまう。


 ちなみにザフィーラは普段着が無いので騎士甲冑のままである。


 確かに零が手伝ってくれているおかげで、魔力蒐集は順調に進み、シグナム達もあまり無茶な事はせず、はやてといる時間にも余裕ができていた。


 そしてシャマルが魔力を使って作成する魔力を溜め込んでいる弾丸【カートリッジシステム】に使用するカートリッジも使い切らずに余裕をもって戻る事ができていた。


 しかし、零はいくら強力な殖装体であるガイバーを纏っているとはいえ、相手はどれもこれも将であるシグナムや、アタッカーのヴィータでも倒すのが困難な強力な力を持った生物。


 しかも余計な傷を負わせないように戦っている為、自分へのダメージや疲労は少しずつではあるが徐々に蓄積していく。その結果、こうして倒れるまでになってしまっていたのだ。


 その後、自宅に戻った四人は、はやてを起こさないようにコッソリと零を部屋に連れて行き、零をベッドに寝かせると部屋を後にした。


そして、この時点で闇の書のページは308ページになっていた。






















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ヴォルケンリッターと一緒に魔力の蒐集を開始してから一ヶ月と四日後の12月2日。今日はヴィータ、ザフィーラが魔力の蒐集に出かけ、零は日々の疲れの為に体調を崩してしまい、今ははやてとシグナム、シャマルの三人の介護の元で家のベッドで大人しくしていた。


「零兄ぃ、体調はどないや?」


「ああ、だいぶ良くなってきてるから大丈夫だよ」


「う~ん、やっぱり今日は図書館に行くのは止めたほうがええかな~」


「大丈夫だって。それに読みたい本が明日以降あるとは限らないわけだし、行っておいで」


 はやては病人の零を置いて図書館に行くかどうか迷っていると、零は大丈夫と答えて図書館に行っておいでと優しく話す。


 そしてはやては「何かあったら連絡を頂戴、すぐにとんでくるから」と言ってシグナムと共に図書館へと出かけていった。


「ふう、はやても心配性だな・・・」


「仕方ないですよ、はやてちゃんにとって零さんは大事な“お兄さん”なんですから。それに今は体調がいいかもしれませんけど、まだ油断は出来ませんよ」


「・・・・シャマルが言うと妙に説得力があるな・・・・」


 零の体調はだいぶ良くはなり、十分体を動かしても大丈夫なのだが、シャマルは油断していると再び体調を崩しかねないと零に注意する。


「そういえば、シグナムははやてを送った後、一緒にいるのか?」


「いえ、シグナムははやてちゃんを送った後、また魔力の蒐集に出かけます」


「そうか、あまり無茶しないようにってシグナムに言っておいて・・・・でも、ごめんな、俺が体調を崩したばっかりに・・・・」


「もう、零さんはすぐにそうやってすぐに謝る。大丈夫ですよ、私達は闇の書の守護騎士、誰にも引けを取りませんし、零さんが無理でも私達がその間頑張りますから!
・・・・ですから今は心配せず、ゆっくり体を休めてください」


 そう。零が体調を崩して寝込んでいる間、シグナム達も零のことが心配になっており、殆ど魔力の蒐集に行っていない。そのせいで蒐集が遅れてしまっていると零は思っていた。


 しかしシャマルは、零が無理でも自分やシグナム達だけでも大丈夫と言って、今は体を休める事に専念してくださいと零に話した。


「それじゃあ、元気のつく食べ物を作ってきますから待っててください♪」


「待った!!・・・・今はお腹空いてないから大丈夫」


「ええ~!?どうして断るんですか~!?」


(どうしてって、さすがにシャマルの手料理を食ったら本気で体調が崩れると言うか、暫く再起不能に陥りそうというか・・・・)


 シャマルは零に自分の手料理を食べさせようと張り切るが、零は張り切るシャマルの行為を全力で断った。


理由はある・・・・シャマルの料理は“超”が付くほど下手なのだ。以前、シャマルが作ってくれたモノを零が食べた瞬間・・・・・零の意識は徐々に薄れていった。そして目が覚めた時、既に数時間経過していた。


(はっきり言ってアレには俺も参った。よってシャマルの料理は地雷以外も何者でもない・・・・)


 そうして零は再びベッドに横になると、目を閉じて眠りについた。


































 はい、七話完成。

 今回の話は無印が終了してからAsの初めの話となりました。
ちなみに今回魔力の蒐集のターゲットになった地を這うドラゴンは
狩りゲーのあの龍ですw

時に、ガイバーのメガスマッシャーって殆どが両方発射になっていますが、片方発射して、もう片方を発射・・・と言う時間差砲撃は可能なのでしょうか?



 ではでは次回をお楽しみに~・・・・











 



[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第八話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/03/14 00:00
















 零が体調を崩して自宅で休んでいる頃、はやては晴海町にある風芽丘図書館に来ていた。車椅子を動かしつつ目的の本があるかどうか探していると、目的の本を見つけた。


「あっ、あった!やっぱり今日来て正解やった!」


 はやての目的である本は結構人気のある本で、大抵来る時にはいつも借り出されていたのだが、今日は一冊だけ置いてあった。


 さっそく本を取ろうと思ったはやてだったが、目標の置いてある本の位置は普通の子供でも届く位置にあるのだが、車椅子のはやてには、その当たり前の高さは脅威であった。


「う~~ん・・・・もうちょい・・・」


「あの・・・・・これですか?」


 必死に手を伸ばして本を取ろうとするはやてに一人の少女が本を取ってくれた。


「あっ、ありがとうございます」


 彼女の名は【月村すずか】といい、はやても何度か図書館で見かけていた女の子だ。二人はお互いに同い年くらいの子だと認識していたらしく、今日初めて話を交わしているうちに仲良しになっていた。


 その後、すずかに車椅子を押してもらいながら出入り口まで来ると、迎えに来ていたシャマルが待っていた。シャマルははやてと一緒にいる子と目が合うと、頭を下げて挨拶をし、すずかも挨拶を返す。


「ありがとなすずかちゃん、ここでええよ。お話してくれておおきに、ありがとうな」


「うん、それじゃあまたね、はやてちゃん」


 そう言ってすずかははやての車椅子に架けていた自分の鞄を手にしてはやてと別れていった。


 しかしはやては外に出てからも、初めて出来たお友達に嬉しかったのか、ニッコリとしたままになっていた。


「そういえばシャマル、零兄ぃの調子はどないや?」


「ええ、今はベッドでぐっすりと眠っていますよ」


 零のことが心配だったのか、シャマルにどんな様子だと問うと、ぐっすり寝ているとシャマルは話した。そして駐車場まで行くと、収集を終えてきたシグナムが待っており、三人で帰路へと歩き出した。


「今日の晩御飯はシグナムとシャマルは何がええ?」


「そうですね、悩みます」


「スーパーで材料を見ながら考えましょうか」


「うん、そやね。・・・・そういえば、ヴィータは今日もお出かけ?」


「ああ・・・え~と、そうですね」


「外で遊び歩いているようですが、ザフィーラが付いていますので、あまり心配はいりませんよ」


「そうか・・・?」


「でも、少し距離が離れても、私達はずっと貴女の傍にいますよ」


「はい、我らはいつでも貴女のお傍に・・・・」


「ありがとう・・・・よ~し、ほんなら気合を入れて、晩御飯作るよ~!もちろん零兄ぃの分も!!」


 歩きながら話をする三人。しかしヴィータの話になると、シグナムとシャマルはさすがに魔力の蒐集に出かけている事を話すわけにもいかず、外で遊びまわっていることにした。


 騎士としての誓いを破ってしまっているシグナムには、さすがに胸を痛めていたが・・・・・




















_____________________________________





















 その晩、晴海市の空に二つの影があった。その正体は闇の書を手にして魔力対象を探すヴィータと、狼の姿になっているザフィーラだった。


「どうだヴィータ、見つかりそうか?」


「いるような・・・・いないような・・・・こないだっから時々出てくる妙に巨大な魔力反応・・・・あいつが捕まれば、一気に20ページぐらいはいきそうなんだけどな・・・・」


「別れて探そう。闇の書は預けるぞ!」


「オッケー、ザフィーラ。アンタもしっかり探してよ」


「心得ている。それと・・・・無茶だけはするなよ」


「分かってる。体調を崩しちゃった零の分も、アタシらが頑張らないと・・・・」



 魔力対象を探すために二手に分かれたザフィーラとヴィータ。ヴィータは休まずに今まで頑張って手伝ってくれた零の分も頑張らないとと思いつつ、自分のデバイス【グラーフアイゼン】を振るうと、足下に赤いベルカ式の魔法陣を展開させる。


「封鎖領域・・・・展開!!」


<Gefängnis der Magie. (魔力封鎖) 「ゲフェングニス・デア・マギー」>


 グラーフアイゼンの声と共に、ヴィータを中心に結界が展開される。こうすることで結界内にいる殆どの人は“時間のズレ”により消えてしまうが、魔力を持った者はその結界内に留まる事ができるので、容易に発見することが出来る。


 暫くすると、魔力を持った者の反応をヴィータは感じた。


「魔力反応!大物見っけ!!行くよ、グラーフアイゼン!!」


<Jawohl.(了解)>


 ヴィータの声にグラーフアイゼンは答え、ヴィータは魔力反応のあった方向へと飛び出していった。





















_____________________________________






















 その頃、はやてが皆の食事を作る前に、零の為にお粥を作ってくれたのを、零は部屋で食していた。シャマルとシグナムは買い物を終えてはやてと一緒に帰って来た時、足りない材料がいくつかあったので二人で買い物に出かけていたとの事だ。


「あ~、体が暖まる~。やっぱりはやての作ってくれる料理は美味い!!」


「えへへ、喜んでくれてうれしいわ」


 ご飯に卵を混ぜたお粥を残さず完食した零は手を合わせて「ご馳走様」と言い、はやても「お粗末さまでした」と言って食器を片付ける。


「それではやて、欲しい本は見つかったのかい?」


「うん、やっぱり今日行って正解やった。それに新しいお友達もできたんよ」


「へぇ~、どんな子だい?」


 はやては図書館で出会った月村すずかの話しを零にした。はやてが言うには、すずかはまるでお嬢様って感じで、のんびりとした女の子だという。そして今度機会があれば、零にも紹介すると話してくれた。


「ほんなら、皆の食事を作らなあかんな」


「一人で大丈夫か?手伝いが要るんなら・・・・」


「ええよ。零兄ぃはゆっくり体を休めて、また明日から手伝ってくれればええよ」


「そう・・・・なら明日に備えて体調を万全にしないとな!!」


「うん。ほんならお休み、零兄ぃ」


 部屋を出て行こうとするはやてに、零は「明日から頑張る」とガッツポーズをしてはやてに笑いかける。そんな零をはやては「期待しとるで~」と言って部屋から出て行った。


 そして零はベッドの中に潜り込んで寝ようと目を瞑った時だった。急に何か胸騒ぎを感じ、起き上がって窓の外を見てみた。すると遠くの方の空が周囲の色とは別の色に変わっていた。


「空の一部が変だ・・・・まさか、ヴィータ達の身に何かあったんじゃ!?」


 零は今家に居らず、魔力蒐集に出かけているヴィータやザフィーラの身に何かあったのではないかと思い、慌てて服を着替える。


(おっと、はやてが様子を見に来るかもしれないから、こうやってベッドに膨らみを作っておいて・・・・)


 窓から外に出ようとした零は足を止め、はやてが自分の様子を見に来た時に備えてベッドの布団の中に色々詰め込んで膨らみを作っておく。こうしておけば、とりあえずははやてに気づかれる事は無いだろうと思い、零は窓から外に出て行った。


 そして暫く歩いて家から離れたところで、零は足を止めた。


「よし、ここまでくれば大丈夫だろう・・・・コネクトッ!!」


 零は一呼吸をして叫ぶと、零の背後にガイバーゼロが出現し、零と一体化する。そして腹部の金属球【グラビティコントローラー】に意識を集中させ、夜空へと飛び上がっていった。




















_____________________________________





















 初めは順調だった。対象を発見し、こちらから先制攻撃を仕掛け、相手をコテンパンにしつつカートリッジを使ってビル内へと吹き飛ばし、後は魔力を奪うだけとなった。


 相手は人間であったが、折角見つけた高魔力所持者・・・・・ヴィータは少しでも零の負担を減らそうと頑張っていたので、これを奪えば少しは楽になると考えていた。


 しかし、トドメの一撃を与えようとした時、対象者の仲間だろう金髪の少女がヴィータの前に立ち塞がった。


「民間人への魔法攻撃・・・・・軽犯罪では済まない罪だ」


「あんだテメー、管理局の魔導師か?」


「時空管理局、嘱託魔導師【フェイト・テスタロッサ】。抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある。同意するのなら武装の解除を・・・・」


「ちっ、誰がするかよっ!!」


 突然現われた【フェイト・テスタロッサ】と名乗る管理局の魔導師に、ヴィータは一度ビル外へと出て行き、フェイトもその後を追う。


 戦場を空へと移したヴィータは、フェイトの持つ戦斧型デバイス【バルディッシュ】から放たれた【アークセイバー】に対し、ヴィータは射撃誘導型の魔法【シュワルベフリーゲン】で反撃する。


 しかし、フェイトの使い魔である【アルフ】の助力もあってか、一進一退の攻防が続き、フェイトとアルフの二人の攻撃を受け止めながら、手持ちのカートリッジも残り2発のこの状況で相手にできるか悩んでいる隙を突かれ、アルフの魔法でヴィータの両手、両足にバインドで拘束されてしまう。


「くっ、しまった!!」


「終わりだね、名前と出身世界、目的を教えてもらうよ!」


 バインドをどうにかして解除しようともがくヴィータに、フェイトはバルディッシュを構えて警告する。しかしその時だった・・・・・


「はっ!フェイト、危ない!!」


「えっ!?」


 アルフの声に「ハッ」となったフェイトの頭上から赤いレーザーのようなモノが降り注ぎ、フェイトとアルフは慌ててヴィータから距離を取る。そしてヴィータとフェイトとの間に蒼い強殖装甲を纏ったガイバーゼロが降り立った。


「・・・・大丈夫か?ヴィータ」


「れっ、じゃなかった。ゼロ!」


 ヴィータに語りかけるガイバーゼロに、ヴィータは危うく零の名を叫ぶところだったが、すぐにゼロと言いなおした。


 突然現われたアンノウンにフェイトとアルフは警戒していた。目の前にいるのは明らかにデバイスやバリアジャケットとは異なっており、どちらかと言えば、まるで有機物のようなモノを着ているかのような感じだった。


「あなたは何者ですか!?その子は何も罪の無い民間人を襲った犯罪者です。もしその子の協力者だと言うのなら、私は管理局の魔導師として逮捕させていただきます」


「民間人を襲った?・・・・・どういうことだ?ヴィータ」


「あっ、いや・・・・その・・・・」


「・・・・まあいい、後でお説教だ」


 フェイトは目の前のガイバーゼロに警告する。ガイバーゼロはヴィータのやった事を聞いてみるが、ヴィータは「ただ魔力の高い奴がいたから襲った」とは言えず、なんて言い訳しようか目線を逸らして考えている。


 そしてガイバーゼロは後でお仕置きだとヴィータに言うと、フェイトとアルフに向き合う。


「フェイト、どうやらコイツが親玉みたいだよ。だったらとっとと捕まえちゃおう!」


「そうみたいだね・・・・行くよ、アルフ!!」


 目の前にいるガイバーゼロとヴィータのやり取りを見ていたアルフとフェイトは、ガイバーゼロが主犯であると思い、フェイトはバルディッシュを構える。


<Blitz Action.>


 フェイトがバルディッシュをサイズフォームにして構えた瞬間、ガイバーゼロの視界からフェイトの姿が消えた。ガイバーゼロは一瞬にして消えたフェイトの姿を捜そうとした瞬間、零の脳に直結しているセンサーが反応し、ガイバーゼロは自然と左に体を動かし、振り返りながら右腕の高周波ソードを伸ばすと、フェイトの魔力刃を受け止めた。


 するとフェイトの魔力刃は高周波ソードによって、まるで紙を切るようにいとも簡単に切り裂かれてしまった。


「そんな!?魔力刃を斬った!?」


 魔力で生成された刃を・・・・いや、普通に考えて“斬る”という事はまず不可能である魔力刃を切り裂かれた事に驚くフェイト。


 だが、その一瞬の隙をガイバーゼロが見逃すはずもなく、即座にフェイトに向かって左拳を突き出した。


「!?」


<Defensor.>


 ガイバーゼロの反撃に反応したバルディッシュは、自動詠唱の【ディフェンサー】を発動させて攻撃を防ぐが、アーム・パワーアンプで強化されたガイバーの重い拳に耐え切れず、魔法陣と共にフェイトはそのままビルへと落下してしまった。


(しまった!咄嗟の事で出力を落とすのを忘れちゃった!!)


「フェイト!・・・・このぉぉぉぉぉっ!!」


 零は咄嗟の防御と反撃への動作に力を加減するのを忘れてしまい、ご主人であるフェイトを殴り飛ばしたガイバーゼロに怒りを露にしたアルフは、ガイバーゼロに向かって突撃をかけようとした。


「うおおおおっ!!!」


 しかしガイバーゼロに飛びかかろうとするアルフの真横から、今度は人型に戻ったザフィーラが強烈な蹴りをアルフに浴びせ吹き飛ばした。


「くっ!この、邪魔するなぁぁっ!!」


 攻撃を邪魔されたアルフは体制を整えつつザフィーラを睨みつける。対してザフィーラは右手を握って「かかって来い」と態度を示す。



















 ビル内へと落下したフェイトは落下時の痛みに耐えつつ立ち上がると、そこへ【ユーノ・スクライア】がやって来た。


 彼は以前、零がガイバーの力を取り戻す切っ掛けとなったあの大樹事件で、【高町なのは】と一緒にいたあのフェレットだった。


「大丈夫?フェイト」


「うん、何とか・・・・」


 立ち上がろうとするフェイトに手を貸しながらユーノは回復魔法を発動させる。


「それにしても、離れた場所からなのはと一緒に見てたけど、あんな姿をした人なんて見た事が無いよ。見た目は魔導師じゃなさそうだけど・・・・・」


「・・・・あの人、私の魔力で生み出した刃を切り裂いた・・・・それに魔力反応もないみたい」


「ええっ!?魔力で作ったのを切り裂くなんて、普通出来ないよ!それに魔力も持ってないって・・・・」


 ユーノはフェイトのダメージを回復させながら話しをしていると、フェイトの一言にユーノは驚きの声を上げる。


「あの人は只者じゃない・・・・ユーノ」


「何?」


「ここは一度、撤退した方がよさそう。全員同時に結界から出る事って出来る?」


「うん。アルフと協力できれば・・・・なんとか・・・」


「なら私が前に出て時間を稼ぐから、その間にやってみてくれる?」


「うん、分かった」


 状況からして、自分達が不利であることを考えると、一度結界から脱出しないと不味いと思ったフェイトは、アルフに念話を送り、ユーノとアルフに結界から転送及び破壊を頼むと、再び空へと飛びだっていった。
















_____________________________________


















 フェイトを吹き飛ばしたガイバーゼロは、再び張り付け状態のヴィータに近づこうとした時、丁度シグナムがやって来た。


「ヴィータ!・・・・それに零・・・・」


「シグナム、この時の俺はゼロだ」


「あっ、ああ、すまない。だが、何故ここにいる?」


「その前にコレはどういうことだ!?ヴィータが民間人を襲ったと管理局の子が言っていたが・・・・はっ!どいて、シグナム!!」


 ガイバーゼロはシグナムに話を聞こうとした時、シグナムに向かってバルディッシュを構えたフェイトが飛び掛ってきた。ガイバーゼロはシグナムの前に飛び出し、今度は右腕の高周波ソードの振動波数を落としてフェイトの攻撃を防ぐ。


「ゼロ!!」


「シグナム!この子は俺が相手をするから、ヴィータの拘束を解除してやってくれ!!」


 フェイトの攻撃を防いだガイバーゼロは、シグナムにヴィータを任せると、フェイトを押し返してシグナムらから離れる。


「ヴィータ、今コレを解除するぞ」


「ああ・・・・」


 ガイバーゼロが離れていった後、シグナムはヴィータの前に手をかざすと、ヴィータを縛っていたバインドにヒビが入り、砕け散った。しかしバインドが解除されて自由になったヴィータの表情は暗かった。


「・・・・零の負担を減らそうと頑張ったのに、逆に零に迷惑かけちまった・・・・」


「確かにお前のやった事は軽率だったな。我らは人を襲う事を禁じていたつもりだった・・・・・しかし既にしてしまった事は仕方がない。出来るだけ手早く済ませよう」


「ああ!」


 ヴィータは自分のやってしまった事を後悔していたが、シグナムはそんなヴィータに喝を入れ、シグナムはガイバーゼロを援護する為に飛び出し、ヴィータもその後を追った。







 フェイトはバルディッシュを振ってガイバーゼロに挑みかかるが、ガイバーゼロは周波数の落とした高周波ソードで捌きながら攻撃を防ぐ。


「あなたは一体何者なんですか!?魔力反応もないのに、その力は一体・・・・」


「攻撃しておいてなんだけど、このまま俺達を見逃してくれないか?今なら皆を引かせる事が出来るけど・・・・」


「ですが、あの子は罪を犯しました。そしてあなたも!!」


 ガイバーゼロの高周波ソードと、フェイトのバルディッシュがギチギチと音を鳴らしながら互いに一歩も引かない。


 零はどうにかしてフェイト達を引かせようと、自分達もここから引くと言って説得するが、フェイトは聞く耳を持たない。


(くっ、どうすれば・・・・どうすれば分かってくれる!?)


 零は心の中でどうすれば理解してくれるのか悩んでいた。























 第八話!!

 え~今回の話は色々と突込みどころ満載の回となりました(笑)
零は人を襲う事には反対していたのですが、ヴィータの零への負担を減らそうと思ってこそのなのはへの襲撃となりました。

しかし書いといてなんですが、高周波ソードって振動数を落とせば切れなくなるんですかね?


 はっきり言って今回の話はおかしなところが多くあると思いますが、温かい目で見て欲しいと思います。


 









[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第九話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/03/20 22:20


















 ついに時空管理局と遭遇してしまった零とヴォルケンリッター。零はガイバーゼロとなって時空管理局嘱託魔導師となったフェイト・テスタロッサと対峙し、戦闘を行っていた。


 しかし、フェイトはガイバーゼロと戦っている最中、ある疑問を抱いていた。


(おかしい・・・・先程のように戦えば十分私を倒せるはずなのに、攻撃のチャンスがあっても積極的に攻撃してこない)


 そう、ガイバーゼロはフェイトの攻撃を捌きながら反撃するチャンスが多くあった。しかし何故かフェイトへの積極的な攻撃は全くしてこない。それどころか攻撃を躊躇っているような動きも見せていた。


 ガイバーゼロはフェイトの攻撃を捌きながら反撃をしようとしたが、どうしても攻撃に躊躇してしまう。


 それはフェイトがあまりも幼すぎるのだ。歳でみるなら、はやてと同じぐらいの歳に見えてしまうが為に、まともに相手にするのが出来ないでいた。


(駄目だ、どうしてもこの子に攻撃するなんて、俺には出来ない・・・・)


 ガイバーを纏っている零の表情は険しくなりつつも、どうやってこの状況から脱するか考えていた。


「フェイト!!」


 突然の声にガイバーゼロは振り返ると、右腕に緑色の鎖が巻きついた。ガイバーゼロは鎖の先を見ると、そこには左手に緑色の球体を持ったユーノがいた。


「くっ」


(ユーノ!準備の方は?)


(転送の準備はできてるけど、空間結界が破れない。アルフは?)


(こっちもやってるんだけど、この結界固いんだよ!)


 ガイバーゼロをユーノの魔法で動きを封じている間に、フェイトは相手に悟られないように念話でユーノとアルフに連絡を取る。しかし転送の準備は完了しているが、結界が頑丈で出来ている為にすぐには転送が出来ないでいるらしい。


 それもその筈、この結界は相手を簡単に逃がさないように強固に出来ているからだ。そしてアルフの方も、ザフィーラの妨害を受けており、壊そうにも集中できないでいた。


「ハァァァァァッ!!」


「でりゃぁぁぁぁぁっ!!」


 その時、フェイトに向かって紫色の閃光を纏ったシグナムが襲い掛かり、フェイトは慌てて回避し、ユーノにはアイゼンを振りかざしたヴィータが襲い掛かる。


 ガイバーゼロはヴィータの攻撃で手の緩んだユーノの鎖を、左腕の高周波ソードで切り裂いてシグナムとヴィータと共に隊列を組んだ。

















_______________________________________

















 その頃、自宅にいるはやては鼻歌を歌いながら夕食の準備をしていた。今日の晩御飯はシチューであり、その隣ではやてがニンジンを切っていると、携帯電話からメロディが鳴り出した。


「もしもし?」


『あっ、もしもしはやてちゃん?シャマルです』


「あはっ、どうしたん?」


『すみません、いつものオリーブオイルが何処も見つからなくって・・・・・ちょっと、遠くのスーパーまで行って買って来ますから』


「う~ん、別にええよ無理せんでも・・・・・」


『いえ、出たついでに皆を拾って帰りますから・・・・お料理手伝えなくってすみません』


「平気やで。気ぃつけてな」


 電話の相手はシャマルだった。はやてはシャマルの用事を聞いた後、シチューの入ったナベの火を強火から弱火に切り替える。


 そして車椅子を操作して零の部屋へと向かい、部屋の扉を静かに開けて室内を見た。


(零兄ぃは眠っているようやし、起こさんでもええやろ・・・・お休みな、零兄ぃ)


 ベッドで零が寝ていると思っているはやては、そのまま静かに扉を閉めた。そこに零がいないと気づかず・・・・・・


 そしてシャマルも、足りない物を買いに行くというのは嘘であり、既にシャマルは零やシグナムらがいる戦場にいた。
















____________________________________

















 フェイト、ユーノ、アルフの三人が、ガイバーゼロ、シグナム、ヴィータ、ザフィーラの四人と対峙している頃、ヴィータの攻撃で傷付いた【高町なのは】は、ユーノの作り出した魔法陣の中で戦況を見ていた。


 ユーノは防御魔法を駆使しながらヴィータの一撃を受け流しながらかわし、アルフはザフィーラと同じ狼形態になって戦っていた。


 フェイトはフォトンランサーでシグナムに攻撃を仕掛けるが、一緒にいるガイバーゼロのヘッドビームで全て撃ち落され、その隙をついてシグナムがフェイトに斬撃を繰り出す。


 まさにフェイト達管理局側が完全に不利な状態になってしまっていた。


「助けなきゃ・・・・皆を・・・・助けなきゃ・・・・」


 なのはは目の前で戦っている友達の為に自分も戦線に加わろうとしたが、先程のヴィータの奇襲で受けた傷の痛みがなのはを襲う。


 その姿を見たなのはのデバイス【レイジングハート】が突然ピンク色の翼を展開した。


「レイジングハート?」


<撃ってください、【スターライト・ブレイカー】を・・・・>


「そんな・・・・無理だよ!あんな負担の掛かる魔法を撃ったら、レイジングハートが壊れちゃうよ!!」


<私はあなたを信じています。だから・・・・私を信じてください>


 なのははレイジングハート自身が壊れてしまうかもしれないのに、自分を信じてくれるレイジングハートを信じる事にした。


 そしてユーノの張ってくれた魔法を解除し、レイジングハートを空に向けて構えると、ピンク色のミッド式魔法陣を展開する。


(フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん・・・・私が結界を破壊するから、タイミングを合わせて転送をっ!!)


(なのはっ!?)


(なのは・・・・大丈夫なのかい?)


(大丈夫、【スターライト・ブレイカー】で撃ち抜くから・・・・レイジングハート!カウントをっ!!)


<わかりました>


 傷を負った今のなのはに、なのは自身の持つ最強の集束魔法である【スターライト・ブレイカー】の反動に耐えれるかどうか心配するユーノ、アルフ、そしてフェイト。


 しかしなのはは、自分の友達を救うためにレイジングハートにカウントダウンを指示する。そして魔力を集束するごとにレイジングハートがカウントを開始する。


(んっ!?近くに高エネルギー反応!?)


 なのはのスターライト・ブレイカーの魔力集束にいち早く気づいたのはガイバーゼロだった。ガイバーゼロの様子にシグナムとヴィータ、ザフィーラもなのはの存在に気づいたが、フェイトとユーノ、アルフが立ち塞がる。


(これは・・・・何かを撃つ気か?・・・・・ん?あの子の近くにいるのは・・・・まさか!?)


 ガイバーゼロは徐々に大きくなる桃色の球体を見ていると、頭のセンサーに何かの存在を感知し、その存在が何かをしようとしているのに気づいた。


 そしてガイバーゼロが飛び出したのと同時に、なのはにある異変が起きた。なんとなのはの胸から手が飛び出していたのだ。


「あっ・・・・ああ・・・・・」


「しまった、外しちゃった」


 なのはの胸から飛び出していたのはシャマルの手だった。彼女はなのはのいるビルから離れた場所から自身の能力【旅の扉】を使って、なのはのリンカーコアを奪おうとしたのだ。


 フェイトはなのはの名を叫びながら助けに行こうとしたが、それをシグナムが邪魔をする。しかしそのシグナムの横を通り過ぎていった人物がいた。


 シャマルは一度手を戻して、再度手を突っ込んでなのはのリンカーコアを捕獲した。


「リンカーコア、捕獲!蒐集開始!!」


<蒐集>


 シャマルは闇の書に手を置いてなのはのリンカーコアから魔力を蒐集し始め、闇の書の白紙のページに文字が浮かび上がる。


「やめろ!シャマル!!!」


「零さん!!?」


 そこへなんと、フェイト達の包囲を突破してきたガイバーゼロがシャマルの元へやって来た。


「駄目だシャマル!今すぐ止めるんだ!!」


「あっ!?」


 ガイバーゼロはなのはのリンカーコアから魔力を奪っているシャマルの左手を掴むと、無理矢理シャマルの手を旅の扉から引き抜いた。それにより、なのはのリンカーコアからの魔力蒐集が中断してしまい、闇の書のページも五ページの半分の所までいって止まってしまった。


「零さん!どうして!?」


「・・・・・・・・・・」


 零のやった行為の意図が掴めないシャマルはガイバーゼロに問い掛けるが、ガイバーゼロは黙ったままシャマルを見ていた。


「スター・・・・ライト・・・・・ブレイカァァァァァッ!!!!」


 魔力蒐集が中断した事により、なのはのリンカーコアは再びなのはの中へと戻ったが、蒐集の反動の為か、なのははフラつきながらもレイジングハートを振り、スターライト・ブレイカーを空に向けて発射した。


 ピンク色の巨大な閃光は、そのまま天へと伸び、ヴィータの張った強固な結界をいとも簡単に撃ち貫いてしまった。


(結界が破られた!!ここから離れるぞ!!)


(心得た!) 


(分かった!!)


(皆バラバラに散って、いつもの所で合流しましょう!!)


 シグナム、ザフィーラ、ヴィータはそれぞれバラバラの方向へと散り、シャマルも移動しようとするが、ガイバーゼロはなのはのいるビルの方を見つめていた。


「零さん!はやく逃げないと!!」


「・・・・・シャマル、後で皆と話がある。合流地点で待っていろ・・・・」


 早く逃げるように言うシャマルに、ガイバーゼロは怒りにも似た声でシャマルに話し掛ける。そしてシャマルが去った後、ガイバーゼロの前にユーノとアルフが現われた。


「ふんっ!仲間に置いて行かれたのかい!!この犯罪者!!」


「管理局として、貴方の行った行為に対し、拘束せてもらいます!!」


 仲間を傷つけられた為か、アルフとユーノの表情は怒りに満ちていた。ガイバーゼロはそんな二人に何も答えず、空中へと身を乗り出してその場から逃走した。


「あっ、待てっ!!」


「逃がしゃしないよ!!」


 空中へと逃げるガイバーゼロをユーノとアルフは追いかける。結界の無い今、普通の人にも目撃される可能性がある場所なだけにユーノとアルフは即座に捕まえようと懸命に追いかける。


(・・・・・このまま飛んでいても埒があかない・・・・こうなったら!!)


 飛んでいる限り、いつかは捕まると判断したガイバーゼロは、人が密集しているビル街へと降下し始めた。


「不味い、あのままじゃ逃げられる!!」


「でもあの姿を見れば誰だって驚きの声を上げるはず、そうそう降りはしないよ!!」


 ユーノとアルフは降下しようとするガイバーゼロの後を追うように降下する。そしてガイバーゼロがビルとビルの間に入り、ユーノとアルフもその後を追う。


 しかしそこにはガイバーゼロの姿はなく、ユーノとアルフもバリアジャケットを解除して探すが、人ごみの中に紛れ込んだのかガイバーゼロを見つける事が出来なかった。


「くそっ!!逃げられた!」


「でもあの姿でここへ来たのなら誰もが驚くはずなのに・・・・」


 二人は知らなかった。あのガイバーゼロの中身がただの普通の青年であった事に・・・・・
















____________________________________
















 バラバラに散ったヴォルケンリッターは、管理局の包囲を潜り抜けながらいつもの合流地点へと戻ってきた。しかしそこにはユーノとアルフから無事に逃げきった零が既にいた。


 零はビルとビルの間に降下した後、殖装を解除して人ごみの中へと紛れて逃げ切ったのだ。


「零!無事だったか!?」


「・・・・・・」


「零?」


 合流地点にいた零にシグナムが声を掛けるが、零は黙ったままシグナム達を見ていた。そんな中ヴィータはシャマルの影に隠れるように移動すると、零はヴィータの傍に歩いてくる。


「あっ、零・・・・」


「・・・・何か言わないといけない事があるんじゃないか?ヴィータ」


 自分の傍にやって来た零は黙っているだけであったが、表情は少し怒っているような感じだったので、ヴィータは零から目をそらしてしまう。


 零がヴィータから聞きたい理由・・・・それは民間人であるなのはを襲った事だった。


「俺が聞きたい理由、分かるだろヴィータ」


「うん・・・・・だけどアタシはだた、零ばっかりに負担を掛けちゃったから体調を崩しちゃったんだと思って・・・・アタシらでも戦えるんだって教えたくって・・・・だからっ!」


「・・・・・・・・・・・」


 零の問いにヴィータはなのはを襲った理由を話す。ヴィータはただ、零の負担を少しでも減らそうと頑張っていたから、高魔力の持つ相手でも自分達は戦えるんだと証明したかっただけだったのだ。


 理由を聞いた零はヴィータに手をゆっくりと上げると、ヴィータは「叩かれる」と思ったのか目を瞑った。


 しかし零の手はヴィータの頭の上に置かれ、優しく撫で始めた。


「・・・・えっ?」


「馬鹿。そんな無茶な事をしなくても良かったのに・・・・俺はヴィータやシグナム達が強い事は十分知っているいるさ。だけど・・・・」


 零はヴィータの頭を撫でながらヴォルケンズ全員は強い事を知っているし、いつも助けられていると話す。しかし・・・・・


「だけどやっぱり人を襲うのは止めて欲しい。シャマルだってあの女の子のリンカーコアの魔力を奪おうとしただろ?」


「・・・・はい」


「俺があの時邪魔をしたのは、あの女の子自身もそうだけど、あの子の家族の人にも迷惑を掛けてしまうと考えたからなんだ。・・・・まあ別世界の生き物達を襲っている俺達が言うと説得力ないんだけど・・・・」


 零はヴォルケンズにやはり人を襲うのは止めて欲しいと話し、その理由も話した。しかし既に五人は他の世界にいる生き物達を襲っているので、理由としては完全に矛盾してしまっていた。


 しかし襲ってしまった人や、その身内の人にも迷惑を掛けてしまうことを考えると、やはり人を襲うのは駄目だと思っていた。


「だが、我らが魔力を蒐集している事を管理局に知られてしまったことで、管理局の手の者が警戒を強化するはずだ。そうなればどうしても人と戦う事になるぞ」


「そうだな・・・・なら少しばかり蒐集へ行く回数を減らした方がいいかもな・・・・」


『えっ!?』


 ザフィーラの指摘は当然の事だった。今回遭遇したのは管理局の魔導師・・・・今後周辺の世界への監視も強化してくるだろうし、蒐集へ向かう先にも管理局の者がいると話すと、零は出来るだけ魔力蒐集へ行く事を控えようと話した。


「それじゃあ、はやてちゃんの呪いの進行が・・・・」


「確かにそうなる可能性があるけど、遅れる分は俺がデカイのを倒して稼ぐよ。それに・・・・・」


 蒐集が遅れるということは、闇の書の呪いが進行しまう事を心配するシャマルに、零は自分が出来るだけデカイ獲物を倒せばいいと話す。


「それに管理局の人達は、多分俺を一番マークしてそうな気がするし・・・・」


「どういうことだ?」


「俺とヴィータが話している時、あの金髪の子とザフィーラみたいな獣耳の女性が俺の事を「親玉」って言っていたんだ」



 零は自分が一番の標的にされていると言うと、シグナムは「その根拠は?」と零に問い掛ける。


 理由は恐らく、バインドで動けなくなったヴィータと零との会話から、管理局側がガイバーゼロがヴォルケンリッター達に指示を出している者と推測する可能性があると考えていた。


「だからと言って、俺は蒐集能力が無いから皆の力は借りたいし、俺も出来るだけ無茶はしないようにする。でも、はやてを救う為に時間が無いこの状況で無茶をするなと言うのが無理な話なんだけど・・・・・」


「・・・・やるよアタシは・・・・」


「えっ?」


「アタシはやる!!はやてを救いたいのは確かだけど、零の手助けにもなりたいし!!」


「そうだな。確かに管理局の目もあるし、あまり動き回るのは得策ではないが、零に手を貸す事なら出来る」


 零はいつはやての状態が悪くなるか分からない状況でどうしようか考えていると、ヴィータは零に自分が手伝うと言い出し、シグナムも同意し、シャマルもザフィーラも頷く。


「ありがとう。じゃあさっそく家に帰ろう。そろそろはやての美味しい食事が出来上がっている頃だろうし・・・・」


「はやての料理!!早く帰ろう!!」


「でも、零さんは一応病人だから食べれませんね」


「ああぁぁっ!!そうだったぁぁぁ~!!」


 一応今後の話を終えた零とヴォルケンズは、はやてのいる自宅へと足を進めた。しかし零は今日の自分は仮にも病人だった事を思い出し、頭を抱えて唸っていると、ヴォルケンズ全員が笑い出した。


 そして今後の細かな話は後日話そうという事となった・・・・・


「あっ、そうだ」


「ん?」


「ヴィータへのお仕置きは一日アイス抜きな」


「えぇぇぇ~!!!?」

















___________________________________

















 その頃、時空管理局本局の一室では、グレアム提督とリーゼ姉妹がおり、向かいにはグラーベが座っていた。


「・・・・それでアレは今度は何処に出たんですか?」


「第97管理外世界【地球】というところだ」


「地球?確かグレアム提督の出身世界でしたね?」


「ああ、そこにアレが存在している」


 グラーべの質問にグレアムは答える。


「なら座標を教えてもらえないでしょうか?」


「すぐに発つというのか?」


「ええ、早く仇を見つけて・・・・殺す・・・・」


 グレアムに一言言ったグラーべは殺気を漂わせながら場所を聞き出そうとすると、グレアムの隣にいたアリアに通信が入った。


「はい。・・・・えっ!?・・・・お父様、アースラから連絡があったそうです。何でも闇の書のプログラムと戦闘を行い、民間人の子が魔力を奪われたそうです」


「なんだと!?」


「それでアースラがこちらの医療施設を使うために、こちらに戻るそうです」


 アリアに入った通信の内容・・・・それはシグナム達とガイバーゼロとの戦闘でリンカーコアの魔力を抜かれてしまったなのはの治療の為に、アースラが一度本局に戻ってくるという内容だった。


「ならば、すぐ手配しよう。アリア」


「はい。医療班に連絡を!」


 グレアムの指示でアリアは本局の医療施設に連絡を取り、ロッテはアースラの受け入れのハンガーの手配する。


「・・・・グラーべ、そっちが良いと言うのならだが、アースラと一緒に行動してみてくれないか?」


「何?アースラと?」


「私はアレの担当がアースラの・・・・君の従姉であるリンディ・ハラオウンに決まるのではないかと考えている。君ももう何年もリンディ提督に会っていないだろう?もちろんクロノにも・・・・・」


「・・・・姉上と別れたのは丁度、義兄上の葬儀の時以来でした。クロノは覚えていないでしょう・・・・」


「ならこの機会に顔でも出しておけば良い。それにアレを相手にするには一人では厳しかろう?」


「・・・・・・・・・」


「それに君のデバイス、大分痛んでいる部分も多そうだし、この際にオーバーホールも兼ねて修理させてくれ」


「・・・・・分かった。そちらの言い分を聞き入れよう」


 グレアムの言い分にグラーべは暫し考え込む。そして考えた末、グラーべはグレアムの申し出を聞き入れた。




































 はい第九話です。
・・・・あ~、戦闘シーンの作成が難しい・・・・
やはり戦闘での表現にはかなり頭を悩ませます。しかし攻撃に躊躇してしまう零は己の力を知っているがためと、まだ覚悟が足りない状態になっていると思ってください。

 零とシグナムらの戦闘後の会話シーン、おかしい部分が多いと思いますが、出来れば気にしないでいて欲しいです。


 さて、第二のオリキャラ【グラーべ】ですが、皆さんの反応が全く無いような気がします・・・・こいつは一応ガイバー本編に出てきた溶けた人のポジションになっているんですが・・・・(おっとネタバレ!?)

それではまた次回・・・・・・





[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/03/27 20:53










 時空管理局本局。ガイバーゼロとヴォルケンリッターとの戦闘を終えたアースラは、魔力を奪われ倒れてしまったなのはと、戦闘中に怪我を負ったフェイトの治療の為に一度戻ってきていた。


 なのははシャマルの行為でリンカーコアの魔力を闇の書に奪われていたが、ガイバーゼロが蒐集の妨害した為に本来の半分くらいまで小さくなってしまっており、もしもの事を考えて一度検査をすることになった。


「うん。さすがに若いね、もうリンカーコアの再生が始まっているよ。でも一応様子見と言う事で、暫くは魔法の使用はしないでね」


「ありがとうございます」


 医務室のベッドで検査を受けていたなのはは担当医にお礼を言う。すると医務室の扉が開き、そこにはクロノとフェイトが入室してきた。


 そして担当医はクロノに話があったのだろうか、なのはと少し話したクロノと共に部屋から出て行った。そして室内にはなのはとフェイトのみとなった。


「なのは、大丈夫?」


「フェイトちゃん、大丈夫だよ」


「ごめんね・・・・もう少し早くなのはの所に行けていれば・・・・」


 フェイトはなのはの傍に行くと、なのはに謝罪する。しかしなのはは「気にしないで」とフェイトに優しく話し掛ける。そして二人は半年振りの再会を喜んでいた。


 その後、再びクロノと合流したなのはとフェイトは、激しい戦闘のせいで破損してしまったレイジングハートとバルディッシュのいる部屋へとやって来た。そこにはユーノとアルフが待っていた。


「あっ、なのは!」


「なのは、体は大丈夫かい?」


「ユーノ君、アルフさん」


 なのははフェイトと同じく半年振りに会うユーノとアルフに挨拶を交わすと、フェイトは部屋の中央にある装置の中に浮かんでいる相棒の元へと歩き出すと、なのはもその装置の中を覗きこむ。


 装置の中には激しい戦闘によってヒビの入ってしまったレイジングハートとバルディッシュがそこにあった。


「ユーノ、二機の状態は?」


「うん、二機とも損傷が激しくて、今は自己修復機能で直しているけど、一度再起動を掛けてから、部品などの交換もしないと・・・・・」


 クロノの質問にユーノはなのはとフェイトにレイジングハートとバルディッシュの状態を説明する。


「でもあの連中の使っていたデバイス・・・・何だかフェイトやなのはの使っているデバイスと随分違っていたみたいだけど・・・・」


「あれはベルカ式と呼ばれるものだ。中・遠・広範囲での戦闘を主体にしているミッド式とは違って、ベルカ式は接近戦闘の機能を度外視した“対人戦闘”に特化したもので、その使い手は【騎士】と呼ばれている」


 アルフは尻尾を振りながらシグナム達の使っているデバイスが自分達の使用しているデバイスと違う事を話すと、クロノがその疑問に答えた。


「じゃあ、あの弾丸みたいな物は?」


「あれはベルカ式のデバイスの特徴である【カートリッジシステム】。儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸を使って、瞬間的に圧縮的な破壊力を生み出すことの出来るシステムだよ。古代ベルカ時代でよく使われていた機能らしいよ」


 フェイトはシグナムとの戦闘中に自分の持つデバイスに弾丸のようなモノを装填していた事を思い出し、その説明をユーノがしてくれた。


「レイジングハート、いっぱい頑張ってくれてありがとう。今はゆっくり休んでね・・・・」


 なのはは戦いで傷付いたレイジングハートにお礼を言うと、クロノがフェイトとなのはに会って欲しい人物がいると話して二人を連れて部屋を出て行った。

















_____________________________________
















 その後、ユーノとアルフは廊下の自販機で飲み物を買って、ジュースに口をつけるとアルフが尋ねた。


「ねえユーノ、あのおかしな姿をした奴、アイツは何者なんだろうね・・・・」


「アイツ?」


「ほら、あの連中と一緒にいた蒼い鎧を着た奴さ」


 アルフの質問にユーノは話の内容を理解し、目の前のモニターにガイバーゼロが映し出された。この画像はフェイトのデバイスであるバルディッシュが戦闘中に辛うじて録画した物だった。


 しかし戦闘中でもあり、激しい動きをしていた為、画像はブレてしまっているために細部まではうまく写っていない状態だった。


「う~ん、この鎧みたいなもの・・・・バリアジャケットとも違うし、デバイスらしき物も持っていなかった。・・・・・一体何者だったんだろう」


 画面に写るガイバーゼロの話をしながらユーノは手を顎において考え込む。しかし今の段階で有力なデータなどは無く、一体何者なのか分からずじまいだった。


「ユーノ君、アルフ」


「エイミィ」


「さっきレイジングハートとバルディッシュの部品を発注してきたよ。今日明日中には届くそうだからって」


「あ・・・ありがとうございます」


 エイミィは先程、レイジングハートとバルディッシュの破損個所の交換用の部品を発注した事をユーノに教える。そして今回の襲撃事件の担当がアースラに正式に決まった事を二人に話した。


「えっ?でもアースラは今は整備中で、使えないんじゃ・・・・」


「そうなんだよね・・・・なのはちゃんの襲撃の際に整備を中断して来ちゃったしね・・・・」


 アルフの言うアースラの使用不可の理由・・・・それはなのはがヴォルケンリッターに襲われた時点で、まだアースラの整備が完了していない状態でいた為であった。


 そして今回・・・・相手が相手なだけに、完全にアースラを整備完了の状態にしたいので暫くの間使う事が出来ないというのだ。


 その頃、クロノとフェイトとなのはの三人は、管理局願問官【ギル・グレアム】と会っていた。グレアムもなのはと同じ管理外世界地球の出身で、子供の頃に偶然出会った管理局の魔導師を救った事で自身に魔法の資質があることを知り、そのまま管理局入りしたのだと言う。


 魔法との出会いがなのはと全く似た事に笑うグレアムに、自分と同じ世界の人が提督という職についている事に驚くなのは。


 その後グレアムは、その持てる才能を発揮し、艦隊指揮官となり、後に執務官長に就いた“歴戦の勇士”との呼び声もあったそうだ。


 その後グレアムは、保護監察官としてフェイトにある条件を出した。その条件とは“自分を信頼してくれている友達や人を絶対に裏切らない事”だった。その条件を飲むと言うのならフェイトの行動に何も制限しないことを話す。


 フェイトはグレアムの出した条件を必ず守ると言い、なのはと共に部屋を出て行こうとする。


「提督、もう聞き及んでいると思いますが、先程自分たちが第一級ロストロギア指定の【闇の書】の捜索、捜査担当に決定しました」


「そうか・・・・言えた義理は無いが、無茶だけはするなよ」


「大丈夫です」


「後でリンディ提督にも伝えるが、こちらからアースラチームに“協力者”を出す事にした。その者と協力して事に当たってくれ」


「協力者・・・・ですか?」


 クロノはグレアムに自分たちがロストロギア【闇の書】の担当になったと伝えると、グレアムもアースラに戦力になる者を寄越すと言ってクロノ達を見送った。クロノはその協力者が一体誰なのかを考えていたが・・・・・


 しかしグレアムがフェイトに言った言葉“信頼してくれている人を裏切らない”・・・・この言葉を言った本人が既に自分を信頼している人との約束を破っている事をクロノ達が知るのはまだ先の話であった。

















____________________________________
















 

 その暫くたった後、リンディはなのは、フェイト、ユーノ、アルフ、クロノらアースラのスタッフを集め今後の方針を話し出した。


「さて今回、我々アースラスタッフは第一級ロストロギア【闇の書】の捜索及び、数多くの魔法所持生物襲撃の捜査を担当する事となりました」


 リンディは今回与えられた任務を皆に話す。しかし現在アースラは整備の為に暫く使えない状況であり、本局となのはのいる地球とはかなり離れているという事もあり、臨時作戦本部を建てる事になった。


 その理由は、これまで調査した襲撃のあった生物のいる世界が、なのはのいる地球から個人転送の可能な範囲に限定されていることだった。


 そしてリンディはその作戦本部を置く場所は、なのはの保護も兼ねて高町家のあるご近所に設立すると言い出した。さすがのなのはもリンディの話を聞いて思わずフェイトと顔を合わせる。


「そして今回、グレアム提督からの指示で、私達に協力してくれる人を紹介してもらいました。まだ顔をあわせてはいないのですが、腕はたつそうです」


 リンディの話にクロノは先程グレアムが言っていた協力者の事だろうと思っていると、部屋のインターホンが鳴り、扉の向こうから赤い服を纏った一人の男性が入ってきた。


「失礼する・・・・」


『!?』


 その入ってきた男性の姿を見るやリンディとクロノの顔は驚きの表情になった。


「あなたは・・・・・」


「グ・・・グラーべ!?」


「お久しぶりですね、姉上。そしてクロノ」


 そこに立っていたのはあの【グラーベ・アースレイド】だった。なのはやフェイトはリンディとクロノの様子にどうしたのかと思っていた。


 その後、アースラスタッフは臨時作戦本部の為の準備に取り掛かり、なのは達もクロノと共に先に地球に帰していた。そんな中、リンディはある一室で協力者であるグラーベと話をしていた。


「まさか・・・・あなたが協力者だったなんて・・・・」


「私もこの件には個人的にも意味のあることであるし・・・・相手は義兄上の仇も同然ですから・・・・」


 リンディとグラーベ・・・・この二人は従姉弟同士であり、同様にリンディの旦那である【クライド・ハラオウン】の義弟でもあった。


 二人が別れたのはクライドの葬儀の時だった・・・・クライドが艦長を務めていたアースラ級二番艦【エスティア】に、封印を施したロストロギアの輸送中、そのロストロギアが突如暴走。エスティアは完全に取り込まれ、撃墜を余儀なくされてしまった。


「あの葬儀の日、私は自分の無力さ・・・・そしてあのロストロギア【闇の書】への復讐を誓い、管理局を出て行った。そして私は帰ってきた・・・・その為に“ある力”を手に入れた」


「“力を手に入れた”?・・・・・どういうことグラーベ?」


「ともあれ闇の書が絡んでいるのであれば、私はすぐにでも出させてもらうつもりだ。だが、今は私のデバイスは修理中であるが故に出撃には遅れますがね・・・・」


 グラーベの言った言葉を聞き返そうとしたリンディだったが、グラーベはそのまま部屋を出て行ってしまった。


(グラーベ・・・・やはり貴方は変わったわね。昔はあの人と同じように人を思いやる心を持っていたの言うのに・・・・・)


 リンディはこの11年の間に従弟が変わってしまったことを痛感してしまった。

















____________________________________
















 12月5日・・・・八神家ではいつものようにはやてと零、そしてヴォルケンズのメンバーがのんびりと生活していた。ちなみに零は管理局と遭遇した日の次の日には完全復活していた。


 現在、闇の書の蒐集完了ページ数は340ページ。なのはの魔力蒐集が完全に完了できていればあと十ページは稼げたのだが、零の妨害でその半分しか蒐集できなかった。


 しかしそれでもガイバーの力を使って遅れた分を取り返し、三日前から二十二ページ増やす事が出来た。


 そして零は管理局の警戒が強くなる事を考え、シグナム達には余り蒐集へは行かせないようにしている。と言っても完全に行かせていない訳ではなく、その日の担当者を決め、はやての傍には守護騎士の誰か二人はいるようにしている。


 さらに零は三日に一回のペースで、はやてが寝静まった深夜に守護騎士の中から一人と一緒に魔力の蒐集に行っている。零が魔力蒐集を行えば、普段シグナム達が回収できる分より二倍近くまでは稼げるので、遅れている分を余裕を持って解消できた。








 そんな日々を送っていた晩・・・・今日の晩御飯は寒い冬には定番のおでんをする事になり、はやてと零は一緒に食事の準備をしていた。


「よし・・・・仕込みはオッケーや」


「うわぁ~いい匂い・・・・はやて、お腹空いた~」


「まだまだ。このまま置いといて、お風呂入って出てきた頃が食べごろや」


 鍋の前で様子を見ていたはやては鍋に蓋をして火を弱火にする。鍋から漂う美味しそうな匂いにヴィータのお腹は「グゥグゥ」と合唱しているかのようだった。


「ヴィータちゃんとシグナムは、これでも食べて繋いでてね・・・・はい」


 美味しい晩御飯に待ちきれないのかヴィータは鍋をガン見していると、シャマルが何かを入れた小皿をヴィータとシグナムの前に出した。


「・・・これは?」


「私が作った和え物よ、ワカメとタコの胡麻酢和え」


 二人に差し出されたのは普通によく目にする和え物だった。しかし出された物にヴィータとシグナムは直視しながら警戒している。


「・・・・・大丈夫だよな?」


「大丈夫って!?」


「お前の料理は、たまに暴発と言うか深刻な失敗が・・・・」


 ヴィータの一言にシャマルは「ガーン」と声を上げる。さらに追い討ちを掛けるようにシグナムが致命的な言葉を発したことにより、シャマルは涙目になってしまった。


「ううう・・・・酷い・・・・」


「まあそう言うなって。シャマルも初めの頃よりは料理の腕も上がってるみたいだし、さっき俺が味見してみたが、中々美味かったぞ」


「なら安心だな・・・・」


「いただきま~す!」


 いじけるシャマルに零が励ましの言葉と毒見した事をヴィータとシグナムに伝えると、安心したのか二人とも料理に手をつけた。その光景に零は拗ねているシャマルの肩に手を置いて「まあまあ」と慰める。


「まあ落ち込むなシャマル、料理の腕も少しずつ上げていけば、皆警戒しなくなるって・・・・・努力の積み重ねだ」


「う~、はい。お風呂の準備が出来ているか見てきます」


 零の慰めを受けたシャマルは、気を取り直してお風呂場へと向かっていった。その間、シグナムとヴィータはシャマルの作った和え物を食べながらそれぞれ感想を言い、はやても試しに食べてみると「美味しいやん」と言っていた。


「あぁぁぁぁぁ~!!!!」


「何だ!?」


「シャマル!?どうしたっ!!」


 突然シャマルの叫び声がお風呂場の方から聞こえ、何事かとシグナムと零が叫ぶと、泣きじゃくりながらシャマルが戻ってきた。


「わ~ん、ごめんなさい。お風呂の温度設定を違えて、冷たい水が湯船一杯に・・・・」


「えぇぇぇぇ・・・・」


「また焚き直しか・・・・」


「シャマルのドジっ娘パワーがここで発動したか・・・・」


 どうやら風呂の温度設定を暖めるのと真逆に設定してしまい、完全に水風呂へとなってしまっていたらしく、ヴィータは呆れ、シグナムは溜息を吐き、零はシャマルの個人スキルである【ドジっ娘】が発動したと頭を抱えた。


 もし再び焚き直しとなると時間が掛かるとはやてが言うと、ヴィータがシグナムのレヴァンティンで沸かせば良いと提案するが、即座にシグナムが拒否した。


 まあレヴァンティンの炎熱効果を風呂で使用したら、一歩間違えればマグマ級の熱さになってしまう可能性もあるわけであるし・・・・・


 そんなこんなでどうするか皆で考えていると、零がある事を思い出した。


「あっ、そうだ!」


「?どないしたん、零兄ぃ」


「シャマル、ポストに入っていたチラシの束って残っているか?」


「はい・・・・今週の分だけですけど・・・・」


 何か閃いたように零はシャマルに今週分のチラシを持ってくるように指示し、シャマルはチラシの束をしまってある場所からチラシを持ってきた。零はそのチラシを受け取ると、一枚一枚何かを探すように眺めていく。


「え~と、たしか・・・・おっ!あった、あった!!」


 零が目的のチラシを一枚取ると、はやてに手渡し、そのチラシをヴィータとシグナム、シャマルが覗き込む。そのチラシは新装開店する銭湯の紹介のチラシだった。


 新装オープンする銭湯の内容を見たシグナムは風呂好きの血が騒いだのか目を輝かせる。それもその筈、この銭湯には温泉の他に滝の打たせ湯、泡のお風呂、バイブレーションマッサージバス、紅茶風呂・・・・などなどがなんと12種類もあるというのだ。


 最後の紅茶風呂というのはどんなものかと零は疑問に感じたが・・・・・ともあれ料金は新装開店記念として安くなっており、しかも三名以上ならさらに割引が効くと書いてあり、はやては「これは行くしかない!」と言って、行きたい人がいるか尋ねると、ヴィータとシャマルは元気よく手を上げ、シグナムも恐る恐るもだが手を上げた。


「それならはやてとヴィータ、シグナムにシャマルの四人で行ってこれば良い」


「あれ?零兄ぃは行かへんの?ザフィーラも一緒に行けばええやん。人間体になって普通の服を着ていけばええんやし」


「まあ行ってみたいのは山々だが、俺はおでんの様子も見ておかなくちゃならないし、ザフィーラは風呂が苦手だろ?」


「むぅ・・・・」


 銭湯に行く気満々の女性組みに零は皆で行って来いと言って、自分達は留守番をしているとはやてに告げると、はやては少し残念そうな表情になる。


「ほうか・・・・そりゃ残念や」


「大丈夫、今日のところは俺はシャワー浴びればそれでいいし・・・・みんなで楽しんでおいで」


 残念そうな表情のはやてに、零ははやての頭を撫でながら「楽しんで来い」と言うと、はやては「分かった」と頷き、ヴィータとシャマルと一緒に着替えを取りに自分達の部屋へと向かっていった。シグナムもシャマルに自分も分の着替えを持ってきてくれと頼んだ。


「風呂好きには楽しみかい?シグナム」


「まあ・・・・な」


「なぁ~に、心身を休める良い機会だ。はやてと一緒にゆっくりとくつろいでくれば良い・・・・あっ、そうだ」


「何だ?」


「家に戻る時は連絡をくれ。皆が銭湯に行っている間に魔力蒐集に行ってくるから。ザフィーラもいいか?」


「分かった。出来るだけ近い場所に送ろう」


 零はシグナムを少しからかうと、銭湯から帰ってくる時は連絡をしてくれと頼んだ。どうやら零は皆が出かけている間に蒐集に出かける気でいるようでザフィーラも了承してくれた。



 その後、はやて達は銭湯に行き、零とザフィーラは共に魔力蒐集へと出かけていった。

















____________________________________
















 


「はいすいません、失礼しま~す」


 新装オープンした銭湯には大勢の人がいた。そんな中をシャマルははやての乗る車椅子を押しながら他の客に声を掛けながら進んでいく。


「わぁ~、広い、綺麗、それにカッコいい!!」


「ここまでスムーズに入ってくれたな」


「段差が全部スロープになっているんですね」


「うん、ナイスバリアフリーや。さすが新装開店!!」


 室内の内装を見てヴィータは目を光らせ、シグナムとシャマルは脱衣所まで何の問題も無く来れた事に安心していた。大抵の広い場所には階段などの段差が存在し、車椅子など足の不自由な者にはかなり難儀な場合が多かった。


 しかし新装開店したこの銭湯は、そんな障害者でも楽しめるように段差などは全てスロープになっており、バリアフリー対策も完璧だった。途中でシャマルは車椅子の置くスペースに車椅子を置いてはやてを抱きかかえた。


「それじゃあ私とはやてちゃんはこっちで・・・・ヴィータちゃんとシグナムは向こうね」


「ああ」


 会計で受け取った鍵とナンバーの書かれたロッカーを見つけると、シャマルとはやて、シグナムとヴィータはそれぞれ別れて服を脱ぎ始めた。シャマルははやての服を脱がすのを手伝い、ヴィータとシグナムもロッカーを開けて服を脱ぐ。


「へへっ、はやく入ろ~と!」


「こら、服を脱ぎ散らすな!家じゃないんだぞ!」


「片付けるからいいじゃん!」


「公共の場でのマナーを言っている!ただでさえお前は普段からだらしない部分があるからな」


 早く銭湯に入りたいヴィータは服を「ババッ」と脱いでいるせいで周囲に服が散乱してしまい、シグナムはそんなヴィータに注意する。そんなシグナムにヴィータは「チクチク文句言うな」と文句を言い、シグナムも反論する。


「ふん!ちょっとオッパイデカイからっていい気になるなよ!!」


「なっ!?何を言って・・・何故そうなる!!」


「無闇に胸ばっかに栄養やってっから、そうやって心の余裕がなくなるってんだよこの【おっぱい魔人】!!」


「おぱっ!?ぬう!!貴様、そこに直れ!レヴァンティンの錆びにしてくれる!!」


「あんだとぉ!そっちこそ、グラーフアイゼンの頑固な汚れになりてぇか!!」


『むぅぅぅぅぅ!!!』


 お互いに気に入らない事を言い争い、遂にはデバイスを呼び出そうとシグナムとヴィータの間に「バチバチ」と火花を散らす。その光景に回りの客も何事かと目線か集中する。


「あ~これこれ!喧嘩する子には夕食後の零兄ぃが作ってくれたデザートをあげへんよ!!」


「だって、このおっぱい魔人が!」


「誰がおっぱい魔人かっ!誰がっ!!」


「シグナム!そんな格好で大声出さないで・・・・恥ずかしいから・・・・」


 よく見るとシグナムとヴィータは完全に周囲の注目の的となっていた。はやては「つまらんことで喧嘩したらあかん」と言って二人に謝るように言うと、ヴィータは渋々と「リーダーを馬鹿にするような物言い、わりかった」と言い、シグナムも「些細な事で大人気なく熱くなった、すまなかった」と言ってお互い謝罪する。


 しかしこの後、シグナムやシャマルの胸についての評論に発展するとはシグナムも思っていなかった・・・・・・
















___________________________________
















 その頃、ザフィーラの転移魔法で魔力蒐集へと出かけてたガイバーゼロは、廃墟となった寺のような場所に来ていた。ちなみにザフィーラは零を転移させた後、再び自宅へと帰していた。


 廃墟となった寺の空には、大きな月の光と、地面に積もった雪の反射で幻想的な光景が広がっていた。


「ここは・・・・何だか俺たちのいる世界と似た部分が多いな・・・・」


 そう思いつつガイバーゼロは魔力を内包している生物の反応を探す。そうしていると、自分が今いる位置から少し離れたところに一つ、そしてそこから下に向かった場所に一つ・・・・合計二つの大きな反応を見つけた。


「見つけた!」


 ガイバーゼロは近い所に反応のあった場所へ行こうと足を進めようとした時、ふと何かの視線を感じた。ガイバーゼロは上を見上げると、そこにはトラが巨大化したかのような獣が電気を放電しながら突進してきた。


 しかしガイバーゼロは、その獰猛そうな姿と迫力に一瞬だが対応が遅れ、その突進をモロに受けてしまった。その衝撃で、ガイバーゼロは突き飛ばされてしまい、廃墟となった寺の中まで飛ばされてしまった。


「くう痛てぇ~、でも・・・・・こいつはかなりの魔力を内包してそうだな・・・・」


 衝撃の痛みに耐えながらガイバーゼロは起き上がると、あの獣がこちらに向かって五つの電球を作り出し、ガイバーゼロに向かって放ってきた。その攻撃にガイバーゼロは飛び上がって回避し、獣の顔面に向かって右ストレートを打ち込む。


「ギギャァァッ!!」


 拳を顔に受けた獣はデカイ図体でありながらゴロゴロ転がり、壁にぶつかった。しかし再び起き上がると雄叫びをあげて怒りを露にする。ガイバーゼロはそんな獣の咆哮に少し驚きつつも、攻撃に対し構える。


 獣は口から飛び出している前歯を剥き出しにしてガイバーゼロに噛み付こうと飛び掛ってきた。それに対しガイバーゼロは体を低くして獣の懐に入り込み、お腹に向かって連撃を打ち込み、その攻撃は何十発をも超えた。


 その攻撃にさすがの獣もグッタリしてしまい、遂には音を立てて倒れこんだ。


「ハァハァ・・・・何だこいつのお腹・・・・まるで生き物とは思えないような皮膚の硬さだった」


 獣の腹に連打を放ったガイバーゼロは、拳の痛みを感じつつも倒した獣の異常な皮膚の頑丈さに驚いていた。


『ゼロ、聞こえるか?』


「ん?ザフィーラ、どうしたの?」


『シグナムから連絡があった。もうすぐ主と一緒に帰って来るそうだ。今から迎えに行く』


「うん、宜しく・・・・」


 ガイバーゼロのコントロールメタルを介してザフィーラから念話が届き、暫くすると闇の書と一緒にザフィーラがやって来た。その後無事蒐集を終え、ガイバーゼロとザフィーラはこの世界から姿を消した。





























 第十話終了。

 さて今回ゲスト出演してくれたトラ状の獣・・・・感のいい人は何か分かると思います。

 そして今回ドラマCDであのシグナムの伝説を作ったオッパイ魔人のネタを使わせていただきました。あのドラマは聞いているだけでどんな状況だったのか妄想できてしまうw

 ではまた次回で会いましょう・・・・・


 

 



[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十一話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/04/03 21:47












 ガイバーゼロとヴォルケンリッターとの初戦闘から数日後、なのはとフェイトの二人のデバイスの修理は完了し、なのは自身のリンカーコアも完全に修復を終えた。


 そんなある日、グレアムのところに来ていたグラーベは、修理の完了した自分のデバイスを手渡されていた。


「ん?提督、デバイスの仕様が変わっているようだが?」


「うむ、修理ついでにデバイスに新装備を施した。これなら闇の書の騎士相手でも対等に戦えるだろう」


 手渡されたデバイスの形が変化している事に気づいたグラーベにグレアムはなのは達のデバイスの修理の際に得たデータを反映させて強化したと教える。


 しかしグラーベは無言のまま、受け取ったデバイスを待機状態にしてグレアムに一礼をして部屋から出て行った。


「グラーベ・・・・やはりお前は変わった。いや、変わってしまったのだな・・・・」


 グレアムは誰もいなくなった部屋で小さく呟いた。















____________________________________















 

 その頃、零とシグナムははやての定期検査の為に病院に来ていた。診察を終えたはやてに石田はカルテをじっと見つめ、はやての左右には零とシグナムが立っている。


「う~ん、やっぱり余り成果は出ていないようね・・・・でも今のところ副作用なども出ていないし、もう少しこの治療を続けましょうか」


「はい、え~と・・・・お任せします」


「お任せしますって・・・・一応自分の事なんだからもう少し真剣にしないと!」


「えへへ・・・・先生を信じてますから」


 石田はニッコリ笑うはやての表情に固まってしまった。その後、はやてとシグナムは一緒に廊下に出て行き、室内には石田と零の二人っきりとなった。


「はやてちゃん、日常生活ではどう?」


「足の麻痺以外は健康そのもの・・・・何も問題は見られませんよ」


「そう・・・辛いかもしれないけど、私たちも全力を尽くしているわ。今はなるべく麻痺の進行を緩和させる方法で進めているけど・・・・」


「けど?」


「場合によっては、入院を含めた辛い治療になるかもしれないわ。くれぐれも気をつけて」


「はい・・・・・」


 はやての病気の進行がいつ早まるか分からない状況や、これからの事を伝えた石田に零は頭を下げた。そして病院から帰る途中、シグナムは最近始めた剣道場の講師の仕事で別れ、零とはやては図書館へと足を進めた。


 しかし現在、魔力の蒐集に出かけているのはヴィータとザフィーラの二人、シャマルとは図書館で合流するようになっている。


 図書館に着いたはやてと零は一緒に目当ての本が無いか探しながら室内を歩いていると、急にある子がはやてを呼び止めた。


「はやてちゃん!!」


「あっ!すずかちゃん!」


 はやてを呼び止めた子は以前はやてが話していた友達【月村すずか】だった。すずかはそのままはやての傍まで歩み寄り、はやてと話を始めた。その時、零とすずかとお互い目が合った。


「あっ、すずかちゃん。紹介するな、この人が前に話した私のお兄さん」


「零だ。宜しくな・・・・え~と?」


「あっ、月村すずかです。宜しく」


 はやての紹介に、零とすずかはお互いに笑顔で右手を出して握手する。そしてはやてとすずかは本の話しをしだし、その中ですずかが童話の本を見せてくれて、内容はジーンとくるらしく、はやても後で借りてみようと話をしていた。


「あっ、そうや。すずかちゃん、今日家に泊まりにこんか?他の皆も紹介したいし・・・・・・」


「えっ?いいの?」


「うん、私はええで!零兄ぃもええやろ?」


「ん?ああ、そうだね。だったらご馳走を作らないとな!!」


 はやての提案にすずかは「いいのか?」と問い掛けるが、零もはやてにとって初めて出来た友達である彼女が家に来るのには賛成する。


「・・・・てな訳で、皆に今日は早く帰ってくるようにと行っておいてくれ」


「まあ!はやてちゃんのお友達のすずかちゃんがですか。分かりました!さっそく皆に教えておきますね!!」


 はやてがすずかと暫く話をしていると、丁度シャマルがやってきたので、零はさっそく今晩すずかが泊まりに来る事を話すと、シャマルは喜んで皆に念話で伝えた。

















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 魔力の蒐集に出かけていたヴィータとザフィーラは、亀のような姿をした生物と戦っていた。その亀の甲羅には山のように尖っており、いかにも魔力を多く内包してそうな感じだったので、即効で倒して魔力を奪ってみたが・・・・・


「くそっ!こいつこんなけデカイ図体してるクセに持ってる魔力は少ない」


「これだけ倒して蒐集できた魔力はほんの数ページ分か・・・・」


 倒した生物から魔力を奪ってみたものの、蒐集できた魔力の量は少なかった。生物を倒す為に使用したカートリッジを再装填しているヴィータと、ザフィーラの後ろには同じ姿をした生物が幾つも転がっていた。


「さて、次の蒐集相手を探すぞ!」


「ヴィータ、無理をするな。もう少し休め」


「大丈夫、アタシだって騎士だ!そんなにヤワじゃねぇ」


 ヴィータは気合を入れなおして再び魔力蒐集に行こうとした時だった。二人の脳裏にシャマルの声が聞こえてきた。


(ヴィータちゃん、ザフィーラ聞こえる?)


「シャマルか?」


「あんだよ?今、魔力集めの最中だけど・・・・」


 念話を送ってきたシャマルは「今日は早めに帰ってきて」と伝えると、ヴィータは何故かと問い返すと、今日の晩にはやてのお友達が来ると二人に伝え、美味しい料理を作っていると言うと、ヴィータは目を光らせる。


「ホントに!?あっ、でも・・・・・」


(大丈夫。零さんも早く戻ってこいって言ってるから・・・・)


 ヴィータは零も同意してくれいていると聞くと「すぐに帰る!」と言い、ザフィーラに「すぐに戻るぞ!」とウキウキしながら転移魔法陣を展開する。ザフィーラはそんなヴィータを見て一瞬だけ笑みを浮かべると、ヴィータと共に転移魔法陣へと入った。


 その頃、夕食の準備をしているはやてとシャマルは野菜などを切り、零は鍋のコンロの準備をしていた。


「いや~寒い時はやっぱり寄せ鍋だよなぁ」


「せやね、皆で協力して美味しい鍋を作ろうな」


 もうすぐ日は暮れ、季節も冬と言う事もあってか夜になると気温が下がって寒くなる。そんな時は、やはり冬の定番である暖かい鍋が最高である。


「それにしてもシグナムは帰りが遅いな~」


「また講師として熱が入ってるんじゃないかな?」


「まさか~・・・・・・って、案外ありえるかもな・・・・・」


 シグナムはまだ家に戻ってきておらず、多分剣道の講師として熱が入っているかもしれない、とはやては話す。零は笑いながらさすがに無い・・・・と思ったが、ありえるかもと思ってしまった。


 以前にもシグナムの帰りが遅く、どうかしたのかと道場に零が迎えに行ってみると・・・・・・そこには剣道着を着た人達が床にグッタリと倒れていた。


 その光景に驚いた零は、シグナムにどうしたのか問い掛けてみると、どうやら講師として熱の入ってしまったことで、そこで学んでいる人達がボロボロになるまでやってしまったらしい。


「・・・・まさかと思うけど、心配だな・・・・」


「だったら私が見てきましょうか?」


「いいんか?シャマル」


 熱の入ってしまったシグナムを止めるのは難しい。零はまたあの状態になっていないかと心配していた。そんな零にシャマルは自分が見てくると言い出し、はやては良いのかと問い掛ける。


「だったら零兄ぃも一緒についてってくれへんか?」


「俺も?でも夕食の準備が・・・・」


「準備の方は一人でも大丈夫や。それにシャマルだけやと巻き込まれそうやし・・・・」


 はやては零も一緒について行かないと、シャマルだけではシグナムを止めるのは無理と考えたのか、零も一緒に迎えに行ってほしいと頼んだ。零は少し戸惑ったが、確かにシャマルだけでは巻き込まれかねないので、申し訳ないと思いつつシグナムを迎えに良く準備をする。


 その時、家のインターホンが鳴り、シャマルが入り口に行くと、丁度手荷物を持ったすずかがやって来ていた。


「こんにちは~」


「あっ、いらっしゃいすずかちゃん」


 シャマルの声と同時にキッチンにいたはやてが顔を出す。そしてシャマルがすずかをリビングにまで案内し、荷物を降ろしたすずかははやてと挨拶を交わす。


「いらっしゃいすずかちゃん。よう来てくれたな~」


「ちょっと時間が早かったかと思ったんだけど良かった?」


「そんな事気にせんでええよ。でもごめんな、まだ皆帰ってきてないんや」


「ううん、気にしないで」


 リビングで楽しく話しているはやてに、零とシャマルは一言掛けてからシグナムを迎えに家を出た。
















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 零とシャマルがシグナムを迎えに家を出る数十分前・・・・海鳴上空では結界が発生していた。そしてその中にはヴィータとザフィーラが数人の管理局の武装隊員に取り囲まれてしまっていた。


 実はヴィータとザフィーラは海鳴市上空に転移し、すぐにはやてのいる自宅へと飛んで戻ろうとしていた時だった。転移時の魔力反応を探知されたのか、管理局の武装隊の局員数十人がヴィータとザフィーラを閉じ込めるように結界を展開。そして現在にいたる。


『都市部上空にて捜索指定の対象二名を捕捉。現在、強層結界内部で待機中です』


「相手は強敵よ!交戦は避けて、外部から結界の強化と維持を!!」


『了解!』


「現地には執務官を向かわせます!!」


 ヴィータとザフィーラの結界に閉じ込めた武装隊からの報告を臨時拠点で聞いたリンディは指示を出し、現場にはクロノを向かわせた。本来ならグラーベもクロノと一緒に向かわせるべきだったが、彼は別の武装隊と別行動中であり、間に合いそうに無い。


 武装隊に取り囲まれているヴィータは舌打ちし、ザフィーラは管理局員の動きを警戒する。


「管理局か・・・・それに少しは能力が高い者のようだ」


「へっ!カンケーねぇ、こんな奴らちゃちーし、楽勝だ!!」


 ベルカの騎士である自分たちがこんな連中に負ける無いとグラーアイゼンを構える。しかし突然、二人を取り囲んでいた管理局員達はそれぞれ散開していってしまった。


「何だよ・・・・あいつら逃げやがったぞ?」


「!?ヴィータ!!上だ!!!」


 相手の行動に呆気取られているヴィータに、ザフィーラは何かに気づいたのか上を見上げるとヴィータも上を見ると、そこに黒服の魔導師が杖を掲げていた。


「スティンガー・ブレイド、エクスキューションシフト!!」


 ヴィータとザフィーラのいる位置より高い場所にいたのはクロノだった。クロノは自身の魔法で生み出した数百をも超える剣状の魔力刃をヴィータとザフィーラに向けて発射し、二人を一網打尽にしようとした。


 それに対し、ヴィータを守るようにザフィーラが前に出て防御魔法を展開し攻撃を防ごうとしたが、何百本という剣の雨に二人は蒼白い爆発に飲み込まれてしまう。


「ハァハァ・・・・少しは通ったか?」


 さすがのクロノも大量の魔力を消費したせいで息を切らしていたが、自分の最大の魔法をぶつけた事で少しはダメージを負わせたと思っていた。しかし・・・・・


「!ザフィーラ!!」


「気にするな、この程度で如何にかなるほど・・・・ヤワじゃない!!」


「上等!!」


 クロノのスティンガーブレイドの防ぎきれなかった分の剣がザフィーラの左腕に何本か刺さってしまっていたのに気づいたヴィータは声を上げるが、さすが盾の守護獣を名乗っているザフィーラには微量のダメージしか負っていなかった。


 自分の最大の魔法でもダメージを負えなかった事に内心苦やしつつも、クロノは杖を構えて応戦しようとした時だった。拠点にいるエイミィから連絡が入り、強力な助っ人を送ったと知らせてきた。


 そしてクロノのいる位置から少し下にいったビルの屋上になのはとフェイト、そして少し離れた場所にアルフとユーノの姿があった。


 二人はそれぞれ修理の完了したデバイスを掲げて起動させるが、いつもと様子が違う事に気づき、その理由をエイミィが話してくれた。


『呼んであげて、その子達の新しい名前を!!』


「レイジングハート・エクセリオン!!」


「バルディッシュ・アサルト!!」


『DRIVE IGNITION.』


 なのはとフェイトは二機の新しい名前を叫ぶと、新たなバリアジャケットを纏い、デバイスを構えた。しかしなのはとフェイトのデバイスを見たヴィータは驚きの声を上げた。


「あいつらのデバイス・・・・あれってまさか!!?」


「カートリッジ・・・・システム!?」














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 その頃、シグナムを迎えに行った零とシャマルは剣道場に足を運んでいた。しかし道場についた時、既に剣道の練習は終っており、室内には数人の剣道者しかいなかった。


「あれ?シグナムが何処にもいない」


「おかしいですね?すみませ~ん」


 シグナムが室内にいない事に気づいた零とシャマルは、まだ残っていた人にシグナムは何処にいるか尋ねてみると、シグナムは二十分くらい前に用事が出来たと言って帰ってしまったらしい。


「おかしいな。もし帰る理由が今日すずかちゃんが泊まりに来る事なら、途中で出会ってもおかしくないはずなんだけど・・・・・」


「そうですね・・・・あっ!?」


 零はもしシグナムが帰ったのなら帰り道で出くわす筈だと考えていると、突然シャマルが何かを感じたのか、外に駆け出していってしまった。零はそんなシャマルの後を追ってみると、シャマルはある方向の空を見上げていた。


「どうした?シャマル」


「零さん、近くに結界の反応が・・・・」


「結界?・・・・まさか!?」


「はい。しかもこの結界の感じ・・・・管理局の物です!!」


 シャマルの言葉に零はシグナムと出くわさない理由が分かった。恐らくヴィータとザフィーラが何かの理由で管理局の張った結界内に閉じ込められ、シグナムは二人を助けに行ったのだと確信した。


「シャマル!俺たちも行こう、コネクトッ!!」


「はい!クラールヴィントッ!!」


 零とシャマルは人気の無い場所に移動した後、シャマルは騎士甲冑を纏い、零はガイバーゼロに殖装し、二人は海鳴市の空へと飛び立っていった。















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 ガイバーゼロとシャマルが結界に向かって飛び立った数分前、シグナムは騎士甲冑を纏い、既に結界の見える場所にまで来ていた。


「・・・・・強層型の捕獲結界、ヴィータ達は閉じ込められたか・・・・」


『行動の選択を・・・・』


「レヴァンティン、お前の主はここで引くような騎士だったか?」


『否っ!!』


「そうだレヴァンティン!私達は今までもずっとそうしてきたっ!!」


 シグナムの言葉にレヴァンティンはカートリッジをロードし、刀身に炎を纏わせる。そしてシグナムはそのまま結界に向かって突撃を仕掛けていった。




 一方、結界内ではヴィータ達ベルカの騎士に対抗する為に、レイジングハートとバルディッシュの両機は、新たにカートリッジシステムを内蔵し、なのはとフェイトと共にヴィータとザフィーラの二人と対峙していた。


「私達は、ただあなたたちと戦いにきたわけじゃない。まずは話を聞かせて」


「闇の書の完成を目指している理由を!」


 戦闘体勢を取っていたなのはとフェイトの二人と戦うと思っていたヴィータとザフィーラだったが、彼女らはあくまで闇の書の完成を目指している理由を知りたがっている様子だった。


「あのさ、ベルカのことわざでこんなんがあんだよ・・・・【和平の使者は槍を持たない】ってな」


「?」


「話し合いをしに来たのに武器を持ってやって来る奴がいるかって意味だよ、バァ~カ!」


「なっ!?いきなり有無を言わず襲い掛かってきた子がそれを言う!?」


「それにそれはことわざではなく、小話のオチだ」


 なのはとフェイトの問いにヴィータは自慢げにことわざと称してなのは達を馬鹿にする。しかしザフィーラのツッコミでそれは間違いだと指摘される。その時、一閃の閃光がなのはとフェイト、ヴィータとザフィーラの間に降り立った。


 その正体は、先程カートリッジを一発使用して、局員が張っている強層結界を貫いてきたシグナムだった。その姿を見たなのはは、クロノとユーノに手出しは無用と言い、ヴィータと一騎打ちがしたいと言い出した。そしてフェイトもシグナムと戦いたいとアルフに念話で伝え、アルフ自身もザフィーラの相手をしたいと言ってザフィーラを見る。


 そしてクロノとユーノは結界内にいる守護騎士三人は闇の書を持っていないと確認し、ユーノに結界内を、そしてクロノが結界の外に闇の書を持つ者か、あるいは闇の書の主がいると推測し、それぞれ別れていった。
















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 そして結界の外では、ガイバーゼロとシャマルが管理局の張った強層結界の前にやって来た。


「これは・・・・・この中にヴィータ達が・・・・」


 結界を見上げるガイバーゼロに、シャマルは念話を使って中にいる守護騎士たちに連絡をとる。


「ゼロさん、中にいるザフィーラから中の状況を知る事が出来ました」


「それで状況は?」


 ザフィーラから聞いた情報は、管理局側もデバイスを強化してきたらしく、今まではヴィータとシグナムが有利な状況だったのが、現在相手にしている管理局の魔導師と互角に戦っているという。そしてザフィーラ自身も戦闘中であることを知った。


「武器の差がなくなったという事か・・・・・それでシャマル、この結界・・・・破る手立てはある?」


「これほどの結界を破るとなると、シグナムのファルケンか、ヴィータちゃんのギガントでないと破るのは無理です」


「そうか、なら・・・・!?シャマル!後ろ!」


「えっ?」


 ガイバーセロはシャマルに結界を破る手立てを聞いていた時だった。ガイバーゼロの言葉にシャマルは後ろを振り返ると、そこには結界外を飛んでいたクロノがシャマルにデバイスを突きつけていた。


「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いであなた方を逮捕します」


「くっ!?」


 デバイスを至近距離から向けられていることでシャマルは動けず、ガイバーゼロも無闇に動けばシャマルにケガを負わせてしまうと思い、手が出せないでいた。もちろんこの光景は臨時作戦本部のリンディも見ており、エイミィはクロノに「グッジョブ!!」と喜んでいた。


「抵抗しなければ弁護の機会があなた方にある。同意するなら武装の解除を・・・・」


「管理局という組織は君のような子供まで働かせているのか?」


 シャマルに武装解除するよう言い聞かすクロノに、ガイバーゼロは子供も働かせているのかとクロノに問い掛けると、クロノはガイバーゼロにデバイスを向けた。


「貴方のことはフェイトから聞いている。前に守護騎士たちと一緒にいるところを目撃されている。よって貴方も重要参考人として拘束させてもらう」


 デバイスを向けたクロノの声は子供と言われた事に若干怒りを帯びていた。クロノは見た目は子供みたいだが、実際の年齢は14歳であり、子ども扱いされるのを嫌っていた。


 しかしその時だった。突然クロノの姿が消え、隣のビルの屋上のフェンスにぶつかったのだ。ガイバーゼロは飛んでいったクロノの反対側を見ると、そこには仮面を付けた謎の男が立っていた。どうやらクロノはこの男の蹴りを受けて吹き飛んでいったらしい。


「あなたは・・・・?」


「使え」


「えっ!?」


「闇の書の力を使って結界を破壊しろ。使用した際の失ったページはまた増やせばいい。仲間がやられてからでは遅かろう」


 シャマルと何かを話した仮面の男は、そのままクロノのいるビルの方へと行ってしまった。その様子を見ていたガイバーゼロはシャマルに「知り合い?」と問い掛けるが、シャマルは「知らない」と答えた。


「闇の書を使えば確かに結界の破壊は可能ですか・・・・」


「・・・・シャマル、アイツの事は知らないと言ったよね?俺ならその案は却下だ!!」


「ゼロさん?」


「“減ったページはまた増やせ”だと!・・・・アイツは俺達がはやての為に苦労して集めたページを何だと思ってるんだ!!」


 闇の書の使用も致し方ないと思っていたシャマルだったが、ガイバーゼロは怒りの声で仮面の男の言った言葉を否定し、結界の前に移動する。


「でも、あの強固な結界を破壊するには闇の書の力を使わないと・・・・」


「その必要は無いよ。・・・・・そうやらあの結界は外周にいる局員が一人一人力を使って結界を維持しているみたいだ・・・・」


 シャマルは今の状況では闇の所を使う以外に方法が無いと言うが、ガイバーゼロは頭のヘッドセンサーをフル稼働させて結界の周囲を見ながら状況を把握する。


「シャマル、皆に逃げる準備をするように知らせてくれ。“切り札”を使って俺が結界を破壊する!!」


「・・・・・分かりました。皆に知らせます」


 ガイバーゼロの言う“切り札”という言葉を信じる事にしたシャマルは、念話を使ってシグナム、ヴィータ、ザフィーラに連絡を入れる。そしてガイバーゼロは額のコントロールメタルが光だすと同時に胸の装甲に手を掛けた。


「ムン!!」


 胸の装甲を力一杯引っ張り、装甲が左右に展開すると、胸には大きなレンズのようなモノが顔を出した。そしてそのレンズが徐々に光を放ち始めると、そこから蒼白い光る球体が生成されていく。


『クロノ君!!近くに巨大なエネルギー反応!!・・・・何コレ?一体なに!?』


 エイミィの通信を聞いたクロノはガイバーゼロのいる場所を見ると、仮面の男もクロノへの攻撃を中断し、同じ場所を見る。


「何だ!?あれは・・・・!?」


 クロノは明らかに集束砲のようなモノを生成しているガイバーゼロの様子に我が目を疑った。ガイバーゼロの足下には魔法陣のようなモノは一切出現していないのだ。その光景に仮面の男も驚いている様子だった。


「行くぞ!くらえぇぇぇぇぇ!!!」


 ガイバーゼロの胸から発射された蒼白い二つの閃光は、互いに交わり一つとなり、そのまま管理局員が全力で張った強層結界をいとも簡単に貫き、結界内にいるなのはやフェイト達の頭上を通り抜け、さらには反対側の結界を貫いていってしまった。この砲撃こそ、ガイバーの持つ武装の中で最強の武器【メガスマッシャー】だった。


 ガイバーゼロの放ったスマッシャーの衝撃波から守る為に、結界内にいたユーノとアルフは、なのはとフェイトを防御魔法を使って守っていた。しかしその隙に結界内にいたシグナム、ヴィータ、ザフィーラを取り逃がす事となってしまった。


 そして仮面の男と戦っていたクロノはガイバーゼロの放った圧倒的な破壊力に唖然としていた。


「今は動くな!時を待て、それが正しい事だとすぐに分かる!!」


「何・・・・?待て!!」


 仮面の男はクロノにそう言うとその場から立ち去ってしまい、クロノはエイミィに追跡を頼もうとしたが、ガイバーゼロの砲撃の影響で現場に飛ばしていたサーチャーが全部駄目になってしまったと伝える。クロノは「くそっ!!」と怒りをぶつけるかのように地面に拳を叩きつけた。





















 第十一話完了。

 遂に登場、ガイバー最強の武装メガスマッシャーw
スマッシャーは完全に質量兵器の部類に入りますから、これを機に完全に警戒されますねゼロは・・・・・ところでガイバーってコントロールメタルが残っていれば細胞レベルから復元できますけど、本人の記憶とかはどうやって復元してるんだろ?
 原作の昌も、厳密に言えば二度死んでるわけですから既に本人じゃない・・・でもこれってプロジェクトFの理論を完全なものにした物っぽい気がする・・・皆さんはどう思っているのでしょうか?


 今回の話は原作でも好きな回でした。特にシグナムとフェイトとの戦闘シーンは個人的には燃える展開だったので大好きでしたw


 さてそれではまた次回お会いしましょう・・・・・・(今回は感想の返しができないので次回に持ち越しで・・・・・)






 





[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十二話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/04/10 22:15























 ガイバーゼロの放ったメガスマッシャーのおかげで難を逃れたヴォルケンリッター。その後五人とも無事に管理局に見つからずに合流、自宅へと戻り、はやてとすずかと共に晩御飯を頂く事にした。


 はやては「遅かったな~」と聞いてきたが、零が「シグナムがヴィータとザフィーラを迎えに行っていて、三人を探し回っていた」と言うとシャマルも話に合わせてくれて、シグナムは「連絡もいれず、すまなかった」と謝罪する。


 もちろんこの話は嘘であったが故に、本当は五人共心の中ではやてに平謝りしたくなるほどの心境だった。


 食事を終え、はやてとすずかはヴィータ、ザフィーラと共にリビングへ行き、零とシャマル、シグナムの三人で食事の後片付けをしていた。


「ごめんな零兄ぃ、片付け全部お願いしてもうて・・・・」


「いいってはやて、結局晩御飯の準備も余り手伝えなかったし、コレくらいはしないと申し訳ないよ」


 謝るはやてに零は「気にしないで」と言うと、シグナムとシャマルも同意し、ヴィータは「ゲームしよ!」と言ってはやてとすずかをテレビの前に連れて行った。そして零は再び食器を洗い始め、シャマルとシグナムは洗った食器を布巾で拭いて片付けてしまうまでの作業を流れ作業のように行った。


「それにしても、零さんのあの集束砲撃・・・・凄い威力でしたね」


「ん?ああ、スマッシャーのこと?」


「スマッシャーというのか、あの武器の名は?」


「ああ。俺の持つ強殖装甲の武装の中でも一番破壊力のある武装だよ。でも威力がある分チャージに時間が掛かるし、連射も利かないんだけどね」


 食器を洗いながら零は先程の戦闘で使用したガイバーの武器【メガスマッシャー】の説明をする。その話にシグナムもシャマルも驚いていた。あの管理局が張っていた強固な結界を、いとも簡単に撃ち抜いてしまったのだから当然だが・・・・・・


 その後、はやてとヴィータの二人はすずかと一緒にお風呂に入った。しかし風呂に入る前に「零兄ぃも一緒に入る?」とはやてが冗談で尋ねてきたが「絶対に入らん、ッてか無理!!」と言って零は顔を真っ赤にして全力で断った。








 

 風呂では湯船の浸かるはやてとすずか、ヴィータは体を洗う為に洗面器にお湯を入れていた。


「あ~ええ湯やな~」


「ホントだね~。ねぇ、はやてちゃん」


「ん?何やすずかちゃん」


「零さんって優しい人だよね。何だか傍にいてくれるだけで落ち着くと言うか・・・・・」


「せやろ?いつも何かあれば気遣ってくれるし、一緒にいるだけでも楽しくなるんよ」


「それに零の作ってくれるデザートはゲキウマなんだ!!」


 風呂に入っているはやてとすずか、そしてヴィータの話す話題は零についてだった。はやては零が記憶をなくしていた所を助け、その後から居候として一緒にいる事をすずかには話さず、一人の家族だあると説明する。


「そういえばこの家にいる男の人って、零さんしかいないよね?もしかしてシャマルさんやシグナムさんと付き合っているとか?」


「えっ!?すずかちゃん、突然何を!?」


「だって、零さんって気が優しくてカッコいいし、シャマルさんとシグナムさんは美人だから・・・・」


「それはあかん!!零兄ぃは誰の物でもない。家族の一員や!!」


 すずかの突然の発言に、はやては顔を真っ赤にして「駄目だ!」と反論する。はやての迫力にすずかは驚きつつも「ごめん」と一言謝る。しかしはやては小声で小さく「零兄ぃは私の・・・・」と呟いていたことは誰も気づいていなかった。















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 はやて達が風呂に入っている間、零とシグナム、シャマル、ザフィーラの三人は、「闇の書を使え」と言っていた仮面の男について話し合っていた。


「あの仮面の人・・・・一体何者なのかしら?」


「管理局の人なら邪魔する筈だし、シャマルや俺の前に現われた魔法使いの子を蹴り飛ばしていたから、管理局側の人じゃないと思うけど・・・・」


「だが、闇の書を狙っている者という考え方もある。・・・・しかし」


「例え闇の書を狙っており、完成したところで奪うとしても主以外の者には扱う事は出来ないはずだ・・・・」


 シャマルや零は仮面の男が管理局側ではないと考える中、シグナムやザフィーラは闇の書を狙っている第三の勢力という見方もあったが、闇の書は主であるはやて以外の者には扱う事は出来ないと話す。


 結局、仮面の男については今のところは味方と見て問題ないと思いつつも、警戒を怠らないようにする方向で決まった。


「でも零さんのおかげで闇の書のページを減らす事はなかったから良かった」


「ああ、それに主はやてとの約束を破らずにすんだ。礼を言う」


「気にするなって。皆が苦労して集めたページを「減った分はまた増やせ」って言ったあの男の言い方に腹が立っただけだし・・・・」


「だが、あの砲撃の様子を管理局が見逃していたとは考えにくい。恐らくこの件によって管理局は本腰を入れてくる事になるだろうな・・・・・」


 シャマルとシグナムは改めて零にお礼を言い、ザフィーラは今後管理局の警戒はいっそう激しくなるだろうと予測する。その意見には三人とも同意し、管理局との遭遇に際には十分気をつけるようにと決めた。

















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 その頃、臨時作戦本部へと帰還したなのは、フェイトはエイミィからデバイスに組み込んだカートリッジシステムについての話を聞いていた。


「カートリッジシステムは捕縄に扱いが難しくて、本来ならその子達みたいなインテリジェンスデバイスに組み込むような物じゃなくてね。本体破損の可能性もあるって言ったんだけど・・・・その子達が「どうしても!」って言うから・・・・」


 エイミィが言うには、カートリッジシステムは使用者の魔力を一時的にアップさせることができるが、その反面、その使用者の魔力に耐え切れるほどの強度がデバイスには必要であり、AIなどの繊細な人工知能を持つインテリジェンスデバイスには組み込むのは本来問題があるというシステムだった。


 しかしレイジングハートもバルディッシュも、先の遭遇戦で守るべきマスターを守れず、マスターの信頼に答えられなかったことが余程悔しかったらしく、このままでは駄目だと修理の最終検査の際にエラーコードを出してまでベルカ式カートリッジシステムの搭載を希望したのだとエイミィは話す。


 その事を聞いたなのはとフェイトは手の中にある相棒を見つめ、お礼を言った。そしてエイミィはデバイス強化の際に二機には新モード【フルドライブ】が追加されたと話すが、破損の可能性を考慮するとフルドライブの使用は控えるようにと厳命する。


「問題は彼らの目的よね?」


「ええ、どうも腑に落ちません。まるで自分達の意思で闇の書の完成を望んでいるかのような感じがするし・・・・・」


「えっ?それっておかしい事なのかい?闇の書ってのは、要はジュエルシードと同じすっごい力が欲しい人が集めるもんなんでしょ?だったらその欲しい人の為にあの子達が頑張るって言うのもおかしくないんだと思うんだけど・・・・」


 リンディとクロノは今回の守護騎士達の行動には腑に落ちない部分が多いと話す中、アルフは闇の書もジュエルシードと同じ力を欲する人がいるから、守護騎士たちも頑張って集めているのではないかと思っていたらしい。


 しかしクロノが言うには、闇の書はジュエルシードのような単に所有者の意志で力を得られると言う訳ではなく、自由な制御が効かないらしい。闇の書の完成前も完成後も“純粋な破壊”しか出来ず、これまで闇の書が破壊以外で使用されたという記録は一度もないとリンディが付け加える。


「それにもう一つ。あの騎士たち・・・・闇の書の騎士の性質だ。彼らは人間でも使い魔でもない、闇の書と合わせて魔法技術で生み出された擬似人格、主の命令を受けて行動するただそれだけのプログラムでしかないはずだ」


「命のない擬似生命体?・・・・・それって私みたいな・・・・」


「違うわ!!フェイトさんは生まれ方が少し違うだけで、ちゃんと命を受けて生まれてきた人間でしょ?」


 クロノの言ったシグナム達の事を命のない擬似生命体、という言葉に過剰に反応のしたのはフェイトだった。しかしリンディはそんな事を言ったフェイトを叱るように違うと否定し、クロノもリンディの意見に同意する。


 フェイトは先のジュエルシードの絡んだ事件【P・T事件】の際、主犯である【プレシア・テスタロッサ】の実の娘である【アリシア・テスタロッサ】の遺伝子を利用して、本人の記憶を受け継いで生み出すクローン技術【プロジェクトF】によって生み出された存在であり、闇の書の主になった者の命令に、ただ従うだけの存在である騎士たちと自分は同じだと思ってしまったらしい。


 仮にもフェイトは、なのはと真剣に言葉を交わす前までは、プレシアからの酷い拷問にも黙って耐え、命令通りにジュエルシードを集めていた時期があった。


 リンディとクロノの言葉にフェイトは自分が言った事が馬鹿なことだったことと思い謝るが、場の空気は完全に暗くなってしまった。エイミィは場の空気を何とか変えようと手を叩いて「モニターで説明しよう」と言って部屋を暗くしてモニターを起動させると、そこには闇の書を中心に四方にシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの映像が映し出された。


「守護者達は、闇の書に内蔵されたプログラムが人の形を取ったもの、闇の書は転生と再生を繰り返すけど、この四人はずっと闇の書と共に様々な主の下に渡り歩いている」


「意思疎通のための対話能力は過去の事件でも確認されているんだけど、感情を見せた例は今までに無いの」


「闇の書の蒐集と主の護衛・・・・彼らの役目はそれだけですものねぇ」


 モニターに映し出される闇の書を眺めながらクロノはなのはとフェイト、ユーノとアルフに闇の書の性質を話し、エイミィとリンディは守護騎士・・・・つまりシグナム達には、ある程度の意思疎通と対話能力しか備わっていないと話す。


 しかしなのははヴィータとの戦闘の際、怒ったり、悲しんだりしていたと話し、フェイトもシグナムからハッキリと「成すべき事がある。仲間と主の為に戦っている!!」と自分の感情を出していたと言う。


「そういえばエイミィ、緑服の騎士と一緒にいたあのアンノウンの映像は撮れたのか?」


「えっ?うん、今度はバッチリ撮れているよ!今表示するね!!」


 クロノの問いにエイミィはすぐに映像を切り替え、アンノウンの映像を出した。そこにはシャマルと一緒にいたガイバーゼロの映像が鮮明に映し出されていた。


「あっ、クロノ、この人・・・・」


「そう。前回の戦闘でフェイトが追い詰めた赤い服の騎士を救出に来た謎の人物だ。そして今回、管理局の武装局員の張った強層結界をいとも簡単に撃ち抜いた張本人だ」


『えぇっ!!?』


 ガイバーゼロの映像にフェイトはクロノに問いかけ、クロノはこのアンノウンが今回の戦闘で、12人もの高ランク所持の武装局員を動員して作り出した強固な結界を蒼白い閃光を発射して破壊した張本人だと言うと、なのは、フェイト、アルフ、ユーノは驚きの声を上げる。


「フェイト、君は前の戦闘でこのアンノウンと戦闘を行ったそうだが、何か気になる点はあったか?」


「うん。この人には魔力反応が全く感じられなかった。それにバルディッシュのハーケンの刃を両肘に付いている突起物で簡単に斬られてしまったの」


「えっ!?魔力で出来た刃を斬ったって!?そんなの無理だよ!!」


 クロノとフェイトの話しを聞いていたなのはは驚きの声を上げた。この話はユーノは知っている為か余り驚いていなかった。しかし魔力で構成された物を斬るということは、魔導師にとって脅威になりえると誰もが感じていた。そんな中クロノだけはガイバーゼロの映像を見ながら呟いた。


「いや・・・・・もしかしたらだけど、このアンノウンはこの世界の者ではない可能性が高い。それに・・・・・」


「それに?」


「このアンノウンが発射した蒼白い閃光・・・・・これは質量兵器の可能性がある」


 クロノの一言に再びこの場にいた全員が驚きの表情になる。


 質量兵器・・・・それはなのはの生まれたこの地球でいう所の拳銃やミサイルなどの魔力を使用しない質量によってエネルギーを得る物理兵器の事である。


 クロノ達やフェイトみたいな魔法技術と魔法文化の発展によって魔法が主体になっているミッドチルダ生まれにとって質量兵器という存在は脅威に感じていた。質量兵器こそ、一度作り出してしまえば子供でも扱え、スイッチ一つで世界を滅ぼしかねない可能性を秘めているからである。


「少なくとも、このアンノウンが発射した集束砲撃の発射時のエネルギー反応は、なのはの得意としている砲撃魔法【スターライトブレイカー】に匹敵しているんだ」


「えっ!?」


「その事を踏まえると、このアンノウンは僕達にとって更なる脅威になると思う。だからなのはとフェイト、二人はこのアンノウンと遭遇した際は十分気をつけてくれ」


「うっ、うん・・・・」


 クロノの言った情報を聞いたなのはは少し表情に驚きを見せていた。あの時、結界内で見た全てを飲み込むような蒼白い閃光・・・・・あの砲撃が自分の得意としている砲撃魔法である【スターライトブレイカー】に匹敵する威力を兼ね備えたモノだということに・・・・・


「ともかく、このアンノウンが質量兵器を扱う存在だというのなら、闇の書の騎士達と同等に厳重注意しておいておかないといけないわね」


「あの・・・・・リンディ提督」


「なにかしら?フェイトさん」


「この人・・・・もしかしたら説得できるかもしれません」


「えっ!?どういうことだ?フェイト」


「この前戦った時、初めは迷いなんてなかったんだけど、その後から明らかにこの人の攻撃には迷いがあった。それになのはのリンカーコアが完全に奪われるのを阻止したのはこの人なんです」


 リンディがガイバーゼロの事を危険視していると、フェイトが手を少し上げてリンディにガイバーゼロを説得できるのではないかと話し出した。


 クロノは当然の如くフェイトに理由を聞くと、以前ガイバーゼロと対峙した時、シグナムとヴィータが乱入して来る前にフェイトと戦っていたが、攻撃のチャンスがあっても躊躇しているような動きを見せていた事を話した。


「・・・・もしフェイトの言っている事が本当なら、そこから闇の書の所有者の特定が出来るかもしれないな・・・・」


「でも、そのアンノウンが闇の書の主って可能性は?あの子達に指示を出していたのを見てるし・・・・」


「いや、それは多分無いな・・・・闇の書が魔力反応のない者を主にする事はないし、別の誰かがいると思うな」


 フェイトの話を聞いたクロノは、そこから闇の書の所有者を割り出せるかもと考えていると、アルフがクロノにガイバーゼロが闇の書の所有者ではないかと問いかけると、魔力を持たない者に闇の書が主に選ぶ事はないと話す。すると突然暗い部屋の中で男の声が響き渡った。


「だが、例え説得できたとしても、世界を滅ぼしてしまうロストロギアを所有している時点で犯罪者には違いない。説得に何の意味があるというのだ?」


 突然の声にその場にいた全員が声のあった方を見ると、そこには腕を組んで壁の寄り掛かっているグラーベの姿があった。


「グラーベ、戻ってきていたの?」


「ええ、どうやら私が別働隊と一緒にいた間に闇の書のプログラム風情どもと戦闘があったようですね」


「プログラム風情って・・・・ヴィータちゃんはそんなのじゃないと思います!」


「シグナムだって、私達と同じ・・・・・」


「・・・・・ただの民間協力者と犯罪者の子供が随分デカイ事を言うとは・・・・・管理局の質はやはり落ち込んでいるようだな・・・・」


 シグナム達をプログラム風情と言うグラーベに、なのはとフェイトは反論するが、グラーベはなのはの事をただの民間協力者と言い、フェイトの事を犯罪者だと言い放った。


「何だって・・・・・今アンタ何て言った!!?」


 グラーベの言葉に怒りを露にしたアルフがグラーベの方へと歩き出し、胸倉を掴んだ。しかしグラーベは表情を一つ変えず、胸倉を掴んでいるアルフの腕を右手で掴むと、足を払ってアルフを転倒させ、そのままアルフを叩き伏せてしまった。


「あぐっ!?」


「アルフ!!」


「・・・・この程度か。こんなのでは主人の力も高が知れているな・・・・」


 呆気なく叩き伏せられたアルフにフェイトは叫ぶと、グラーベはそのまま手を離して部屋を出て行ってしまった。フェイトはずぐにアルフの元に駆け寄り、大丈夫かと問い掛ける。


「グラーベ!!待ちなさい!!」


「姉上、闇の書のプログラムどもの居場所が分かり次第連絡を・・・・次は私が出ますから・・・・・」
 

 リンディの止めるのも聞かず、グラーベは部屋を出て行ってしまった。しかし部屋を出て行ったグラーベは、室内で見たガイバーゼロの映像が頭から離れないでいた。


「あの映像に映っていた奴の姿・・・・・まさかこんな管理外世界で見ることになるとはな・・・・」


















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 管理局との戦闘を終えた次の日。はやては泊まりに来ていたすずかが「今度は私の家に招待するよ」と話すと、はやては「是非行ってみたい!!」と言い出した。


「あっ、でも・・・・」


「大丈夫だよ。シグナムやヴィータは今日は出かけたいって言っていたし、シャマルと一緒に買出しに行くつもりだから、はやてはすずかちゃんと一緒に楽しんでおいで」


 行ってみたいと言ったものの、自分一人の勝手で出かけるのはどうかとはやては思ったが、零の後押しもあってか、はやてはすずかの迎えの車に乗せてもらい、月村邸へと出かけていった。


「さて、今日はシグナムが午前中に蒐集に行って、入れ替わるように午後からヴィータが蒐集に行くって事でいいよね?」


「ああ」


「一応管理局の警戒網には気をつけてね」


 零は午前中に魔力蒐集へと向かうシグナムに「無茶はするなよ」と激励し、シャマルは管理局の監視に気をつけるように伝えると、カートリッジの入った箱を手渡す。一応管理局との遭遇を考えての考慮だ。


 シグナムが出かけていくと、今度はヴィータがハンマーのような物を持って出かけようとしていた。しかし手に持っているのはグラーフアイゼンではなく、ゲートボールに使用するハンマーであった。


 実はヴィータは、この近くの公園で行われているご老人達が楽しんでいるゲートボール同好会のマスコットのような感じになっているようだ。ヴィータ自身もおじいさん、おばあさんから人気者で、ヴィータもおじいさん達に懐いており、行くのが楽しみとウキウキしていた。


「それじゃあ、行ってきま~す!!」


「あ~、待てヴィータ!!おじいさん達にコレを持っていってくれ!」


「何だコレ?」


「いつも世話になっているおじいさん達にお土産だよ。お昼にも食べてくれ」


 出かけようとするヴィータを呼び止めた零は、持ってきた包みをヴィータに手渡した。手渡された包みは大きな箱のようなモノが入っており、ヴィータはそれを持って家を出た。


 公園に向かう途中、渡された包みを見ていたヴィータは、包みの中に紙切れが入っているの気づき、その紙切れを広げて見た。


<ヴィータへ、おじいさん達とゲートボールをした後、お腹が空くだろうから皆さんと一緒に食べてくれ。それから昼からの蒐集には無理をせずに気をつけてな・・・・・>


 紙切れには書かれていたのを読んだヴィータは、零の心遣いに感謝しながら公園へと走っていった。
















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 シグナムとヴィータが出かけた後、零とシャマルは二人で洗濯物を干す為に庭に出ていた。背の高い零は物干し竿の高い場所に洗濯物をシャマルから受け取って掛け、下着などのものはさすがに男の零が扱っていると不味いので、こればっかりはシャマルに任せる。


「あら、おはようございます。シャマルさんに零さん」


「おはようございます」


「おはようございます!今日は良いお天気ですね」


 洗濯物を干しているシャマルと零に近所の奥さん達が朝の挨拶をしてきた。その挨拶に零とシャマルは元気よく挨拶を返し、再び洗濯物を干す作業を再開した。


 その後、昼にはシグナムが帰宅し、昼食を済ませた後、零とシャマルの二人で今ある食材の中で足りない物をメモに取り、買い物へと出かけた。ちなみにザフィーラはお留守番。


「え~と、買う物はキャベツにそれから・・・・・」


「確か調味料の中で無くなっている物がいくつかあったな・・・・」


 スーパーの店内を歩きながらメモに書かれた食材を一つ一つ確認しながらカートに乗せたカゴの中に入れていく。そんな風に二人で歩きながら進んでいくと、シャマルが突然口を開いた。


「ねぇ、零さん・・・・・」


「ん?何?」


「こうして歩いていると、私たちって夫婦みたいですよね?」


「ズコッ!!」


 突然のシャマルの天然ボケな発言に、零は思わずズッコケてしまった。まあ確かに他人から見ればシャマルが奥さんで、零が旦那さんと見えなくもないが、さすがにいきなりの問題発言に零は困惑してしまった。


「しゃ、シャマル!?・・・・なっ、何でいきなりそんな事を!!?」


「いえ・・・・この間、新婚夫婦のことが書かれた雑誌を見て、今の光景が新婚夫婦みたいだな~と思っちゃいまして・・・・」


 さすがの零もシャマルの発言には焦ってしまった。まあ確かにシャマルの性格は何処にでもいる優しいお母さんみたいな感じなので、よく近所の奥さん方には時々「ヴィータちゃんのお母さん」と呼ばれてしまう事があったらしい。・・・・・当の本人はその事について「私ってそんなに老けてるかしら?」と疑問に感じた事があったらしい。


 しかもシグナムと一緒に散歩をしている際には、シャマルが「お母さん」でシグナムが「お姉さん」と呼ばれた事があり、一時期「もう立ち直れない・・・」と沈んでしまっていた事があった。


 いきなりのシャマルのボケに零はコケてしまったが、無事に買い物を済ませて帰路へとついた。零が重い物の入った袋を両手に持ち、軽い物の入った袋はシャマルが持っている。


「ただいま~」


「ただいま帰りました~」


 買い物を済ませた零とシャマルが帰宅すると、庭でシグナムが竹刀を片手に素振りをし、ザフィーラは人型になってシャドーボクシングをする要領で自主鍛錬を行っていた。さすが騎士であるだけに非常時でも戦えなくてはならないので、魔力蒐集に行かない時はこうして鍛錬を積んでいた。


「ふう・・・・ああ、零にシャマル、買い物ごくろうだったな」


「シグナムも鍛錬ご苦労さん。はやてから何か連絡はあった?」


「主はもう少ししたら帰宅されるようだ。しかしヴィータがまだ帰ってきていない」


 自主鍛錬を終えたシグナムとザフィーラが庭に顔を出した零に、はやてがもう少ししたら帰ってくるという電話があったことを告げ、ザフィーラは零とシャマルが買い物に行っている間に、今朝零が手渡した包みを持って一度帰ってきたが、まだヴィータが戻ってきていないと話す。


「帰ってきていない?ヴィータの奴、まさかまた無茶しているんじゃないか!?」


「あれでも我らヴォルケンリッターのアタッカーだが・・・・何かあったのかもしれん・・・・・」


 蒐集に出かけているヴィータに何かあったのではないかと思う零に、ザフィーラも心配しているようだった。そんな零はシャマルにヴィータのいる位置を調べるように話し、零は外に出る。


「零さん、ヴィータちゃんのいる場所が分かりました!!」


「分かった。それじゃあ早速転送準備を頼む」


 シャマルはすぐに零の前に転送魔法陣を出現させると、零は強殖装甲を呼び出し、ガイバーゼロになり、転送魔法陣に入っていった。
















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「ちくしょう・・・・ちょっとドジッちまった・・・・・」


 とある世界の荒野・・・・そこにはグラーフアイゼンを杖代わりにして一歩一歩ゆっくりした足取りでヴィータが歩いていた。しかしその姿は酷いモノで、騎士服はボロボロで体中傷だらけになっていた。


「ハァハァ・・・・はやてに貰った大事な騎士服をこんなにボロボロにしやがって・・・・・」


 どうやらヴィータは魔力蒐集のターゲットにしていた原生生物を倒したものの、その後不意打ちを受けてしまい、さらにその群れの大群に襲われてしまっていたようだ。痛みを堪えつつ歩いていると、突然靴の止め具が「パキッ!」という音を立てて割れてしまった。


「あっ!?」


 靴の止め具が割れてしまった為にバランスを崩し、前に倒れそうになってしまう。ヴィータは受身を取ろうとしたが、腕の傷が痛み出してしまい、うまく受身が取れないでいた。


 倒れる時の痛みに耐えようと目を瞑ったヴィータだったが、いつまで立っても痛みが来ない。それどころか何か柔らかいモノに当たったような感じがし、耳からは「トクン、トクン」と優しい心臓の鼓動が聞こえてきた。


「?」


 ヴィータはゆっくりと目を開けると、目の前には蒼い何かがあった。そして上を見上げると、そこには額に銀色の球体を光らせて自分を優しく抱きかかえているガイバーゼロの姿があった。


「・・・・零?」


「ヴィータ、この姿の時は・・・・・ってそんな事はいいや。大丈夫か?ヴィータ」


 ガイバーゼロの事を零の名で呼んだヴィータに、ガイバーゼロは注意をしようと思ったが、ここには二人しかいないために特に追求はしなかった。


「こんなにボロボロになるまで無茶をして・・・・」


「ごめん・・・・ちょっと油断しちまって・・・・」


「まあ、無事だっったから良かったけど・・・・ん!?」


 体中傷だらけでボロボロになってしまったヴィータの姿に、ガイバーゼロは心配そうな声でヴィータに声を掛ける。その時、ガイバーゼロのヘッドセンサーに何かの接近を感知した。


 暫くすると、まるで巨大なワームのような生物が地面から這い出てきた。その姿を見たヴィータは「さっきの・・・・」と呟いた。どうやらヴィータが相手をしていた原生生物と同種の生物の一匹ようだ。恐らく執念深い一匹がヴィータの後をつけていたみたいだ。


「全く・・・・少しは再会する時っていうのを考えろっての!!」


 ヴィータをお姫様抱っこの要領で持ち上げると、ガイバーゼロはワームと対峙し、飛び込んでくるワームの攻撃を飛び上がって回避してそのまま空中へと逃亡した。


「とにかく逃げるぞ!シャマル!!」


(はいっ!聞こえています)


「ヴィータを無事に保護したから、迎えを頼む。怪我もしているから急いでな」


(分かりました!!)


 空中に飛び上がったガイバーゼロは額のコントロールメタルを介して、自宅にいるシャマルに連絡を取り、ヴィータを連れて自宅へと戻った。自宅へと戻ったガイバーゼロはすぐに殖装を解除して零に戻り、ヴィータをソファーに寝かせるとシャマルが治療魔法を掛けてヴィータの傷を癒す。


「もう、ヴィータちゃん。もう少し無茶しないように心がけないといけないわ」


「わぁ~ってるけど・・・・ごめん」


「でも何事もなくて良かったよ。何かあったりしたらはやてが心配するからな。もちろん俺もシグナム、ザフィーラもな」


 治療魔法を発動しながらシャマルがヴィータに話し掛け、零もはやても心配するし、もちろんヴォルケンリッターのメンバーも心配していると話す。その言葉にヴィータは目に少し涙を浮かべながら皆に謝罪した。


 その後、すずかの家から帰ってきたはやてはニコやかな表情であった。何でも月村邸は猫天国であったそうで、何匹もいる子猫にすっかり癒されてきたようだった。































 第十二話完成。

 そろそろ本格的に管理局との戦闘になっていかないと・・・・・オリキャラ二号とヴォルケンズ&零との戦闘をいい加減書かないと・・・・ていうかAs編で終わらせるか、いっその事ストライカーズまでいこうかな・・・・どうしようか。


 ちなみにシャマルのお母さん誤認のネタはなのはアンソロの四コマ漫画から頂きましたw


 前回のコントロールメタルについての情報ありがとうございました!感想をくれた方々には感謝していますw


~ではまた次回お会いしましょう~


 
 




 
 


 







 









[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十三話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/04/20 23:44





















 時空管理局本局のとあるエリア・・・・そこは上も下も底が見えないほどの縦上の空間に【ユーノ・スクライア】とグレアムの双子の使い魔【リーゼ・ロッテ】と【リーゼ・アリア】がそこにいた。


 ここは管理局の超巨大データベース【無限書庫】。ここにユーノがやって来た理由は、クロノからここにあるデータベースにある過去に起きた闇の書の事件や、闇の書の性質などの事について調べてほしいと言われ、グレアムの使い魔であり、クロノとグラーベの師匠であるロッテとアリアと共に無限書庫に来ていた。


「管理局の管理を受けている世界の書籍やデータなどが収められている超巨大データベース・・・・」


「幾つもの歴史が丸ごと詰まった・・・・言うなれば、世界の記憶を収めた場所・・・・」


『それがここ・・・・無限書庫』


 管理局の管理や保護を受けている世界の歴史などのデータが詰まった無限書庫の説明をするアリアとロッテ。しかしこの無限書庫は殆どが未整理のままで、本来ならチームを組んで年単位で調べないと大変だと話す。


 しかしユーノは自分の一族はそういった過去の情報や歴史などの調べ物をするのが得意であると話し、検索魔法も用意してきたと言う。アリアとロッテは自分達の仕事があるというが、時間があれば手伝いに来ると言ってくれた。















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 その頃、なのははフェイトと共に臨時作戦本部のあるハラオウン家の家に来ていた。クロノとリンディはアースラの改装が終わり、今は試験航行の為にここにはいない。そのため、必然的にエイミィが指揮代行に任命されてしまい、魔力節約の為に子犬モードになっているアルフからは「責任重大だねぇ~」と言われてしまう始末であった。


「それもまた物騒な・・・・でも、そうそう緊急事態なんて起きは・・・・」


 エイミィはいきなり緊急事態が起きるはずもないと笑いながら思っていた矢先だった。部屋中に警報音と赤いライトが光だし、各モニターにはアラートの文字が次々と出現し出した。エイミィは「嘘・・・・」と声にもならない声で呟くと、なのは、フェイトと共にすぐにモニタールームへと向かい、コンソールを叩いて現状を確認する。


「文化レベルはゼロ・・・・人の住んでいない砂漠地帯の世界・・・・・」


 映像に映し出されていたのは、シグナムとザフィーラだった。しかし結界の張れる局員が到着するまで時間が掛かり、このままだとすぐに逃げられてしまうと焦るエイミィ。だが、そこへある人物が通信を入れてきた。


『おい、闇の書のプログラムどもが現れたそうだな?』


「えっ?グラーベさん!?」


『場所は・・・・なるほど、私のいる場所からそんなに離れていないな。私が行こう』


「本当ですか!?助かります!!」


 通信を入れてきたグラーベは、すぐにシグナムとザフィーラがいる世界に向かうと告げると通信を切った。しかしその直後だった。同じ世界の別の場所に反応があり、そこにはあのガイバーゼロの姿が映し出された。


「げげっ!?もう一方には、あのアンノウンが出てきた!?」


「・・・・・なのは、アルフ」


「うん、フェイトちゃん!」


 クロノやリンディのいない状態でのガイバーゼロの出現に頭を抱えるエイミィだったが、フェイト、なのは、アルフの三人はお互いの顔を見ると同時に頷いた。


「エイミィ、このアンノウンのところには私となのはの二人で行くよ」


「えっ!?でも相手は質量兵器を扱う危険人物だよ!!もし何かあったりしたら・・・・」


「大丈夫です!戦いに行くのではなく、話をしに行くだけですから」


「もしフェイトに危害を加えようとすれば、すぐにアタシが駆けつけて叩き潰してやるよ!!」


 フェイトの提案にエイミィは心配するが、なのはとアルフは心配要らないと言わんばかりに頷いた。その表情にエイミィは仕方なく二人をガイバーゼロのいる場所へ、そしてアルフは一先ずシグナムとザフィーラのいる位置の近くに送る事にした。















________________________________















 シグナムとザフィーラ、そして零は三人で魔力蒐集に来ていた。しかし今回、ここへ三人一緒に蒐集へやって来たのか・・・・そして昼間にも関わらず何故零がここにいるのかと言うと・・・・・それは今朝方の事だった。


 いつものように朝目を覚ましたはやては、ベッドから車椅子に移動しようとした時に突然の胸の痛みを感じ、苦しみながらベッドから落ちてしまったのだ。その物音を聞きつけた零やヴォルケンズ全員がはやての部屋に向かうと、そこには胸を押さえて苦しんでいるはやての姿があった。


「!?はやて!!」


「はやてちゃん!!」


「シグナム!!早く救急車を!!」


「あっ、ああ!!」


 零はすぐにはやての元に駆け寄り、シャマルとヴィータも続く。胸をぐっと押さえて痛みに耐えるはやての様子に、零は尋常ではないと判断し、シグナムに早く救急車を呼ぶように指示を出した。その後、救急車が到着し、すぐに病院へと搬送された。


 病院についた後、石田のおかげではやては大丈夫だと皆に告げるとシャマルも零も安心したのか「ハァ~」と息を吐く。


「もう大丈夫なのか?はやて・・・・」


「零兄ぃも皆も大袈裟や。ちょう目眩がして胸が攣っただけって言うたやん・・・・・」


「ですが、何かあっては大変ですから・・・・」


 はやては笑った顔で「大袈裟や」と言うが、零もシグナムも、はやてのあの状態からただ攣っただけとは考えられなかった。その後、零は石田に連れられ廊下へと出ると、石田が零に問い掛けてきた。


「一応検査も兼ねてやってみるけど、攣っただけ・・・・と言うわけではなかったのよね?」


「はい。あの痛がりようは尋常ではありませんでしたし・・・・・」


「もしかしたら、麻痺が広がり始めているかもしれないわ。今までこんな兆候はなかったのよね?」


「今回が初めての筈です。殆ど一緒にいましたから」


 石田は零の話を聞き、今後、今朝のような発作がまた再発する可能性があるということで、はやてを入院させるべきだと話し、零も用心に越した事はないと思い、はやてを入院させる事にした。その後、シグナムとシャマルにも事情を話し、再びはやての元に戻った。


「ええっ?入院!?」


「ええ・・・・でも!検査とか念のためといったものですから、心配ないですよ!」


「でも私が入院してたら、誰が皆のご飯を作るんや?」


「おいおい、ここにいるだろ?はやてから色々教えてもらった奴がさ!」


 自分が入院すると聞かされたはやては不安そうな顔になるが、零ははやてに「家事の事やシグナム達の事は俺に任せてくれ」と言って、はやての頭を優しく撫でながら励ます。


「まあ零兄ぃがいてくれるんやから心配あらへんか・・・・ほんなら、三食昼寝付きの休暇を取らせてもらうわ」


「ああ、ゆっくり休んでくれ・・・・あとでシャマルかヴィータに着替えと退屈しのぎに本なんかを持たせて行かせるから」


 はやてのいる病室から出た四人は病院を後にした・・・・しかし皆の表情は暗かった。それもその筈、はやてが倒れるほどの痛みを襲った理由・・・・それは闇の書の呪いが徐々に進み始めているということを意味していたからだった。



 時を戻し砂漠地帯。シグナムとザフィーラ、そしてガイバーゼロに殖装した零はそれぞれ別行動で魔力の蒐集に出かけた。そんな中、シグナムは持てるだけのカートリッジを持って次々と魔力を蒐集していた。そして息を切らしながらも、目標の生物を倒し、魔力を蒐集した。


「ふう、ここの原生生物は中々手強いモノばかりだな・・・・だが!諦めん!!主はやてを救う為に!!」


 シグナムは手にしたレヴァンティンにカートリッジを装填し、次の標的を探そうと移動しようとした時だった。突然上空から赤い炎のようなモノが無数に降ってきたのだ。シグナムはすぐに回避運動に入って直撃を避け、攻撃のあった方を見上げると、そこには長杖を持った赤いバリアジャケットを身に纏ったグラーベが立っていた。


「くっ!?何者だ!?管理局の者か!!」


「残念だが、私は管理局ではない・・・・だが、貴様らプログラム風情に恨みを持った者だ!!」


 レヴァンティンを構えるシグナムに、グラーベは杖を構えて再び攻撃を開始した。グラーベは足下に赤いミッド式魔法陣を展開させると、燃え上がる炎が幾つも出現し、杖を振るうと火球がシグナムに向かって飛んでいった。


「喰らえ!!フレイム・ダスト!!」


「ハァァァッ!!」


 グラーベの放った魔法は、まるでフェイトのプラズマランサーのように飛んでいき、シグナムはカートリッジを一発使用し、レヴァンティンに炎を纏わせて飛んでくる火球を弾き返した。その動きにグラーベは特に驚いた様子もなく、再び魔法を発動させる。


 今度の魔法は槍のような形状をした炎がシグナムに放たれ、シグナムは真横に移動して回避する。その様子にグラーベは射撃では駄目だと感じ、地上に降りてきた。その様子にシグナムはレヴァンティンを構えて警戒する。


「やはりベルカ式の相手にはミッド式の遠距離攻撃では命中効率が悪いな・・・・ならば、提督が追加した機能を使うとするか」


 グラーベは小さく呟き、杖を構えるとグラーベの持つデバイスのコアが光だし、デバイスの先端が左右に展開、杖の柄の部分が少し短くなると、先端にまるで大剣のような刃が出現した。


「なっ!?杖が剣に変わった!?」


「なるほど・・・・これが提督の言っていた新機能か・・・・」


 グラーベのデバイスが杖から大剣に変形した事にシグナムは若干驚いていた。グラーベの手にしていた大剣はシグナムの手にしているレヴァンティンのように魔力刃などのモノではなく、実刀のようなモノだったのだ。


 グラーベは両手で大剣へと変形したデバイスを振り回しながら使い勝手を確認し、シグナムの方を向くと地面を蹴ってシグナムに挑みかかっていった。















_________________________________















 シグナムがグラーベと遭遇して戦闘を開始した頃、別の場所で魔力蒐集対象を探していたガイバーゼロは空中に浮かんでいた。しかしいくらヘッドセンサーを駆使しても、近くに高い魔力生物がいるような反応は出ないでいた。


「くそっ、こっちには目ぼしい生物の反応が見つからない・・・・こっちは時間がないのに・・・・」


 ガイバーゼロはヘッドセンサーに反応するのは魔力を持っていても小さいモノばかりだった。はやてが危険な状態に近づきつつある事で、時間がないことに焦りを見せるガイバーゼロだったが、暫くするとセンサーに二つの魔力反応を感知した。しかしその反応は徐々にガイバーゼロの方に接近してきた。


「これは・・・・こっちに来る!?」


 接近してくる存在にガイバーゼロはこちらに向かってくる方角を見ていると、その方角から二人の黒と白の対照的な服を着た少女が接近してきた。


「!?あの子らは・・・・管理局の!!」


「待ってください!こちらには戦う気はありません!!」


 こちらに接近してきたのはフェイトとなのはだった。ガイバーゼロは二人の魔導師に向けて警戒するように構えるが、よく見るとなのはもフェイトもバリアジャケットを纏ってはいるが、デバイスを持っていない。ガイバーゼロは二人の意図が読めずに動きを止める。


「・・・・戦う気はないって、どういうことだ?」


「話を・・・・話を聞かせて欲しいんです」


 フェイトの一言になのはも同様のように頷く。その証拠として二人の魔導師は、デバイスを構えるどころか展開しないところを見ると、全く攻撃する気はないみたいで、本当に話をしたいようだった。


「話?・・・・一体何を話すと言うんだ?」


「あなたが闇の書の守護騎士達・・・・シグナムと一緒に行動する理由・・・・」


「ヴィータちゃんのやっている闇の書の完成に、どうして荷担しているかと言う事を・・・・」


 フェイトとなのはの二人は優しくガイバーゼロに問い掛けるが、ガイバーゼロの方はやはり何かあるのだろうと思いつつ警戒を緩めないでいた。なのはとフェイトは何故破壊しか生まない闇の書を完成させようとしているのか・・・・そして何故その行為に加担するのか・・・・・それを知りたかった。


「・・・・・ならこっちも聞きたい。君達のような子供が何故こんな危ない事をしている?一歩間違えたら大怪我をするかもしれないのに・・・・」


 ガイバーゼロは質問してくるなのはとフェイトの二人に、何故子供である二人が危ない事をやっているのかを逆に問い掛けると、なのはは「自分の力で誰かを救う事が出来るかも・・・」と言い、フェイトは「自分を救ってくれた人に恩返しする為」と答えた。


「・・・・もし、あなたやシグナム達が闇の書の完成を望んでいるのなら、私達は管理局として・・・・犯罪に加担しているあなたを止めないといけません」


「だから、教えてほしいんです。闇の書を完成させる目的を!!」


 フェイトとなのはの言葉を、ガイバーゼロは黙って聞いていた。もしここでガイバーゼロの説得が出来れば、闇の書の完成を目指す理由、そして闇の書の所有者である主のいる場所も判明できると、二人はそう考えていた。


「・・・・・闇の書の完成の目的を知ってどうするつもりだ?例え教えたとしても、こちらとしては辞めるつもりはない!」


「でも、もしかしたら私達でも何か出来ることがあるかもしれない。だから教えてください!!」


 あくまで闇の書の目的を話さないつもりでいるガイバーゼロに、なのはは諦めずにガイバーゼロに理由を問い掛ける。そんななのはの姿にガイバーゼロは暫く間を置くと、口を開いた。


「・・・・・・・例え話になるが、君たちの身近の大事な人が命に関わるほどの事が起きて、その人を救うためには、分かっていても犯罪に手を染めることでしか救う手段がなかったら・・・・どうする?」


 突然のガイバーゼロの例え話になのはとフェイトはビクッと反応する。犯罪だと分かっていても、身内や友人を救うにはそれしかないという道しかなかったら・・・・他の方法が無かったら・・・・・と。


「それが「犯罪だから」という理由で邪魔をされ、その人の大事な人が死んでしまったら・・・・邪魔をした側はどう責任をとる?」


 ガイバーゼロの問いかけに、なのはとフェイトは黙り込んでしまった。管理局といえど、犯罪者を野放しにはしておけない。しかし犯罪者の中には、人質などの理由でやむをえず犯罪に走る者もいる・・・・このことから“犯罪を犯した者は全て悪い”という位置づけにする訳にはいかなかった。


「それでも・・・・訳を話してくれれば、管理局は全面的に協力します。だから!!」


 フェイトは必死に説得をしようと叫んだときだった。ガイバーゼロのコントロールメタルが光だし、零の頭の中にザフィーラの声が聞こえた。


(ゼロ!聞こえるか!?)


(ん?ザフィーラ、どうしたの!?)


(不味い事になった。シグナムが管理局の者らしき男に苦戦しているらしい。こちらも救援に行きたいが、守護獣の使い魔に邪魔されて動けそうにない。援護を頼めるか?)


(こっちも、あの白と黒の魔導師の女の子と対峙中だけど・・・・何とか振り切る!だからザフィーラも気をつけるんだぞ)


(心得た!!)


 念話を送ってきたザフィーラの話を聞いたガイバーゼロは、再びなのはとフェイトに顔を向けた。


「・・・・そこまで言うなら君たち管理局の人でも出来ることがある・・・・・」


 ガイバーゼロの言葉に、二人は素直に理由を話してくれるかと思った。しかしガイバーゼロはそんな二人に向かってヘッドビームを発射し、警告とも言える行動に出た。もちろん当てる気はなく、わざと外すようにして発射した。


「なっ!?」


「君たちに出来ること・・・・それは俺たちの邪魔をしないことだ!!」


 ガイバーゼロの警告的な意味を持つ攻撃をかわしたなのはとフェイトの横をガイバーゼロは通り過ぎ、そのままシグナムのいる方角に飛び去っていった。そんなガイバーゼロの攻撃に二人は少し残念そうな顔をするが、そのまま逃がすわけにも行かず、なのははレイジングハートをシューティングモードにしてガイバーゼロに向けて構えた。


「なのは?」


「フェイトちゃん、こんなやり方は不味いと思うけど、私の砲撃であの人を止めるから、フェイトちゃんはあの人を足止めして・・・・」


 レイジングハートを構えたなのはに、フェイトはガイバーゼロとの話し合いは無理と考え、なのはの提案を聞き入れた。フェイトはバルディッシュを呼び出し、得意の高速移動でガイバーゼロの傍まで追いつくと、バルディッシュを振りかぶってガイバーゼロを止めようとする。


「くっ!」


 迫り来るバルディッシュの斬撃を体をひねらせて回避したガイバーゼロは、小さく呟くと、両腕の高周波ソードの周波数を落として展開させる。フェイトはバルディッシュをアックスフォームからハーケンフォームに変形させて攻撃を仕掛け、ガイバーゼロは高周波ソードで迎え撃つ。

 多少強引であったが、フェイトと距離を取りながらヘッドビームを連射してフェイトの動きを止め、その隙に接近して蹴りを繰り出した。ガイバーゼロの蹴りを受けたフェイトだったが、ギリギリのところでバリア系の防御魔法を展開させて防ぎきっていた。


「よし!今の内に・・・・!?」


 フェイトを蹴り飛ばしたガイバーゼロは再び移動しようと思ったその時だった。頭のヘッドセンサーが何かの反応を感知し、ガイバーゼロはその反応のある方向を見る。するとそこにはレイジングハートを構えたなのはが、長距離砲撃魔法を発動させようとしていた。


「砲撃か?だが、この距離なら・・・・って何!?」


 なのはのいる位置は、ガイバーゼロのいる位置より距離があり、例え砲撃が来ようとすぐに回避運動をとれば簡単に回避できると思ったガイバーゼロだったが、突然両手両足が何かに捕まれてしまったように身動きが取れなくなった。


「こっ、これは!?」


 ガイバーゼロを拘束したモノ・・・・・それはフェイトの発動させた【ライトニングバインド】だった。なんとフェイトはガイバーゼロに蹴り飛ばされた後、なのはから砲撃の準備が出来たと念話を受け、ガイバーゼロに向けてバインドを発動させていたのだ。


「全力全開・・・・・ディバイィィィン、バスタァァァァァ!!」


 なのはの放ったディバインバスターがガイバーゼロに迫る。しかし身動きが取れないガイバーゼロには回避する手立てがなく、フェイトも例え前回の砲撃をガイバーゼロが放とうとしても、砲撃を撃つ為に必要な両手を封じてしまえば、直撃は免れないと考えていた。


「両手を防げば、胸の装甲を剥がす事はできない筈!!」


「・・・・・それはどうかな?」


 なのはの砲撃が直撃すれば、非殺傷でも気を失うほどの精神ダメージが来る為、ガイバーゼロを確保できるとフェイトは考えた。しかしガイバーゼロは両手が塞がれているにも関わらず、チャージを始めた。


(開け!スマッシャー!!)


 ガイバーゼロが額のコントロールメタルに念じるように意識を向けると、左胸の装甲が自動的に開放された。それを見たフェイトは「装甲が!?」と驚きの声を上げると同時にガイバーゼロの左胸側のメガスマッシャーが発射された。

 
 発射されたメガスマッシャーとなのはのディバインバスターがお互いにぶつかり合うと、爆発を起こして相殺されてしまった。


「相殺された!?」


(なのは、危ない!!)


 自分の長距離砲撃を相殺されたことに驚くなのはに追い討ちを掛けるようにフェイトの念話が届くと同時に、今度は右胸の装甲を展開したガイバーゼロが再びメガスマッシャーをなのはに向け発射した。なのはは当然回避に成功するが、スマッシャーの光にフェイトが動けない状態になっている隙にガイバーゼロは無理矢理バインドを外してその場から逃げ出してしまい、結局逃亡を許してしまった。















_________________________________















 シグナムがグラーベと戦っている頃、状況はシグナムが不利の状態になってしまっていた。あの烈火の将であるシグナムが苦戦する程のイレギュラーが起きていた。グラーベの大剣をレヴァンティンで防御しながら反撃するが、大剣を振り回しながら魔法を放ってくるグラーベにシグナムは押され始めていたのだ。その戦いはまるで自分と互角に戦っていたフェイト並のものだった。


「しまった!?」


「貰ったぁ!!」


「やらせないっ!!」


 グラーベが振るった大剣でレヴァンティンを弾かれてしまい、シグナムが無防備になってしまった所に攻撃を浴びせようとした瞬間、シグナムの前にガイバーゼロが割って入り、高周波ソードでグラーベの大剣の刃の部分を真っ二つにしてしまった。


「ゼロ!?来てくれたのか?」


「大丈夫か?シグナム!」


「ほう・・・・まさか貴様まで来るとは・・・・」


 救援に来てくれたガイバーゼロにシグナムはお礼を言うと、グラーベは特に驚きもせずにガイバーゼロの高周波ソードで真っ二つに折れてしまったデバイスを放り投げてしまった。魔導師にとってデバイスは魔法を使う為の大事な物・・・・それを捨てたグラーベの意図をガイバーゼロもシグナムも分からないでいた。


「どういうことだ?何故武器を捨てる?」


「今の私にとって、このような玩具は必要ないのだよ・・・・なにせ・・・・」


 ガイバーゼロの言葉に答えるグラーベは、両手を広げて深呼吸をしだした。


「?」


「なにせ私も、貴様と同じ・・・・【アムド】!!!」


 グラーベの口から【アムド】という言葉が発せられた瞬間、信じられない事が起きた。突如グラーベの背後に光が発生し、見覚えのある形をした人型の物体が現われ、バラバラになったかと思いきや、グラーベの体を取り込んでしまったのだ。


 光が収まり、グラーベの姿を見たガイバーゼロとシグナムの表情は驚きの顔になった。


「私も貴様と同じ・・・・鎧を纏った者だからだ!!」


 ガイバーゼロとシグナムの前に立っていたグラーベは、零のガイバーゼロと同じ強殖装甲を纏った紅いガイバーへと変貌していた・・・・・・・































 第十三話完成!

さぁ~遂に出現したオリキャラ二号の○○○ー。そしてなのはのディバインバスターVSメガスマッシャーとの直接対決!


 ちなみにグラーベの使用しているデバイスは、デュランダルをモデルにして、色が赤色と金色の・・・まあ言うなれば映画アイ○ンマンのパワードスーツみたいな感じの色・・・・そして大剣形態の時のモデルは、スパロボOGに出てきたスレー○ゲル○ルの斬○刀です。


 これからも色々ツッコミ所満載かと思いますが、温かい目で見ていてください。ではまた次回~(ちなみにグラーベの殖装時の台詞はアームドを短くしたものですが、本当は某格闘ゲーのラジオで出た台詞を参考にしましたw)


そういえば、メガスマッシャーで結界を破壊した場面でニュースうんぬんの話で思ったのですが、原作の闇の所のページを使って結界を破壊した際は、結界の外から落としたから、普通の人にも認識できていたのでは?

 あとなのはがヴィータの結界をスターライトで撃ち貫いた光は他の人にも見えちゃっていたのでは?と思ったのですが、真相はどうなんだろう?










[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十四話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/04/24 20:31















 管理局の協力者としてリンディ達アースラチームと行動を共にするグラーベ・アースレイド。彼は自身のデバイスの新機能を使って対峙していたシグナムと互角に戦い、シグナムに強力な一撃を与えようとしていた。


 しかしそこへザフィーラから念話でシグナムが苦戦していると聞かされたガイバーゼロが救援に駆けつけ、グラーベのデバイスの刃部分を高周波ソードで切り裂いた。


 魔導師としてデバイスを破壊されるのはとても致命的で、グラーベにとって完全に不利な状況になってしまった。


「ヤバイよ!!いくらグラーベさんでもデバイスのない状態で、しかも二人掛かりで攻撃されたらひとたまりもないよ!!」


 その映像を見ていたエイミィは別の場所にいるなのはとフェイトに連絡を取り、グラーベの援護をお願いしようとした時だった。急に現場を映していた映像が砂嵐のようになってしまい、現場の状況が分からない状態になってしまった。


「あれっ!?何で急に!?なのはちゃん!フェイトちゃん!!聞こえる!?」


 映像が完全に見えなくなってしまい、エイミィは必死になのはとフェイトに連絡を取ろうと必死に呼びかけるか、何かのジャミングがしらの効果で状況が見えなくなってしまった。














______________________________















 ガイバーゼロの参戦に、シグナムは協力して戦えばグラーべを倒せると思っていた時だった。突然グラーベの【アムド】という叫び声に呼応するかのように、背後にあるモノが出現した。それは零の纏っている強殖装甲と同じであったが、紅い・・・いや、まるで血を思わせるかのような真紅の色をした強殖装甲だった。


「なっ!?ガイバーがもう一人だと?!」


「ほう。これはガイバーと呼ばれるものなのか・・・・ならば、この血のような色に例えて【ガイバーブラッド】と名乗らせてもらおう」


 シグナムの一言に敵ガイバーは自身の姿に名前があったことになるほどと言う感じで右手の拳を握ったり開いたりし、自身を血塗られたガイバー【ガイバーブラッド】と名乗りだした。しかしガイバーゼロは強殖装甲で表情は確認できないが、零の表情は驚きの顔をしていた。


「どっ、どういうことだ・・・・・アンタ、それを何処で手に入れたんだ!?」


「何処でだと?これから消える奴に言う必要はない・・・・」


 ガイバーゼロはもう一人のガイバー、ガイバーブラッドに何処で強殖装甲を手に入れたのか問い掛けるが、ガイバーブラッドはその問いに答えようとしない。


(シグナム・・・・こいつは俺が足止めするから、ザフィーラと合流してしてくれ!)


(何?どういうことだ?)


(コイツは本気でシグナムを倒そうとする筈・・・・もしそうなったらこっちが危ない!!)


(何を言う!?我らベルカの騎士は敵に後ろを見せて逃げるようなマネはしない!!それに逃げる事自体、騎士にとって屈辱的なモノだ!!)


(馬鹿!!アレはそんなヤワなモノじゃない!魔法とかと違ってあれは・・・・)


 この状況でガイバーゼロはシグナムに念話で一旦引くように話すが、シグナムは「敵に背を向けるのは騎士の恥だ!」と言って聞こうとしない。しかし自身が強殖装甲を纏っている零には、ガイバーブラッドがどれほどの脅威なのか理解していた。


「ではまず、そこにいるプログラム風情の騎士からだ・・・・」


「はっ!?」


 ガイバーブラッドはシグナムの方に顔を向けると、額のコントロールメタルの上に設置されているヘッドビーマーが赤く光りだした。ガイバーゼロはガイバーブラッドが何をしようとしているのかを瞬時に理解し、シグナムの盾になるように前に出た。


「ゼロ!!」


 ガイバーブラッドがヘッドビームをシグナム目掛けて発射し、赤い光線がシグナムに迫るが、咄嗟に前に出てきたガイバーゼロのおかげでシグナムには直撃しなかったが、ガイバーゼロの左胸に直撃し、小さな焦げ目ができた。


 ガイバーゼロの体に出来た焦げ目はすぐに強殖細胞で修復されたが、直撃時の痛みは緩和されず、零は左胸の痛みに耐えていた。しかしガイバーブラッドの発射したヘッドビームは、人でいうと心臓の辺りを狙っていた・・・・もしシグナムに直撃していたら、重傷を負うものだった。


「くっ、あくまでシグナムを襲おうとするのなら・・・・俺が相手だ!!」


「邪魔をするなら容赦しない!!」


 ガイバーゼロはシグナムを襲おうとするガイバーブラッドに飛びついて動きを止め、シグナムに「早くザフィーラと合流しろ!」と叫んでガイバーブラッドをシグナムから引き離す。


 そんな姿を見たシグナムは加勢しようと思ったが、ガイバーブラッドの姿を見た零の様子から、能力までガイバーゼロと同等なのかと疑問に思い、シグナムの脳裏に今までのガイバーゼロの見せていた戦闘能力を、あの紅いガイバーも持っているのかと感じた。故にシグナムは仕方なくザフィーラのいる場所へと飛んでいった。



 だが、この時、ガイバーゼロの額のコントロールメタルがある場所にいる仲間に連絡を取っていた事をシグナムは気づいていなかった。















________________________________















 ガイバーゼロがシグナムを逃がしていた頃、別の場所ではザフィーラとアルフが戦闘を行っていた。お互い同じ使い魔であり守護獣であるザフィーラとアルフ、この二人の能力はほぼ同等なだけに攻防一戦の状況となっていた。


「アンタも使い魔・・・・守護獣ならさ!ご主人様の間違いを正そうとしなくても良いのかい!!?」


「闇の書の蒐集は我らの意志!我らの主は・・・・・我らの蒐集については何もご存知ない!!」


 息を切らしながらもザフィーラに問い掛けるアルフ。しかしザフィーラが口にした言葉に耳を疑った。ザフィーラ達守護騎士たちは、主の命令で行動しているわけでもなければ強制されているわけではなく、自分達の意志で闇の書のページを増やしているのだということに・・・・・・


「何だって!?そりゃ一体・・・・」


「主の為なら血に染まる事も厭わず・・・・我と同じ守護の獣よ、お前もまたそうではないのか?」


 アルフは何故自分達の意志でページを増やそうとしているのか問い掛けるが、ザフィーラは拳を力一杯握って構える。主であるはやての下した唯一の命令・・・・「はやてが闇の書のマスターである限り、闇の書のことは忘れ、ヴォルケンリッターの仕事は、皆で幸せに暮らすこと」・・・・・


 この命令にザフィーラはおろかシグナム達も従うつもりだった。しかし闇の書の呪いの進行によってはやての命が危ないことを知った守護騎士たちは、はやてが闇の書の真の主になれば呪いは消え、また幸せに暮らせると思い、命令に背いてまで闇の書のページを増やす事にした・・・・・増やざるを得なかった。


 ザフィーラの問いにはアルフも分かっていた。自分もフェイトの使い魔であり、主を守護する為の存在・・・・・もしフェイトに何かあれば、アルフ自身も何が何でもフェイトを守ろうとするだろう。例え血に染まる事になろうと・・・・・


 だが、ただの“破壊”しか生み出さないという闇の書を、そこまでして完成させる理由がアルフには分からないでいた。


(ザフィーラ!聞こえてるか!?)


(むっ?ゼロか?どうした?)


(こっちで問題が起きた!今そっちにシグナムを行かせたから、ザフィーラは合流して転送の準備をしておいてくれ。俺もすぐに行くから!!)


(心得た!)


 ザフィーラに念話を送ってきたのはガイバーゼロだった。ガイバーゼロは突如として現われたもう一人のガイバー、ガイバーブラッドを足止めしつつ、シグナムを向かわせた事を伝えると念話を切った。


「どうやらここまでのようだ・・・・・」


「ちょっと待っとくれよ!!あんた達に協力している奴は、一体何者なんだい!?」


「・・・・・・彼の者は、我らの友だ!」


「えっ!?」


 急いでシグナムと合流しようとするザフィーラにアルフはガイバーゼロが何者であるのかを聞こうと叫ぶと、ザフィーラはガイバーゼロの事を“友”と呼び、魔法を発動させてアルフの前に白い突起物をいくつも出現させて視界を封じ、そこから姿を消した。


「友だって?・・・・どういうことなのさ・・・・」


 アルフは逃亡してしまったザフィーラの最後の言葉に唖然としながら空中を漂っていた。














____________________________
















 シグナムを逃がした後、ガイバーゼロとガイバーブラッドは激しい戦闘を繰り広げていた。しかし、ガイバーゼロとガイバーブラッド・・・・・この二人のガイバーは同じ強殖装甲を纏っているのにも関わらず、ガイバーブラッドの方がガイバーゼロを押していた。


 強殖装甲=つまりガイバーの能力は、その装着者の能力に反映される。もし装着者が特別な戦闘訓練を積んでいれば、それがガイバーの能力となり、個々の戦闘力が大きく変わる。


 ということは、ガイバーゼロを押しているガイバーブラッドは特別な訓練を積んでいた者ということになる。実はグラーベは、義兄であるクライドが死んでしまった後、闇の書との戦いに備える為にグレアムの使い魔であるリッテとアリアに魔法と格闘の両方を鍛える為に訓練を重ねていた。


 それによってグラーベの格闘能力は強殖装甲のおかげでガイバーゼロを上回ってしまっていた。


「ハァァァァッ!!」


「くっ!」


 ガイバーブラッドは腕の高周波ソードを展開させてガイバーゼロに振り下ろされるが、ガイバーゼロは動きを見ながら回避していると、砂漠に置かれていた大岩に高周波ソードが当たり、大岩は真っ二つに切断され、断面部分は鏡のように光を帯びていた。


「これは・・・・・こんな大岩をいとも簡単に切る事が出来るとは・・・・」


 自身の高周波ソードの切断力を見たガイバーブラッドは驚きを隠せずに嬉しそうな声を上げ、再びガイバーゼロに斬りかかる。ガイバーゼロは、自身も高周波ソードを展開させ、再び振り下ろされるガイバーブラッドの高周波ソードを防御する。


 高周波同士がぶつかり合うということは、どちらも切断されると思われたが、ガイバーゼロはガイバーブラッドの高周波ソードと同じ周波数で振動させていたので、切断されることはなかった。


「くっ!?何故斬れない!?」


「でりゃぁぁっ!!」


 大岩をいとも簡単に斬れた筈の高周波ソードを受け止められたことに驚いているガイバーブラッドにガイバーゼロは高周波ソードを弾き返して距離を取りながらヘッドビームで反撃する。


 ガイバーブラッドはヘッドビームによる攻撃をいくつか受けたが、ヘッドビームはガイバーの武装の中でも連射が効く反面、威力は余り高くない為、強殖装甲に少し焦げ目が出来る程度だった。


 それでもガイバーブラッドは負けじとヘッドビームで反撃するが、ガイバーゼロはヘッドセンサーを駆使して攻撃を回避しながら、砂漠の砂を蹴り上げて砂煙を起こしてガイバーブラッドの視界を奪った。


「ちっ!何処にいった!?」


(おかしい・・・・ガイバーのヘッドセンサーでなら簡単にこちらの位置を把握できる筈なのに攻撃してこない。・・・・・もしかして、あいつはまだガイバーの機能を十分に扱う事が出来ないでいるのか?)


 砂煙の中、ガイバーゼロは周囲を見渡してキョロキョロしているガイバーブラッドの様子を見て、まだ完全にガイバーの能力を生かしきれていないと思い、まだ勝機はあると感じた。














__________________________________















 ガイバー同士の激しい戦闘している頃、シグナムはザフィーラのいる場所へと移動していた。だが自分を逃がしてくれた零のことが気になってしまい、時折自分が跳んできた方向に目をやりながら飛行していた。


 そして暫く飛行していると、地上でザフィーラがベルカ式の転移魔法陣を敷いて待っていた。


「ザフィーラ!」


「シグナムか。零はどうした?一緒じゃないのか?」


「何、どういうことだ?それに何故転移魔法陣を敷いているんだ?」


「何故だと?俺は零から連絡を受けて、ここでシグナムと一緒に来るものだと思っていたんだが・・・・・」


 ザフィーラの言葉を聞いてシグナムは「ハッ」となった。まさか零は自分を囮にして自分達を逃がそうとしていたのではないかと・・・・・そう思ったシグナムはレヴァンティンにカートリッジを急いで装填すると、零のいる場所へと引き返えそうとした。


「おいシグナム!!何処に行く!?」


「零を連れ戻してくる!お前も来てくれ!!」


 ザフィーラの止める声も聞かず、シグナムは再び空に向かって飛び出していってしまい、ザフィーラも急いでシグナムの後を追いかけた。
















__________________________________
















 シグナムとザフィーラが合流していた頃、ガイバーゼロとガイバーブラッドの戦闘を少し離れた場所には、先の戦いでクロノを蹴り飛ばし、シャマルに闇の書のページを使用させようとしていた仮面の男がいた。


 仮面の男は似て異なる二人のガイバー同士の戦闘に身動きが取れないでいた。それもその筈、ガイバーゼロとガイバーブラッドとの戦闘は、既に魔導師同士の戦闘ではなく、度を越えた激しい戦闘を繰り返しており、入り込む隙が全くないのだ。


「これは・・・・情報にあった通り、魔力が全く感じられない・・・・しかし、まさかグラーベがあのアンノウンと同じモノを持っていたとは・・・・」


 ガイバーブラッドの姿を見ながら仮面の男が小さく呟いた。その時、仮面の男の視界に何かが接近してくる者の存在を見つけた。


「あれは・・・・・闇の書の騎士か・・・・」


 ガイバーゼロとガイバーブラッドとの戦闘中、紫色の閃光が徐々に二人の元へと接近していた。その正体はレヴァンティンを構えたシグナムだった。シグナムは零の姿を確認すると、カートリッジを一発使用してレヴァンティンを振り上げた。


「紫電っ!一閃っ!!」


「何!?」


 シグナムの繰り出した紫電一閃はガイバーゼロがガイバーブラッドから距離を取った瞬間を狙って放たれ、ガイバーブラッドはガイバーゼロに集中していた為か、すぐ頭上にいたシグナムの存在に気づかず、レヴァンティンの斬撃はガイバーブラッドに確実に当たるかと思われた・・・・・


「!?」


「この距離でかわしただとっ!?」


 しかし結果は違った・・・・なんとガイバーブラッドは寸前のところで後ろに下がり、シグナムのレヴァンティンによる斬撃を紙一重のところで回避したのだ。その様子を見ていたガイバーゼロは、すぐに回避できた理由に心当たりがあった。恐らくガイバーの額にあるコントロールメタルが、ヘッドセンサーを介して緊急回避プログラムを殖装者の脳に送り込んだ為であった。


 それにより、グラーベは無意識の内に体を動かされ、シグナムの紫電一閃による斬撃を回避することが出来たのだ。自分の攻撃が確実に当たると思っていた一撃を回避された事に、シグナムは一瞬の隙を生んでしまった。


 ガイバーブラッドのコントロールメタルは、自分を攻撃してきた存在が危険人物だと認識し、右腕の高周波ソードをシグナムに向け振り下ろされた。シグナムは咄嗟にレヴァンティンの鞘を出現させて盾代わりにして防御しようとしたが、高周波ソードの前には鞘などただの紙切れ同然・・・・一瞬にして真っ二つに切られてしまった。


「何っ!?」


「危ない!シグナムッ!!」


 鞘を切られたことに驚くシグナムに追い討ちを掛けるように、ガイバーブラッドは今度は左腕の高周波ソードを下から振り上げてきた。高周波で振動する刃がシグナムに迫ろうとした瞬間、ガイバーゼロが声を上げて左手でシグナムを突き飛ばした。


 しかしガイバーブラッドの高周波ソードから逃れたシグナムだったが、ガイバーゼロの左腕は、ガイバーブラッドの高周波ソードによって肘から下を切断されてしまった。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


「零ッ!!!」


 肘から下を切り落とされたガイバーゼロの左腕から大量の血が噴きだした。その姿にシグナムはガイバーゼロの事を零と叫んでしまった。ガイバーゼロの切り落とされた左腕は砂漠に「ボトッ」と落ち、ガイバーゼロは痛みに耐えながら傷口を右手で押さえた。


「でりゃぁぁぁぁぁっ!!!」


 その様子にガイバーブラッドは再び攻撃を仕掛けようと高周波ソードを構えようとしたが、そこへシグナムを追って来たザフィーラが、ガイバーブラッドに向けて強烈な蹴りをお見舞いし、蹴り飛ばした。


「はっ!?ゼロッ!大丈夫か!?」


「大丈夫・・・・それより早く逃げよう!!」


 ザフィーラはガイバーゼロの姿を見て驚くが、ガイバーブラッドが起き上がろうとしているのに気づいたガイバーゼロは、腹部のグラビティコントローラーを光らせ、右手をガイバーブラッドの足下に向けてると、ガイバーの武装の一つである【プレッシャー・カノン】を生み出して連続で発射した。


「今だ!ザフィーラ!!行き場所は何処でも良いから、転送魔法を!!」


「わっ、分かった!!」


 ガイバーゼロの放ったプレッシャー・カノンはガイバーブラッドの足下に命中すると、砂煙が巻き起こり、ガイバーブラッドの視界を奪う。その隙にガイバーゼロはプレッシャー・カノンを放った後、自分の切り落とされた腕を拾い上げてザフィーラに転送魔法を発動させるように叫ぶと、ザフィーラは先程まで発動させていた転送魔法を展開させて、シグナムと共にその場から逃げ出した。


「・・・・・はっ!?俺は一体どうなった?奴らは何処へ行った!?」


 砂煙が風で晴れた後、ガイバーブラッドは、まるで今までの行動が無意識の行動であったかのような様子で、周囲を見渡していた。しかし既にシグナムとザフィーラ、そしてガイバーゼロの姿はなかった。
















____________________________________

















 とある世界の森の中・・・・白いベルカ式の転送魔法陣が突然出現し、そこからシグナム、ザフィーラ、ガイバーゼロの三人が姿を現した。しかしガイバーゼロは大量の血液を流してしまっていたためか、その場に倒れこんでしまった。


「ゼロ!!しっかりしろ!!」


「ハァハァ・・・・・大丈夫、すぐに治すから・・・・」


「大丈夫だと!?このままでは出血多量で・・・・」


 倒れたガイバーゼロにシグナムとザフィーラはお互いに手を貸すが、ガイバーゼロは切り落とされた自分の腕の傷口と、腕の傷口に合わせるように持っていくと、そこから信じられない事が起きた。


 なんと装甲以外の部分に巻き付いた触手のようなモノが伸び、切り落とされた左腕からも触手が伸びだし、お互いに絡み合うと腕がくっ付き、傷口から若干漏れ出した血液は触手の中へと吸い込まれていった。


「ふう・・・・これで・・・なんとかなるかな・・・・」


「本当に大丈夫なのか?」


「ああ、まだ神経の再生が出来ていないから動かせないけど、大丈夫・・・・それよりシグナム・・・・・」


 まだ神経が完全ではない左腕だったが、暫くすれば元通りになると言って、ガイバーゼロは息を整えつつ立ち上がると、シグナムの方を見る。そしてシグナムに近づくと、「パチンッ」とシグナムの頬を右手で平手打ちをした。もちろん手加減アリで・・・・


「ゼロ・・・・?」


「シグナム、何であんな無茶をしたんだ!?俺がもう一歩遅かったらシグナムは死んでいたかもしれなかったんだぞ!!」


 シグナムは唖然としたまま叩かれた頬を押さえながらガイバーゼロの顔を見ると、ガイバーゼロは何故あの時乱入してきたのかを問い詰める。もちろんシグナムは「自分を囮に・・・・」と反論しようとしたが、ガイバーゼロが自分を逃がそうとしたのは、ガイバーブラッドの能力を知っていたからこそだったと気づき、自分はその忠告を無視し、無茶を覚悟でガイバーブラッドに向けて紫電一閃を放った。


 だが結果としては、シグナムの攻撃はガイバーブラッドを仕留める事ができず、そればかりか自分が仕留めそこなった事により、零の腕を切り落とされてしまうという結果を招いてしまった。


「すまなかった・・・・私の責任だ・・・・」


「だが、シグナムはお前の事が心配で戻ったのだ。その事だけは事実だ」


「・・・・まあ、シグナムに何事もなくて良かったよ。それより今日の蒐集はここまでにしよう・・・・もし管理局やアイツが追ってきたら大変だし・・・・」


 謝るシグナムにザフィーラはフォローを入れてやり、ガイバーゼロは今日のところは帰ろうと言って三人は自宅へと戻った。自宅に戻った頃にはガイバーゼロの左腕の神経も修復され、元通りになった。この時点で闇の書のページは600ページを越え、完成までもうすぐとなっていた。
















_________________________________

















 ガイバーゼロとシグナム、ザフィーラが撤退した後、なのはとフェイトはアルフと合流し、エイミィに通信を試みていた。実はガイバーゼロの思わぬ反撃により逃亡を許してしまった後、臨時作戦本部にいるエイミィと連絡を取ろうとしていたが、何故か通信が繋がらず、何度も繰り返しこれで五回目の挑戦だった。


「こちらフェイト。エイミィ、聞こえる?」


『・・・・・・ち・・・ら・・・』


「あっ!」


『こちらエイミィ!なのはちゃん、フェイトちゃん、聞こえる!?』
 

 五回目の通信でようやくエイミィと繋がり、フェイトは急いで状況を聞こうとした。しかしエイミィは大慌てで二人にグラーベの援護に向かってほしいと伝えてきた。グラーベはシグナムと戦闘中、アンノウンであるガイバーゼロが現われ、グラーベのデバイスは破壊され、窮地に陥ってしまったと言う。


 それを聞いたアルフは「何であんな奴を・・・・」と嫌味っぽく言うが、グラーベは仮にも管理局に手を貸してくれている協力者・・・・なのはとフェイトはグラーベから酷い事を言われたが、助けないわけにはいかない。


 なのはとフェイトはグラーベのいる位置をエイミィから教えてもらい、三人はグラーベのいる地点へと向かった。途中で通信を試みたが、全く繋がらない・・・・二人はグラーベのことを心配していたが、目的地までもう少しというところで砂漠の上を立っているグラーベの姿を確認できた。


 その後、グラーベからシグナム達を逃がしたという情報を聞いた後、エイミィからアースラが近くまで来ていると連絡が入り、一先ず四人をアースラへと転送する事にした。


 アースラへと戻った四人は今回の戦闘の報告を不在だったクロノとリンディにする為、アースラ内の会議室に集まった。その報告の中で、突然通信が出来なくなった理由をエイミィが話した。


 それによると、作戦中に突然司令部のコンピューターが何者かにクラックされてしまい、機器が使用不能に陥ってしまったという。その事についてエイミィは適切な指示などが出来なかったことをなのはとフェイトに謝罪した。


「でもおかしいわね・・・・向こうの機材は管理局が使用しているのと同じシステムなのに、それを外部からクラッキングできる人間なんているのかしら?」


「そうなんですよ。防壁も警報も全部素通りで、いきなりシステムをダウンさせるなんて・・・・」


 リンディは、臨時司令部で使われている機械は全て管理局で使われているシステム・・・・それを外部からハッキングなどの行為はできるものかと考えていると、エイミィも警報システムを完全にスルーしてハッキングするなど不可能だと話す。


「そういえばグラーベ、あなたはあのアンノウンによってデバイスを壊された後、どうやって彼らからの攻撃から免れたの?」


「・・・・・紅い、もう一人のアンノウンが出現した」


 グラーベに問い掛けるリンディに、グラーベはコンソールを操作してガイバーゼロと対峙しているガイバーブラッドの映像を映し出した。


「この映像は私のデバイスが記録したモノ・・・・・このアンノウンは自分のことを【ガイバーブラッド】と名乗り、私を助けてくれたのだ」


 映像に映されるガイバーブラッドはガイバーゼロと似てはいるが、装甲の色が紅い色となっており、細部が異なっていた。そして敵アンノウンの正体がガイバーと呼ばれていたことをグラーベは説明した。


「ガイバー・・・・それがこのアンノウンの名前・・・・」


「それでこのガイバーブラッドという人物はその後どうなったんだ?」


「奴らが逃亡した後、姿を消すようにその場からいなくなった。そして暫くした後、二人と合流した・・・・」


 リンディは映像に映されている紅いガイバーブラッドや、今までベルカの騎士たちと一緒にいた蒼いアンノウンの正体が【ガイバー】と呼ばれる存在だと認識し、クロノの脳裏にあの時見たガイバーゼロの姿が蘇ってきた。 


 その後、リンディは整備の完了したアースラに司令部を移して、今後はアースラから闇の書捜索及び調査を行う事を決定したあと、それぞれ会議室から退室していく。


 しかしグラーベが廊下を歩いていると、通路の先に二つの影があった。アリアとロッテだった。


「・・・・何か用かな?」


「何でクロスケ達には言わなかったのさ?」


「何をだ?」


「貴方があの紅いガイバーだってこと・・・・」


 グラーベに問い掛けるロッテとアリア。しかしグラーベは不敵な笑みを浮かべると「何故言う必要がある?」と言い出した。


「必要があるって・・・・あれは仮にも質量兵器なのよ!あんなモノを何処で手に入れたの!?」


「・・・・なるほど、あの時背後に誰かの気配があると思ったが、お前達のどっちかだったか“仮面の男”」


『!?』


 アリアとロッテはグラーベの一言に「ビクッ」と反応する。あの時、ガイバーブラッドとは距離があり、闇の書の騎士たちでさえ気づいていなかった筈なのに、グラーベは気づいていた。


「グレアム提督やお前たちは闇の書の永久封印を考えているようだが、そんな事をする必要はない」


「何ですって・・・・?」


「永久封印ではなく、消滅させてしまえばいい。跡形もなく・・・・今の俺ならそれが可能だ、このガイバーの力を使えば・・・・全てが可能なのだからなっ!!」


 くくくっ、と小さく笑うグラーベにアリアとロッテは目の前にいる者が既に過去に知っていたグラーベではなく、全く別の人物に見えた。そう、グラーベはガイバーという強殖装甲を身に纏った事により、異様な高揚感を覚えてしまっていた。


























 第十四話完成・・・・・

 ガイバーって装着した人物の性格を変えることってあるんですよね?原作のガイバーⅡことリスカーは、ガイバーを手にしたことで“自分が最強だ”と過信して己の野望を果たそうとしていましたし・・・・グラーベもそういった感じになってしまったということにしておいて下さい。(ツッコミどころありまくりですが)
 そういえばガイバーを纏っている時はコントロールメタルを壊されなければ不死身ですが、殖装していない時に死んだりしたらどうなるんだろ?


 感想を見ていると、皆さん随分深い感想を書かれていることに驚きです。自分もガイバーの事を少し知っていたつもりですが、皆さん深いです・・・・・


 さて、そろそろはやてを覚醒させようと思いますが、やはり原作通りにヴィータを目の前で破壊されて覚醒させるか、零が偽なのは&偽フェイトにキレて戦っている最中にグラーベを乱入させて・・・・・現在後者の案で進めようと考えています。


 しかしガイバーⅡフィーメイルの登場でなんだがガイバーにもセクシーシーンが増えたような気がする。何せ一回殖装して解除すると・・・・


 ではまた次回宜しく~



 ・・・没になった会話・・・


「ゼロ・・・」


「何だシグナム?」


「あの紅いガイバーは通常の三倍のスピードで動く事ができるのか!?」


「・・・・へっ?」


「いや・・・ヴィータから聞いたが、赤くて角があるモノはそのような力を持っていると聞いていたから・・・・」




[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十五話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/05/01 21:43













 新たに出現した“ガイバーブラッド”という存在が敵か味方か分からないでいたアースラチーム。そんな中、クロノ達は無限書庫にいるユーノから闇の書について現状まで分かった事の報告をしていた。


「今までで分かった事を報告すると、闇の書というのは本来の名前ではなくって、古い資料によると正式名称は【夜天の魔導書】。本来の目的は各地の偉大な魔導師の技術を蒐集し、研究する為に作られた主と共に旅をする魔導書・・・・」


 ユーノの報告では、闇の書と呼ばれるようになってしまったのは、今まで夜天の魔導書の主となった者の何者かが、その機能のプログラムの一部を改変して破壊の力を備わせてしまったらしく、そのせいで旅をする機能と破損したデータの自己修復機能が壊れてしまい、転生と再生を繰り返す要因となってしまったらしい。


 アリアはロストロギアを使ってむやみやたらに膨大な力を得ようと考える人間は、どの時代にも存在すると溜息じみた言い方をする。そして内心、現実にそうなった人物の姿がアリアの脳裏を横切った。


 さらにユーノは、闇の書の性質変化によって一定期間の間に魔力の蒐集がないと持ち主の魔力を吸収し、完成後は持ち主の魔力を手当たり次第使い、無差別破壊の為に力を振るうようになってしまい、これまで闇の書を手にした人物は完成後すぐに死を迎えてしまったと話す。


 クロノは闇の書の停止や封印などを行えるかという質問をするが、ユーノは完成前ではまず無理だと話す。理由としては停止などの指示が出来るのは本の所有者・・・・つまり主の持つ管理者権限がなければできず、プログラムの改変などが出来ないと話し、無理に外部から操作しようとすれば、主を吸収して次へと転生してしまうシステムが組み込まれているらしいと言う。


 これによって闇の書の永久封印は不可能だと伝えられていたらしい。


「調査は以上か?」


『現時点では・・・・でもまだ色々調べているから、何か分かったら連絡するよ』


「そうか・・・・ユーノ」


『何?』


「今から送るデータが無限書庫にないか調べてみてくれないか?」


 クロノはコンソールを操作して無限書庫にいるユーノに“あるデータ”を送った。その後、通信は切られ、ユーノは再び闇の書のデータを探し始めた。暫くした後、一緒にいたアリアは休憩する為に無限書庫から退室していき、自分も少し休憩しようと一息ついた時だった。


「そういえば・・・・クロノから来たデータの中身は・・・・」


 独りきりになったユーノは、クロノから送られたデータを目の前に表示してみると、そこにはあのガイバーゼロとガイバーブラッドの姿が映されていた。


「これは・・・・え~と、このデータを見るかぎり、この二人の内、紅い方はガイバーブラッドと呼ばれ、戦闘力は蒼い方より上ということか・・・・」


 データを見ながらユーノは目を瞑って索敵魔法を展開した。そしてキーワードとして【ガイバー】と名の付くモノがないか調べてみた。暫くすると、無限書庫の上層付近から一冊の本がユーノの前に現われた。


「嘘・・・・あのガイバーっていうのは、過去にこの世界に存在していた者だったのか!?」


 見たことのない異質な存在が過去に存在していたのかと疑いつつも、その本のページを開いてみると、そこにはガイバーの事が記されていた・・・・・















___________________________________















 はやてのいない自宅では、零とシャマルの二人は蒐集に向かっているシグナム達へのお弁当を作っていた。零も蒐集の手伝いをしたかったが、シャマルの料理は見た目は普通でも大丈夫じゃない時があり、何かと不安があった為、材料を作るために零は残り、シャマルは弁当箱におかずを入れる係りと分担して行っていた。


 そんな風に弁当を作っていると、突然携帯の鳴る音が聞こえ、シャマルはエプロンのポケットの中にあるはやての携帯電話が鳴っている事に気づいた。はやてが病院にいる為に携帯電話の持ち込みは禁止であり、はやての携帯電話への連絡などはシャマルが請け負っている。


「あっ、すずかちゃんからメールです」


「すずかちゃんから?」


<シャマルさんへ、こんにちは月村すずかです。今日の放課後、友達と一緒にはやてちゃんのお見舞いに行こうと思っているんですが、行っても大丈夫でしょうか?>


 携帯に送られてきたメールの送信者はすずかからだった。実はすずかには以前はやてに会いに来てくれたことがあり、その時にはやてが検査込みの入院をしている事をシャマルが伝えていたのだ。


「すずかちゃん、本当にいい子ですね」


「ああ、そうだな。って、あれ?画像が添付してあるぞ」


 友達思いのすずかの配慮に感激するシャマルと一緒に携帯のメールを読んでいた零は、メールに画像が添付されている事に気づき、シャマルは携帯を操作して画像を表示してみた。するとそこには・・・・


『!?』


<もしご都合が悪いようでしたら、この写真をはやてちゃんに見せてあげてください>


 添付されていた写真を見た零とシャマルは驚いた。なんとその画像には、あの管理局の魔導師として戦ったなのはとフェイトが写されていたのだ。シャマルは慌ててクラールヴィントを起動させてシグナムに連絡を入れた。


『何?テスタロッサ達がどうしたって!?』


「だから!テスタロッサちゃんとなのはちゃん・・・・管理局魔導師の二人が今日、はやてちゃんに会いに来ちゃうの!!すずかちゃんのお友達だから・・・・ああ、どうしよう、どうしよう!!」


『シャマル、落ち着けシャマル、大丈夫だ!!幸い、主はやての魔力資質は殆ど闇の書の中だ。詳しく検査されない限りバレはしない』


「それはそうだけど・・・・」


 はやてに会いに来るのがあの管理局の魔導師であるなのはとフェイトだと知ったシャマルはどうしていいか混乱する中、シグナムははやてと会っても詳しい検査をされなければ闇の書の主だとは分からないと言い聞かせる。しかし心配性であるシャマルは内心大丈夫なのだろうかとオロオロしていた。


「シグナム、俺だ。それなら今回は俺がはやてのお見舞いに行くよ。幸い俺は強殖装甲を纏っていたおかげで顔はバレていないし、相手も俺がガイバーゼロだってことは知らないはずだ」


『分かった。だが、主はやて・・・それから石田先生に我らの名を出さないようにお願いしておいてくれ』


「・・・・だがそれだと、はやてに変に思われないか?」


『仕方あるまい・・・・頼んだぞ、零』


 シグナムとの通信を終えた後、零はさっそくシャマルにすずかに返事のメールを送るように指示を出して、すぐに出かける準備をして、はやてのいる海鳴大学病院へと向かった。


 海鳴大学病院に零が着いたのは夕暮れ時だった。零は病院内は走ってはいけないことを考慮しつつも、早足ではやてのいる病室へと向かい、八神はやてと書かれているプレートの入った部屋を見つけると扉をノックする。


「あっ、は~い」


「はやて、俺だ」


「零兄ぃ!?どうぞ!!」


 扉の向こうから嬉しそうなはやての声に、零は扉を開けて病室に入った。室内にははやてしか居らず、どうやらすずか達はまだ来ていないようだった。零は手に持ってきた鞄から着替えを取り出してロッカーの中にしまうとはやてのベッドの傍に椅子を置いて座る。


「調子はどうだ、はやて?」


「うん、時々胸が攣ったりするけど大丈夫やで」


 はやての状態を聞いた零は、やはり闇の書の呪いが徐々に進行しつつあることを悟る。もちろんはやては夜中などに再発する胸の痛みの間隔が徐々に短くなっていることを悟られないように空元気でも笑顔を見せていたが・・・・・


 零はお土産として持ってきたリンゴの一つを取り出すと、ナイフを手にリンゴの皮を剥きはじめた。はやては零の手際よさを見て「零兄ぃは皮むきうまいなぁ~」と言うと、零は「まあな」と言ってリンゴを四等分に切ると、今度はフォークを取り出してリンゴの一つをはやての前に差し出した。


「はやて、あ~ん」


「ちょっ、零兄ぃ、恥ずかしいわ」


「何言ってるんだよ、病人にはリンゴが定番だ。ほら、あ~ん」


 はやてにリンゴを食べさせようとする零に、はやては恥ずかしいと思いつつも零の差し出したリンゴを口を開けて食した。零は笑みを浮かべながら、次のリンゴをはやてに差し出す。そして零は、はやてにちゃんと病院食を食べているかなどの話をしていると、病室の扉からノックする音が聞こえた。


「はぁ~い、どうぞ~」


『こんにちわ~!』


 はやての返事に答えるように病室の扉が開き、花束を持ったすずかを先頭に三人の女の子【高町なのは】と【フェイト・テスタロッサ】、そして【アリサ・バニングス】が入室してきた。はやてはすずかの訪問に喜びの声で「いらっしゃい」と言い歓迎した。


「あっ、零さんもこんにちは!」


「あっ・・・ああ、いらっしゃい、皆」


 すずかは零の存在に気づいたのか笑顔で挨拶し、零も挨拶を返す。すずかは他の三人にはやての兄である零の事を紹介すると、三人は零に向かって挨拶をする。そして零は人数分の椅子を用意し、四人のコートを預かるとコート掛けにしまった。


 しかし零には複雑な気分だった。目の前にいる四人のうち、二人とは戦場で出会っていた管理局の魔導師だったからだ。しかも驚くべき事になのはとフェイトは年相応の普通の女の子だった。はやてと話す二人の表情からは、とても生死を賭けるような戦場にいるのはおかしいほど普通の子だった。


 だが、そんな思いをしている零に対し、はやてと楽しそうに話しているアリサとすずがの横でなのはとフェイトは若干驚いた表情をしていた。


(フェイトちゃん、はやてちゃんの首から下げているペンダント・・・・)


(うん・・・・あれはまさか・・・・)


 そう・・・二人が目にしたのは、はやての首から下げていた青い宝石のはめ込めれたペンダント。そこには二人の出会いのきっかけとも言えるべきジュエルシードがそこにあった。


「あの、はやてちゃん」


「ん?なんや?なのはちゃん」


「そのペンダントの宝石なんだけど・・・・」


「あっ、これ?実は私の誕生日に零兄ぃがプレゼントしてくれたんよ」


 なのはは思い切ってはやてにペンダントの事を聞いてみると、はやては笑顔で誕生日に零から貰ったと話す。はやての表情から嘘ではないと思うなのはとフェイトだったが、仮にジュエルシードの封印が解けているのなら、魔導師である自分達は真っ先に気づく筈だ。だが、目の前にあるジュエルシードらしきモノからは何も感じない・・・・


 二人は零の方を見るが、零はどう見ても普通の一般人に見えてしまい、なのはとフェイトは「多分思い違いだろう」という事にした。そしてなのはは手に持っていたシュークリームの入った箱を取り出し、皆で分けて食べ始めた。彼女の家族は【翠屋】という喫茶店を営んでおり、このシュークリームは翠屋自慢の商品の一つだと話す。


 暫くした後、すずか達四人は「また時間があればお見舞いに来る」と言って病室を後にした。零はすずかから貰った花束を花瓶に移していると、はやての手に持っている本が目に入った。その本には【クリスマスディズ】というタイトルだった。


「そやけど零兄ぃ、もうすぐクリスマスやね・・・・」


「ああ、そうだな。そういえばもう一年になるか・・・」


「うん、あの時はホンマに嬉しかった。零兄ぃがクリスマスプレゼントとして手作りケーキを作ってくれて・・・・」


 はやてと零は一年前のクリスマスの事を思い出していた。あの頃の零はまだはやての家に居候させてもらっていた身分だったが、あの手作りケーキの一件で零とはやては本当の家族のような関係を築く事が出来たのだ。故に二人にとってあのクリスマスは最高の思い出となっていた。


「今年はシグナムやヴィータ、シャマルにザフィーラと大勢でパァ~!!っとできたらええんやけど・・・・」


「はやて・・・・」


 今年のクリスマスは皆で祝いたい・・・・そんな思いのはやての言葉に零はそっとはやての手を握った。


「大丈夫だ。はやての病気なんてすぐに治って、皆でクリスマスを祝おう。それこそ盛大になっ!!」


「・・・・うん!盛大にやっ!!」


 今回のクリスマスは盛大にやろうとはやてを元気付ける零に、はやては笑顔で答える。その笑顔に零ははやての頭を撫でてやり、交換した着替えなどを入れた手荷物を持って病室を後にした。


 病院の外に出た零は、ふとはやてのいる病室のほうを見上げた。


(はやて・・・・大丈夫だ。もうすぐ闇の書が完成して、はやての病気も治る・・・・そうすれば、また皆で笑える生活が戻ってくる!だから待っててくれ!!)


 病室を見上げる零は、そのまま自宅へと戻るために再び歩き出した。しかしその頃、病室では胸の痛みが再発したのか、はやてはベッドで蹲りながら痛みに耐えていた。


(くっ、ううう・・・・痛い・・・・でも耐えるんや!)


 痛みに耐えるはやての手には零から貰ったペンダントが握られていた。はやては一人で生活していた頃、自分が病気で死んでしまう事は怖くないと思っていた。しかし今は違っていた・・・・守りたい日々があり、大切に幸せにしないといけない存在があり、その為に生きよう・・・笑顔でいよう・・・強くいよう・・・そう思っていた。


 そして何より、自分の最初の家族であり、本当の兄のように自分を大切にしてくれる零という存在が、はやての生きる活力となっていた。目を瞑るはやての脳裏に自分の名前を笑顔で呼んでくれている零の姿が浮かんだ。


(零兄ぃ・・・・死にたくない・・・・死にたくないよ・・・・)


 痛みに耐えるはやての目から大粒の涙がこぼれ出した。














_________________________________















 それから一週間が過ぎ、月日は12月24日。零はガイバーゼロとなってシグナムと共に魔力蒐集を行っていた。零と違って家にも余り戻らず魔力蒐集を行っているシグナム、ヴィータ、ザフィーラの三人のおかげで、闇の書のページは残り僅かで完成となっていた。


「シグナム、もうすぐ完成だな」


「ああ、闇の書が完成すれば、主はやての体を蝕む呪いの進行は止まる筈・・・・後少しだ」


「・・・・だが、はやても口では言わないが、皆と会えなくて少し寂しそうな感じだったぞ。今日のところは早めに切り上げて、はやてに会いに行こう」


「そうだな・・・・ならヴィータ達と合流した後、主はやての元へ行こう」


 荒野の崖の上で闇の書のページをめくるシグナムに、ガイバーゼロは一度はやてに会いに行こうと言ってシグナムにヴィータ達と連絡するように話す。転送魔法で合流した四人は、一度自宅へ戻り、夕方シグナム達ははやてのいる病院へと向かった。


 零も一緒に行こうと思ったが、今日はやての暇つぶし用に借りていた本の返却日だということを思い出し、一人別行動として図書館へと向かっていた。そして図書館で本を返却した後、ふと以前はやてが「読んでみたいな~」と言っていた童話の本が目に入った。


「あっ、この本・・・・確かずっと貸し出し中だったから、はやてが残念がっていた本だ!」


 零は思わず本を手に取り、さっそくカウンターで貸し出し手続きを済ませると、急いで病院へと向かった。しかし既に日は暮れ、夜となってしまっていた。


「ヤバイ・・・面会時間に間に合うか?」


 予想外の遅刻に、零は焦りつつも、せめてこの本だけでもはやてに手渡そうと必死に走った。だがこの頃、シグナム達が危機に陥っている事など知る由もなかった。














_____________________________















 零が図書館に行っている時、シグナム達ははやての病室で突然の来訪者に目を疑った。なんとすずか、アリサ、なのは、フェイトの四人がはやてに内緒でクリスマスプレゼントを持って現われたのだ。


 すずかはシグナム達がいる事に何も疑いもせず、アリサもすずかからはやての家族構成を聞かされていたようで特に気にはしていなかった。しかしなのはとフェイトは違っていた。今まで何度も戦場で戦った相手が目の前にいる事を・・・・・・


 そして二人は理解してしまった。シグナムやシャマル、ヴィータの三人がいるということは、闇の書の主がそこにいる八神はやてだということを・・・・・


 突然の来訪者に驚くはやてだったが、すずかとアリサに手渡されたサプライズプレゼントに大喜びしていた。しかしなのはとフェイトはシグナムとシャマルとの間に不穏な雰囲気になってしまい、ヴィータは鋭い目つきでなのはを睨み続けていた。


 夜になり、暫くした後、話を終えたすずかとアリサ、なのはとフェイトは病院から出て行き、シグナムとシャマルは四人を見送る為に出入り口まで来ていた。そしてなのはとフェイトはシグナム達と共にとあるビルの屋上で対峙していた。


「はやてちゃんが、闇の書の主・・・・」


「悲願は後僅かで叶う」


「邪魔をするなら・・・・はやてちゃんのお友達でも!!」


 はやてが闇の書の主だったことに驚いているなのはとフェイト。シグナムとシャマルは闇の書完成目前で管理局にはやてのことを知らせない為に邪魔をしようとする。そんな二人になのははユーノからの報告にあった闇の書が完成したら大変な事になることを伝えようとした時だった。


「でりゃぁぁぁぁっ!!」


 突然グラーフアイゼンを振りかぶったヴィータがなのはに向かって突撃し、なのははバリアを展開させて防御するがそのまま吹き飛ばしてしまった。そして間髪入れずにシグナムはレヴァンティンを手にフェイト目掛けて振り下ろした。


「管理局に我らの主の事を伝えられてしまっては困るのだ!!」


「私の通信妨害範囲から、逃がすわけにはいかない!!」


 シグナムとシャマルはともに騎士甲冑を纏い、フェイトはバルディッシュを呼び出して構える。ビルのフェンスまで突き飛ばされたなのはの傍にゆっくり歩き出したヴィータも私服から姿を変え、騎士甲冑を纏う。


「ヴィータ・・・ちゃん」


「邪魔すんなよ・・・・もう後ちょっとで助けられるんだ。はやてが元気になってアタシ達のところに帰ってくるんだ!その為に必死に頑張ってきたんだ、零だって!!」


「えっ?零って・・・・」


 涙を流すヴィータの口から出た零という言葉になのはの脳裏に以前初めてはやてと会った時に一緒にいた青年の姿が浮かんだ。ヴィータは「邪魔すんなぁぁっ!!」と大声で叫びながらなのはに向かってカートリッジを使って強化したグラーフアイゼンを振り下ろした。


 魔力爆発で燃え上がる炎をヴィータは肩で息をしながら見つめていると、炎の中から白いバリアジャケットを纏ったなのはがゆっくり歩いてきた。


「悪魔め・・・・」


「悪魔で・・・いいよ。悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!!」


 炎をバックに歩いてくるなのはの姿に、ヴィータは自分達の幸せを奪おうとする悪魔だと言い、なのはもレイジングハートを構えて意地でも話を聞いてもらう覚悟でヴィータと対峙した。














___________________________________















 シグナム達がなのはとフェイトと戦っている頃、病室で一人窓の外を見上げているはやてがいた。今日は零だけが来てくれていない事に沈んでいると、静かな廊下から誰かが走ってくるような音が聞こえ始めた。そして扉にノックする音が聞こえた。


「誰やろ・・・もうすぐ面会時間が終る頃やのに・・・・」


 はやてが時計を見ながら扉に向かって「どうぞ」と一言掛けると、扉の向こうから息を切らしながら汗だくの零の姿があった。


「ハァハァ・・・・まっ、間に合ったか・・・?」


「れっ零兄ぃ!?どないしたん、そんな汗だくで・・・・」


「いっ、いや・・・・ハァ・・・・図書館から・・・ハァ・・・・必死こいて・・・走ってきたから・・・・」


 激しく息をして体内に酸素を送り込んでいる零の姿にはやては驚く。そして暫くして呼吸が落ち着いたのか、零は汗を拭いて深呼吸すると、はやての傍に歩み寄り、鞄から一冊の本をはやてに手渡した。


「はやて、この本を届けに来た」


「えっ?・・・・あっ、これって・・・・」


「今まで借りていた本を返しに行った時に、入院する前に借りてみたいって言っていた本が偶然今日あったから、届けに来たんだ」


 手渡された本を見たはやては嬉しそうな表情で零を見る。そして零にお礼を言い、零も椅子に腰掛けると真剣な目ではやてを見た。


「なあ、はやて・・・・」


「何や、零兄ぃ?」


 いつになく真剣な表情の零に、はやては零の顔を見る。そして零は、前に自分の失っていた記憶が戻っても、はやての傍にいると言っていたが、これからは過去の事を考えず、これから先の未来のことを考えようと思っていることをはやてに話しだした。


「俺は今の生活に満足しているし、今後記憶が戻らなくてもシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラとの一緒にいる生活が一番良いと思っている。だから・・・・」


「だから?」


「だから、俺ははやての傍ではやてを守っていく!はやてがどんな目に遭っても、必ず俺ははやての傍にいて助けにいくから!!」


 零の話を聞いたはやては、ニッコリと笑顔を見せて「零兄ぃが傍にいてくれれば、怖いものはあらへん!」と言ってくれた。その表情に零もはやてもお互いに笑い合っている時だった。はやての胸に再び痛みが走った。


「うぐっ!!」


「!?はやてっ!!」


 はやての様子を見た零は、また発作が始まったかと思い椅子から立ち上がった時だった。突然はやてと零の足下に青い魔法陣が現われ、はやてと零は一瞬の内に別の場所へと移動してしまった。その魔法陣は零の知っているベルカ式ではなく、なのは達が使用しているミッド式の魔法陣だった。


「はっ!?ここは・・・・何処だ!?」


「おかしいな・・・・なんで一般人が闇の書の主と一緒にいるのかな?」


 突然の出来事に零は周囲を見渡すと、何処かの屋上にいるのかと思っていると、後ろから聞き慣れた幼い少女の声が聞こえた。零は振り返ると、そこにはなのはとフェイトがおり、二人の中央にはヴィータがまるで張りつけにされたようにグッタリとしていた。


「なのはちゃん・・・?フェイトちゃん・・・?なんや、何やコレ・・・」


 痛みが治まったのか、はやても二人を見て驚いた声を上げる。零はヴィータに声を掛けるが、ヴィータは動かない。


「君は病気なんだよ・・・闇の書の呪いって病気」


「もうね・・・・治らないんだ・・・・」


「ふざけるな!!闇の書が完成すれば、はやての病気は治るはずだ!!でたらめを言うなっ!!」


「えっ!?零兄ぃ、それってどういう・・・・」


 冷たい表情と口調ではやてに病気も治らない事を告げるなのはとフェイト。しかし零はそんな二人の言葉を真っ先に否定した。シグナムやシャマルが言っていた闇の書が完成すれば呪いの進行は止まる筈だと・・・・・


「ただの一般人が何で闇の書の事を知っているの?」


「それは・・・・!?ザフィーラ!!」


 フェイトの問いに答えようとした零は目の前にザフィーラが倒れている事に気づき、必死に声を掛けるがザフィーラは全く反応しない。


「君達は・・・・・ザフィーラに何をした!?それにヴィータにまで!?」


「この子達はもう壊れていたの。私たちがこうする前から・・・・」


「とっくの昔に壊された闇の書の機能をまだ使えると思い込んで、無駄な努力を続けていた・・・・」


「無駄ってなんや!?シグナムは、シャマルは・・・・!?」


 零の問いになのはとフェイトはヴィータ達は既に壊れていると言い、はやてはこの場にいないシグナムとシャマルは何処かと問い掛ける。するとフェイトは顔を上げて後ろの方を見る。はやてと零は何かあるのかと後ろを振り返ると我が目を疑った。


 そこにあったのは、シグナムとシャマルが着ていた私服が風に吹かれながら転がっていた。それを見たはやてと零は目を見開いてしまった。


「壊れた機械は役に立たないよね?」


「だから壊しちゃおう・・・・」


「・・・・訂正しろっ!シグナム達は壊れた機械なんかじゃない!泣いたり、笑ったり、ちゃんと感情のある存在だ!命を持っているんだ!!」


 シグナム達を壊れた機械扱いする二人に、零は大声で訂正するよう叫ぶ。しかし二人は顔を見合わせて「くくくっ」と笑い出した。


「何が可笑しいっ!?」


「命を持っている?ただのプログラムでしかない擬似生命体が?」


「!!・・・・・黙れぇぇぇぇぇぇっ!!!コネクトォォォォォォッ!!」


 なのはの言葉に遂にキレた零は、立ち上がって大声で「コネクト」と叫んだ。すると零は光に包まれ、零の背後から蒼い強殖装甲が出現し、零と一体化してガイバーゼロとなり、両頬の排気口から空気を吐き出した。その姿を見たなのはとフェイトは驚き、はやては変わり果てた兄の姿に唖然としてしまった。


「なっ!?まさか・・・貴様があのアンノウンだったのか!?」


「れっ、零兄ぃ?」


「・・・・はやて、シグナムとシャマルは死んでなんかいない!はやてが願えばきっと戻ってきてくれる筈だ!!」


 ガイバーゼロははやての顔を見てシグナムとシャマルは死んでなんかいないことを告げる。そしてガイバーゼロはなのはとフェイトを見上げた。


「お前たちは口では優しい事を言っておきながら、こんな酷い事を・・・・はやてを傷つけるようなことを平気でやる。それが管理局のやり方かっ!!」


 以前なのはとフェイトはガイバーゼロから話を聞こうと優しく語りかけてきたが、それは偽りの姿で、本来はこんな非道な行いを平気でやる組織の一員だと思ったガイバーゼロは、怒りの声を上げながら両手の拳を握り締めて、なのはとフェイトに向かって飛び上がっていった。


























 第十五話完成。

 まずは前回の性格変化は、よく考えたらありえませんでした。スイマセンでした(謝罪)

 零・・・遂にキレました。でも現時点でなのはとフェイトが偽物であることを零は知らないのであしからず・・・・

 しかしはやてが痛みに苦しんでいる時の台詞・・・・自分で書いていてなんですが、涙がでそうになりました・・・・(涙)原作同様、少しシリアスな感じで書いてみたのですが、皆さんはどう思いますかね?普通にスルーか、少しは胸にキュンときてくれればいいかな~と勝手に思っている作者です。


 ではまた次回~



 もしガイバーをなのは風に考えると、有機物(生物)とデバイスとのハイブリットっことにできないのかな?コントロールメタルがデバイスコアみたいな感じだし・・・・とふと思いました。まあ無理ですねw






[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十六話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/05/08 21:13













 目の前にいるなのはとフェイトのシグナム達への言動に堪忍袋の尾が切れてしまった零は、遂にはやての目の前で殖装し、ガイバーゼロとなった。その姿になのはとフェイトは驚き、はやても驚きを隠せず唖然としていた。


 その戦闘が開始される数時間前、アースラにいたリンディはユーノから連絡を受けていた。その内容は以前クロノから受け取ったガイバーに関することだった。


「何ですって!?あのガイバーと呼ばれる存在が過去に存在していたですって!?」


『はい、しかもその存在していた時代なんですが・・・・ちょうど【アルハザード】が存在していた頃らしいんです』


 ユーノから伝えられた【アルハザード】という世界・・・・それは遥か古代に存在していたとされている別名【忘れられし都】と呼ばれる古代文明で、次元と次元の狭間にあるとされている伝説上の世界。そこには死者ですら蘇らせる秘術が存在していたという。


『それで、ガイバーというのは、この書物によると古代文明・・・・それもアルハザードと同等か、それ以上の技術力を持っていた文明が作り出した生体兵器だそうです!』


「生体兵器ですって!?」


 ユーノからガイバーという存在は、生体兵器であることを告げられたリンディは驚きの声を上げる。しかしもしガイバーが生体兵器だとするのなら、あの戦闘力や武装に納得が行く。ガイバーの武装などは明らかに度を越えている質量兵器であり、時空管理局の腕のある武装局員が束になっても、たった一人のガイバーを倒せるかどうか怪しいものだった。


 リンディは一先ずこの事をなのはとフェイトに伝えるべく、連絡を取ろうとした時だった。海鳴市周辺には通信妨害の類の魔法が掛けられ、通信ができない状況なってしまっていた。















___________________________















 海鳴市のとあるビルの屋上・・・・そこではなのはとフェイトに攻撃を仕掛けるガイバーゼロの姿があった。はやてを傷つけ、シグナムとシャマルとヴィータとザフィーラを壊れた機械扱いをするなのはとフェイトに怒りを露にしたガイバーゼロは、その怒りを込めた拳をなのはに向けて放った。


 なのはは当然の如く片手を出して“青色”の魔力障壁を展開、ガイバーゼロの拳を受け止めるが、逆に障壁ごと自分が押し負ける結果になった。


「なっ!?何だこの威力は!?」


 ガイバーゼロの拳の威力は、なのはを障壁ごと突き飛ばすほどの破壊力を持っていた。その威力になのはは驚きの声を上げる。しかも間髪いれずガイバーゼロはなのはに向かって突撃し、繰り返し拳を魔力障壁にぶつけてくる。


 その攻撃に初めは片手で防げていたが、いつの間にか両手で支えないと障壁の維持ができない状態になってしまった。ガイバーゼロがこれほどの力を引き出している理由・・・・それはガイバーのコントロールメタルが、零の怒りによって強殖装甲の能力を向上させているからだった。


「ハァァァァッ!!」


 なのはの状態を見ていたフェイトは、障壁を殴り続けているガイバーゼロの後ろから頭に狙って蹴り飛ばそうと、右足を勢いよく振り被ってきた。これが頭に命中すれば、脳震盪を起こして最悪相手を昏睡状態にできるとフェイトは踏んでいた。


 しかしガイバーゼロのヘッドセンサーは奇襲を仕掛けようとしているフェイトの存在を見逃さず、振り返りながら後ろから迫るフェイトの右足を左手で掴むと、そのままなのはに向けてフェイトを投げつけた。


『うわぁぁぁっ!!』


 ガイバーゼロに投げつけられたなのはとフェイトはそのままビルの壁に向かって飛ばされ、二人共ども壁を打ち抜いてビルの中へと消えていった。ガイバーゼロは二人を追うためにビルに接近すると、そこには思いがけない者がいた。なんとそこには、なのはとフェイトがおらず、以前シャマルに闇の書を使わせようとしていた仮面の男がいた。しかも二人とも全く同じ姿で・・・・・


「何!?どういうことだ?何故仮面の男が・・・・しかも二人?」


 さすがのガイバーゼロも、先程まで戦っていた少女の姿ではない別の人物がいたことに驚く。しかもヘッドセンサーを駆使しても周囲に目の前の仮面の男ら以外の存在がないことから、目の前にいる仮面の男らが何かしらの事をしていたのではないかと思った。


 ガイバーゼロが知らぬも同然・・・・先程までのなのはとフェイトは、仮面の男が変身魔法を使って化けていたからであった。


 実はシグナム達がなのはとフェイトと戦っていた時、突然仮面の男がなのはとフェイトをバインドで拘束し、シグナムやシャマル、ヴィータまで拘束してしまったのだ。そしてあろう事か闇の書を手にシグナム達のリンカーコアを闇の書に吸収させてしまい、念話が通じない事に心配になって駆けつけてきたザフィーラまで吸収し、消滅されてしまったのだ。


 そして仮面の男は、本物のなのはとフェイトを四重のバインドにクリスタルケージに閉じ込め、その後自身をなのはとフェイトに化けてから、はやてと零を呼び出したのだ。


 仮面の男らは痛みを堪えつつ起き上がると、片方の男は手にカードのようなモノを四枚出現させ、ガイバーゼロに向けて投げ込むと、ガイバーゼロの目の前で縄状に変化し、ガイバーゼロの上半身を拘束した。


「ぬう!?」


「貰った!!」


 バインドで拘束されたことでガイバーゼロが身動きを取れないと悟ったもう一人の仮面の男は、右手を構えてガイバーゼロに向かって飛び込んできた。しかしガイバーゼロもそのままでいる訳でもなく、両腕の高周波ソードを展開させて上半身を縛り付けていたバインドを切り裂いた。


「何っ!?」


 仮面の男の放ったバインドはなのは達やシグナム達にも使用した強固なバインド、それをたやすく切り裂いたガイバーゼロに驚いている隙を突かれ、殴りこんできた仮面の男は逆にガイバーゼロの放ってきた右ストレートの拳を腹部に受けてしまった。その強烈な拳によって肋骨にダメージを負ったのか、仮面の男はそのまま落下しそうになるが、もう一方の仮面の男が助けに来た。


「ほう、どうやら苦戦しているようだな。アリアにロッテ・・・・」


 突然何処からか男の声が聞こえると、ガイバーゼロに向かって火の玉が飛来し、ガイバーゼロは後ろに下がって回避すると、仮面の男ら二人の前に飛行魔法を発動して空中に浮かぶグラーベが現われた。


「グラーベか?何しに来た!?」


「お前らでは手に負えないだろう。こいつは俺が相手をしてやるから、とっとと消え失せろ。この負け犬・・・いや、負け猫と言うべきか?」


 仮面の男に話し掛けていたグラーベは、そのままガイバーゼロのほうを向き、仮面の男らは足下に魔法陣を展開してその場から消えた。


「さあ、邪魔者はいなくなったし、この前の続きと行こうか・・・・アムド!!」


 グラーベの叫びに呼応して、背後から紅い強殖装甲が出現し、グラーベはガイバーブラッドへとなり、両腕の高周波ソードを展開させてガイバーゼロに斬りかかって来た。ガイバーゼロはこの間と同じように周波数と同じにしてソードをぶつける。それによってお互いの高周波ソードは威力が相殺し合い、ただの剣と剣とのぶつかり合いとなった。


 だが、ガイバーブラッドとガイバーゼロとの戦闘は以前初めて戦ったより熾烈を極めた。その理由は、ガイバーブラッドが以前と比べて強殖装甲の性能を引き出していたからだった。


 ガイバーゼロは距離を取りながらヘッドビームで攻撃を仕掛けるが、ガイバーブラッドに悉く回避され、逆にガイバーゼロがビルの間に逃げ込んで隙を伺おうとしたが、壁の向こうにいるガイバーブラッドがヘッドビームで攻撃し、ガイバーゼロの目の前を赤い光線が通り過ぎていった。


「くっ!?まさか、ガイバーの能力をもう理解したのか!?」


「これは最高の鎧だな!!これさえあればどんな不可能な事でも可能にできそうだ!!」


 ガイバーゼロは短時間の内に強殖装甲の能力を理解したガイバーブラッドに驚いていた。と言っても零が自分自身ガイバーの能力をどれくらいで理解できたかは分からなかったが・・・・ガイバーの能力に完全に優越感を感じているのか、グラーベは笑いながらガイバーゼロに攻撃を仕掛けてくる。


 さすがのガイバーゼロも以前に存在していた能力差がなくなってしまい、徐々にガイバーブラッドの格闘能力にガイバーゼロが押され始めてしまった。


「くっ!!」


「ははははっ!!どうした?どうした!?」


 ガイバーブラッドの格闘能力にガイバーゼロは防御もままならなくなり、とうとうガイバーブラッドの攻撃がガイバーゼロに当たるようになってしまった。そしてガイバーゼロはガイバーブラッドの右ストレートによってビルの壁にめり込んでしまった。


「がはっ!ごふっ!!」


「ふふふっ、この力を持つ者は私一人でいい。貴様もあのプログラムども同様に、この手で殺してやるよ・・・・」


 壁にめり込むガイバーゼロに、ガイバーブラッドは左腕でガイバーゼロの首を締め上げながら空中にその身を晒す。ガイバーゼロは体を動かそうとしたが、先程までのダメージのせいで体を動かす事ができなかった。


「だが、ただ殺すだけでは面白くない・・・・そうだな、まず左腕を!!」


「がぁぁぁぁぁっ!!!」


「さらに右足もだ!!」


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ガイバーブラッドはガイバーゼロの左腕を掴むと力一杯に握り、ガイバーゼロの腕を握りつぶしてしまった。さらにガイバーゼロの右足を自身の足で絡めて曲がる方向とは逆に締め上げて右足を折ってしまった。その苦痛にガイバーゼロは大声で叫び声をあげた。


「!!零兄ぃっ!!!」


 ガイバーゼロの叫び声を聞いたはやては、胸の痛みを堪えつつ地面を這いずりながらビルの下が見えるところまで必死に移動して零の名を叫ぶと、ガイバーブラッドはゆっくりとはやてのいる方を見上げた。


「そうだ・・・・面白い事を思いついたぞ・・・・」


 ガイバーブラッドは激しい痛みで動けなくなっているガイバーゼロを正面に向かせるように持ち替えると、はやてのいるビルまで上昇し、はやての目の前までやってきた。


「零兄ぃ!零兄ぃ!!」


「・・・・闇の書の主がこんな子供とは思わなかったが、まあいい」


「なんで・・・・なんでこんなことを平気でするんやっ!?零兄ぃを放して!!」


「何故だと?貴様の持つ闇の書のおかげで、どれだけの命が失われたか・・・・そしてその呪われたロストロギアのせいで、どれだけの人が大事なモノを失ったか・・・・」


 涙を流しながらはやては何故こんな酷いことができるのかガイバーブラッドに問い掛けるが、ガイバーブラッドはそんなはやての姿など眼中になく、闇の書への恨み言を言い放つ。


「はっ、はやて・・・・」


「だから私は、貴様の大事なモノを目の前で壊してやるよ・・・・こうやってなっ!!」


「駄目!!やめて・・・・やめてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 痛む体を必死に動かしてガイバーゼロははやてに右手を伸ばす。しかしガイバーブラッドはガイバーゼロの背中に右腕を当てると、ガイバーゼロの左胸を貫くように高周波ソードを展開した。


 その瞬間、はやての時間が止まった・・・・そして目の前には、ガイバーブラッドの高周波ソードが、ガイバーゼロの左胸・・・・人間でいう心臓の部分を光る刃が貫いていたのだ。ガイバーとなった零の肉体は、強殖細胞によって内蔵の一部が退化しており、確実に心臓を貫かれたかどうか分からないが、そのことをはやては当然知らない。


 よって、はやてには姿は変わっても大事な兄である零の心臓を、紅い姿をした人物に光る剣で貫かれてしまった光景にしか見えなかった。左胸を貫かれた事によって、ガイバーゼロの両頬の排気口から真っ赤な鮮血が噴きだした。


「がはぁっ!!!」


「最後の時を・・・たっぷり味わうがいい!!」


 ガイバーゼロの左胸を高周波ソードで貫いたガイバーブラッドは、高周波ソードを抜くとはやてに向かってガイバーゼロを放り投げた。放り投げられたガイバーゼロは、はやての頭上を通り過ぎて地面に仰向けに転がった。


「あっ、ああ・・・・零兄ぃ、零兄ぃ!」


 はやては必死にガイバーゼロの倒れている場所まで移動しようとしたが、途中で自分の手にヌメリとした感触が伝わり、自分の手を見た。そこにはガイバーゼロの胸から大量に出ていた真っ赤な血がはやての手に付着していた。


「うわぁぁぁ・・・・ああああ・・・・」


 目の前に力無く倒れているガイバーゼロの姿に、はやては震えながら苦痛によって声にもならない声を発していた。その時、はやての足下に白いベルカ式の魔法陣が展開され、はやての前に闇の書が出現した。


<Guten Morgen, Meister.>


 闇の書から発せられる声に呼応するかのように、はやての足元の魔法陣が白から黒のかかった紫色へと禍々しく変色した。


「はやてちゃんっ!!」


「はやてっ!!」


 その時、ようやく四重のバインドとクリスタルケージの破壊に成功したなのはとフェイトが大声ではやての名を叫んだ。しかし二人の声ははやての耳には届かず、はやては自分にとって大切な存在である零が、自分の目の前で殺された事に・・・・“絶望”した。


「くっ・・・うううう、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」


 はやての深い悲しみの篭った叫び声と共に瞳の色が真紅に変わり、紫色の魔力光がはやてを包み込み、その光景をガイバーブラッドはじっと眺めていた。そしてその中に、はやては遂に闇の書の封印を開放してしまう。


「我は闇の書の主なり・・・・この手に・・・・力を・・・・封印・・・開放・・・」


<Freilassung.(開放)>


 “開放”と言う闇の書から煙が噴出し、はやての体に変化が起きた。はやての肉体は幼い少女から女性へと変化し、髪は急激に長くなりながら白銀に染まり、シグナム達の纏っていた騎士甲冑のような服装を纏い、背中からは四枚の黒き翼が生えた。その姿になのはもフェイトも驚きを隠せずにいた。


「また・・・全てが終ってしまった。一体幾度、こんな悲しみを繰り返せば良いのか・・・・」


「・・・・もう繰り返しはしない。この私の手で貴様を・・・いや、闇の書という存在を消し去ってくれるわ!!」


 涙を流しながらそこにいた人物は既にはやてではなく、全く別の存在だった。彼女こそ、闇の書の管制人格である【闇の書の意志】と呼ばれる存在だった。それに対し、ガイバーブラッドは右手を握り締めて自分の手で闇の書を消滅させると宣言する。


 しかし闇の書の意志は、そんなガイバーブラッドの言葉に耳を貸さず、目の前に倒れているガイバーゼロの傍まで歩み寄ると、ガイバーゼロを抱き起こした。


「主よ、貴女の望みを叶えます。愛しき守護者達・・・・そして、我が主の大切な兄君よ・・・・傷つけた者達を、私が今・・・・破壊します!!」


<Gefängnis der Magie.(魔力封鎖)>


 闇の書の意志はガイバーゼロの排気口に付着している血を拭き取り、ゆっくりと寝かせると、闇の書が魔法を発動し、闇の書の意志を中心に結界が展開されていく。その結界は、以前ヴィータがなのはを閉じ込める為に展開した結界と同じモノで、ガイバーブラッドはもちろん、なのはとフェイト、そしてアースラから援軍としてやって来ていたユーノとアルフも結界内に閉じ込めてしまった。


「これは・・・・結界!?」


「なのは!」


「フェイト!!」


 周囲の景色が変化した事により、自分達は結界に閉じ込められた事を認識するなのはとフェイト。そこへユーノとアルフが合流し、四人は闇の書の意志と対峙するガイバーブラッドの姿を見た。なのははレイジングハートを構えようとした時、突如ガイバーブラッドはなのは達に向け左手をかざすと、プレッシャーカノンを発射してきた。


「なっ!?」


「何をするんですか!?グラーベさん!」


「えっ!?グラーベだって!?」


 ガイバーブラッドの発射したプレッシャーカノンを辛うじて回避したなのはの言葉にアルフもユーノも驚きの声を上げた。そう、実はクリスタルケージに閉じ込められていた時、グラーベがガイバーブラッドに殖装する瞬間を、なのはとフェイトは目撃していたのだった。


「貴様らは邪魔だ!そこで黙って見ているがいい。この私が闇の書を破壊する瞬間をっ!!」


「でも!それじゃあ、はやてちゃんがっ!!」


「関係ないっ!そこにいるのは全てを破壊することしか能がない、ただの壊れたロストロギアだっ!!」


 闇の書を破壊したら、はやてごと破壊する事になると思ったなのはは、ガイバーブラッドに止めるように声を掛けたが、ガイバーブラッドはなのはの言葉を無視し、そのまま闇の書の意志に向かって突撃していった。


「スレイプニール・・・・羽ばたいて」


<Sleipnir.>


 突撃してくるガイバーブラッドに対し、闇の書の意志は背中の翼を大きく羽ばたかせ、ガイバーブラッドの迎撃に出た。闇の書の意志が飛び去った後、地面に寝かされているガイバーゼロの近くには、はやてにプレゼントしていたペンダントにはめ込まれていたジュエルシードが青白い光を放ちながらガイバーゼロの傍に転がっていた。














_______________________________















 闇の書の意志とガイバーブラッドが戦いを始めた頃、結界外に位置する離れたビルの屋上には、あの仮面の男二人がいた。しかしガイバーゼロとの戦闘のダメージがあるのか肩で息を切らしていた。


「ハァハァ・・・・不味い事になったな」


「ああ、このままではデュランダルを使っての闇の書を完全封印ができない・・・・グラーベめ」


 仮面の男の一人の手には白いカード状のモノを手にしていた。まさかのガイバーゼロの出現・・・・さらにはグラーベの身勝手な行動・・・・そんなイレギュラーが重なり、さらには闇の書の意志が展開させた強固な封印結界によって、当初予定していたデュランダルによる闇の書の永久凍結による完全封印の道は完全に途絶えてしまった。


 そんな事を考えていると、突然足下に水色のミッド式の魔法陣が出現し、仮面の男二人はバインドで拘束されてしまった。しかも仮面の男らは縛り付けたバインドは普通のバインドではなく、徐々に体から力が抜けていくような感覚を感じていた。


「【ストラグルバインド】・・・・相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する。余り使い所のない魔法だけど、こういう時には役に立つ!!」


 突然の声に仮面の男らは顔を上げると、そこには黒いバリアジャケットを纏い、S2Uを構えたクロノがいた。そしてS2Uで地面を叩くと、仮面の男らは水色の光に包まれていった。


『うわぁぁぁぁ・・・・・』


「変身魔法を強制的に解除する!!」


 光に包まれた仮面の男らの姿は仮面だけ残して姿を変えた。変身魔法を強制解除され、仮面か外れてクロノの足下に転がる。だがその正体は、なんとリーゼロッテとリーゼアリアだった。


「クロノ!!このぉっ!!」


「こんな魔法、教えてなかったんだけどな・・・・」


「一人でも精進しろと教えたのは・・・・君達だろう・・・・アリア、ロッテ」


 クロノはまるで仮面の男の正体をある程度知っていたかのような口調で二人を見つめる。そのクロノをアリアとロッテは睨みつけていた。















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 はやては目を覚ました。いつもと変わらぬ自分の部屋・・・・はやては身を起こして車椅子に乗ろうとしたが、そこには車椅子はない。


(あれ?車椅子がない・・・・って何言うてるんやろ。私は車椅子なんか使ってないし、ちゃんと自分の足で歩けるはずやん)


 はやては自分でも何を思ったのか車椅子を探そうとしていた自分に笑った。そして何不自由なくベッドから降りると、そのままキッチンへと歩いていった。そしていつものように冷蔵庫から食材を取り出し、ナベに水を入れて湯を沸かす。


 そして包丁を手に食材を切ったり、ジャガイモの皮を剥いたりしながらナベに入れていく。そうしていると、キッチンに聞き慣れた人物たちが続々と現れた。


「おはよう、はやてちゃん!」


「おはようございます。主はやて」


「あっ、おはよう。シグナム、シャマル!ザフィーラも!!」


 キッチンにやって来たシャマルはエプロンを身に付け、はやての手伝いをはじめ、シグナムはリビングで新聞を読み始めた。その横に狼姿のザフィーラが座ると、今度は目巻き姿の少女が現れた。


「ふあぁぁぁぁ~、はやて、おはよう・・・・」


「あっ、ヴィータもおはよう」


「もうヴィータちゃん、ちゃんと顔を洗ってきて眠気を覚ましてきて」


「むぅ~、そうする・・・・」


 寝巻き姿でお気に入りのウサギのぬいぐるみを引きずりながらリビングにやって来たヴィータは、まだ寝ぼけているらしく、シャマルの指摘を聞き入れて洗面所へと歩いていった。その様子にはやては「クスクス」と笑い、シャマルと共に朝食の準備を始めた。


 そして朝食が準備され、皆が席についてはやての「いただきます」の声に合わせてシグナム達も「いただきます」と言って食事を始めた。そんな中シグナムとヴィータはあるオカズを口にした瞬間、顔色を悪くした。


「・・・・この微妙な味付けは・・・・シャマルだな?」


「えっ、ええ!?」


「シャマルはもうちょい料理を精進せなあかんな~」


 シグナムとヴィータがシャマルの作ったオカズによって致命的な精神ダメージを負ってしまった。その様子にはやては笑いながらシャマルにもっと料理の腕を上げないと駄目だと言っていた。


 そして朝食を済ませ、はやてとシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラはリビングに集り楽しい時間を過ごしていた。今のはやてにとってシグナム達守護騎士たちとの生活が楽しくてたまらなかった。


 だが・・・・ここには、はやてにとって守護騎士たちと同等の、最も大切な存在である零は、そこにはいなかった・・・・・・いや、存在していなかった。


























 第16話完成しました。


 ガイバーゼロがガイバーブラッドにボコボコにされてしまい、その影響ではやてが覚醒。はてさてどうなる事やら・・・・・

 ちなみに、ガイバーゼロが倒れた時、「これだと防衛機能が働くんじゃない?」と指摘されると思いますが、あえてスルーしてください。過剰防衛なんかしたら話が狂いそうなので・・・・

 ガイバーって装着者の精神状態、意志力に多大な影響を受ける・・・ってありましたが、それはユニットに取り込まれた時の効果か、取り込まれた後でも効果が出るのか・・・どちらだろう?


 では、また次回で~



 







[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十七話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/05/13 22:14














 ガイバーゼロこと自分の大事な兄である零を、グラーベが纏う紅いガイバー【ガイバーブラッド】に殺されたと思ったはやては、遂に闇の書の封印を開放し、はやては闇の書の意志に取り込まれる形で覚醒してしまった。


 その覚醒した姿にガイバーブラッドは、自身のガイバーの機能をフルに活用して突撃し、闇の書の意志も背中の四枚の黒き翼を羽ばたかせ応戦する為に飛び上がる。


「今度こそ・・・・義兄であるクライド・ハラオウンの仇である貴様を倒す!!」


「我が主を傷つけた者よ、貴様は我が闇で葬ってやろう!!」


 闇の書の意志に突撃するガイバーブラッドは高周波ソードを展開しながら攻撃を仕掛ける。闇の書の意志はガイバーブラッドの振るう光る刃がどれほどの脅威なのかを知っているかのように高周波ソードの効果範囲の間合いを見抜いて回避する。


 しかしガイバーブラッドも負けじとヘッドビーマーを闇の書の意志に向けると、額からヘッドビームを発射する。しかし闇の書の意志は自分正面に障壁を展開してヘッドビームを防いだ。


「くっ、さすがに壊れていてもロストロギアか・・・・そう簡単は攻撃が通らんか・・・」


 さすがのガイバーブラッドも、例え壊れたロストロギアであるが、相手は闇の書・・・・一筋縄では行かないと感じつつも、自分の纏っているガイバーの力なら闇の書を消滅できると考え、再び攻撃を仕掛けにいった。














______________________________














 そんな激戦が繰り広げられている中、闇の書の意志が飛び去ったビルの屋上では、ガイバーゼロが一人横たわっていた。しかしただ横たわっているわけではなく、ガイバーブラッドに貫かれた左胸は、ガイバーの強殖細胞が活性化して傷口を少しずつ塞ぎ、負傷している左腕と右足も徐々に修復されつつあった。しかし零の意識は朦朧としていた。


(・・・・くっ、俺は・・・・“また”守れなかったのか?)


 朦朧とする意識の中、零ははやてを守れなかった事を悔やんでいた。しかし自分でもおかしなことを考えていた・・・・


(“また”?俺は以前にも・・・・そう、あの大樹が出現した時より前から、誰かを守ろうとしていた気がする・・・・)


 零は呆然と何かを思い出すように記憶の糸を手繰り寄せる。すると零の頭の中に一瞬・・・・はやてと同じ年ぐらいの女の子の姿が見えた気がした。


(そうだ・・・・俺には、はやてくらいの年の子を守ろうとして・・・・)


 少しずつであったが、零の頭の中に過去の自分の記憶が蘇りつつあった。そして目の前に、かつて見た夢と同じ光景が見え、逃げ惑う人々の中にその女の子がいた。そして次の瞬間・・・・その女の子の後ろから獣のような姿をした怪物と、昆虫を模したかのような姿をした怪物が襲い掛かり、女の子を・・・・・


(!?・・・・そうだ。俺は妹を・・・・殺されたんだ!!)


 零の脳裏に映った光景・・・・それを見た零は、かつて自分に妹がいたことを思い出し、妹は殺されてしまった事を思い出した。そしてここで再び自分の妹と同じ年頃のはやてを守れないのか、と悔しい思いで一杯になった。


 その時、ふと横を見ると、はやてにプレゼントしたペンダントにはめ込まれていたジュエルシードがペンダントから外れ、英数字のⅩの文字を浮かべて青白い光を放っていた。


 ふいにガイバーゼロは右腕を動かしてジュエルシードを拾うと、握り締めた。


(俺は・・・・もう大事なモノを失いたくない!・・・・・・俺が大事に思っている人たちを守る為の力があれば・・・・どんなモノにも負けない強い身体があれば・・・・!!)


 ジュエルシードを握ったガイバーゼロは・・・・いや、零は願った。大事なモノを助けられる強い力と強い身体を・・・・と。するとジュエルシードは零の願いに呼応するかのように輝きを増して、ガイバーゼロの手から離れ、空中に浮かび上がった。


 そしてジュエルシードの頭上にある空間が突如揺らめき出し、空間が歪んで大きな物体が揺らぎの中から現われた。そしてその物体が姿を現した事に呼応するかのように、ガイバーゼロのコントロールメタルが光だし、横たわっているガイバーゼロを宙に浮かせると、物体の一部が開き、その中にガイバーゼロは吸い込まれていった。


 すると、ガイバーゼロを飲み込んだ物体の色が、徐々に蒼く変色していった・・・・・















_____________________________















 その頃、衛星軌道上で待機していたアースラは、現場の状況を聞くためになのは達と連絡を取っていた。最初の頃はシャマルの通信妨害のせいで連絡が取れない状況になっていたが、通信、映像ともに回復した時には、闇の書の意志が結界を発生させた辺りからだった。そこで明かされたなのは達の報告に、リンディは声を上げた。


「何ですって!?あのガイバーブラッドの正体が、グラーベだったですって!!?」


『はい。それで今、グラーベさんは闇の書さんを倒そうと現在戦っているんですが・・・・』 


 なのはの報告に、リンディは以前グラーベが言っていた「力を手に入れた」という言葉・・・・それはガイバーの力を手に入れたことだったのだ。だがガイバーの力はミッドチルダや次元世界では禁止とされている質量兵器・・・・グラーベはそれを知った上でガイバーの力を行使しているのではないかと思った。


 もしそうなら闇の書の力とガイバーの力がぶつかったりしたらこの世界は別の意味で破壊され尽くされてしまう。リンディはなのは達にグラーベを止めるよう指示を出そうと思ったが、今のグラーベはとても話を聞くとは思えない。


 目の前にリンディの夫であったクライドの仇がおり、自分は闇の書を倒す事ができる力を持っている。もしグラーベが、なのはやフェイト達をも“自分の敵”と認識したなら、邪魔者として排除しようとするかもしれない。


『リンディ提督!!』


「はっ!どうしたの!?」


『グラーベさんが闇の書に押され始めています!!このままじゃ・・・・』


 ユーノの声に我に返ったリンディは、どうしたのかと問い掛けると、ガイバーブラッドが闇の書の意志に押され始めている事を聞いた。とその時だった。


「かっ、艦長!!あの結界内に小規模ですが次元震反応を確認!!」


「ええっ!?」


「しかもこれ・・・・ジュエルシード反応!?」


 突然声を上げたエイミィの報告を聞いたリンディは、あの結界内で何が起きているのか分からなくなってしまった。














_________________________________















 ガイバーブラッドは焦っていた。闇の書の意志の攻撃は、ヘッドセンサーを駆使して回避できていたが、徐々に自分が押され始めている事に気づき始めた。その理由はガイバーを纏っている時、自分は“魔法が使用できなくなってしまった”ことだった。


 それはなのは達がリンディと通信している頃に起こった・・・・・ガイバーブラッドはヘッドビームやプレッシャーカノンなどの遠距離攻撃で闇の書の意志を攻撃しつつ、距離を詰めて高周波ソードで斬る、という戦法を取っていた。だが・・・・


「刃をもって・・・・血に染まれ・・・・【ブラッディダガー】」


<Blutiger Dolch.>


 闇の書の意志は小さく呟くと、自分の周囲に魔力で生成した赤い小型のナイフを展開し、ガイバーブラッドに向けて発射した。それに対しガイバーブラッドはヘッドビームを連射して撃ち落そうとしたが、ブラッディダガーの数が予想外に多く、幾つか撃ち洩らしてしまったが、ガイバーブラッドは防御障壁を展開させようと手を前に出した。しかし・・・・


「何っ!?魔法が発動しないだと!?」


 前に手を差し出したガイバーブラッドだったが、何故か魔法が発動せず、ブラッディダガーの直撃を正面から受けてしまった。そして体に突き刺さった赤いナイフは爆発起こし、ガイバーブラッドの装甲を傷だらけにしてしまった。


 強殖装甲の装甲は意外に脆く、剣などで斬られれば傷ができ、そこからもちろん出血もする。さらにガイバーブラッドは、元々グラーベがガイバーを手にした時の精神状態によって、グラーベの【強い力が欲しい】という想いを読み取ったコントロールメタルは、強殖装甲を攻撃重視の設定にしてしまい、防御面では零の纏っているガイバーゼロより劣っていた。


 魔法が発動できないという事は、防御の面では完全に劣っているガイバーブラッドは、こちらが不利になっているとこの時に気づいた。しかも闇の書の意志は、ガイバーブラッドに対し、主であるはやてや守護騎士達、そして零を傷つけたことによって、使用する魔法は全て殺傷設定にしていた。


「くそっ!!魔法が使えないなら、ガイバーの力で倒せばいいだけだっ!!」


 ガイバーブラッドは高周波ソードで再び闇の書の意志に斬りかかろうとした時だった。闇の書の意志は横から斬りかかろうとするガイバーブラッドの高周波ソードを姿勢を低くして回避し、ガイバーブラッドの顔面に向けて魔力を込めた右ストレートを放って吹き飛ばした。


「ぐっ、ぐわぁぁぁぁぁっ!!」


 闇の書の意志の右ストレートはガイバーブラッドの額に命中。吹き飛ばされた後、反撃してくるかと思いきや、ガイバーブラッドは突然苦しみ出した。なんと闇の書の意志の攻撃は、運悪くガイバーブラッドのコントロールメタルに直撃してしまい、それによって強殖装甲の制御が一時的におかしくなってしまったのだ。


 ガイバーブラッドのコントロールメタルは再び輝き始め、なんとか強殖細胞の制御に成功するが、その隙に闇の書の意志は自分の左右に黒紫の球体を出現させ、ガイバーブラッドを取り囲むように移動し出した。


「これで消えろ・・・・【ナイトメア・ハウリング】!!」


 闇の書の意志の手から発射された黒紫色の魔力砲と共に、先程作り出した球体【ハウリング・スフィア】からも同様に魔力砲が発射された。しかもガイバーブラッドは先程のコントロールメタルへのダメージによって反応が遅れてしまい、三方向から迫る魔力砲撃によって、ガイバーブラッドの右腕と左足は消し飛ばされてしまった。


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 自分の体を消し飛ばされてしまった痛みに耐えるガイバーブラッドだったが、闇の夜の意志は悠然とした態度でガイバーブラッドを見つめていた。


「さあ、次で止めを刺してやろう・・・・主を傷つけた罪、その身で償え・・・・」


「くっ・・・・消えるのは・・・・貴様の方だぁぁぁぁっ!!」


 闇の書の意志が攻撃態勢になる前に、ガイバーブラッドは自分の左胸の装甲を引っぱって装甲を展開させると、そこから大きなレンズが顔を出した。そして青白い光が集束し始め、ガイバーブラッドは闇の書の意志に向けて【メガスマッシャー】を発射した。


「旅の扉よ・・・・開け・・・・」


 誰もが闇の書の意志にメガスマッシャーが直撃すると思った・・・・だが、闇の書の意志は小さく呟くと、なんとシャマルの使用していたクラールヴィントの能力【旅の扉】を自分の正面に出現させ、ガイバーブラッドのメガスマッシャーは旅の扉の中へと消えていった。


「何っ!?そんな馬鹿なっ!!?」


 メガスマッシャーの威力は、管理局の武装隊が12人がかりで展開した結界を破壊するほどのモノ・・・・・それを闇の書の意志は簡単に防いでしまったのだ。そして次の瞬間、ガイバーブラッドのちょうど真下の位置の空間が開き、そこから青白い閃光がガイバーブラッドを飲み込んだ。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 ガイバーブラッドを飲み込んだ閃光は、闇の書の意志が発動させた【旅の扉】で防いだメガスマッシャーだった。なんと闇の書の意志は旅の扉でガイバーブラッドの放ったメガスマッシャーを反転照射してきたのだ。


 自身の放ったガイバー最強の武装であるメガスマッシャーに飲み込まれたガイバーブラッドは跡形もなく消滅してしまった。闇の書の意志はゆっくりと手を下ろすと、周囲を見渡して次のターゲットを探し始めた。


(隠れたか・・・・だが、隠れたところで、この結界から外へは逃げられはしない・・・・)


 闇の書の意志は、再び右手を天に向かって掲げると、黒い稲妻を帯びた光球を作り出した。しかもその光球は徐々に大きさが増していった。















_________________________________















 ガイバーブラッドが放ったメガスマッシャーを闇の書の意志が反転照射し、ガイバーブラッドが消滅したのを目撃したなのは達は、驚きの表情になっていた。何せ、以前なのはとフェイトは、ガイバーゼロのメガスマッシャーを間近で目撃し、その閃光はなのはのディバインバスターの強化版である【ディバインバスター・エクステンション】を相殺させたほどの威力を持っていたからだ。


「ぐっ、グラーベさんが・・・・」


「そんな・・・・」


<マスター、前方から魔力反応の増大を確認!>


 なのはとフェイトはリンディにどう報告しようか考えていた時だった。突如魔力の増大を感知したレイジングハートの声に、闇の書の意志の方を見ると、黒い光球が黒い稲妻を帯びて徐々に大きさを増しているのを確認した。すると今度はその黒い光球が徐々に縮小し始めた


「まさか・・・・・空間攻撃!?」


 フェイトは闇の書の意志がやろうとしている魔法が、空間攻撃型の魔法だと素早く認知すると、ユーノとアルフにすぐに移動するよう叫んだ。


「闇に染まれ・・・・【デアボリック・エミッション】!!」


 闇の書の意志の呟きと共に、空間広域魔法である【デアボリック・エミッション】を発動させ、縮小していた黒い光球は一気にその大きさを膨らませ、闇の書の意志を中心に魔力爆発を起こした。なのは達四人はすぐに移動して回避する事ができたが、そのせいで闇の書の意志に自分達の位置を晒す結果となってしまった。


「見つけたぞ。主を傷つけたもう一つの存在・・・・」


 闇の書の意志はなのはとフェイトを見つけると、背中の翼を羽ばたかせ二人に急接近し出した。闇の書の意志は、仮面の男ら・・・・つまりロッテとアリアが化けていたなのはとフェイトの事も倒すべき“敵”と認識しており、はやてを傷つけた敵対象と見ていたのだ。


「くっ!バルディッシュ!!」


<Haken Form.>


 接近してくる闇の書の意志に、フェイトはバルディッシュをハーケンフォームにして迎え撃つ。黄色の閃光と黒紫色の閃光が互いにぶつかり合う中、ユーノは魔法陣を展開し、フェイトと戦っている闇の書の意志の隙をついて、チェーンバインドを闇の書の意志の足に絡ませて動きを封じ、さらにアルフもバインドを発動させて右手を封じる。


「・・・・砕け・・・・」


<Breakup.>


 闇の書の意志はユーノとアルフのバインドをすぐに解除したが、その隙にフェイトとなのははお互いに砲撃魔法を発動させた。


<Plasma smasher.>


「ファイアッ!!」


<Divine buster, extension.>


「シュートッ!!」


 フェイトとなのはの放った【プラズマ・スマッシャー】と【ディバインバスター・エクステンション】の二つの閃光が闇の書の意志に迫る中、闇の書の意志は冷静に対処する。


「・・・・盾・・・・」


<Panzerschild.>


 両手にベルカ式の魔法陣を展開した闇の書の意志に、なのはとフェイトの砲撃魔法が直撃するが、強固な防御魔法なのか全く破れる様子はなかった。さらに闇の書の意志は、なのはとフェイトが砲撃している間動けない事を利用し、ガイバーブラッドと戦っていた時に使用した【ブラッディダガー】を発動して二人に攻撃を仕掛けた。


「咎人達に・・・・滅びの光を・・・・」


 ブラッディダガーによるダメージを食らったなのはとフェイトは闇の書の意志の動きを見て驚いた。闇の書の意志の差し出した右手の前に、桃色のミッド式魔法陣が展開され、周囲の魔力がまるで流星群のように集まり出したのだ。


「あれは、まさか・・・・!?」


「スターライト・・・・ブレイカーッ!?」


 なんと闇の書の意志が発動させようとしていた魔法は、なのはの砲撃魔法の中で最強の威力を誇る【スターライトブレイカー】だった。アルフは「何故スターライトブレイカーを使えるのか?」と疑問を口にしたが、ユーノは以前、なのはが闇の書に魔力を蒐集された時にコピーされたのかも・・・と言った。しかしあの時は、ガイバーゼロの妨害で魔力蒐集が完了する前に途中で中断されてしまった筈だった。


 実はあの時、なのはから蒐集した一部の魔力の中に、スターライトブレイカーの情報が既に闇の書の中に吸収されてしまっていたのだ。


「星よ集え・・・・全てを撃ち抜く光となれ・・・・」


 闇の書の意志がスターライトブレイカーを放とうと魔力をチャージしている隙に、フェイトはユーノとアルフに急いで離れるように言い、フェイトも機動力のないなのはを連れてこの場から離れた。


「ちょっ、フェイトちゃん、こんなに離れなくても・・・・」


「至近で受けたら、防御の上でも落とされる。回避距離を取らなくちゃ!!」


 なのはの疑問にフェイトは回避距離を取らないと防御しても撃墜されると言って猛スピードで闇の書の意志から距離を取る。フェイトがこれほど焦る理由は、かつてP・T事件の際になのはと一騎打ちを挑んだ時、自分もなのはのスターライトブレイカーを威力その身で知っているからだ。


 しかも前の時とは違い、なのは自身もフェイトと別れてからの半年間、魔法の訓練中にスターライトブレイカーを強化しており、威力は以前とは段違いになっていた。
 

<左方向300ヤード、一般市民がいます>


 ビルの間を高速で移動するフェイトとなのは。その時、バルディッシュから近くに一般市民がいるという報告を聞き、二人は驚く。結界が張られていることは、魔力を持たない者は強制的に排除されているはず、その結界内に何故一般市民が取り残されているのか・・・・・なのはとフェイトは急いでバルディッシュの報告にあった場所へと飛んだ。


 結界内に取り残された少女は不安そうに辺りを見渡していた。その時、周囲を見回っていたのか一人の少女が駆けつけてきた。


「やっぱり誰もいないよ!急に人がいなくなっちゃった・・・・辺りは暗くなるし、何か光ってるし、一体何が起きてるのっ!?」


「とにかく逃げよう、できるだけ遠くに・・・・」


 そこにいた少女は、なんとアリサとすずかだった。彼女たちははやてのお見舞いを終えた後、一緒に帰宅しようと街を歩いている時、突然周囲の景色が変わったと思ったら自分たち以外の人が忽然と姿を消してしまったのだ。不安がるすずかだったが、アリサと共に光の見える方とは逆方向に駆け出した。


 なのはを抱えたフェイトは方向を変えて一般市民のいる場所へと急行していた。もうすぐ闇の書の意志がスターライトブレイカーのチャージが完了し、自分たちに向け放たれでもしたら、一般市民も巻き込んでしまうからだ。


「なのは、この辺だよ!!」


「うんっ!」


 報告のあった位置に着いたフェイトは、なのはを放して降ろすと、空中を一回転して信号機の上に着地する。着地したなのははコンクリートの地面を滑りながら停止し、一般市民を探す。すると建物の間の狭い道から必死に走っている二人の少女の姿を確認した。


「あの!すみません!!ここは危ないですから、ここでじっとしていてください!!」


「えっ!?今の声って・・・・」


 突然の声にすずかとアリサは足を止めて振り返ると、そこには顔の知った友人であるなのはとフェイトの姿があった。なのはとフェイトも何故アリサとすずかの二人がここにいるのか疑問に思ってしまうが、二人に自分達の違う一面・・・・魔導師としての姿を見られた事に唖然としてしまった。











 その間に闇の書の意志はチャージを完了し、スターライトブレイカーを放とうとした時だった。突然自分のいる場所の上空を巨大な蒼い物体が通り過ぎていき、その姿に振り上げた手を止めてしまった。


<マスター!!未確認飛行物体がこちらに接近中。気をつけてください!>


「えっ!?」


 レイジングハートの警告を聞いたなのははふと空を見上げると、蒼い何かがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。フェイトも同様だったらしく、バルディッシュを構えて警戒する。


「なのはちゃん?フェイトちゃん?」


「ちょっとアンタ達!!何よその格好は!!?」


「アリサちゃん、すずかちゃん!ちょっとじっとしてて!!」


 状況を掴めていないアリサはなのはとフェイトに質問するが、なのはは二人に動くなと言って黙らせる。そして接近してきた未確認飛行物体がなのはとフェイトの前に降り立った。目の前に降り立った蒼く巨大な物体はまるで何かの蛹のような形をしていた。


 なのはとフェイトの二人はデバイスを構えて警戒していると、蛹らしき物体から「ドクン!!」という脈動が響き渡り、物体の装甲が一つ一つ開き始めた。そして物体の中から大きな・・・・全長二メートルをゆうに超えた人の姿をした蒼い巨人が現われた。


「こっ、今度は何!?」


「なっ、何?これは・・・・」


「おっきな・・・・人?」


 突如現われた蒼い巨人にアリサは声を上げて驚き、フェイトとなのはも目の前にいる上を見上げないと顔が確認できない程の大きさの巨人に唖然としていた。その時、巨人の頬に付いている二つの排気口から煙を噴出し、額の一回り大きくなったような銀球体が光りだした。


「うっ、ここは・・・・この身体は一体・・・・!?」


 薄らと意識が戻りつつあった零は自分の視界が随分高い場所にあると思いつつ、自分の手を見て自身の姿が変わっている事を認識していると、突然後ろから巨大なエネルギー反応を感知して後ろに振り返えろうとした時だった。


「貫け、閃光・・・・スターライト・・・・ブレイカー」


 巨大な物体が通り過ぎた事で手を止めていた闇の書の意志は、気を取り直してなのは達のいる位置にスターライトブレイカーを発射した。蒼い巨人の存在に唖然としていたフェイトは、スターライトブレイカーが発射された事に気づき、声を上げた。


「あっ!不味い、なのは!!急いでアリサ達を!!」


「うん!!」


「何!?アリサちゃんとすずかちゃんだと!?」


 フェイトの声になのははアリサとすずかの前に立つとレイジングハートを構えた。零はフェイトの声に反応して前を見ると、そこにはアリサとすずかがいた。そして後ろを振り返ると、離れた場所に桃色に光る閃光がこちらに迫りつつあった事に気がついた。


 魔力を持たないアリサとすずかを守る為に二人の前に出たなのはとフェイトは魔力障壁を展開して身構えていると、そのさらに前に蒼き巨人の姿となった零が立ち塞がり、桃色の閃光が五人を飲み込んだ。


 スターライトブレイカーに飲み込まれたなのはは衝撃に耐えようと目を瞑って身構えていたが、一向に衝撃などがこない。なのはは恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が目に入った。なんと前に立っていた蒼き巨人が白い膜のようなモノを作り出し、スターライトブレイカーの閃光を周囲に拡散させていたのだ。


 実はスターライトブレイカーに飲み込まれる前に、蒼き巨人の額にあるコントロールメタルが光だし、巨人の大きな肩に設置されている【エネルギーアンプ】が重力エネルギーを増幅させ、強力な電磁バリアを展開させていたのだ。


「こっ、これは・・・・魔力が拡散されている?」


「すっ、凄い・・・・」


 強大な魔力の塊であるスターライトブレイカーを完全に防いでいる蒼き巨人の力になのはとフェイトは驚きを隠せずにいた。このバリア能力は、零の新しい姿【ギガンティック】を纏ったガイバーゼロ・・・・言うなれば【ギガンティック・ゼロ】の能力の一つだった。





























 第十七話完成!!


 遂に登場、巨人殖装【ギガンティック】!!感想で「ギガンティックは作り出せないだろう」という意見がありましたが、この小説では、ジュエルシードが零の願いをかなえるために、異次元空間を漂っている未使用中の巨人殖装を無理矢理引っぱってきて、目の前に来た蛹のコントロールをガイバーゼロのコントロールメタルが殖装者として登録した為にギガンティックになった・・・・という感じと思ってください。(かなりご都合的ですが・・・)


 ちなみにガイバーを纏った際に魔法が使えなくなる設定は、さすがにガイバーで魔法を発動できたりしたらチートすぎると思ったからです。ガイバーだけでもチートですが・・・・

 しかしガイバーブラッド・・・・なんか呆気なくやられたようになってしまいましたが、熱戦を期待していた方には申し訳ありません・・・・でも完全消滅したわけではないので、もしかしたら・・・・・これ以上は言えません・・・・


 ではまた次回お会いしましょう!


 そういえば、Asポータブルでの闇の書の闇の封印って、原作通りにアルカンシェルで吹き飛ばしてなのだろうか・・・・それとも、コアを露出させてから封印作業をしたのだろうか?その辺はどうなんだろう・・・

 皆さん、真相はどうなっているのか知ってますか?







[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十八話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/05/20 23:07














 過去にはやてと同じ年頃の妹がいた事を思い出し、今度こそ“大事な人を助けたい”と願った零の想いに答えたジュエルシードは、別次元に存在していた“あるモノ”を呼び出し、ガイバーゼロはそのあるモノの中に収納されていた巨人殖装【ギガンティック】を纏い、蒼い巨人殖装【ギガンティックゼロ】となった。


 闇の書の意志の放ったなのはからコピーしたスターライトブレイカーを防いだギガンティックゼロの後ろにいたなのはとフェイトは驚きを隠せずにいた。


「なっ、何が起きたのよ・・・・?」


「今の光は・・・・?」


 桃色の光に飲み込まれた瞬間に目を瞑って抱き合っていたアリサとすずかは、ギガンティックゼロの展開したバリアの中で唖然としていた。そして暫くすると、ギガンティックゼロはバリアを解除し、攻撃のあった方向を見上げる。


『なのはちゃん、フェイトちゃん!大丈夫!?』


「エイミィさん!?」


「エイミィ、丁度良かった。今ここにアリサとすずかがいて・・・・座標を教えるから、今すぐに二人を安全な場所に避難させて!!」


『えっ!?わっ、分かった!すぐに転送するよ!!そっ、それより、二人の傍にいる蒼い大きな人は一体誰!?』


 衛星軌道上で待機しているアースラにいるエイミィから通信を受けたなのはとフェイトは、すぐにアリサとすずかを安全な場所に転送させるようエイミィに話す。二人の連絡を受けたエイミィは、すぐにコンソールを操作して転送の準備をするが、なのはとフェイトの映像に映っているギガンティックゼロの姿に驚きの声を上げていた。


 なのはとフェイトは「分からない」とエイミィに言う。それもそのはず、目の前にいるギガンティックゼロが、元はあのガイバーゼロだということを・・・・・


「アリサ、すずか、もう大丈夫だよ」


「すぐに安全な場所に運んでもらうから、もう少しじっとしててね」


「あの・・・・なのはちゃん、フェイトちゃん・・・」


「ねぇ、ちょっと・・・・」


 アリサとすずかは目の前にいる違う一面の友達の姿に、どういうことか説明を求めようとした時、自分達の足下に魔法陣が出現し、次の瞬間には二人の姿は消え去ってしまった。なのはとフェイトは自分たちが魔導師であることがアリサとすずかにバレてしまったと悔やんでいたが、そこへエイミィから再び通信が入った。


『なのはちゃん、フェイトちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんは無事に安全な場所に送り届けたよ。それでクロノ君から連絡、闇の書の主に・・・・はやてちゃんに、投降と戦闘停止を呼びかけてって!』


 通信を聞いたなのはとフェイトは、アリサとすずかが無事に安全圏に送られた事に安堵し、二人は念話を使って闇の書の意志に話し掛けてみた。


『はやてちゃん、それに闇の書さん。止まって下さい!ヴィータちゃん達を傷つけたのは、私達じゃないんです!!』


『シグナム達と私達は・・・・』


『それはどういう意味かな?なのはちゃんにフェイトちゃん・・・・』


『えっ!?』


 目を瞑って闇の書の意志に話し掛けたなのはとフェイトだったが、それに答えたのは別の人物・・・・しかも男性の声だった。なのはとフェイトは目を開いて声の主を探していると、目の前にいるギガンティックゼロがこちらを見ている姿が目に入った。だが二人は何故巨人が自分達の名前を知っているのか分からないでいた。


『あっ、あの・・・・あなたはもしかして・・・・目の前にいる巨人さんですか!?』


『ああ、どうやらこの姿だと、君達の通信や念話などの声を傍受できるみたいだ・・・・』


『あなたは一体・・・・それに何故、私達の名前を・・・・』


『それより、はやてやヴィータ、シグナム達を傷つけたのは自分達じゃないというのはどういうことだ?』


 なのはとフェイトの問いにギガンティックゼロは、はやてやシグナム達を傷つけたのは自分達じゃないという理由を問い掛けた。なのははヴィータ、フェイトはシグナムと話を聞いてもらう為に戦っていたが、途中で仮面の男らの乱入により、自分達はバインドで拘束され、小規模の結界に閉じ込められてしまった・・・・とギガンティックゼロに事情を話した。


「・・・・その仮面の男らの事は俺も確認した。だが、その男らがはやてを傷つけた・・・・なら、管理局の連中だったのだろう?」


「えっ!?それは・・・・」


「そうやって口では優しい事を言っておきながら、油断した隙を突いてはやてもろとも闇の書を破壊しようと考えているんだろ?」


「そんな!?そんなことはしません!私達は、はやてちゃんを助けようと・・・・」


「黙れっ!!」


 ギガンティックゼロの言った言葉に反論しようとしたなのはだったが、ギガンティックゼロは突然ヘッドビームを発射し、なのはの足下のコンクリートに命中した。赤い光線が地面に当たった部分のコンクリートには穴が開き、まるで溶けたかのように溶解していた。ギガンティックになったことで、額中央のヘッドビーマーは大型化し、ベッドビームの威力は格段に上がっていた。


「君達は信用できない・・・・だから君達の手は借りない!!」


 ギガンティックゼロはなのはとフェイト・・・・つまり管理局側の手を借りずに、はやてを助けると言って、腹部のグラビティコントローラーを起動させて闇の書の意志の方へと飛び立っていった。















________________________________















 スターライトブレイカーを放った闇の書の意志は、スターライトブレイカーの膨大な魔力の余波が収まった頃、狙いを定めた相手がどうなったか確認しようとした。しかしそこには白い結界のようなモノを発生させた蒼い巨人が目に入った。


 そして管理局の魔導師であるなのはとフェイトの二人がこちらに呼びかけて来た時、蒼き巨人はなのはに攻撃した後、こちら向けて飛んできた。


「君は・・・・一体何者だ?」


「あなたは・・・・我が主の兄君ですか?」


 ギガンティックゼロと闇の書の意志がお互いに対峙した時の一言目がそれだった。零自身、目の前にいる銀色の髪の女性は見た事もないし、闇の書の意志も先程見たガイバーゼロにしては随分姿が変わったことに若干驚いていた。


「その手に持っているのは闇の書?君もシグナム達と同じ守護騎士なのか?」


「違います・・・・我は闇の書の・・・・管制プログラムです・・・・」


(管制プログラム?・・・・そういえば、シグナムやシャマルが前に・・・・)


 闇の書の意志の言葉に、零の脳裏に、以前シグナムとシャマルが闇の書の管制人格の事を話しをしてくれた事を思い出した。


 それははやてが入院する前・・・・いや、はやての麻痺の進行がまだ進んでおらず、魔力蒐集も行っていなかった頃、はやてとヴィータが闇の書と一緒に散歩に出かけていった日の事だった。


「管制人格?それってシグナムやシャマルみたいな存在みたいなもの?」


「ああ。だが、闇の書の管制人格が起動できるようになるのは、蒐集が400ページを超えてからでしか無理だ・・・・」


「それにはやてちゃんの・・・・闇の書の主の承認が必要なんです。だからはやてちゃんが闇の書の主である限り、はやてちゃんがあの子と会う事はないんです」


 シグナムとシャマルの話を聞いた零は少し複雑な気分になった。何せ闇の書の管制人格と呼ばれる人物は、はやてが闇の書の完成を望まない限り、出会うことができないということは、こうしてシグナム達のように話をしたりできないという事なのだから・・・・


「そうか・・・・なら寂しいだろうな。はやてだったらその子も家族として迎えてくれるだろうし・・・・独りぼっちと言うのは悲しすぎる」


「・・・・そうだな。しかし零は、主はやてと似ているな」


「えっ?」


「例え誰であろうと赤の他人である筈の我らや、闇の書の管制人格すらも“家族”として見てくれているのだからな」


「そうね。そこは、はやてちゃんと似ているかも・・・・もしかして零さんにも似たよな経験があったのですか?」


「さあ、どうだろ・・・・はやてと生活しているうちに、はやてに似てきちゃったのかもな・・・・」


 シグナムやシャマルは、闇の書の管制人格も家族と見ていると思い、零ははやてと何処か似ていると話すと、零ははやてと生活しているうちに性格が似てきたかもと笑いながら答えた・・・・・この頃は・・・・・

                  
「そうか・・・・つまり君は、闇の書の管制人格だという事だな?」


「その通りです。貴方の事は闇の書を通じて見ていました。騎士達が我が主と同じように貴方を信頼し、そしてよき友として見ていた事も知っています」


「だが、君がいるということは、はやては何処に行ったんだ?」


「我が主は・・・・・私の中で永い眠りについています・・・・」


「えっ!?」


 ギガンティックゼロは闇の書の意志の言葉に驚いた。彼女が言うには、はやてはシグナム達を失った上に、目の前で兄である零がガイバーブラッドの手で殺されたことによりこの世界に絶望し、はやての愛する者を奪ったこの世界は悪い夢であってほしいと願ってしまったらしい。


「そんな・・・・それじゃあ、はやては・・・・」


「そう・・・・私が取り込みました。いや、取り込んでしまったのです・・・・」


「何故だ!!闇の書が完成すれば、はやては元気になる筈じゃあ・・・・」


「それは、今まで我の・・・・闇の書という名前に改変されてしまった事で、私の中のプログラムが闇の書完成後に、主を取り込んでしまうようになってしまったから・・・・そして・・・・」


 はやてを取り込んだと言った闇の書の意志の言葉に、ギガンティックゼロは唖然としてしまった。闇の書のプログラムがあの仮面の男らが言っていたように、既に破損してしまっていたのなら・・・・自分がやってきたことは、はやてを助けるどころか不幸にしてしまったのではないか・・・・そう零は思ってしまった。


 その時、闇の書の意志は傍にあった闇の書を開き、足下にベルカ式の魔法陣を出現させた。すると街のコンクリートの地面から何かの尻尾のようなモノが出現し、亀裂から触手のようなモノが無数に現われ、ギガンティックゼロに巻きついてきた。


「くっ!?これは、あの砂漠地帯にいた生物の!?」


「そして私はもうすぐ、自我を失い、暴走し、この世界を破壊尽くすようになってしまいます・・・・その前に貴方に頼みたい事がある・・・・」


「頼みたい事・・・・だと?」


「私を・・・・破壊してほしい・・・・貴方のその鎧なら、我を消滅させる事も可能だでしょう・・・・それも跡形もなく」


 地面から出現した物体・・・・それは以前にシグナムと一緒に魔力蒐集を行った砂漠地帯で倒した砂龍の体の一部だった。その生物の触手に身動きを取れなくなったギガンティックゼロに、闇の書の意志は涙を流しながら「自分を破壊してくれ」と頼み込んできた。


「馬鹿なことを言うなっ!!君を破壊するという事は、はやてやシグナム達を俺の手で殺せと言っているようなものじゃないかっ!!」


「だが・・・・暴走が始まれば、私は主となった者の魔力を制限なく破壊のみに使用し、主を殺してしまう。今までもそうだった・・・・だから主が幸せな夢を見ているうちに、一思いに・・・・」


「そんなこと・・・・できるかぁぁぁぁぁっ!!!!」


 闇の書の意志の頼みを聞いたギガンティックゼロは、自身に巻き付いていた触手を力一杯引き千切った。それにより触手はバラバラになり、ギガンティックゼロは自由の身になった。そして涙を流す闇の書の意志に言い放った。


「君はそんな事、望んでいる訳はないだろうっ!!君だってはやてと一緒に生きたいと思っている筈だろっ!!」


「・・・・もう手遅れなんだ・・・・」


「手遅れなんかじゃない!!俺は、はやてを・・・・俺の大事なモノを今度こそ守ると誓った!!だから殺したりしない!そしてシグナムやヴィータ!シャマルにザフィーラ!!そして君も!!俺が救ってみせる!!」


「だが・・・・私の中で永久の眠りについてしまった主は、もう目覚めない・・・・今更どうしようもないんです・・・・」


「眠っているというのなら・・・・叩き起こすまでだ!!」


 ギガンティックゼロは、自分の過去で失った大事なモノを救えなかったが、今度は救ってみせると叫び、シグナム達に念話をする時の要領で、コントロールメタルに意識を集中させた。するとギガンティックゼロの額の【デュアルコントロールメタル】は光を放ち始めた。そして今までシグナム達と連絡し合っていた時の要領ではやてに念話を送ってみた。


『はやて・・・・聞こえるか!?はやてっ!!』


「無理・・・だ・・・・くっ、駄目だ・・・・もう、暴走が・・・・」


 念話を使って闇の書の意志の中で眠るはやてに呼びかけるギガンティックゼロに対し、闇の書の意志は急に苦しみ出し、次の瞬間、まるで自分の意識とは関係ないようになってしまい、ギガンティックゼロに攻撃を仕掛けてきた。


「うわぁぁぁぁぁっ!!!」


 闇の書の意志の右ストレートを受けたギガンティックゼロは、そのまま建物の壁をいくつか貫きながら吹き飛ばされてしまった。そして間髪入れずに闇の書の意志はギガンティックゼロに向かって飛んでいく。


「いてて・・・・いきなりグーパンチかよ・・・あたっ!?」


 建物の壁を打ち抜いて室内に突っ込んだギガンティックゼロは、体を起こして外に出ようとするが、起き上がった際に天井に頭をぶつけてしまった。零は自分が巨人になっている事をすっかり忘れていた。


 気を取り直して建物から出たギガンティックゼロの前に、闇の書の意志が目の前に降り立った。


「分かった・・・だろ?・・・頼む・・・早く・・・・私を・・・・」


「何度言われようと、俺は諦めない!!」


 ちょっとしたボケをかましてしまった零は、闇の書の意志を・・・・そしてはやてを助けようと、必死にはやてを呼び叫んだ。しかしその間にも、闇の書の意志はギガンティックゼロに猛攻撃を仕掛けてきた。














____________________________________















 外でギガンティックゼロと闇の書の意志と対峙していた頃、闇の書の内部に取り込まれていたはやては、いつもと変わらない騎士達との幸せな生活を送っていた。しかしはやては普段と変わらない生活の筈なのに、何か・・・・そう、何かが足りないような気分になっていた。


「う~ん・・・・」


「どうかいたしましたか?主はやて」


「いやな・・・・皆とお茶を飲もうかと思ったんやけど、何故か五人分のお茶を入れてしもたんや・・・・・」


 シグナム達とお茶を飲もうと、はやては四人分のお茶を用意しようと皆の湯飲みを用意したが、数えてみると何故か五人分のお茶を入れてしまい、はやては自分の行動が腑に落ちないでいた。しかも湯飲みの中に見慣れない湯のみが一つあり、はやては「誰のやろ?」と思ったが、何故かその湯飲みを見ていると、頭の中に一人の青年の姿が朧げながらも思い浮かんだ気がした。


「なあ、シグナム」


「はい?」


「確かもう一人・・・・誰かがいたような気がするんやけど、分かるか?」


「もう一人・・・・ですか?・・・・気のせいじゃないですか?」


「う~ん、せやろか・・・・」


 脳裏に浮かんだ人物がこの湯飲みの持ち主ではないかと思ったはやては、シグナムに自分たち以外に誰かいたか問い掛けてみたが、シグナムは気のせいだと言った。だが、はやてには「果たして気のせいだろうか?」と思いつつ、湯飲みに口をつけた。














__________________________________















 はやてを助けようと奮闘するギガンティックゼロ。しかし、巨人殖装を装着した時に得た情報の中あったギガンティックの武装では、闇の書の意志とはやてを助けるどころか殺しかねないものばかりだった。それによって、ギガンティックゼロが現在使用できる武装といえば、両肩の【エネルギー・アンプ】による電磁バリアで闇の書の意志の攻撃を防ぐぐらいしかできなかった。


 しかし闇の書の意志は、闇の書の魔力蒐集の為に蒐集対象にしていた生物達を召喚してギガンティックゼロにぶつけてきた。その中には、最初にガイバーゼロが倒した大蛇や、地を這いずりながら大きな顎で噛み付き攻撃をしてきた轟龍もいた。


 その生物達に対しギガンティックゼロは、手首の部分にある【グラビティ・アンプ】にエネルギーと溜め込んで、生物達に向けて拳を放つと、そこから重力エネルギーが大砲のように飛び出し、生物達を重力の衝撃波で吹き飛ばした。そして先ほどの砂龍やその触手に対しては両腕の高周波ソードで切り裂きながら防いだ。


 しかし、この攻防戦はハッキリ言ってギガンティックゼロに不利な状況になっていた。確かに巨人殖装のスペックなら、どんな相手だろうと負ける事はまずないだろう。しかし闇の書の意志の使用している魔力は、闇の書に蓄えたれた膨大な量の魔力を使用しているだろうが、その魔力はイコール“闇の書の主の魔力を使用”しているという事に繋がる。


 つまりこのまま戦闘を長期化させていては、いずれ闇の書の主となったはやての持つ魔力を使い果たしてしまい、結果はやてが死んでしまうという可能性があった。そのことを考えると、いち早くはやてとコンタクトを取らなければならない。


「このまま長期戦になれば、はやての魔力が尽きて死んでしまう・・・・こうなったらイチかバチかだ!!」


 攻防一戦の中でもギガンティックゼロは必死に闇の書の意志の中で眠るはやてに呼びかけていたが、一向に変化がないことに焦りを見せる。そしてギガンティックゼロはイチかバチかの賭けに出た。


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ギガンティックゼロはバリアを張りながら背中のプラズマジェットによるブースターを噴射させて闇の書の意志に向かって突撃をかけた。闇の書の意志はそんなギガンティックゼロに対し、ハウリングスフィアを二つ生成すると、ギガンティックゼロに向かってナイトメアハウリングを発射してきた。


 ギガンティックゼロはナイトメアハウリングに飲み込まれてしまうが、バリアを展開させていたギガンティックゼロにはダメージはなく、そのままギガンティックゼロは闇の書の意志に接近してきたが、目の前で速度を落とし、バリアを消して彼女の両肩を掴んで動きを封じた。


「っ!?一体・・・・何を!!?」


「これだけ接近すれば、いやでも聞こえる筈だ。はやてっ!俺の声が聞こえるか!!はやてっ!!!」


 零が考えたイチかバチかの賭け・・・・それは闇の書の意志の至近距離で、はやてに呼びかけることだった。念話なら距離があっても聞こえるが、至近距離で呼びかければ必ず聞こえる筈だと零は考えていた。


 だが、この状況はギガンティックゼロには少し不利な部分があった。それは自分も身動きが取れず、バリアを展開させても闇の書の意志もバリア内に留めてしまい、闇の書の意志の攻撃はギガンティックゼロに直接攻撃が出来てしまう。


 案の定、闇の書の意志はギガンティックの腕力で身動きが取れないでいたが、足下に魔法陣を展開させると、ギガンティックゼロの背後にブラッディダガーを出現させて攻撃を仕掛けてきた。


 全長二メートル強あるギガンティックゼロの身体にブラッディダガーが次々と突き刺さり、着弾と同時に爆発を起こした。ブラッディダガーは一つ一つの威力はさほど脅威ではないが、数があれば小さいダメージでも徐々に蓄積されていけば、大ダメージへと変わっていく。


『くっ、はやてっ!お願いだ・・・・俺の声を聞いてくれっ!!』














_________________________________















 夢の中にいるはやては、やはり何かがおかしいと感じ始めた。何かが自分の中から抜けている・・・・そんな感じだ。自分やシグナム達以外に誰かもう一人・・・・自分にとって“何か”大切な人がいないと思った時だった。


「あっ、くっ、頭が・・・・・・」


「!!?はやてちゃん!!」


「はやて!!どうしたんだ!!?」


 突然頭の痛みを感じたはやては頭を抱えて蹲ってしまった。そんなはやての姿にシャマルとヴィータが慌ててはやてに駆け寄り、シグナムとザフィーラもやって来る。激しい頭痛を感じているはやての脳裏に一人の青年の後ろ姿が映った。そして青年は振り返るとニッコリとした笑顔ではやての名を呼んでいた。


(はやて、どうしたんだ?)


(あははははっ!!はやて!!)


(大丈夫だ、はやて・・・・君は俺が守るからっ!!)


 次々と浮かび上がる青年の姿と声に、はやては「はっ!」となった。そして同時に頭の痛みは消え、頭の中がまるでスッキリとした感じになった。そしてはやては一人の青年の名を呟いた。


「・・・・零・・・兄ぃ・・・・」


「はやてちゃん?」


「零兄ぃ・・・・そうや!!誰かがいないと思ったら零兄ぃがいないんや!!」


 零の事を思い出したはやては、立ち上がろうとしたが、何故か足に力が入らず転んでしまう。だが、はやては特に驚きはしていなかった。そう、これこそ真実・・・・自分の足は麻痺の為に不自由であった事の・・・・・


「はやて!大丈夫!?」


「・・・・大丈夫や、それより皆!零兄ぃの事は覚えとるか!?」


『えっ?』


 心配するヴィータに、はやては大丈夫だと言い、はやてはシグナム達に零の事を覚えているか問い掛けてみた。するとシグナム達は、はやての言葉に「えっ?」とした表情になるが、すぐにはやてを見て「そんな人物は知らない」と答えた。


「そんな筈ないで!!シグナム、いつも零兄ぃと一緒に病院に通ってくれたやんか!!」


「それは・・・・あくっ!?」


「シャマル、零兄ぃのおかげで料理の腕が上がったって言うて喜んでたやん!!」


「えっ?・・・・あっ!?」


「ヴィータ、いつも自分の我侭を零兄ぃは笑って許してくれたり、あののろいうさぎのぬいぐるみを買ってもくれたやん!!」


「うっ、うわぁぁぁ・・・・」


「ザフィーラ、あんまり喋らんけど、零兄ぃとはよく話しをしてたやんか!!」


「ぬっ、ぐわぁぁぁぁ・・・・」


 零の事を忘れているシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラの四人に、普段から皆の事を見てくれていた零のことを、はやては必死に思い出させようとした。するとシグナム達は急に頭を抱えて苦しみ出し、足下から徐々に姿が光の粒子へとなって消えていってしまった。


 そしてシグナム達が消滅してしまった後、はやての周囲が徐々にヒビが入り始め、はやてを中心に景色が「ガシャーン」とガラスが割れたような音と共にはやての意識は途切れてしまった。


『はやて!俺の声が聞こえるか?はやてっ!!』


 だが意識が途切れる瞬間、はやての頭の中に自分を必死に呼んでくれている零の声が聞こえた。














_____________________________















 闇の書の意志のブラッディダガーによる熾烈な攻撃に、さすがのギガンティックゼロも体中に痛みを感じていた。しかしそれでもギガンティックゼロは闇の書の意志の両腕を離そうとはしなかった。


「頼む・・・・もう離してくれ・・・・このままでは、私は貴方も殺してしまう・・・・」


「いやだね・・・・いくら攻撃されようと、離したりしない・・・・」


 自分の攻撃を何度も受けているギガンティックゼロに、闇の書の意志は離れるよう言うが、ギガンティックゼロは闇の書の意志の腕を離そうとしない。その行為に闇の書の意志は零の考えが分からないでいた。


「私はもう・・・・ただ破壊を繰り返すだけの道具だ・・・・何も躊躇う必要はない・・・・」


「道具なんかじゃない。君はシグナム達と同じように、自分の意志を・・・・心を持っているはずだ。それに君自身だってこうなる事を望んではいない筈だ!!でなければ・・・・そうやって悲しい表情をしたり、涙を流したりはしない!!」


 自分はただの道具だと言い張る闇の書の意志に、ギガンティックゼロは真っ向から否定した。闇の書の意志だって自分自身こうなる事は望んでいない・・・・自分だって笑って生きたい・・・そう望んでいるのだと零は思っていた。


「人は変われるんだ・・・・悲しみばかりの運命なんて存在しない。変えようと思えば、変われるはずなんだ!!シグナム達も変われた・・・だから君も!!」


 零は闇の書の意志に「変われるはずだ」と言って必死に訴えかけるが、闇の書の意志は自分の腕を掴んでいるギガンティックゼロの腕目掛けてブラッディダガーを発射し、ギガンティックゼロはその痛みに両手を離してしまった。


 その隙を突いて、闇の書の意志は左手をギガンティックゼロの顔目掛けて放ち、顔面に一撃を受けたギガンティックゼロはそのまま海に向かって吹き飛ばしてしまった。だが闇の書の意志は、吹き飛ぶギガンティックゼロの後を追いかけ、追い討ちをかけるように右手に魔力を込めてギガンティックゼロの腹部に向けて放った。


 魔力を込められた強烈な一撃を受けたギガンティックゼロは、そのまま海へと落下していってしまった。

































 第18話完成・・・・

 なんか自分・・・・終盤に差し掛かると、書いていく内容が滅茶苦茶になってしまう時がありますw故におかしな部分がありましたら、申し訳ございません。


 昔からの悩みどころです・・・・ところでAs編が終わったらそこ後の話も書いていこうと思っていますが、区切りとしてタイトルを変えて別にしたほうがいいか、このまま続けていった方がいいかどっちが良いと思います?








・・・・今回の没会話・・・・



「君は・・・・一体何者だ?」


「あなたは・・・・まさか、カブト頭の両肩からたくさんの玉を放出する青い人物ですか?」


「・・・・・・・(汗)」


 この会話からすぐにギガンティックゼロを何と勘違いしたか分かると思いますwかなり無茶がありますが・・・・







[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第十九話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/06/02 21:49















 ギガンティックゼロとなった零は、闇の書に取り込まれてしまったはやて・・・・そして自分を破壊してくれと頼み込んできた闇の書の管制人格を救い出すために奮闘するが、彼女の魔力を込めた強烈な一撃を受けてしまい、海へと墜落してしまった。


(う・・・・いってぇ~)


 海の中へと落ちたギガンティックゼロは、腹部の痛みを堪えながら徐々に沈みつつあった体勢を整え、グラビティーコントローラーを起動させて海上へと出ると、目の前には闇の書の意志が立っていた。


「今の一撃は・・・・結構効いたよ・・・・」


「・・・・・・・」


 息を切らしながら海上へと出たギガンティックゼロのボロボロの姿を見た闇の書の意志は一層悲しげな表情へと変わった。


「何故・・・・そこまでして私を・・・・」


「言ったろ・・・・悲しみは繰り返されない。いつかは変われるんだって・・・・シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・・守護騎士の皆だって、今まで戦うだけの道具扱いされての毎日の中で生きていたけど、はやてがマスターになった事で、人として笑ったり、楽しんだりする事が出来た。はやてだって、君を家族の一員として迎え入れてくれる筈だ!!」


「うう・・・・あぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ギガンティックゼロは、闇の書の意志だろうと家族思いのはやてなら必ず彼女も家族の一員として迎え入れてくれる筈だと言うと、闇の書の意志は苦痛にも似た叫び声を上げ、両手に黒いオーラを纏わせながらギガンティックゼロに襲い掛かってきた。


 闇の書の意志は両手に黒いオーラを纏わせてギガンティックゼロに向かって突撃し、攻撃を仕掛けてくるのに対し、ギガンティックゼロは両腕に重力エネルギーを展開させて腕をクロスさせて防御の体勢を取り、闇の書の意志の攻撃を防ぐ。しかし今まで防ぐ事の出来ていた彼女からの攻撃にある変化が生じ始めていた。


(くっ・・・・徐々に攻撃力が上がっている!?このままじゃあ・・・・)


 ギガンティックゼロは闇の書の意志の攻撃力が最初の頃より上がってきている事に気づき始めた。それは彼女の拳での攻撃だけで、巨人殖装の張った防御壁が軋み始めていたからだ。そして両腕のバリアは崩壊してしまい、ギガンティックゼロは防御がままならない状態になってしまった。


「あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 自分の意志ではどうにもならなくなってしまったのか、彼女は悲しみを含んだ声を上げながら右手に黒い光球を生み出した。そして防御もままならなくなってしまったギガンティックゼロに向かって光球をぶつけようとした・・・・・その時だった。


「ファイアッ!!」


「シュートッ!!」


 突然の声に闇の書の意志は声のあったほうを見ると、そこには六本の金色の槍状の物体と、十二個の桃色の球体が彼女に向かって飛来し、ギガンティックゼロへ向けていた黒い光球を自分に向けたれた攻撃の排除へと変更し、黒い光球を放って相殺させた後、背中の黒い翼を羽ばたかせて後方へと下がった。


 闇の書の意志の直接攻撃を免れたギガンティックゼロは、痛みを堪えながら体勢を整えなおすと、そこへ二人の魔導師なのはとフェイトがギガンティックゼロの前に現われ、その後方にはユーノとアルフがいた。


「大丈夫ですか!?巨人さん!!」


「君達・・・・」


 なのはの声にギガンティックゼロは、何故ここに二人が来たのかと一瞬疑問に思ったが、すぐに二人の目的が何かを理解し、問い掛けてみた。


「やはり君達管理局は、はやてと彼女と一緒に闇の書を破壊しようと言うのか!?」


「違います!!ここへ来たのは、自分達の意志です!!」


「えっ!?」


「私達は、はやてちゃんを助けたい!そして闇の書さんも一緒に!!」


 フェイトとなのはの言葉にギガンティックゼロは驚く。管理局は闇の書を破壊しようとしているのではなかったのか?・・・・そしてはやてごと消し去ろうとしていたのではないのか?と思っていた。















____________________________














 その頃、自身の見ていたものが夢であったことに気づいたはやては、闇の書の中にある亜空間に車椅子に乗った状態で漂っていた。


「これは・・・・ただの夢や・・・・」


「いいえ、貴女はこのまま眠りに付いていてください・・・・そうすれば、再び幸せで幸福な夢を見つづけられます・・・・」


 眠気に襲われつつも、必死に目を覚まそうとするはやての前に一人の白銀の髪を持つ女性が立っていた。そして女性ははやてに眠りにつくよう進言する。だが、はやては女性の言葉を聞き入れず、両手を上げて自分の頬を思いっきり叩いて、自分の意識を取り戻した。


「違う!こんなのただの夢や!!私はこんな夢なんか望んでない、零兄ぃのいない世界なんて、幸せでも幸福でもあらへん!!」


「ですが、目を覚ませば悲しい現実が待っているだけです・・・・ここで眠っていれば、あなたは幸せなままで・・・・」


 この亜空間で眠りつづけていればはやてにとって悲しみしかない現実から逃れられると言う女性に対し、はやては零のいない世界が自分の幸せなわけがないと否定する。


「・・・覚醒の時、今までのことは少しは分かったんよ・・・・シグナム達みたいに望むように生きられへん悲しさ・・・・私にも少しは解るよ!同じように悲しい事や寂しい事・・・一杯あったから・・・・」


「・・・・・・」


「けどな。人は変わっていけるはずや・・・・私だって去年の秋ごろまで独りぼっちで、自分なんか生きている意味なんてないんや、って思っとった・・・・でも、零兄ぃが来てからは、今までのただ悲しいだけの生活が一変して、悲しくても生きることが楽しい生活に変わって、シグナム達とも出会えた。零兄ぃやシグナム達がいてくれたおかげで、生きることの楽しさを知って、自分自身変わることが出来たんや!!」


「!?」


 今まで望むように生きられないことを一番良く知っているはやての言葉に、白銀の女性は「ハッ!」となった。はやての言葉の中には、表で戦っている零の言った言葉と同じことをはやては口にしていたのだ。“人は変わっていける”と・・・・・その言葉に白銀の髪の女性の真紅の瞳から大粒の涙が流れ出した。


「それに、忘れたらあかん・・・・」


「あっ・・・・」


「今の貴女のマスターはこの私や。マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかん!」


 はやては車椅子から身を乗り出し、涙を流す白銀の髪の女性の頬に触れる。するとはやての足下に真っ白いベルカ式の魔法陣が出現した。女性はそんなはやてを車椅子に座れるように膝を付いてはやてと目線を合わせた。


「名前をあげる・・・・もう闇の書とか、呪いの魔導書とか言わせへん。私が呼ばせへん!!」


「うっ、ううう・・・・・」


「私は管理者や、私にはそれが出来る」


「無理です・・・・自動防御プログラムが止まりません。外で貴女の兄君が止めようと戦っておられますが、それでも・・・・」


「諦めたらあかん、止まって!」


 はやての言葉に女性は何とか闇の書の機能を止めようとするが、防御プログラムが止まらずどうにもならないと諦めかけるが、はやては目を瞑って「止まれ」と願い、外にいる零に心の中で呼びかけた・・・・・


『零兄ぃ!聞こえる?零兄ぃ!!』















_____________________________















 なのはとフェイトの真意が解らないままギガンティックゼロは、四人が妙な動きをしないかどうか警戒していると、急に闇の書の意志の動きがおかしくなってきた。まるで壊れた機械のような動きをし始めた闇の書の意志に、なのはやフェイト、そしてギガンティックゼロは何か様子がおかしいと思った時だった。


「何だ?急に動きが・・・・」


『零兄ぃ!聞こえる?零兄ぃ!!』


「はやて?はやてかっ!?」


『えっ!?』


 ギガンティックゼロの声になのはとフェイトは闇の書の意志のほうを向き、念話を使ってはやてに呼びかけてみた。


『はやてちゃん!』


『はやて、聞こえる!?』


『えっ!?なのはちゃんにフェイトちゃん!?ホンマに!?』


 二人の念話に驚くはやてだったが、零となのは、フェイトの三人に目の前にいる闇の書の意志を止めてくれと伝えてきた。なんでもはやての力で魔導書本体からコントロールを切り離す事が出来るらしいが、目の前にいる闇の書の意志は、闇の書の機能である自動防御プログラムであり、防御プログラムが走っている間は管理者権限が使用できないと説明する。


 だが、なのはもフェイトもどう言う事か理解できなかったのか「ポカーン」としてしまっていた。ギガンティックゼロも魔力関係の事はあまり知らず、どうすればいいのか考え込んでしまった。


 はやての説明を近くで聞いていたユーノは、闇の書が完成しているのに管理者が自我を取り戻している状態である事を好機と思い、ある提案をなのはに話し出した。


「なのは!解りやすく説明するよ。今から言う事をなのはが出来れば、はやてちゃんは外に出られる!!」


「えっ!?」


「どんな方法でもいい!目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばして!!全力全開、手加減無しで!!」


 ユーノの話を聞いたなのはは「さすがユーノ君!分かりやすい!」と言ってレイジングハートを構えた。傍でなのはとユーノの声を聞いたギガンティックゼロは慌ててなのはの前にやってきた。


「ちょっと待ってくれ!!全力全開って・・・・そんなことをしたら、はやてはどうなる!?」


「大丈夫です。物理攻撃ではなく、魔力による攻撃ですから、中にいるはやてには何もダメージは無い筈です!」


 全力全開で闇の書の意志を攻撃しようとするなのはに、ギガンティックゼロは闇の書に取り込まれているはやてに影響は無いのかと叫ぶが、はやてには何も影響はないとフェイトはギガンティックゼロに説明する。


 だがその話を聞いた零は複雑な心境になった。自分の纏っている巨人殖装が持っている武装には魔力なんてモノは無いただの物理的な攻撃でしかない・・・・つまりあのまま戦いつづけていても、結局は自分の力だけでは、はやてを救うなんてことは出来なかったという事実に・・・・・


(だが・・・・だからと彼女らを信用できるのか?・・・・いや、でも良く考えたらあの時・・・・)


 自分の力だけでは助けられないと思っていた零だったが、目の前に居るのはあの時はやてを傷つけた本人たちが今更「助けに来た」と言っても信用できるのかと思っていた時だった。


 あの時、怒りの余りガイバーゼロに殖装して、なのはとフェイトに戦いを挑んだ時の事を冷静に考えてみたら、あの時の二人は普段手にしていた杖を持っておらず、フェイトにいたっては、いつもならバルディッシュを振って攻撃してきていたはずなのに、あの時のフェイトは真っ先に自分に蹴りを入れてきた。


(そうだ・・・・そしてあの後、彼女らに追撃をかけようとした時にその場に居たのは、あの仮面の男らだった・・・・)


 冷静にあの時の事を思い返してみたら、あの時のなのはとフェイトは、仮面の男らが何からか魔法で化けていたのではないか・・・・という結論に至った。確かに魔法を使って化けていたのなら、普段とは違う攻撃方法を取っていたなのはとフェイトの事も説明がつくし、変身系のモノならザフィーラのように姿を変えることが可能な筈・・・・・・


(もしそうだとしたら、俺は自分で勘違いをして、あの子らを拒否したという事になる・・・)


 零は内心自分の勘違いで二人に酷い事を言ってしまった事でなのはとフェイトを傷つけてしまったのではないか、と後悔した。そう思ったギガンティックゼロはなのはとフェイトに声をかけた。


「・・・・なのはちゃん、フェイトちゃん。俺はさっき君達に酷い事を言った・・・・君たちは“はやてを助けたい”と言っていたのに、結局あのまま戦いつづけていても、俺だけでは・・・・はやてを救うなんてことは出来なかったんだ・・・・」


「巨人さん・・・・」


「・・・・・・・」


「俺は管理局を信用していない。だけど君達なら信用できる気がする・・・・虫が良いことを言っているというのは自分でも分かっている・・・・だけどお願いだ!はやてを助ける為に力を貸して欲しい」


 ギガンティックゼロは自分でも虫がいいことを言っていると分かっていても、なのはとフェイトに、はやてを救うために力を貸して欲しいと頭を下げた。その様子になのはとフェイトはギガンティックゼロの前にやってきた。


「一緒に助けましょう!」


「はやてちゃんも、もちろん闇の書さんも!!」


「ああ!!」


 フェイトは目の前にいるギガンティックゼロに「闇の書の意志とはやてを助けよう」と言って手を差し出し、なのはも手を差し出した。なのはとフェイトの小さな手にギガンティックゼロも右手を前に出すと、なのはとフェイトは巨大な右手の人差し指に自分達の手を乗せた。


 そしてなのはとフェイト、ギガンティックゼロは一斉に闇の書の意志のほうに振り返ると、闇の書の意志の下の海上からあの砂漠地帯の砂龍の触手が再び出現し襲い掛かってきたが、ギガンティックゼロはなのはとフェイトを守るように高周波ソードを展開させて触手を切り裂く。


 しかし闇の書の意志は例え動けなくとも召喚などは出来るらしく、今まで蒐集の対象にしてきた生物達を次々と召喚してきた。


「この生物たちは!?」


「今まで俺やシグナム達が魔力蒐集の対象にしてきた生物達だ!中には結構な力を持った生物もいるから気をつけて!!」


「分かりました!バルディッシュ、ザンバーフォーム・・・・行ける?」


<Yes, sir. Zamber form.>


「アルフ!僕達もっ!!」


「あいよっ!!」


 色々な姿をした生物達の前に驚くフェイトだったが、バルディッシュを斧状のデバイスから大剣の形状をした【ザンバーフォーム】に変形させて、ギガンティックゼロ、ユーノ、アルフと共に生物達に突撃していった。


 なのはは闇の書の防御プログラムを止めようと魔力砲撃の為にレイジングハートを構えるが、突然レイジングハートが声を上げた。


<マスター、今の状態では力不足です。エクセリオンモードの使用を進言します>


「えっ!?でもアレはフレームを強化するまで使用するなってエイミィさんが・・・・それに私がコントロールに失敗したら、レイジングハートが壊れちゃうんだよ!!」


<私はマスターを信じています!ですから、エクセリオンモードの使用を・・・>


 レイジングハートはなのはにエクセリオンモードを使用するように進言するが、なのはは本体の強化が済んでいない状態で自分がコントロールを誤ったら、レイジングハートが壊れてしまうと拒否する。しかしなのはも口では否定しても今の状態では、闇の書の意志の防御プログラムを吹き飛ばせるのに十分な魔力ダメージを与えられるか不安があり、もし出来るとしたらスターライトブレイカーぐらいだと考えていた。


 しかし闇の書の防御プログラムは動けない状態であっても、周囲に目に見えない魔力で作り出した魔力障壁のようなものを張っているようで、並みの攻撃では破る事が出来ない。それにスターライトブレイカーを撃とうにも、周囲をフェイトとギガンティックゼロが守ってくれているとしても、少しでも妨害が入ればチャージの邪魔をされてしまう・・・・そうなのはは考えていた。


「レイジングハート・・・・私を信じてくれる?」


<はい!信じています!!>


「・・・・よしっ!レイジングハート、エクセリオンモード、ドライブ!!」


<Ignition.>


 なのはは意を決して使用を禁止されているエクセリオンモードを使用するためにレイジングハートに変形の指示を出した。するとレイジングハートの杖の部分が少し伸び、先端部分がまるで槍のように変形した。


「レイジングハート!エクセリオンバスター、バレル展開!中距離砲撃モード!!」


<All right. Barrel shot.>


 なのはの指示を受けたレイジングハートは、桃色の翼を生やし、魔力砲撃の準備に入った。その間にもギガンティックゼロとフェイトもなのはの左右に分かれて闇の書の防御プログラムが召喚してきた生物を近づけさせないように戦っていた。


「ガァァァァッ!!」


「スプライト、ザンバァァァァッ!!」


「シャァァァァッ!!」


「ハァァァァァッ!!」


 フェイトに襲い掛かるトラの姿をした獣に、スプライトザンバーで反撃して切り裂くフェイト。そしてギガンティックゼロに襲い掛かろうとする大蛇に、右手の手の平に溜め込んだプレッシャーカノンを大蛇の口目掛けてぶつけるように腕を伸ばして撃退するギガンティックゼロ。そしてユーノとアルフはなのはを捕まえようとする触手を、バインドを使って動きを封じる。


 その間、はやては闇の書の本体と防御プログラムの切り離し作業を行う為の準備をしていた。


「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る・・・・強く支える者・・・・幸運の追い風・・・・祝福のエール・・・・【リインフォース】」


 優しい口調ではやては目の前にいる女性に新しい名前を贈った。強く支え、幸福をもたらす追い風を起こし、祝福の声援を贈る者・・・【リインフォース】と・・・・そしてその瞬間、はやてと女性を光が包み込み、暗い亜空間に光が満ちた。


「エクセリオンバスター!フォースバースト・・・・ブレイクシュゥゥゥゥトッ!!」


 なのはの放った大威力砲撃魔法である【エクセリオンバスター】は、桃色の光を放ちながら闇の書の防衛プログラムを飲み込んだ。眩しい光の中、ギガンティックゼロは腕で顔を隠して光が収束されるのを待っていると、目の前にいた闇の書の意志の姿はなくなっていた。


「・・・・これで大丈夫なのか?」


「あとは、はやてちゃん次第です・・・・でも、はやてちゃんなら大丈夫!きっと帰っています!!」


 砲撃を撃ち終わったなのはにギガンティックゼロは問い掛けると、なのはは笑顔でギガンティックゼロの問いに答えた。














__________________________















 光に包まれたはやては光の満ちる空間を漂っていた。そして暫くすると、聞き慣れた優しい声がはやての耳に届いた。


「新認証・・・リインフォースを認識・・・・管理者権限の使用が可能になります・・・」


「うん・・・・」


「ですが、防御プログラムの暴走は止まりません。管理から切り離された膨大な力が、じき暴れ出します・・・・」


「うん・・・でも大丈夫や。私とリインフォース・・・・それにシグナムやヴィータ、シャマルにザフィーラ・・・・それに零兄ぃがおれば怖いモノ無しや・・・・」


 リインフォースという名を与えられた管制人格は、はやてに闇の書の防御プログラムの暴走は止まらず、時間が経てば暴れ始めると話す。しかしはやてはリインフォースや守護騎士たち、そして零がいれば怖いモノなんて無いと言って目の前に出現した闇の書・・・・いや、夜天の書を抱きしめる。


「ほなら、行こうか・・・・リインフォース?」


「はい・・・・我が主・・・・」














__________________________














 闇の書の防御プログラムが消滅し、はやてがどうなったか心配するギガンティックゼロだったが、突然頭に付いている四つに増設されたヘッドセンサーが小刻みに動き始めた。


「んっ!?何だ!?この反応は!?」


 ギガンティックゼロの声と同時に、海上にある変化が現われ始めた。海面から黒い澱みが徐々に大きくなり始め、その周囲には先ほど戦っていた大蛇や砂龍の姿をした“何か”が現われ始めた。


『なのはちゃん、フェイトちゃん、気をつけて!!闇の書の反応、まだ消えてないよ!!』


 エイミィの通信を聞いたなのはとフェイトはデバイスを構えて警戒する。海面に出現したのは、夜天の書から切り離され、膨大な力の暴走を起こそうとしている闇の書の防御プログラムだった・・・・・






















 第十九話、完成しました!!


 さぁ、いよいよ最終決戦の幕開けともなる話となりました。しかし結局なのはとフェイトの力を借りるという結果になってしまい、「前回の話であれだけ拒否したくせになんだよ!!」と思う人も多数いると思います。ホント申し訳ございませんでした。(唐突すぎるという指摘が投稿後にあったので、少し修正してみました)


 さて次回は、遂に原作でも有名(?)ともなった皆でフルボッコの話へと入っていきます・・・・それでは!!ガン○ムフ○○ト・・・レディィィ、ゴォォォォ!!(笑)オイ!

























































 ギガンティックゼロと闇の書の意志が海上へと戦闘エリアを移動させた頃・・・・結界の中には、白いボックスを持った長身の筋肉質の女性と、白衣に身を包み、眼鏡を掛けた女性がいた。


「ドクターに言われて来てみたが・・・・あれがロストロギア【闇の書】か・・・」


「早く用件をすませないと、私たちもロストロギアの暴走に巻き込まれてしまいますわぁ~」


 長身の女性と眼鏡をかけた女性は、何かを探しているように辺りを探していると、アスファルトの中央に光る銀色の物体を見つけた。


「お姉さまぁ~、コレじゃないですか?」


「・・・・・ああ、コレだ・・・」


 二人の女性は道路に転がっている物体・・・・それは闇の書の意志に自身のメガスマッシャーを反転照射されて消滅してしまったガイバーブラッドのコントロールメタルだった。しかし何処かしら損傷しているのか青白い電気をバチバチと放電していた。


「若干損傷している部分があるみたいだが、とりあえず回収しよう」


「はぁ~い」


 長身の女性は白いボックスを地面に置くと、眼鏡を掛けた女性は手袋をしてガイバーブラッドのコントロールメタルを拾い上げると、蓋の開いたボックスの中へとしまった。


「冷却装置、オン!!」


 眼鏡を掛けた女性はボックスの蓋をすると、ボックスの横に付いている装置を操作すると、ボックスは「ブゥゥゥン」と音を出して内部の温度がどんどん低下していき、遂にはマイナスまでいってしまった。


「さあ、早くドクターの所に帰るぞ」


「了解!IS発動・・・・」


 白いボックスを担いだ長身の女性は早く戻るように言うと、眼鏡を掛けた女性は何かを発動してその場から消えてしまった・・・・・・





 


 











[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第二十話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/06/04 22:08













 なのはとフェイトの協力もあって、遂にはやての手で闇の書の防御プログラムの切り離しに成功・・・・・それと同時に海上に出現した闇の書の防御プログラムはその膨大な魔力の塊から自身を再構築する為に不気味な沈黙を保っていた。


『皆!下の黒い澱みが暴走の始まる場所になる。クロノ君が到着するまで近づいたら駄目だよ!!』


「はっ、はい!!」


 エイミィの通信を聞いたなのはは若干焦りつつも返事を返す。そんな中、ギガンティックゼロこと零は、未だに姿を現さないはやての事が心配で落ち着かない様子で空中にいた。


(はやて・・・・・)


 零が心配している中、黒い澱みの近くにいた光の球体の中で、はやてとリインフォースがいた。そしてはやての周囲には、紫、白、緑、赤の四つの小さなリンカーコアが浮いていた。


「リンカーコア送還・・・・守護騎士システム、破損修復・・・・」


 はやての管理者権限によって、破損していた守護騎士システムの機能が修復され、四つのリンカーコアは眩い光を放ちながら大きくなっていった。


「おいで・・・・私の騎士達・・・・」


 はやての言葉と共に、はやてとリインフォースを包み込んでいた光が眩しい光を放ち、外にいたなのは、フェイト、ユーノ、アルフ、そしてギガンティックゼロは顔を手で隠す。眩い光が収まると、先ほどまで黒い澱みの近くにあった光の球体は消え、そこには白く光る巨大なベルカ式の魔法陣があり、その上には見慣れた四人の騎士の姿があった。


「ヴィータちゃん!!」


「シグナム!!」


「シャマル!ザフィーラ!!」


 目を閉じている四人の騎士の名をなのは、フェイト、ギガンティックゼロは叫んだ。


「我ら、夜天の主の下に集いし騎士・・・・」


「主在る限り、我らの魂、尽きること無し・・・・」


「この身に命ある限り、我らは御身の元にあり・・・・」


「我らが主、夜天の王・・・・八神はやての名の下に・・・・」


 シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータとそれぞれ言葉を紡ぎ、四人の騎士たちの中心の光る球体が砕け散り、そこには剣十字の杖を持ち、黒い服を着たはやての姿があった。瞳の色が澄んだ蒼色になったはやては、スッと剣十字の杖を空へと掲げた。


「夜天の光よ、我が手に集え!祝福の風リインフォース、セェェェットアァァァップ!!」


 はやての声に呼応するかのように、天に掲げられた剣十字の杖【シュベルトクロイツ】に光が集まり、リインフォースと融合が始まった。そしてはやての髪の色が変化し、白い上着を纏い、騎士甲冑を纏った姿へと変わった。


「はやて・・・・」


「すみませんでした・・・・」


「あの、はやてちゃん・・・・私たち・・・・」


 はやてと向き合った四人の騎士達・・・・目に涙を浮かべるヴィータ、シグナムとシャマルははやてに謝罪しようとするが、はやては首を横に振った。


「ええよ、みんな解ってる。リインフォースが教えてくれた・・・・そやけど細かい事は後や。今は・・・・おかえり、皆」


 今まではやてに内緒で魔力蒐集を行っていたシグナム達のことをリインフォースから聞いたのか、はやては四人の事を叱らず、優しく「おかえり」と言ってくれた。その言葉にヴィータは泣きながらはやてに抱きつき、はやての名を繰り返し口にした。


「はやてちゃん!」


「はやて!」


「なのはちゃんにフェイトちゃん、家の子達が迷惑をかけてごめんな」


「ううん、気にしないで」


 はやてとシグナム達の下になのはとフェイトがやってきて、はやては二人に迷惑をかけたと謝罪するが、なのはは「気にしないで」と笑顔で答えた。するとそこへ蒼き巨人となったギガンティックゼロがゆっくりとやってきた。


「はやて・・・・」


「わぁ!?」


「なっ、何者だ!?」


 ギガンティックゼロの巨大な姿にシャマルは驚きの声を上げ、シグナムはレヴァンティンを鞘から抜こうと構えようとしたが、見上げた巨人の額にある銀色の球体を見た瞬間、巨人の正体が何者であるかすぐに理解した。


「まさか・・・・零か!?」


「何でそんなにおっきくなっちまったんだよ!?」


『えっ!?零さん!?』


 ザフィーラとヴィータの言葉になのはとフェイトは驚きの声を上げる。なのはとフェイトの脳裏に、はやてのお見舞いに初めて行った時、はやての傍にいた青年の姿を思い出された。そしてあの普通の一般人っぽい青年がこのような姿になっていた事に開いた口が塞がらなかった。


「零兄ぃ・・・やっぱ生きててくれたんやね?」


「・・・・・・・・」


「零兄ぃ?」


「はやて、ごめん・・・・俺は“君を絶対に守る”と言っておきながら、結局自分のやってきたことは全部はやてを傷つけることになって・・・・最後には自分の力で助けようとしたけど、結局なのはちゃん達の力を借りる形になってしまった・・・・」


 巨人殖装を纏っていて分からないが、零はこの時、涙を流しながら喋っているかのような声ではやてに謝罪の言葉を言う。その巨大な姿から想像できないほど暗く沈んでいるギガンティックゼロの姿に、皆黙ってしまった。しかしそんな中、はやてはゆっくりとギガンティックゼロの傍に歩み寄ってくる。


「零兄ぃ・・・・」


 はやては身体を少し浮かせてギガンティックゼロの胸に抱きついた。と言ってもはやての小さな身体ではギガンティックの巨大な身体を抱きしめることが出来るわけも無く、寄り掛かる形になっていたが・・・・・・


「零兄ぃは十分私を助けてくれたんよ?私が夢の中にいた時、必死に私を呼んでくれている零兄ぃの声が聞こえた。そのおかげで私はこうやって戻ってこれた・・・・それに私の中にいるリインフォースも、零兄ぃに感謝してくれてるよ」


「・・・・・はやて・・・・」


 目を瞑ってギガンティックゼロに寄り掛かるはやてに、巨人殖装を纏っているせいで表情がどうなっているか分からないが、零は強殖装甲の中で涙を流していた。そしてギガンティックゼロは、そんなはやての小さな身体を優しく抱きしめた。


 その様子を上空で見ていたクロノは、皆の前に降りてきた。クロノはなのは、フェイト、ユーノ、アルフ、八神家一同に現状の確認と、その対処法について話をし出した。しかしクロノは、目の前にいるギガンティックゼロには若干警戒しているような素振りを見せていた。


「あそこにいる黒い澱み・・・・闇の書の防衛プログラムが、あと数分で暴走を開始してしまう。僕らはそれを何らかの方法で止めなければならない・・・・」


 クロノは皆に説明しながら、懐から白いカードのようなものを取り出した。そのカードを見たフェイトはクロノに質問した。


「クロノ、それは?」


「これは極めて強力な氷結魔法の使用可能なデバイスだ。これで闇の書の防衛プログラムを氷付けにして停止させる。そしてもう一つのプランは、軌道上に待機しているアースラの魔導砲【アルカンシェル】で消滅させる・・・・もしこれ以外に何か手があるのなら教えて欲しい。できれば、夜天の主と守護騎士の皆の意見を聞きたい」


 クロノの話を聞いたシャマルは少し困惑した表情で手を上げ、クロノの最初のプランである氷結魔法による氷付けは余り意味をなさないと話した。主の制御から切り離された防衛プログラムは魔力の塊のようなモノであり、例え凍結させる事に成功しても、コアが存在する限り、再生機能は止まらないとシグナムが付け加える。


「アルカンシェルも絶対ダメッ!!こんな所でアルカンシェルを撃ったら、はやての家も一緒に吹っ飛んじゃうじゃんか!!」


「何だってぇぇぇ!?」


 両手で大きくバッテンマークを作るヴィータの話を聞いたギガンティックゼロは声を上げて驚く。なのははアルカンシェルがどれほどの威力を持ったものかイマイチ分からなかったらしく、ユーノにどれほど凄いのか問い掛けてみた。


 ユーノはなのはの質問に、アルカンシェルは発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲であるとなのはに説明した。つまりアルカンシェルをこんな街に近い海上で撃ったりしたら、海鳴市は完全に消滅し、日本の地形図が変わってしまう、という事である。


「クロノ君!それ私は反対!!」


「同じく!絶対反対!!」


「僕も艦長も使いたくないよ・・・・だが、闇の書の防衛プログラムが本格的に暴走を開始したらそれどころじゃすまなくなる・・・・」


「暴走が始まったら、闇の書の防衛プログラムが触れた物体などを侵食していって無限に広がっていくから・・・・」


 アルカンシャルの使用に反対の声を上げるなのはとフェイト。クロノもここでのアルカンシェルの使用を認めるわけにはいかないと言う。しかしこのまま闇の書の防衛プログラムを放置したりしたら、どの道この世界は闇の書の防衛プログラムに侵食されて滅びるしかなくなる、とユーノは話す・・・・・とその時、突然シャマルが声を上げた。


「あっ!零さん、前に管理局の張った強層結界を破壊したスマッシャーを放ったらどうでしょうか!?」


「スマッシャーって、あの青白い閃光の・・・・アレですか?」


「・・・・確かにスマッシャーならアレを塵一つ残さず消滅させる事は出来るだろうけど・・・・」


「けど?」


「ここで撃ったりしたら確実に地球の反対側まで撃ち抜いてしまうと思う・・・・あの時と違って、この巨人殖装のスマッシャーの威力はハンパ無いから・・・・」


 シャマルの提案になのはとフェイトは、以前ガイバーゼロを取り押さえようとした時に自分たちに放ってきた砲撃のことを思い出した。


 ギガンティックゼロはシャマルの案はいい考えだなと思うが、巨人殖装の武装のスマッシャーはここで放ったりしたら、確実に地球に大穴が開く・・・・どころではなく文字通り貫通してしまうと話すと、その場にいた全員は言葉が出なくなった。クロノに関しては、目の前にいる巨人は確実に質量兵器・・・・いや、次元世界を脅かす危険な存在になりえないのだろうか、と思っていた。


『皆!相談している時間がなくなってきたよ!!暴走開始まで15分切ったよ、会議の決断はお早めに!!』


 防衛プログラムの暴走開始時間が迫っているというエイミィからの通信に皆焦りを見せる。クロノは闇の書と今までいっしょにいたシグナム達に良い案はないかと尋ねてみるが、シグナムは「余り役に立てなくてすまない」と謝り、ザフィーラも「闇の書の暴走時に立ち会ったことは殆ど無い」と話す。


 恐らく今までの闇の書の主になった者達が、今回のようにシグナム達も闇の書の糧にされてしまった為だろう・・・・・


 その後も何か良い案は無いかと模索するが、一行に案が浮かび上がらない。ユーノは防衛プログラムをもっと沖合いに移動させる事が出来れば・・・・と話すが、例え海の上で空間歪曲させたりしたら、津波が発生し、周囲に被害が出てしまうとシグナムが反論する。


「あ~!もうゴチャゴチャ言ってないで、この場にいる全員でドバッとズバッとぶっ飛ばしちゃうってことは出来ないのかい!?」


 全くいい案が浮かばない皆を見ていたアルフは、いい加減嫌気が差したのか全員でぶっ飛ばしちゃえば良いと言うが、ユーノは「そんな簡単な問題じゃない」と指摘する。


「ズバッと・・・・ぶっ飛ばす・・・」


「ここでやと被害が大きいから撃てへん・・・・」


「でも、ここじゃない場所なら・・・」


「ハァ、せめてあの防衛プログラムが空中とかに浮いていればなぁ~」


 アルフの言った言葉になのは、はやて、フェイトはそれぞれ何かを思いつきそうな感じになっていると、ギガンティックゼロは溜息をつきながら「対象が空などに浮いていたら」と呟いた瞬間、突然はやてが声を上げた。


「零兄ぃ!!それや!!」


「えっ?」


「クロノ君!アルカンシェルって何処でも撃てるの!?」


「何処でもって・・・・例えば?」


「今、アースラがいる場所・・・・宇宙空間とかで!!」


 なのはの質問にクロノは何処でと問い返すと、フェイトはアースラがいる宇宙空間でもアルカンシェルは撃てるのかと聞いてみた。その言葉を聞いたエイミィは「管理局の技術力を甘く見ては困りますなぁ」と言って、自信満々に宇宙だろうが何処だろうが!と答えた。クロノは三人の思いついた事に何か感づいたのか、「まさか君達!?」と慌て出した。














__________________________














 黒い澱みの発生した地点から離れた海岸沿いの場所に二人の少女の姿があった。それはエイミィによって無事安全な場所に避難する事が出来たアリサとすずかだった。


「光・・・収まった?」


「うん。海に黒いのは残ってるみたいだけど・・・・」


 アリサとすずかははやてが復活した時の光を目撃していたらしく、これからどうなるのか不安になっていた。


「一体何なの?まさか、こんな事がずっと続くんじゃないよね?」


「何となくなんだけど・・・・大丈夫な気がするの・・・・」


「何でそう思うの?」


「・・・・あの蒼い巨人みたいな人や、なのはちゃんやフェイトちゃんがあの黒いのを何とかしてくれる・・・・そう思うの」


「なのはとフェイトが?」


「うん・・・・」


 非日常的なことをいきなり体験しているアリサはこのあとどうなるのだろうと不安がっていると、すずがは自分達を守ってくれていた蒼い巨人・・・・ギガンティックゼロや不思議な格好をしていたなのはとフェイトが何とかしてくれると話す。その様子を見たアリサは「すずかが真顔で言うと本当になりそうで怖い」と言うが、心の何処かでなのはとフェイトが何とかしてくれると信じていた。


「まあ、それにしてもよ・・・・」


「?」


「あ~もうっ!!訳分かんない!楽しいクリスマスイヴに一体どういう事態なの!?夢なら覚めて!一刻も早く覚めて!!」


「アリサちゃん、落ち着いて・・・・」


 突然暴れ出すアリサを必死に落ち着かせるすずか・・・・まあ、おかしなことが目の前で連続して起きているので夢だと思いたくなるのは分かるが・・・・














_______________________________














 闇の書の防衛プログラムをどう消滅させるかの案が決まったところで、その場にいる全員と作戦を再確認を行った。さすがのリンディもなのは達の考えた作戦には「凄いというか・・・・」と呆れた顔をし、エイミィも「計算上実現可能だから怖い」と驚いていた。


「実に個人の能力頼りのギャンブル性の高い作戦だが・・・・まあ、やってみる価値はある」


「防衛プログラムのバリアは、魔力と物理の複合四層式・・・・まずはそれを皆で破る!」


「バリアを抜けたら、私となのは、はやての一斉攻撃でコアを露出・・・・」


「そしたらユーノ君やアルフさん、シャマルさんの強制転移魔法で待機中のアースラの前に転送!」


『あとはアルカンシェルで蒸発させる・・・・か』


 闇の書の防衛プログラムの構造を知っているはやての言葉に続き、フェイト、なのは、そしてアースラにいるリンディへと繋がっていく。エイミィもそれが現在考えられるベストプランだと話す。


「はやて、俺は何をすればいい?」


「零兄ぃは皆の守りに回ってくれる?いくら防衛プログラムでも反撃してくる筈やし、連携が途中で中断されたら、またバリアを張られてしまうかもしれへんから」


「分かった」


 防衛プログラムの四層式複合バリアを破壊するのはヴィータ、シグナムに任せるとして、ギガンティックゼロは何をすれば良いかはやてに聞いてみると、はやてはサポートに回って欲しいと頼んできたので、ギガンティックゼロは快く了解した。


 その頃、クロノは本局にいるグレアムにこの状況を見せていた。クロノはグレアムがリーゼ姉妹を使ってはやてを覚醒させ、闇の書が暴走する瞬間に凍結封印を施そうとしていた事を独自の調査で知り、ロッテとアリアを拘束した後、グレアムに直接事実を聞かされていた。


「グレアム提督、闇の書は呪われた魔導書でした・・・・呪いのせいで、どれだけの人の人生を狂わせ、それに関わった多くの人がこんな筈じゃない人生を歩ませてしまった。アレのおかげで、僕や母さん・・・・グラーベ兄さんも・・・・あなたも・・・・リーゼ達も・・・・」


『・・・・・』


「ですが、なくしてしまった過去は変えることは出来ない!」


<Start up.>


「だから・・・・今を戦って、未来を変えます!!」


 クロノの言葉を聞きながら、グレアムは映像に映し出されるギガンティックゼロと話をしているはやての姿を「ジッ」と見つめていた。そしてクロノは手にしていた白いカードを回転させるように投げると、白いカードはデバイス【デュランダル】へと変化し、クロノはデュランダルを手に取る。


『クロノ・・・・この事件が解決したら、彼を・・・・はやて君のお兄さんを私の所に連れてきてくれないか?彼にも私のしてきたことを直接話しておかなくてはならないからな・・・・』


「・・・はい」


 グレアムは何かを決意したのか、クロノに事件の終った後に零を自分の所に連れてくるように指示を出し、クロノは少し間を置きながら返事を返した。そしてアースラでは、アルカンシェルのチャージを開始した。












 暫くすると、暴走開始までの時間のタイムリミットをきり、海上に存在していた黒い澱みの近くから九本の黒い柱が海上から天に向かって飛び出した。そして同時に黒い澱みの近くから出現していた触手も一層激しさを増して動き始めた。


「夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム・・・・・【闇の書の闇】・・・・」


 はやては夜天の書を闇の書へと変えてしまった存在を【闇の書の闇】と小さく呟くと、黒い澱みが一層黒く染まると同時に弾け、中から六本の足に四枚の黒い羽を持った怪物が現われた。そしてその頭の部分には、闇の書の意志・・・リインフォースに似た女性が悲しそうな声を発しながら周囲に響かせた。


「チェーンバインド!!」


「ストラグルバインド!!」


「縛れ!鋼の軛!でぇりゃぁぁぁぁ!!」


 アルフとユーノは鎖状のバインドを伸ばして防衛プログラムの周囲の海上から出ていた触手を絡み取ると、バインドを縛り付けて切断し、ザフィーラも魔法を発動させ、白い一条の光が残りの触手をなぎ払った。


「ちゃんと合わせろよ!高町なのは!」


「ヴィータちゃんもね!」


ヴィータはアイゼンを、なのははレイジングハート・エクセリオンをそれぞれ構え、先にヴィータが叫んだ。


「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!!」


<Gigant form.>


ヴィータはグラーフアイゼンのシリンダーを回転させることで、二発のカートリッジを使用すると、グラーフアイゼンの先端部分のハンマーヘッド部分が消え、巨大な角柱状のハンマーに変形した【ギガントフォルム】へと姿を変えた。そしてグラーフアイゼンを振り上げると、ハンマー部分がヴィータの身の丈を大いに超えた大きさに変化した。


「轟天爆砕!・・・・・ギガントシュラァァァァクッ!!」


 振り下ろされたグラーフアイゼンのハンマーは、防衛プログラムの障壁に直撃すると、魔力と質量と大きさの三つを威力に、一枚目の物理障壁はガラスを割るかの如く破壊した。


(ヴィータ・・・・あんな大きさのハンマーを振り下ろすとは・・・・)


 さすがのギガンティックゼロも、家族の中で一番小さく、幼いヴィータが、自分の身丈より大きなモノを振り上げていたのには、驚きを隠せないでいた。


「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン・・・・行きます!!」


<Load cartridge.>


 なのははレイジングハートを天に掲げると魔法陣を展開し、カートリッジを四発使用して桃色の四枚の光の翼を展開させる。そしてレイジングハートを両手で持って頭上で振り回しながら防衛プログラムに向け杖を構える。


「エクセリオンバスター・・・・ブレイクシュゥゥゥゥトッ!!」


<Barrel shot.>


 レイジングハートから放たれた四本の桃色の太い帯が防衛プログラムの周囲にある触手を捲き込みながら一枚目の魔力障壁に当たり、その帯の中央の中をフルパワーの魔力砲撃をなのはは放った。魔力障壁を文字通り撃ち抜かれて防衛プログラムは声を上げる。そして参謀であるシャマルは、自分の役割通りに次の攻撃への指示を発した。


「次!シグナムとテスタロッサちゃん!!」


「剣の騎士シグナムが魂・・・・炎の魔剣レヴァンティン!刃と連結刃に続く、もう一つの姿・・・・」


 シグナムは鞘からレヴァンティンを抜き、天に向かって掲げる。その姿はまさに騎士そのものだった。そしてレヴァンティンの柄の部分に鞘をくっつけるようにすると、レヴァンティンからカートリッジが一発吐き出され、剣の姿から上下対称の弓のような姿へと変わる。


<Bogen form.>


 レヴァンティンの声と共に、弓の両先から紫色の弦が現れ、シグマムは弦を右手で引くと魔力で構成された紫色の弓矢が出現する。防衛プログラムは自分の背後に居るシグナムの存在に気づいたのか、体を動かしてシグナムと対峙する。


「翔けよ!隼ッ!!」


<Sturm falken.>


 シグナムから放たれた弓矢は、真直ぐ防衛プログラムに向かって翔け、二枚目の物理障壁を貫き破壊した。物理障壁の破壊を確認したフェイトは口を開いた。


「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー・・・・行きますっ!!」


 フェイトは体ごと大剣になっているバルディッシュを振り回して、大剣の衝撃波で触手を切り裂いた。そしてリボルバー式のカートリッジシステムが回転して、三発分のカートリッジを使用して大剣に電撃を帯びさせる。


「貫け!雷神ッ!!」


<Jet Zamber.>


 フェイトの声と共に振り下ろさせるバルディッシュザンバーの刀身が伸び、二枚目の魔力障壁に直撃すると、障壁を破壊し、遂に防衛プログラムに直接攻撃が届いた。攻撃を受けた防衛プログラムは、自身の切断された肉体のダメージに痛みの含んだ声を上げると、反撃をしようと海中から頭の部分がレンズ状に変化した砂龍を出現させ、砲撃しようとした。


「盾の守護獣ザフィーラ!砲撃なんぞ、撃たせんっ!!」


 ザフィーラは防衛プログラムの反撃をさせないと両腕を交差させて一気に開いてベルカ式の魔法陣を展開、すると海中から白い突起物が出現し、砲撃をしようとしている擬似砂龍を貫き倒した。


「はやてちゃんっ!!」


「うん!任せといて!!」


 盾の守護獣という名に恥じない行動をしたザフィーラにシャマルは安堵しながら、はやてに声をかけると、そこにはシュベルトクロイツを右手に持ち、左手に夜天の書を持ったはやては目を瞑って魔法の詠唱を開始した。


「彼方より来たれ、宿り木の枝・・・・銀月の槍と成りて、撃ち貫け!石化の槍【ミストルティン】!!」


 はやての足下に白銀のベルカ式魔法陣が展開され、シュベルトクロイツから七つの光が放たれ、槍のように防衛プログラムに突き刺さった。すると光の刺さった部分から防衛プログラムの肉体が徐々に石化していき、遂には体全体が石化してしまった。


「アァァァァァァァ・・・・・」


 防衛プログラムは声を上げながら石化した部分から崩れ落ちていくが、肉体を維持するために、すぐに破損した部分を再生されていく。しかも中央部分を重点的に守るように再生していく。


「いけない!!あのままじゃあ、コアまで攻撃が届かなくなっちゃう!!」


「シャマル、俺に任せろっ!皆は、耳を塞いでいてくれっ!!」


 コアを守ろうとする防衛プログラムに対し、ギガンティックゼロはその場にいる全員に耳を塞ぐように指示をすると、なのは達は全員両耳を塞いだ。そしてギガンティックゼロの二つに割れた両顎の装甲が下にスライドすると、銀色の球体が二つ出現し、ギガンティックゼロの口の分を合わせて六つの口部金属球【バイブレーション・グロウヴ】が光を放ちながら振動し始めた。


「ギガソニック、バスタァァァァッ!!」


 ギガンティックゼロの声と共に六つの金属球から超音波のようなモノが発され、防衛プログラムの防御を固めている部分に直撃すると、その部分は砂のように崩れ去ってしまった。これは対象の固有共周波数と同調させて崩壊させるソニックバスターの強化版【ギガソニックバスター】だった。


 超音波の余波を受けていたなのは達は、少し耳が「キーン」となっていたのか暫く動けなくなっていたが、ギガンティックゼロの力を凄いと思っていた。しかし防衛プログラムの修復箇所の再生は止まらず、ギガソニックバスターを逃れた部分から再生を開始し、既に生物とは言えないほどのグロテスクな姿へと変わってしまっていた。


 その姿にアルフは焦りを見せ、シャマルは「何だか・・・凄い事に・・・」と驚く。


『やっぱり、並の攻撃じゃ通じない。ダメージを入れた傍から再生されちゃう!』


「だが、攻撃は通っている!プラン変更はなしだ!!行くぞ、デュランダル!!」


<OK, Boss.>


「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて・・・・永遠の眠りを与えよ・・・・」


 通信で攻撃が通ってもすぐに再生される事に焦るエイミィだったが、クロノは攻撃は入っていると冷静に言い聞かせ、デュランダルを構えて魔法の詠唱を始める。すると防衛プログラムのいる海面が一瞬にして凍り始め、防衛プログラムも同様に徐々に凍り始め、動きを封じた。


「凍てつけっ!」


<Eternal Coffin.>


 クロノの放った【エターナルコフィン】で氷付けにされた防衛プログラムは動きを封じたかに見えたが、その間にも破損箇所の修復機能は動いているようで、氷を割りながら必死に動こうとしていた。しかし一時的に活動が弱まっている防衛プログラムに対し、なのははフェイトとはやての方を見る。


「行くよ、フェイトちゃん、はやてちゃん!!」


『うん!』


 なのはの声にフェイトとはやてはお互い頷き合うと、なのははレイジングハートを防衛プログラムに向けて構える。


<Starlight Breaker.>


「全力全開!スターライトォォォォ・・・・」


「雷光一閃!プラズマザンバァァァァ・・・・」


 レイジングハートに周辺の残留魔力が集りだし、スターライトブレイカーの発射体制に入るなのはと、刀身が金色に光るバルディッシュザンバーを担いだフェイトの頭上から紫色の雷撃がバルディッシュの刀身に降り注ぎ、一層輝きを増した。


「ごめんな・・・・おやすみな!!」


 シュベルトクロイツを天に掲げながら魔力をチャージするはやての表情は、悲しみに満ちており、その優しき瞳は防衛プログラムの方に向けられていた。例え醜い姿になろうとも、本来優しかったはずの防御プログラムが、過去に力だけを欲した者達の度重なる改変によって暴れるだけの悪魔へと変えられてしまった防衛プログラム・・・・・


 はやてはそんな運命を担がされた防衛プログラムに謝罪の言葉とお休みの一言を呟くと一旦目を閉じ、強い意志を込めた表情で防衛プログラムを見据えた。悲しみを終わらせる為に・・・・・


「響け終焉の笛・・・・・ラグナロクッ!!」


 はやての声に呼応するかのように白銀の巨大なベルカ式魔法陣が姿を現す。そして三角形の形のベルカ式魔法陣の三つの端から黒い稲妻を含んだ白銀の発光体が出現した。


『ブレイカァァァァァァッ!!』


 なのは、フェイト、はやての三人が声を上げると同時に、スターライトブレイカー、プラズマザンバー、ラグナロクの三つの閃光が闇の書の闇に向かって放たれ、物凄い魔力のぶつかり合いが起きる。ギガンティックゼロはそんな膨大な魔力の余波からシグナム達を守る為に前面にバリアを展開して皆を守る。


 そして三つの光が互いに混ざり合い、虹色の光となった瞬間、闇の書の闇は大爆発を起こした。


「本体コア・・・・露出!捕まえ・・・った!!」


 ギガンティックゼロの後ろでクラールヴィントの旅の扉を使って闇の書の闇の黒いリンカーコアの捕獲に成功したシャマルの声に、ユーノとアルフは同時に手を差し出し、闇の書の闇のリンカーコアを包むように緑とオレンジの二つのミッド式魔法陣が展開される。


「長距離転送!」


「目標、軌道上!!」


『転送ぉぉぉぉぉっ!!』


 ユーノ、アルフ、シャマルの転送魔法によって闇の書の闇のリンカーコアはアースラのいる軌道上に向けて転送されていった。しかし・・・・・


(コノママ・・・・コノママ、キエテナルモノカ!!)


 転送されつつあった闇の書の闇のリンカーコアは、破損箇所を修復しつつも、何かしようと動き始めていた・・・・・





























 第二十話完成しました!!


 いやぁ~今回の話はかなり熱をいれてしまいましたw
だってAs最後にして最後の大魔力によるフルボッコの話でしたから!!


 そして今回、ギガンティックゼロは殆ど裏方でしたw一応攻撃に参加させようと、ガイバーの中で一番使用頻度の低いギガソニックバスターを使用してみました。原作でもあまり使用されていませんでしたよね?ソニックバスター・・・・


 さてアースラの前に転送されつつある闇の書の闇ですが、次回何かしらの事をして・・・・これ以上は言えない。次回をお楽しみに!!(待たせておいて期待に答えれるか不安ですが・・・・)


 しかしここ最近、リアルに仕事などが忙しく、小説を書く暇があまり少なくなっており、いつものように一週間単位で投稿できるか不安になってきました。でも頑張って書いていくので、気長に待っていてください。















[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第二十一話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/06/11 21:00





















 闇の書の防衛プログラム、夜天の書を狂わせた元凶である闇の書の闇・・・・それをシグナム達守護騎士たちとクロノ、ユーノ、アルフら管理局組・・・・・そしてなのは、フェイト、はやて、そして零ことギガンティックゼロとの共闘戦によって、闇の書の闇のリンカーコアの捕縛に成功し、強制転送によって軌道上に待機しているアースラの場所まで転送されつつあった。


「闇の書の闇のリンカーコアの転送を確認!」


「転送されながら破損個所を修復しつつあります!!」


 アースラにいるスタッフの報告を聞いたリンディは、闇の書の闇が再び攻撃開始できるまで再生される前にアルカンシェルで蒸発させようと、エイミィにアルカンシェルのバレルを展開させるよう指示を出そうとした・・・・その時だった。


「艦長!大変です!!転送されてくる筈のコアの様子が・・・・」


「えっ!?」


 指示を出そうとしたリンディに、アースラスタッフの一人が転送されてくる筈の闇の書の闇のリンカーコアの様子がおかしくなった事を告げられた。映像を見ると、上昇してくる筈のリンカーコアの速度が徐々に落ちてきているではないか。


「一体どうしたの!?」


「こっ、これは・・・・コア周辺に魔力反応!?転送魔法を強制解除しようとしています!!」


 なんと転送してくる筈のリンカーコア周辺の魔力が増大し、ユーノ、アルフ、シャマルの三人の転送魔法を解除しようとしていたのだ。それによって軌道上に来る筈の闇の書の闇の本体コアが成層圏付近で止まってしまった。恐らく本体コアが転送魔法を強制解除した事により、今度はその位置から全く動かなくなってしまったのだろう。

















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『なのはちゃん、皆!!緊急事態が発生しちゃった!闇の書の防衛プログラムがアースラの前に来る前に止まっちゃった!!』


『ええぇっ!?』


 エイミィから聞かされた衝撃の情報に、なのは達全員が驚きというか予想外の事態に困惑し始めた。それもその筈、全員総動員してやっと闇の書の闇の本体コアを捕縛に成功して、あとはアースラのアルカンシェルで蒸発させるだけとなった筈だったのに・・・・


「あっ、艦長!闇の書の防衛プログラムから膨大な魔力反応を確認!これは・・・・」


「どうしたの!?」


「ああっ!?魔力の集束を確認!!集束砲を撃つ気みたいで・・・・ちっ、地上に向かって砲撃しようとしています!!」


 アースラスタッフの一人の声にリンディは驚く。なんと闇の書の闇は破損している所の大部分をそのままにして、前面部分にあった怪物の口を大きく開けると、そこから黒紫色の光が徐々に大きくなっていき、成層圏付近からなのは達のいる地上に向けて膨大な魔力を込めた集束魔力砲撃を放とうとしていた。


「この魔力の集束の仕方・・・・・まさか!なのはさんのスターライトブレイカー!?」


 映像に映し出される闇の書の闇の放とうとしている魔力が集束する様子に、なのはの使用している【スターライトブレイカー】にそっくりだとすぐに確信した。しかもその魔力の量を観測している映像には、エクセリオンモードのレイジングハートのスターライトブレイカーを越えるほどの魔力量を示していた。


 空が雲に覆われているため闇の書の闇の様子が見えないなのは達であったが、アースラから送られてきた映像に唖然としていた。既に闇の書の闇の本体コアを露出させる為に自身の魔力をフルに使っていた為に、なのはとフェイトの二人は息を切らせ、はやては今日初めて使用した魔法に慣れない為か疲れた様子を見せていた。


「どっ、どうすんだよ!?」


「くっ、ここまで来て、あともう少しでという所で・・・・」


(さすがのなのは達でも、ここから防衛プログラムを再度本体コアの露出をさせる事は困難だろうな・・・・)


 オロオロするヴィータ、右手を握り締めて悔しがるシグナム。クロノもさすがに全員魔力の残量が残り少ない状態で、再び闇の書の闇の本体コアに向けて攻撃を仕掛けようとしても、相手は成層圏付近にいるために砲撃魔法を撃ったとしても、到底闇の書の闇を宇宙空間に出せる筈も無く、アルカンシェルを撃とうにも、成層圏付近では闇の書の闇を消滅させる事ができたとしても、成層圏で空間歪曲を起こしたりしたらどんな悪影響が出るか予測できず、まさに状況は絶望的だった。


『・・・・・・・・』


 打つ手無し・・・・まさにそう言えずにいられないこの状況で、ギガンティックゼロだけはずっと上空を見上げていた。その間に頭のヘッドセンサーが「ギョロ・・・ギョロ・・・」と動いていた。


「皆・・・・諦めるにはまだ早いよ・・・・俺が何とかする!!」


「えっ!?零兄ぃ!?」


 ギガンティックゼロははやてに「諦めるのは早い」と言うと、突然背中のブーストを使用して上空に向かって移動を開始した。その様子を見たはやては零の名を呼び、なのは達も上空へと移動していくギガンティックゼロの姿を見つめていた。


「おっ、おい!一体何をする気だ!?」


「この巨人殖装の最強の武装を使って、防衛プログラムを消滅させる!!」


「最強の武装・・・・まさか、スマッシャーを撃つ気かっ!?」


 上空へと上がっていくギガンティックゼロにクロノはどうする気なのか問い掛けると、ギガンティックゼロは本体コアを消滅させると言って雲の中へと消えていった。そんな中、シグナムはギガンティックゼロが何をしようとしているのかすぐに理解した。


 確かに防衛プログラムが暴走する前にシャマルが出した案でスマッシャーを撃つ為の条件はクリアされているが、先に魔力集束を開始している闇の書の闇より早くこちらがスマッシャーを撃てるかどうか・・・・・


 シグナムやヴィータ、ザフィーラ、シャマルの守護騎士らは心配し、はやても雲の中へと消えていったギガンティックゼロの方角を見つめていた。


 雲の中を上昇し続けていたギガンティックゼロは、雲を突き抜け上昇を止め、上を見上げると、そこには星空の夜空が広がっていた。その中のある地点には、距離があって小さくなっているが、闇の書の闇が黒紫色の光を集めていた。


「相手が空にいるなら、コレを放っても被害は無い筈だ・・・・だが、こっちのチャージが先か、あっちのチャージが先か・・・・」


 これだけ地上から離れた場所なら、切り札を使っても被害は出ない・・・・ギガンティックゼロはそう考えると、額のデュアルコントロールメタルが光を放ち始め、胸部に増設された二つのグラビティコントローラーが起動し、同時に胸部の装甲が開き始め、装甲の下からはガイバーゼロの時よりも大型化した巨大レンズが顔を出した。


 暫くすると巨大レンズに蒼白い光の粒子が蓄積し出し、光が渦のように集束し、そして次第に稲妻を発生させ始めた。しかし闇の書の闇のチャージが完了する前に、こちらのチャージが完了するまでに間に合うかどうかは賭けだった。


『かっ、艦長!あの蒼い巨人から高エネルギー反応を感知!!・・・・・何コレ!?メーターの針が振り切っちゃいます!!』


「これは・・・・ロストロギア並みの・・・・・エネルギー反応!?」


 アースラの通信室にいるエイミィは大声でギガンティックゼロがチャージしているスマッシャーのエネルギー反応に驚き、リンディもエネルギーの観測データの表示されているモニターを見て唖然としていた。そのエネルギー反応は、現在闇の書の闇が砲撃魔法に使用している魔力とほぼ同等の反応を示していたのだから・・・・・・


 チャージの完了までもう少しまできたスマッシャーの標準を合わせるギガンティックゼロのヘッドセンサーの目には、魔力砲撃を放とうとしている闇の書の闇の姿がハッキリと見えていた。しかし闇の書の闇の姿は、まるで今までの歴代の闇の書の主になった者達の欲望・・・・力だけを求めた欲まみれの感情が怪物の姿になったかのようなグロテスクな姿になっていた。


(・・・・これまで力のみを求めた者達の欲望が怪物の姿になったようか姿だな・・・・だか、この世界を滅ぼさせるわけにはいかない・・・・はやてやシグナム達がようやく幸せを掴めたんだ!絶対に守ってみせる!!)


 ギガンティックを纏っている零は、この世界を滅ぼさせはしないと思いつつ、チャージを続けた。しかし、闇の書の闇のほうがチャージを終えたのか、地上に向かって膨大な魔力砲撃【スターライトブレイカー】改め【ダークネスブレイカー】を地上に向けて発射した。


(ワレヲウチクダコウトスルモノドヨ!コノヒカリノマエニ、キエウセルガイイッ!!)


『ああっ!?皆!そこから急いで退避して!!巨大な魔力砲がそこに落ちて来るよ!!』


「!?」


「はやてちゃん、ヴィータちゃん!!はやく逃げないと!!」


「シグナムもはやく!!」


 エイミィの声になのはとフェイトはここから逃げようと、はやてやシグナム達に叫ぶが、はやてやシグナムら守護騎士達はギガンティックゼロが上昇して入った場所を見上げたまま、その場から動こうとしなかった。その様子になのはとフェイトは足を止めてしまった。


「はやてちゃん!?」


「シグナム?」


「・・・・大丈夫や、なのはちゃん。きっと零兄ぃが何とかしてくれる。私はそう信じてる・・・・」


「それに、今更逃げようにも、間に合うか分からん。テスタロッサ、今は零を信じてくれ・・・・」


 雲を見上げているはやてとシグナムは、ギガンティックゼロが何とかしてくれると信じているようで、その場から動かないでいた。













____________________________














 防衛プログラムから放たれた集束砲は成層圏から地上に向かって放たれ、ギガンティックは迫りくる魔力砲に焦りつつも、急いでスマッシャーのチャージを行っていた。しかしまだ完全にスマッシャーのチャージが済んでいなかった。


「くっ、まだ80%くらいしかチャージが済んでいないけど、反撃しないと間に合わない!!いっけぇぇぇぇぇっ!!」


 迫り来る闇の書の闇が放ったダークネスブレイカーに、まだチャージの済んでいない巨人殖装最強の武装【ギガスマッシャー】を闇の書の闇に向かって発射した。ギガンティックゼロの胸部から発射された蒼白い閃光は、紫色の稲妻を纏いながら闇の書の闇の放った黒紫色の閃光に向かって天に昇っていく。そして二つの閃光がお互いに目標に向かって接近し、闇の書の闇とギガンティックゼロの中間地点でぶつかりあった。


 お互いに膨大な高エネルギーのぶつかり合いになりつつも、徐々にギガンティックゼロの放ったギガスマッシャーが闇の書の闇の放ったダークネスブレイカーの魔力を拡散させながら闇の書の闇へと上昇していく。


(バッ、バカナ!?ワガチカラガ、オシカエサレテイルダト!?)


 こればっかりは闇の書の闇も驚いているらしく、自分に迫ってくる蒼白い閃光であるギガスマッシャーの光に飲まれつつあった。それに対し、闇の書の闇は砲撃を止めて前面にベルカ式魔法陣の障壁を展開させてギガスマッシャーを防ごうとしたが、ギガスマッシャーの圧倒的な質量エネルギーの波に飲み込まれ、闇の書の闇の肉体は宇宙へと押し出される形となった。


 しかしそれでも闇の書の闇は自身の破損個所を修復させて消滅から逃れようと必死に抗っていた。


「艦長!!目標が宇宙空間に出ました!!これならアルカンシェルの使用が可能です!!」


「よしっ!!エイミィ!アルカンシェルの発射準備!」


「了解!!アルカンシェル、バレル展開!!」


 アースラスタッフの声に、リンディはエイミィにアルカンシェルの発射準備をするように指示を出し、エイミィはコンソールを叩いてアルカンシェルのバレルを展開させる。するとアースラの艦首中央に術式の描かれた三つのリングが前面に現われ、その三つのリングの真ん中に光が集中する。


「ファイアリングロックシステム・・・・オープン。命中確認後、反応前に安全距離まで退避します。準備をっ!!」


『了解!!』


 リンディの目の前にアルカンシェルの発動の為のシステムを起動させ、アースラスタッフにアルカンシェル発射後にすぐ退避できるよう準備するよう指示を出した。そしてギガンティックゼロのギガスマッシャーで宇宙空間に押し出されてきた闇の書の防衛プログラムが姿を現した。


「艦長!目標とアースラとの相対高度まで、あと10秒、9秒、8・7・6・5・4・3・2・1・ゼロ!!」


「アルカンシェル・・・・発射っ!!」


 エイミィからのカウントを聞きながら、リンディはアルカンシェルのキーボックスの中央にある鍵穴に自分の持っていたアルカンシェル発射の起動キーを差し込んだ。そしてカウントがゼロになった時を告げたエイミィの声と同時にキーを回すと、アースラの前面にギガンティックゼロの胸部にある巨大レンズのようなものが展開され、そこから闇の書の防衛プログラムに向け、アルカンシェルが発射された。


 発射されたアルカンシェルはギガンティックゼロのギガスマッシャーに押し上げられてきた闇の書の防衛プログラムに直撃し、宇宙空間で空間歪曲が発生した。それと同時に闇の書の防衛プログラムは空間消滅を起こし、同時にギガンティックゼロの発射したギガスマッシャーをも歪められた空間の中へと消えていった。


「・・・・効果空間内の物体及び巨人の発射した高エネルギー反応・・・完全消滅。再生反応・・・・ありません!!」


「うむ・・・・準警戒態勢を維持・・・・もう暫く、反応空域を監視します」


 アルカンシェルによって防衛プログラムの消滅を確認したエイミィの声に、リンディも一息入れて次の指示をエイミィに出した。それと同時に緊張の糸が切れたのか、エイミィは「ふう」と深呼吸を入れた。











_________________________











『・・・・というわけで、現場の皆!お疲れ様でした!!状況は無事に終了しました!!』


『やったぁぁぁっ!!』


 アースラからの通信を聞いたなのは達管理局組と、はやて達夜天の騎士組は大声で喜びの声を上げた。エイミィはこの後、闇の書の防衛プログラムの生み出した残骸の回収や市街地の修復などの仕事が残ってはいるが、その作業は管理局の武装局員が担当してくれるそうで、なのは達はアースラで休んでくれと伝えてきた。


 その通信を聞いた皆の反応は様々で、転送を担当したアルフ、ユーノはお互い笑い合い、クロノは何とかなったことに「ハァ」と一息入れると、魔法の使用時の廃熱を終えたデュランダルを杖からカードに戻し、ヴィータ、シグナム、ザフィーラ、シャマルは事が無事に終った事に安堵し、なのは、フェイト、はやてはお互いにハイタッチをして喜んでいた。


「あっ、そういえばアリサちゃんとすずかちゃんは?」


『あっ、ああ、それは・・・・』


 なのはは闇の書の意志との戦闘中に出くわしてしまったアリサとすずかのことを思い出し、エイミィに尋ねると、二人はどうやら被害の酷い場所以外は結界が解除されているらしく、アリサとすずかは元のいた場所に戻っているらしい。


 実はこの時、アリサとすずかは先程まで海岸沿いの場所にいた筈なのに、いつの間にか人通りの多い商店街の通りにおり、唖然としていると、アリサは「何なのよ~!!」と言って叫んでいた。しかし二人がこんな事になっているとはなのは達が知る由もなかった。


『・・・・どうやら、作戦は無事・・・・成功したようだな・・・・』


「あっ!零兄ぃ、お疲れさんや!」


 皆で喜んでいるところに、遥か上空にいるギガンティックゼロからの念話がはやての頭に届き、はやてはギガンティックゼロに「お疲れ様」と言って空を見上げながら笑顔で話す。だが、はやてに声を掛けたギガンティックゼロの声は、どうも様子がおかしいように聞こえた。


「どないしたん?零兄ぃ?」


『・・・・・・・』


「零兄ぃ!?零兄ぃっ!?」


 様子がおかしいと感じたはやては、ギガンティックゼロに再び声を掛けるが、ギガンティックゼロからは何も返事が返ってこない。はやては必死にギガンティックゼロに声を上げて呼びかけていると、その様子を見ていたシグナム達ヴォルケンリッター全員がはやての元に駆けつける。


「どうかしましたか!?主はやて!!」


「零兄ぃと連絡がつかへん!何かあったんやろか!?」


 シグナムの問いにはやては、上空にいるギガンティックゼロの事が心配になってしまった。













__________________________















 その頃、上空でギガスマッシャーを放ったギガンティックゼロは空中に浮いたまま全く動かないでいた。しかもギガンティックゼロは肩で息をしながら荒い呼吸をしてしまっていた。


「ハァハァ・・・・・くっ、ここに来て、彼女と戦っていた時のダメージが反動としてくるとは・・・・・」


 実はギガンティックゼロは、巨人殖装を装着してから闇の書の意志との戦闘で受けたダメージがそのままの状態でギガスマッシャーを放った事で反動を受けてしまっており、それにより、零の体力は限界に近づいてしまっていた。


 とその時、零が纏っている巨人殖装のデュアルコントロールメタルが光だし、「ギシュゥゥ」と音を立てて中央部分が内部に引っ込むと、巨人殖装が解除され、中からガイバーゼロが姿を現した。そして巨人殖装は背後に出現した蒼い物体の中に収納されると、陽炎のように姿を消した。


 そしてガイバーゼロとなった零は、まるで糸の切れた人形のようにフラリと地上に向かって落下し始めた。外見上ガイバーゼロの身体にはガイバーブラッドの攻撃で損傷していた部分などは完全修復され、傷などは残っていなかったが、強殖装甲の中にいる零は意識をなくしていた。


「あっ!はやてちゃん、今クラールヴィントに零さんの位置を確認させたところ、地上に向かって落ちてきているみたいなんです!!」


「えっ!?あかん、零兄ぃを助けなっ!!」


 シャマルの持っているクラールヴィントが今度はガイバーゼロが地上に向かって落下していると知らせを受けたシャマルは、急いではやてに知らせると、はやては血相を変えて落ちてくるガイバーゼロを助けようと移動しようとした時だった。急にはやては「クラッ」となってしまった。


「あっ、あれ!?」


「はやて!!」


 ふら付いたはやてをヴィータが抱きかかえるように支えると、はやては「あれっ?」としたような表情をしていた。どうやら慣れない魔法を使用した事と、まだ飛行魔法が満足に使用できない事が重なり、足下を崩してしまったようだった。


『我が主、ご無理は身体に影響が出ます。何より今日初めて魔法を使用したのですから・・・・』


「せやけど、零兄ぃが・・・・このままじゃあ零兄ぃが落っこちてきちゃうやんか!!」


『ならば、せめて私も手を貸させて下さい・・・・』


 はやてとユニゾンしているリインフォースの声に、はやては必死に上空から落下しつつあるガイバーゼロを助けようとしていた。だが、リインフォースは突然はやてとのユニゾンを解除し、はやてとシグナム達の前に現われた。


 その様子を見ていたなのはやフェイト、クロノとユーノとアルフは若干警戒するような動きをみせるが、はやて達の前に現われたリインフォースの姿は、闇の書の意志だった頃の姿とは異なり、左右の髪から飛び出していた黒い羽は消え、頬や両腕、両足に巻き付いていた赤いベルトのようなものは消えており、その姿は攻撃的だった頃より、むしろ優しい感じを見せていた。


「リインフォース?」


「せめて、私もお供させてください。あなたの兄君には、お返し切れないほどの借りがありますから・・・・」


 はやての前に現われたリインフォースはそう言ってはやての肩に手を乗せ、背中の四枚の翼を羽ばたかせて移動を開始し、シグナム達も二人の後を追いかける。すると雲の一部から人の形をした蒼い物体が落下してきた。


「あっ!零だっ!!」


「皆!零兄ぃを助けるんやっ!!」


『心得ましたっ!!』


 雲の中から落ちてきた物体がガイバーゼロだと確認したヴィータの声に、はやてはシグナム達とリインフォースと共に落下してくるガイバーゼロを捕まえようと移動速度を上げた。まず最初に力のあるザフィーラがガイバーゼロを捕まえ、その後にシグナム、ヴィータ、シャマルと続き、最後にはやてとリインフォースがガイバーゼロを抱き止めた。


「零兄ぃ!!しっかりして!!」


「零!しっかりしろ!!」


「零!!」


「零さん!!」


「零!!」


「兄君っ!!」


 はやてを含む五人の夜天の騎士達は必死にガイバーゼロに呼びかけると、光を失っていたガイバーゼロの瞳に光が戻った。そしてガイバーゼロの視界に朧気ながらも六人の顔が映り、自分が皆に抱きとめられている事を理解した。


「・・・・はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、それに君も・・・・」


「零兄ぃ!!」


「あはは・・・・またこうやって皆に身体を支えられるなんてな・・・・」


 意識を取り戻して笑っているガイバーゼロの様子に、はやてとヴィータは目に涙を浮かべながらガイバーゼロの首に手を回して抱きつき、シグナム、シャマル、ザフィーラ、リインフォースは安堵した表情でガイバーゼロを見つめていた。


 こうして闇の書の防衛プログラムは消滅させる事に成功し、八神家はようやく全員揃う事が出来た・・・・・・・






























 第二十一話完成・・・・


 ふう、何とか一週間経つ前に完成できた・・・・・
ようやく八神家が全員揃うことが出来ました!!さてこれから皆で幸せに暮らせるようにしようと考えています。一応プロットとしては、リインフォースの延命状態でいこうと頭の中に描かれている状態ですw

 そして闇の書の防衛プログラム版のスターライトブレイカー改めダークネスブレイカーですが、この魔法は以前初めて作ったクロス小説なのは×ファイズで思いついた魔法です。ちなみ集束砲VSギガスマッシャーのシーンは、強化ゼクトールとガイバーギガンティックとのファイナルブラスターテンペストvsギガスマッシャーのシーンを参考にさせていただきました。


 ではこれからは、ご都合主義全開で行くと思いますが、温かい目で読んでくれると思いつつ頑張っていくのでよろしくお願いします。では~









[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第二十二話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/06/18 21:39












 闇の書の防衛プログラムの予想外の行動に一時はダメかと思われた管理局組と夜天の騎士組であったが、零の纏っていた巨人殖装であるギガンティックゼロの活躍によって無事作戦は成功させる事ができ、防衛プログラムの消滅させる事が出来た。


 戦闘終了後、闇の書の意志との戦闘でのダメージを蓄積していたギガンティックゼロはガイバーゼロに戻ってしまったあと、そのまま地上に向け落下してしまったが、はやて達に無事助けられ、抱えられたままアースラへと運ばれた。


 しかしアースラの医務室にガイバーゼロを運んでいる最中、はやても魔力を消耗していたのか倒れてしまい、結局二人とも医務室のベッドへと直行となってしまった。その際、アースラにいた武装隊の者たちはガイバーゼロが何かするかもしれないと警戒を怠ったりしなかった。まあ相手が質量兵器を扱う危険人物だと認識していている側にとっては当たり前に処置だった。


「うっ、ううう・・・・」


 医務室のベッドで意識を取り戻したガイバーゼロはふと見慣れない天井を見上げていた。自分が何処にいるのか確認する為に体を起こすと、隣にあるベッドで眠る少女の姿が目に入った。


「あっ、はやて!?」


 隣で眠っているはやての姿にガイバーゼロはベッドから飛び起きるとはやての傍に駆け寄るが、当の本人は「すぅすぅ」とリズム良く寝息を立てていた。すると医務室の扉が「シュゥゥ」と音を立てながら横にスライドして開くと、そこからシグナムとヴィータが入ってきた。


「あっ!零!!」


「んっ?ヴィータ・・・・っておわ!?」


 医務室に入室してきたヴィータは、ガイバーゼロの姿を見るや否や、走り出しながらガイバーゼロの胸に飛び込んできた。飛び込んできたヴィータをガイバーゼロは優しく受け止めると、ヴィータは涙を流していた。


「零、よかった~。あの後すぐにグッタリとなっちまったから心配したんだぞ!!」


「あっ、ああ、ごめんごめん。心配かけちゃったな・・・・」


「零、そろそろガイバーを解除したらどうだ?」


 泣きつくヴィータの頭を優しく撫でるガイバーゼロ。その時シグナムはガイバーゼロに向かって殖装を解くように言うと、ガイバーゼロは「あっ」と言って自分がまだガイバーを纏ったままだという事に気づいた。


 ガイバーゼロはヴィータをとりあえず泣き止むように言って離したあと、ガイバーゼロは額のコントロールメタルに意識を集中させて殖装を解除するように念じると、コントロールメタルが光だし、殖装体が解除され、中から私服姿の零が姿を現し、ガイバーゼロは再び人型になると零の背後から消えた。


「ふう・・・・何だか、久しぶりに元に戻った気がするよ・・・」


 殖装を解除した零は、ずっとガイバーゼロになっていた為か、久しぶりに元に戻った気分になった。まあ、シグナム達があの仮面の男らが化けた偽なのはと偽フェイトにやられた後、はやてを傷つけた偽なのはと偽フェイトの言動にキレたあとにガイバーゼロに殖装して・・・・・・その後は闇の書の意志・・・・そして闇の書の防衛プログラムと連戦続きだったのだから・・・・・


「そういえばシグナム、彼女は何処にいるんだ?」


「彼女?・・・・ああ、リインフォースの事か。今別の部屋でシャマルと一緒に精密検査をしてもらっている」


「精密検査?何か問題があったのか?」


「いや、そこまではまだ分からんが・・・・」


 零はふとリインフォースの事を思い出し、シグナムに問い掛けると、どうやら今リインフォースはシャマルとこの船艦アースラのスタッフと共に精密検査を受けているとシグナムは答えた。


「うっ、うう~ん・・・・」


「あっ、はやて!」


 とその時、意識が戻ったのかはやての瞼が動き、その声に零とシグナム、ヴィータが反応し、三人ははやての眠るベッドに駆け寄る。するとはやてはゆっくりと瞼を開け、はやての視界に零とシグナムとヴィータの姿が映った。


「零兄ぃ、シグナムにヴィータ・・・・」


「はやて!はやてぇ~!」


 意識の戻ったはやてにヴィータが抱きつく。はやては少し驚いたような表情を見せるが、抱きついてきたヴィータの頭を撫で、その様子にシグナムと零は「良かった」と安堵する。


「はやて、気分とかは大丈夫なのか?」


「えっ?うん、やっぱり慣れない事をすると、疲れも出るというか・・・」


「まあ、あなたは今日初めて魔法を使い、あのような高威力の広範囲魔法を使用すれば、疲れも出るでしょう・・・・」


「確かに、あの高町なのはとフェイト・テスタロッサ・・・・だっけか?あの二人と同時に攻撃した時のはやての魔法はすごかったしな~それに凄くカッコ良かった!!」


 初めて扱った魔法の力によって、気分を悪くしていないか零がはやてに問うと、はやては「慣れない事をするのは疲れる」と少し笑いながら話す。シグナムも今まで魔法などを使った事の無いはやてが、いきなり高位魔法を使った事の反動で疲れが出る事は当たり前だと話し、ヴィータはなのはとフェイトと共に闇の書の防衛プログラムから本体コアを露出させる為に使用した広域魔法【ラグナロク】を見た際に「カッコ良い」と評価していた。


 そんなやり取りをしていると、突然室内にインターホンの鳴るような音が響き、医務室の扉が開くと、そこからアースラのスタッフの男性二人と執務官服の姿をしたクロノが入ってきた。


「やあ、闇の書の・・・・いや、今は夜天の書の主だったな。気分はどうだい?」


「ええ、大丈夫です。え~と・・・・」


「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。今しがた君達の夜天の書の管制人格者の検査が終ったから、食堂に集まってくれないか?案内は彼らがしてくれる」


「分かりました。主はやて、失礼します」


 はやてに改めて挨拶するクロノの言葉に、シグナムはベッドの上にいるはやてを抱き上げると、医務室に備え付けられていた車椅子をヴィータが運んでくる。そして車椅子にはやてを乗せると、アースラスタッフの案内で食堂に向かおうとする。


 しかし室内に入ってきたクロノの表情は少し「あれ?」としたかのような表情になりながら室内を見渡していた。クロノは室内にいる筈の人物が居らず、代わりに見知らぬ一般人が室内にいた事に気づいた。


「すまないが、ここにいたあの蒼いガイバーは何処に行ったんだ?」


「あ?何処って・・・・」


 クロノの質問に、ヴィータはガイバーゼロが零であることを口にしそうになってしまったが、慌てて口を塞ぐ。それもその筈、クロノ達管理局側はガイバーゼロの正体が目の前にいるごく一般人にしか見えない零が、今までなのはやフェイト、そして管理局側と戦っていたガイバーゼロである事を・・・・・


「・・・・ヴィータ、もう隠しても仕方ないさ。多分彼らは大方予想がついている頃だろうし・・・・皆と一緒に先に行っててくれ」


「零・・・・」


「?・・・・一体どういう事だ?」


 これ以上管理局側に自分の正体を隠していくのは困難だろう・・・・そう思った零は、ヴィータに「もう隠し通せない」と言って下がらせ、「先にリインフォースに会いに行ってくれ」とはやて達を食堂に行くよう話をつける。


 はやて達がアースラのスタッフの案内で食堂に向かった後、零とクロノだけとなり、先程のやり取りを見ていたクロノは頭に?マークを浮かべながら質問してきた。


「君の言っている蒼いガイバーは、君の目の前にいる」


「えっ?」


「つまり、君達と以前から戦い、そして闇の書の防衛プログラムとの戦闘の際にいた蒼い巨人は・・・・この俺だ」


 零は自分自身の胸を親指で突付きながらクロノに告白すると、クロノは唖然としてしまった。目の前にいる零はクロノの視点から見れば、ただの一般人にしか見えていない。


 しかし、クロノは闇の書の防衛プログラムとの戦闘の際、はやてや守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人が、あの蒼い巨人ギガンティックゼロの事を「零」と呼んでいた事から、目の前にいる青年の言っている事は本当であろう・・・・


「・・・・とても信じがたいが、本当にあなたがガイバーなのか?」


「ああ、何なら以前シャマルと一緒にいた時、君を子ども扱いした事を覚えているかい?“管理局という組織は、こんな子供まで働かせているのか”って」


「!?」


 中々零がガイバーゼロだという事を信じないでいるクロノに対し、零は以前に管理局の張った強層結界をスマッシャーで破壊する前に、自分とシャマルにデバイスを突きつけてきたクロノに言った言葉を言うと、クロノは「なっ!?」っと言わんばかりの表情に変わった。


「・・・どうやらあなたがあの蒼いガイバーである事は本当のようだ。それであなたに用があってきたんだが・・・・」


「何だ?」


「実はあなたに会ってもらいたい人物がいるんです。来てくれますか?」


 ようやく目の前にいる零がガイバーゼロであり、闇の書の防衛プログラムを倒すのに協力していたギガンティックゼロだと認識したクロノは、零と共に廊下に出た。アースラの廊下を歩く零とクロノだったが、二人の間には微妙な空気が漂っていた。


 片や零は、自分が今、管理局の所属のアースラの中におり、魔力蒐集などを行った自分達を彼らはどうする気なのだろうか。いくら人を襲ってはいないとしても、他の世界の魔力を持った生物達を襲ったという事実は変えられないし、それが犯罪と位置付けられれば、はやてやシグナム達をどうするつもりなのだろうか・・・・・
 零自身、なのはやフェイトは管理局に協力している子だが、はやてを助ける為に手を貸してくれたから信用は出来る。しかし管理局全体を完全に信用したわけではなく、管理局は自分をどうするつもりなのか不安だった・・・・・


 片やクロノは自分の隣を歩いている零という人物は、一見ただの一般人にしか見えないが、彼が告白した“自分がガイバーである”という言葉に少し警戒する・・・・・ガイバー、今までの戦闘で分かっているのは、彼の纏う蒼い鎧はクロノ達側でいうなら完全に質量兵器の部類に入る。その力は世界を崩壊させるほどのロストロギア級の危険な力を持ち、さらにその上を行く巨人の存在は既にオーバーSランクをも超越した存在であり、多次元世界を管理する管理局からしてみれば、次元世界を脅かす危険な存在である事は間違いない・・・・・・・・

















________________________________

















 そんなことを考えながら零とクロノは沈黙を保ったまま、廊下を進むと、アースラの転送ポートのある場所に辿り着いた。クロノは転送ポートのコンソールを操作して装置を起動させた。


「・・・・一体何処に行こうというんだ?」


「管理局本局です。・・・・そこに、あなたを待っている人がいます」


 零の質問にクロノは転送先の説明をする。時空管理局本局と・・・・・その言葉を聞いた零は、自然と身構えてしまった。本局という事は、管理局の中枢と言ってもいい場所・・・・と言う事は、自分を捕まえようとするのではないかと考えてしまう。しかしここで下手に事を起こせば、はやて達に何かしてくるのではないかと思うと、下手な事が出来ない。


 そう考えた零は、クロノの誘導に従う事にし、転送ポートで本局へと移動した。そして再びクロノの誘導で廊下を歩いていると、アースラにいた人達と同じ格好をした人達とすれ違い、すれ違う度に零を見た管理局員はヒソヒソと小声で話をしていた。


 まあ、こんな所に魔力反応も無さそうな者が執務官であるクロノと一緒にいる事はおかしいのだと思われているのだろう。そう考えながらクロノの後を追いかけながら歩いていると、ある扉の前でクロノは足を止めた。


「ここです。この扉の向こうに、あなたをここに呼んだ人物がいます」


「・・・・・・・・・・」


 クロノの言葉に零はジッと扉を見つめていると、クロノは扉の隣に設置されている端末を操作して「提督、連れてきました」と中にいる人物と連絡をとる。すると端末から「入ってもらってくれ・・・・」と随分年季の入った人の声が聞こえ、扉が開いた。


「さあ、僕の案内はここまでです。ここにあなたに会いたがっていた人物が待っています」


「ああ・・・・」


 クロノの言葉に零は一体誰が待っているのかと考えつつ、部屋の中に入る。すると扉が閉められ、零は部屋の中を見渡すと、そこには大きな机があり、いかにも重役の人が使っていそうな部屋だった。


 すると部屋の大きな窓の傍に一人の白髪の男性が開放感のある大きな窓の外を眺めながら立っていた。そして男性は窓に映った零の姿に気づいたのか、ゆっくりと零のいるほうに振り返った。そこにいたのは、リーゼ・ロッテとリーゼ・アリアの主であり、今回の闇の書での事件の際にはやてを闇の書ごと永久封印しようとしていたあの【ギル・グレアム】だった。


「よく来てくれた。君の事ははやて君から聞いているよ・・・・」


「えっ!?何故はやてのことを・・・・?」


「まあ立ち話もなんだ・・・・そこのソファーにかけてくれたまえ・・・・」


 グレアムの言葉に、何故管理局の人がはやてのことを知っているのかと疑問に思ったが、グレアムの手招きに従い、零は部屋にあったソファーに腰掛け、グレアムも零の正面に座る。


「・・・・・」


「こうして会うのは初めてだね。私の名はグレアム・・・【ギル・グレアム】だ。はやて君からは手紙で君の事は知っているよ」


「グレアム?・・・・まさか、あなたがはやてを今まで支援してくれたグレアムおじさん・・・・なのですか?」


 自分のことを零に自己紹介するグレアムに、零ははやてが言っていた彼女の両親の知り合いと名乗っていた人物と手紙のやり取りをしていた事を思い出し、グレアムに問い掛けると頷いて答えた。


 しかし何故、魔法なんて知らなかったはやてを支援していたのが、管理局の人なんだったのだろうか・・・・・


「何故魔法なんて知らなかったはやての支援者が、あなたのような管理局に関わっている人なんですか?」


「それは・・・・はやて君が闇の書の主だと知っていたからだ・・・・・」


「えっ!?」


 グレアムの口から出た言葉に零は唖然となる。はやてが闇の書の主だと知っていた?管理局でも、はやてが闇の書の主であった事を知ったのははやてが入院してからなのはとフェイトがお見舞いに来てくれたからであり、それ以前では自分が闇の書の主ではないかと疑われた事もあった。


 しかし管理局の提督をしている筈のグレアムが、はやての支援をしていた理由が闇の書の主である事を知っていたというのなら、何故始めからはやてを見つけようとしなかったのだろうか・・・・・


「零君・・・だったかな?これから私が話すことは、はっきり言って君を傷つけてしまう事になるだろうと思う・・・・だが聞いて欲しい。君がはやて君の本当の兄でなくとも、はやて君にとっては本当の兄同然であるのだから・・・・」


「・・・・・・」


 グレアムは零にそう言うと、淡々と語り出した。


 事の発端は11年前・・・・今まで管理局でも手を焼いていたロストロギア【闇の書】の主をある世界で発見し、主を倒して闇の書の封印処置に成功・・・・管理局本局への輸送中に闇の書を保管していたアースラ級二番艦であるエスティアが、封印処置をしたはずの闇の書が突如暴走を開始し、エスティアの機能を乗っ取るという事故が発生した。


 そのエスティアの艦長を務めていたクロノの父親【クライド・ハラオウン】は、エスティアに乗艦していた乗組員を全員退避させた後、自分は艦内に残り、暴走した闇の書に乗っ取られたエスティアを自分ごとアルカンシェルで砲撃して欲しいと頼み、グレアムは戦友とも言えるクライドを自分の乗っているアースラのアルカンシェルでエスティアごと闇の書を消滅させた。グレアムにとっても苦渋の選択だったのかもしれない・・・・


 しかし闇の書はアルカンシェルの直撃を受けたにも関わらず、完全に消滅したわけではなく、闇の書の機能である“無限に転生する”という特性によって、また別の主の元に行ってしまった事を知り、グレアムは独自で闇の書の次の転生先をの調査を開始したという。しかし闇の書の転生先は何かの法則的なものがあるわけではなく、殆どランダムで選出されるモノらしく、次の転生先を見つけるのは、広大な砂漠地帯に落ちてしまった小さな宝石を見つけるに等しいほどの低確率だった。


 だがグレアムは偶然にも自分の出身世界でもある第97管理外世界【地球】に、闇の書が次の主に選んだ人物・・・・つまり【八神はやて】という名の少女を見つける事に成功した。そして身内関係などを調査した結果、はやての両親は既に他界し、天涯孤独の身である事を知ったグレアムは、はやての“両親の知り合い”という嘘をついてはやてに生活支援を行っていた・・・・と零に語った。















___________________________















「そして私は、闇の書の調査をしているうちに、完成前に主から引き離し破壊しても再び別の主に転生してしまう事を知り、闇の書完成後から暴走を開始する瞬間を狙って、凍結による永久封印し、虚数空間に封じ込めようと考えたのだ・・・・」


「・・・・・・・・」


 グレアムの語る闇の書に関する話を聞いている零は、余りにも非道なやり方に両手を握り締め、只ならぬ怒りを堪えていた。それもその筈、グレアムの言っている事は、闇の書によって死んでしまった同僚の為に、次の主になったはやてを生贄にして闇の書ごと封印しようとしていたのだから・・・・それもはやてはまだ9歳の少女・・・・そんな年も行かない女の子の人生を身勝手な理由で終らせようとしていたのだから・・・・・


「・・・・両親に死なれ、体の不自由なはやて君を見て心が痛んだが・・・・これは運命なのだと思った。孤独な子であれば、それだけ悲しむ人は少ない筈だと・・・・だが、君と言う存在が出来たことによって、永遠に眠る事になる前くらい、幸せにしてあげたかった・・・・」


「・・・・・偽善だ・・・・」


 グレアムのやってきた事に、零は偽善だと言って立ち上がり、怒りの篭った目つきでグレアムを睨み、口を開いた。


「そこまで良心を痛んだと言うのなら・・・・何故はやてを助けようと考えなかったっ!?闇の書が世界を滅ぼすという代物だという理由で、一人の女の子の人生を駄目にしていい権利が、あんた達管理局にはあるというのかっ!?」


 零の言った言葉は管理局という組織を知らない人にとっては正論だった。管理局は零やはやてのいる地球とは比べられないほどの文明の進んだ世界に住む人々が作りだした組織であり、科学力や技術力も一番進んでいるはずだ。


 しかしそんな文明の進んだ世界の組織である管理局でも、闇の書ごとはやてを永久封印するのではなく、はやてを救おうという結論に何故行き着かなかったのだろうか・・・・・


「・・・・・君は私を許しはしないのだろうな・・・・」


「当たり前だ!今ここで殖装して、あなたをガイバーで八つ裂きにしてやりたい気持ちが込み上げてくる気分だ・・・・・」


 いくら血の繋がっていないからと言っても、はやては零にとって大事な妹同然であり、大事な家族である。その家族同然のはやてを管理局側は、自分達の都合で封印するということは、殺す事と同じ事・・・・・・


 そんなグレアムの傲慢な態度に、零はこの場でガイバーゼロに殖装してグレアムを高周波ソードで切り刻んでやりたいという気持ちがこみ上げてくるが、零はガイバーを呼ぼうとはしなかった。


「・・・・俺はあなたを許しはしない・・・・だけど、感謝しないといけない部分もある・・・・」


「?」


「口惜しいが、あなたのやってきた事を知らなかったとは言え、はやての生活支援をしてくれたおかげで、俺もはやての傍に居続けることが出来た。その事に関しては感謝しないといけない・・・・」


 はやての人生を駄目にしようとしたグレアムに怒りを覚える零であったが、グレアムがはやての生活に関しての支援をしてくれた事によって、記憶を無くし、行き場の無かった自分自身が、こうしてはやてと一緒に生活できる事ができた。その事に関してはグレアムに感謝しないといけないと零は思った。


「ですが、このままあなたを許すわけには行かない・・・・失礼ですが、歯を食い縛ってもらいますっ!!」


「!?」


「歯を食い縛れぇぇぇぇぇっ!!」


 いくらはやての生活を支援してくれたと言っても、グレアムのやってきたことは許すわけにも行かず、零はグレアムの前に歩み寄ると、歯を食い縛るようにグレアムに言った後、グレアムの頬目掛けて力を込めた右手で殴りつけた。


「ぐうっ!」


『お父様っ!!』


 零に殴られたグレアムは床に倒れこみ、零は力を出し切ったのか息を切らせながら床に倒れたグレアムを睨みつづけていた。しかしその時、部屋の奥から猫耳のようなモノを生やした二人の女性、アリアとロッテがグレアムに駆け寄ってきた。


「お父様っ!大丈夫ですか!?」


「このぉぉぉぉっ!!よくもお父様を殴ったなっ!!」


「やめないか!アリアにロッテ!!」


 部屋の奥で隠れていたアリアは床に倒れたグレアムに駆け寄り、ロッテは怒りを露にして零に飛び掛ろうとする。しかし頬を殴られた痛みに耐えつつグレアムはロッテを止めた。


「いいんだロッテ、彼の怒りは当たり前の事だ、私達はそれだけの事をやってしまったのだ・・・・アリア、すまないがクロノにここに来るように言ってくれないか?」


「・・・・分かりました・・・・」


 グレアムの使い魔である以上、主であるグレアムの命令は絶対であることにロッテは従い、アリアも渋々通信を開いてクロノを部屋に来るよう指示を出した。


「零君、私は罪を償うつもりでいる・・・・だからはやて君への支援はこれからも続けていくし、君がガイバーである事やガイバーの存在を私の中に留めておくつもりだ。リンディ提督にも君との戦闘などの情報を消去するように指示を出しておく・・・・」


「・・・・・・・・」


「私の言っている事を信じてくれとは言わない。だが、これはせめて私からのはやて君や君への償いだと思って欲しい・・・・」


 グレアムは零に殴られた頬を押さえつつ、アリアの手を借りながらゆっくりと立ち上がり、ガイバーの事などの情報や戦闘データを管理局に残さないと言い、さらには零がガイバーゼロだという事を自分の中に留めておくと話した。


 その後、クロノが再びグレアムの部屋の前に現われ、零を連れて部屋を出て行った。そして零の去った後の執務室にグレアムは再びソファーに腰を落とした。


「お父様!あの男は質量兵器を個人的に所持しているのですよ!何故あのような約束をしたのですか!?」


「そうだよ!!私たちもあの男にボコボコにされて死にかけたんだよ!!?」


「・・・分かっている。だが、あの零という青年は、これ以上ガイバーの力を使わないような気がするんだ。気のせいかもしれないが・・・・」


 零と約束を交わしたグレアムに意見するアリアとロッテ。二人は以前仮面の男に姿を変えていた時、零の怒りを買ってしまい、ガイバーゼロに殖装した零にボコボコにされてしまった事を今でも悔しがっていた。しかしグレアムは、これ以上零がガイバーを纏う事は無いのではないかと直感的に感じていたようだった。


「しかし・・・・彼の拳はかなり効いたよ・・・・」


 グレアムは零から受けた怒りの鉄拳に、自分の行ってきたことが、いかに愚かなことであったか痛感していた・・・・・・





 


















 第二十二話完成。

 え~今回の話は、グレアムがはやてに行ってきた事の話を聞いた零が鉄拳制裁を加えると言う話になりました。しかし最初の方の医務室のベッドで寝ているガイバーって結構シュールかも・・・・


 ちなみに皆さん分かるかと思いますが、零がグレアムを殴る時のシーンは、某起動戦士Zに出てくる切れやすいニュータイプが、グラサンニュータイプを殴るシーンを元にしていますw

 さて次回はAs編の完結となりますが、BOA編に続いていきますのでこれからもご都合な展開が多くなりますが、温かい目でよろしくお願いします。







 ここで没ネタになった(というかパクリ)零とグレアムとの会話シーン



「ですが、このままあなたを許すわけには行かない・・・・失礼ですが・・・・」


「!?」


「そんな大人ッ!修正してやるっ!!」


 グレアムが殴られる。


(・・・・・・これが若さか・・・・)


 ・・・・・もうそのまんまパクリですw
















 ついでにもう一つ・・・・(これも元ネタがすぐに分かります)






「ですが、このままあなたを許すわけには行かない・・・・失礼ですが、歯を食い縛ってもらいますっ!!」


「!?」


「歯を食い縛れぇぇぇぇぇっ!!」


 零にグレアムが殴られる。


「・・・・殴ったね!?親父にもぶたれた事も無いのにっ!!」


 グレアムがこんなこと言ったら、キャラ崩壊するな・・・・










[15968] 魔法少女リリカルなのはAs 夜天の主と殖装体0号 第二十三話(As編 完結)
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/07/01 20:54

















 グレアムのはやてに対する非道に怒りを露にした零だったが、グレアムがはやての生活支援を行ってくれたおかげで、自分もはやての傍にいる事ができたという事もあり、零はグレアムに鉄拳を一発食らわせることで、事が済んだ。


 その後、零はクロノと共に時空管理局本局から、再びアースラへと戻り、はやてやシグナム達がいる食堂へと向かった。食堂へと足を踏み入れた零が見たのは、なのはとフェイト、はやての三人がお互いに笑いながら話をし、その傍らにシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてリインフォースが三人の姿を見て笑顔を見せ、ユーノとアルフもそこにいた。


「あっ!零兄ぃ!!」


 クロノと共にやってきた零を始めに見つけたのははやてだった。零に向かって手を振るはやてに、零は笑顔を見せながらはやての元に駆け寄り、シグナム達も零の傍にやってきた。


「零、一体何処に行ってたんだよ!」


「ああ、管理局の本局にね・・・・」


 ヴィータの質問に零が答えると、シグナム達の表情は「えっ!?」と驚いた顔になった。それもその筈、管理局本局に連れて行かれたという事は、管理局が零の存在をそう簡単に許す筈が無い・・・・しかもガイバーという管理局から見れば得体の知れないロストロギア級の代物を個人で所有しているのだから・・・・・


「それで零、管理局で何かされたのか!?」


「ただでさえ、零さんのガイバーは存在事態危険に見られますから・・・・」


 シグナムは零が管理局の本局で何かされたのではないかと心配し、シャマルも同じように零の事を心配する。しかし零はグレアムとの会話を口にせず、「何もされなかった」とシグナム達に伝えた。


 零の言葉に、シグナムやシャマルは「ハァ~」と一息吐き、安堵する。その時、リインフォースが零の前に歩み寄ってきた。


「兄君、こうして顔を合わせるのは二度目ですね」


「ああ、君か・・・・えっと・・・」


「リインフォースです。我が主から新たに名を贈られました。この度は暴走しかけていた私を止めようとしてくれて、ありがとうございます」


 リインフォースは零に笑顔を見せながら声を掛け、頭を下げてお礼を言った。しかし零は今のリインフォースの姿に若干戸惑いを見せていた。さすがの零も、リインフォースと初めて対峙した時は闇の書の意志としての姿であり、今のリインフォースの姿で顔を合わせるのは初めてのことだった。そのせいもあってか、零はリインフォースの事を“闇の書の意志”と呼びそうになってしまった。


 だが、今の彼女の表情は闇の書の意志の時とは違い、優しい包容力のある女性の顔になっていた。闇の書として歪められたことにより、本人の意思とは関係なく、ただの破壊のみしかできなくなってしまった運命の中で生きていた事で、悲しい表情しか見せていなかった彼女が、はやてやシグナム達と会話している時の嬉しそうな表情を見せている。リインフォースのこの表情こそ、本来の夜天の書だった頃の彼女の本当の顔なのだと零は思った。


「それでシャマル、彼女の・・・・リインフォースの精密検査はどうだったんだ?」


「それが・・・・ですね・・・」


 零の質問にシャマルは何やら歯切りの悪そうな言い方で答える。その様子に零は「何か問題でもあったのか?」と思い、少し身構えてしまう。ところが零の様子を見たはやてやヴィータは真剣な顔から徐々ににこやかな表情に変化し、シャマルも表情を変える。そしてシグナム、ザフィーラは「ふっ」と口に笑みを浮かべている。


「おっ、おい皆、一体どうしたんだよ!?リインフォースはどうなるんだ?」


「実は・・・・」


 焦りを見せる零に、はやては一呼吸入れる。


「リインフォースは、このまま私たちと一緒に暮らせる事になったんや!!」


 はやての声に零は「えっ?」と若干ポカンとした表情になり、はやてとヴィータは両手を上げて喜び、リインフォースは少し涙目になっていた。


「えっ?ええ?どういうこと?」


「零さん、ここからは私が説明します。」


 わ~い、わ~いと喜ぶはやて達の様子に、状況の読めていない零は呆気取られていると、フェイトが零の前にやってきてリインフォースについて話をしてくれた。 


 実は、はやてが新たにリインフォースに名を贈った後、闇の書の本体と防衛プログラムの切り離しを行った際に失敗したらしく、リインフォースの中にあった歪められた機能は防衛プログラムに根こそぎ持っていかれてしまったらしい。それによってリインフォースは管制人格としてではなく、シグナム達守護騎士と同様の存在になってしまったらしい。


 しかもリインフォースの持っていた魔導は全ては、はやてに受け継がれてしまったらしく、今のリインフォースに闇の書の意志の頃の強大な力は失われているらしい。


「・・・・つまり、話をまとめると、リインフォースの元々持っていた力ははやてに受け継がれて、リインフォースはシグナム達と同じになった・・・という事?」


「大雑把に言えばそうなりますね」


「でも良かったですよ!リインフォースさんもこれで悲しい思いをしなくて済むんですから!!」


 魔法などの知識が余り無い零だったが、フェイトの説明を聞いて、リインフォースはシグナム達と同様に一人の人間として生きていけるのだという事を理解できた。そしてその内容を話すフェイトもだったが、なのはもこれ以上リインフォースが悲しい思いをしなくてよくなったと喜びを隠せないでいた。


 リインフォースの悲しい運命から開放された事に喜んでいると、食堂へリンディがやってきた。それと同時にクロノの表情は真剣な顔に変わる。


「あっ、リンディ提督」


「まずはなのはさんやフェイトさん、そして夜天の主であるはやてさんと守護騎士の皆さんには、今回の事件に関してのお礼を言わせてもらいます。お疲れ様でした、そしてご協力に感謝します」


 リンディの姿を見たフェイトやなのは、そしてはやてら夜天の騎士達と零はリンディの方に顔を向ける。するとリンディは今回の事態を収拾できたのは、なのはやフェイト、そしてはやてやシグナム達のおかげである事を話し、皆に頭を下げてお礼を言った。


「しかし、一つだけ夜天の騎士たちに聞きたい事がある・・・・」


「?」


「それは・・・・零さん、あなたの所持している質量兵器のことです」


 クロノははやてたちの方に顔を向けると、はやてたちは「何だろう?」と思っていると、リンディが零のことについて話を持ちかけてきた。リンディの言った言葉は管理局側からして見れば個人的にロストロギア級の代物・・・・つまりガイバーを個人的に所有している零の事を管理局は危険視しているという事に繋がる。


「あなたの持っているガイバーと呼ばれる正体不明のロストロギア・・・・これは私たち管理局側から見れば、危険な質量兵器に該当するモノなの。それについて話がしたいんです」


 リンディはここに来る以前に、グレアムから零との約束通りにガイバーの事についての戦闘データや記録などの消去の指示を受け、現在エイミィにデータの整理を行っていたが、彼女自身、ガイバーと呼ばれる存在はどのようなものなのか知りたがっていた。


 その理由は・・・・・零と同じガイバーを手に入れ、ガイバーブラッドへと変貌してしまったグラーベのことを考えての事だった。


「・・・・それを知ってどうするんです?危険という理由で俺を隔離するか逮捕しますか?」


「いえ、ただ個人的に・・・・ガイバーとは何なのかを知りたいだけです。それに身内でガイバーの力を手にしてしまったから・・・・」


「えっ!?」


 零の一言にシグナムやヴィータはリンディに向けて警戒し、シャマルとザフィーラも少し身構える。しかしリンディは自分の従弟であるグラーベがガイバーを手にした事を話すと、零の脳裏にシグナムと対峙していた青年の姿が蘇った。


「そうか、あの時のガイバーが・・・・だが、彼は一体何処でガイバーを手に入れたんですか?」


「・・・・それが、分からないの。グラーベはガイバーを何処で手に入れたのか教えてくれなかったし・・・・現にグラーべは今、行方が分からないの・・・・」


 グラーベがガイバーを何処で手に入れたのかリンディに問い掛ける零だったが、リンディはガイバーを何処で手に入れたのかを聞くことができないでいた。それどころか、今となってはグラーベは行方不明であり、話すことでらすらできないでいるのだと話す。


 リンディは闇の書の意志の時のリインフォースとの戦闘中、なのはとフェイトからガイバーブラッドへと殖装したグラーベは、闇の書の意志の魔力砲撃を受けて右腕と左足を蒸発させられた後、反撃をしようと自分が放ったメガスマッシャーの反転照射を受けてしまったガイバーブラッドは、原型を留めないで、文字通り消滅してしまった・・・・・と零に説明した。


 零はこの時、ガイバーブラッドの高周波ソードで胸を貫かれていた状態で、ちょうど巨人殖装の入っていたケース上の物体の中に入っていた頃だったので、この事は知らない。


「なるほど、俺が気を失っている間にそんな事が・・・・」


「ええ・・・・」


「分かりました。ガイバーの事について俺の知っている・・・・いや、覚えている分だけでも話をしましょう。それと、俺自身のことや、今までの経緯も・・・・」


「覚えている分だけ?それって一体・・・・」


 リンディの事情を聞いた零は、ガイバーの事を覚えている範囲までのことを話そうとした。その間、ユーノは零の言った“覚えている分だけ”という単語が気になっていた。そして零は皆の前に出ると、零の前になのは、フェイト、はやてが座り、その後ろにクロノ、リンディ、ユーノ、アルフが並び、その後ろにリインフォース、左側にシグナム、ヴィータ、右側にシャマル、ザフィーラが並んで零の声に耳を傾けた。


「さて・・・・何処から話し出せばいいのかな?」


 零は静か今までの経緯を語り出した・・・・まず最初に零は、自分がはやての本当の兄ではない事と、元々記憶喪失者であることを事情を知っている八神家以外の人達に話し、はやての家に居候させてもらい始めたのは去年の9月頃からだと話した。その内容になのはとフェイトは驚いていた・・・・何せ傍から見れば、はやてと零は本当の兄妹のように親しく見えていたらしく、自然と零がはやてのお兄さんだと思っていたらしい。


 そして零は次に、記憶喪失であった自分が、いつガイバーの力を取り戻したかという話しへと移った。零がガイバーゼロを初めて殖装した時・・・・・それは海鳴市に突如発生した大樹の時だった。その時、はやてと一緒に散歩をしていた零は、地面から出現した大樹に巻き込まれてしまい、はやてを助けようという思いで一杯になった時にガイバーの事を思い出した。


 ガイバーを纏ってはやてを助け、その後、再び変わらない日常がすぎ、6月のはやての誕生日の日、闇の書が起動し、シグナム達ヴォルケンリッターがやってきた。この話しにはシグナムも「そうであったな」と言い、シャマルも「何だか凄く昔に思えてきます」と感想を言っていた。


 ヴォルケンリッターであるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラを加え、八神家は賑やかであり、幸せな日々が続くと思っていた。しかし、10月に入ってから衝撃の事実が病院でシグナムから聞かされた。それは、はやての足の病はただの病気ではなく、闇の書の呪いのせいである事・・・・その話に、リインフォースは複雑な表情になっていた。


 無理も無い・・・・自分の意志とは関係なく、主になった者の体を蝕み、肉体機能を著しく阻害させてしまっていたのだから・・・・・


 その話しを聞いた零は、はやてを救う手段が“闇の書の完成”しかないという事をシグナム達から聞いた零は、大樹事件以降、使わないようにしていたガイバーの力を再び使おうと決心したと話すと、突然クロノが口を開いた。


「ちょっと待ってくれ!それじゃあ、あなたは彼女を助けたいが為にガイバーを纏っていたというのですか!?」


「ああ、本当はガイバーの力なんて、大樹の事件以降は使いたくないって思っていたんだけど・・・・・はやての命が危険だなんて聞かされたから、俺は再びガイバーの力を使う事を決心したんだ」


(零兄ぃ・・・・やっぱりいつも私のこと気にかけてくれたんやな~)


 クロノは零がガイバーの力を使う事が当たり前と思っていたが、零自身ガイバーの危険性を心得ていた事に少し驚いていた。そしてその話しを聞いたはやては、自分のことを一番に気にかけてくれている零の優しさに嬉しさがこみ上げてきた。


 ガイバーの力を使って零はシグナム達と協力して闇の書のページを増やす為に別の世界の高魔力を持った生物達をできるだけ怪我を負わさずに魔力を蒐集していたが、決して人を襲おうとは思わなかった。もし人を襲えば、その人の知り合いや親族の方々に迷惑をかけてしまうからだ。


「でも結局、なのはちゃん達と初めて戦った時になのはちゃんの魔力を奪う形になってしまった・・・・それについて君に改めて謝罪する。すまなかった・・・・」


「いえ、今思い返せば、シャマルさんが私の魔力を奪おうとした時、途中で止めさせようと手を出してくれたのは、ガイバーって鎧を纏った零さんだったんですよね?そのおかげで私のリンカーコアが全部取られずに済んだんですから、別に気にしていませんよ」


「いや、そうは言っても襲った事には変わりない。だから謝らせてくれ」


 ヴィータがなのはを襲った事に零はなのはに向けて頭を下げて謝罪する。その行為になのはは、零がシャマルを止めてくれたおかげで自分のリンカーコアの魔力を全部取られないで済んだと言って、本人は気に指定内容に振舞うが、なのはを襲ったという事実は変わらないと言って零は改めてなのはに謝罪した。


 話を戻し、それからシグナム達と魔力蒐集をしている中で、零の前にあの紅いガイバーであるグラーベが殖装したガイバーブラッドが出現し、一度は退く事ができた。それから数日後、はやての病気が悪化し、入院する事になり、そして・・・・・・


「そして、闇の書が完成してしまい、俺がガイバーブラッドにやられた事で、はやては闇の書の主として覚醒して、彼女が表に出てきた」


「・・・・・」


 闇の書が完成したことにより、リインフォース・・・・つまり闇の書の意志がはやてを取り込んで覚醒した。この事にはリインフォースも複雑な表情になっていた。


 零がそこまでの経緯を話し終わった頃、なのはは零が大樹の話しをし始めた時から何やら頭を抱えながら何かを思い出そうとしていた。そしてなのはは「あっ!」と声を上げた。


「なのは、どうしたの?」


「ユーノ君!!あの時だよ!ジュエルシードで海鳴市におっきな樹が出現した時、ジュエルシードを封印しようとした時に何か蒼い物体が見えた気がしたの!!」


 なのはの何かを思い出したかのような声にユーノは「どうしたのか?」と尋ねてみると、なのははあの大樹出現の際に、レイジングハートの砲撃でジュエルシードを封印しようと試みた時、何か蒼い物体が見えたような気がしていた。


「そのジュエルシードって、この位の小さな青い色をした宝石みたいな形?」


「そう!それです!!」


「それじゃあ、あの時のジュエルシードは・・・・・零さんが持ち去ったって事ですか?」


 零はあの大樹事件の際に拾った青い宝石がジュエルシードというものなのかを聞いてみる為に、なのはに「この位の大きさか?」と問い掛けると、なのはとユーノはシリアルナンバーⅩのジュエルシードを持ち出したのが、零なのだと確信した。


「それであなたは、そのジュエルシードを今持っているの?」


「いえ、そのジュエルシードというのが、あの宝石なんだとしたら、もう無いのかもしれません・・・・」


『えっ!?』


 リンディはユーノが事故でばら撒かれてしまった21個のジュエルシードの内、手持ちに残ったのは11個、その内9個はP・T事件の際に失われてしまい、最後の一つが行方知れずになっていた。しかし、もしその残り一つを零が所持しているのなら・・・・と思い、零に問い掛けてみたが、零はジュエルシードを所持していないと答え、もしかしたら既に無いとまで言い出した。


「じゃあ、一体何処に?」


「実はリインフォースが・・・・彼女がまだ闇の書の意志の頃に、もう一人のガイバー、ガイバーブラッドによって殺されかけた時に、俺の倒れていた所にあの宝石が転がっていたんです・・・・」


 クロノの問いに零はリインフォースがまだ闇の書の意志だった頃にガイバーブラッドにやられた時に近くに近くに転がっていたジュエルシードを拾い、そして“強い身体と力が欲しい”と願った。その結果、あの巨人殖装【ギガンティック】を呼び寄せたのだと話す。


「それじゃあ、あの時、結界内に小規模の次元震が発生した理由は、ジュエルシードが原因だったのね・・・・・・」


「でも母さん、一度封印処理されたジュエルシードが何故再び?」


「恐らく、闇の書の覚醒時の強大な魔力のせいで、ジュエルシードの封印が解除されてしまったのでしょう。そして零さんの願いを聞き入れたジュエルシードは、内包していた魔力を全て使い果たして、そのギガンティックとかいう巨人の鎧の入ったケースを呼び込み、最後には砕け散ってしまったのかも・・・・・」


「でも、それだったら、あの巨人の鎧は何処から来たんだって言うんだい?次元震クラスのモノが小規模でも発生したっていうんなら、あの鎧は“別次元から来た”って事になるんじゃないのかい?」


 なのは達が闇の書の意志との戦闘中に結界内に発生した小規模の次元震の正体が、ジュエルシードによるモノだと理解したリンディ。しかしアルフは、次元震を小規模で起こすという事は、巨人殖装は別の次元からやって来たという事になり、一体何処から来たのだろうか・・・・・・・


「それに関してですが、もしかしたらガイバーが元々存在していた場所から来たんじゃないでしょうか?」


「えっ?それってどういうこと?ユーノ」


 ユーノの言葉にフェイトはどういうことなのか問い掛けると、無限書庫にいたユーノが闇の書に関しての情報を探していた時、ふいにガイバーの事についての記述の書かれたモノは無いか検索をかけたところ、ガイバーが存在していたのは忘れられし都と呼ばれている【アルハザード】と同等の文明が栄えた世界が存在していたらしい。


「でも、そのガイバーの存在していた世界は、過去に起きた大規模の次元震によって滅んでいるんです」


「ということは、零のいた世界は既に・・・・・」


 無限書庫に残っていた情報では、ガイバーという存在があった世界は、過去に起きた他の次元世界を巻き込んだ大規模な次元震によって崩壊してしまったらしい。その話しを聞いたシグナムは、零の元いた世界は既に滅んでしまっていると推測するが、八神家一同は皆複雑な表情をしていた。


「皆、別にそんな暗い表情にならないでよ・・・・・」


「・・・・だって、零の帰る場所はもう無いんだぞ!!?」


「帰る場所はあるさ」


「えっ?」


「はやてや、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがいる八神家が、今俺の帰る場所であり、俺の居場所だよ」


 零は暗くなっているはやて達に向かって「気にしていない」と言うと、ヴィータが「帰る場所が無いんだぞ」と言って怒鳴るが、零は自分の帰る場所ははやてやシグナム達のいる八神家のいる場所だと笑顔で答えた。そして零はリンディにガイバーの能力についての話しをしだした・・・・・・















______________________________
















 それから数時間後・・・・・零の事やガイバーの話をし終わった時、零とはやて達は病院を抜け出してしまっている事を思い出し、大急ぎでアースラの転送装置で地球に戻り、なのはとフェイトも地球へと戻っていった。


 零たちが地球に戻った後、リンディは自分の部屋で零の話してくれたガイバーの能力などの事を頭の中で考えていた。実際にガイバーを纏っている零の話しを聞いていたリンディやクロノは、ガイバーの力を改めて認識した。


(ふう・・・・零さんの話を聞いていたら、ドッと疲れたわ・・・・)


 リンディは部屋の一画にある畳の敷いてある場所で緑茶に砂糖やミルクを入れ、お茶をすすりながら座っていた。リンディの部屋には畳以外にも盆栽などの日本の家庭にありそうな物が置いてあり、アースラのようなSFチックな場所の一画にこういった物があるとかなりシュールである。


 零の覚えている範囲でのガイバーの能力は、強殖細胞と呼ばれる細胞で構成された鎧を纏う事で、普通の人間では考えられないほどの身体能力が向上し、内蔵などの構成も瞬時に戦闘用に変わってしまうモノらしい。


 そして、ガイバーを纏っている時、額にあるコントロールメタルと呼ばれる銀色の球体が強殖細胞を制御、管制する制御中枢であり、ガイバーの肉体にいくら切り傷を作ったとしても、時間が経てば自己修復してしまうという。さらにガイバーの武装は、どれも魔法を主体にしているミッドチルダ側からしてみれば、脅威になるモノばかりだった。


(・・・・でも零さんはガイバーの力をもう使う気は無いって言っていたわね・・・・)


 そう、リンディはガイバーの能力などの話を聞いた後、地球に帰ろうとする零に「これからもガイバーの力を使う気でいるのか?」と質問してみた。リンディ達管理局側から見れば、ガイバーは質量兵器であり、危険が無いとはいえなかった。しかし・・・・・


「リンディさん、俺はこれ以上ガイバーの力を使う気はありませんよ。そもそもガイバーの力を使おうと思ったのは、はやての命が危なかったからであって、リインフォースも「はやてはもう大丈夫」と言っていましたから、俺がガイバーを纏う事はもう無いですよ」


 零から返ってきた言葉は、自分はもうガイバーを纏わないという返事だった。零がガイバーを纏った理由は、はやての命が危険であった為であり、本来はガイバーの力を使う気は無かったようで、命の危険のなくなった事で、零にはガイバーを纏う理由が無くなった。よってこれ以上ガイバーを使う事は無いだろう。


 しかしリンディは、同じガイバーを纏っていたグラーベのことを考えていた。零の話しを聞く限り、例え傷付いても修復できるそうだが、なのはやフェイトからの話では、グラーベの纏っていたガイバーブラッドは、闇の書の意志によって跡形も無く消滅させられてしまったらしい。


 その話しを聞き、先の零の話しを統合すると、ガイバーの特性からいってグラーベが生きている可能性は出てくるのだが、防衛プログラムの残骸や市街地の修復などに出撃させた武装局員の一部に、ガイバーブラッドが消滅させられた付近の捜索を頼んだのだが、グラーベの姿などは目撃していないとの報告を受けた。


(グラーベ・・・・あなたは生きているの?それとも・・・・)















________________________________

















 アースラで話し終えた零とはやてとヴォルケンズは大急ぎで海鳴市大学病院に向かった。案の定、病院でははやてが病室からいなくなったという事で大騒ぎになってしまっていた。はやてを抱えて病院にやってきた零とシグナム達は、担当医の石田にこっぴどく叱られてしまった。


 さすがの天下無双の実力を持っているヴォルケンリッターのリーダーであるシグナムとアタッカーのヴィータも、石田の怒りに押し負けてしまい、頭を何度も下げて謝った。まあ病院で働いている者からしてみれば、患者が忽然と消えてしまえば誰でもこうなるだろう。


 零たちは必死に石田に謝り、一先ずはやてを病院に送った後、零とヴァルケンズは自宅へと戻り、晩御飯を作る為に零とシャマルはエプロンを纏ってキッチンへと向かった。さすがの零も久しぶりにキッチンに立ったことで、いつもの日常が戻ってきてんだな~と心の中で思ってしまった。しかしまだはやてが戻ってきていないから完全とはいえないが・・・・・


 そんなこんなで晩御飯の準備が整い、テーブルには美味しそうな匂いを漂わせている料理が並んでいる。その料理にヴィータは「久しぶりの零のメシだ!!」と言って一番乗りに席に座る。そしてシグナム、シャマルが席につき、ザフィーラも狼の姿になってザフィーラ用の食器の前に座り、リインフォースは少し戸惑いながら零の向かい側に座る。


「じゃあ、頂こうか!頂きます!!」


『頂きますっ!!』


 零が手を合わせて合掌すると、ヴィータは元気よく叫び、シグナム、シャマルも手を合わせる。しかしリインフォースだけは、目の前にある食事を見ながら何故か手をつけようとしない。


「あれ?リインフォース、どうしたんだ?」


「えっ?いえ、私はこういった事は初めて経験するので・・・・」


 リインフォースの様子に零はどうしたのか問い掛けると、リインフォースは食事をするという事をした事が無いと言って少し戸惑いながらも箸を使って食事に手をつけ始めた。その様子を見た零は、ヴォルケンズが八神家にやってきた最初の晩御飯の時のようだった。


(そういえば、あの頃の皆は今と違って今のリインフォースみたいな感じだったな・・・・)


 シグナム達が初めて来た時の頃を思い出した零は、はやてが病院から戻ってくれば、これからもこういった何気なくても幸せな生活が再び来るんだと思いながら食事に手をつけ始めた。


 それから久しぶりの皆での食事を終えた後、ヴィータとシャマルはお風呂に入り、シグナムとザフィーラはリビングでくつろぎ、零は食事に使った食器を洗っていた。するとリインフォースが洗った食器を布巾で拭き取る作業を手伝いに来てくれた。


「何だか今でも信じられません。こうして人並みの生活を送る事ができるなんて・・・・」


「何を言ってるんだよ。これからも一緒に生活していくのに、今信じないでどうするんだよ?」


「・・・・・・」


 今まで覚醒してからしか表に出られなかったリインフォースが、こういう人並みの生活を送る事ができるだなんて、当の本人が信じられずにいたらしく、そんなリインフォースに零は「信じないでどうするんだ?」と言って笑い、その様子にリインフォースも笑みを浮かべる。しかしその表情には、何故か影か出ているように見えた。


「あの、兄君・・・・」


「リインフォース、その“兄君”って呼ぶのは勘弁してくれないか?普通に“零”って呼んでくれればいいから」


「あっ、はい。あの・・・・零?」


「何?」


「後で宜しいので、庭のほうに来ていただけませんか?少しお話がありますので・・・・」


「?いいけど・・・・」


 食器をしまった後、突然リインフォースが零に話があると言って庭に来るよう伝えてきたので、零は体を休めて暫くした後、庭に出てみると、そこにはリインフォースが夜空を見上げて待っていた。しかしリインフォースの格好は最初に出会った頃のシグナム達のような格好になっていたので、零は庭に出る前にコートを持って後ろからリインフォースにかけてあげた。


「零?」


「今更だけど、そんな格好でいると風邪を引いちゃうぞ?」


「・・・・ありがとう」


「それで、話って?」


「はい・・・・・」



 零の行為にリインフォースはお礼を言い、さっそくリインフォースは先程零に話したかった事を語り出した・・・・・その話とは、リインフォースの活動時間の話だった。アースラで精密検査を受けたリインフォースは、確かに闇の書と呼ばれる原因になった機能の殆どを暴走した防衛プログラムとの切り離しの際に持っていかれてしまい、今のリインフォースはシグナム達と同じような存在になっていた。


 しかし、自身の自己再生機能が切り離しの際のダメージによって機能しなくなってしまい、今この瞬間も、形として見えていないが徐々に自己崩壊を起こし始めていると話し、良くて数ヶ月の命だと話した。


「・・・・その話は、はやてにもしたのかい?」


「いえ、この事を知っているのはシグナムとシャマルとザフィーラだけです・・・・ですが、恐らくは主も気づいていると思います。それでも笑顔を見せて心配していないように装っていると思います」


「だろうな・・・・はやてはああ見えてかなり鋭いところがあるから・・・・」


 リインフォースの話した事に、零は彼女の顔を見るが、その真剣な表情に冗談ではなく真実なのだとすぐに分かった。その真実に零は自然と表情が暗くなってしまう・・・・ようやく呪いという苦しみばかりの不幸な日々から開放され、これから幸せな日々が続くと思いきや、生きられる期間がたったの数ヶ月しかないというのは余りにも酷すぎる。


「零、別にあなたが気にすることではないのです。私は闇の書として多くの人々の人生を奪ってしまいました。本来なら私は消滅しなければならない存在だったのです」


「でもそれはっ!」


「いいんです。例え短い命であろうと、私はこうして主や守護騎士たち・・・そしてあなたと一緒に静かな生活を送る事ができるのですから、私にとってはこの上ない幸せです・・・・」


 リインフォースは本来ならすぐに消滅しなければならない存在だったのにも関わらず、これから静かで穏やかな日々を送る事ができるのであれば、例え短い命であろうと幸せであると零に話した。零は自分の顔を見ながら微笑むリインフォースの表情に、できるだけリインフォースには幸せな日々を送れるようにしていこうと思った。


















 それから三日後、病院にいたはやてが無事に退院してきた。石田も失踪する前のはやてとは思えないほど体調の良いはやてに様子に驚いていたが、精密検査の結果、退院しても問題ないということで、退院の許可が下りた。久しぶりに自分の家に戻ってきたはやては「やっぱ、自分の家にいると落ち着くわ~」と言ってのんびりしていた。


「よ~し、はやてを中心にしてヴィータははやての隣で、シグナムとシャマルは左側にきてくれ。リインフォースははやての後ろで、ザフィーラは右側な」


 はやてが帰ってきた日、零は「せっかく皆揃ったんだから集合写真を撮ろう!」と言って皆を庭に集め、零は三脚で固定したデジカメの画面を覗きながら車椅子に乗っているはやてを中心にシグナム達に指示を出す。


 ちなみにリインフォースは以前シグナム達の為に買ってあげた服の中からサイズの合う服を選んで着せてあげている。


「零~、はやく撮ろうぜ!」


「そう急かすなって。せっかくの集合写真なんだからしっかり撮らないと・・・・よし行くぞ!!」


 急かすヴィータに零は「しっかり撮りたい」と言ってデジカメの調整をする。そしてデジカメのシャッタータイマーのスイッチを押して急いでザフィーラの後ろに回りこむと、デジカメから「ピピッ」と音を出して「カシャッ」と音を立てた。


「どうだ?ちゃんと撮れたか?」


「・・・・ああ、これ以上ないって程のいい感じにな!!」


 三脚からデジカメを取り外して撮った写真を再生させると、皆で画面を覗き込む。すると、そこにはようやく家族全員が揃った八神家の素晴らしい笑顔をした皆の姿が映っていた・・・・・・







































 第二十三話であり、As編完結、いかがでしたでしょうか?


 いや~今回は色々頭を捻られながら書いていたので、書き終わった時「あ~どんな感想がくるかな~」と一番に思いました(笑)

 皆さん結構痛いところを付いてくる感想が最近多かったので(と言っても自分の未熟さ故なんですが)どんな感想が来るかマジでドキドキです。


 さてこの回でAs編が終了となるのですが、今回まで一週間単位で投稿できるように頑張ってきたのですが、来月からリアルのほうでの仕事が忙しくなるので、投稿できる期間がかなり変動をきたすかもしれません。ですが完結目指して頑張って書いていくので、どうか応援宜しくお願いします。

 それではまだ次回、新章でお会いしましょう・・・・・














 



[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第二十四話(新章)
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/07/11 20:56












 むかし、むかし・・・・・手にした者に呪いをかけて、殺してしまうと言われた一冊の本がありました。

 呪われた・・・・闇の書・・・・・

 いつかそう呼ばれるようになった本と、本を守っていた精霊は、ずっとずっと悲しんでいました・・・・・・

 男の人も、女の人も、優しい人も、お金持ちも、王様でさえ・・・・・その本の持ち主となった人は、みんな、みんな、闇の書の呪いで死んでしまうからです・・・・・

 闇の書を守るお供の騎士たちも、ずっとずっと悲しい思いをしていました・・・・・

 闇の書と、すぐに死んでしまう持ち主の為に、戦うばかりの毎日・・・・

 笑う事もいつしか忘れ、真っ暗で、真っ黒で、憂鬱で・・・・・

 永遠みたいだったそんな時間を、終らせてくれたのは、闇の書の最後のご主人様となった一人の小さな女の子と、記憶をなくしていた一人の青年でした・・・・・

 女の子と青年は、闇の書と騎士達を自分達の“家族”として迎え入れて、凍えていた闇の書と騎士たち、みんなの心を暖かくて、優しい気持ちで一杯にしました・・・・・・






 ・・・・きっと、だからです・・・・






 闇の書の呪いは、女の子を襲いましたが、願いと絆に守られた四人の騎士達と、女の子を救おうと封じていた力を使い、蒼き巨人となった青年と・・・・・

 勇気を胸に駆けつけた強く、優しい魔法使い達によって闇の書の呪いは退治され、女の子と本の精霊は、二人とも無事に助かりました・・・・・

 そして女の子は、かつて闇の書と呼ばれていた本の精霊に名前を贈りました・・・・祝福の風、リインフォース・・・・・

 季節は12月、小さな女の子と魔法使いと騎士たちは、皆、平和に暮らしていました・・・・







・・・・だけど・・・・





























 寝苦しい夜だった・・・・・零は自分のベッドの中でうなされていた・・・・・


 朦朧としている意識の中で、目の前に見える光景に唖然となる。その光景は、崩れたビル、ひび割れたアスファルト、周囲に散らばった瓦礫・・・・・まさに廃墟となった街と言ってもいいモノだった。その場にいた自分の右手には、誰かが手を握っているような感触があり、視線を向けるとそこには女の子が不安そうな表情でこちらを見ていた。


(君は・・・・)


「・・・・・・」


 女の子を見た瞬間、彼女が自分の妹であると理解したが、自分の顔を見ながら不安そうに何かを呟いていた・・・・しかし妹が何を喋っていたのか自分には分からず、妹に向けて喋ろうとした時だった。


 突然の爆発音と共に炎に巻かれた人々が爆風で飛ばされてきた。真っ赤な炎に包まれた人の中には手を伸ばして助けを求めている人もいた。その光景に自分の中に“人が死んでいく”という気持ちが溢れ、苦しく、悲しくなった。


(駄目だ・・・・ここから逃げないと・・・・)


 この場にいるのは危険である事を瞬時に理解した時、妹の手を引っ張りながらその場から逃げ出した。瓦礫の中を走る自分は時折後ろを振り返りながら追っていないか確認しながら必死に逃げた。ところが前に視線を戻した時、何かに殴られたような衝撃が自分を襲うと同時に、自分の身が宙に浮くような感覚が襲った。


(うわぁぁぁぁぁっ!!)


 飛ばされてという認識をした直後に何かに叩き付けられた衝撃を受け、一瞬意識が飛んだ。そして再び意識が戻ったと思ったら、そこには妹の首を締めている額に大きな結晶を埋め込んだ人の姿をした人物が立っていた。


(止めろ!!止めてくれぇぇぇぇっ!!!)


 自分はそう叫んだのか、謎の人物は一度だけこちらに視線を向けるが、不敵な笑みを浮かべると、妹の首を締めている腕にさらに力を込めて締め上げ始めた。その行為に妹は目を見開いて足をバタバタさせていたが、徐々に動きが遅くなり、遂には全く動かなくなってしまった。


(!?)


 動かなくなった妹の姿に唖然としてしまい、謎の人物は妹を自分に向けて投げ寄越してきた。咄嗟に体の痛みなどお構いなしに飛んでくる妹をキャッチして妹の顔を見ると、そこにいた妹の顔は、はやての顔になっていた。


(うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!)
















____________________________
















「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


「零兄ぃ!零兄ぃ、しっかりして!!」


「はっ!?」


 大声で叫ぶ零に、必死に体を揺さぶって声を掛けるはやて。その声に零は目を開けて息を切らしながら天井を見上げ、傍から自分の顔を覗き込むはやての姿を見た。どうやらはやては、零を起こしに来てくれたようで、ベッドでうなされている零の姿を見て慌ててベッドに駆け寄ってきたみたいだ。


「ハァハァハァ・・・・・はやて・・・・?」


「零兄ぃ、大丈・・・・!?」


 零の様子に心配しながら声を掛けるはやてに、突然零がはやてに抱きついてきた。その零の行為に、はやては顔を真っ赤にさせて驚きの表情になってしまった。


「れっ、零兄ぃ!?どっ、どないしたん!?」


「・・・・・・・・・」


 突然抱きつかれたはやてはアタフタとしながら零にどうしたのか問い掛けると、零は何か大切な物を必死になって離さないでいるように、はやてを抱きしめていた。すると、はやての頬に何か水滴のようなモノが当たり、ふいに上を見上げてみると、そこには声を殺しながら大粒の涙を流している零の顔があった。


「零兄ぃ・・・・泣いてるん?」


 涙を流している零の様子を見たはやては、何か悪い夢でも見たのではないかと察し、零の体に両手を回して抱きしめ返す。まるで“自分はここにいる”と訴えかけるように・・・・・
















______________________________

















「ごめんはやて、いきなり抱きついたりして・・・・・」


「別にええよ。でもどないしたん?急に抱きつかれたからビックリしてもうた・・・」


 あの後、暫くの間はやてを抱きしめていた零は「はっ!?」と我に返り、自分がはやてを抱きしめているという事に気づき、慌ててはやてを手放した。しかしはやて自身顔を赤くはしていたが、別に気にしていないと言うと、零に一体どうしたのかと尋ねてみた。


「・・・・そっか、妹さんの記憶が・・・・」


「ああ、はやてにはまだ話していなかったけど、俺には妹がいたんだ。でも最近になって、その記憶が夢として見るようになってしまったんだ・・・・」


 零は自分に妹がいたのをまだはやてに話していなかった為、今ようやくはやてにその事を伝え、妹が何者かに殺される光景の夢を見るようになってしまったと話した。この状態になったのは、はやてが退院して二日経った頃からこういった状態が続くようになってしまった。


 その後、はやてと共にリビングに行くと、そこにはいつもと変わらない皆の姿があった。シグナムはソファーに座って新聞を読み、ヴィータは狼姿のザフィーラと共にテレビを眺め、シャマルはリインフォースと共に庭で洗濯物を干していた。


「ほんなら零兄ぃ、早く朝ご飯を食べちゃってな」


「・・・・もしかして、俺が最後っぽいのか?」


「ああ。だが珍しいな、主はやての次に朝の早いはずの零が朝寝坊とは・・・・」


 キッチンのテーブルに置かれている自分の分の朝食を見た零は、自分が一番最後に起床したのだということに気づいた。時計を見ると既に九時を過ぎており、いつもの自分としては確かに朝寝坊であった。シグナムもはやての次に朝の早い零の様子に少し疑問に思ったが、そんなこともあるのだろうと再び新聞を読み始めた。


 だがここ最近、零の様子はどこかおかしくなってきていると思っていた・・・・闇の書が完成する前、零ははやてに「過去の事はもう考えない」と伝えていたが、何故か最近になって自分の過去の事が夢として見るようになっていた。零自身、既に過去のことは妹がいたことだけ思い出せただけで良かった筈なのだが、それ以外のことを思い出し始めていた。


 まるで、零の心の中にある“何か”が、過去の記憶を思い出せ・・・・と訴えているかのように・・・・















__________________________















 朝食を一人食べている間、零は新たに加わったリインフォースの事や、他の守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人がリインフォースの事をどう見ているのか考えていた。


 リインフォースは、闇の書の防衛プログラムとの切り離しの際に、自分を構成しているプログラムの大半を防衛プログラムに持っていかれてしまったことによるダメージにより、自身を再生させる為に必要なシステム【自己治癒能力】が崩壊してしまった状態になってしまった。その為生きていられる時間に限りがあるということをリインフォース本人から聞いていた零は、生きている間だけでも幸せになって欲しいと思っていた。


 シグナムやシャマルやザフィーラの三人は、ようやく闇の書の闇という呪いから開放されたリインフォースと共に生きているこの時間はとても大切であると答えていたが、ヴィータだけは何故かリインフォースとあまり喋らず、顔を合わせようとしても、すぐにそっぽを向いてしまっていた。


 そんな時、零ははやてが退院してきた次の日に、リビングのソファーに座るヴィータとリインフォースがいたのだが・・・・・


「ヴィータ・・・・その、今日もいい天気だな?」


「ああ・・・・」


『・・・・・・』


「・・・・ええと・・・」


「いいよ、話すことね~んなら無理してしゃべんなくて」


「・・・・すまない」


 と、このような会話になってしまっていた。この光景にはさすがのはやても心配し「どうにかならんかな~」と言っていたが、「お互いにどう接していいか分からないのだろう」とザフィーラは言っていた。この事について零はシグナムに「昔何かあったのか?」と聞いてみると、シグナムはその理由を話してくれた。


 ヴィータとリインフォースの仲がギクシャクしている理由・・・・それはまだ彼女が闇の書と呼ばれていた頃のことだった。闇の書の主になった者達の命令通りに毎日、毎日戦うばかりの毎日の中で、ヴィータは戦いを強要させる主になった者達のことを嫌い、闇の書がある限り、戦いばかりの毎日が続くのだろうと不満を募らせ、いつもリインフォースに八つ当たりをしてしまっていたらしい・・・・・


 そして今回の事件でリインフォースは無事に助かった事で、一緒に暮らす事になり、こうして話をしようとしても、今までヴィータ自身が一方的に八つ当たりをしてきてしまったリインフォースにどう接していけばいいのか・・・・そしてリインフォースも、今まで戦いばかりの生活を押し付けてしまっていたヴィータに、話し掛けても再び拒絶させられてしまうのではないかと思い、お互いにどうすればいいのか分からず、話が全く繋がらないでいたのだ。


 さすがの零も、この問題はヴィータとリインフォースの二人の問題であり、余計な口を挟めば、二人の関係にさらに溝を深めてしまうだろうと思い、傍らから見守る気でいたのだが・・・・・・


 そんな事があった日から数日後、未だ何も進展もなく現在に至る・・・・朝食を食べながら零は、さすがのヴィータとリインフォースの二人の気まずい空気に、どうすればいいのか考えていた。


(・・・・・あっ、そうだ!)


 零は食事をしながらふとカレンダーを見ると、何か閃いたような感じで朝食を片付けた。それから暫くした後、ヴィータは本日ゲートボールの集りがあるとのことで、自前のスティックを持って出かけようとしていた。


「いってきま~すっ!!」


「ヴィータ、待ってくれ!!」


 出かけようとするヴィータを呼び止める人物の声に、ヴィータは立ち止まり、後ろを振り返ると、そこには零がリインフォースの手を引きながらやってきた。


「ヴィータ、俺達も一緒に行っていいか?」


「へっ?」


「いや、俺もリインフォースもヴィータがやっているゲートボールを見てみたいからさ。なっ?リインフォース」


「えっ?いや・・・・あの・・・・」


「恥ずかしがる事ないだろ?さあ、行くぞ!!」


 零はヴィータのやっているゲートボールを見てみたいと言い、リインフォースも連れて行くと言い出した。リインフォースは零の行動に焦りを見せるが、そんなリインフォースにお構いなしにヴィータと共にゲートボールを行っている公園へと向かった。


 公園に向かう途中、零を挟む形にヴィータとリインフォースが隣接するように歩いていると、ヴィータは零に「どうしてリインフォースも一緒なんだよ?」と尋ねてきたので、零は「リインフォースだって近所のお付き合いってのを経験させないと」と言ってリインフォースをかなり無理矢理に付き合わせたのだ。


 ちなみにこれは零の作戦で、ヴィータとリインフォース、二人で一緒に体験できる出来事があれば、二人の仲に何かが芽生えるかもしれないと思ったからである。少し強引な部分もあるが・・・・・




















 ゲートボールの行われている公園に零とヴィータ、リインフォースの三人がやってくると、公園にいた老人達はヴィータの姿を見るなり、まるで孫と久しぶりに会ったかのような様子でヴィータに声をかけてきた。


「おおヴィータちゃん、よく来てくれたのぅ」


「おう!じいちゃん、ばあちゃん、今日も来たよ!!」


 ヴィータの姿に喜ぶ老人達にヴィータも笑顔を見せながら老人達の集まっている場所に駆け込んでいく。そんな中、リインフォースはヴィータの喜んでいる光景に少し驚いているような表情になっていた。


「皆さんに大人気だろ?ヴィータは」


「ああ、あのように笑っているヴィータを見ていると、年相応な子供のように見えてくる」


「ふっ、確かに・・・・でも、本人の前ではそんなこと言うなよ?確実に「子ども扱いすんな!」って言って怒りそうだし」


「そうだな・・・・」


 かつて鉄槌の騎士と呼ばれていたヴィータの姿しか見ていなかったリインフォースにとって、今のヴィータのニコやかに老人達と話をしている様子を見ていると自然と笑みが零れてしまう。零もヴィータの様子を見ているとリインフォースと同じような気持ちになってくる。


「おや?あなたはどちら様ですかな?」


「あっ、初めまして。零といいます。いつもヴィータがお世話になっています」


「おお。あなたがヴィータちゃんのお兄さんの零さんか?いや~こうして直に会うのは初めてじゃな?なるほど、ヴィータちゃんの言う通りみたいじゃな」


「ヴィータが?」


「ええ、いつもここに来ては良くお前さんの話をしてくれておったよ。そういえば前にヴィータちゃんが持ってきてくれた差し入れを作ってくれたのはお前さんだったそうじゃな?アレはとても美味しかったぞい」


 同じゲートボール仲間である一人の老人が零に声を掛けてきたので、零は頭を下げて挨拶をした。老人達は零のことはヴィータから話だけでも聞いていたらしく、“頼もしいお兄さん”という感じな印象を持っていたようだ。しかし直に零と会うのは今回が初めてであり、実際の零は老人達の思っていたとおりの好青年に見えていた。


「そういえば、そちらの方は?」


「あっ、この子はリインといいまして、いつもは仕事で殆ど海外に行っているんですが、休暇が取れたので今は期限付きですが一緒に暮らしているんです」


「あっ、どうも、初めまして・・・・」


 他にいた老婆の一人が、零の隣にいたリインフォースの事を尋ねてきたので、零は老婆にリインフォースはシグナムより年上のお姉さんで、殆どが海外で仕事をしていたが、休暇が取れたのでこっちに戻ってきていると説明し、リインフォースは恥ずかしながらも老婆に頭を下げて挨拶を返した。


 もちろんこの説明は大半が嘘であるが、リインフォースの残っている寿命を考えると、仕事で殆ど海外で生活をしている人と説明しておけば、リインフォースがいなくなったとしても“仕事が忙しい”という理由で誤魔化しがきくはずだ。


 そう考えた零は、リインフォースの事をリインと呼び、ご老人達にリインフォースの事をヴィータのお姉さんと認識させる事にしたのだ。しかしご老人達には「ということはシャマルさんの妹さんになるんですかね?」と言い出し、老人達の中では、シャマルは完全に“お母さん”フラグが立ってしまっているようであった。


 この事をシャマルが知ったら、今度は確実に「私は、そんなに老けてないわァァァ!!」と言って再起不能に陥ってしまうかもしれない・・・・・・


 とまあこんな会話の後、ヴィータとご老人達は手馴れた手つきでゲートボールの準備をし、さっそくヴィータは張り切ってご老人達とプレイを開始した。さすがに自前のデバイスであるグラーフアイゼンと同じ形状をしているゲートボールのスティックであるのか、扱いに非常に慣れていた。


 零はゲートボールのルールまでは知らず、リインフォースと共に公園のベンチに腰掛けながら眺めていて分かった事といえば、とにかく制限時間内に一つ一つのゲートに向かってボールをスティックで弾き飛ばしてゲートを潜らせて得点を稼ぐ・・・・ということみたいだった。


 プレイ中、ヴィータがうまい具合にゲートにボールを潜らせると「やったぁ!」と言って喜びの声を上げると、老人老婆の方々もヴィータに向かって拍手を送った。


「・・・・あのような嬉しそうなヴィータの姿を見るのは初めてだ・・・・」


「そうなのか?」


「昔は殆どが戦いばかりの毎日で、ヴィータは少し休みがあるといつも空を見上げていた・・・・」


「空を?」


 リインフォースの言葉に零は質問すると、遥か昔に闇の書として生きていた頃、自分達のいた世界の空はいつも雲っており、今のように青空は見えていなかったらしい。ヴィータはそんな空であっても、何処かで青空を見る事ができるのではないか・・・・としていたらしい。


「ふ~ん、そんなことがな・・・・」


「ああ、だからああやって楽しい表情をしているヴィータの姿を見ていると、嬉しい気持ちが溢れてくる・・・・」


 零とヴィータの様子について話をしているリインフォースは嬉しい気持ちがある中で、表情だけはやはり暗かった。そんなリインフォースの顔を見た零は、ベンチから立ち上がると、一通りプレイを終えたヴィータに向かって駆け出した。


 リインフォースは零とヴィータが何かを話し合っているのを見ていると、零が戻ってきた。


「リインフォース、一緒にゲートボールをやるぞ!!」


「えっ!?」


 零はリインフォースの手を引きながらヴィータ達の中に入り、老人達からスティックを借りてヴィータの説明を聞きながら一通りプレイしてみる事にした。しかし見た目と違ってゲートボールは中々難しく、零とリインフォースはかなりてこずっていた。


「ありゃ?」


「そうじゃねぇよ。もっとスティックの中心にボールを当てるようにしないと、真っ直ぐ進まねぇよ」


「あっ!?」


「何やってんだよ!そんな力無く当ててもぜんぜん進まねぇよ、もっとこのくらいまでしてやらないと!!」


 ゲートに向かってボールを行かせようとするが、真っ直ぐ進まずゲートから逸れていく零にアドバイスをし、ボールにスティックを当てても全く進まないリインフォースにヴィータは少し強気の言い方でリインフォースの持っているスティックに自分の手を置いて動かしながら説明した。


 それから暫くヴィータのレクチャーを受けた後、零&老人チームと、ヴィータ&リインフォースチームと5人ずつ分かれて試合をやってみた。始めの内ははヴィータ&リインフォースチームが有利に進んでいたが、徐々に零&老人チームが追い上げてきた。


 そして勝負は互角になり、最終ラウンドとなった。お互いに一歩も譲らず、手に汗握る接戦となった。


「さあリインさん、あなたの番じゃよ」


「えっ、ええ・・・・」


 最後の一球・・・・リインフォースの打つボールが【あがり】と呼ばれるゴールポールに当てる事ができればヴィータ&リインフォースチームが有利になり、その後に控えている零がゴールポールに当てれば再び同点となる。リインフォースは真剣な表情でスティックを握り、ボールを打った。


『・・・・・・・』


 静まった空気の中、リインフォースの打ったボールは、見事ゴールポールにヒットし、ポールに当たった瞬間、ヴィータチームは「おお!!」と声を上げた。そして次の番になった零はゴールポールに向けてボールを打つと・・・・・零の打ったボールは力足らずであったのか、ゴールポールの数センチ手前で停止してしまった。その瞬間、零チームの方々は「あ~」と残念な声を上げて勝負はヴィータ&リインフォースチームの勝利となった。


 その後、零とヴィータ、リインフォースは三人仲良く自宅へと向かって歩いていた。ゲートボール会の老人老婆の方々は、今までにない白熱した試合に「こんなに熱くなった試合は初めてじゃわい」と言って勝敗に関係なく喜んでいた様子だった。しかしそれより・・・・・


「リインフォース、最後に決めてくれてサンキューな!」


「いや、私なんて足を引っ張ってばかりだった。最後のは運が良かったんだ」


「そんなことねぇよ、じいちゃん達も「あの場面で当てるなんてたいしたもんだ」って言ってたぞ」


 零とリインフォースの間を歩いているヴィータは、リインフォースに向かって「試合に勝てたのはリインフォースのおかげだ」と言って勝てた事を喜んでいた。ヴィータは試合の最中でも、リインフォースに色々アドバイスを送り、時には「頑張れ」と応援する時もあった。


 その光景を零も試合中に何度も目撃し、その度に笑みを浮かべてしまっていた。


「なあ零、アイス買ってくれよ!!」


「ん?・・・・そうだな、今日はヴィータに色々と教えてもらったし、お礼代わりに買って良いよ」


「よっしゃあ!!」


「ただし、一個だけだぞ。まだ季節は冬なんだからな」


 ふとコンビニの前を通り過ぎようとしていた時、ヴィータは零にアイスを買ってほしいと強請ってきたので、今日のお礼を兼ねて零はアイスを買ってあげる事にした。零からお金を貰ったヴィータは駆け足でコンビニ内に入り、アイス売り場へと向かっていった。


「零、今日はありがとう」


「ん?」


「私とヴィータの仲が悪いのを察して、ゲートボールと言ったか?あのような場所に私を連れて行ってヴィータとの仲を良くしようとしてくれたのだろう?」


「・・・まあ、半分正解」


「半分?」


「ああ、本当はリインフォースの近所とのお付き合いを目的にしていたけど、ヴィータとの仲良くしようとしたのはリインフォース、君自身だよ」


「そうか・・・・そうかもしれない・・・・」


 リインフォースは零に、ヴィータと仲良くできたのは零のおかげだと言ってお礼を言うが、零は実際に仲良くできたのはリインフォース自身だと言った。試合中にもリインフォースはヴィータの番になると「頑張れ」と一言言い、そして得点が入るといつの間にか二人はお互いに笑い合って喜びを分かち合っていた。


 リインフォースとヴィータはゲートボールを通して、いつの間にか昔からのしらがみは消し去り、今では普通にお互いに笑い合うようになっていた。


 リインフォースとの会話後、コンビニの中からヴィータが戻ってくると、さっそく買ってきたアイスを嬉しそうに食べながら零とリインフォースと共に家路につこうとした。その時だった。


「?」


「どうしたんだよ、零?」


「・・・・いや、誰かの視線みたいなモノを感じたような気がしたんだけど・・・・気のせいだな・・・・」


 零が突然足を止め、ヴィータはどうしたのかと尋ねるが、零は何か視線のようなものを感じたと思ったが、気のせいだと言って再び歩き出した。しかし零もリインフォースも気づいていなかった。この時感じた視線の主が、この海鳴市に災いをもたらそうとする者の視線だったと言う事に・・・・・・































 おまたせしました。最新章第24話。

 さて今回はゲーム版なのはのヴィータ編の話でもあったリインフォースとの仲についての話にしてみました・・・・とは言っても、最近バトル物の話ばかりだったので、のぼのぼした話を作るのに苦戦してしまいました。

 それで仲良くなる話として、ヴィータがよく行っていたゲートボールで仲良くさせようと考えたのですが、当の作者はゲートボールのルールなどもっぱら知らず、ウィキの情報を元にして作成したので、内容が滅茶苦茶になってしまいました。どうもスイマセン・・・・・我ながら唐突な展開だなと思いました・・・・・



 次回からはあのマテリアルたちを出していこうと思っています。では次回いつになるか分かりませんが頑張って作成していきますので、よろしくお願いします・・・・


ゲーム版のOPで闇の書事件の語る場面で、田村ゆかりさんが語っていたのですが、そのままにしておいたら今度は水樹奈々さん、そして次に植田佳奈さんとそれぞれ語っていた事を最近知りました(笑)個人的には奈々さんの語りが好きですね。





 



[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第二十五話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/07/25 00:07













 先日のゲートボールでの際に、ヴィータとリインフォースの仲が良くなったのを知ったはやてやシグナムらは、その事に喜んでいた。その日の晩は八神家全員で皆、笑い合いながら晩御飯の準備をしていた。その間、リインフォースは一人庭で星空を見つめていた。


(こうしていると、これは夢なのではないかと錯覚する時がある・・・・今まで絶対に叶わないと思い、しかし望み続けていた・・・・・なにものにも代えることのできない幸せな日々・・・・)


 庭で星空を見つめていたリインフォースはふと家の中へと視線を移す。そこにはシャマルとシグナムは食器を並べ、ヴィータはボールの中に入っているジャガイモやキュウリなどをかき混ぜてポテトサラダを作っている光景が影として見えていた。


「お~い、リインフォース」


「リインフォース、晩御飯の準備ができたで~」


 シグナム達の光景を見つめていると、零とはやてがリインフォースを呼びに現われ、リインフォースははやての手を取り、室内に戻る。


(幸せな日々を私は・・・いや、私たちは手に入れることができたんだ・・・・)


 零とはやてに呼ばれたリインフォースは少し笑みを浮かべながら、今ある幸せな日々をかみ締めるように一歩一歩足を進める。目の前に広がるかつて闇の書と呼ばれた頃には経験する事は叶わないと思っていた夢が、今目の前に現実として存在している。それだけでもリインフォースは今、幸せを感じていた。




















 ・・・・例え、自分に残された命が限りあるモノだとしてもしても・・・・・























_______________________














『いっただっきま~す!!』


 晩御飯の準備が整い、八神家全員が席につき、手を合わせて一斉に「頂きます」と言うと食事に手をつけた。皆が楽しい会話をしている中、ヴィータはもの凄いスピードでオカズを取りながら大盛りのご飯を掻き込むように食べている。


「やっぱり零とはやての作った料理はギガウマだな!!」


「ヴィータ、少し落ち着いて食べろよ」


「ほらほら、ほっぺにご飯がくっ付いていますよ」


 零とはやてが作った料理をうまいと称するヴィータは満面な笑顔を見せながら箸をすすめる。その様子に零は少し落ちついて食べるよう注意し、隣に座っているシャマルがヴィータの口の周りに付いているご飯粒を布巾で拭き取ってあげる。


「主はやてと零が作ってくれた料理だ。味わって食べないともったいないぞ」


「あはは、すまねぇ・・・・」


「ヴィータはあわてんぼうさんやなぁ」


『あはははっ!!』


 シグナムがゆっくりと料理を味わって食事をするように言うと、ヴィータはテレながら頭を掻きつつも謝り、はやての一言に皆が大声で笑い合う。ヴィータが食いしん坊なのはいつもの事だが、八神家全員にとってはいつ見ても飽きない光景でもあった。


 食事が終了した後、お風呂が沸くまでの間、はやてとヴィータは対戦ゲームをやるためにテレビの前でゲーム機の準備をし、シャマルとシグナムはリビングでのんびりする事にし、ザフィーラははやてとヴィータの背もたれ役として二人の前に座ると、はやてとヴィータはザフィーラの背に体を預ける。


 何でもはやて曰く、ザフィーラの背はモフモフして気持ち良いらしく、暇があればはやてはザフィーラに寄り添い、ザフィーラもはやての行為に本人もイヤとは思わず、大人しく受け入れていた。


 そんなはやて達とは別の場所・・・・・零とリインフォースは再び庭に出て星空を見上げていた。今日は冬の季節に珍しく、余り寒くはなく、時折吹き抜ける風が気持ち良かった。


「今日は冬の季節には珍しく良い風が吹いているな・・・・」


「ええ、まるで皆を包み込むような優しい風だ・・・・」


「優しい風か・・・・まさにリインフォースだな」


 柱を背にもたれ掛っているリインフォースとその左側で同じように壁に寄り掛かっている零。零は自分達を吹き抜ける風はリインフォースが吹かせているかのような事を言うと、リインフォースは少し呆気取られたような表情になりつつも顔を赤くしてしまっていた。


「なあ零・・・・」


「ん?」


「私は今、とても幸せだ。残された時間は余り長くはないが、主はやてにはひとつでも多くの幸せを感じて頂きたい。そして最後の最後まで、主はやての笑顔を見守ってゆきたい。それが私にとっての、この奇跡の時間の贅沢な使い方なのだと思う・・・・」


「そうか・・・・だけどなリインフォース」


「?」


「はやての笑顔を守りたいのは俺も同じだよ。だけど俺にとっては君自身も笑顔を絶やしたりしたら駄目だぞ。もちろんはやてやシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラも同じだけど・・・・皆で思い出をたくさん作っていこう」


「ふっ、分かっている・・・・・やはり零は主はやてと似ているところがあるな。自分より他人を気遣うところがソックリだ」


 リインフォースは今生きていける残された時間の中で、はやてに自分に出来る限りの事をすると零に伝えると、零もはやてやリインフォース、そして守護騎士たちとの思い出をたくさん作れるようにリインフォースに話す。


「だ~れや♪」


「この声は、主はやてですね?」


「あはは、ばれた~♪」


 壁に寄り掛かっているリインフォースに背後から気づかれないように、はやてはリインフォースの目を手で隠しながら声を掛けた。リインフォースはその声の主が愛しく思っているはやてだと気づくと、はやてはリインフォースから笑いながら手を離す。


「はやて、ヴィータとゲームをしていたんじゃなかったのか?」


「今はシャマルとやってるよ。でもアクション系のゲームやから・・・・」


『あ~!!ヴィータちゃん、それハメ技でしょ!!ハメはやめてぇぇぇっ!!』


『ハメじゃねぇよ!れっきとした技だよ!!』


 室内でヴィータとゲームをしていた筈のはやてが何故ここにいるのか、零ははやてに尋ねてみると、はやては理由を言おうとすると、中からまるで涙を流しながら叫んでいるシャマルの声と、そんなことしていないと否定するヴィータの声が聞こえ、何のゲームをやっているのか零にはすぐに理解できた。


「なるほど、対戦格闘ゲームか」


「せや、格闘ゲームやとヴィータが一番強いから、私も連敗してまったよ・・・・」


 格闘ゲーム系ではヴィータが一番強く、次にシグナム、そして零となっており、その他のパズルゲームなどの頭を使うゲームでははやて、シャマル、零となっている。しかし格闘ゲームでヴィータとシグナムがやったら凄い事になってしまうだろう。


(そういえば、ヴィータとシグナムが格闘ゲームをやってきた時は凄い事になっていたな・・・・・)














___________________________















 まだはやての病気が悪化する前にヴィータとシグナムが格闘ゲームをやっていたのをはやてとシャマル、ザフィーラ、零の四人で観賞していた時、どっちも一歩も引かない攻防一戦の状態が続き、2ポイント先取の状態で1ポイントずつ取り、あと1ポイントゲットした方が勝ちという状況になった。


「おりゃぁぁぁっ!!」


「まだまだぁぁぁぁっ!!」


 ヴィータとシグナムはお互いにスティック型コントローラーのスティックとボタンをガチャガチャと音を立てながら白熱したバトルをしていた。零は今にもコントローラーのスティック部分が折れるんじゃないかと心配していた。


「くらえぇぇぇっ!!」


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 白熱したバトルの中、お互いに必殺技を同時に発動するとお互いに攻撃がヒットした瞬間、互いのHPが無くなり、結果ドローになってしまった。それからというもの、何度も対戦をしていたが、何度もドローになってしまい、遂には三回もドローになってしまった。














_______________________















(あの時は凄かったな~。結局対戦結果は引き分けになり、ヴィータとシグナムはお互いに「指が痛い」と言って暫くゲームが出来なくなっていたからな~)


「あれ?零兄ぃ、どうかしたん?」


「いや、少し思い出し笑いをしてしまったんだ」


 零は思い出を思い出していると自然と笑みが零れてしまい、その様子を見ていたはやてはどうしたのかと尋ねてきたので、零は以前ヴィータとシグナムとの白熱バトルの話をすると、はやては「あ~、あの時のやね~」と零と同じように思い出し笑いをしてしまう。


「あははっ、そないな事もあったな~」


「主はやて、今の話はどういったものですか?」


 はやての笑い話しにリインフォースはどういった話なのかをはやてに問い掛けると、はやてはリインフォースにその事を話すと、リインフォースも「くくくっ」と笑いを堪えつつも笑ってしまった。最近ゲームというモノを知ったリインフォースは、いつも真剣な気配を漂わせているシグナムがゲームでも真剣になるとは思えなかったようで思わず笑ってしまったようである。


「なぁ零!久しぶりに勝負しようぜ!!シャマルじゃ相手にならねぇから!!」


「そんなぁ・・・ヴィータちゃんが手加減してくれないから~」


「分かった、分かった。今行くから待っててくれ」


「私らも行こうか、リインフォース」


「はい、主」


 室内から庭に来たヴィータが零に「ゲームで勝負しよう」と言ってくると、中から完全にボコボコにされたのか半泣き状態のシャマルが弱々しく嘆いていた。零はせがむヴィータに自分の久々にゲームをやろうと思い、室内に入って行き、はやてが「部屋に戻ろう」と言うと、リインフォースははやての乗っている車椅子を押して室内へと戻っていった。室内に戻ると、そこでは零とヴィータが格闘ゲームで対戦をしていた。


「行くぞ!!イン○ェル○ディ○イダー!!」


「なんの!!ウロ○ロスで邪魔してやる!!」


 零の使用している赤と黒を強調した服を纏った銀髪の格闘キャラが技を出そうとすると、ヴィータの使用している黒い服に帽子を被った碧髪の格闘キャラが碧色の蛇のような物体で邪魔をしてくる。しかし零も攻撃を邪魔されつつも次の攻撃を仕掛けてヴィータを追い詰めていく。


「トドメ!!カーネー○シザァァァァッ!!」


「あぁぁぁぁぁっ~負けたぁぁぁっ!!!」


 零の操るキャラの必殺技がヴィータの操るキャラに直撃し、ヴィータの敗北となった。ヴィータは負けた事に悔しいがり、零はガッツポーズを取って勝利を決める。さすがのヴィータもシャマルに勝ちつづけていたためか、若干油断をしていたようだ。


「ほんなら次は私がやろおうかな!リインフォースもやってみたらどや?」


「私ですか?うまく出来るか不安ですが・・・・」


 零とヴィータが戦った後、今度ははやてとリインフォースがプレイしてみようという事になり、はやては黒い傘を持ったツインテールの女の子のキャラを選択し、リインフォースは右目に眼帯をした女の子のキャラを選択した。


「へぇ~はやてはこのキャラを使うのか・・・・」


「何か分からんのやけど、この女の子の声に親近感が沸くんや」


 ヴィータの問いに、はやては自分の選択したキャラの声に何やら親近感みたいなモノを感じているらしく、自然とこのキャラを使用しているらしい。


「ほんじゃあ行くで!リインフォース!」


「はい。お手柔らかにお願いします」


 準備の出来たはやては、零から操作方法を教えてもらったリインフォースと大戦を始めた。この対戦にはその場にいた全員が興味を持ったのか対戦中テレビ画面をガン見していた。















______________________________
















 はやてとリインフォースとの初めての対戦は最初の頃はリインフォースの方が押されていたが、徐々に感覚が分かってきたのか、はやてを押し返し始め、遂にははやてを圧倒するような白熱したバトルとなった。


 しかしゲームを終了しようと時計を見ると、いつの間にか午後9時を過ぎてしまっており、大急ぎで風呂に入り、そのまま全員寝室に行って寝る事になった。


(ふう~、まさかの接戦に時間が過ぎるのを忘れてしまった。あっ!そういえば・・・・・)


 ベッドで横になった零は、皆で楽しんだゲームのことを考えていると、ふと自分の机の上に置かれている六本の紐状のモノが目に入った。


(皆に内緒で作ったモノ・・・・・喜んでくれれば良いけど・・・・・)


 零はそう思いつつ眠りについた・・・・・・














_________________________














 次の日の朝。零は目を覚ました後、時計を見ると午前5時であり、着替えを終えた後にリビングに行くと、丁度はやてが自室から出てきた。


「あっ、零兄ぃ、おはようさん」


「ああ、おはようはやて、ヴィータはまだ寝ているのか?」


「うん、まだお寝むみたいや。昨日のゲームではしゃぎすぎたんやろな」


 はやてに挨拶を交わした零は、はやての自室の扉を少し開けて中を覗いてみると、お気に入りののろいウサギを抱きかかえてグッスリと眠っているヴィータの姿があった。零はそんなヴィータの姿に笑みを浮かべると起こさないように静かに扉を閉め、はやてと共にキッチンへと向かい、朝食の準備を開始した。


「はやて、今日の朝食の前に渡したい物があるから、皆に待っていてくれって伝えておいてくれないか?」


「えっ?ええけど、渡したい物って一体何?」


「まあ、その辺はお楽しみって事で・・・・」


 零の要望にはやては頭に?マークを浮かべながらも要望を聞き入れる事にした。その後、シャマルとシグナムとリインフォースの三人が起床し、ザフィーラとヴィータがリビングに現われた。そして作った朝食をテーブルの上に並べていく中、零はリビングから姿を消した。


「おや?主はやて、零の姿が見えないようですが・・・・」


「ああ、それが少し待っててくれへんか?零兄ぃが何か渡したい物があるって言っていたから・・・・」


 シグナムは零がいないことに気づき、はやてに問い掛けると、はやては先程の零との約束ごとの事だと思い、シグナム達に事情を説明するとシグナム達も頭に?マークを浮かべてしまう。


「お待たせ!!」


 暫くすると、零が箱を持ってリビングにやってきた。そして自分の席に座ると「ゴホン」と言ってその場にいる全員の顔を見る。


「さて、はやてから聞いているかと思うけど、今日は俺から皆にプレゼントがあるんだ」


『プレゼント?』


 零の発言にはやて達は何が出てくるのか若干ドキドキし始めた。そして零が自分で持って来た箱を開けると、そこには様々な色のひも状のモノが収められていた。


「零兄ぃ、これは何?」


「見たところ・・・・紐のようだが・・・・」


「これは【ミサンガ】っていう、まあ願掛けみたいなものだよ」


 零のプレゼントとは、ミサンガと呼ばれる願掛けの紐だった。零は以前にはやてと図書館に行った際にインターネットの出来るパソコンで何気なく検索をしていた時に見つけたもので、シグナム達も何か願い事のようなモノがあるはずだと思い、密かに色違いの紐を購入してきて自分で作っていたのだ。


「はい、はやてはこの紐で、シグナムはこれで・・・・ヴィータはこれ。シャマルがこの紐で、ザフィーラがこの紐で、最後のがリインフォースの分だ」


「私の分もあるのか?」


「当たり前だろ。家族なんだから」


 零は箱の中から一人一人の分のミサンガを配っていく。はやてには白と茶色を合わせたモノ、シグナムには紫と桃色を合わせたモノ、ヴィータには赤とオレンジを合わせたモノ、シャマルには濃い緑と黄緑色を合わせたモノ、ザフィーラには青と白を合わせたモノ、そしてリインフォースには黒と銀色を合わせたモノ・・・・・


 それぞれ自分達の色を合わせたようなミサンガを受け取ったはやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてリインフォースはミサンガを見つめていた。


「零兄ぃ、これホンマに貰ってもええんか?」


「ああ、遠慮なく貰ってくれ」


 突然のプレゼントにはやて達は喜び、さっそく自分達の腕にミサンガを結びつけた。ザフィーラに関しては狼状態だったので、零がザフィーラの前足にミサンガを結び付けてあげた。


「ちなみに願掛けをした内容が成就されると、自然に紐が切れるらしい。まあ、本当かどうか俺にも分からないけど・・・・」


「でも、願い事を込めておいて成就されるって、なんだかロマンチックですね」


 インターネットで見つけたミサンガについての情報によれば、願掛けをした後、ミサンガが自然に切れてしまうと、願い事が叶ったということになるらしく、その話を聞いたシャマルは目を輝かせてロマンチックだと話す。


 零からのサプライズプレゼントを受け取った後、朝食を食べ終えた八神家一同は食器を片付け、洗濯などの仕事を終え暫くした後、シグナムは闇の書事件の際に幾度と戦いを繰り広げた【フェイト・テスタロッサ】と模擬戦の約束をしていたらしく、ヴィータを連れて一緒に出かけていった。


 シグナムはフェイトの事を戦いの中で得た“戦友でありライバル”と見ているらしく、時々レヴァンティンの手入れをしながら「テスタロッサの太刀筋は素晴らしい」と呟く事があった。


 ヴィータと言えば、なのはの所によく行くようであるが、以前零が「なのはちゃんと仲がいいな?」と尋ねると「だっ、誰が!?」と言って否定はするが、何気になのはとの仲良くしようとしているみたいであった。しかし意外と人見知りのヴィータであるからして、いつになるかは分からないが・・・・・


 はやてはリインフォースとシャマルと共に魔法の練習に出かけていった。なんでも魔法の事を早く覚えて家族を守っていきたいとはやては思っており、リインフォースも自分の魔導をはやてに伝え、偉大な魔導騎士になって欲しいと願っていた。故に時々魔法の練習をする為に出かける事がある。シャマルははやてが怪我をしてしまった場合の為に同行している。


 そしてザフィーラも「一人で修行したい」と言って出かけていった。彼は【闇の書事件】の際に、大切な主であるはやてや、仲間であるシグナム達を守れなかった事を悔やんでいたらしく、その思いがザフィーラ自身を修行に駆り立てていた。


 そんなこんなで現在、八神家の中で自宅にいるのは零一人・・・・・零は一人で家にいるのはさすがに暇でしょうがない為、散歩に出かける事にした。とりあえず行く当ても無いため、海岸沿いを散歩しようと思い、海に向かって歩き出した。


「ふう・・・・・こうして一人で散歩するのも悪くないかな・・・・」


 海岸沿いを歩いている零は、海から吹き付ける海風を受けていた。周囲には余り人がいないが、空を見上げると青空が広がっており、行き行く人の中には犬を連れている人もいた。


(はやても魔法使いになるか・・・・できればはやてには普通の女の子として生活してほしいな・・・・もう戦いとかそんなものはないというのに・・・・)


 ふいに頭にはやてがリインフォースとユニゾンして魔導騎士となった姿が思い浮かび、あの闇の書の闇との最終決戦での出来事を思い出していた。しかし零の本心は、はやてやシグナム達には戦いも魔法も無い普通な生活を送って欲しいと願っていた。もうはやてからには闇の書の呪いも消え、シグナム達も戦いばかりではない生活をして欲しいと・・・・・


 だが、はやては魔法を家族を守る為に・・・・・シグナム達は守護騎士としても役目を果たす為に・・・・・それぞれよく考えての決定だろうけど、零はどうしても心配になってしまう。


「!?」


 と、その時だった。突然周囲の空気が変わったような気がした瞬間、周りにいた人が次々と消えてしまった。しかし零にはこの周りに立ち込める空気を知っていた。


「これは・・・・結界か!?でもなんで・・・・!?」


 零は自分の周囲に結界が張られた事に気づくと、真っ先に頭に浮かんだのは時空管理局の存在だった。リンディたちアースラチームは零がガイバーである事を知っているが、アースラから自宅に帰る際に自分はガイバーを纏わないと伝えておいた筈だが、管理局全体がガイバーである零のことを見逃すとは思えない。


 まさか・・・・と思った零の前に一人のマントを翻した人物が電柱の上に降り立った。


「見つけたよ!!僕たちの帰る場所を打ち砕いて破壊した危険な奴!!」


 突然の声に零は声のあった方を見ると目を見開いて驚きの表情になった。そこにいたのはあの【フェイト・テスタロッサ】だったのだ。


「なっ!?フェイトちゃん!?何で君がここに・・・・今日はシグナムと一緒にいるはずじゃあ・・・・・」


「問答無用!!いざ、尋常に勝負!!」


 フェイト?のような姿をした少女は、零の言葉を無視し、手に持ったバルディッシュらしきデバイスに魔力刃を発生させて振り被って零に襲い掛かってきた。零はフェイト?の攻撃を横に転がりながら回避し、体勢を整えつつフェイト?の方を見つめる。


 その時、零は目の前にいるフェイト?の姿をした少女に違和感を感じた。そう、零の知っているフェイトは確か金髪のツインテールであり、マントの色は黒と赤で、バルディッシュの色は黒かった筈・・・・・しかし自分に襲い掛かってきたフェイト?は髪の色が薄い青色でマントの色が青、そしてバルディッシュ?の色は濃い紫色をしていた。


「ちょっと!!何で避けるのさ!!」


「避けるに決まってるだろ!!それで叩かれでもしたら確実に斬られるわ!!」


 攻撃を避けられた事にブーブーと文句を言うフェイト?に、零は生身で魔力刃なんかで攻撃されれば誰だって避けると言い返す。


「一体俺に何のようだ!!いきなり攻撃を仕掛けてきたりして!!」


「うるさい!!君は倒さなくちゃいけない存在なんだ!!だから、大人しく成敗されろっ!!」


 零はフェイト?にどうして攻撃してくるのか問い掛けるが、フェイト?は話を全く聞こうとしない。それどころか今度は手に稲妻を発生させると、零に向かって放り投げてきた。


「喰らえ!【雷刃衝】!!」


「おわっ!?」


 フェイト?の放ってきた稲妻の塊が零に飛来し、当然の如く零は避けようとするが、避けた際に着地に失敗してしまい、足を挫いてしまった。


「くっ、足が・・・・」


「これはチャンス到来!!その足じゃあ、これは避けれないよ!!【光翼斬】!!」


 足を挫いてしまった事で素早く動けなくなってしまった零に対し、フェイト?は好機と考えたのか、手にしたバルディッシュ?を大きく振り被ると、円状のモノがまるでブーメランのように飛ばしてきた。零はその攻撃を避けようと思ったが、足の痛みに動けず、フェイト?の攻撃が射線上にある木々を薙ぎ倒しながら徐々に零に迫り、フェイト?の攻撃は零に直撃した。


「やったぁっ!!これで終わりだよ!!」


 自分の攻撃がヒットしたと思ったフェイト?は勝利を確信したかのようにバルディッシュ?を掲げて大声で勝鬨を上げた。しかし勝鬨を上げているフェイト?の背後から「ドォォン」と音を立てて何かが飛び出してきた。


 その音に反応してフェイト?は振り返ると、宙を何かが通り過ぎ、フェイト?の前に蒼い鎧を纏った者が現われた。


(リンディさん、ガイバーを纏わないと言っておきながら再び纏うことを許してください・・・・)


「あぁぁぁ~!!遂に出たな!蒼い鎧の奴!!」


 零はフェイト?の攻撃を回避する為に殖装し、闇の書事件から纏う事を禁じていたガイバーゼロを再び纏った。ガイバーゼロの姿を見たフェイト?はガイバーゼロに指差して大声を上げた。































 





 第25話完成・・・・


 今回は・・・・色々なネタを使ってみましたw
八神家のやっていた対戦格闘ゲームは、某ゲーム雑誌で9、8、9、8と好評価を受け、殿堂入りをしたゲームです。

 まあはやての使っていたキャラは中の人つながりでw



 そして登場フェイトコピーちゃん。そして再びガイバーゼロを纏った零。これからどうなっていくのか期待に添えるよう頑張っていくのでよろしくお願いします!!




 



[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第二十六話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/08/08 10:19













 突然の謎の結界の出現、そして零の前に現われたフェイトにそっくりな女の子・・・・零は危険回避の為に仕方なくガイバーゼロへと殖装し、フェイト?と対峙していた。


 しかしこの頃、他の場所では零と同じように結界の中で戦闘が起こっている場所が幾つもあった。

















 それは零が散歩に出る数十分前・・・・・・シグナムとヴィータは、フェイトのいるハラオウン家の住んでいるマンションに来ていた。フェイトは先の闇の書事件の最中に、リンディやクロノの誘いでハラオウン家の養子にならないかと誘いを受けており、未だに答えが出せていなかった。しかしそれでもリンディやクロノはフェイトを家族の一員のようしてくれていた。


「テスタロッサ、リンディ提督、おはようございます」


「あっ、シグナム、いらっしゃい」


「あらシグナムさんにヴィータさんもいるの?」


「どうも、おはようございます」


 マンションのインターホンのボタンを押すと扉が開かれ、フェイトが出迎えてくれた。シグナムとヴィータは室内に入るとリンディもいたので二人は挨拶を交わした。しかしその後、リンディが緑茶にミルクと砂糖を入れてお茶を飲もうとしている光景にヴィータは「お茶にミルクと砂糖!?」と驚愕した表情で見ていた。


「今日は待ちに待った模擬戦の日ですね」


「ああ、これであの時の決着がつけられるというものだ・・・・」


 フェイトとシグナムはお互いに笑みを浮かべながら会話する。この二人は闇の書事件の際に、幾度なく戦い、戦いの中でお互いに好敵手とも言える感情が芽生えていた。そして今日はお互いにどちらが強いのかの決着をつけられると言うことでどちらもウキウキとしている様子だった。


「そういえばフェイトさん、今日はなのはさんも家に来るとか言ってたわね?」


「えっ?ホントか!?」


「うん。もうそろそろ来ると思うんだけど・・・・・」


 どうやら本日ハラオウン家になのはも来るそうで、リンディの言葉にヴィータが反応し、フェイトがもうすぐ来るんじゃないかと話していると、室内にインターホンの音が鳴り響き、フェイトが応対に出ると、なのはとフェイトが一緒にリビングに現われ、よく見るとなのはの手には何かの箱のような物を持っていた。


「おはようございます、リンディさん!ってあれ?シグナムさんにヴィータちゃん」


「やあ、高町なのは」


「よう、相変わらず元気だけはあるな」


 元気に挨拶をするなのはに対し、シグナムは普通に挨拶を交わし、ヴィータはなのはの相変わらずの元気さに呆れていたが、なのははそんなヴィータの発言には全く嫌な思いはしておらず、ニコニコしながらヴィータの隣に座った。


「今日はお土産に翠屋特製のシュークリームを持ってきました!!」


「ありがとう、なのは」


「まあ、ありがとうなのはさん。桃子さんのシュークリームは市販のシュークリームより一段と美味しいから」


「ありがとうございます!今日は何となく多めに持っていった方がいいと思って来たんです。シグナムさんやヴィータちゃんの分もありますから、どうぞ!」


「なのはのところのシュークリームだってぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


 なのはがお土産に持ってきたシュークリームにお礼を言うフェイトとリンディ。さっそくなのはは箱からシュークリームを出そうとすると、部屋の置くからもの凄いスピードで寝巻き姿のアルフが飛び込んできた。どうやらアルフは今まで寝ていたみたいだが、なのはが持ってきたシュークリームという言葉に飛び起きてきたようだった。


 なのはが持ってきた箱は、なのはの両親が経営している喫茶店【翠屋】でも大人気の翠屋特製のシュークリームだった。その味はリンディやクロノやエイミィ、そしてアースラスタッフの方々も絶賛しており、なのはが時々差し入れでシュークリームを持ってくると、時々取り合いにも発展するほどの美味しさらしい。


「はい、シグナムさん、ヴィータちゃん」


 なのはは箱からリンディとフェイト、鼻息の荒くなったアルフの分を取り出し、次にシグナムとヴィータの分のシュークリームを取り出した。取り出されたシュークリームが目の前に置かれたのを確認したアルフは目を光らせて満面な笑顔でシュークリームにがぶり付いた。その光景にリンディとフェイトは笑みを浮かべながら自分の分のシュークリームに手をつけた。


「あ~、やっぱなのはのとこのシュークリームはいつ食べても美味いねぇ!!」


「本当に美味しいね」


「ええ。うちのスタッフもなのはさん所のシュークリームは美味しいって大絶賛なのよ」


「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです。お父さんもお母さんも今の言葉を聞いたら喜びます」


 アルフとフェイト、リンディの感想を聞いたなのはは笑顔になる。そしてふとシグナムとヴィータの方に視線を移すと、少し齧ったシュークリームを持ったまま、シグナムは目を見開いて唖然とし、ヴィータも同様に固まってしまっていた。


「あっ、あれ?シグナムさんもヴィータちゃんもどうしたんですか?」


『・・・・・・・・・・』


 自分の声に反応を示さない二人になのはは「もしかして口に合わなかった?」と焦りを見せるが、次の瞬間、まるで天国に行ってしまったかのような表情に変化した。


「こっ、これは・・・・・なんという味だ・・・・・口の中に広がるこの甘さ・・・・」


「シグナム・・・・・なんか目の前にお花畑が見えるんだけど・・・・・」


 シグナムとヴィータは、既に天国に行ってしまっているかのような顔でシュークリームの味を堪能していた。その表情になのはは「良かった~」とホッとしつつも、シュークリームが美味しいと言ってくれたのが嬉しかった。


「しかしこの味・・・・何処となく零の作るデザートと似ている気がする」


「零さんとですか?」


「だよな。何かこう・・・・口にすると体の内側から包まれていくような・・・・そんな感じと似てる気がする」


 シュークリームを口にしながらシグナムとヴィータは、なのはの持ってきた翠屋のデザートの味が、何処となく零の作ってくれていたデザートと似ていると話すと、なのはは「零さんのデザート、一度食べてみたい」と心の中で思った。
















___________________________

















 その後、シュークリームを食べ終えたシグナムとヴィータ、なのはとフェイトの四人は、マンションの外に出ると周囲に結界を展開させた。そしてシグナムは騎士甲冑を、フェイトはバリアジャケットをそれぞれ身に纏い対峙する。


「それではこれより、シグナムさんとフェイトさんとの模擬戦を行ないます!ルールは特に無く、どちらかが戦闘不能、あるいは降参を宣言した方が敗北となります」


 リンディの声になのはとヴィータは拍手を送り、シグナムとフェイトは自身のデバイスであるレヴァンティンとバルディッシュを構える。そしてリンディの模擬戦開始の合図を待っていると、突然リンディの通信機が「ピピピッ」と鳴り出し、リンディは「何かしら」と思いつつ通信を開いた。


「はい、こちらリンディ」


『あっ、艦長!エイミィです!』


「どうしたのエイミィ、そんなに慌てて・・・・」


『大変なんです艦長!海鳴市周辺や別世界で謎の結界が突然多数出現しました!!しかもこの術式・・・・ベルカ式のモノみたいなんです!!』


「何ですって!?」


 エイミィからの通信を聞いたリンディは声を上げると、傍で通信を聞いていたなのはとヴィータは目を見開いて驚き、シグナムとフェイトも構えていたデバイスを降ろしてしまう。発生した結界がベルカ式だとすれば、使用した者はベルカ式の使い手・・・・・・・


 しかし仮にこの場にいるシグナムとヴィータ以外が結界を張っているというのなら、はやてとリインフォース、シャマル、ザフィーラの四人だけだが、はやてはまだ完全に魔法を使い慣れたわけではなく、今日はリインフォースとシャマルの二人と出かけている筈、ザフィーラも修行と言っても人目のことを考えて人のいない場所にいる。


 そもそも別世界にも結界が幾つも発生していること自体が事の原因が自分達ではないと推測する。


「リンディ提督、その発生した結界の詳しい地点を教えてくれませんか?」


「シグナムさん?」


「ベルカ式の結界が私達以外の者が発生させたというのなら、私達に何らかの関係がある可能性があるかもしれません。ですから私達が行きます」


「アタシも行くぜ。もしかしたらはやて達も気づいているのかも・・・・・」


『なら私達も!!』


 シグナムはリンディに結界の出現した場所の詳しい位置を教えてほしいと頼み、ヴィータもシグナムに同意するかのようにリンディに頼み込む。するとなのはとフェイトも自分達も現場に向かうと言い出し、リンディは暫し考えたが、今の時空管理局は闇の書事件の際の後始末に追われており、動ける管理局員といえばクロノくらいである。


「ならシグナムさん、ヴィータさん、協力をお願いします。なのはさんとフェイトさんもお願いね」


『はいっ!!』


 リンディはシグナム、ヴィータとなのはとフェイトに協力を要請し、エイミィに結界の発生した地点の詳細なデータを四人に教えるように指示を出し、別の用事で出かけているクロノに連絡を入れる。


「またしても勝負はお預けになってしまったな」


「そうですね。でもすぐに終らせて勝負再開です!!」


 詳細なデータを貰ったシグナムはフェイトとの勝負が再び先送りになってしまった事を悔やむが、事を早く終らせて勝負しようとフェイトが言うと、シグナムは「そうだな」と言ってそれぞれ割り当てられた地点へと飛び去っていった。















____________________________















 丁度その頃・・・・・はやてとリインフォース、シャマルの三人は、海鳴市の桜台・登山道にて結界を展開させて魔法の練習を行なっていた。ここはなのはから教えてもらった場所で、彼女はよくここでユーノと一緒に魔法の練習をしていたという。その話を聞いたはやては、自分達の練習場所にしようとよくここへやってきていた。


「よ~し、ほんならさっそく始めよか!リインフォース」


「はい、主」


「怪我をしないように気をつけてね!」


 騎士甲冑を纏い、杖型デバイスである【シュベルトクロイツ】とデザイン的には闇の書にソックリな形をした【夜天の書】を持ったはやては、背中の小さな六枚の黒き翼を羽ばたかせて空へと舞い上がり、はやてを追うようにリインフォースも四枚の黒き翼を羽ばたかせて空へと舞い上がった。その二人を少し離れた場所でシャマルは怪我などの対処の為に待機していた。


 はやてはリインフォースから魔法などの話を聞きながら、リインフォースが攻撃対象の為に生み出した【ハウリングスフィア】を撃ち落そうと、弾速の早い魔法である【ブリューナク】を浮遊しているハウリングスフィアに向け複数発射させて攻撃する。


「なるほど、一つの目標に対し複数攻撃で逃げ道を塞ぎつつ命中させる作戦ですか・・・・ですが」


 はやての狙いを見抜いたのか、リインフォースは右手の人差し指をハウリングスフィアに向けてスフィアを動かし、はやてのブリューナクの弾道を先読みしながら回避させる。はやては自分の放ったブリューナクを回避された瞬間「あっ!?」と言って動きを止めてしまう。


「主、いくら多くの魔力弾を放って逃げ道を塞いだとしても、動きようによっては回避されてしまうので注意が必要ですよ。特に空中戦では360度全部に移動個所があるので、まず誘導弾で相手を誘い込みながら、次の魔法を詠唱し、攻撃エリアに入った瞬間に詠唱していた空間系の魔法を放つ・・・・という戦法もありますよ」


「そうか~、でもまだ私にはまだ難しいかな~」


「いえ、焦らずにじっくりと練習していきましょう」


 リインフォースの魔法講義を聞きながら、はやては自分ではまだ出来ないと苦笑いをしてしまうが、リインフォースは笑顔を見せながら焦らず行きましょうと言ってはやてを励ます。それから暫くはやては、自分の魔法の練習をしている最中、リインフォースはそんなはやての姿を微笑ましく見つめていた。


(我が主、あなたには私の夜天の魔導をしっかりと受け継いでおられます。ですから今は未熟なれど、いずれは偉大な魔導騎士になれるはずです・・・・・・!?)


 はやては偉大な魔導騎士になれると見つめるリインフォースだったが、何かの気配を感じたのか突然はやてのいる方向とは別の方向に視線を向け、じっと遠くのほうを見つめるように動きを止めた。そのリインフォースの様子に気づいたのか、はやてとシャマルはリインフォースの傍にやってきた。


「どないしたん、リインフォース?」


「何かあったの?」


「シャマル、感じないか?近くに結界の反応があるのを・・・・・」


 リインフォースの様子に、はやては頭に?マークを浮かべ、シャマルはリインフォースの一言に神経を研ぎ澄ませると、確かに近くに結界の反応があり、しかも複数の反応を感知した。


「リインフォース、これって・・・・・」


「ああ、私達と同じ・・・・ベルカ式のモノだ」


「ええっ!?」


 感知した結界の種類にシャマルは驚き、リインフォースは自分達と同じ術式のベルカ式だと答えた。その言葉にはやても驚きの声を上げると、突然シャマルのクラールヴィントが声を上げた。


<主様、烈火の将からご連絡が入っています>


「シグナムから?分かったわ、繋いで」


<了解>


 クラールヴィントの報告を聞いたシャマルは、通信をしてきたシグナムと通信を繋いだ。するとクラールヴィント越しにシグナムの声が聞こえてきた。


『シャマル、聞こえるか?今傍に主はやてとリインフォースはいるか?』


「聞こえるわ、シグナム。はやてちゃんもリインフォースも一緒にいるわ」


「シグナム!近くに私らと同じベルカ式の結界が出てきてるみたいやけど、一体何が起きてるん!?」


『おっ、落ち着いてください。主はやて』


 シグナムの通信にシャマルは話をしていると、はやてはシャマルの手を掴んでクラールヴィントに向かってシグナムに一体何が起きているのか問い詰めると、シグナムは慌てるはやてを落ち着かせるように言い聞かす。


 その後、リインフォースの協力もあって落ち着きを取り戻したはやては、深呼吸を一回した後、再びクラールヴィントを通じてシグナムと会話をする事にした。


「・・・・・それで、その結界は突然出現したというわけか?」


『はい、私達も突然だったので詳しい事は分かりませんが、各地に出現した結界は、全てベルカ式の物らしいのです。先程ザフィーラにも念話で連絡をして確認を取ったところ、同じ結界の存在を感じた・・・・という事です』


「でも何で急にそんな沢山の結界が?しかも別の世界にもって・・・・・」


「・・・・・・・・・」


 はやてとシグナム、そしてシャマルの三人が突然出現した幾つもの結界が何故現われたのかを考えていると、リインフォースは一人黙ったまま、口元に手をやって何かを考えているような仕草を見せていた。


「?どないしたん、リインフォース」


「・・・・まさかと思うのですが、闇の書が関係しているのではないかと思います」


『えっ!?』


 リインフォースの一言に、はやてとシャマル、通信越しのシグナムが驚きの声を上げた。闇の書・・・・それは夜天の書の内部プログラムが改変された事により世に出現した呪われた魔導書。だが、魔導書の歪められたプログラムである【闇の書の闇】ははやて達夜天の騎士達と、なのは、フェイトと時空管理局所属のアースラのメンバー、そして蒼き巨人【ギガンティックゼロ】となった零と共に協力して確かに消滅させる事が出来た筈・・・・・


「でも、それがホンマなら私達が何とかしなあかん!闇の書が関係してるんやったら、私達にも無関係じゃあらへんし!!」


 もし仮に、今出現している結界が闇の書と何らかの関係があるモノだとすれば、それは夜天の主であるはやてと、守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてリインフォースにも責任がある・・・・・


 そう考えたはやては、自分達も原因解明に協力しようと言い出し、その言葉にシャマルとリインフォースも頷いて答える。


「そうと決まればさっそく・・・・・」


「あっ、はやてちゃん、零さんはどうします?やっぱり話をしてみますか?」


「いや、零には黙っておこう。もし零まで巻き込むと再びガイバーを纏う事になって、管理局に目をつけられかねない・・・・・」


 さっそく結界の出現した場所に向かおうとするはやてに、シャマルは零にも結界の出現した事の話をしたほうが良いのではないかと尋ねるが、リインフォースは零に話すと確実にガイバーの姿を再び時空管理局の目に入る事になり、今回は零に頼るのは止めておこうと話し、はやてとリインフォースは共に行動し、シャマルはザフィーラと合流する為に分かれて行動する事になった。


 しかしはやて達は知らない・・・・既に零は強殖装甲を纏ってガイバーゼロへと殖装して戦っていたという事に・・・・・














_____________________________















 はやて達夜天の騎士達と時空管理局のクロノ執務官となのは、フェイトの三人は、海鳴市と近隣の別世界に出現した謎のベルカ式の結界の調査に向かっていた頃、海鳴市の海岸沿いに出現した結界内では、突如現われたフェイトの姿をした少女と、ガイバーゼロとなった零が戦闘を行っていた。


 フェイト?の攻撃にガイバーゼロは腹部のグラビティコントローラーを起動させて空中へと退避し、下から雷刃衝をフェイトの得意としているプラズマランサーのように複数発射して攻撃してきたが、ガイバーゼロは直線的に向かってくる槍を額のヘッドビームを連続発射して撃ち落していく。


「も~!!!いい加減当たって落ちてしまえぇぇぇっ!!」


「そう簡単に落とされてたまるか!!」


(それにしても、このフェイトちゃんソックリな子は、随分落ち着きが無いというか・・・・まるで彼女とは正反対な感じだ・・・・・)


 戦闘の最中、フェイト?は手にしたバルディッシュ?を振り回しながらガイバーゼロに文句を言い放つ。そんな中、ガイバーゼロは目の前にいるフェイトらしき子は、自分の知っているフェイトとは格好が似ていたとしても、性格に関しては冷静さや物静かなフェイトの特徴とも言える筈なのに、目の前にいるフェイト?は何処か無邪気さがある陽気な様子を見せている。


 零は以前にも、変身系の魔法を使用した者達と戦った事があったが、その頃の零には変身などの魔法の存在は知らず、目の前にいたのは本物だと勘違いしてしまった。


「今回も前の時と同じか?」


 ガイバーゼロは以前の失敗を考え、ヘッドセンサーを駆使してフェイト?の構成情報をスキャンをかけてみた。するとフェイト?の構成情報に違和感を感じた。


(何だ?この構成情報・・・・・まるで何かが人の姿を形作っているかのような感じだ・・・・・)


 ガイバーゼロはヘッドセンサーの解析情報を見て、フェイト?の構成しているモノが、何か黒紫色の塊が渦を巻きながら人の形を形作っているような感じなのだ。さらによく見ると、フェイト?の姿を構成している黒紫色の渦は、よく見ると彼女の持っているデバイス・・・・つまりバルディッシュ?のデバイスコアのある部分を中心に広がっているように見えた。


(デバイスからまるで波紋が広がるように全体に向かっている・・・・ということは・・・・)


 解析情報を見たガイバーゼロは、目の前にいるフェイト?を倒せる方法かもしれないと思い、さっそく実行をしようとしたが、その前にやることがあった。ガイバーゼロは突然動きを止め、フェイト?の方に振り返り、その行動にフェイト?は動きを止めてしまった。


「ようやく観念したのかい?」


「その前に聞きたい事がある。君の名前、目的は一体なんだ?どうして俺を襲おうとする?」


 動きを止め地上に降りたガイバーゼロの行動に、とうとう観念したのかと思ったらしくフェイト?はガイバーゼロの前にやってくる。バルディッシュ?を構えたフェイト?にガイバーゼロは、何故自分を襲おうとしたのか問い掛けてみた。


「そういえば名乗ってなかったね・・・・・ボクの名は【雷刃の襲撃者】、そしてこれは相棒の【バルニフィカス】!!何故襲ったのかはね、まあ冥土の土産に教えてあげるよ!ボクの目的!!それはこの身に闇の書の闇を再び蘇らせ、決して砕けぬ、真の王となることっ!!」


「何!?闇の書の闇を蘇らせるだって!?それってどういうことだ!!?」


「どういうことだって?だってボクらは元々、闇の書の一部さ。君や他の守護騎士・・・・そして今の主である八神はやてが勝手にボクらを切り離した呪いとやらのねっ!」


「呪い?・・・・まさか闇の書の呪いか!?」


 ガイバーゼロの問いに雷刃の襲撃者は恐ろしいほどの素直さで質問に答え出した。その中にあった“闇の書の呪い”・・・・それは夜天の魔導書が闇の書へと呼ばれる原因ともなった改変されたプログラム。その機能のせいで歴代の本の持ち主になった者は闇の書の完成と共に死亡し、闇の書の主になったはやても闇の書の呪いで死にかけた。しかしその呪いはなのは達とシグナム達が協力して倒す事に成功した筈・・・・・・


「それじゃあ、闇の書の呪いは完全に消滅していなかったという事か!?」


「その通り!!現に今この瞬間にも、彼方此方でボクらの欠片が生まれ、砕かれた闇を、もう一度蘇らせる為にね!!そして欠片達は、この世界にいた魔導師や騎士達の強い願いや妄執を形にして君達を襲うだろうさっ!!」


 雷刃の襲撃者の話した情報は、あの闇の書の闇がギガンティックゼロのギガスマッシャーとアースラのアルカンシェルを用いても完全に消滅せず、闇の書の欠片として今尚各地に出現しているという内容だった。しかも闇の書の欠片はこの世界の魔導師や騎士達・・・・つまりはなのはやフェイト、さらにはシグナム達の姿をして襲いかかって来るという・・・・


「さあ!話も終ったし、そろそろ君には死んでもらうよ、行くぞっ!【天破・雷刃槌】!!」


 話をし終わった雷刃の襲撃者はバルフィニカスを天に掲げて叫ぶと、バインド効果のある【天破・雷刃槌】を発動させ、ガイバーゼロの周囲に黄色い帯が巻きつき、さらには上下左右に電気の塊が出現し、まるで十字架のような形をとりながら電撃が走った。


「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」


「これでトドメっ!ボクの最終奥義、受けよ!!砕け散れっ!雷刃ッ!!滅殺ッ!!!極光斬ッ!!!!」


 電撃が体中に走り、動きの止まったガイバーゼロに、雷刃の襲撃者はバルフィニカスを斧形態からフェイトのバルディッシュと同じザンバーフォームのような大剣形態に変形させ、【雷刃滅殺極光斬】と叫びながら足下に魔法陣を展開させてバルフィニカスを大きく振り被った。そして声を上げながら振り被ったバルフィニカスをガイバーゼロに向かって振り下ろされ、ガイバーゼロはバルフィニカスの大剣に飲み込まれ、砂煙を上げながら激しい爆音が鳴り響いた。


 そして煙が晴れてくると、そこにはガイバーゼロの姿はなかった。


「成敗ッ!!これでボクが王になるための危ない障害は消えた!さあ、他の欠片も吸収してボクが最強の存在になるんだぁぁぁぁぁっ!!」


 ザンバーフォームとなったバルフィニカスを掲げて再び勝鬨をあげる雷刃の襲撃者。勝利の気分を味わった雷刃の襲撃者は、次の目標を倒す為に移動しようとした時だった。突然地面を何かが飛び出してくるような音が響き、雷刃の襲撃者は後ろを振り返り、音の正体を確認すると、そこには倒した筈のガイバーゼロの姿があった。


「えぇぇぇぇっ!?また後ろからぁぁぁぁっ!?」


「とりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 再び後ろから現われたガイバーゼロに、雷刃の襲撃者は「またぁぁっ?」という表情を浮かべながら叫び、ガイバーゼロは右拳を握りながら力を込め、雷刃の襲撃者の持っているバルフィニカスのデバイスコアに狙いを定めて突き入れた。


 雷刃の襲撃者は魔法障壁でガイバーゼロの攻撃を止めようとするが、ガイバーゼロの拳は雷刃の襲撃者の展開させた障壁を打ち砕きながらバルフィニカスのデバイスコア部分に直撃し、バルフィニカスはコア部分から徐々にヒビが全体に広がっていき、遂には粉々に砕け散ってしまった。


「ああぁぁぁっ!!ボクのバルフィニカスがぁぁぁっ!!うっ!?あぁぁぁぁ・・・・・」


 自分の手から粉々に砕けてしまったバルフィニカスに、雷刃の襲撃者は声を上げて嘆くが、次の瞬間、雷刃の襲撃者は体を震わせながら苦しみ出した。その様子にガイバーゼロは「どうしたのか?」と思っていると、ガイバーのヘッドセンサーが雷刃の襲撃者の構成情報が徐々に崩壊し始めている事を教えてくれた。


「くっ、ボクはここまでなのか・・・・・でも、これで終わりだと思わないでよっ!!ボクが消えたって、他の欠片達が闇の書の闇を蘇らせるんだからなっ!!」


 雷刃の襲撃者の肉体は、まるで映像の乱れたような感じになったと思ったら、足の部分からガラスが割れるかのように粉々になって消え始めた。


「それから、あとそれから・・・・・あ~、まだ言いたい事があるのにぃぃぃぃっ!!!」


 最後に何か言いたかったのか、大慌てで言葉を繋げようとした雷刃の襲撃者であったが、結局間に合わずに消滅してしまった。その様子をガイバーゼロは「ふう」と一息つける。


「ハァ・・・・あの子の最後の一撃にはさすがに危なかったな・・・・・ギリギリのタイミングだった」


 ガイバーゼロは雷刃の襲撃者が最後に放ってきた【雷刃滅殺極光斬】の直撃する瞬間
、腹部のグラビティコントローラーを起動させ、両手の平に二つの重力弾を作り出し、地面に向かって飛び込むように動いていた。これによって両手に作り出した重力弾は、まるでドリルのような役割を果たし、地中を進む事ができ、地面の下を通って雷刃の襲撃者の真下を通過して背後から攻撃を仕掛けるために地上に出てきたのだ。


 まあ俗に言うモグラとなってガイバーゼロは雷刃の襲撃者への奇襲に成功したのだ。





































 第26話完成・・・・


 今回ものぼのぼを入れつつ徐々に戦闘シーンを入れてみたのですが、どうでしたでしょうか?恐らく今後はバトル主体になっていくと思いますが、応援よろしくお願いします。

 ちなみにマテリアルたちの弱点をデバイスコアにしたのは、ガイバーで殴るなどの格ゲー風にすると、さすがに表現が難しいと思ったわけで、勝手に弱点(みたいな)ものを用意してみました。あくまでオリ設定なので・・・・・


 そしてガイバーゼロのモグラ化。これは原作でもあったガイバーⅠこと深町昌が、(確か)巨人殖装をガイバーⅢによって強制解除された後、四人のゾアロードから撤退する際に使用した一種の荒業とも言えるもので、今回も試しにネタとして使ってみました。

 それでは今後とも色々あると思いますが、よろしくお願いします。












[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第二十七話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:e4d8fec0
Date: 2010/08/25 10:41

















 【雷刃の襲撃者】と名乗ったフェイトの姿をした少女は、ガイバーゼロを追い込みはしたが、零の機転の利かせた動きで見事撃破することに成功した。しかし闇の書の闇を蘇らせようとしていることを知った零は、急ぎ守護騎士の誰かとのコンタクトを取ろうとした。


「皆!誰か聞こえるか!?」


『零か!?今何処にいるんだ?それに念話が通じるということはガイバーを纏っているのか!?』


 ガイバーゼロは額にあるコントロールメタルを介して主義騎士の誰かに繋がるか試してみると、シグナムと念話が通じた。シグナムは念話を使ってきた相手が零だと分かると、何故ガイバーを纏っているのか訪ねてみた。


 実は零は魔力を持たない一般人であり、はやてやシグナム達のような念話などを使った意思疎通能力を持っていない。それ故に零が念話を使おうと思ったなら、一度ガイバーに殖装してコントロールメタルを介してではないと念話ができない。


「実はさっきまでフェイトちゃんにソックリな子と結界の中で襲われてしまって・・・・・・」


『テスタロッサにだとっ!?テスタロッサとは先程別れたばかりだが・・・・』


「ああ・・・・違う。俺を襲ったのはフェイトちゃんの姿をした偽物で、こう名乗っていたんだ、雷刃の襲撃者だって・・・・・危険回避のためにやもえずガイバーに殖装したんだけど、後でリンディさんに事情を説明しないと・・・・・・」


 ガイバーゼロは結界内で戦っていたフェイトの姿をした者に襲われた事をシグナムに説明すると、シグナムはフェイトとはさっきまで一緒にいたと信じられないような声で驚く。しかし自分を襲った者が雷刃の襲撃者と名乗る者だと付け加えると、シグナムは「そうか・・・」と納得してくれた。


「それで、一体何が起きているんだ?」


『ああ、実は先程、テスタロッサと模擬戦をしようとした時に、エイミィ殿から海鳴市や他の世界でベルカ式の魔力反応が出現したと報告が入ってな。我々も捜査に協力しようとしていたところだ。この事は主はやてやリインフォースも知っている』


 ガイバーゼロは一体何が起きているのかシグナムに尋ねると、どうやらこの海鳴市や別の世界にもベルカ式の魔力反応のある結界が多数出現しているという。その調査にシグナムは一緒にいたヴィータと共に調査に協力すると申し出て、現場に向かう途中でリインフォースにも連絡を入れると、はやて達も結界の出現を察知して調査を開始しているという。


「そうか・・・・・それより今、海岸沿いに出現した結界の中にいるんだけど、そっちでも確認できるか?」


『海岸沿い?分かった、今エイミィ殿に確認を取ってみる・・・・・・』


「・・・・・・・」


『零、エイミィ殿に確認の為に聞いてみたが、そんな場所には結界の反応は無いみたいだぞ?』


「えっ!?」


 ガイバーゼロは自分のいる場所である海岸沿いの結界内にいることを伝えるが、シグナムはエイミィと連絡を取り、暫くすると返事が返ってきたが、「そんな場所に結界は発生していない」という回答だった。


「ちょっと待ってくれ!ここに結界が発生していないだってっ!?現に今俺は結界の中に・・・・・!?」


 ガイバーゼロはシグナムに自分が今も結界の中にいることを伝えようとした時、「はっ!」とある疑問が頭を過ぎった。自分のいる結界を発生させていたのが先程倒した雷刃の襲撃者だとしたら、結界を張った存在が消滅すれば結界の維持が出来ず、自然解除される筈だ。しかし結界の発生源が消失した筈なのに今自分のいる結界は何故か解除されない。


(だとしたら、この結界を発生させている原因は一体なんだ?)


「零、どうした?」


「あっ、ああ・・・・それでシグナム、実は闇の書の・・・・・!?」


 ガイバーゼロはヘッドセンサーをフル稼働させて結界の発生源を特定しながらシグナムに闇の書の闇を蘇らせようとしている者達がいる事を話そうとした時、ガイバーゼロの上空から12個の桃色の魔力弾が降り注ぎ、ガイバーゼロに向かって襲い掛かってきた。


「うわぁぁぁぁっ!!」





















_____________________________



















 シグナムはエイミィから「海岸沿いに結界は発生していない」ことを返ってきた返答を零に伝えると、「そんなはずは無い」と言うが、何か思いついたのか急に黙ってしまった。そして零が何かを言いかけた次の瞬間、零との念話が突然切れてしまった。


「おいっ!零!?一体どうしたっ!?」


 シグナムは必死に零に念話を送るが、一向に返事が返ってこない。シグナムは零のことが心配になり、エイミィから結界の反応がないと言われた海岸沿いに向かって急行しようとした時だった。突然周囲の景色が変わると、そこに人型になったザフィーラが立っていた。


「ザフィーラ?お前はシャマルと合流していた筈じゃなかったのか?」


「騎士か?何故こんな場所にいる・・・・いや、それよりも、ここは何処だ?俺は何故、このような場所に・・・・?」


「ザフィーラ?これは一体?」


 目の前にいるのは紛れも無く蒼き狼であり、同じ守護騎士であるザフィーラだった。しかしザフィーラは、はやてとリインフォースと一緒に行動を共にしていたシャマルと合流手筈になっていたはず・・・・・そう思ったシグナムだったが、ザフィーラの様子や言動から何処かおかしいと感じていた。


『シグナム、聞こえる?それはザフィーラじゃないの!市内で発生している正体不明の思念体!』


「思念体?」


 その時、アースラにいるエイミィからシグナムに連絡が入り、目の前にいるザフィーラは本物ではないと伝えてきた。その話にシグナムは海鳴市や別の世界に発生している謎の結界を生み出している存在なのだと思った。


「そうだ、思い出した・・・・・俺は狩りを行なわねばならん。闇の書の糧にする為、魔力を持つものを倒して奪う!そのために!!」


 ザフィーラ?は何かを思い出したかのように、突然シグナムに牙を向け襲い掛かってきた。シグナムは咄嗟に鞘からレヴァンティンを抜くと、ザフィーラ?の蹴りを刀身で受け止め、ザフィーラ?を弾き返す。しかしこの時、シグナムはザフィーラ?の言った言葉の中にある言葉が含まれていた事に気づいた。“闇の書の糧にする”と・・・・・


 ザフィーラ?は弾かれつつも体勢を整え、シグナムに向けて拳を繰り出すが、対するシグナムはレヴァンティンを構えて応戦する。お互いに拳と剣が交わるたびに火花を散らすが、ザフィーラ?の攻撃は全てシグナムに捌かれてしまい、殆ど命中しなかった。一度後方に下がったザフィーラ?を追うようにシグナムは紅蓮の炎を纏わせたレヴァンティンをザフィーラ?に向け振り下ろした。


「飛龍・・・・一閃ッ!!」


 シグナムが繰り出した炎は、まるで地面を突き進むかのようにザフィーラ?に向かって突っ込む。ザフィーラ?は前面に魔力障壁を展開させてシグナムの攻撃を防ぐが、防御する隙をついたシグナムはザフィーラ?の背後に回り込み、レヴァンティンに内蔵されているカートリッジを一発分使用する。


「受けよっ!!紫電・・・一閃ッ!!」


「くっ!ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 魔力を内包したカートリッジを使用した為、一時的に攻撃力が向上した紫電一閃は、ザフィーラ?が振り返り様に展開した障壁を破壊しながらザフィーラ?にシグナムの攻撃がヒットした。


「ぐおぁあ・・・ッ!バカな・・・・俺の拳が、かすりもせんだと!?」


「まるで野獣だ。本物の技には遠く及ばんが・・・・」


「くっ・・・・あああああ!!!!!」


 自分の攻撃がかすりもしない事に驚くザフィーラ?だったが、シグナムにしてみれば、ただの野獣のように攻撃を仕掛けてくるザフィーラ?の攻撃は本物の守護獣であるザフィーラに遠く及ばない。するとザフィーラ?の体が徐々に乱れ始め、足の部分からガラスが割れるように粉々に砕け散ってしまった。


「消えた・・・・?」


『将、私だ』


「リインフォースか、どうした?」


『こちらでも確認したが、恐らく将が相手にしたのは、“闇の書の残滓”が生み出したザフィーラだ』


「残滓だと?防衛プログラムの一部という事か・・・・?」


『恐らくだが、闇の書の防衛プログラムが散り散りになった欠片が、再び一つになる為に再生しようとしているのかもしれん。こちらも主と一緒に行動していたのだが・・・・・』


「!?・・・・主はやては無事なのか!?」


『シグナム、私は無事やで。さっき闇の書の欠片が化けたシャマルを撃破したところや。しかもそのシャマルは私のことを知らないと言ったんや』


 ザフィーラ?が消滅した後、シグナムの下にリインフォースから連絡が入った。リインフォースはシグナムが相手にしたのは欠片となった闇の書の魔力がザフィーラの姿をしてシグナムの前に現われたと説明する。シグナムも先程戦ったザフィーラは同じ守護騎士であるシグナムを名ではなく“騎士”と呼び、まるで初めて会った人物かのような言い方だった。


 そしてはやてとリインフォースの二人もシャマルと別れた後、結界の反応のあった場所に行くと、先程別れた筈のシャマルがおり、声を掛けると闇の書のことは知っていたが、はやての事を知らないと言い張ったらしい。その後、はやての手にしている夜天の書を奪おうと戦闘に発展し、はやてはリインフォースのサポートを受けつつもシャマルを撃破したという。


『お~い、シグナム、聞こえっか~?』


「ヴィータか、そっちはどうだ?」


『ああ、こっちはテスタロッサの姿をした妙な奴が出た。まあ本人と比べてヌルかったから簡単に捻ってやったけど』


 はやてとリインフォースと話をしていると、今度はヴィータから連絡が入り、ヴィータの向かった場所には、自分の事を知らないフェイトが現われたらしい。まあヴィータが言うには、今の実力とは程遠い力しか持っていなかったらしい。そのためヴィータには戦ったフェイトが偽物である事に真っ先に気づいた。


『リインフォース、ザフィーラだ』


『ザフィーラ、シャマルと合流できたか?』


『ああ、それと妙な事にシグナムと戦う羽目になった。だが、明らかにシグナムとは太刀筋が違った』


 今度はリインフォース側に通信が入り、相手はザフィーラだった。どうやらザフィーラもシャマルと合流する前に闇の書の欠片が化けたシグナムと一戦交えたらしい。しかし過去の記憶を再生した闇の欠片のシグナムでは、修行を重ねていたザフィーラの持つ鋼の力を切り裂く事が出来ず、ザフィーラによって退治された。


「ってことは、これで皆、闇の書の欠片を一応撃破できたってことかいな?」


『しかし、未だに結界は増えつづけているようです。それにテスタロッサのように管理局側の魔導師に化けた者も出てきている可能性があります』


『でもよ、それっておかしくないか?なのはは仮にだけど闇の書に一度魔力蒐集しちまって化けて出てくるかもしれないのは分かるけど、何でテスタロッサに化けた奴も出て来るんだよ?』


「多分、闇の書の欠片は、蒐集した者だけではなく、自身と戦った相手にも化けれるのかもしれない。もしかしたらテスタロッサの他にも、クロノ執務官に化けた者も出てくるかもしれん」


 はやては今海鳴市で確認されている結界を一応撃破に成功したと言うと、シグナムは未だに結界が出現しているとはやてに伝え、フェイトのように管理局側の魔導師達にも闇の欠片が化けて出現するのではないかと推測する。


 しかしヴィータは、仮に管理局側の魔導師に化けてくるのなら、蒐集対象になったなのはの化けたのが出るのなら分かるが、何故蒐集対象になっていない筈のフェイトが、闇の書の欠片として出現したのか分からなかった。その問いにリインフォースは、闇の書の欠片は、蒐集対象だけではなく、自分達と戦った事のある魔導師の記憶の再生も行なっていると推測し、もしかしたらクロノの姿をした闇の書の欠片の出現もありえると話す。


『しかし、こうも分断して闇の書の欠片を倒そうと思っても、相手が我らのように本物かどうか分からない場合は、どう本物と見分けるかが問題だな』


「確かになぁ・・・・ヴィータみたいに見つけたらすぐに偽物扱いして戦いを挑んだら、相手は実は本物でした・・・・なんてオチがあるかもしれへんからな~」


『ちょっ!?ヒデェ~よ、はやて!!』


『あっ、それなら良い手がありますよ!!』


 リインフォースの話が終ったところで、他の結界の出現した場所に行こうとすると、ザフィーラが分断しての行動時に、出くわした相手が本人か分からなかった場合はどうするのかと質問すると、はやてはヴィータ辺りが本物と偽物の区別をつけずに真っ先に攻撃を仕掛けようとすると指摘すると、ヴィータは「酷い」と言っていじけてしまう。っとその時、突然シャマルが本物と偽物を見分けられる方法を思いついたと声を上げた。


『何か良い手があるのか?シャマル』


『ええ、偽物には無くて、本物にあるモノが一つだけあります!!』


『?』


『今朝零さんから貰った、このミサンガです!!』


 皆がどんな手なのか聞く中、シャマルは自分の右腕に付けているミサンガを掲げた。その瞬間、はやて達は「なるほど!」と全員納得したように自分達の右腕を見た。確かにシャマルの考えた方法なら、過去の記憶を闇の書の欠片が再生した偽物にはミサンガを持っておらず、今朝零からプレゼントされたミサンガを身に付けている者は本物だとすぐに判別できる。


 この事にはシャマルの案に全員同意し、もし自分達の偽物が現われた場合、右腕を見て本物と判別するように決めると、シグナムはリインフォースに声を掛けた。


『リインフォース、少しいいか?』


『ん?何だ、将?』


『実は零が結界に閉じ込められて、テスタロッサの偽物と戦闘をしたらしい』


『ええっ!?』


『何だって!?それは本当か!?』


『ああ、その証拠に念話で私に連絡を取ってきた。零が念話で通信してくるとしたら、ガイバーの姿でないと出来ないからな・・・・』


 シグナムはリインフォースに零が襲われていたことを伝えると、はやてと他の守護騎士たちは一斉に通信越しのシグナムの顔を見る。そしてシグナムは零がガイバーを纏ってフェイトの姿をした闇の書の欠片と戦っていたということを説明した。するとリインフォースは驚きの声を上げつつ、結局零もこの件に巻き込んでしまったのだと少し後悔してしまった。


「それでシグナム!、零兄ぃは無事なんか!?」


『ええ、何とか無事に撃退できたみたいなんですが、どうもそのテスタロッサの姿をした者は、本物のテスタロッサとは性格が正反対な感じだったみたいです』


「なんだと!?」


 リインフォースは零は無事なのかとシグナムに問うと、零は無事だとシグナムは答えた。しかし零を襲ったフェイトの姿をした者は、自分達の知っているフェイトとはまるで性格が真逆だったと伝えると、リインフォースは闇の書の残滓が生み出した偽物であるなら、コピーされた人物の性格まで変わるはずが無いと考えていると、零が相手にしたフェイトのコピーの正体が何だったのかいち早く気づいた。


「将、もしかしたら零が相手にしたテスタロッサの姿をしたコピー・・・・闇の書の防衛システムの構造体かもしれない」


『構造体?』


「つまり、闇の書の欠片が過去の私達をコピーするようなモノではない、自身の自我を持った者・・・・ということだ」


『だとしたら他にも自我を持った構造体が出現している可能性があるのか?』


「ああ、あり得るかもしれない・・・・」


 リインフォースは零を襲ったフェイトの姿をした雷刃の襲撃者が闇の書の防衛システムの構造体の一部ではないかとシグナムに伝えると、ザフィーラはフェイトのコピーである雷刃の襲撃者の他にも、自我を持った構造体の出現もありえるのかとリインフォースに尋ねると、出現の可能性は十分ありえると答えた。


「それにもしかしたら、闇の書の防衛プログラムは、零を隔離させている可能性がある・・・・危険な存在なのだと認識して・・・・・」


「危険な存在・・・・って、どういうことや?」


「主、もし私達や時空管理局以外で闇の書にとって最も脅威に感じるモノがあるとしたら何だと思いますか?」


「何って・・・・・まさかっ!!」


「そう、零の纏っているガイバー・・・・あの闇の書の防衛プログラムを成層圏から宇宙空間まで押し上げるほどの力を持った蒼き巨人【ギガンティックゼロ】です」


 リインフォースはシグナムから聞いていた“零は結界に閉じ込められている”という事から、闇の書の防衛プログラムは零を危険な存在と認識していると話す。その話にはやては「何故?」と質問すると、その理由をリインフォースは、自分たち夜天の守護騎士や、クロノ達やなのは、フェイトら時空管理局以外の存在で、闇の書の防衛プログラムが自分にとって危険な存在が、零の纏っているガイバーゼロとその強化版とも言える闇の書の闇に単体で唯一対抗できるかもしれない可能性を持つ巨人殖装である【ギガンティック】なのだと話す。


「そっ、それやったら、はよ零兄ぃを助けなあかんっ!シグナム、零兄ぃのいる場所をはよ教えて!!」


「主、恐らく無理でしょう・・・・」


「何でやっ!?結界やったら反応がある筈や!それを見つければ・・・・・」


「闇の書の防衛プログラムは、私達が介入してくる事を踏まえて空間系の魔法を併用させた外部から認識できない特殊な結界を作ったのだと思います。現に管理局側では、零のいる場所には結界の反応がない事をシグナムが聞いています」


 零が危険視されているなら早く助けに行こうと言うはやてに、リインフォースはこちらの介入してくる事を防ぐ為に、闇の書の防衛プログラムは自身の得意としている空間系の魔法を併用して生み出した特殊な結界の中に零を閉じ込め、孤立させたのだと話し、結界の発生している地点に管理局は確認できていない事をシグナムが聞いていると話すと、はやてはシグナムの方を見るが、シグナムは黙ったまま頷いた。


「そんな・・・・だったらどうすればええんや・・・・・」


「方法が無いわけではありません。闇の書の欠片は確かにバラバラに散っていますが、その流れは再び闇の書の闇となる為に一箇所に集まるようになっている筈です。ですから闇の書の欠片が何処に流れながら集まっているかを掴める事が出来れば・・・・」


「自然と零兄ぃの捕まっている特殊結界の場所が分かるって事やな!!」


 リインフォースの話を聞いたはやては零を助けることが出来ないのかと沈んでいたが、零の場所を知ることが出来る方法を聞いた瞬間、気合の入った表情に変化した。そしてはやては、闇の書の欠片が一箇所に集まる流れを掴むように守護騎士全員に指示を出すと、なのはとフェイトにも事情を話し、リインフォースと共に各地に散っている闇の書の欠片を目指して空を駆けて行った。



















______________________________



















 その頃、自分のいる上空から桃色の12個の魔力弾の襲撃を受けたガイバーゼロは、咄嗟に転がるように回避し、攻撃のあった方向を見上げると、そこには雷刃の襲撃者の時のように見慣れた少女の姿があった。


「危険人物兼最優先排除対象を確認しました」


「・・・・今度はなのはちゃんか。だが明らかになのはちゃんとは違うな・・・・」


「お初にお目にかかります。私の名前は【星光の殲滅者】そしてこれは私のデバイス【ルシフェリオン】・・・・・・・闇の書の【理】を司る者です」


 ガイバーゼロより上方にいたのは【高町なのは】だった・・・・しかし、そこにいたなのはは星光の殲滅者と名乗った。髪型は本物はツインテールに対し、ショートカットヘアーだった。さらに纏っているバリアジャケットの色は白のはずが黒に変化しており、さらに手にしている【ルシフェリオン】と呼ばれるレイジングハートと酷似したデバイスの色は紫色になっており、何処か邪悪な感じを醸し出している。


「先程の雷刃との戦いはお見事でした。彼女は【力】を司る雷剣士でしたのに、あなたは何らかの力で地中に潜って回避した後、背後から奇襲を仕掛けて撃破するとは・・・・・敵ながら賞賛の言葉を送らせて頂きます・・・・・」


(今度のなのはちゃんの姿をした奴は、何処か落ちついたような物言いをするんだな・・・・・)


 普段のなのはを知っている零にとって、目の前にいる星光の殲滅者の言葉遣いが丁寧であり、本物との違いに若干戸惑いを見せる。


「ですが、あなたは我々にとって高レベルの危険分子と認識しておりますので、闇の書の復活、そして闇と破壊の混沌を呼び覚ますために、今ここで・・・・・・死んで下もらいます!」


 ガイバーゼロの強さに感心していた星光の殲滅者だったが、言葉遣いが丁寧の割に、本物のなのはとは思えないほどの冷淡とも思える態度で手にしたルシフェリオンをガイバーゼロに向ける。


「パイロシュータァァァァッ!!」


「くっ!!」


 星光の殲滅者の持つルシフェリオンから放たれた12個の魔力弾は、なのはの得意とするアクセルシューターと同じ誘導式のモノらしく、それぞれ軌道を変化させながらガイバーゼロに迫る。対するガイバーゼロは、ヘッドセンサーを駆使して連射に適したヘッドビームを放って誘導弾を撃ち落そうとするが、雷刃の襲撃者の直線的な魔力弾の時とは違い、ヘッドセンサーでも撃ち落せるモノと落とせないモノが出てきてしまい、撃ち落せない分の魔力弾は移動しながら回避するしかなかった。


(相手がなのはちゃんを元にした存在なら、攻撃の主体は砲撃系による中遠距離戦闘を得意としている筈・・・・だったら!!)


 ガイバーゼロは星光の殲滅者の姿からなのはを元にした存在であり、攻撃の主体としているのは中遠距離からの砲撃・・・・・故に距離を詰めて接近戦を仕掛ければこっちに有利になるとガイバーゼロは踏んだ。


 星光の殲滅者の攻撃を回避しながらガイバーゼロは、彼女の持つルシフェリオンから全体に向かって魔力が流れている事を確認し、先程戦った雷刃の襲撃者の時と同じようにデバイスを破壊すれば倒せると考え、星光の殲滅者に急接近する。ガイバーゼロの動きに接近戦を仕掛けてくると読んだ星光の殲滅者は、接近させまいと絶えず砲撃を続けてくるが、ガイバーゼロは空中というフィールドを利用して急降下と急上昇で星光の殲滅者の背後に回り込んだ。


 そして彼女の持つルシフェリオンのデバイスコアに向かって拳を振り上げようとした時だった。突然自分の腹部付近に熱した棒を押し付けられたような痛みがガイバーゼロを襲った。ガイバーゼロは痛みのある腹部を見てみると、そこにはなのはのレイジングハートのシューティングモードと同じ形状に変形したルシフェリオンの先端部分が、まるで槍のようにガイバーゼロの腹部に深々と突き刺さっていた。





















































 第27話完成。

 投稿が遅れてしまい申し訳ありません。もうリアルで色々忙しく、小説を書く暇が無く、いざ書こうとすると今度は睡魔が襲い掛かり・・・・そんな毎日のせいで投稿期間が長くなってしまいホントすいません。

 ですが、頑張って書いているのでどうか気長に待っててくれるとありがたいです。にしても書いていてなんですが、今回の思念体ザフィーラの扱いが酷いような気が・・・・・


 それではまた次回・・・・



(そういえば、ゼロ魔×遊戯王の方が一向に進んでいないや・・・・・)






 



[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第二十八話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2010/09/09 22:18












 闇の書の闇・・・・・それは夜天の魔導書の防衛プログラムが過去の持ち主の手によって闇の書へと狂わせたプログラム。【闇の書事件】と呼ばれた事件で夜天の書との切り離しに成功した闇の書の闇は、時空管理局と夜天の主と騎士達・・・・そして蒼き巨人によって破壊に成功したと思われた。しかし蒼き巨人の攻撃に対し自身の魔力を欠片としてばら撒いていた闇の書の防衛プログラムは、再び闇の書の闇として復活しようと欠片となった自身の魔力を集めようとしていた。


 そんな中、不穏な空気を感じた夜天の騎士達と夜天の王となった【八神はやて】は、闇の書事件の際に得た仲間らと共に闇の書の欠片の退治に乗り出すが、ただ一人だけ、闇の書の防衛プログラムが最優先で排除しようとしている存在があった・・・・それは自身と同等か、魔力を持たず単体でも高い戦闘能力を持つ蒼き巨人【ギガンティック】となれる存在【ガイバー】であった。


 殖装体と呼ばれる存在へとなれる【八神 零】は、そんな闇の書の防衛プログラムの最優先排除ターゲットにされてしまい、外部から確認できない特殊な結界の中に閉じ込められ、闇の書の防衛プログラムの構造体【マテリアル】に襲われてしまう。フェイト・テスタロッサと同じ姿をした【力】を司るマテリアル【雷刃の襲撃者】の襲撃を受けてしまうが、ガイバーへと殖装した零は機転を利かせた攻撃でこれを撃破。その後、今度は高町なのはと同じ姿をした【理】を司るマテリアル【星光の殲滅者】がガイバーゼロの前に現われた。


 自身のオリジナルである高町なのはと同じ中遠距離での戦闘を主体にしている星光の殲滅者の攻撃に対し、ガイバーゼロは接近戦を仕掛けるが、それを察知していたのか、星光の殲滅者は自身の持つデバイス【ルシフェリオン】をシューティングモードに変形させ、まるで槍のようにガイバーゼロの腹部に突き刺してきた。


「がはっ!!」


「あなたがこちらの攻撃に対し、接近戦を仕掛けてくるのは想定内のことでした。それにこうした攻撃をしてくるなどあなたには予想外でしたでしょう?」


 ガイバーゼロの腹部に深々と突き刺さったルシフェリオンの先端には、ガイバーゼロの真っ赤な鮮血がルシフェリオンの紫色の装甲の先端を伝って流れてくる。痛みに耐えるガイバーゼロだったが、ルシフェリオンの先端部分が内蔵まで到達しているのか、少しでも動こうとすると激しい痛みが襲い掛かる。


「それにこうして動きを封じれば、ゼロ距離での砲撃であなたを消し去る事も可能ですよ・・・・」


「!?」


 星光の殲滅者は「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべると、ルシフェリオンに内蔵されているカートリッジを装填されている部分が「ガシャッ!」とスライドし、薬莢が一発排出された。その動きにガイバーゼロは、星光の殲滅者が次に何をしようとしたのかを即座に予測し、激痛覚悟でルシフェリオンを掴んだ。


「ブラスト・・・・ファイアァァァァァァッ!!」


「ぐうっ!!!」


 無理矢理でもルシフェリオンの先端部分を引き抜いたガイバーゼロだったが、引き抜いた瞬間に星光の殲滅者はなのはの【ディバインバスター】の同じ砲撃系の魔法【ブラストファイアー】を至近距離から放ってきた。星光の殲滅者のブラストファイアーをギリギリのところを横に動いて回避できたガイバーゼロだったが、完全に回避できたわけではなく、胸部部分の装甲が抉られてしまった。さらに先程の星光の殲滅者の予想外の攻撃によって受けた腹部の傷からは血が大量に出血してしまっていた。


「ぐっ・・・・」


「それほどの傷を負わせても立っていられるとは・・・・さすがというべきか。やはりあの紅い鎧の方と同じように完全に消滅させない限り倒すのは難しそうですね」


(紅い鎧の?・・・・・ガイバーブラッドのことか?)


 普通なら致命傷ともいえる程のダメージを負っているガイバーゼロの姿を見た星光の殲滅者は、紅い鎧の者の話をしだした。その言葉を聞いたガイバーゼロは、闇の書事件の際に現われた自分以外のもう一人の紅いガイバー【ガイバーブラッド】の事を思い出した。


 ガイバーブラッド・・・・・零の持つ殖装体であるガイバーゼロとは細部の違う紅いガイバー。その殖装者は時空管理局の【リンディ・ハラオウン】の従弟である【グラーベ・アースレイド】だった。彼はガイバーを纏った事で闇の書の完全消滅が出来ると思い込み、最初はシグナムを、次にガイバーゼロを襲い、そして闇の書の主としてはやてを覚醒させる引き金にもなった。


 その後、はやてを取り込んだ闇の書の意志との激しい戦闘を繰り広げたが、闇の書の意志のハウリングスフィアによる攻撃により足と腕を吹き飛ばされてしまい、反撃をする為にガイバー最強の武装である【メガスマッシャー】を闇の書の意志に向けて放ったが、はやてが闇の書の主として覚醒させる為に蒐集されてしまったシャマルの【旅の扉】の能力により、メガスマッシャーを反転照射されてしまい、自身の攻撃で倒されるという結果になってしまった。


 どうやら彼女らマテリアルは、闇の書として活動していた頃の記憶を持っており、零が纏っているガイバーゼロを倒すには、ガイバーブラッドのように欠片も残さず完全に消滅させるしかないと考えているらしい。そう考えた星光の殲滅者は再びルシフェリオンを構えてガイバーゼロへの攻撃を再開した。


(くっ、胸の装甲の修復はある程度完了してるみたいだが、腹部の傷は内蔵にまで達しているだけあって修復に時間がかかる・・・・・だが、攻撃を仕掛けようにも無闇に接近戦を挑もうとすれば先程みたいに予想外の攻撃を仕掛けてくる可能性もある・・・・)


 星光の殲滅者の放つ砲撃を上下左右に動き回って回避しながら攻撃の糸口を模索するガイバーゼロ。その間にもガイバーの鎧を形成している強殖細胞は自己修復機能を開始し、ガイバーゼロの胸部装甲の抉られた部分の再生を行なっていた。しかし先程のルシフェリオンの槍を受けた傷の出血は止まっているが、完全に修復が完了するまでにはまだ時間がかかる様子だった。


 しかも星光の殲滅者はこちらの狙いを悟っているかのように、自分が砲撃を主体にしているように見せて、相手の意表をついたかのように格闘戦まで仕掛けてきた。このことを考えて星光の殲滅者に対して単純な攻撃を仕掛ければ思わぬ反撃を受けてしまうのではないかと警戒してしまう。


「どうしたのですか?先程までの勢いは何処にいったのですか?」


「くっ!」


 攻撃を躊躇しているガイバーゼロに余裕の態度で星光の殲滅者はパイロシューターとブラストファイアーの複合攻撃をガイバーゼロに浴びせる。ガイバーゼロは腹部の痛みを堪えつつも星光の殲滅者の放つパイロシューターをヘッドビームで撃ち落し、ブラストファイアーに対しては回避を優先して動き続ける。その間にもヘッドビームとプレッシャーカノンを放って反撃を試みるが、ヘッドビームは魔法障壁で塞がれ、チャージの不足している低威力版のプレッシャーカノンでは余り威力が無く、星光の殲滅者のパイロシューターに相殺されてしまった。


 しかしここでガイバーゼロはおかしな事に気づいた。今まで攻撃を続けている星光の殲滅者であったが、普通なら魔力切れを起こしてもいいはずなのに、彼女の様子からしてそんな感じが全く見られない。それどころか、徐々にではあるが星光に殲滅者の放ってくる魔法の威力が上がってきているよな感じがした。


「このままでは埒があきませんね・・・・・仕方ありません、コレで決めさせていただきます・・・・【ルベライト】ッ!!」


「!?」


 攻撃を回避し続けるガイバーゼロに嫌気が差したのか、星光の殲滅者は左手をガイバーゼロに向けて差し出すと、足下にミッド式の魔法陣が展開した。するとガイバーゼロの周囲に帯状の物体が出現し、ガイバーゼロの体はまるで張り付けにされたかのように身動きが取れなくなった。


「これは・・・・バインドか!?」


「そうです。あなたなら無理矢理でもバインドを引き千切る事が出来るかもしれませんが、その前に決着をつけさせていただきます」


 ガイバーゼロが身動きを取れなくなってしまったのは、星光の殲滅者の魔法の一つであるバインド効果のある【ルベライト】だった。ガイバーゼロの両手両足には、帯状のバインドが巻かれ、どうにかして脱出を図ろうとするが、星光の殲滅者はバインドで動きを止めているガイバーゼロに向けてルシフェリオンを向けた。


「集え、明星・・・・・」


 星光の殲滅者が小さく呟くと同時にルシフェリオンから三発のカートリッジが飛び出し、ルシフェリオンの先端からまるでなのはのレイジングハートと同じように四枚の翼が出現した。その光景を見たガイバーゼロの脳裏にあの時の光景が横切った。


「あの翼・・・・まさかあの時と同じ!?」


「全てを焼き消す焔となれっ!!」


 星光の殲滅者のやろうとしている事に気づいたガイバーゼロの脳裏に、闇の書事件の際になのはとフェイトに闇の書の完成させる目的を問い掛けてきた時、なのはとフェイトから逃亡を図ろうとした際にフェイトのバインドで動きを封じられ、なのはから【ディバインバスター】の砲撃を受けた時のことを思い出され、今まさにその時と同じ状況になってしまっていた。だがあの時と違い、星光の殲滅者の放とうとしている砲撃は、なのはのディバインバスターとは魔力の集束量が明らかに違い、どちらかと言えば【スターライトブレイカー】並の魔力量だった。


(待てよ・・・・彼女は闇の書の意志の時のことは知っていたけど、あの時は闇の書の蒐集どころじゃなかった・・・・もしかしたら・・・・)


 星光の殲滅者の持つルシフェリオンの先端にヘッドセンサーを使わなくても分かるほどの膨大な魔力が集束していく中、零は以前と同じ状況が似ている事に気づき、意識をコントロールメタルに集中させて【メガスマッシャー】の発射準備に入った。ガイバーゼロの胸部装甲の内部から蒼白い光が見え始め、その光景に星光の殲滅者はガイバーゼロが何をしようとしているのか頭を捻らせた。


「何をするかと思いきや、あの砲撃を放とうというのですか?ですが、あの砲撃は胸の装甲をはがさなければ撃てない筈、両腕を動かせない状態のあなたが砲撃を撃つということは、自身のダメージも省みない気でいるのですか?」


「・・・・・確かに、このまま撃とうとすれば胸の装甲は大きく抉られる事になるな。・・・・だがっ!強殖装甲を甘く見るな!」


「なるほど、自身の装甲を削ったとしても、時間が経てば削られた装甲は自己修復が可能と考えての事ですか・・・・・・ですが、私は容赦はしません。この砲撃であなたをこの世から消し去ってあげましょうっ!ルシフェリオン・ブレイカァァァァァッ!!!!」


 ガイバーゼロの己のダメージを鑑みない行動に星光の殲滅者はガイバーであるが故の自己修復機能で自身の回復が出来る事を承知の上で、ガイバーゼロに向けてなのはの【スターライトブレイカー】ソックリの魔法砲撃【ルシフェリオンブレイカー】を放ってきた。


「今だ!開けっ!スマッシャーッ!!」


「なにっ!?」


 迫り来る桃色の閃光に対し、ガイバーゼロは意を決して叫ぶと、ガイバーゼロの胸部の装甲が自動的に開閉し、装甲内に内蔵されている光を放つ二つの巨大なレンズが顔を出し、ガイバーゼロ正面に二つの光が徐々に肥大化していく。ひとりでに装甲が展開されたことに驚く星光の殲滅者の表情に、ガイバーゼロは“両手を使わなくても装甲の展開ができる”ことを知らなかったと見えて「やはり闇の書の意志の時以外の情報は持っていない」と確信した。


 桃色の閃光と二つの閃光が一つとなった蒼白い閃光がお互いにぶつかり合うと、二つの強大なエネルギーによる余波がガイバーゼロと星光の殲滅者に衝撃が襲い、さらには結界自体にも衝撃が走る。
 星光の殲滅者の放つルシフェリオンブレイカーは、なのはが闇の書の闇との決戦でのコアを露出させる為に使用していたスターライトブレイカー並のエネルギーをガイバーのヘッドセンサーが感知していたが、ガイバーゼロは前回片方ずつメガスマッシャーを発射していたが、今回は左右のメガスマッシャーを同時に発射していた。


「くっ!?私のルシフェリオンブレイカーが押しかえされている!?そんなはずは・・・・」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 星光の殲滅者は自分の最強の魔法であるルシフェリオンブレイカーが押し返され始めている事に「まさか」と声を上げる。ガイバーゼロのメガスマッシャーは、なのはのディバインバスターを片方だけでも押し返せるほどの威力を持っている。それを同時に発射すれば星光の殲滅者のルシフェリオンブレイカーに対抗できると零は考えていた。その結果、星光の殲滅者の放ってきたルシフェリオンブレイカーを押し返し、彼女はガイバーゼロの放ったメガスマッシャーの閃光に飲み込まれた。


「ハァハァハァ・・・・やっ、やったか?」


 メガスマッシャーを放ち終わったガイバーゼロは、息を切らしながら星光の殲滅者を倒せたか確認を取ろうとした時、両手両足を縛っていたバインドが消滅し、体の自由が効くようになった。ガイバーゼロは開閉している胸部の装甲を閉じ、メガスマッシャーで星光の殲滅者がどうなったか確認を取る為に星光の殲滅者のいた場所を見上げてみると、彼女はそこにいた。


「・・・・・くっ、まさか、腕を使わずに装甲の展開が可能だったなんて・・・・想定外の事でした・・・・・」


「残念だけど、その通りだ」


 メガスマッシャーの砲撃を受けた星光の殲滅者は、体の大部分が消滅しており、残っている部分は左胸から上の部分のみで、見るも無残な姿になっており、デバイスであるルシフェリオンはスマッシャーの砲撃により消滅してしまっていた。そして星光の殲滅者の肉体は徐々に崩壊が始まっていた。


「どうやら私の・・・・役目も・・・・・ここまでの・・・・・ようですね・・・・」


「役目だって?」


「そう、私の役目は・・・・あなたに出来るだけ体力の消耗を促し・・・・・欠片を集める為の時間稼ぎをすること・・・・・そして時間を稼いだ事で・・・・・【王】は完全な存在になれる・・・・・」


「【王】?」


 自身の肉体が崩壊していく中、星光の殲滅者はガイバーゼロに自分に宛がわれた役目を話し出し、時間稼ぎをしたことで闇の書の欠片の大半の回収も済んでいる事を告白した。そして彼女は【王】と呼ばれる存在が完全な形として現われる事を話した後、雷刃の襲撃者と同じように光の粒子のように消滅してしまった。


「消えた・・・・か。ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・」


 再び結界内に一人になったガイバーゼロだったが、雷刃の襲撃者及び星光の殲滅者との連戦続きであった為に息切れを起こしてしまっていた。先程の戦闘で受けた腹部の傷は修復されていたが、零自身の体力は度重なる戦闘により限界に近づいてきていた。


「これ以上はさすがの俺も不味いかな・・・・」


 ガイバーを纏っているのだとしても、連戦続きの状態では零自身が参ってきてしまう。そんな零は一度休む為に地上に降りようと思ったが、星光の殲滅者との戦場は、いつの間にか海上にに移ってしまっていた。


「いつの間にか海の上に来ていたのか・・・・そういえばここって・・・・」


 海を見渡しているガイバーゼロだったが、ふと自分が浮いている場所が闇の書の防衛プログラムとの決戦場のあった場所だった。零はあの時が初めてなのはとフェイト、ユーノやアルフとクロノら管理局組と、夜天の主になったはやてとシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人の守護騎士、そしてギガンティックとなった自分と協力した時の事を思い出した。


(よくよく考えたら、あの時が皆で協力して事に当たったんだよな・・・・その前まではお互い敵同士だったのに・・・・・・)


 零はふと目を閉じて闇の書事件の際の事を思い出す。はやてを守ろうとガイバーへと殖装し、シグナム達と協力しながら闇の書のページを増やしていく中、なのはとフェイトら管理局組の妨害もあり、その中にあのもう一人のガイバーの出現・・・・・そのようなことが走馬灯のように頭の中を過ぎった・・・・・っとその時、零の頭の中に自分の隣で異形の姿をした者と共に戦っている光景が一瞬見えた。


「!?」


 自分の頭の中に思いがけない人物の姿に零は「ハッ!?」となった。自分もかつて“敵”であったはずの人物と戦いの中で次第に共に戦う戦友とも言える存在がいたかのような感じだった。零は一瞬見えたビジョンに「何だったのだろう?」と頭を悩ませ、かつて失った自分の記憶の一部なのかとも思えた。


「・・・!?あれ、何か周囲の景色が!?」


 零はふと考えていると、周囲の景色が徐々に黒く染まっていき、遂には完全に“闇”に染まっていた。その空間は上も下も右も左も真っ黒で、グラビティコントローラーを使っていなくても空中に浮いているような・・・・・重力という感覚が全く無い。


「ふふふっ、ようやくこうして顔を合わせる事が出来たな、我と同じ破壊のみの力を持つ者よ・・・・・・」


「!?」


 上部から自分に向けて誰かが声を掛けてきたのを聞いたガイバーゼロだったが、その声に聞き覚えがあった。ガイバーゼロは「まさか」と思いつつ声のあった方向に顔を向けると・・・・・・・・・・・
























_________________________

























 その頃、零を助ける為に奮闘していたはやて率いる夜天の騎士達は、次々と出現している結界をそれぞれ別れて排除して回っていた。その目的は闇の書の欠片が何処に流れて集められているのか判明する為でもあった。そしてその流れの先に零が閉じ込められている特殊な結界を見つけるためであった。


「よし!反応のあった場所はコレで最後やっ!!」


「お疲れ様です、我が主」


 闇の書の欠片の化けた思念体を撃退したはやてとリインフォース。次々と闇の書の欠片を倒していく中、はやてと出会う前の過去の記憶を持つヴィータ、クロノは闇の書事件の際の記憶、そしてシグナムははやてが闇の書の呪いで病院に入院していた頃の記憶とそれぞれ違った形でヴィータ、クロノ、シグナムの姿に化けた闇の書の欠片と戦い、それぞれ撃破した。


「それでリインフォース、闇の書の欠片が集まっている流れは掴めそうか?」


「はい。先程から周囲の魔力の流れを探ってみたところ、ずっと南のほうに向かって流れているようです」


「南・・・・・ちょうど海岸沿いの方角やね」


 はやては零が閉じ込められている特殊結界の正確な位置を見つけるために闇の書の欠片を倒して魔力の流れを探ろうとしていた。次々と出現する闇の書の欠片を撃破していく中、リインフォースは闇の書の残留魔力の流れを探っていると、どうやら闇の書の欠片が集まっている地点はシグナムの言っていた海鳴市の海岸沿い付近に集結しているみたいだった。


 リインフォースから検索結果を聞いたはやてはマップを表示させて海岸沿いの位置を確認すると、そこにはなのはやフェイトとクロノの管理局組と、シグナム達夜天の騎士組の魔力反応が丁度円を描くように展開されており、リインフォースの言っていた南方向が円の中心を指していた。


「リインフォース、これって偶然かいな?」


「いえ、これは・・・・・」


 マップを見たはやてとリインフォースは、全員のいる位置が偶然円を描くような形になり、その円の中心が闇の書の欠片が集まっている海岸沿いの地点に位置していた。


「まさかと思いますが、闇の書の防衛プログラムは、我々を遠ざけるよう仕向けられていたのではないでしょうか?」


「遠ざける?」


「はい。もし我々が防衛プログラムの近くで戦闘などを行えば、残留魔力の反応で位置が判明してしまうのではないかと考えたんでしょう。そう考えると、こうして広範囲に欠片をバラ撒くように展開させればこちらは自然と中心から遠ざかる形になり、手薄になった事で容易に欠片を集める事が可能になる・・・・ということになります」


「ほんなら、私達が今までしてきた事は・・・・・」


「・・・・単に時間稼ぎになっていた・・・・という事になります」


 闇の書の防衛プログラムの意図を語るリインフォースに、はやては「まさか?」と言う表情になり、リインフォースも右手を握り締めて相手の意図を見破れなかった事に悔しがっていた。はやては急ぎなのは達に事情を話し、シグナムの言っていた海岸沿い付近に集合してほしいと頼んだ。


 海岸沿い付近に到着したはやてとリインフォース、続いてシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ夜天の騎士達が合流。そしてなのは、フェイト、クロノら管理局組が合流した。


「はやてちゃん!」


「はやて!!」


 なのはとフェイトがはやての名を呼ぶと、はやてとリインフォースはお互いに振り返り、二人を中心にシグナム達も集まってきた。リインフォースは集まったメンバーにこの付近に闇の書の防衛プログラムが潜んでいると話した。


「だが、さっきエイミィに確認させたが、この付近にはそれらしい反応が見当たらないと言っていたが、本当にここなのか?」


「空間系の魔法を併用すれば、反応を見せない特殊な結界を張る事も可能です。ですがこれは闇の書だからこそ出来ることでもあります執務官」


 クロノは移動中にエイミィにも再確認させていたらしく、確認の結果この付近に結界らしき反応はないと聞かされていた為、本当にこの付近に結界が存在しているのか疑問に思っていたらしい。それについてリインフォースは先にはやて達に説明していた空間系の魔法を併用した結界であれば、結界自体を空間内に留めさせて目視ですら確認する事が困難になると説明した。


 今回の場合、闇の書の防衛プログラムが欠片を集める際に空間内に微量の隙間を作り、そこから魔力を集めるという形で回収していた為、元々管制人格であったリインフォースだけが魔力の流れを確認する事ができたのだ。


「あれ?フェイトちゃん、この辺りって確か防衛プログラムと戦った場所の近くだよね?」


「えっ?あっ、そういえばそうだね・・・・」


 なのはの指摘にフェイトや他のメンバーは周囲を見渡すと、確かにそこは特殊結界の中にいる零も思っていた暴走した闇の書の防衛プログラムとの最終決戦の近くの場所だった。その光景を見上げていたヴィータは、ふと空に奇妙なモノを目撃した。


「あれ?」


「どうしたヴィータ?」


「いや・・・・・あのへんの空が、何かおかしくなってねぇ~か?」


 シグナムの問いにヴィータは「空の一部が変」と言って空を指差し、その方角を全員で見上げてみると、海鳴市の空の一部がまるでひび割れたように黒い亀裂が入っていた。
























_________________________

























 特殊結界内でガイバーゼロは、後ろから聞こえてきた聞きなれた声の正体を知りつつも振り返り、その声の主の姿を見た。そこにいたのは灰色のショートヘアーに黒を強調した騎士甲冑、黒い六枚の翼、そして紫色に変色した夜天の書とシュベルトクロイツ・・・・・


「・・・・フェイトちゃんの姿をした雷刃の襲撃者、なのはちゃんの姿をした星光の殲滅者・・・・まさかと思っていたけど、次ははやての姿をした奴か・・・・」


「何をそんなに怒りを露にしている?【王】である我の前でそのような態度をするとは、恥を知れっ!!」


 ガイバーゼロの前に現われたのは、はやての姿を模した人物だった。今までフェイトの姿をした雷刃の襲撃者、なのはの姿をした星光の殲滅者とオリジナルである二人から自我を持ったマテリアルが存在していたからには、今度はどんなマテリアルがくるのかと自然と思い浮かんでいた零には、予想していた事が現実のモノになってしまったことに怒りがこみ上げていた。


 そんなガイバーゼロにはやての姿をしたマテリアルは自らを【王】と名乗り、零を見下したような態度でガイバーゼロを見下ろす。そんな彼女にガイバーゼロはヘッドセンサーで今までのマテリアル達の弱点である魔力の集まりが何処か探ってみるが、その索敵結果に驚いた様子になってしまう。


(何だ!?これまでのモノとは比べられないほどの魔力に、魔力の集まりが尋常じゃない・・・・・まさか、こいつは・・・・)


「気づいたか?我こそは貴様たちの言う闇の書の闇の中枢、そして真に闇を統べるべき者・・・・【闇統べる王】なりっ!!」


 ガイバーゼロのヘッドセンサーから確認した情報に驚く零に、はやての姿をしたマテリアルは自身を闇を統べる者・・・・【闇統べる王】と名乗り、その内に秘めている魔力を放出させてガイバーゼロを圧倒させる。


「それに我の下には我が僕(しもべ)達が勢ぞろいている。見てみよっ!!」


 闇統べる王は両手を広げて高らかに叫ぶと、彼女の持っていた闇の書が浮き上がりページがめくられ、五つの光が闇統べる王を中心に集結した。そして五つの光は人の形にそれぞれ変化していった。


「!?そんな・・・・・バカな・・・・」


「何を驚く?この者達は元々我に付き従う僕たちであるぞ?」


 闇統べる王の呼び出した五つの人物を見たガイバーゼロの表情は変わらないように見えたが、強殖装甲に包まれた零の表情は驚愕していた。なんと闇統べる王の周りに現われた五つの光は、烈火の将シグナム、紅の鉄騎ヴィータ、風の癒し手シャマル、蒼き狼ザフィーラ、そしてリインフォースの姿をした闇の書の意志の古代ベルカの騎士達・・・・闇の書の騎士達であった。


「この空間に集められた闇の書の欠片たちの回収は既に大半済んでいる。それによって我はさらに完全な闇の王となることが出来るっ!!」


「何っ!?」


「さあ我が僕たちよ!我と究極の融合をせよ!!【ユニゾン・リンク】ッ!!」


 闇統べる王の叫ぶと同時にシグナム達は闇統べる王の下に集結し、さらに闇の書ですら闇統べる王の前にやってくる。そして闇統べる王の胸にシグナム達の姿はリンカーコアに変化し、闇の書と一緒に闇統べる王の体内へと吸収されてしまい、闇統べる王の足下に黒紫色の巨大なベルカ式魔法陣が出現する。


 零が知っているユニゾンは、夜天の主であるはやてと管制人格であり融合騎であったリインフォースと出来ない事しか知らない。そのユニゾンを闇統べる王は守護騎士と闇書の二つを体内に取り込んだのだ。


「以前の姿は闇の書のページを増やす為に糧にした魔法生物達の姿も含まれた不完全な姿だったが、今回のは闇の書の完成した姿による完全な融合・・・・・これこそ究極の融合だっ!!」


 闇統べる王の叫び声と共に彼女の姿は子供の姿から徐々に大人の姿へと変化していき、両腕にはシグナムと同じタイプの手甲が装備され、シュートヘアーの髪がロングヘアーになり、頭とお尻からは獣の耳と尻尾が生え、背中の六枚の翼はさらに大型に変化し、腰のマントはさらに大きくなった。その姿は闇を統べる女王とも言えるような姿【アルターモード・暗黒の闇】へとなった。


「こっ、これが・・・・闇の書の闇の完全な姿?なんという莫大な魔力の反応だ・・・・」


「その通り・・・・これこそ完全なる闇の書の闇・・・・・“深き闇は全てを飲み込む、我は漆黒、暗黒を司る混沌の化身”だっ!!」


 完全な闇の書の闇へとなった闇統べる女王の姿にガイバーゼロは思わず息を飲む。闇統べる女王はガイバーゼロを威圧するかのように魔力を放出し、その圧倒的な力を見せつける。


「さすがにこれほどの相手となると、こちらも切り札を出さなきゃ勝てそうに無いかもな・・・・」


「切り札?・・・・・・この姿となった我に勝る者が存在するとても言うのか?」


「忘れていないか?俺にはまだ【ギガンティック】という切り札があることをっ!来い!巨人殖装よっ!!」


 さすがの零も、完全な姿となった闇の書の闇に対抗するにはギガンティックになるしかないと考えた零は、コントロールメタルに異空間に待機している巨人殖装を呼ぶように念じると、ガイバーゼロの後ろの空間が揺らぎ始め、ギガンティックの収納されている大型のケースが出現した。


 ガイバーゼロの額のコントロールメタルがさらに光を放つと、巨人殖装のケースの蓋が開き、中から全長三メートルはいくかもしれない巨大な鎧が現われた。そして巨人の鎧はガイバーゼロを取り込むように包み込み、零の姿は闇の書の防衛プログラムとの最終決戦での姿である【ギガンティックゼロ】となった。






















































 遅くなりました第28話です!


 今回は今作のオリジナルとも言える(?)【アルターモード・暗黒の闇】という闇の書の闇がもし完全な姿になり、尚且つ闇の書を取り込んだらこうなるというなんともご都合主義全開の話となりました。完全体の姿は説明不足かもしれませんが、はやてをモデルに皆くっついたような姿と思ってください(説明になってねぇ~)


 これからも頑張って書いていくので、気長に宜しくです。それでは・・・・・





 



 



[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第二十九話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2010/10/03 19:16













 遂に闇の書の欠片を全て取り込んだ闇の書の闇の中枢を司る【闇統べる王】と呼ばれる【王】の理を持つマテリアルは、闇の書の闇に残っていた守護騎士システムの情報を使ってシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラを擬似的に呼び出し、さらには管制人格でもある闇の書の意志でさえも実体化させ、ガイバーゼロ一人に集団で攻撃してくるかとも思いきや、闇統べる王は本来融合騎としての機能を持つ闇の書の意志だけではなく、シグナム達守護騎士達をも融合騎として扱い、闇統べる王は全てをユニゾンさせた究極の姿・・・・【アルターモード・暗黒の闇】へと変貌した。


 暗黒を司る混沌の化身である暗黒の闇となった闇統べる王に対抗する為、零ことガイバーゼロは額のコントロールメタルを介して時空の狭間に待機している巨人殖装である【ギガンティック】を呼び出し、暴走した闇の書の防衛プログラム戦でも身に纏った【ギガンティックゼロ】へと殖装した。


 究極の暗黒の姿となった闇統べる王と、究極の破壊能力を持つギガンティックゼロ・・・・・二つの破壊をもたらす者達の戦いが今始まろうとしていた。


「なるほど・・・・そういえばそのような姿をして我の魔力砲撃を撃ち返しながら宇宙空間まで押し上げてくれたな。その力は我と同等か・・・・だが、今この満ち溢れんばかりの魔力に満たされた我に、貴様の力が通用するとでもいうのか?」


「同等かどうか、戦ってみれば分かる!!」


 闇統べる王は目の前にいる蒼き巨人の姿を見て、かつて自分が闇の書の防衛プログラムの暴走体でいた時の際に最後の反撃として放った自身の魔力砲撃を、ギガンティックゼロの巨人殖装の中でも一番の攻撃力を持つ【ギガスマッシャー】で撃ち返されながらアースラのいた宇宙空間へと押し出され、自身が消滅させられてしまったことを思い出し、ギガンティックゼロが自分と同等の能力を有していると思っていたらしい。


 しかしそれは“防衛プログラムの暴走体”という形だったからこその状態で、現在は闇の書の欠片が全て吸収しきった状態での完全なるユニゾンが完了した状態・・・・・闇統べる王はその身に満ち溢れてくる膨大な魔力に満面な笑みを浮かべながらギガンティックゼロを見る。


 ギガンティックゼロは、闇統べる王の不敵な笑みに力が同等かどうか戦ってみれば分かると言って闇統べる王を見据える。その様子に闇統べる王は「スゥ」と右手を上げると、黒紫色の球体が数十個単位で出現した。


「ならば・・・・我が力の前に平伏すがいいっ!!【シュワルべフリーゲン】ッ!!」


 闇統べる王はヴィータの持つ誘導系魔法である【シュワルベフリーゲン】を発動し、数十個単位の球体が一斉にギガンティックゼロに襲い掛かってきた。闇統べる王の攻撃に対し、ギガンティックゼロは額にある中央のヘッドビーマーと巨人殖装へとなったことで増設された左右の小型ヘッドビーマーを発射しながらこちらに向かってくる数十個単位のシュワルべフリーゲンを移動しながら撃ち落し、隙を見て闇統べる王に向けて反撃に出る。


 しかし闇統べる王も攻撃の最中にギガンティックゼロが反撃してくると踏んでいたのか、魔力障壁を展開させながらギガンティックゼロのヘッドビーマーの砲撃を防ごうとするが、ビームの一つが闇統べる王の障壁を突き抜けて彼女の背中の翼の一つに穴をあけた。


 ギガンティックゼロのヘッドビーマーは、左右に増設されたビーマーだけはガイバーゼロの時のヘッドビームと同等の威力を有しているが、中央のビーマーは左右のビーマーより威力が向上しており、恐らく闇統べる王の翼を撃ち抜いたビームは中央のビーマーだったのだろう。


「・・・・・・障壁を撃ち抜き、我が翼に傷を負わすとは・・・・だがこの程度の傷くらいで勝った気になるなっ!」


 自分の翼に傷を負わせたギガンティックゼロに「ニヤリ」と笑みを浮かべるが、彼女の黒き翼に穴を開いた部分は一瞬の内に修復されてしまった。そして闇統べる王は再び六枚の黒き翼を羽ばたかせながら両手を広げると、彼女の両手に見慣れたデバイスが出現した。


「あれは!?レヴァンティンにグラーフアイゼン!?」


「ふふふっ、烈火と鉄槌の二つの攻撃に耐えられるかな?」


 闇統べる王の傍に出現したシグナムのレヴァンティンとヴィータのグラーフアイゼンに驚くギガンティックゼロだったが、目の前にいる闇統べる王はシグナム達ヴォルケンリッターと管制人格であるリインフォースを取り込んだ融合体・・・・・・・


 そう考えるとシグナム達のデバイスを召喚するなどという事は造作も無い事らしく、闇統べる王は両手を前に突き出すとレヴェンティンとグラーフアイゼンを遠隔操作でギガンティックゼロに向かって動き出し、レヴェンティンは刀身に炎を纏いながら一直線に突っ込み、グラーフアイゼンはまるで高速で回転するファンのように回転しながらギガンティックゼロに襲い掛かる。


 ギガンティックゼロは突っ込んでくるレヴァンティンを背中のブーストを起動させて回避すると、移動先を先読みしていたかのように回転するグラーフアイゼンがギガンティックゼロの腹部に直撃し、強烈な痛みが体中を駆け巡った。


「うぐっ!!」


 腹部に受けたグラーフアイゼンのダメージは、まるでヴィータの【ラケーテンハンマー】の直撃を受けたかのような威力だった。さらに闇統べる王はグラーフアイゼンのダメージで動きを止めたギガンティックゼロに向かってレヴァンティンを遠隔操作で追撃を仕掛け、ギガンティックゼロの近くで刀身がバラバラになる【シュランゲフォルム】に変形し、連結刃がギガンティックゼロの巨体に巻き付いた。


「あぐっ!!」


 ギガンティックゼロの身体に巻き付いたレヴァンティンの刃が巨人殖装の装甲を締め上げるように「ギリギリ」と食い込み始め、強殖細胞で構成された装甲に突き刺さっている個所から鮮血が出血しだした。


「ふははははっ。どうした、貴様の力はこの程度なのか?」


「くっ、これくらいで・・・・巨人殖装を舐めるなっ!!」


 ギガンティックゼロに一撃を加えたグラーフアイゼンを手元に戻し、嘲笑う闇統べる王にギガンティックゼロは両腕の高周波ソードを展開させてレヴァンティンの連結刃の繋ぎ目を切断して拘束から逃れる。刀身を繋いでいた線が切れたことで、レヴァンティンの刃は完全にバラバラになって柄の部分だけになってしまった。


 その隙を突いてギガンティックゼロは背中のジェットを噴かして高速で闇統べる王に向かって接近戦を仕掛ける。その動きに闇統べる王は手元に戻していたグラーフアイゼンを再びギガンティックゼロに向けて投げつけて迎撃しようとするが、ギガンティックゼロは迫ってくるグラーフアイゼンの動きを見切りながら回避し、闇統べる王に攻撃を仕掛ける。


「はぁぁぁぁっ!!」


「むう!!?」


 ギガンティックゼロは闇統べる王に向かって左拳に重力エネルギーを溜め込んだ左ストレートを突き出すが、闇統べる王はギリギリのところで右に向かって回避する。しかしギガンティックゼロは右拳にも重力エネルギーを溜め込んでいた為、闇統べる王に追い討ちをかけるように右腕を振りかぶった。


「コレならどうだっ!!」


「やめて、零兄ぃっ!!」


「うっ!?」


「ふっ、甘いわ!!【アロンダイト】」


 重力エネルギーを溜め込んだ【グラビティナックル】を闇統べる王に向けて放とうとしたギガンティックゼロだったが、突然「零兄ぃ」と叫んだ闇統べる王の声に振り被った右拳の動きを止めてしまった。動きを止めたギガンティックゼロに闇統べる王は「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべ、ギガンティックゼロの胸部に右手を当てると急速に魔力を集束させて砲撃魔法である【アロンダイト】をゼロ距離で放ってきた。


「うわぁぁぁぁっ!!!!」


 ゼロ距離で放たれた【アロンダイト】の砲撃をモロに受けてしまったギガンティックゼロは、胸部装甲に大ダメージを負ってしまった。さらに闇統べる王は左手を天に掲げると数十個の黒紫の球体が周囲に出現し、一つにまとまると巨大な球体へと変化した。


「くらえっ!!【コメートフリーゲン】ッ!!」


 闇統べる王がギガンティックゼロに向けて投げつけた巨大な球体は、まるで隕石のように動きを止めてしまっているギガンティックゼロに追撃をかけた。迫りくるコメートフリーゲンの存在に気づいたギガンティックゼロは、両肩のエネルギーアンプの重力エネルギーを使用して自身の周囲にバリアを展開させてコメートフリーゲンを防ごうとした。


 ギガンティックゼロの重力バリアと闇統べる王のコメートフリーゲンが互いにぶつかり合うと大爆発を起こし、周囲に爆煙が巻き起こる。巻き起こった煙を闇統べる王が眺めていると、徐々に煙が晴れ、そこにはバリアを張りつつも体中傷だらけになったギガンティックゼロの姿があった。


「くくくっ、まさかあのような言葉で攻撃の手を緩めるとは・・・・・貴様も随分甘いようだな・・・・」


「くっ、はやての真似事に動きを止めてしまうとは・・・・・」


 攻撃の手を緩めたギガンティックゼロを嘲笑う闇統べる王に対し、ギガンティックゼロは闇統べる王が言った時の顔が、自分を兄と呼ぶはやての顔に一瞬見えてしまい、攻撃を躊躇ってしまったのだ。


 さすがの零も、普段から一緒に生活している八神家の面々・・・・その中でも命の恩人であり、記憶の無かった自分に居場所をくれたはやてのことを誰よりも大事に思っている。だが闇統べる王は、オリジナルであるはやての姿をしている事を利用し、はやての真似事をしてこちらが攻撃するのを躊躇させたのだ。


 自分が大事と思っている人を利用した闇統べる王に対し、零の心の中には只ならぬ怒りがこみ上げてくるが、さすがの巨人殖装を纏っている零自身も、ゼロ距離からの砲撃魔法【アロンダイト】によるダメージや、今までの雷刃の襲撃者と星光の殲滅者との連戦によって蓄積されたダメージも重なって息切れを起こし始めていた。


 その間にも闇統べる王は柄部分のみとなったレヴァンティンを手元に戻し、レヴァンティンに向けて手をかざすと、なんとレヴァンティンの刀身部分が自己修復されてしまった。


「見るがいい!いくらデバイスを破壊しようと、我の身体を駆け巡る膨大な魔力がある限り貴様に勝利は無い!!」


「くっ・・・・・」


 闇統べる王の膨大な魔力はギガンティックゼロの頭部に増設されたヘッドセンサーが既に感知していた。闇統べる王の内包している魔力は零の知っている魔導師の魔力を完全に超えてしまっていた。だが・・・・・


(おかしい・・・・彼女の魔力が少しずつだが外に漏れている・・・・?でもすぐに魔力が元に戻っている・・・・一体どういう事だ?)


 ヘッドセンサーで解析した闇統べる王の魔力反応を見てみると、どういう訳か闇統べる王の身体から魔力が消費されつつも、すぐに消費した魔力が元に戻るという事を繰り返していた。


(まさか今の闇統べる王は、ユニゾンを維持させる為に魔力を随時消費しているのか?だとしたら・・・・・)


 零は守護騎士と管制人格との究極のユニゾン形態を維持するに、闇統べる王は大量の魔力を消費しなければならないと思い、今度は彼女ではなくこの空間全域にヘッドセンサーを向けてみた。するとヘッドセンサーが解析結果が零の頭に届いた。


(これは・・・・空間内に膨大な魔力が漂っている!?まさかこの空間全体が魔力の満ちた箱の中みたいな状態なのか・・・・・!?)


 ヘッドセンサーの解析結果を知った零の脳裏に星光の殲滅者との戦闘中、彼女の魔法攻撃の威力が徐々に向上していっていた事を思い出した。そのことを考えると星光の殲滅者の攻撃力上昇の理由は空間内の魔力を吸収していたからではないかと考えた。


「ほう、どうやらこの空間の特徴を理解したようだな。だが、それを知ったところで貴様にはこの空間を破壊する術はないだろう」


「何!?」


「この空間は我が空間系の魔法を併用させて作り上げた物だ。つまり何処へ攻撃を仕掛けようともメビウスの輪の如く無限回廊となっている・・・・故に破壊する事も脱出も不可能だっ!!」


 ギガンティックゼロの様子を見てこの空間の事に何か気づいたと感じた闇統べる王だったが、今存在しているこの特殊結界を破壊する事は不可能だと宣言する。その理由はこの特殊結界は無限に場所をループするメビウスの輪のような構造になっているようで、何処に向けて攻撃を仕掛けようとも空間内を移動するだけで決して外へ向かっているわけではなく、同じ空間をただ往復するだけ・・・・・・・・・


 しかもこの空間内が魔力に満ちている状態だというのなら、闇統べる王のダメージやデバイスなどの破損個所などの修復に魔力を消費させて行なっているのなら、強殖装甲のようにコントロールメタルが存在している限り、強殖細胞が破損個所を自己修復するように、闇統べる王も魔力がある限り、破損個所の自己修復を無限に行なえるという事になる。


「さあ、この状況で貴様はどうやって我を倒す気だ?ここには管理局も貴様の仲間の裏切り者の騎士達・・・・そして我を捨て去った出来の悪い小娘と出来そこないに成り果てた哀れな融合騎すらもいなのだぞ?」


「っ!!」


 闇統べる王の言った言葉の中に含まれていた管理局はなのはやフェイト、そしてリンディやクロノ達の事・・・・裏切り者の騎士達とはシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの事・・・・そして出来の悪い小娘と出来そこないの融合騎というのははやてとリインフォースの事・・・・


「皆を・・・・リインフォースを・・・・・はやてを・・・・出来そこないなんて、言うなぁぁぁぁぁぁっ!!」


 はやて達を罵倒する闇統べる王の言動に、ギガンティックゼロは拳に力を込めながら闇統べる王に向かって猛スピードで突っ込んでいった。



















___________________________



















 闇の書の欠片の集まっている場所を突き止めたはやてとリインフォース・・・・そして闇の書の防衛プログラムが潜んでいるだろう地点に集合したシグナム達守護騎士の面々、そして管理局からの応援で駆けつけたなのは、フェイト、クロノの三人。


 しかし合流地点には何も無く、リインフォースが言うには“空間系の魔法を併用させて作り出した特殊な結界”のせいで魔力反応はおろか、目視でも確認する事が出来ない状況でその場にいた全員がどうするか考えていると、突然ヴィータが「空の一部が変」と言って空を指差し、全員がヴィータの指す先を見上げてみると、空の一部にまるでガラスにヒビが入ったかのように小さな黒い亀裂が出来ていた。


「あれは・・・・何であんなところに亀裂が?」


「まさか・・・・」


「あっ、リインフォース?」


 空の一部に入った謎の亀裂・・・・・はやては何だろうと考えているとリインフォースが突然亀裂の方に飛び、はやて達もその後を追う。リインフォースは空に出来た亀裂に近づいて手をかざして目を瞑ると、足下にベルカ式の魔法陣が展開された。


「・・・・・・・・」


 リインフォースは黙ったまま亀裂に手をかざし続けていると、暫くした後魔法陣も消え、リインフォースははやて達の方に振り返った。


「この場所から僅かですが魔力が漏れてきています。しかもこの魔力は闇の書の防衛プログラムのものです」


『ええっ!?』


「ってことは、この亀裂の向こう側に零兄ぃがいるってわけやな!!ようこの亀裂を見つけてくれたな、ヴィータ!!」


 リインフォースの言葉に驚く面々だったが、はやては亀裂の向こう側に零がいると確信し、特殊結界へと繋がる僅かな亀裂を見つけたヴィータの頭を撫でてあげると、ヴィータは「えへへ」と笑顔を見せた。


「それでリインフォース、この亀裂を大きくする事が出来るのか?」


「・・・・・主はやてと高町なのはとテスタロッサの三人に我々の魔力を合わせてぶつければ亀裂を大きく出来るかもしれないが、この亀裂から漏れ出している魔力は僅かでも高濃度の魔力だ・・・・・うまく撃ち破れるかどうか・・・・・」


「悩んでいても始まらないわ。はやく零さんを助けなくちゃ!!」


 シグナムはリインフォースに亀裂を大きくして内部に進入できるのかと問い掛けると、亀裂から漏れ出している魔力は大気中に存在している魔力より高濃度なものであり、普通の魔力をぶつけたくらいでは破れるかどうか分からないと話す。そんな中シャマルは「悩んでいてもしょうがない」と言って特殊結界の中で一人で戦っている零を早く助けようと言う。


 リインフォースは皆に亀裂を大きくする手段を説明し、なのはとヴィータとシャマルは左方向へ移動し、フェイトとシグナムとザフィーラは右方向へ行き、そしてはやてはリインフォースと上方向へとの傍に移動すると、丁度三角形の形になった。


 作戦はこうだ・・・・・まずシグナム達ベルカ組の魔力をそれぞれ担当するなのはとフェイトの二人に供給し、二人の魔力を底上げする。その後はやてとリインフォースの二人で空間系の魔法を亀裂の直線上に位置する場所に設置した後、なのはとフェイトの二人が威力のある砲撃系の魔法をはやてとリインフォースの設置した魔法にぶつけて、さらに集束させてピンポイントで攻撃する・・・・・というものだった。


 さすがに急ごしらえの方法・・・・・しかもミッド式とベルカ式を混合させた魔法が果たしてうまくいくのか不安が残ってはいたが、僅かに見える特殊結界の亀裂をピンポイントで高威力魔法を当てるにはこの方法しかなかった。


「ほんなら、いくで皆っ!!」


『おう!!』


 はやての声に皆が答えると、さっそく準備が開始された。なのははレイジングハートをシューティングモードに切り替えカートリッジを使用して砲撃の準備に取り掛かり、ヴィータとシャマルはなのはの肩に手を置いて自身の魔力をなのはに送り始める。


「なのはちゃん、お願いしますね」


「にゃのは、ミスしたりしたら許せねぇからなっ!!」


「分かってますよ、シャマルさん。あとヴィータちゃん、私は“にゃのは”じゃなくて“なのは”だよ!!」


「あっ、また言っちまった・・・・って!いいんだよ、今は細けぇことはっ!!」


 砲撃を担当するなのはに話し掛けたシャマルとヴィータだったが、なのはは自分の名前を言い間違えたヴィータにツッコミを入れるが「細かい事はいい」と騒ぎ出してしまい、シャマルはそんな二人にオロオロし出してしまった。


「頼むぞテスタロッサ、零を助ける手を貸してくれ」


「我らの魔力を貸し与える」


「大丈夫です。きっと零さんを助け出して見せます!!」


 フェイトの肩に手を置いたシグナムとザフィーラはそれぞれ零を助けてほしいと頼み、フェイトも二人の頼みを聞き入れ、手にしたバルディッシュを構え、カートリッジを使用してミッド式の魔法陣を展開させて準備に取り掛かる。


「リインフォース、私らも準備に取り掛かるでっ!!」


「はい、我が主。必ず零を助け出しましょうっ!!」


 はやてとリインフォースは零を助ける為にお互い気合を入れ、足下にベルカ式の魔法陣を展開させると、亀裂のある位置から少し離れた位置になのはとフェイトの放つ砲撃魔法をさらに集束させるために、はやての【クラウソラス】とリインフォースの【ハウリングスフィア】を合わせて作成した特殊スフィアを設置する。


「よ~し、皆!準備はええか?」


「こっちは準備完了っ!!」


「こっちも準備できたよ!」


「なら・・・・いくで!皆っ!!」


 はやての掛け声になのはとフェイトが答える。そしてなのはは十八番とも言える砲撃魔法【ディバインバスター】を放ち、フェイトは砲撃魔法【プラズマスマッシャー】をはやてとリインフォースが生み出した特殊スフィアに向かって放ち、桃色の閃光と金色の雷光が特殊スフィアに吸収された。


 さらにスフィア内で二つの閃光が混ざり始め、はやてはシュベルトクロイツを握り締めてリインフォースと共に特殊スフィア内のなのはとフェイトの魔力をうまく混ぜ合わせれるように集中し、その様子をなのは達は静かに見守っていた。


「主、魔力の精錬が完了しました」


「よし、ほなら行くでぇぇぇぇぇっ!!」


 リインフォースの報告に、はやてはシュベルトクロイツを・・・・リインフォースは手を突き出すと、特殊スフィアからなのはの【ディバインバスター】とフェイトの【プラズマスマッシャー】が混ざり合った閃光が渦を巻いて発射され、特殊結界の亀裂に向かって直撃し大爆発を起こした。


 爆発を起こしたことで発生した爆煙が吹いてきた風によって流され、亀裂がどうなったか確認できるようになった。


「そんな・・・・・」


「バカな・・・・」


 亀裂を確認したその場の全員は驚きの表情を浮かべた。確かに特殊スフィアで精錬された魔力砲は亀裂に直撃はしたが、先程の亀裂が若干広くなった程度に留まっただけで、とても中に入れる幅にも満たない状態だったのだ。


「みんなの力を合わせても少ししか開かないなんて・・・・・」


「・・・・・皆、もう一度や・・・・」


「えっ?」


「もう一回やって、それでも駄目ならもう一回!何度も撃ち込めば撃ち抜ける筈やっ!!」


 この場にいる全員の魔力を合わせ、さらに集束させてピンポイントで砲撃したにもかかわらず、亀裂を撃ち破れず少し亀裂を広げた程度に留まった事を悔やんでいる中、はやてだけは諦めずにもう一度特殊スフィアを作ろうとし始めた。その姿を見たリインフォースも再び特殊スフィアの作成に魔法陣を展開させた。


「リインフォース?」


「主の言う通りです。撃ち抜けなくても、何度でも繰り返していけば必ず撃ち破れますっ!それまで私も諦めません、闇の書の意志だった私に何度でも攻撃されても諦めずに私を止めようとしてくれた零の為にもっ!!」


 リインフォースはかつて自分が闇の書の意志として活動していた時、ギガンティックゼロとなった零は自分に攻撃をされ続けていたのにも関わらず、自分を助けようと必死になってくれたことを思い出していた。故に彼女は自分を助けてくれたように今度は自分が零を助けようとしていた。


「フェイトちゃん、私達ももう一回!!」


「うんっ!」


「よし、なら今度はこちらもカートリッジを使用して魔力を送り込もう。少しは足しになるはずだ」


「おっしゃ!!行くぜ、アイゼン」


 はやてとリインフォースの姿を見て、なのはとフェイトは再び砲撃の準備に取り掛かり、シグナムとヴィータも今度はレヴァンティンとグラーフアイゼンに装填されているカートリッジを使用した魔力をなのはとフェイトに送り込み、シャマルとザフィーラも再び魔力を送り始める。


 そして再びなのはとフェイトの放った砲撃魔法を、はやてとリインフォースが作り出した特殊スフィアに注ぎ込んだが、さすがに今度はシグナムとヴィータの分のカートリッジ分も含まれた魔力であるため、スフィア内の魔力をうまく精錬するのにかなり困難を極めた。


「く、うううう・・・・・」


「主、大丈夫ですか!?」


「こんくらい平気や・・・・中にいる零兄ぃはもっと大変なことになってるかもしれんのやから・・・・」


 さすがにまだ魔導騎士になったばかりのはやてには膨大化した魔力を制御するには負担が大きすぎたのか、苦しそうな表情を浮かべていた。そんなはやてにリインフォースは不安そうに声を掛けるが、はやては「平気」と言ってシュベルトクロイツを握る手にさらに力を込めた。


「主、魔力の精錬完了しました!!」


「よし・・・・行くで、リインフォース!!」


 精錬に息を切らしつつもはやてはリインフォースと共に再び亀裂に向かって特殊スフィアから魔力を放出させた。



















______________________________



















 特殊結界内でギガンティックゼロと闇統べる王は激しい戦闘を繰り広げていた。闇統べる王が行なったはやての真似をしてギガンティックゼロの攻撃に躊躇させ、さらにはリインフォースやシグナム達、さらにははやてのことを馬鹿にしたことに激怒し、ギガンティックゼロは闇統べる王に向かって突撃を仕掛けていた。


 背中のジェットを噴射させたギガンティックゼロはヘッドビーマーからヘッドビームを連続発射しながら闇統べる王の右側から回り込むように背後に移動し、攻撃を仕掛けようとした。しかし何故か闇統べる王は魔法障壁を展開させてその場から動かないでいた。


「もらったぁぁぁぁっ!!」


「ふっ、甘いわ!塵芥風情が!!」


 背後に回りこんだギガンティックゼロは闇統べる王に鉄拳をお見舞いしようとした時だった。不敵な笑みを浮かべた闇統べる王のお尻から生えている尻尾の先端が二つに割れ、そこから狼のような鋭い牙を生やした姿へと変化して襲い掛かってきた。


「ザフィーラッ!?」


 ギガンティックゼロに襲い掛かってきたのは闇統べる王の尻尾が変化した狼モードのザフィーラだった。狼モードのザフィーラはギガンティックゼロの左肩に向かって噛みついてきた。


「ぐわぁぁっ!!」


「ふっ、貴様の行動パターンは既にお見通しだ・・・・それにこの空間内では我の背後を取ろうとも、何処に誰がいるのかはすぐに分かるのだ」


 左肩を噛まれているギガンティックゼロの姿を見ている闇統べる王は、余裕の表情をして空間内では自分を出し抜く事など不可能だと断言する。左肩の痛みに耐えつつ、左腕の高周波ソードを展開させて狼モードのザフィーラの首を切断して闇統べる王から一旦離れた。


 高周波ソードで切り落とされたザフィーラの首はそのまま砂のように消滅したが、闇統べる王の尻尾は既に周囲の魔力を吸収して復元されていた。ギガンティックゼロの身体は既にボロボロになり、これ以上戦闘が長引けばこっちが不利になると考えた零だったが、突然額のデュアルコントロールメタルが光を放ちだした。


(!?何だ・・・・・何でコントロールメタルが?)


(・・・・・来い、巨人殖装よ・・・・)


(えっ!?まっ、待て・・・・今殖装を解除されたら・・・・・っていうか一体誰が!?)


(こっちに来い!!ギガンティックよっ!貴様の真の主である俺の下に!!)


「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 零の頭の中に突然誰かの声が聞こえ始め、今自分が殖装している巨人殖装を呼び出そうとしていた。しかし零の叫ぶも虚しく、突然巨人殖装がひとりでに零から引き剥がされ、ケースに収納された巨人殖装は次元の狭間へと消えていってしまった。これにより、零はギガンティックゼロからガイバーゼロへと戻ってしまった。


「そっ、そんな・・・・一体どうして・・・・」


「むっ?また小さいのに戻ったな・・・・一体何の真似だ?まあいい、元に戻ったからといって手加減する気など無いからなっ!!【ドゥームブリンガー】!!」


 突然のギガンティックの殖装強制解除・・・・・状況が不利だった零の状況をさらに悪化させる結果になってしまった。その突然の状況に零は唖然としてしまい、闇統べる王の放ってきた【ドゥームブリンガー】の攻撃をまともに喰らってしまった。


 まともに攻撃を受けてしまったガイバーゼロは何とか体勢を整えつつ反撃を仕掛けようとするが、ギガンティックよりスペックの劣るノーマル状態のガイバーゼロでは究極の融合を果たした闇統べる王に対抗できるわけも無く、威力の落ちたヘッドビームもチャージ時間の無いプレッシャーカノンでも闇統べる王の魔力障壁すら破る事も出来ず、逆に【エルシ二アグダガー】と【シュワルベフリーゲン】の四方八方から襲い掛かってくる誘導弾の反撃に、ガイバーゼロは回避するのが精一杯になってしまい、闇統べる王の接近を容易に許してしまった。


「ふん、巨人では無い状態でこれほど弱くなるとは・・・・・やはり貴様は塵芥だわ!!【牙獣走破】ッ!!」


「がはっ!!」


 接近してきた闇統べる王はガイバーゼロの腹部に強烈な蹴りを繰り出してきた。その強烈な蹴りはガイバーゼロの内蔵まで達し、肋骨も数本折られるほどのダメージを受けてしまい、ガイバーゼロの頬の通気口部分から大量の血が噴出し、突き飛ばされてしまった。


「ふっ、まだ続くぞ!!炎の魔剣よ我が下に・・・・受けよっ!【飛竜一閃】ッ!!」


「うわぁぁぁぁぁっ!!!」


 ガイバーゼロを蹴り飛ばした闇統べる王は、追い討ちをかけるかのようにレヴァンティンを呼び出し、シグナムの剣技の一つである【飛竜一閃】を繰り出し、巨大な火柱がガイバーゼロ目掛けて直進し、先程のダメージで動く事の出来ないガイバーゼロに直撃してしまう。


 闇統べる王の熾烈な攻撃にノーマル状態のガイバーゼロでは太刀打ちできず、遂にはガイバーゼロは全く動かなくなってしまった。


(くそ・・・・・体が動かない・・・・このままでは・・・・・・・ん?・・・・あれは・・・・)


 体が動かず、ただ浮いている同然になってしまったガイバーゼロは空間内の上空に何か光が差し込んできている場所が目に入った・・・・・・・・・・


































 どうも第29話完成・・・・・・


 いや~お待たせして申し訳ありません。
仕事の忙しさに加えてスランプに陥ってしまった京橋です。


 仕事の合間になの×ガイバーのことをどう書いて行こうかと思い悩んでいる中、せっかく思いついても仕事の疲れで自宅に戻ってもすぐに寝てしまう事が続き、遂にはスランプになって、更新に一ヶ月近くたってしまいました・・・・・


 しかしそれでもちょくちょく書いていっているのでどうか温かい心でお待ちいただければと思っています。それでは・・・・・




 何やら他の作者さんでなの×ガイバーを書いていらっしゃる方がロストナンバーズのネオゼクトールのオリ主を書いているみたいですね。



[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第三十話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2010/12/03 22:19

















 闇統べる王とギガンティックゼロ・・・・・究極の破壊能力を持つ二人の存在はお互いに激しい戦いを繰り広げていた。だが戦いの最中、突然何者かの介入によって零が纏っていた巨人殖装は強制解除されてしまい、ガイバーゼロに戻ってしまった。


 何故巨人殖装が強制解除されてしまったのか困惑し、巨人殖装を呼び戻そうとしたが、何度呼びかけてもギガンティックは戻ってこなかった。そんな零に、闇統べる王は容赦なく攻撃を仕掛け、ノーマル状態のガイバーゼロの防御力では太刀打ちできず、文字通り完膚なきまでにボロボロにされてしまった。


 そんな中、ふと見上げたガイバーゼロの視界に黒い空間の中に僅かな光が漏れているのに気づいた。


(あっ・・・・あれは・・・・空間に亀裂が・・・・入っている?)


 確かに空間の一部に少しながら亀裂が入っており、ガイバーゼロのヘッドセンサーがそこからこの空間に漂っている魔力とは違う別の魔力が流れ込んでいる事をヘッドセンサーが感知した。


(この魔力は・・・・・はやて?それにリインフォースの魔力・・・・いや、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・・・それだけじゃない・・・・なのはちゃんにフェイトちゃんの魔力も感じる・・・・・)


 ヘッドセンサーが感知した魔力反応は、はやてやリインフォース、他にもシグナムやヴィータ、シャマルにザフィーラの魔力も感じ、さらにはなのはとフェイトの魔力も感知した。


『零兄ぃ!!聞こえる!?零兄ぃっ!!』


「はっ、はやて・・・・か・・・・?」



















_______________________________




















 特殊結界の亀裂であろう場所を見つけたはやて達は、全員の魔力を用いて特殊結界に穴を開けようとしていた。しかし最初の一撃では亀裂の幅を僅かしか広げる事が出来ず、なのはやフェイトは特殊結界の強度に度肝を抜かれていた。しかしはやては「一回で無理なら何度でもやるだけ!!」と言って皆に激励を送り、リインフォースも闇の書の意志であった頃に必死になって助けようとしてくれた零への恩を返すために立ち上がり、はやての激励になのは、フェイト、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラも立ち上がり、再び特殊結界の亀裂を広げようと魔法攻撃を繰り返していた。


 魔法砲撃で亀裂にダメージを与えて広げようとしている中、はやては亀裂が広くなっていけば、念話を使って内部にいる零と交信できないだろうかと思い、零に向かって念話を試していた。


「零兄ぃ!!聞こえる!?零兄ぃっ!!」


『はっ、はやて・・・・か・・・・?』


「零兄ぃ!?零兄ぃなんやねっ!!」


 念話で聞こえてきた零の声に、はやては零が生存していたことを大声で叫ぶと、この場にいた全員が一斉にはやての方を見る。するとリインフォースもシグナム達も一斉に目を瞑って零に念話を送り始める。


「零!!大丈夫なのか!!?」


「零さん、無事ですかっ!!?」


『まあ、何とかというか・・・・・かなり不味い状況だ・・・・』


「不味い状況だって!?」


 零に念話を送ったシグナムとシャマルの声に零は苦しそうな声で返事を返す。その声にヴィータが心配そうな声で返事を聞き返すと、零は今までの経緯を皆に簡単に説明した。


 その内容は零がシグナムとの通信が切れてしまってから、なのはソックリの【理】を司る星光の殲滅者に襲われたこと、そして今現在はやての姿ソックリな【王】を司る闇統べる王が出現し、彼女はシグナム達を擬似的に生み出して融合してしまった事を話し、緊急事態として巨人殖装である【ギガンティック】を召喚して戦いを挑んだ事を知らせた。


「何っ!?我らとそのマテリアルがユニゾンをしただと!?」


「そっ、そんなことが出来るんですか!?」


「・・・・可能だと思います。元々守護騎士プログラムも闇の書の機能の一つだったですから・・・・いえ、そのユニゾンこそが闇の書の本当の姿とも言えるのではないでしょうか・・・・」


 自分達のコピーであっても、融合騎ではない守護騎士がユニゾンできるのかとザフィーラは驚きの声を上げ、なのはもリインフォースにユニゾンが可能なのか問い掛けると、元々守護騎士プログラムであるシグナム達も闇の書の一部であるが故に、闇統べる王は闇の書そのものへとなってしまったのだとリインフォースは説明する。


 ギガンティックゼロとなった零は闇統べる王と激しい戦闘を繰り広げていたが、戦闘の最中に殖装していたギガンティックが突然強制的に殖装が解除されてしまい、ノーマル状態のガイバーに戻ってしまった。そうなった事で戦況はかなり不利な状態になり、現在ボロボロの状態で空間を漂っていると説明した。


「そっ、それじゃあ、はやく零さんを助けないと!!」


「だが、この亀裂を破らない限り内部に入る事も出来ないし、仮に入れたとしても我々の力で完全に力を取り戻した闇の書に勝てるのか?」


「それに関しては大丈夫だと思う。完全体となった闇の書だが、零の話によればこの特殊結界内には膨大な魔力が満ちており、闇の書が今のユニゾン状態を維持するのにも利用しているという事は、この結界を破壊する事が出来れば彼女をマテリアル体に戻す事が出来る筈だ」


 完全に零の状況が不利なんだと理解したフェイトは早く助けようと言うが、シグナムは特殊結界に入れたとしても、完全な存在になってしまった闇統べる王を倒す事が出来るのかと不安を感じてしまっていた。


 しかしリインフォースは、零がガイバーのヘッドセンサーで解析した特殊結界内に膨大な魔力が漂っている事と、闇統べる王が受けたダメージや損傷などはその空間内の魔力を消費させて自己修復しているという情報を聞かされていたため、目の前にある特殊結界を破壊もしくは消滅させる事ができれば、闇統べる王はユニゾン状態を維持できなくなり、ユニゾンを行なう前の元のマテリアル体に戻す事ができると推測していた。


「とりあえず、そのマテリアルへの対処は良いとして、問題はこの結界を破壊できるかどうかという事だな・・・・・・」


「でも、アタシらの魔力も今までの砲撃で随分使い果たしちまった・・・・・マテリアルを相手にすんだったら、良くてあと一撃加えるくらいの魔力しか残ってねぇよ・・・・」


 闇統べる王への対抗策はできあがったが、特殊結界を何とかしない限り闇統べる王を倒す事も零を助ける事もできない・・・・・しかも亀裂を広げる為に魔法砲撃を繰り返していたため、皆の魔力は殆ど残っていない状態で、結界破壊後に戦うであろう闇統べる王を相手にするとなると、次に砲撃を撃ったら全員の魔力が空になってしまうほどになってしまっていた。


『だったら・・・・俺に考えがある・・・・・』



















_____________________________



















「だったら・・・・俺に考えがある・・・・・」


 外の状況を聞いていた零は、亀裂に強い衝撃を与えればこの特殊結界を破壊する事が出来るかもと思い、外にいるはやて達にコントロールメタルを介して連絡を取った。


『考えって、どんな考えなん、零兄ぃ?』


「・・・・はやて達の砲撃と俺のプレッシャーカノンを亀裂に向かって同時に衝撃を与えれば、結界を撃ち破れるかもしれない・・・・」


『確かガイバーのプレッシャーカノンは重力を利用した武装だったな。なるほど・・・・重力の塊が魔力の衝撃を受ければ膨大な爆発力を生む事が出来るかもしれない』


 零の提案した考え・・・・それは腹部にあるグラビティコントローラーの重力制御装置の機能を利用したガイバーの武装の一つである【プレッシャーカノン】と、特殊結界の外にいるはやて達となのはとフェイトの魔力を一つにした魔力砲撃を同時に結界の境界線にできた亀裂にぶつける事で特殊結界を破壊するというものだった。


 しかしこの提案には不安要素が高すぎる作戦とも言えた・・・・・それは二つのエネルギーをほぼ同時に境界面に出来た亀裂に衝撃を与えなければならない事・・・・そして亀裂の存在を闇統べる王に悟らせない事・・・・この二つの条件をクリアしないと元も子もない。


 だが現在、完全な存在になってしまった闇統べる王に対し、ギガンティックでようやく互角にやり合うことができていた零だったが、今のガイバーゼロには巨人殖装を殖装する事が何故か出来ない・・・・・・・


 この条件下の中で、はやて達の砲撃魔法及びガイバーゼロのプレッシャーカノンのチャージが完了するまで闇統べる王の熾烈な攻撃を掻い潜れるのか・・・・かなり分の悪い賭けだった。


『だが、それしか方法がないのならそれに賭けるしかない・・・・零、こちらの準備が整うまで何とか耐えてくれ』


「ああ、自分で提案した作戦だ・・・・・何とか持ち応えて見せるっ!!」


『零兄ぃ、気をつけてねっ!!』


 分の悪い賭けであろうと、今考えられる特殊結界を破壊する為にはこの方法しかないと言う零に、シグナムとはやては激励を送った。その声に零は痛む身体を必死に動かしながら闇統べる王と向き合う。


「どうした塵芥、巨人の姿から随分貧相な姿になってから弱くなったな。だが、どんな姿になろうと、貴様を倒す事には変わりはない!!」


「くっ!」


 闇統べる王は攻撃の手を緩めることなくガイバーゼロへと攻撃を開始し、対してガイバーゼロはグラビティコントローラーを起動させて上下左右へと移動しながら両手の手の平を前に出すと、手の平の中に重力の塊である【プレッシャーカノン】のチャージを開始した。


 しかしこのプレッシャーカノンは、ガイバーの武装の中でもチャージした時間によって威力が変わる武器で、少しのチャージでも生身の人間の腹部などに当たれば簡単に抉り取る事が可能である。だが、この特殊結界の亀裂を破る為には、はやて達側の放つ魔力砲撃を受けて大爆発を起こすほどの威力を持ったプレッシャーカノンを放つにはかなりのチャージが必要になった。


「どうしたどうした?逃げるだけではどうにもならんぞっ!!」


 敵に背を向けて動き回るガイバーゼロに、闇統べる王はガイバーゼロを追いかけながらシュベルトフリーゲンの魔力弾を数十個単位でガイバーゼロを囲むように四方八方から襲い掛かるが、ガイバーゼロは身体を捻らせながら幾つか回避し、回避が出来ない魔力弾へはヘッドビームで対応しようとするが、ギガンティックの三つ分のヘッドビームと違って、ノーマルガイバーのヘッドビームは一つ分・・・・・一つずつ撃ち落そうとしても到底対応が追いつけるわけがなく、いくつかはガイバーゼロに直撃してしまう。


 シュベルトフリーゲンの直撃で起きた爆発で発生した煙の中から飛び出したガイバーゼロは装甲中傷だらけになってしまっていたが、それでもプレッシャーカノンのチャージは続けていた。


(くっ、もう少しでチャージが完了する・・・・・はやて達はどうなっているのだろう?)


 闇統べる王の攻撃で受けた痛みに耐えながらも結界の外にいるはやて達の状況がどうなっているのか気になっていた。その頃、結界の外にいるはやて達は再びなのはとフェイトにヴィータとシャマル、シグナム、ザフィーラの魔力を受け取り、二人の魔力をはやてとリインフォースが特殊スフィアに集め、一つにする。


 それでも度重なる無茶な魔力合成は、まだ魔導師になったばかりのはやてにとって負担が掛かっていたが、“零を助けたい”という意志の強さがはやてを奮い立てた。


「主はやて、こちらは準備完了です!」


「よし・・・・中にいる零兄ぃに連絡や!!零兄ぃ、こっちは準備完了やで!!」


 特殊スフィアに内包された魔力の精錬が完了した事をはやてに伝えたリインフォースの声に、はやては頷きながら零に念話を送った。特殊結界の内部では、はやて達のことを気にかけつつ闇統べる王の攻撃をガイバーゼロは必死に回避続けていた。そんな時、ガイバーゼロのコントロールメタルが光だし、零の頭の中にはやての声が聞こえ出した。


『零兄ぃ、こっちは準備できたで!そっちはどうや!?』


「こっちもチャージ完了だ!今から亀裂付近に移動するから待っててくれ!!」


 はやてからの念話を受けたガイバーゼロは、回避しつつ移動し続けていたことによって亀裂のある場所から離れてしまっていた。ガイバーゼロはヘッドセンサーで亀裂のあった場所を探し出してそこに向かって移動を開始した。


「また逃げるか、いい加減に・・・・・ん、何だ?魔力の流れが一部妙な方向に流れ出ている・・・・だと?」


 そんな中、闇統べる王は再び移動を開始したガイバーゼロを追いかけようと移動しようとした時、突然動きを止め、何かに気づいたような素振りで何かを探し始めた。するとふと上方部の方角を見上げた闇統べる王の目のあるモノが見えた。


「あっ、あれは!?あんなところに亀裂だとっ!?」


 闇統べる王が目撃したのは、特殊結界の空間内にできていた一筋の亀裂だった。亀裂を見た闇統べる王は何故空間内に亀裂が起きているのか疑問に思っていたが、思い当たる事が脳裏に浮かんだ。


 それはガイバーゼロが星光の殲滅者と戦闘中、闇統べる王はその様子を不可視の魔法を駆使して眺めていた。その戦いの中で空間内の魔力を吸収していた星光の殲滅者は、吸収した魔力をプラスした砲撃魔法【ルシフェリオンバスター】を放ち、ガイバーゼロは星光の殲滅者の攻撃に対抗する為にガイバーの最強武装である【メガスマッシャー】で反撃し、二つの閃光が衝突した瞬間、空間内に異常な負荷が掛かった。


「まっ、まさかあの時の衝撃で空間の一部に亀裂が出来てしまったのか!?」


 ルシフェリオンバスターとメガスマッシャーの衝突した衝撃で特殊結界と現実世界との境界面に亀裂が入り、その亀裂を発見したガイバーゼロは亀裂を利用して結界外に逃げようとしているのではないかと推測し、急いでガイバーゼロの後を追いかける。


(くっ、この結界を破られる事があれば、この姿を維持することが出来なくなる・・・・・それだけは阻止してやる!!)


 ガイバーゼロの行動の意図に気づいた闇統べる王は、移動を開始したガイバーゼロの後を追うように動き出し、ドゥームブリンガーを連射してガイバーゼロへ背後から攻撃し動きを止めようとする。


「うっ!?まずい・・・・こちらの意図が気づかれたか!?だが、多少のダメージは覚悟の上だ!!」


 闇統べる王の攻撃に気づいたガイバーゼロは、ドゥームブリンガーの攻撃を紙一重のところで回避しつつも、回避しきれない分はダメージ覚悟で喰らいながらも亀裂のある場所まで移動する。そしてプレッシャーカノンが亀裂まで届く射程内まで移動完了したガイバーゼロはコントロールメタルに意識を集中させた。


「はやて!!こっちは準備できた。そっちはどうだ!?」


『零兄ぃ!こっちも準備完了!いつでもいけるでっ!!』


「よし!ならいっせ~ので同時にやるぞ!!」


 コントロールメタルではやてに念話を送って準備が出来た事を伝えると、はやての方も準備完了という返事が返ってきたので、ガイバーゼロは「同時に行くぞ!」と言ってチャージしていた重力の塊を亀裂に向かって投げようとする。


「行くぞ!いっせ~の・・・・・」


「いい加減に落ちろ!!【シュランゲ・バイゼン】!!」


 プレッシャーカノンを放とうとしているガイバーゼロに、闇統べる王はレヴァンティンを召喚して連結刃である【シュランゲフォルム】に切り替えたレヴァンティンをガイバーゼロに向けて大きく振り被った。連結刃となったレヴァンティンの刃は鞭のようにガイバーゼロに伸びていき、ガイバーゼロの右腕に巻きつくと同時に右腕を切断されてしまった。


「ぐわぁぁぁぁっ」


『零兄ぃ!?』


「大丈夫だ!いっせ~のっ!!」


 ガイバーゼロの声にはやてはどうしたのかと思い零の名を叫んだが、右腕を切断されたにもかかわらずガイバーゼロは左手に持ったプレッシャーカノンを亀裂に向けて放ち、外にいるはやて達も結界内にいる零がどうなったのか心配したが、大丈夫と言う零の言葉を信じ、はやては亀裂に向かって特殊スフィアに溜め込んだ魔力を放った。


 はやての放った魔力砲撃とガイバーゼロの放ったプレッシャーカノンは、お互いに境界面に出来た亀裂に向かって飛んでいき、同時に亀裂に衝突すると凝縮された魔力が暴発され、さらにプレッシャーカノンの破裂により最初の時とは比べ物にならないくらいの大爆発を起こした。爆発の衝撃により亀裂が完全に広がり、周囲の空間には「ピシッ!ピシッ!!」と亀裂が広がっていき、遂にはガラスが割れるかの如く特殊結界は崩壊してしまった。


「特殊結界が、崩壊しただと!?」


 特殊結界が崩壊した事により、今まで暗黒が支配していた世界が打って変わって青空の広がる世界へと変わり、目の前にはかつて闇の書のプログラムの一部であった筈の守護騎士達と、融合騎としての機能を無くしたくたばりぞこないと、自分を切り離した憎きオリジナルが立っていた。


 特殊結界が消滅した事により、ガイバーゼロの視界に愛すべき家族であるはやてやリインフォース、そして守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人と、はやての友人であるなのはとフェイト、さらに執務官であるクロノの姿を確認できた。その姿に安堵してしまったのか、ガイバーゼロは今までのダメージにより「フラッ!」とバランスを崩してしまいそうになってしまうが、そこへ駆けつけてきたリインフォースが支えに入ってくれた。


「零!大丈夫か!?」


「リッ、リインフォース・・・・・」


「零兄ぃっ!!」


「は・・・はやて・・・・」


「零兄ぃ!!大丈夫なんかっ!?うっ、腕がなくなっとるやんかっ!!シャマル、早く零兄ぃの怪我を治療して!!」


「はっ、はいっ!!」


 リインフォースに支えられたガイバーゼロのボロボロの姿を見たはやては、ガイバーゼロの右腕が切断されてしまっているのを目にし、生々しい腕の切断面に若干気分を害しつつも、はやてはシャマルにガイバーゼロの右腕の治療をするように指示を出し、シャマルはガイバーゼロの右腕の治療をする為に魔法を発動する。


 その間にシグナムとヴィータ、ザフィーラは闇統べる王からガイバーゼロを守る為に前に出て、さらになのは、フェイト、クロノの三人も加わった。


「人数的に言えばこちらが有利だが・・・・今の僕たちであのマテリアルの対処はできるのだろうか?」


「大丈夫ですよ、執務官。あのマテリアルの様子を見てください」


 闇統べる王の姿をはじめて見たクロノは、なのはやフェイト、他の騎士達だけで対応が出来るのか心配してしまうが、シグナムは余裕の表情で闇統べる王に対応できると言うと、クロノは再び闇統べる王の方を見た。


「ぐっ!・・・・結界が消えたせいでこの姿の維持が出来ない・・・・ぐわぁぁぁぁっ・・・・・」


 闇統べる王の完全体の姿は、魔力を順次消費し続けなければ維持が出来ない状態であった。だからこそ魔力が常に満ち溢れていた特殊結界の中では、消費された魔力をすぐに補給できる状態だった。しかし特殊結界のない今、闇統べる王は魔力を消費し続け、魔力の補給が出来ない・・・・・


 つまり現状の姿を維持することが出来ない闇統べる王は、苦しみながら徐々に完全体の姿から元のマテリアル体・・・・今のはやてと同じ幼い少女の姿に変化していった。


「魔力の供給を断たれたことによって元のマテリアル体の姿に戻ったか・・・・」


「くっ・・・・おっ、おのれぇぇぇぇぇっ!!よくもこの王たる我を再びこのような姿にしてくれたなっ!!この塵芥共めぇぇぇぇぇっ!!!!」


「うわ・・・・・はやてと同じカッコしてるくせに、口調がまるで正反対な奴だなコイツ・・・・・」


「そうだな・・・・」


「主はやてはあのような物言いは絶対にしない。常に我らの事を思ってくださっている!!」


 闇の書の闇としての完全体となれた筈の闇統べる王は、元のマテリアル体に戻された事に激怒し、その姿を見たヴィータは、はやてと同じ姿をしているのにその性格が本人とは全く真逆であることにドン引きしていた。その意見にシグナムとザフィーラも同視し、なのはとフェイトも目の前にいる闇統べる王の姿に初めは「ええっ!?」と思っていたみたいだが、口調を聞いた瞬間「コイツは偽物だ」と真っ先に決断した。


「もう許さんっ!!例えこのような姿になろうと、我の中には今まで集めた闇の書の欠片の力がまだ残っているっ!魔力を消耗している貴様らなぞ、この状態でも十分相手にでき・・・・・・」


「ちょっと黙れや・・・・・」


「何?」


「黙れと言っとんのやっ!この劣化コピー!!」


『!?』


 例えマテリアル体に戻ってしまっても、特殊スフィアに魔力を注ぎ続けて魔力を消費していたシグナム達やなのは達を相手にするには、今の状態でも十分可能だと宣言しようとした闇統べる王だったが、突然怒涛の声を上げて叫んだはやてに、その場にいた全員が黙ってしまった。


「さっきから聞いていれば言いたい放題・・・・・アンタの相手はこの私がやったる!!覚悟せいや、劣化コピーッ!!」


「れっ、劣化、コピー・・・・だと!?貴様ッ!この王に向かってその暴言、万死に値する行為であるぞ!!」


「王だろうが何だろうが関係あらへんっ!!零兄ぃをこんなんにしたあげく、腕まで切り落として・・・・・絶対に許さへんでっ!!」


 はやての怒涛の声の内容に闇統べる王ははやての暴言に対して文句を言うが、王だろうと関係ないと言い、零をボロボロに怪我を負わせ、あまつさえ右腕を切断した闇統べる王に対し完全にキレてしまったはやては、零をリインフォースとシャマルに任せて闇統べる王と対峙する。


「皆っ!手出しは無用やでっ!!私一人でこの王様を叩き潰す!!」


「むっ、無茶だよ、はやてちゃん!」


「そうだよ、はやて。はやてだってさっきまでの魔力砲撃に魔力を使っちゃってるんだよ!一人じゃ無茶だよ!!」


「無茶やないっ!私は本気で言ってるんや!そして怒ってるんや!!」


 一人で闇統べる王に挑もうとするはやてに、なのはとフェイトは必死に止めようとするが、はやては「本気や!」と叫びながら左手に夜天の書、右手にシュベルトクロイツを持つと信じられない事が起きた。


「こっ、これはっ!?」


「なっ、何!?この膨大な魔力!?」


「すっ、すげぇ・・・・・」


「まさか・・・・我が主には、まだこのような力が秘められていたのか!?」


 完全に戦闘状態になったはやての魔力が突然溢れ出し、まるでオーラを纏っているかのような姿になったはやての姿に、シグナム達守護騎士やリインフォースは驚きの表情となった。


「くっ、ふふふ・・・・・ならば貴様の力を見せてみろ!」


「ええ覚悟や!!ほんなら存分に見せてやるわっ!!」


 闇統べる王は戦闘態勢になったはやてに対し、自身も左手に闇の書を召喚し、右手にシュベルトクロイツを模した【エルニシアクロイツ】を持って自分のオリジナルであるはやてと対峙し、背中の小さな黒き翼を広げて大空へと羽ばたいていった。その光景をシャマルの治療を受けながら見ていたガイバーゼロは、はやて一人では危険だと思い、無理をして身体を起こそうとした。


「くっ、はやて・・・・俺も・・・・」


「駄目です、零さん!まだ怪我も完治していないし、身体に受けたダメージも残っているんですよ!!」


「大丈夫だ。今の主はやてはあのマテリアルと同等・・・・いや、それ以上の力を有している・・・・・だから今は身体を休めていてくれ」


 闇統べる王との戦闘でのダメージがまだ残っていた事に加えて、右腕の切断の治療が完了していないため、まともに動く事が・・・・いや、それ以前に動こうとするガイバーゼロにシャマルが必死に止めに入り、リインフォースもガイバーゼロの肩に手を置き、今のはやてなら大丈夫だとガイバーゼロを少しでも休ませようと言い聞かした。


 背中の小さな六枚の黒い翼を羽ばたかせて大空へと舞い上がったはやてと、闇の書の欠片を取り込んだ闇統べる王は、お互いに距離を開け移動ながらはやては剣状の魔法弾【バルムンク】を闇統べる王を目標に八方向から扇状に放ち動きを制限させようとする。しかし闇統べる王は、はやてのバルムンクと同じ特性を持つ【ドゥームブリンガー】を放って飛来する魔法弾を相殺させていく。


「【クラウソラス】ッ!!」


「【アロンダイト】ッ!!」


 お互いの魔法弾を撃ち落された事により、はやてと闇統べる王は互いに杖を振るうと、はやては砲撃魔法【クラウソラス】、闇統べる王は【アロンダイト】をほぼ同時に蒼白い閃光と薄紫の混じった閃光を照射し二つの閃光はぶつかり合い対消滅して消えてしまった。


「おのれぇぇぇぇぇっ!!もう容赦はせんっ!!これで消えうせてしまえぇぇぇぇっ!!」


「上等やっ!!こっちも切り札を使わせてもらうでっ!!」


 闇統べる王は自分とほぼ同等の力を有しているはやてに対し、自身の持つ最強の魔法でケリをつけようと左手に持っている闇の書を広げると、はやても相手の意図を読んで左手に持っている夜天の書を広げた。


「絶望に足掻くがいいっ!!塵芥ぁぁぁぁっ!!」


「響けっ、終焉の笛っ!!」


 二人の魔導師の前面に巨大なベルカ式の魔法陣が展開し、黒紫色の稲妻が発生すると同時に巨大な光が収束し始めた。


「これで終わりだ!エクスカリバァァァァァァッ!!」


「これが私の全力や!ラグナロクッ!!」


 お互いに持つ最強であり切り札である闇統べる王の【エクスカリバー】と、はやての【ラグナロク】・・・・・・二つの上級魔法を発動した事によって二つの巨大な閃光がもの凄い魔力を放ちながら互いの目標に向かう。二つの閃光が二人の中心付近でぶつかり合い、激しい爆音を起こしながら魔力の押し合いが始まった。


 ラグナロクとエクスカリバー・・・・・この二つの魔法がぶつかり合う中、離れた場所で二人の魔法の衝撃の際の衝撃に耐えながらも、戦いを見ていたなのはやフェイト、そして八神家のメンバーはその光景に見入ると同時に、まだ魔法を知ってそんなに時間が経っていないにも関わらず、はやては闇の書の欠片を取り込んでいる闇統べる王と対等に戦い、全く引けをとっていないことに驚いていた。すると二人の戦況に変化が生じ始めた。


「やあぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「くっ!?バカな・・・・我のエクスカリバーが押され始めているだとっ!?」


「バカなことはあらへんで!!今の私には皆が・・・・零兄ぃが就いてくれているんやっ!!この私の力は・・・・皆を守りたいという想いと絆からきてるんやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「想いの力だと!?そんなものに・・・・・そんなものに我が負けると言うのかぁぁぁぁっ!!!?」


 自身の最強魔法であるエクスカリバーが押されていることに驚愕する闇統べる王に、今の自分の力を引き出しているのは、友達と愛する家族を守りたいという想いと家族との絆が生み出しているのだとはやてが叫んだ。


 そしてはやてのラグナロクの閃光は、エクスカリバーを押し返して闇統べる王ごと飲み込み、大爆発を起こした。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・やっ、やったんか・・・・・?」


『はやて(ちゃん)!』


『主!!』


 ラグナロクの直撃を受けた闇統べる王の爆発を見たなのは達と八神家一同ははやての元に駆け寄り、ガイバーゼロはザフィーラの肩を借りながらはやての傍にやってきた。


「はやて、すげぇ~よ!!あのマテリアルを倒しちまうなんてよっ!!」


「本当だよ。あのマテリアルに勝っちゃうなんて・・・・今の私達だけでも勝てるかどうか分からなかったのに、それを一人で倒しちゃうんだもん!!」


 闇統べる王を本当に一人で倒してしまったはやてに、ヴィータとなのはは声を上げて喜び、シグナム達もまだ幼いはやてに秘められていた力には驚きはしたが、はやてが叫んだ言葉に心から感謝していた。


「はやて・・・・・」


「零兄ぃ!!腕は・・・・怪我は大丈夫なんか!?」


「ああ、大丈夫・・・・ガイバーを構成している強殖細胞が徐々に活性化していけば少しずつだけど再生できるから、心配要らないよ・・・・・まあその間ガイバーを解除する事は出来ないけどね」


「あっ、ホントだ。少しだけど腕が生え始めている」


(この短時間の間にもう再生が始まっている?・・・・・やはりガイバーという代物は恐ろしい性能を有している・・・・)


 ガイバーゼロの言葉にはやては少しだけ安堵し、フェイトはガイバーゼロの切り落とされた部分が先程より何かが伸び始めているのに気づいた。そのガイバーゼロの様子を見ていたクロノは、強殖装甲の機能に心の中で驚いていた。


「・・・・・ぐっ、がぁぁぁっ!!!」


『!?』


 皆がはやての勝利に喜んでいる中、突然の声にその場にいた全員が振り返ると、そこには傷だらけで、肉体が雷刃の襲撃者や星光の殲滅者と同じように崩壊し始めている闇統べる王の姿があった。


「ぬうぅぅぅぅぅ・・・・・・この塵芥共めぇぇぇぇ・・・・」


「そんな!?まだ動けるのか!?」


「いや・・・・もはや肉体の維持などは出来ないほどダメージを負っている。奴が消滅するのも時間の問題だ」


 闇統べる王の姿にクロノは声を上げるが、リインフォースは闇統べる王は既に肉体が維持出来ない状態になっており、自然消滅し始めていると説明する。しかし闇統べる王の表情は目の前にいる魔導師や騎士達への・・・・そしてガイバーゼロに対する憎しみの込められた表情だった。


「貴様らだけは・・・・・・貴様らだけは許さんっ!!」


「許さないからってどうすんだよ?もう崩壊寸前なんだし、とっとと消滅しちまえ!はやての偽物!!」


「・・・・・せめて、貴様らを・・・・・道連れにしてやるっ!!」


 崩壊の始まっている闇統べる王に対し、ヴィータは余裕な態度で「消えてしまえ」と言うと、闇統べる王はこのまま消えてなるものかと言わんばかりに、自身を形成している魔力を全て手に持っていたボロボロのエルシニアクロイツを天に向かって掲げると、その場にいた全員が警戒する。


 するとエルシニアクロイツの先端からドス黒い球体が出現し、徐々にその大きさが肥大化して一瞬にして巨大な球体へと変化してしまった。なのは達やはやて達はその球体が一体何なのかと考えていると、突然アースラにいるエイミィから通信が入った。


『みっ、皆!早くそこから逃げて!!目の前に小規模の次元震に似た反応が!!このままじゃ皆巻き込まれちゃうよ!!』


「何、次元震だってっ!?」


「まさか・・・・空間系の魔法を暴走させて!?」


『とにかく早く逃げて!!クロノ君達が張ってくれた結界に収まる程度の小規模だから現実世界には影響ないけど、巻き込まれたら大変だよ!!』


「ひゃはははははっ!!!貴様らも次元の狭間に消え去るがいいっ!!あははははははっ・・・・・・」


 エイミィから聞かされた衝撃的な言葉にクロノはもちろんその場にいた全員が驚愕しした。なんと闇統べる王は自身が消滅する前に空間系の魔法に全魔力を注ぎ込んで暴走させ、小規模的に擬似次元震を起こしたのだ。当の闇統べる王は魔力を使い果たした事で一気に肉体消滅が進んだが、勝ち誇ったかのような笑い声を上げながら完全の消滅していった。


 幸いにもクロノらが結界を張っていたことで海鳴市には何の影響もないが、このまま長居するのは危険だということは誰の目にも明らかだった。


「あれは・・・・まるでブラックホールじゃないか・・・・」


「皆っ!急いでここから離脱するんだ!!小規模であろうとアレは次元震だ!!飲み込まれたら最後だ!!」


 擬似的に発生した次元震を見たガイバーゼロは、まるでブラックホールのようだと思っていると、黒い球体は凄い勢いで周囲のモノを吸い込み始めた。その光景にクロノは皆に逃げるように指示を出し、なのは達や八神家は一目散に退避を開始した。


「うっ!あっ、わぁぁぁぁぁっ!!」


「あっ!主!!」


「大変だ!!はやてがっ!!」


 急いで擬似次元震から逃れようとする魔導師達と騎士達だったが、途中ではやてがバランスを崩してブラックホールに向けて落下していってしまった。はやては実は飛行が少し苦手であった事に加えて、先程の限界に近かった魔力消費が祟ってしまい、そのせいで移動速度が落ち、擬似次元震の吸引領域に引っかかってしまったのだ。


「はやてっ!!」


「あっ!!零さん!!」


 吸引領域に引っかかってしまったはやてを助ける為に、ガイバーゼロはシャマルの静止を振り切ってはやてを助けようと飛び出し手を伸ばし、吸い込まれるはやての手を掴んで自分の胸に引き寄せた。


「れっ、零兄ぃ!!」


(くっ、脱出・・・・・できない!!ギガンティックだったらこんな領域からの脱出が出来る筈だけど、今の状態じゃあギリギリはやてを脱出させるぐらいしか・・・・・・)


 はやてを捕まえたガイバーゼロは、グラビティコントローラーをフル稼働させて脱出を図るが、思ったより深く吸引領域に入り込んでしまっていたらしく、巨人殖装のない今の状態では脱出が出来そうなのははやてのみの状態になってしまった。その間になのは達管理局組は結界外に出ることができ、八神家組ははやてとガイバーゼロが残っている状態になっていた事に気づき足を止めしまっていた。


「・・・・・はやて」


「零兄ぃ?」


「リインフォースッ!!はやてを頼むっ!!」


「えっ?わぁぁぁぁぁっ」


 ガイバーゼロの様子にどうしたのかと思うはやてだったが、次の瞬間、意を決したガイバーゼロはリインフォースの名を叫ぶと、その場で横回転して遠心力を付けた勢いに乗ってはやてをリインフォースのいる場所に向かって投げた。


 投げられたはやては、駆けつけてきたリインフォースに無事に抱きかかえられた。だが、ガイバーゼロはその場から動けず、徐々に擬似次元震に吸い込まれ始めていた。


「零兄ぃ!!どないしたんや!?何でこっちに来んのやっ!!?」


「・・・・・・・・」


「零兄ぃ!!」


「主はやて・・・・ここから離脱します・・・・」


「なっ、何でや!?あそこにまだ零兄ぃがいるんやで!?何で助けんのやっ!!?」


「・・・・・もはや、零の救出は無理です・・・・あそこまで肥大化してしまった擬似次元震からは、いくらガイバーでも脱出するのは・・・・不可能です・・・・」


「そっ、そんな・・・・・」


 吸引領域に残されたままのガイバーゼロを何故助けないのかと問い詰めるはやてだったが、リインフォースは目に涙を浮かべながら声を震わせて“零の救出は不可能”である事を告げ、結界からシグナム達と共に脱出をした。


「いやや、零兄ぃ!!零兄ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」


 リインフォースに抱きかかえられながらも、はやては大粒の涙を流しながら右腕を伸ばして零の名を何度も叫んでいた。


(皆は無事脱出できたか・・・・・また約束を守れなかったなぁ・・・・・・ごめんよ・・・・はやて・・・・)


 擬似次元震の中に吸い込まれていったガイバーゼロは、歪んでいく視界の中ではやてに何度も謝っていた・・・・・・・・







 





































 第30話完成。


 まず最初に、よく考えたらクロノの存在を完全に忘れていましたw
合流した際に一緒にいたはずなのに複合魔法を放つ場面でクロノの出番が全くなかったことに今更気づきましたw

 さて統べ子ちゃんは最後で最後の悪あがきという事で擬似ブラックホールならぬ擬似次元震を起こさせてもらいました。


 何だか最終回っぽくいつもより長くなってしまいましたが、まだまだ続くので今後とも宜しくお願いします。


























































 とある場所のとある荒野・・・・・・その荒野の岩場にダークブルーの鎧を纏った人の形をしたモノが横たわっていた。

 その人型の瞳には光を宿してなく、まるで糸の切れた操り人形の如く微動だにもしない・・・・・

 そこへ黒緑色の色をした半透明の狼のような姿をした物体が何体も現われ、そこに一つの影が人型の前に現われた・・・・・・







[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第三十一話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2010/11/22 20:13









 ガイバーゼロこと【八神 零】は、一人歪んだ空間の中を漂っていた。闇の書の防衛プログラムが生み出した三人のマテリアル体の最後の一人であり、【王】を司る存在であった【闇統べる王】は最後の悪あがきとしてその場にいた全員を道連れにしようと自身の魔力を全て使って発生させた【擬似次元震】・・・・・・それに飲み込まれようとしていた【八神 はやて】を助ける為に自らを犠牲にして擬似次元震の中へと落下していった。


 それから何時間・・・何日・・・・何ヶ月・・・・・いや、もはやどれほどの時を過ごしたのだろうか・・・・・もはや零自身にも分からない・・・・・
















 そんな亜空間の中を彷徨っているガイバーゼロの右腕は半ば修復されつつあり、もう少し時間が経てば神経系列も修復され動かす事も可能になるくらいになっていた。そんな中、漂いながら進んでいるガイバーゼロの進行方向に光の輪のようなモノが出現し、ガイバーゼロは自然とその光の輪の中に吸い込まれていった。


 何処までも広がる荒野・・・・・荒れ果てた岩場の近くに光の輪が出現し、そこから吸い込まれた筈のガイバーゼロが現われ、「ドサッ!」と音を立てて荒野に倒れた。


(・・・・・・・・・・・)


 荒野の岩場に倒れたガイバーゼロは、糸の切れた操り人形のようにグッタリとし、瞳には光は宿っておらず、微動だにもしない。だが、そんなガイバーゼロの周囲に何匹もの犬のような・・・・いや、猟犬というべき姿をした動物が取り囲むように現われた。しかし周囲に現われた猟犬の姿は何故か黒緑色の半透明の姿をしており、猟犬たちは目の前にいるガイバーゼロに明らかに警戒していた。


「おやおや、私の【ウンエントリヒ・ヤークト】が何かを見つけたと思えば、見たことのない人の形をしたモノが見つかりましたね」


 猟犬の主であるだろう眼鏡を掛けたロングヘアーの綺麗な碧髪の女性がグッタリしているガイバーゼロの前に現われた。女性は今まで見たことのないモノに興味を持ったのか、マジマジとガイバーゼロの様子を見ていると、突然ガイバーゼロの額のコントロールメタルが光だし、突然のことに女性は後ろに下がり、女性の前に猟犬たちが主人を守るように展開する。


(う・・・・うううん・・・・俺は・・・・・どうなったんだ・・・・・?)


 額のコントロールメタルが光り出した事で、強殖装甲を纏っている零自身の意識が戻り始めてきた。朧気ながらも視界が徐々に回復してきた為か、ガイバーゼロの瞳には光が宿り、首を動かして顔を上げると、目の前には数十匹単位の猟犬がおり、その後ろには綺麗な髪をした女性が立っていた。


 ガイバーゼロは自分の状態を見るために両腕両足に少し身体に力を込めてみた。闇統べる王との戦闘で切り落とされ、強殖細胞で再生された右腕は少し痺れが残っているものの、神経などはうまく繋がっているようで動かすには問題ない。他の個所も切り傷などが多少なれどあったが、動くには支障はない・・・・・


「・・・・・コレは一体何なんでしょうか?この付近に妙な空間反応があったことから、流れモノの一種かしら?」


「あっ、あの・・・・」


「わっ!?喋った!?」


 猟犬に囲まれたガイバーゼロを警戒しつつ見ていた女性に、ガイバーゼロは顔を上げて声をかけると、女性は「ビクッ!?」と反応しながら目の前の得体の知れないモノが喋った事に驚いた。その女性の反応に猟犬の一体がガイバーゼロを押し倒すように向かって飛び掛り、ガイバーゼロの肩に噛み付こうとしてきた。


 正面から噛み付こうとする猟犬に対し、ガイバーゼロは左手で殴りかかろうと仕掛けるが、他の猟犬がガイバーゼロの左腕に噛み付いて動きを封じられてしまった。


「お止めなさい!!」


 女性の声に反応したのか、ガイバーゼロに噛み付こうとしていた猟犬が動きを止め、左腕に噛み付いていた猟犬もガイバーゼロから離れて女性の傍に集まっていったが、猟犬たちは警戒を緩めていない。


「・・・・あの、あなたは一体何者ですか?ここは一体何処ですか?」


「その前に、人に名を聞く前に自分が何者なのか言うのが先ではないのですか?」


「あっ、すいません・・・・」


「えっ・・・・ええっ!!?」


 ガイバーゼロの問いに女性は「人の名を聞く前に自分の名を明かすのが先」というので、ガイバーゼロは意識をコントロールメタルに集中させて殖装を解除して交戦の意志がないことを証明させようとした。しかしガイバーゼロが殖装を解除した際の姿を見た女性は、突然鎧が剥がれて、中から右腕の部分が破れた見たことのない衣服を着た青年が現われた事に驚きの声を上げた。


「え~と、まず俺の名前は零といいます・・・・あの、どうしました?」


「ちょっ、ちょっと!!あなた一体何者!?さっきの鎧みたいなモノは何処にいっちゃったの!?」


「あぁぁぁっ、ちょっ、ちょっと落ち着いて!落ち着いて下さい!!っていうか揺さぶるのを止めてください!!」


 ガイバーが消えてしまったことに女性は涎を垂らしながら零の両肩を掴んで前後に揺さぶって何処にいったのか問い掛けてきた。零は女性に落ち着くように言いながら揺さぶるのを止めるように叫ぶ。


「ハァ~・・・・ごめんなさい。取り乱しちゃいました・・・・改めて、私の名前は【エルフィス・フォン・アコース】といいます。【エル】って呼んでください。零さん」


「はっ、はぁ~・・・・・よろしくお願いします、エルさん」


 ようやく落ち着きを取り戻したのか【エルフィス・フォン・アコース】と名乗る女性は口から垂れ出している涎を拭きつつも元の落ち着いた女性の容姿に戻り、頭を下げて零に挨拶をしてきた。そのエルフィスの変わりように驚きつつも、零も頭を下げて挨拶を返す。


「それでですけど、ここって何処ですか?」


「何処って・・・・まあ、立ち話もなんですし、私達がいる陣で話の続きといきましょう。私が案内しますから」


「あっ、はい・・・・でもいいんですか?自分でいうのもなんですが、正体不明な相手を簡単に案内してしまって・・・・」


「いいえ!あなたは私にとって貴重な研究対象ですから!!それにあの妙な鎧みたいなモノの話を詳しく聞きたいですし!!さあさあ行きますよ!!」


 零は自分が一体何処の荒野にいるのか分からない状態だったので、エルフィスに尋ねてみたが、こんな荒野で立ち話もなんだから自分たちのいる陣と呼ばれる場所に案内すると言って零の手を引っぱって連れて行こうとした。だが初対面の相手をそんな簡単に連れて行ってもいいのかと疑問に思った零だったが、エルフィスはあくまで零を自分の研究対象として見ていたらしく、ガイバーのことについて話を聞きたいらしい。


 そんなこんなでエルフィスに連行されそうになる零だったが、自分のいる場所などの情報などを得るためには人のいる場所に行かなければならないと思い、エルフィスについていくことにした。





















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 エルフィスに連れて来られた場所についた零が最初に目にしたのは、周囲を囲う壁と見張りの人たちだった。零の姿を見た見張りは手にしていた槍を零に向けるが、エルフィスが手を上げると構えた槍を下ろし、エルフィスに向かって敬礼し、エルフィスも挨拶を交わした後、零に「行きましょう」と言って中へと案内してくれた。


 先に進んでいくエルフィスの後を追いかけるように進む零の視界には、重そうな甲冑を見につけた人たちや、武器の手入れをしている大勢の人々の姿が目に入った。傍には簡易型のテントや、色々な物が所狭しと置いてあった。そんな中、エルフィスの姿を見た者たちは一人一人敬礼し、エルフィスもその敬礼に対し笑顔で返しながら進んでいく。零に対しては着ている服装の違いか、それとも余所者を見ているかのような視線で零を見ていた。


 暫く進んでいくと、ひときわ大きなテントが見えてきて、エルフィスは躊躇いもなく中へと入っていき、零は少し遠慮がちに「失礼します」と言って中へと入っていった。テントの中は結構広かったが、真ん中にあるテーブルの周囲には剣やら、盾やら、何かの資料やら、その他にも色々な物が散乱しており、とても綺麗・・・・・とはいえない状態だった。


「まあ少し散らかってるけど、開いている場所に座って頂戴。今、お茶を出すから」


「はっ、はぁ・・・・」


 エルフィスは零にくつろいでいてと言うが、さすがに足の踏み場もない状況であった為に、零は落ちている資料などを避けながら中央のテーブルまで行き、開いている椅子に座る。すると奥からエルフィスがお茶を入れたカップを持ってやって来た。


「はい、どうぞ」


「あっ、ありがとうございます」


 差し出されたカップに入っている紅茶を零は一口飲むと、エルフィスも自分の分の紅茶を一口飲んだ。


「あの・・・・・さっきの犬みたいなモノは何です?」


「えっ、ああ、あの子達は私のレアスキル【ウンエントリヒ・ヤークト】よ。別名【無限の猟犬】と呼ばれるれっきとした魔法ですよ」


「えっ!?魔法!?あれもですか!?」


「そうですよ。何ならまた出してあげましょうか?」


 零は先ほど自分に噛み付いてきた半透明で黒緑色の身体をした犬もどきは一体何なのかをエルフィスに質問すると、この猟犬は【ウンエントリヒ・ヤークト】と呼ばれる魔法で、レアスキルという特殊な魔法らしく、彼女しか持っていないモノだという。零の様子にエルフィスは椅子から降りると、足下に魔法陣を展開すると、さきほどの猟犬が再び出現した。


 だが、エルフィスの発動させた時に足下に展開された魔法陣を見た瞬間、零は声を上げた。その魔法陣ははやてやリインフォースたち守護騎士達と同じベルカ式の魔法陣だったのだ。


「へぇ~、エルさんの魔法って、ベルカ式の魔法だったんですか」


「へっ?零さん、どうしてベルカ式のことを知ってるんですか?」


「えっ?いや、身内に同じ魔法を使用している子達がいましたから・・・・」


 エルフィスの魔法陣はシャマルのベルカ式魔法陣より濃い碧色をしているが、確かに守護騎士たちの使っている魔法陣と同様のモノだった。だが、エルフィスは零から魔力反応を感じる事が出来なかったらしく、何故ベルカ式の魔法の事を知っているのか疑問に思っていたらしい。


「ところでエルさん、ここは一体何処ですか?」


「えっ?何処ってあなたはベルカの人じゃないの?」


「ベルカ!?それってシグナム達がいた場所のことですか!?」


「シグナム?その人がさっき言っていた同じ魔法を使用してると言ってたあなたの身内の人の事?悪いけどそんな名前の人は聞いた事ないなぁ~。ねぇねぇ、それよりさっきの鎧みたいなモノの事なんだけど・・・・・」


 エルフィスから聞かされた零自身がいる場所・・・・・それはなんとシグナム達の話に出てきた彼女らの生まれ故郷ともいえる場所だった。しかしエルフィスはシグナム達のことは知らないらしく、今のエルフィスにとって最優先なのは零が纏っていたガイバーの事をいち早く知りたいと言わんばかりに零に詰め寄ってきた。ところが零が口を開こうとした時、突然何かの警報のような音が鳴り響き、エルフィスと零のいるテントの出入り口から甲冑を纏った人が大慌てで駆け込んできた。


「たっ、大変ですエルフィス様ッ!!」


「何事ですか!?」


「周囲を警戒中の偵察隊から連絡があり、“奴ら”がこの陣に向かって接近中とのことですっ!!」


「なんですって!!直ちに戦闘準備!!すぐに騎士団を前面に配備して迎撃用意をっ!!ここを突破されたら陛下に申し訳が立たないわよ!!」


「はっ!!」


 やって来た騎士からの報告を聞いたエルフィスはすぐにやって来た騎士に戦闘の準備をするように指示を出し、指示を受けた騎士は大急ぎでテントの外へと駆け出していった。


「あのっ!“奴ら”って一体なんですか?」


「ごめんなさい。私はすぐに他の騎士達の指示を出しにいけないといけないの!!悪いけどここで待ってて!!」


 零は先ほど現われた騎士が言っていた“奴ら”とは何者なのかを尋ねようとしたが、エルフィスは指示を出さないといけないと言って大慌てでテントの外へと駆け出していってしまった。


 一人テントに取り残された零は、どうすればいいか考えていると、ふと目に入った資料の中にどこかで見たことのあるようなモノが見えたような気がしたので、資料を拾い上げてみた。その資料に書かれていた文字は見たことのない文字だったので分からなかったが、何かの絵が書かれていたので、その絵に関する情報ではないかと思った。


「・・・・・・こっ、これは・・・・いや・・・・こいつは・・・うっ!!?」


 零が拾い上げた資料に書かれていた絵を見た瞬間、突然の頭痛に襲われその場に膝をついて倒れこみ、記憶の奥にしまっていたモノが飛び出してきたかのようにイメージが浮かび上がってきた。


「こいつらは・・・・・こいつらは・・・・・」


 零は資料の紙を握り締めながら頭の痛みに耐えていた・・・・・・
























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 陣内にいた甲冑を身に纏った騎士たちは大急ぎで陣正面に集合し、迎撃準備を整えていた。そんな中、エルフィスは先ほどの優しい感じの状態から完全に戦へ向かう騎士の姿になっていた。


「それで今の戦況は?」


「はっ、現在我が先発隊が防御陣形を敷いて何とか進行を防いでくれていますが、負傷する騎士の数が徐々に増えてきているため余り長くは持ちません。よって戦況的にはこちらが不利といえざるをえません・・・・」


 副司令官の地位にいるだろう少し重装備の騎士にエルフィスは戦況を尋ねると、現在先行している部隊が“敵”を足止めして進行を防いでくれているが、徐々に押し込まれ始めているらしい。それを聞いたエルフィスは広げられた周辺地域の書かれた地図を見渡しながら作戦を立てた。


「ならば、現在戦闘中の部隊をこの峡谷まで下がらせ、我々の陣にいる部隊と合流、その後、峡谷を利用して敵を迎え撃ちましょう。急ぎ伝令を!!」


「はっ!!」


 エルフィスは地図に記されている地形を利用して敵の進行を最小限にして迎撃しようと考え、さっそく伝令の騎士を呼んで先行部隊に伝令の早馬を出すように指示を出した。そしてエルフィス率いる部隊は守備隊の騎士を残して攻撃部隊は先行部隊と合流する為に出陣していった。


 ところがこの時、エルフィス達のいた陣から少し離れた山場の頂上に一人の男性が陣の方を見つめていた。その男性は「ニヤリ」と口元を吊り上げて笑うとその場から飛び降りてしまった。その後、山場から人の形をした虫のような物体が何処かに向かって飛び去っていった・・・・・・





















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 エルフィス率いる戦闘部隊は伝令を受けて戻ってきていた先行部隊と無事に合流を果たすが、先行部隊の大半は先の戦闘で消失してしまっており、残っていた部隊は少数にまで減らされていた。しかしエルフィスはそんな状況でも取り乱したりせずにすぐに部隊を再編成し、峡谷での迎撃体勢を取る。


「・・・・・来たわ!総員戦闘準備!!私たちの後ろには力のない民がいることを忘れてはなりません!!総員奮闘せよ!!」


『おおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!』


「総員全力で迎え撃てっ!!ここを突破されたら後はないぞ!!」


 彼女のレアスキル【ウンエントリヒ・ヤークト】で先行させた猟犬からの情報を得て状況を見ていたエルフィスは、槍を持っている部隊を先頭に突撃をかけて向かってくる敵部隊に攻撃を仕掛けていった。


 突撃をかける槍部隊の先にいるモノ・・・・・それは人の形をした獣の姿をした怪物達だった。獣といっても種類は様々で、イノシシのような姿をした者や、トカゲや鳥、アルマジロと姿が酷似したような怪物達がエルフィス率いる部隊に向かって襲い掛かってきた。


「エルフィス様、敵部隊目視で確認!!」


「よし!後方部隊は先行部隊にブースト魔法を使用し強化!先行部隊は平行してカートリッジを使用し、敵先行部隊を殲滅せよ!!」


「はっ!!」


「戦局を見極めて弓部隊は先行部隊へ援護射撃!その間に先行部隊は後方に下がり、後続部隊は入れ替わるように前面に進行せよ!!」


 戦況を見極めながらもエルフィスは各部隊に指示を出しながら味方の損害を最小限に留めようとする。しかし暫く戦闘をしているとエルフィスは妙なことに気づいた・・・・敵部隊の勢いが報告に聞いていたより若干衰えているような・・・・・いや、どっちかと言うと手加減しているかのような感じがした。


(おかしい・・・・何かがおかしい。敵の勢いがどうも弱い気がする・・・・)


「エルフィス様!!敵の別働隊が我が陣に接近中!戦闘に入ったとのことです!!」


「何ですって!?ここを通る以外に我が陣に近づく方法なんて・・・・」


「そっ、それが少数ではありますが、空を飛んで来たとのことです!!」


 敵の勢いに違和感を感じていたエルフィスだったが、一人の騎士の報告を聞いてその違和感の正体に気づいた。敵部隊の真の目的はエルフィスが率いていた部隊を足止めして別働隊で陣に攻めるという作戦をとっていたのだ。その報告を聞いたエルフィスは、陣の防御力は殆どないに等しい状態だったので、急ぎ陣に援軍を送ろうとしたが、こちらから援軍を送ったりしたらこっちの戦力を削る事になってしいまい、前線の維持ができなくなってしまう・・・・・・


 エルフィスは完全に敵の手に嵌ってしまったと後悔していた時だった。再び報告しに来た騎士の口からとんでもない報告を聞くことになった。























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 エルフィスが戦に行って交戦を開始した頃・・・・・ある資料を見て突然の頭痛に襲われた零だったが、次々に思い出されるビジョンと共に、今まで忘れていた記憶の糸が次々と繋がっていき、頭痛が治まった頃には忘れていた過去の記憶が繋がっている感覚を覚えていた。


「そうだ・・・・俺はこいつらと・・・・・戦っていたんだ・・・・そして奴らは・・・・」


「たっ、大変だぁぁぁっ!!この陣に敵が来るぞぉぉぉぉっ!!」


「なんだと!?エルフィス様が敵を足止めして下さっていたのではないのか!?」


「それが・・・・別の部隊がいたらしく、その別働隊がこっちに接近してきているそうです!!」


 頭痛の治まったことで息を切らしていた零の耳に、テントの外から敵が接近してきていると叫び走り回っている人の声が届き、零はその場から立ち上がり外へ出た。外では陣に残っていた騎士たちが大慌てで迎撃準備に駆け回り、中には負傷しているのにもかかわらず武器を手にしている者達の姿もあった。


 その姿を見た零はふと空を見上げてみると、黒い点々が徐々に近づいてくると同時に、翼を生やした怪物にぶら下がっている怪物がこちらの陣に降下しようとしていた。その姿に騎士たちも気づいたのか、弓を手にして攻撃を仕掛けようと矢を放つが、弓矢だけでは怪物の進行の妨げにはならず、次々と降下してきた。


「グガァァァァァァッ!!!」


「迎撃!!迎撃せよ!!」


 降下してきた怪物に騎士達は剣を取って果敢に挑みかかるが、零には怪物に挑みかかるのは無謀だと思い、助けようと駆け出すが、一人の騎士が怪物の拳を受けてしまい、吹き飛ばされてしまった。


「止めろぉぉぉぉぉぉっ!!!!コネクトォォォォォッ!!」


 怪物に向かって駆け出した零は、飛び上がると同時に殖装体を呼ぶ為に言葉を叫ぶと、零の背後に殖装体が出現し、バラバラになって零と一体化し、ガイバーゼロへと殖装した。ガイバーゼロは地上に着地すると同時に怪物の方へと駆け出し、右ストレートを怪物の顔面目掛けて殴りかかり、顔面に入った右ストレートの直撃を受けた怪物の頭は「グチャッ!」と音を立てて吹き飛び、頭のなくなった怪物の首からは大量の血が噴出し、フラフラと動きながら地面に倒れた。


「なっ、何だあれは!?」


「あの怪物は俺に任せて、あなた方は他の皆さんの援護を・・・・ただ無茶だけはしないで下さい!!」


 自分達でも苦戦していた怪物を一瞬にして倒したガイバーゼロの姿を見た騎士は戸惑いの声を上げるが、ガイバーゼロは他の人達の援護をするように声を掛けて次の怪物を倒しに駆け出していった。


「倒す・・・・・敵は倒す!!」


 陣内に降下してきた怪物をヘッドセンサーを駆使しながら探し、通りがけに見つければその場で蹴り倒すか殴り倒し、倒れた騎士に止めを刺そうとする怪物を見つけ、距離があればヘッドビームを連射して怪物を穴だらけにし、次々と怪物をしとめていく。


「俺の敵・・・・・獣化兵(ゾアノイド)をっ!!」


 次々と倒していく怪物・・・・その正体は、はやての家で居候をし始めていた頃や闇の書事件が終った頃に零が夢で見た時に自身がガイバーとなり、倒していた獣の姿をした人の形をした怪物・・・・【獣化兵(ゾアノイド)】だった。


 ゾアノイドを倒していく度に、過去に殺された仲間や友達の想いが蘇り、降下してきたゾアノイドの全てはガイバーゼロ一人で倒してしまった。足下には最後に攻撃したゾアノイドは大量に血を流し、痙攣をしつつもまだ息があり、必死になって起き上がろうとしていた。


「グッ・・・・ウウウ・・・・」


 起き上がろうとするゾアノイドに対し、ガイバーゼロは右足でゾアノイドの頭を踏み潰し、ゾアノイドの頭部は「グシャッ」と鈍い音を立てて砕け散った。ゾアノイドを踏み潰したガイバーゼロは、強殖装甲で覆われていた為に表情は分からないが、今の零の表情は憎しみの心に染まった怒りの表情になっていた・・・・・・・






















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 峡谷で戦っていたエルフィスの下に届いた報告・・・・・それは陣を強襲してきた怪物の一団が全滅したという報告だった。その報告を聞いた直後、前線で戦闘をしていた怪物達が突然攻撃を止め、雲の子を散らすかのように撤収を開始した。


「報告します!!敵勢力が突然撤退を開始しました!」


「撤退?一体何が起きてるの・・・・!?」


 敵が撤退した事に疑問を思っていたエルフィスだったが、彼女の脳裏にある人物の姿が横切った。敵が撤退した事でここにいる必要はないと判断したエルフィスは、すぐにこちらの損害状況と負傷した騎士を陣に連れて行くように指示を出した後、部隊を率いて陣へと戻っていった。


 陣へと戻ると、騎士たちが物々しく動き回り、見張りの者ですら陣の中の一点に視線を集中させていた。エルフィスは部隊の副司令官に後処理をお願いし、陣の中へと駆け出していった。


「あっ、エルフィス様!!」


「陣内で敵の襲撃があったって報告を受けたけど、大丈夫なの!?」


「ええ、こちらに幾分かの被害が出ましたが・・・・彼のおかげで何とかなりました」


 近くにいた騎士に声をかけてエルフィスは、事の事情をその騎士から聞いた後、周囲にいる人たちが見ている先に視線を向けると、そこには先ほどまで戦っていた怪物の首から上がない状態で足下に転がっていた傍に、あの奇妙な鎧を纏ったガイバーゼロが立っていた。



































 第31話完成。


 零が擬似次元震の空間跳躍で辿り着いた先は、話を見れば分かるように古代ベルカです。これから少しだけストライカー編で出てきた聖王教会に属しているキャラの祖先をオリジナルキャラとして登場させていきます。(あくまでオリジナルなので本当に存在していたかどうかは不明ですw)



 まず最初に登場した【エルフィス・フォン・アコース】なんですが、名前とスキル名から分かるようにヴェロッサの祖先です。まあいわゆるマッドですw普段は落ち着いた優しそうな女性ですが、自分の興味のあるものを見つけるといきなり豹変してしまう性格です。


 それではまた次回で~・・・・・・


 それにしても遂に感想が200を超えましたv
 コレはひとえに応援して下さってくれた皆さんのおかげです。ありがとうございましたwこれからも宜しくお願いします。











 






[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第三十二話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2011/01/07 21:37









 闇統べる王の最後の悪あがきとして発動した擬似次元震によって零が飛ばされてしまった場所・・・・・・それはリインフォースやシグナム達守護騎士たちにとって“故郷”ともいえる“ベルカ”と呼ばれる世界だった。


 そこで零は【エルフィス・フォン・アコース】と名乗る女性と出会い、彼女の部隊のいる陣へと案内されるが、そこで彼女らが戦っている謎の勢力が襲撃に現われ、エルフィスは部隊を率いて迎撃に出撃するが、その後、こちらの動きを読んでいたかのようにエルフィスのいない陣に謎の勢力の別働隊が奇襲に現われ、陣内の騎士だけでは対応しきれず、次々と負傷者を出していく。


 だがその時、奇襲を仕掛けてきた謎の勢力の姿を目撃した零は、はやてと出会う前の過去に自分が戦っていた【獣化兵(ゾアノイド)】と呼ばれる獣の姿を模した相手だということを思い出し、ガイバーゼロへと殖装して陣内のゾアノイドを全て撃破してしまった。



















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 奇襲をしてきたゾアノイドの後処理や負傷者の介護に部隊を回して対処し、一通りの作業が終ったあと、エルフィスは陣内の隅に設けられたテントへと向かった。そのテントの中には、見張りの騎士たちに囲まれ、両腕をバインドで拘束された零の姿があった。


 零は陣内にいたゾアノイドをガイバーゼロで殲滅した後、警戒心を露にしていた騎士たちに囲まれたガイバーゼロは殖装を解除し、零の姿に戻った後にエルフィスの指示で騎士たちに魔法で捕縛されてしまった。そして急遽張られたテントの中で魔法で作られた拘束結界の中で拘束される事になり、今にいたる・・・・・


「あっ、エルフィス様!!」


「彼の様子はどう?」


「はっ!拘束してから暫く経ちますが、特に騒いだり抵抗したりはしていません。静かなものです」


「そう・・・・・ならここはいいから、あなた達は他の部署の手伝いに行ってもらえる?」


「えっ!?しかし、エルフィス様に何かあっては・・・・・」


「大丈夫。彼は何もしないわ・・・・だからあなた達はもう行っても構わないわ」


「はっ、はぁ・・・・分かりました。しかし油断だけはなさらないように・・・・・」


「ふふっ、ありがと」


 零の拘束されている結界の前で見張っていた騎士に声をかけたエルフィスは見張りの騎士をテントから出るように指示を出し、見張りの騎士は少し不安そうな表情をするが、エルフィスの指示に渋々従ってテントから出て行った。


「・・・・ふう・・・・零さん、結界内の居心地はどうですか?」


「どうですか・・・と言われても、特に変化のない静かな場所だから別にどうにもならないよ・・・・・両腕も両足もバインドで動けないし・・・・」


 見張りの騎士が外に行った事を確認したエルフィスは、拘束結界の中にいる零に声を掛けると、中にいる零は普段通りの返事を返すが、静かすぎて退屈そうな感じだった。そんな零の様子にエルフィスは「クスッ」と小さく笑うと、右手を結界の前に差し出して魔法を発動させて結界を解除し、零の両腕と両足を拘束しているバインドも一緒に解除した。


「ごめんなさいね。あの場面ではこうでもしないと皆に示しがつかなかったから・・・・」


「いや、エルさんだってここの指揮官としての立場があるんだから仕方ないですよ・・・・・誰だってガイバーの姿を見れば驚くだろうし・・・・・」


 エルフィスの謝罪に零は指揮官としての立場では仕方がないと言い、その場から立ち上がる。そう・・・・・・ゾアノイドを殲滅したガイバーゼロは、エルフィスが現われたことで殖装を解除して零の姿に戻るが、取り囲んでいた騎士達にエルフィスは零を拘束するように指示を出し、その声を聞いた騎士たちは零に飛び掛って動きを封じ、零の両腕と両足をバインドで拘束した後、テントの中へと連行され、結界の中へと零を閉じ込めた。


 零は何故自分が捕まるんだと一瞬思ったが、エルフィスの立場を考えれば彼らの前に現われた未確認な存在に、もしエルフィスが親しげに話し掛けるなんて事をしたら大変な事になると理解し、彼女の立場場仕方がないと思った零は、特に抵抗することなく大人しくお縄についた。


 そんな経緯があり、無事にバインドから開放された零は、エルフィスと共にテントから出て再びエルフィスの寝所でもあるテントに案内された。


「それにしても、零さんを拘束した後に陣に残していた騎士の人達からの報告を聞いてビックリしました。まさかあの怪物たちをいとも簡単に撃破しちゃうなんて・・・・・・・並の騎士でも簡単には出来ませんよ」


「確かにこの世界の人ならそうだけど、俺からしてみれば元々戦った事のある相手だったし・・・・・」


「えっ?それってどういう・・・・」


 零を拘束した後に陣に残していた騎士達からの報告を聞いたエルフィスは驚いた。何せ今までエルフィス達が相手にしてきた怪物は、腕の立つ騎士でも苦戦は免れない相手であったにもかかわらず、そんな怪物をガイバーゼロはまるで一騎当千の力を持った戦士のように撃退してしまったのだから・・・・・・・


 しかし零の言った言葉にエルフィスはどういうことだろうと疑問に思った。零は“この世界の人”と言った・・・・・ということは零はこの世界の人間ではないという事を差し、あまつさえ零自身が前にもあの怪物たちと戦った経験があると言っていたのだから・・・・・・・・


「零さん、そういえばあなたの事・・・・まだちゃんと聞いてはいませんでしたね。私が思うに、あなたはこのベルカの・・・・いえ、この世界の人間ではないんですね?」


「そうですね・・・・・試しに尋ねますけど、“日本”という国はご存知ですか?」


「日本?・・・・・聞いた事のない名ですね。何処かの地名や何かの名前ですか?」


「やはり知りませんか・・・・・分かりました。俺の事やガイバーの事・・・・そしてゾアノイド・・・・あなた達の言う怪物の事を教えますよ」


 エルフィスは零がこの世界の人間ではないのではないかとある程度予測していたようで、零もベルカという国がシグナム達の言っていた故郷であるということは、ここは自分のいた地球とは別の場所・・・・別の世界である事は確実ではないかと思っていたが、試しに日本のことを知っているかどうか尋ねてみたが、案の定エルフィスは知らないと答えた。


 零はエルフィスに自分がこことは違う世界・・・・地球という場所から擬似的に発生した次元震によってこのベルカにやってきたこと・・・・魔法に関しては身内に同じ形式のベルカ式の魔法を駆使する者がいたから多少の知識があること・・・・そして自分が纏っている鎧【殖装体ガイバー】のこと・・・・そして自分が過去にガイバーを纏って獣化兵(ゾアノイド)と戦っていたことをエルフィスに話した。


 零の話を聞いたエルフィスは何故か目を光らせながら興味深々に耳を傾け静かに聞いていた。


「なるほど~私達以外のベルカ式の・・・・しかもカートリッジシステム搭載のアームドデバイス・・・・でもその夜天の書っていうのは聞いたことがないですね・・・・・・」


「同じベルカ式の魔法を使っている人でも分からないものってあるんですか?」


「まあね。もしかしたら今の時代より昔に作られたモノかもしれないし、私だって全部のデバイスを知ってるわけじゃないから・・・・それよりも・・・・・」


 夜天の書のことをエルフィスなら知っているのではないかと思っていた零だったが、どうやら彼女は夜天の書のことを知らないようで、エルフィスが生まれる以前に作られた物ではないかと推測する。しかしエルフィスは今まで見せた事のないような厳しそうな表情に変わると真剣な目で零を見つめた。


「あなたが教えてくれた怪物・・・・ゾアノイドって言ったかしら?その怪物はあなたが居た世界・・・・正確にはあなたが記憶を失う前にいた世界で戦っていた相手で、強殖装甲っていったかしら?その装甲で覆われた鎧状の【ガイバー】を纏って戦っていた・・・・・ということでいいかしら?」


「ええ、合っています。それであのゾアノイドは一体何処から来たんですか?この世界に初めからいたということは、この世界は俺のいた世界と何か関連があるんでしょうか?」


 真剣な表情で零を見るエルフィスは、零の話してくれたゾアノイドについての事を改めて確認し、エルフィスが最初に荒野で【ウンエントリヒ・ヤークト】が見つけた鎧状の物体は零が纏っていたガイバーであり、かつて零が戦っていた相手だと認識した。そんな中、零は何故魔法が存在するベルカの地にゾアノイドが存在しているのか疑問に思い、エルフィスにゾアノイドは何処から現われたのか尋ねてみた。もしかしたら自分が本来生きていた世界のなれの果てではないかと心の片隅で思ってしまっていた。


「う~ん、零さんの世界とは関連はないかもしれないわ。何せゾアノイドは聖王家の方々が言うには【異次元からの侵略者】って呼んでいたから・・・・・」


「聖王家?それに異次元からの侵略者ですって?」


「あっ、聖王家っていうのは私達の住んでいるこのベルカを昔から治めている家系の方々で、一番歴史が長い人々の事よ」


 零の考えていた“自分の世界のなれの果て論”は否定されてしまい、エルフィスは彼女の世界ベルカを治め、一番長い歴史を持つ“聖王家”と呼ばれる家系の方々がゾアノイドのことを【異次元からの侵略者】と呼んでいるらしい。


 そこまで話し終わると、エルフィスはテント内の隅に山積みになっていた場所からゴソゴソと何かを探し始め、目的の物を見つけるとクルクルに巻かれた大きな紙を持ってテーブルの上に紙を広げた。その広げられた紙に描かれていたのは大きな大陸が描かれた地図だった。


「この地図で説明すると・・・・・あの異次元からの侵略者が最初に目撃されたのは丁度この地点・・・・・大陸の端っこ辺りよ」


「端っこ・・・・こんなところにですか?」


「ええ。実はこの付近にはベルカ以外の国から干渉がないかどうかを監視する為の部隊がよく偵察を行なっていたの。その時にとある偵察部隊が不思議な形をした船みたいな物体を見つけたの」


 地図に描かれている大陸の端っこの辺りをエルフィスが指差すと、そこで発見された全長51キロほどの大きさを誇る船のような形状をした物体を見つけたと零に話した。その後、エルフィスは話を続け、その調査によれば、船のような物体は随分時間が経っているような感じで、所々に苔やヤドリギなどが生い茂っていたらしい。それにより外見から推測して既に数十年ほどは経過していると思われていたらしい。


「ところがこの謎の物体が発見されてから暫く経ったあとに、付近の小さな村に住んでいた住人が忽然と姿を消してしまったんです」


「姿を消した?」


「ええ。当時の調査隊が残した調査資料によると・・・・・何かに襲われたような形跡もなく、本当に消えたとしか言い様がなかったそうです」


「なるほど・・・・・ところでエルさんって随分物知りなんですね」


「まあ、城に居た頃はよくこういった資料などを勝手に読みふけっていたりしていましたから。あははっ」


 過去に発見された謎の船のような物体が発見されてから暫く経った後に、付近の小さな村の村民が一人残らず姿を消したという記録が残っていたようで、その内容をエルフィスは零に話した。零はエルフィスが「物知りなんですね」と言うと、エルフィスは顔を少し赤くしながらも、笑いながらここに来る前にいたお城の書庫によく出入りして読みふけっていたらしく、そこらの情報に関しては物知りのようだ。


「それから半年くらいたった頃にあの怪物・・・・ゾアノイドが突然出現し出したの。もちろん私達や他の諸国・・・・聖王家と国交のあった“シュトゥラ”にもゾアノイドは進行を開始していったの・・・・・」


 そして謎の物体が発見されてから約半年後に突然ゾアノイドが出現し、ベルカや他の諸国、そして先ほど出てきた聖王家と初めて聞く“シュトゥラ”という名前に零が首をかしげていると、エルフィスはシュトゥラの事を少し話してくれた。


 シュトゥラというのは、聖王家と国交の仲にある国で、聖王家と同等の武技に関しては一番の国であるらしい。その中でも聖王女・・・・つまり聖王家の王女様の地位にいる人は、シュトゥラの王子である人と共に武技を競い合う中で、今は王都で一緒にいるらしい。


「まあシュトゥラに関しては私もあんまり話を聞いた事がないから、曖昧な説明だったけど・・・・・」


「いえ、とりあえずは簡単な説明だけで十分です。・・・・それでこれからどうするんです?それに緊急時であれ、俺がガイバーになってゾアノイドを倒した事はここにいる人達に知られた訳ですし・・・・・・」


 自分の説明が簡単すぎたのではないかと思っていたエルフィスだったが、零はこの世界の情勢などは全く知らないため、説明してくれただけでも感謝していた。そして零は先刻での陣を奇襲してきたゾアノイドをガイバーゼロとなって倒した事によって、自分がとても危険な存在と見られているのではないかと不安になっていた。


「そうですね。確かに今まで私達でもゾアノイド一体を倒すのに犠牲者や負傷者が出るのは当たり前でした・・・・・それを零さんはあの鎧を纏ってたった一撃で撃破してしまった。そのことに関しては陣内の騎士たちからも意見が上げられています」


「でしたら・・・・」


「はい・・・・ですから零さんは私と一緒に王都に来て貰います」


「おっ、王都にですか!?」


「はい。丁度近況報告をしに一度戻るつもりでしたし、零さんの処遇などの意見を聞いてみたいですし・・・・・・」


「でも、この陣の責任者はどうするんですか?」


「大丈夫ですよ。王都から別の責任者が後任として援軍部隊を引き連れて来ますから、防衛には問題ないと思います」


 零の疑問にエルフィスは、ガイバーゼロとなった零の高戦闘力に対し、陣内の騎士などからは「得体の知れないモノ」「アレは危険な存在」等の言葉が良く目立つようになっていた。しかしエルフィスはそんな零に対しての処遇などの意見を聞きたい為に王都への報告ついでに連れて行くと言い出した。




















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 次の日・・・・・王都からやって来た責任者後任の騎士が増援部隊を率いて陣へと現われ、エルフィスは後任の騎士に責任者権限を引継ぎを済ませると、零を連れて王都への行き先を設定した転送魔法陣を展開させ、その中にエルフィスと零が入ると魔法陣は光だし、次の瞬間には陣ではない物作りの良い何処か広い部屋のような場所に零とエルフィスはいた。


 エルフィスは「こっちですよ」と言って一つしかない扉の方へと歩き出し、零はエルフィスの後を追いかけるように駆け出し、扉の先へと向かった。部屋から出ると先が見えないほどの長い廊下があり、壁にはたくさんの風景や肖像画などの絵が飾られている。


「エルさん、ここが?」


「はい!ようこそ!!我が王都へっ!!」


 零とエルフィスは廊下の先にあった大きな扉の前までくると、エルフィスは目の前の大きな扉を開けながら零に目の前に広がる光景を見せながら王都に着いたことを宣言した。零の視界に広がる光景・・・・・そこには自分の居る場所の下に大勢の人々が賑わいながらも道を行き来していた。


「これが・・・・王都・・・・」


 零は自分の居る場所から上を見上げると、とても大きく立派なお城が聳え立ち、頂上の屋根には国旗らしきものが「パタパタ」と風に揺られていた。だが零は王都の広さやお城の大きさに驚愕していた。それと同時に今いる世界が明らかにはやてやなのは達のいない海鳴市のある日本ではない場所であり、今自分が存在している世界が、夜天の書の守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてリインフォースの生まれ故郷なのだと再認識した。


「どうです零さん。初めてご覧になった王都の感想は?」


「・・・・・・・」


「零さん?」


「えっ!?いっいや、こうして見ているとやっぱり別の世界に来てしまったんだな~、と思っちゃって・・・・」


 唖然としている零にエルフィスはどうかしたのかと尋ねてくるが、零は目の前に広がる光景を見て自分の居た世界ではないと認識したと話す。こうして考えるとシグナム達の故郷という事は、零ははやてと暮らしていた世界から何百年前に来てしまったんだろうと零は心の中で思ってしまった。


 その後、再びエルフィスは零と連れてベルカの高官達のいる城へと案内し、零はエルフィスとはぐれないように付いて行く。しかし城内で度々すれ違う人達はエルフィスには見慣れたように礼を交わしていくが、零に対しては着ている服装の違いのためか陣内にいた騎士たちとほぼ同じ反応を見せていた。まあこの城内にいる人の服装は、騎士のような鎧を纏った者や教会などにいるシスターが着ているような服装の人が殆どで、零の服装は海鳴市では若者が当たり前のように着ている服装だが、ベルカの人々にとっては得体の知れない服装なのだろう・・・・・


 エルフィスは零を連れて長い場内を暫く進んでいると、ひときわ大きな扉・・・・・というか門があり、傍にはポールアクスを持った衛兵らしき騎士が二人重装備で立っていた。エルフィスは門に近づく前に立ち止まり、零に「ここから先には高官達が勢ぞろいしているから大人しくしていて」と伝える。エルフィスの言葉を聞いた瞬間、零の心臓は「ドクン、ドクン」と脈が激しくなり、緊張が加速していった。何せこれから向かう場所には、エルフィスのように自分の事に好感を持ってくれるような保証なんてなく、一歩間違えば危険分子として“処刑”されるという形になる可能性もある。


 エルフィスは緊張している零に「大丈夫ですから」と言って少しでも緊張を解そうと声を掛けてくれるが、零の心臓の音は自分の耳にも届くほどの勢いだった為に解すどころか悪化してしまった。それでも零は「はっ、はい」と覇気のない返事を返した。零の様子に少し不安が残りつつも、エルフィスは衛兵のいる大門の前まで歩き出すと、衛兵は当然の如くエルフィスを呼び止めた。


「エルフィス様!任務、ご苦労様です!!」


「ええ、ありがとう」


「エルフィス様、そちらの者は何者ですか?見慣れない服を着ていますが・・・・・まさか賊では!!?」


「あっ、待って!!この者も今回の報告に含まれていますから!!剣を降ろしてください!」


 エルフィスを呼び止めた二名の近衛兵はエルフィスに向かって敬礼して挨拶し、エルフィスはそんな二人に挨拶を返すと、一人の近衛兵が零の姿を見て賊ではないかと思い手にしていたポールアクスを構えるが、エルフィスは近衛兵に零も今回の報告に含まれている者だと伝えて二人の警戒を解く。


 近衛兵にポールアクスを突きつけられた零は「ビクッ!」と後ろに少し後ずさるが、行きましょうと言うエルフィスと共に大門の中へと進んでいった。大門をくぐった先には広場並の広さがある大広間に辿り着き、中央にはまるで裁判所のような形に中央を囲うようにテーブルが敷かれ、そこには六人の高官らしき者達が待っていた。エルフィスは中央に向かって歩き出し、その後を零はついて行き、エルフィスと零は六人の高官たちの前に立った。


 その後エルフィスは、今までの戦況や被害状況、負傷者などや物資の補給など、その他もろもろの報告を高官たちに一通り済ませた。しかし高官たちはエルフィスの作成した報告書に目を通しながらも、エルフィスの後ろで待機している零の姿を横目でチラチラと見ていた。


「エルフィス・フォン・アコース。今回の報告書を読ませてもらった事で一通りの状況は分かった。しかし君の後ろにいる男は一体何者なのだ?」


「うむ。この報告書を見る限り、我々でも手を焼いているあの怪物どもを、そこの男は難なく倒したそうだが・・・・・とても信じられないんだが・・・・・」


 報告書に書かれていた中にあった情報に高官たちはある疑問を持った。それはベルカの者達でも苦戦は免れないと言われていたゾアノイドを、難なく倒したという情報だった。エルフィスは自分が出撃している時に陣が急襲されてしまった際、零がガイバーゼロとなってゾアノイドを倒した事を報告書に記載していた。


「確かにそう思われても仕方ありません・・・・・ですが報告書にかかれていることは真実です。今から証拠を見せましょう。零さん」


「えっ、はっ、はい!!?」


「今ここでなって見てください。あの鎧の姿に・・・・」


 高官たちの疑問は最もだと既に思っていたエルフィスは、後ろに控えていた零に声をかけると、ガイバーに殖装してほしいと頼んできた。その一言に高官たち六人は一斉に零に視線を向けてきた。零は「大丈夫だろうか」と不安になりつつも、心臓の鼓動を少しでも落ち着かせようと呼吸を整えながら、エルフィスのいる中央に足を運び、息を吸って深呼吸をした。


「そっ、それでは・・・・・・ふぅ~・・・・・コネクトッ!!」


 深呼吸をしたことで少しは緊張が解けた零は、呼吸を整えて殖装体を呼ぶための言葉である【コネクト】と叫んだ。すると零の背後の空間が歪みだし、そこからダークブルーの色をした強殖装甲が出現した。そして鎧はバラバラになると零の身体に張り付き、額にある銀球【コントロールメタル】が強殖細胞を制御の為に光を放ち、零はガイバーゼロへと殖装した。


「なっ!?なんと・・・・・」


「こっ、これは・・・・・」


 殖装が完了したガイバーゼロの頬にある通気口から「ボシュゥゥ」と空気を吐き出している姿を見た高官たち六人は皆驚いた表情をしていた。まあベルカの人々にとってはガイバーゼロの姿はかなり得体の知れないものに見えてしまっているのだろう。


「どうでしょうか?これが私達を助け、あの怪物たちを倒した彼のもう一つの姿です」


『・・・・・・・』


 ガイバーゼロの傍に寄ってきたエルフィスは彼の肩に手を置きながら高官たちの方を見る。高官達はガイバーゼロの異形な姿を見がらも、鎧と言っても自分たちの知っている甲冑などのモノとは明らかに違い、まるで“鎧に取り込まれてしまった”かのような感じだと認識していた。


「エルフィス・・・・・確かにこの者があの怪物どもを撃退したという事実は信じるしかないようだ。だが・・・・・」


「たっ、大変です!!」


 高官たちはエルフィスの出した報告書がウソではないと思いつつも何かを言いかけた時だった。突然大扉の門が音を立てて開き、その場にいた全員が一斉に扉の方を見ると甲冑を纏った騎士が大慌てでやって来た。


「何事だ!!今、会議中であるぞ!!」


「会議を中断して申し訳ございません!ですが緊急の報告をっ!!陛下がっ、遠征からの帰路にあった陛下率いる部隊が敵の襲撃にあったとの報告が!!」


「何だと!?陛下の部隊が!!?」


 騎士からの報告を聞いた高官たちは一斉に立ち上がり、あの冷静なエルフィスですら驚きの表情になった。高官の一人はすぐに救助部隊を編成し救助に向かえと指示を出し、報告に来た騎士は大急ぎで部屋から飛び出していった。エルフィスはガイバーゼロに「一緒に来て!!」と叫びながら部屋から飛び出して行き、ガイバーゼロは「えっ!?」と驚きつつも慌てている高官たちの様子を見ながらエルフィスの後を追っていった。


 部屋を飛び出したエルフィスとガイバーゼロは先程報告にやって来た騎士を見つけると、何処で敵襲に遭ったのかと問い詰めると騎士は息を切らしながらも敵襲のあった場所を話し、救助部隊のいる場所へと再び駆け出していった。


「零さん、私達も行きましょう!!場所が分かれば転送魔法でひとっとびですっ!!」


「えっ!?だったら他の人たちも一緒に・・・・・」


「出来ればそうしたいけど、私の転送魔法は良くて四人までが限界なの!それにあなたがいれば救助部隊が来る前に被害を最小限に食い止める事が出来る筈よ!!」


 場所を聞いたエルフィスは再び転送魔法でこの城にやって来た部屋へと駆け出し、ガイバーゼロもその後を追うが、この時ガイバーゼロは転送魔法なら部隊ごと転送すればいいんじゃないのかと疑問に思ったが、エルフィスの転送魔法は四人までが限界である事が発覚した。確かにシグナムやシャマルが使用していた転送魔法でも大人数の転送はやった事がない。そう考えると数百・・・・いや、ゾアノイドを相手にするのなら数千単位の人数を一度に転送しなければならない。


 しかしエルフィスは自分の傍には単独でもゾアノイドを撃破できる人がおり、転送魔法を使えばすぐにでも移動できる・・・・それを可能にしてくれる存在がいるのなら、二人で先行して被害を最小限に止めれると考えていた。


「それに陛下は国というより、私個人としても大切な人よ。その人が聞きに陥っていると言うのならどんな危険でも助けに行くわ!!」


「・・・・・・・」


 廊下を必死に走るエルフィスの表情にガイバーゼロは、エルフィスの手助けをしてあげたいと自然に思ってしまった。




















___________________




















 王都から離れた地点・・・・そこでは武装した騎士たちとゾアノイドとの激しい戦闘が繰り広げられていた。その中には魔法を駆使する者や、剣などを持って戦う者も多くいた。


「はぁぁぁぁっ!!せいやっ!!!」


「グガァァァァァッ!!」


 そんな戦場の中に一人、ロングスカートに両腕の肘まで覆うくらいのガントレットを装備した金髪の女性がゾアノイド相手に善戦していた。女性は迫り来るゾアノイドに対し、蹴りや拳を駆使した格闘戦を仕掛けて次々と突き飛ばしたり、蹴り飛ばしたりしながらとても女性とは思えないような力でゾアノイドを撃破していく。


「各自、三人で連携を組んで敵を確実に仕留めて下さい!!もうすぐ援軍が来る筈です。それまで何としても持ち応えて!!」


『応ッ!!』


 女性は戦いながらも騎士達に指示を出しながら奮闘し、再びゾアノイドの大軍が押し寄せる中、女性は戦場へと駆け出していく。それでも女性一人では大軍のゾアノイドを相手にするにはさすがに不利になりつつあり、戦況はゾアノイドのほうに傾きつつあった。



















 
_________________




















 先の“陛下”と呼ばれる人物が率いる部隊が王都への帰路についている途中で敵襲を受けたという報告を聞いたエルフィスとガイバーゼロに殖装した零は、エルフィスの転送魔法を使用して救助部隊より先に現場にやって来た。周囲を見渡してみると、遠くの方で砂塵が舞っており、まさに激戦の真っ最中と言わずを得ない。


「あそこか・・・・エルさん、早く行きましょう!」


「ええ、でも予想外に結構な距離があるわね。あ~、こんな事なら馬も一緒に連れてくるべきだったわぁ~・・・・・」


 二人は戦闘が行なわれている地点に向かおうとしたが、見るからに二人がいる地点から戦場となっている場所まで距離があり、エルフィスは馬を一緒につれてこなかったことを後悔していた。そんなエルフィスにガイバーゼロは「飛行魔法などは使えないのか?」と尋ねてみると「飛行魔法は得意じゃない」とエルフィスは答えた。


「歩いていくのにはまず無理か・・・・エルさん、ちょっと失礼」


「えっ?ひゃあっ!?」


 ここからすぐに戦場へ行こうにも、エルフィスが飛行魔法が不得意というのであれば・・・・と考えたガイバーゼロは、エルフィスをお姫様抱っこのように抱えるとエルフィスは顔を真っ赤にしながらガイバーゼロを見る。


「ちょっ、ちょっと、零さん!?」


「少し大人しくしててくださいね。今から飛んでいきますから」


 エルフィスを抱きかかえたガイバーゼロは、腹部のグラビティコントローラーを起動させて空中に浮くと、エルフィスは「あわわ」とバランスをとろうとガイバーゼロに抱きついた。


「これなら一緒に戦場へ行く事が出来るでしょ?」


「そっ、そうね。でもガイバーって空まで飛べるなんて・・・・・他にもどんな機能があるのか、とても興味が沸いてきたわ」


 二人は戦場となっている地点へ飛んでいき、徐々に砂塵が起きている地点に近づいてくると、エルフィスは敵の気を引く為に【ウンエントリヒ・ヤークト】を発動させると、猟犬たちがなんと空中に出現、そのまま地上に向かって駆け出していった。その時、ガイバーゼロのヘッドセンサーが間隔的に魔力が発生している地点の反応を見つけた。


「んっ?エルさん。何だか一瞬の間に膨大な魔力反応が間隔を空けて起きているような感じがするんですが・・・・」


「それは恐らく陛下の魔力反応でしょう。零さんはそのまま魔力反応のある方へ飛行をしてください」


 ガイバーのヘッドセンサーが感知した魔力反応がエルフィス達の言う“陛下”という人物なのだと理解し、ガイバーゼロは飛行を続け、エルフィスは【ウンエントリヒ・ヤークト】を操りながら猟犬からの送られてくる情報を元に戦況を理解していた。


「くっ、これ以上はさすがに不味い・・・かな」


 戦闘を続けていた女性は、さすがに長期戦闘によって自身の疲れも出始めていた。息を切らしながら周囲を見てもそこにいるのはゾアノイド達のみ・・・・味方の騎士たちがどうなってしまったのかと気にしていたが、その隙を突いてきたのか一体のゾアノイドが女性に向かって襲い掛かってきた。


「はっ、しまった!!」


 ゾアノイドの攻撃に両腕をクロスさせてガントレットで防御して防ごうとしたが、ゾアノイドの腕力に女性は突き飛ばされてしまい尻餅をついてしまった。その様子を見ていた他のゾアノイドは「今こそ好機」と言わんばかりに女性に飛び掛ってきた。女性は「しまった!」と思いながら体勢を整えようとしたが、尻餅をついている今の状況では完全に自分が不利と思って目を瞑ってしまった。


 己の死を覚悟していた女性だったが、いつまで経っても何も起きない・・・・・女性は恐る恐る目を開けると、そこにいたのは全く動かなくなったゾアノイドの姿だった。そして一体のゾアノイドは「ガクッ」と倒れこむと、他のゾアノイドもバタバタと地面に伏した。


「いっ、一体何が・・・・?」


「オリヴィエ様!!ご無事でしたか!?」


 倒れたゾアノイドに唖然としていた女性に声をかけてきたのはエルフィスだった。オリヴィエという名の女性は、エルフィスの手を借りながら立ち上がると、ゾアノイド達の前に経っているガイバーゼロの姿を目撃した。








































 第32話完成・・・・・


 いや~またもや投稿期間が開いてしまい申し訳ありません。ホントリアルに仕事が忙しく、全く小説に手がつけられず、帰宅してもネタが思い浮かばない事が続き期間が開いてしまいました。この調子だと年内に投稿できるのがコレで最後になりそうです・・・・・


 さて話は変わりまして、なのは劇場版のブルーレイ&DVDが発売されましたw自分はPS3を買っていたので「この際高画質で見よう」と気合を入れてブルーレイ(ゲーマーズ特別版)を購入。まだ液晶が未購入なので年越しくらいに観賞しようと今から楽しみにしていますw

 しかしこの劇場版の設定資料集がおまけでついてきたのですが、読んでいる内に三年位前かな(?)自分が、某画像投稿掲示板で初投稿をしていた短編小説「なのは×仮面ライダーファイズ」の記憶が蘇り「もう一度ネタを変えて作ろうかな」と暇があれば作成しようかと思いましたwまあ暇があり、大体出来上がり始めたら投稿しようかと考えています。


 そしてまさかの劇場版第二弾の製作も始まり、来年にはPSPのゲーム第二弾も発売すると言う事で、リリカルなのははアニメが終ってもまだ続きそうでテンションがMAXになりそうです。


 ではまた次回お会いしましょう・・・・・












































 今回は色々と結構修正が多い回になりそうです(笑)










[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第三十三話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2011/01/23 12:54










 エルフィスの案内で王都へとやって来た零。そこでエルフィスはベルカを襲っていた怪物の正体が零のいた世界で猛威を振るっていた【獣化兵(ゾアノイド)】であることを王都にいた高官たちに報告し、零をガイバーに殖装させたことで高官たちにゾアノイドを撃退できる強力な存在を見せつけた。


 ところがその時、とある一人の騎士が会議場に現われ、陛下と呼ばれる人物の率いていた部隊がゾアノイドの襲撃に遭ってしまったことを報告してきたことで事態は一変。高官たちは大急ぎで部隊を編成し救助に向かえと指示を出した。しかし出撃して現場に到着する前に被害は出てしまう・・・・とエルフィスは考えていた。


 そこでエルフィスは、自分の担当していた陣で見せた零の纏っているガイバーの力を借りることで被害を最小限にしようと考え、自分の転送魔法を駆使して零と共に救助部隊より先に先行出撃することにした。


 現場では既に部隊とゾアノイドとの激しい戦闘が繰り広げられており、剣を持って戦う騎士たちの叫び声とゾアノイドの獣声が響き渡っていた。しかしその中で、女性でありながら襲い掛かってくるゾアノイドに奮闘している者がいた。


 しかし多勢に無勢・・・・・数で勝るゾアノイド相手に徐々に女性の方が押され始めた。そして女性は隙を突かれてゾアノイド達の一斉攻撃を受けそうになった・・・・・しかしそこへ先行して救助にやって来たエルフィスとガイバーゼロが現われた。


「オリヴィエ様!!ご無事ですか!?」

「エル・・・・?あなたどうして・・・・それよりあの者は!?」

「安心してください。彼は強力な味方です!!」


 エルフィスの登場にオリヴィエという名の女性は暫し唖然としていたが、すぐに気持ちを切り替えてエルフィスに目の前にいる人物の事を問い掛ける。そんなオリヴィエにエルフィスは味方だと教えるとオリヴィエは再びゾアノイドの前に立っているガイバーゼロの姿を見つめた。













_______________














 エルフィスを抱えて戦場の真上を飛行してきたガイバーゼロは、間隔的に発生している魔力反応のある方向に進んでいた時、一人奮闘している女性の姿を目撃した。エルフィスはガイバーゼロに女性の近くに自分を降ろしてと言ってきたので、ガイバーゼロは高度を落としながらエルフィスと共に女性の近くに着地した。


 エルフィスが女性の傍に駆け寄っていった後、ガイバーゼロは自分達を取り囲んでいるゾアノイドの群れに目を向けた。ゾアノイド達は女性の周囲に倒れこんでいる仲間の姿と、突然現われたガイバーゼロに動揺を見せていた。しかし猪のような顔をした一体のゾアノイドが「ガァァァッ!!!」と獣の如く雄叫びを上げるとガイバーゼロに向かって襲い掛かり、他のゾアノイド達も一斉にガイバーゼロをたたみ掛けようと同時攻撃を仕掛けようと襲い掛かる。


 迫り来るゾアノイドの群れにガイバーゼロの瞳が光り、同時に額のコントロールメタルが光を放つと、ガイバーゼロの両腕の高周波ソードが伸び、迫ってくるゾアノイドの群れに突っ込んでいく。


(ゾアノイド相手になら、周波数を減らす必要は・・・・ない!!)


 ガイバーを纏っている零は、なのは達魔導師たちに対して今まで高周波ソードの周波数を極力少なくして戦っていた・・・・・・だが相手はかつて自分の大切な存在を奪い去った憎むべき相手・・・・・故に周波数は最大にした高周波ソードを構え、ガイバーゼロはゾアノイドの群れの中を駆け抜ける。


 ガイバーゼロが通り抜けた道筋の近くにいたゾアノイドの肉体は、高周波数で振動しているソードによって、ある者は首を、ある者は頭から縦一閃に、ある者は右上から斜めに、ある者は腹部から横一閃に、それぞれ紙切れのように切り裂かれ地面に伏した。


「なっ!?あの怪物たちを、ああも簡単に切り裂いた!?」


 オリヴィエは目の前で起きた光景にやはり唖然とし、同時に驚きを隠せないでいた。その間にもガイバーゼロは次々と迫ってくるゾアノイドの群れを切り裂きながら移動し撃破していく。


 そんな中、ガイバーゼロのヘッドセンサーが「ギョロ」と動き、零の脳に周囲にいる数人の騎士達とゾアノイドとの乱戦状況になっている光景が直接伝達され、ガイバーゼロは騎士達と乱戦になっている方に顔を向けるとヘッドビームを連続で発射した。


「ちょっ、零さん!?乱戦になっている場所に向かって何をっ!?」


 エルフィスはガイバーゼロが何か額から光線のようなモノを乱戦になっている戦場に撃ち出したことで戦闘中の騎士も巻き込まれるのではないかと思った。

 しかしガイバーゼロの放ったヘッドビームは、まるで騎士の動きに合わせていたかのように騎士を襲っている一体のゾアノイドの頭部に命中し、脳天に穴をあけた。その他にも鳥の姿をしたゾアノイドには背後からヘッドビームで胸に穴を開けられ、中には一直線上に並んでいたゾアノイド数体を貫通させて撃破していた。


(やっぱりガイバーの能力は凄い・・・・もし、あんなモノをデバイスとして再現できたら・・・・・)


 ガイバーゼロのヘッドビームは騎士達には命中せず、確実にゾアノイドのみを撃ち抜いていた。ヘッドビームと高周波ソードでゾアノイドを次々と撃破していくガイバーの能力を目の当たりにしたエルフィスは、ガイバーの能力や機能をデバイスに転用して再現することができたら、ベルカの戦力は格段に上昇できるのでは・・・・・・と考えていた。















__________________
















 戦闘開始から数時間後・・・・・・王都からやって来た救助部隊がオリヴィエのいる部隊の近くまで来た。しかし既に戦闘は終了しており、そこには負傷者に応急処置を施していたエルフィスとオリヴィエの姿があり、軽傷の騎士たちも仲間の手を借りながらも負傷者の怪我を治していた。


「陛下!!良くぞご無事でっ!!」

「ええ、何とか被害は最小限に留める事が出来ました・・・・・来てもらって早速だけど、負傷者の救護を最優先で行なって。私達も部隊が整ったら王都へ戻ります」

「はっ!!」


 救助部隊の隊長らしき騎士がオリヴィエの傍に駆け寄り、オリヴィエは来て早々救助隊隊長に自軍の負傷者の救護と搬送を頼み、部隊長は威勢のいい掛け声でオリヴィエの指示に従って救護隊に指示を出してオリヴィエ陣の負傷者の救護と移送の準備に取り掛かった。


 救護隊が来た事で少し安堵していたオリヴィエは、手の開いたエルフィスと共に一人大岩の上で果てしなき荒野の先を「ジッ」と見つめているガイバーゼロのところに歩いていく。するとガイバーゼロも二人の気配を感じたのか、二人の方に振り返り、大岩から飛び降りて二人に向き合った。


「あっ、エルさんと・・・・・え~と、陛下ってお呼びした方がいいのでしょうか?」

「まあ、当然なんだけど・・・・」

「まずはあなたにお礼を言わせて下さい。私の大切な部下を助けてくださって、どうもありがとうございました」

「あっ、いえ!そんな、頭を上げてください!!」


 ガイバーゼロもさすがに陛下と呼ばれている女性に対し、エルフィスのように気軽に口を聞くのは不味いと思ったのか、少し緊張しながらオリヴィエの事を何と呼べばいいのか混乱しつつ悩んでいると、オリヴィエはガイバーゼロの前に歩み寄り、仲間の危機を救ってくれたお礼の言いつつ頭を下げてきた。


 オリヴィエの行為にガイバーゼロは、陛下と呼ばれている人が自分に向かって頭を下げている事に焦ってしまう。


「ああ・・・ええ~と・・・・あっ、その前に殖装を解除しなくちゃ。もう周囲にはゾアノイドの存在もないみたいですし・・・・・」


 焦るガイバーゼロだが、自分も殖装したままでは礼に反すると思い、意識を集中させて殖装を解除して零の姿に戻り、ガイバーゼロは異次元空間へとかえっていった。エルフィスは見慣れていた為かリアクションは何もなかったが、オリヴィエにしてみれば突然鎧が剥がれたと思ったら、中から見た事のない服装をした青年が現われたことに驚いていた。


「ええっ!?」

「ああ、大丈夫ですよ、オリヴィエ様。紹介します、彼が先程ガイバーを纏っていた零さんです」

「どうも、零といいます。よろしくお願いします」

「・・・・・・・」

「あっ、あの~・・・・?」

「あっ!、すみません。少し呆然としてました。私はオリヴィエ、【オリヴィエ・ゼーゲブレヒト】といいます」


 零が殖装を解いた事で驚いたのか、オリヴィエは少し呆然としていたが、すぐに気持ちを切り替えて、零が差し出してきた右手にオリヴィエも右手を差し出して握手を交わした。しかしオリヴィエは握手をする時も手に装備していたガントレットは外しはしなかった。














___________________














 その後、負傷者の治療を終えた救助部隊と共にオリヴィエの部隊は王都に向けて再出発を開始した。エルフィスと零は、ゾアノイドの襲撃を防ぎ切ったと言えど、再び襲撃してくるのではないかと思い、オリヴィエの部隊と共に王都までついていくことになった。しかし・・・・・・


「零さん、大丈夫ですか?」

「えっ、ええ・・・・・それよりすいません、エルさん。馬にうまく乗れない上に、こうやって・・・・ええ~と」

「?・・・・ああ、私は気にしてないからいいですよ。でもガイバーを纏えば鬼神の如く強い零さんでも、苦手なモノがあったんですね」


 そう。エルフィスの乗っている馬の背には、零も一緒に乗っていた。だが、零はエルフィスの腰に手を回して寄り掛かる格好になっていた。零は今まで今に乗った事がなく、このベルカに来て初めて馬に乗った。しかし馬の上というのは振動がモロに伝わり、零は馬の上で酔ってしまった・・・・・


 そこで馬に乗ったことのない零に、エルフィスは自分の乗っている馬に零も乗せることにし、自分の腰に手を回すことも許してくれたおかげで零は馬の上での酔いは少しは和らいだ。


 しかしいくら許しが出たとしてもエルフィスは女性。今まではやてやシグナム達女性人が多い環境で平気に過ごしていた零でも、女性の・・・・しかも腰に手を回してしがみ付く形でなんて、零の顔は赤面状態に陥っていた。


 そんな零の様子にエルフィスは「気にしないで」と声を掛けてきたが、エルフィスの女性特有の香りが零の鼻を擽り、自分でも分かる程の体温上昇を零は感じていた。そんな零の反応に、エルフィスは「クスッ」と笑みを浮かべていた。














_____________________














 その頃、一体の昆虫系ゾアノイドがベルカの空をある場所に向かって飛行していた。暫く飛行しているとゾアノイドは高度を下げ始め、ヤドギリや苔に覆われた物体の傍に着地し、物体の外壁の前に立つと、突然外壁の一部がグニャリと歪みだした。


 歪んだ外壁はまるで出入り口のように変化し、ゾアノイドは躊躇いもなく当たり前にように内部へと入っていくと、出入り口は再びグニャリと音を立てて元の外壁に戻ってしまった。


 物体の内部を歩くゾアノイドはどんどん奥へと進んでいく。暫く進むと大きな広場へと辿り着き、その広場には幾つものカプセルが何十個も並んでおり、そのカプセルには様々な姿をしたゾアノイドが入っていた。


 カプセルの並ぶ通路をさらに奥へと進んでいくゾアノイド。そして奥に存在していた大扉の中へと入っていったゾアノイドの正面には、部屋の天井から植物のような触手が地面まで伸びており、中央には水晶のようなモノが触手に絡まるように安置されていた。しかし先程の通路にあったカプセルのような機械的なモノとは明らかに違う有機的なモノであった。


『・・・・・報告せよ・・・・・』

「はっ。今日、敵勢力へ攻撃を行なったゾアノイド部隊ですが・・・・・全滅しました」

「全滅・・・・だと?それは一体どういう事だ!?」


 部屋の中に響く声にゾアノイドは膝を折って自身が見てきた情報を報告する。すると別の場所から別の声が響き、ゾアノイドが声のあった方に振り向く。そこには全身黒いスーツを着た男が立っており、男はゾアノイドの近くに歩いてくる。


「この不可解な世界の連中はゾアノイド相手では大した事はないはずだろ?そんな相手に試作調整のゾアノイド部隊でも全滅だなんてありえないだろ?」

「しっ、しかし・・・・・現実にゾアノイド部隊が全滅したんです・・・・」

『落ち着け【ゼルクルス】。確かにこの世界の者にゾアノイドがやられたというのは考えにくい・・・・・しかしだ』


 【ゼルクルス】と呼ばれる男はゾアノイド相手に素手で締め上げて事実を聞き出そうとしていると、部屋に響く声の主は冷静な口調でまずは落ち着くように指示を出すと、何処かから聞こえる声に従い、ゼルクルスは締め上げていたゾアノイドを手放した。強い力で締め上げられていた為か、ゾアノイドは咳き込みながら荒い息をしていた。しかし


『・・・・・・しかし、まさか“奴”がこの世界に来ていたとはな・・・・・』

「奴?それは一体・・・・?」

『ゼルクルス、お前にとって宿敵の奴さ』

「まさか・・・・ガイバーゼロが!?」

『ああ。どうやら奴もあの時空の歪みに飲み込まれつつもこの世界にやって来ていたようだ』

「そうか・・・・・奴がこの世界に・・・・・」


 部屋に響く声の主は、まるでゾアノイドが見てきたものを覗き見たかのような口調でゾアノイドが見てきたガイバーゼロの存在をゼルクルスに教える。するとゼルクルスは握り拳に力を込めながら怒りの声を上げ始める。


「奴は・・・・ガイバーゼロは俺の仲間の仇!!この世界に現われたというのなら、今こそ復讐の時!!必ずこの手で殺してやるっ!!」


 ガイバーゼロに対する怒りを大声で叫びながらゼルクルスの姿は徐々に変化し始め、黒い甲殻と天に伸びる巨大な角を持つ、まるでカブト虫が人型のようになった重装な姿へと変化した。


『ゼルクルス、お前の怒りは分かるが、まずはお前の傷を癒すのが先だ。お前はガイバーゼロによって受けたダメージがまだ完全になっていないだろう?今はまだ時を待て・・・・・』

「・・・・・分かった。だが、奴を倒すのはこの俺だ!!」


 獣化したゼルクルスの姿は所々に傷が残っており、その中で一番目立っているのは顔の左眼の部分に大きな切り傷だった。ゼルクルスの姿に声の主は傷を癒してからガイバーゼロを倒せと言うと、ゼルクルスは素直に従い、暗闇の中へと消えていった。















_____________________
















 オリヴィエ救出から数時間後・・・・・既に日は傾き出し、ベルカ王都ではオリヴィエの安否を心配する民や騎士たちは荒野の先を見つめていた。その時、荒野の先から砂塵が巻き上がっているのを確認した見張りの騎士はお急ぎで城の中へ駆け出していった。


「報告します!陛下の牙門旗を確認しました。陛下はご無事のようです!!」

「本当か!?」


 騎士の報告に高官たちは大声を上げつつも安堵したかのような表情をしていた。その頃城下では負傷した騎士たちを本格治療する為に急ぎ城の中へと運ばれていく中、馬から下りたオリヴィエは愛馬の頭を撫で「ご苦労様」と愛馬に声をかけていた。するとエルフィスと零の乗った馬が現われ、馬の揺れで若干ふらつく零が先に下り、エルフィスも馬から下りた。


「はぁ~、ようやく到着か・・・・・」

「ご苦労様。どうでした初めて馬の乗った感想は?」

「感想・・・・・乗った事より心臓がドキドキしっぱなしでしたよ・・・・」


 ようやく馬から下りる事が出来た零の様子に、エルフィスは少し笑いながら馬に乗った時の感想を尋ねてみると、ずっとエルフィスの腰に手を回していたためか、零は心拍数が上がりっぱなしであった事をエルフィスに話した。


 王都へ到着後、オリヴィエは近衛の騎士達に囲まれながら城の中へと入っていき、零はエルフィスから一先ず客人をもてなす部屋に案内され、そこで事前に用意されていた食事をエルフィスと済ませた。


「それでは零さん、今日のところはゆっくり休んでくださいね」

「はい、分かりました」

「それと、明日オリヴィエ陛下から零さんの今後についての詳しい話があるそうです。まあ別に大した話じゃないと思いますから、そんなに気にしないで下さいね」


 食事を済ませたエルフィスは、「今日はゆっくり休んで下さい」と零に言うと部屋から出て行った。零は一息つけると窓の方へ歩き出し外を眺めた。


(ベルカの空っていつも曇っているんだな・・・・・そういえばリインフォースがまだ闇の書と呼ばれていた時に、ヴィータが青空を見たいためにずっと時間があれば空を見上げていたって話をしてたっけ・・・・)


 窓から見たベルカの空は一面雲に覆われ、星も見えない空だった。零がこのベルカにやって来てから、ずっと空が雲に覆われ、海鳴市では当たり前に見えていた青空が全く見えない状態だった。


 その時、零の脳裏にリインフォースから聞かされたヴィータの過去についての話の中で、青空を見たいが為に暇があれば空を見上げていた事を思い出していた。零はこのような空の下で、主となった者の命令に従うがまま血生臭い戦いばかりをしていたヴィータ達ヴォルケンリッターの心境が何となくだが分かった気がした。相手がゾアノイドではなく、普通の人だったりしたら尚更だ・・・・・


(はやて・・・・今頃どうしてるだろう。二度も約束を破ってしまった事を怒っているかな・・・・・)


 零は窓から離れてベッドの上にダイブして天井を見上げながら、はやてを擬似次元震から脱出させる為とは言え、自分を犠牲にしてはやてを助けて離れ離れになってしまった事で、はやては今頃どうしているのかと頭の中で考えてしまった。


 しかしベルカに来てから戦いばかり続いたせいか、急激な眠気が襲い掛かり零はそのまま深い眠りに陥っていった。
















___________________
















 窓から明るい光が部屋の中に差し込み、零はふと目を覚ました。目を覚ました零は欠伸をしながらも腕を伸ばしてベッドから起き上がる。窓から外を見ても相変わらず厚い雲が空を覆い尽くし、何だか寂しい気分になってくる感じがした。


「零様、失礼いたします」


 外を眺めていた零は突然ドアがノックされた事でドアの方を見ると、扉の向こうからメイド姿の女性が三人礼をしながら部屋に入ってきた。


「おはようございます。ご気分はいかがでしょうか?」

「えっ?あっ、はい。ゆっくり眠ったおかげで疲れはとれましたよ」

「そうでしたか。それではお召し変えのために失礼します」

「へっ!?」


 零に向かって頭を下げてきたメイドの挨拶に、零も挨拶を返す。するとメイドは笑顔のままお召し変えと言いつつ、突然零の服を脱がし始めた。その行為に零は慌てるが、他の二人のメイドが零を取り囲んでしまい身動きが取れなくなってしまった。


「あっ、あの!!?」

「エルフィス様から「その服装では皆が警戒するので、こちらが用意した服に着替えるように」と言付けがありましたので、少しの間、大人しくしててください」

「えっ!?えぇぇぇぇっ!!?」


 三人のメイドに取り囲まれて身動きを取れなくなってしまった零に、メイドの一人が零の着ている服では警戒されてしまうとエルフィスから話を聞いたと笑顔で言った。そして服を脱がされてしまった零の叫び声が廊下まで響いていった。














____________________















「・・・・・・・」

「どうしたんですか?零さん」

「どうしたもこうしたもありませんよ・・・・朝になって目が覚めたらメイドさんたちがやって来て「エルさんに言われたから」という理由で、いきなり服を脱がされて・・・・・」


 無理矢理とも言えるメイド達の行為によって、零は「ズ~ン」と沈んだ様子でエルフィスと共に廊下を歩いていた。零の様子にエルフィスは何故沈んでいるかと尋ねると、零はいきなりメイドに服を脱がされてしまったことで、恥ずかしさを完全に通り越してしまったことに少し涙を流しそうになってしまっていた。


「でっ、でも、零さんの着ている服はとても似合ってるじゃないですか」

「・・・・エルさん、口元が引きつってますよ・・・」


 沈んでしまっている零の姿にエルフィスは、不味い事をしてしまったのではないかと焦りつつも、何とかフォローしようと言葉をかけるが、言い方が棒読みのエルフィスに零はフォローになっていないと溜息をつきつつも自分の着ている服に目をやった。


 零が着ている服は、はやてがシグナム達の騎士甲冑を考えていた時に言っていた「騎士らしい服」という感じの服装で、青を強調した白いラインの入った騎士らしい服だった。


「まっ、まあとにかく!これから零さんをオリヴィエ陛下のいる謁見の間に案内しますから、迷わないようにちゃんとついて来て下さいね」


 自分の服を眺めている零に、エルフィスは謁見の間に案内するからついてくるようにと声をかけ、再び二人は聖王であるオリヴィエのいるという謁見の間に向かって歩き出した。


 暫く廊下を歩いていると、再び近衛兵が待機している扉の前にやって来たエルフィスと零。エルフィスに対して当たり前のように敬礼する近衛兵だったが、何故か零の姿を見て焦ったかのような様子で背筋を伸ばして「ビシッ!」とした姿勢で敬礼してきた。その様子に、零は「あれ?」と思いつつもエルフィスと共に室内へと入っていった。


 部屋の中は前に訪れた会議場と違い、赤い絨毯が奥に向かって敷かれ、先端が少し段差が出来ている先には玉座が一つ置かれていた。絨毯の上をエルフィスと共に奥に向かって歩いていくと、エルフィスが足を止め、零も一緒に足を止めた。


「エルフィス、そいつか?あの怪物どもを撃退するほどの一騎当千の力を持つ奴というのは?」

「えっ?」


 突然聞こえた男の声の方に零が振り返ると、そこには何処か神官を思わせるかのような服装を着込んだ男性が立っていた。


「そうよ。私やオリヴィエ陛下だって彼に助けられたんだから」

「・・・・私にはそうは見えないが、まあ昨日の報告書を見た限り真実だろうな・・・・」


 神官の格好をした少しクールな感じの金髪ショートヘアーの男性は零を監視するかのように歩きながらエルフィスに尋ねる。どうもベルカの者は、ゾアノイドを簡単に倒したガイバーゼロの事は未だに信じていない様子で、一見強そうに見えない零の姿をマジマジと見ている。


「それより【クリフ】!あなた自己紹介は済ませたの?零さんは私達にとって命の恩人ともいえる人なんだから!」

「・・・・・私の名はクリフ、【クリフ・グラシア】だ」

「初めまして、零といいます。よろしくお願いします」


 零を見ていた男性【クリフ・グラシア】はエルフィスに自己紹介しなさいと言われ、クリフは零に近づくと右手を差し出して握手を求めてきた。クリフの行為に零は右手を差し出してクリフと握手を交わす。その様子にエルフィスはニッコリと笑みを浮かべていると、一人の高官が玉座の傍にやって来た。


「オリヴィエ聖王女陛下の、おなぁぁぁぁりぃぃぃぃっ!!」


 高官の一言にエルフィスとクリフは玉座に向かって右腕を胸の前に持っていきながら左膝を床につけて座り、頭を下げた。零も二人の様子に焦りつつも見よう見真似で左膝を床につけて頭を下げた。


 すると玉座の奥の出入り口から両腕にガントレットを身につけ、両肩を露出させたドレスを身に纏った聖王女【オリヴィエ・ゼーゲブレヒト】が現われた。







































 どうも第33話です。

 え~遅らせながら、明けましておめでとうございます!!
このSS投稿掲示板にこの【なのは×ガイバー】を投稿しはじめ、丁度一年になりました。未熟ながらもこうして小説を書き続けられたのは毎度毎度感想を書いてくださる読者の皆さんのおかげと思っております。

 さらにカウント(かな?)ですが、ようやく10万台を突破しました!皆さんの応援も含め、これからもこの【なのは×ガイバー】をよろしくお願いします!!

 ちなみに零が着ていた(というか着せられた)騎士らしい服は、ギルティギアに出てくる聖騎士団の着ている服を参考にしています。










 

 









[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第三十四話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2011/02/23 21:31










 ベルカの聖王女である【オリヴィエ・ゼーゲブレヒト】の救助に成功した零とエルフィスは再び王都へと戻り、一夜が過ぎた。


 翌日、エルフィスの言付けを受けた三人のメイドの手によって零はシグナム達がはやてのイメージとして身に付けていた騎士らしい服に着替えさせられた。人の手で、しかも女性の手によって着替えさせられてしまった零は若干涙を流しながらもエルフィスと共に謁見の間にやって来た。


 そこでベルカの神官をしている【クリフ・グラシア】という名の男性と対面し、零と挨拶を交わした後、ベルカ聖王女であるオリヴィエと対面した。


「皆、昨日はご苦労様でした。クリフ、あなたの迅速な対応によって私の部下達の治療も問題なく終えることが出来ました。礼を言います」

「いえ、私は当然の事をしたまでです」

「エルフィス、あなたも戦闘後の部隊の編成や、事後処理への対応に尽力を尽くしてくれてありがとう」

「はっ、ありがとうございます」


 玉座に座ったオリヴィエは、まずクリフに昨日の戦闘によって負傷した騎士たちの治療が問題なく終えたことに対し礼を言い、クリフは頭を下げたままオリヴィエの礼に答えた。どうやらクリフは神官としての仕事以外にも衛生関係の仕事も請け負っているらしい。


 オリヴィエは次にエルフィスにも戦闘後の隊の編成や王都に戻ってからの事後処理などの報告などもやっていたらしく、エルフィスにお礼を言い、エルフィスも頭を深く下げて答えた。


「そして零さん、あなたやあなたの身に纏っていたガイバーと言いましたか・・・・あの力によって私達は助けられ、あの怪物から皆を守る事が出来ました。本当にありがとう」

「いっ、いえっ!!あっ、ありがとうございます!!」


 最後にオリヴィエは、ガイバーゼロとなってゾアノイド撃破に貢献した零に対し、笑顔を見せながらお礼を言った。零はこの世界の王女の地位にいる女性から、ベルカとは違う別世界からやって来た自分に対し、お礼の言葉をかけてくれた事に緊張してしまい、声を震えさせつつも答えた。


 オリヴィエの一言一言に、その場にいた全員が感極まったかのような空気に変化し、暫しの沈黙が続いた。


「さてと!堅い話はもうおしまいにしましょうか!」

「・・・・へっ?」

「はぁ~、こうも肩こりそうな形式には参っちゃうわ」


 重い空気が漂っていた謁見の間で、突然オリヴィエがニッコリとした笑みを浮かべながら両手を叩いた。その表情は先程の王女としての威信など何処にも無い普通の少女のような表情に変化し、思わず零は間抜けな声を上げてしまった。さらにエルフィスも立ち上がって体を伸ばすように背伸びをした。


「おい、エルフィス。いくら何でも陛下の前でそのような言動は控えてもらいたいな」

「いいじゃない。私はこういった堅いことは慣れないって言ってるじゃない」

「いやっ、しかしだな!!」


 エルフィスの姿にクリフは注意を促すが、エルフィスはまるで気にしていないかのような感じでクリフの注意を真面目に聞こうとせず、背を向けてしまった。そしてエルフィスとクリフはそのまま口論へと発展していってしまった。


 その様子に唖然としてしまった零は開いた口が塞がらなくなってしまった。いくら何でも王女様の前で少しはっちゃけすぎではないかと思いながらエルフィスとクリフを見ていると、零の前にオリヴィエが歩いてきた。


「ふふっ、零さんも驚きが隠せないみたいですね?」

「えっ!?だってこの国の王女様を前にしてあんな風に・・・・・」

「いいんですよ。私はゆりかご生まれの正統王女と言っても、本当は継承権が低いですから・・・・」

「ゆりかご生まれの・・・・正統王女?」


 唖然とした表情の零にオリヴィエは笑みを浮かべていた。そんな中、零はオリヴィエの言った“ゆりかご生まれの正統王女”という初めて聞いた言葉に頭を傾げた。


「あの、陛下」

「はい、何です?」

「ゆりかご生まれの正統王女ってどういうことです?」

「ああ、それはですね・・・・・」


 零の質問にオリヴィエは、ゆりかごについて零に簡単ではあるが話をしてくれた。ゆりかごとは、このベルカに存在するある物体で、聖王家一族の発祥の地ともいえる場所とも言えるものらしい。聖王家の者はゆりかごからの中で生まれ、そこで育ち、そして死んでいく・・・・・そのことから“ゆりかご”と呼ばれるようになったという。


「私もゆりかごの中で生まれたんですけど、聖王家の方々は私一人というわけではなく、ここにはいませんが他にも正統王女の称号を持っている方がいますから、私は他の方より継承権が低いんです。ですから零さんも、こういった公式の場以外では気軽に話し掛けてくれても結構ですよ」

「はっ、はぁ・・・・・」


 オリヴィエは説明をしながらも、公式の場以外では気軽に話をしても構わないと零に笑顔で話す。そんなオリヴィエに零は自分の想像していた王女様イメージが何処となく崩壊していくような気分になった。


「あっ、そういえば陛下。先日お話していた私の【預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)】に書かれていた予言の件なのですが・・・・」

「はい、あれから何か進展があったのですか?」

「はい。実は昨日が丁度ページの作成の時期であり、内容が次元からの侵略者の襲来の記述の先の文面が書き足されました」


 エルフィスとの口論の末、暴れだしたエルフィスの頭を押さえていたクリフは、何かを思い出したかのようにエルフィスを押さえ込むと、オリヴィエに何やら“予言”という言葉をかけると、ジタバタしていたエルフィスが「ピタッ」と動きを止めた。


 クリフは身なりを整えると、懐から紙の束のようなものを取り出し、縛ってある紐を解くと足下にベルカ式の魔法陣が展開、するとクリフの周囲に紙の束が光を放ちながら空中に浮かび上がった。


「新たに示された記述にはこう記されています。“次元の狭間から出現した侵略者、騎士の住む世界を滅ぼそうと画策する。しかし同じ次元の狭間から現われる蒼き巨人が現われ、世界を統べる王達と共に、無限の名をもつ侵略者に挑む”・・・・ここまで記されました」


 クリフの周囲を回っている紙の中の一枚がクリフの前に浮かび上がり、その紙に記されている文章をクリフが読みはじめた。その内容に皆が静かに聞き耳を立てた。


「蒼き巨人・・・・それって零さんの事じゃないですか?」

「えっ?」

「だって、零さんの纏っているガイバーの鎧って蒼い色をしてますし、もしかしたら零さんのことを差しているんじゃないかと思ったんだけど・・・・あっ、でもそんなに巨大って訳でもなかったかな?」


(蒼き巨人・・・・まさかギガンティックの事か?でも今の俺にはギガンティックにはなれない・・・・)


 予言の内容を聞いたエルフィスは、話の中にあった蒼き巨人のことは零のことではないかと推測する。だがそんな中、零は心の中で“蒼き巨人”という言葉に真っ先に思いついたことがあった。それは闇の書の闇、闇統べる王との戦いで自身が纏っていた巨人殖装【ギガンティック】の事であると直感的に感じた。


 だが、闇統べる王との戦いの最中、何者かの介入のせいで巨人殖装が強制解除され、零の姿は元のガイバーゼロに戻ってしまい、戦闘中に何度も巨人殖装を呼び戻そうとしたが、何故か巨人殖装は再殖装できなかった。


(しかしクリフさんの言っていた無限の名をもつ侵略者・・・・・何だろう。どうも気になる・・・・)


 予言の中に出ていたギガンティック以外の言葉、無限の名をもつ侵略者・・・・・ベルカに侵略してきたのがゾアノイドだとしたら、無限という名をもつ相手もゾアノイド。だが零はその言葉に何か引っかかっているかのような違和感を感じていた。まだ思い出していない記憶の中に、無限を冠する名のゾアノイドがいたような・・・・・・





















_________________





















 オリヴィエとの謁見が終わり、零とエルフィス、クリフの三人は謁見の間から退出し、クリフが先に進み、次にエルフィス、そして零と続く。


「それでは私は自分の仕事に戻る」

「ちょっと、クリフ!もう仕事に戻るの!?」

「当たり前だ。こうしている間にも相手は王都や他の防衛拠点を攻めようとしているかもしれないんだぞ」


 途中の分かれ道でクリフは仕事に戻ると行ってしまい、廊下にはエルフィスと零だけになり、エルフィスは「ふう」と溜息をつく。


「ごめんなさいね、零さん。クリフは見た通りのカタブツで・・・・」

「いえ、こんな時代では、ああいった人もいないと大変でしょう?」

「そうですけど、あそこまで人付き合いの悪いのは考え物よ」


 廊下を二人で歩いているエルフィスと零。エルフィスはクリフの事を仕事一点張りの堅物だというが、零から見てみればクリフの方が一番真面目に見えてしまった。そう考えながらエルフィスの後を付いて行く零だったが、ふと何処に行くのかと疑問に思った。


「あの~エルさん。これから何処に行くんですか?」

「えっ?何処って・・・・私の研究室!」

「へっ?」


 零の問いにエルフィスは振り替えりながらニコニコと笑みを浮かべて零を見ながら答えた。


「研究って・・・・一体何をの?」

「ふふふっ・・・・・」


 自分の研究室に連れて行くと言うエルフィスの表情は笑っているが、零には目の前にいるエルフィスは、まるでモルモットに知的好奇心を駆り立てられたマッドサイエンティストの顔になっていた。


「エッ、エルさん!!落ち着いて。・・・・っていうか目が怖いです!」

「大丈夫ですよぉ~。怖くありませんからぁ~」

「ここから逃げ・・・・って!?」


 エルフィスの笑っている顔が恐ろしいと感じた零は、この場から逃げ出そうと思ったが、いつの間にか零の両手首にエルフィスのバインドが発動されてしまい、零は身動きを取れなくされてしまっていた。


「さあ、私の研究に協力してもらいますよ・・・・零・さ・んっ!!」

「ひえぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 バインドで身動きを封じられた零は、エルフィスに強制的に研究室なる場所に連行されてしまった。


 エルフィスは零を引きずったまま研究室の扉を開けるとズルズルと零を連れ込み、研究室の扉を厳重にロックをかけてしまった。


「さてと・・・・・」

「ちょっとエルさん!!研究って何の!?」

「もちろん、ガイバーについての研究です!!」

「へっ?」

「私は考えたんです!もし零さんの纏っているガイバーのような武装や機能を持ったデバイスを開発できれば、あのゾアノイドと対等に戦う事ができると!!」


 エルフィスに何をするのかと問う零に、ガイバーの武装や能力をデバイスで再現できるかもしれないとエルフィスは両手を握って力説した。


「でっ、でもガイバーの武装や能力を再現するなんて無茶ですよ!」

「だからこそ、今ここで零さんがガイバーになって、一つ一つ武装や能力などのデータが欲しいんです!無茶かどうかはそれから考えます!!」

「そんな無茶な・・・・」


 ガイバーの能力を再現するなどベルカの技術では到底無理だという零に対し、エルフィスは零の纏うガイバーゼロを観察し、それを応用できるかどうかを確認してから実用化させようと考えているらしい。


「さあ!さっそくガイバーになって下さい!さあっ!さあっ!!さあっ!!!」


 エルフィスは早くガイバーゼロに殖装してほしいと零の顔に自分の顔を寄せるように迫ってきた。そんなエルフィスの様子に、もはや断ったとしても絶対に引かないと感じた零は、仕方なくエルフィスの研究に協力(強制的に)する事にした。




















___________________




















「ふむ、ふむ。ガイバーの両肘の突起物は高周波で振動する刃で、対象物を一刀両断してしまう武装・・・・・額の部分は体内の余剰熱を排出すると同時に武器として利用した光線を発射する武装っと・・・・・」

「・・・・・・」


 エルフィスの研究室に連れて来られた零は、ガイバーゼロに殖装するように言われ、ガイバーゼロとなった零をエルフィスはマジマジと観察しながら、ガイバーゼロの身体を触れたりしていた。そんな中、ガイバーゼロは全く身動きがとれず、自分の体を触るエルフィスの手の動きが妙にくすぐったく感じた。


「そういえばガイバーの鎧って、妙に有機的な感じがしますけど、どうしてですか?」

「それは鎧全体が強殖細胞という細胞で覆っているからですよ」

「強殖・・・細胞?」


 ガイバーの肉体に触れていたエルフィスは、鎧の表面が随分柔らかいような感触があることに気づくと、零はガイバーの肉体を構成している細胞“強殖細胞”の事を話すと、エルフィスは聞いた事の無い単語に頭を捻りつつも、その瞳に一層の輝きを見せ始めた。


「鎧を構成する細胞・・・・・一体どんな細胞なんだろ?ちょっと採取させてください!!」

「あっ、痛っ!」


 再びガイバーゼロの身体を調べ始めたエルフィスは、突然懐から小刀を取り出してガイバーゼロの手の甲の皮の一部を剥ぎ取り、採取した皮を手早く顕微鏡にセットして観察し始めた。手の甲の皮を剥ぎ取られたガイバーゼロだったが、ほんの一部を剥ぎ取られただけだったので剥ぎ取られた場所はすぐに強殖細胞が活性化して元に戻った。


「うわぁ~、こんな細胞見たことが無い・・・・・」

「そりゃ、そうですよ。この世界には存在しない細胞なんですから・・・・」


 顕微鏡を覗いて強殖細胞を見ていたエルフィスは歓喜の声を上げ、そんなエルフィスにガイバーゼロはこの強殖細胞がベルカの世界には存在しない細胞なのだと言う。だがその時、突然「ピキッ」という音がガイバーゼロの耳に届き、エルフィスの方を見るとエルフィスは顕微鏡から離れ始めていた。


「どっ、どうしました!?」

「れっ、零さん!!きゅっ、急に細胞が!!」


 慌てるエルフィスにガイバーゼロは顕微鏡を見ると、ガイバーゼロから採取した強殖細胞が活性化して顕微鏡から飛び出してきた。しかも強殖細胞はもの凄いスピードで細胞分裂をはじめ、徐々に巨大化し始めているではないか。


「不味い!早く焼却しないと!!」


 このまま放置したりしたら強殖細胞がどんどん巨大化してしまうと思ったガイバーゼロは、ヘッドビームを連続発射して強殖細胞を焼却処分しようとした。ガイバーのヘッドビームの直撃を受けた強殖細胞の所々に穴が開き、ヘッドビーマーから発射された熱で強殖細胞は燃え上がって消し炭となった。幸い、顕微鏡から飛び出した強殖細胞の大きさがまだ饅頭サイズくらいだったので、容易に焼却できた。


「ふう。なんとか無事焼却できましたね・・・・」

「そっ、そうですね。でもまさかいきなり活性化するなんて・・・・」


 何とか強殖細胞の焼却に成功したことに安堵するガイバーゼロに対し、いきなり活性化した強殖細胞の細胞分裂速度の速さにエルフィスは驚いていた。



















____________________



















 それから数時間経過したのか、エルフィスは「ガイバーの武装などは何とか再現できるかも」とブツブツ独り言を言いながら、インクを付けた羽ペンをサラサラ揺らしながら紙に何かを書き込んでいた。


 その後、ガイバーゼロの戦闘能力を改めて確認したいと言うエルフィスにつれられて、再び零はエルフィスと共に廊下を歩いていた。ちなみに研究室から出る前に零は殖装を解除して零の姿に戻っていた。


「エルさん、今度は何処に行くんですか?戦闘能力を見るといっても、広い場所があるんですか?」

「ええ、もちろん!ここは王都ですから護衛の騎士や新米などの訓練場がこの先にあるんですよ。今ちょうど騎士たちの訓練が休憩時間のはずですから、そこでデータを取ります」


 零の質問にエルフィスは当たり前のように答えた。まあここはベルカの中心とも言える場所・・・・・それなら訓練する場所なども、もちろん存在しているのも当たり前なんだと零は思った。


 暫く歩いていると、廊下の先にドーム状もある広い場所に出た。しかし広場には誰もいないはずなのに何処からかぶつかり合うような音が響き、零は周囲を見渡して音の正体を探した。


「エルさん、ここに誰かいるんですか?」

「ああ、またやってるみたいね」

「また?」

「ほら、あれ」


 キョロキョロと首を動かしながら零はエルフィスに質問すると、何やら理由を知っているかのような物言いのエルフィスはある場所を指差した。エルフィスの示した方向に零は視線を向けると、そこにいたのは先程のドレス姿ではなく、動きやすい格好になっていたオリヴィエの姿があった。


 そしてもう一人、オリヴィエと対峙している人物がいたが、その人物は零がまだ出会った事のない人物がいた。


「あれ、オリヴィエ陛下ですよね。もう一人の人は誰ですか?」

「あっ、零さんはまだ会ったことがありませんでしたね。あの人は前に話したシュトゥラの国の王子様ですよ」


 零の質問にエルフィスは、前にエルフィスの滞在していた防衛任務に就いていた陣内でゾアノイドの出現し出した地点の話をしてくれた際に、説明してくれたシュトゥラという国の王子がこの王都に滞在しているという話を聞いた事を零は思い出した。


 暫く二人の訓練を見ていると、両者拳をぶつけ合って暫く動かなくなり、ゆっくりとした動作で手を引くとお互いに礼をして何やら会話をしだした。


「あっ、どうやら終ったみたいね。オリヴィエ陛下ぁ~」


 二人の訓練が終ったのだろうと思ったエルフィスは大声を上げて手を振ってみると、オリヴィエはエルフィスと零の存在に気づいたのか手を振って答えた。そしてオリヴィエは一緒にいる人物に少し話した後、エルフィスと零の方に向かって歩いてきた。


「エル、それに零さん、どうしたんですか?」

「いえ・・・・実は・・・・」

「私のちょっとした研究に協力してもらっているんです。それでここを使わせてもらおうと思いまして」


 オリヴィエはエルフィスに声を掛けると、エルフィスは自分の研究に零の協力が必要で手伝いをしてもらっている事をオリヴィエに話す。そんな中、オリヴィエと一緒にいた人物と零と目が合った。


「零さん紹介します。この人はシュトゥラ国の王子【クラウス・イングヴァルト】。私と幼馴染であり、共に武を競い合っているライバルです」

「クラウス・イングヴァルトです。あなたの事はオリヴィエから聞いています。何でもあの侵略者の手からオリヴィエを救ってくれたそうで、ありがとう」

「あっ、はいどうも。零といいます。こちらこそ見ず知らずの自分をこうして置いてくださってくれているオリヴィエ陛下には感謝しています」


 【クラウス・インクヴァルト】という名の青年のことをオリヴィエに紹介してもらった零は、クラウスから差し出された手を握って握手を交わした。


「ところで・・・・・」

「えっ?」

「あなたがあの侵略者を退けるほどの力を有しているそうで、その実力・・・・試させてもらいます!!」


 握手を交わしていると、突然零の体が宙を舞った。そして一瞬にして零は地面に叩きつけられ、背中に痛みが走った。零は何が起きたのか分からず、暫く唖然となってしまい、ようやく自分が投げ飛ばされたのだと認識した。


「いたたたっ」

「えっ、あっ、あれ?」


 何の抵抗も無く投げ飛ばされ、何の受身も取らず地面に伏した零の様子に、クラウスは唖然とし、オリヴィエとエルフィスも同じような表情になっていた。


「れっ、零さん!大丈夫ですか!?」

「オリヴィエ、話が違うじゃないか!彼はあの怪物たちを退けるほどの実力を持っていたんじゃないのか!?」


 クラウスに投げ飛ばされた零にエルフィスは大急ぎで駆け寄り、クラウスはオリヴィエに何やら聞いていた事とは違うと言い出した。どうやらクラウスは、ゾアノイドを相手にして対等・・・・いや、圧倒するほどの力を零は有していると思っていたらしい。


 だが、クラウスは知らない。ゾアノイド相手に圧倒的な力を見せつけていたのは零自身の力ではなく、“ガイバー”という力であったことを・・・・・


 




























 第34話完成・・・・・・


 あ~なんだかネタが思い浮かばない、これがスランプというものか・・・・

 こうもネタが思いつかないと、この小説が無事完結できるか心配になってしまう時があります・・・・でも話の流れは出来ているのにな~


 まあそんなことはさておき、ガイバーの強殖細胞は、コントロールメタルの破損、及び制御がなくなると侵食されますよね?
 原作ではエンザイムにされた日本支部長との戦闘でコントロールメタルをとられたガイバーⅠがエンザイムに襲い掛かり、エンザイムの自爆で対ガイバー溶液で溶かされましたが、あのまま戦闘が続行されていたらアプトムみたいに取り込んだりしてたんでしょうか?

 分かる方がいたら情報をお願いします。それでは・・・・・
















[15968] 魔法少女リリカルなのは 夜天の主と殖装体0号 第三十五話
Name: 京橋◆ccb2e1b1 ID:9e5f80fb
Date: 2011/03/16 22:06










 ガイバーの戦闘能力を見るために訓練場となっている広場へとやって来た零とエルフィス。しかし訓練場には先客がおり、そこにはオリヴィエとシュトゥラの王子である碧銀の髪に右目が紺色、左目が青色の瞳をもつ【クラウス・G・S・イングヴァルト】という青年がいた。


 そこでクラウスは、初めて出会った零と挨拶を交わすために握手を求められ、零はクラウスの手を握って握手を交わした。しかしクラウスは、オリヴィエから何やら零の事を聞いていたようで、突然零を投げ飛ばしてしまった。


 クラウスによって投げ飛ばされてしまった零は、そのまま宙を舞いながら地面に叩きつけられ、痛がる零にエルフィスが駆け寄り、零を投げた当のクラウスはベルカの侵略者であるゾアノイドを圧倒する力を有しているとオリヴィエから聞いていたようで、試しに仕掛けてみたようだ。


 しかし零は呆気なく投げ飛ばされ、受身を取るどころが、まるで素人のような倒れ方をしたことで、クラウスは唖然としてしまった。

「あいたたた・・・・・」

「大丈夫ですか?零さん」

「なっ、なんとか・・・・」


 クラウスに投げ飛ばされ、背中から地上に落下した零は、エルフィスの手を借りながら何とか起き上がった。その光景にクラウスは唖然としつつもオリヴィエに向き合った。


「オリヴィエ、コレは一体どういう事だ?彼はあの侵略者を圧倒する実力を持っていると聞いていたのですが・・・・・」

「ええ・・・・そうなんですが・・・・」


 クラウスはオリヴィエに聞いていた話とは違うと言うと、オリヴィエもどういうことか混乱してしまっていた。


「もうクラウス様!いきなり投げ飛ばすなんて何を考えているんですか!!」

「いや・・・・彼があの侵略者を相手に圧倒的な力を見せたという話を聞いていたもので、少し試してみたんだが・・・・・申し訳ない」

「いっ、いえ・・・・・大丈夫です」


 零の背中を摩りながらエルフィスは、クラウスに初対面の人間をいきなり投げ飛ばす行為を指摘し、クラウスは零に謝罪し、零も痛む背中を我慢しながら大丈夫と答えた。


「それで零さん、動けそうですか?動けるのならデータ取りをはじめたいんですが・・・・」

「ええ、はい」


 痛みに耐えている零の姿を見たエルフィスは大丈夫ならガイバーの戦闘能力のデータを取りたいと尋ねてくるが、零は平気だと言ってエルフィスの傍から離れていき、深呼吸をした。そんな中クラウスは「何のデータ取りなのだろう?」と不思議そうな表情をしていた。


「ふぅ~、コネクトッ!!」


 零の叫び声と共に眩い光が零を覆い、零の背後から蒼い殖装体が出現し、瞬時にバラバラになり、零の腕、零の脚、零の胴体、そして零の頭部を包み込み、零の姿は瞬く間にガイバーゼロへと殖装した。


「なっ!?零さんが・・・・あの姿は一体!?」

「クラウス、あれが零さんの武装形態みたいなものよ。そして、あの侵略者に対して圧倒的な力を見せた姿とも言えます」


 ガイバーゼロへと殖装した零の姿に驚くクラウスに対し、戦場で何度も目撃していたオリヴィエは少し笑みを浮かべ、ガイバーの姿を見たエルフィスは目を輝かせてガイバーゼロの傍へと駆け出した。


「さ~て、零さん!ちょっとしたトラブルがありましたけど、さっそくデータを取らせてください!!」

「データを取るといっても、一体どうすれば?」

「そうですね・・・・・私のウンエントリヒ・ヤークトを仮想標的として戦ってみてください」

「えっ?え~と・・・・ウンエンなんとかって、確か無限の猟犬って呼ばれていたあの犬達ですよね?あれって傷つけたりしても大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。あの子達は傷付いたりしても、私の魔力を使用すればすぐに修復可能ですし、何よりすぐに増やせますから(笑)」


 クラウスに投げ飛ばされるというアクシデントがあったが、エルフィスは特に気にもしていない様子でガイバーゼロの戦闘能力のデータを取ることにやや興奮気味でガイバーゼロに話す。


 そんなエルフィスにガイバーゼロはどうやってデータを取るのかを尋ねてみると、どうやらエルフィスは、自身の魔法である【ウンエントリヒ・ヤークト】を使用した猟犬を相手にガイバーゼロが戦闘を行うことでデータを収集しようと考えていたらしい。


 しかし、いくら相手が魔法で構成されているとはいえ、戦っても大丈夫なのかと不安になるガイバーゼロだったが、当の本人は「大丈夫」と笑いながら気にしていない様子で話した。


「それじゃあ始めましょうか!出てきてっ!!」


 エルフィスの掛け声と共に彼女の足下にベルカ式の魔法陣が展開され、エルフィスを囲むように黒緑色の猟犬が数体出現した。そして猟犬たちは一斉にガイバーゼロのほうへ駆け出し、ガイバーゼロを中心に周囲に回り込んで逃げられないように取り囲む。


「零さん、行きますよ!攻撃開始!!」


 右手を掲げたエルフィスは元気よく手を振り下ろすと同時に、無限の猟犬たちは一斉にガイバーゼロに飛び掛ってきた。迫りくる猟犬の攻撃に対しガイバーゼロは、ヘッドセンサーの機能を使って猟犬の動きを察知し、どの方向に動けば避けられるかを予測して襲い掛かってくる猟犬の合間を縫うように移動する。


 すると猟犬の攻撃は悉く回避され、猟犬の攻撃は空振りに終ったと思いきや、すぐさまガイバーゼロに目標を定め、攻撃を仕掛けてくる。そんな猟犬に対し、ガイバーゼロの額が赤く光だし、そこからヘッドビームが猟犬の一匹に向かって発射され、猟犬は見事に撃ち抜かれた。


 そして他の猟犬には拳や蹴りなどを組み合わせて攻撃をし、次々と猟犬たちを撃退していく。その様子を見ていたエルフィスは目を輝かせ、オリヴィエとクラウスは先程の零とは全く動きが違う事に驚いていた。


「オリヴィエ、彼の動きが先程とは比べられないほどに変わったが、アレが本来の彼の動きなのですか?それに額から何か光の矢が放たれたようにも見えましたが・・・・」 
「そう。あれが鎧を纏った時の彼の動きです」

「・・・・・・」


 ガイバーゼロの動きをクラウスは「ジッ」っと観察しながらも、何か思ったかのような表情でガイバーゼロと猟犬との戦いを観察していた。


 オリヴィエとクラウスが見学している中、ガイバーゼロは殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりと猟犬の攻撃を避けながらも反撃に移るが、突然脚が幽霊のようになった猟犬が出現し出し、拳で攻撃しようとするガイバーゼロの脇を通り抜けて背後を取られてしまい、背後から噛み付き攻撃を受けてしまう。


「ぐっ!」

「さあさあ、まだまだ行きますよ!!」


 背後からの攻撃を受けたガイバーゼロに、エルフィスは猟犬を生み出しながら浮遊型の猟犬も混ぜながら再度攻撃を開始する。ガイバーゼロは拳や蹴りなどでは先程の二の舞になると踏んだのか、コントロールメタルに意識を集中させて両肘の高周波ソードを展開、そのまま猟犬の群れに向かって駆け出し、高周波ソードを構えながら通り抜ける。


「おおっ!!」

「なんと!魔力で構成されたエルフィスのウンエントリヒ・ヤークトを切り裂くとは・・・・・」


 エルフィスの無限の猟犬たちは綺麗に真っ二つになってしまった。ガイバーゼロの高周波ソードの威力に歓声を上げるエルフィスに対し、さすがのクラウスはエルフィスの猟犬を真っ二つにしたガイバーゼロの攻撃法に驚いていた。


「零さん!今のがあの高周波ソードという武器ですか!!?」

「えっ?ええ、そうですよ」

「凄い・・・・あの侵略者もいとも簡単に切り裂いたのは見たことあるけど、まさか魔力で構成しているモノまで切り裂く事が出来るなんて・・・・・」


 ガイバーゼロの高周波ソードの威力を目の当たりにしたエルフィスは、ベルカの武器でも切り傷をつけるのが精一杯のゾアノイドを、切り傷ではなく簡単に切り裂いてしまう高周波ソードは、魔力で構成している物体ですら切り裂いてしまう事に歓喜の声を上げつつも驚きの余り口が塞がらなくなってしまった。














____________________















 それから暫くウンエントリヒ・ヤークトで戦闘能力のデータ収集を行なった後、今度は運動能力などのデータ収集に移った。


「それじゃあ今度は運動能力のデータ取りに入りましょうか」

「運動能力のデータ・・・・というと、具体的にどうすれば?」

「そうですね。まず跳躍力・・・次に移動力・・・そして最後に瞬発力・・・・その他諸々のデータがほしいですね」

「分かりました」


 データを取る為に必要な部類の説明をエルフィス聞いた後、ガイバーゼロはエルフィスの指示通りに動こうと思った・・・・その時だった。


「あっ、零さん。ちょっと待ってください」

「えっ?」


 突然エルフィスがガイバーゼロを呼び止め、傍までくると右腕に何か紐のようなモノを巻きつけ始めた。


「?エルさん、コレは一体?」

「本当は戦闘能力を取った時みたいに、私のウンエントリヒ・ヤークトで行なおうと思ったんですけど・・・・」

「けど?」

「どうせならもっと緊迫した状態での運動データがほしいので、オリヴィエ様とクラウス様にも協力してもらおうと思います!」


 エルフィスの巻いた紐を不思議そうに眺めているガイバーゼロの質問に、エルフィスは本格的な運動能力のデータがほしいから、ずっと見学していたオリヴィエとクラウスにも協力をお願いしようとしていたようだ。


「でっ、でも!オリヴィエさんもクラウスさんも王族としての仕事があるんじゃあ・・・・」

「私は別に構いませんよ。先程から見ていましたが、零さんの纏っているガイバーがどのような性能を持っているのか興味が沸きました」

「・・・・・僕も少し興味がでました。ですから協力しましょう」

「・・・・と、お二人とも結構ノリ気なので、ルールを説明します」


 まさかのオリヴィエとクラウスの参戦に、ガイバーゼロは仕事などはいいのかと思ったが、どうやら二人ともノリ気であり、その様子を見ていたエルフィスはさっそくガイバーゼロの右腕に巻きつけた紐についての説明と、何やらルールを語り出した。


 ルールは簡単・・・・ガイバーゼロの腕に巻かれた紐をオリヴィエとクラウスのお二人が奪いにやってくるので、ガイバーゼロは紐を奪われないように逃げる・・・・というモノだった。


「まあ・・・・ルール自体は理解できましたけど・・・・」

「ハァァァァッ!!」

「せいやぁぁぁぁぁッ!!」

「こんなのっていくらなんでの無しでしょぉぉぉぉっ!!フツゥゥゥゥッ!!」


 ガイバーゼロは訓練場を駆け回って逃げていた。ガイバーの能力をフルに駆使して全力で逃げていた。何故かというと、ガイバーゼロの腕に巻かれている紐を手に入れるために、オリヴィエとクラウスがほぼ全力全開の状態で攻撃しながら追いかけてきていたのだ。


 実はエルフィスはガイバーゼロには内緒でオリヴィエとクラウスに“少し”本気でガイバーゼロを追いかけるように話していたらしい。それを聞いたオリヴィエとクラウスは“少し”本気を出しつつガイバーゼロを追いかけながら攻撃していた。


「うわぁぁぁっ!!」

「ほら零さん!早く動かないとその紐を奪っちゃいますよ!!」

「くっ!!」


 拳にオーラを纏わせたオリヴィエの攻撃をヘッドセンサーやグラビティコントローラーを使用してガイバーゼロは紙一重のところで回避してかわす。さすがのガイバーゼロのヘッドセンサーでも、オリヴィエの鋭い拳の切れを見切るのがギリギリらしく、零自身の脳に直結しているとはいえ反応速度が追いつくのが精一杯だった。


「でりゃぁぁぁっ!!」

「うわっと!」


 さらにオリヴィエに続いてクラウスもシュトゥラの王子に相応しいほどの鋭い動きでガイバーゼロの腕の紐を奪おうと迫ってくる。オリヴィエとクラウスの動きはまるでダンスをしているかのような華麗な動きでコンビネーションも抜群だった。


 それに対しガイバーゼロは、殖装体の機能をフルに使ってオリヴィエとクラウスから逃れようと必死に動き回る。そして腹部のグラビティコントローラーを使用して空中に逃亡しようとするが、そこへウンエントリヒ・ヤークトの猟犬が飛来し、ガイバーゼロは咄嗟に回避しつつ地上に降りてエルフィスのいる方を見ると、そこにはニッコリと笑みを浮かべているエルフィスの姿があった。


「零さん、空に逃げるのは無しですよ」

「いやっ、二人とも本気(マジ)でやってませんか!?」

「いいえ~オリヴィエ様とクラウス様は少ししか本気を出していませんよ。す・こ・し・しか!!」

「あっ、あれで“少し”!?」


 エルフィスの言うオリヴィエとクラウスの“少し”という言葉・・・・零にとっては明らかに二人とも本気でかかってきていると思った。しかし零は、オリヴィエとクラウスは本当にアレで“少し”しか力を出していないという話が真実なら、それをギリギリで避けている自分は・・・・ガイバーを纏わなければ絶対に太刀打ちできないと思った。


(・・・・・俺はこのままでいいのだろうか・・・・・?)


 ガイバーを纏う零は、心の中でガイバーの纏っていない時の自分はとてつもない貧弱な存在ではないかと考えてしまった。今まで何気なく強敵が現われればガイバーを纏って戦えばいいと思っていたが、闇の書の残滓との戦いや、このベルカでの戦いを経て、零自身「ガイバーを纏わず、自分自身が強くならなくてはいけないのではないか?」とオリヴィエとクラウスからの猛攻から逃げながら考えていた。















________________















 それから数十分後・・・・・エルフィスの策略でオリヴィエとクラウスの予想外の参戦でガイバーゼロは全力で逃げ切ったかに見えたが、最後の最後でクラウスに足止めされてしまったガイバーゼロはオリヴィエに隙を突かれ紐を取られてしまった。


 しかしそれでもガイバーゼロはオリヴィエとクラウスの王族二人を相手にして約三十分間は逃げ続け、ガイバーの運動能力を目の当たりにしたエルフィスは満足したかのような表情でウキウキとしていた。


「いやぁ~零さん、さすがはガイバーですね。まさかオリヴィエ様とクラウス様からあれだけの時間を逃げ切れるなんて・・・・ってあれ?」

「・・・・・・・」

「零さん?」


 ベルカでもかなりの実力をもつオリヴィエとクラウスの攻撃から長時間逃げ切ったガイバーゼロの運動能力に大満足のエルフィスは上機嫌であった。しかし殖装を解除して元の姿に戻った零は黙ったまま何かを考えているかのような仕草をしていた為、エルフィスはどうしたのかと思った。


「零さん、どうしたんですか?」

「オリヴィエ陛下、折り入って頼みたい事があるんですが・・・・」

「なんです?」

「俺に武術を教えてください!!」

「ええっ!?」


 零の様子にオリヴィエは声を掛けると、突然零は自分に武術を教えてほしいと頭を下げて言い出した。その一言にオリヴィエは声を上げて驚き、その声に反応してクラウスもエルフィスもオリヴィエの方に振り返った。


「れっ、零さん!?どうしたんですかいきなり!?武術を教えてほしいって・・・・零さんは今でも十分強いじゃないですか!」

「・・・・確かにガイバーを纏っている今の状態の俺は強いかもしれない。けど、今日オリヴィエ陛下とクラウス王子の猛攻から逃げている際に思ったんです・・・・いくらゾアノイドを倒せる力を有していても、それは所詮“ガイバー”という鎧の力であって自分自身の力じゃないと思ったんです」

『・・・・・・・』

「それで考えたんです。ガイバーを纏わない状態でも少しでも自分を鍛えてみようって・・・・・そうすればガイバーを纏った後でも多少でも強くなれるかもって・・・・・」


 零の一言にエルフィスは何故武術を教えてほしいのか尋ねてみた。まあエルフィスから見ればガイバーを纏っている零は十分過ぎるほど・・・・いや、オリヴィエとクラウスにも引けを取らないほどの実力を有していると思っていた。だが、零が自分自身を鍛えればガイバーを纏った際に少しでもプラスになるんじゃないかと言い、その零の言葉をエルフィス、オリヴィエ、クラウスは真剣に聞いていた。


「・・・・申し訳ありませんが零さん、実は僕も思っていたんです。零さんはガイバーを纏っていない時と、ガイバーを纏っている時との気配が違うような気がしたんです」

「はい・・・・ですから、自分を鍛えてもっとガイバーの力を引き出す為に、稽古をお願いしたいんです。あっ、でも、時間がある時で構いませんから」

「・・・・・・零さんの意志は分かりました。なら私が時間がある時に稽古をつけてあげます」

「それなら僕も付き合いますよ。オリヴィエが仕事で手が空いていない場合は僕が代わりに稽古をつけてあげますよ」


 クラウスは初めて零と握手を交わした際に違和感を感じていた。もしガイバーを纏っている時の実力を零も有していたのなら、あの時の不意打ちも何かしらの反応を見せても良かった筈。だが、零は受身も何もしないで地上に落下した・・・・この事から零自身はガイバーを纏っていなければ、それ程の実力を有していないという事は明白だった。


 零の言葉を聞いたオリヴィエは、自分の時間がある時に稽古をつけてあげると言い、オリヴィエが仕事などで手が空いていない場合はクラウスが代わりに稽古をつけると言ってくれた。














________________














「それにしても零さんもチャレンジャーですよね。まさか聖王女陛下であり、武術ではベルカ一の実力者であるオリヴィエ陛下と、シュトゥラの王子でオリヴィエ陛下と同レベルの実力を持つクラウス王子に稽古をつけて欲しいだなんて言うとは・・・・・」

「このご時世で、すぐに実力をつけるには実力のある人から稽古をつけてもらったほうが効率がいいと思いまして・・・・・」

「でも、あのお二人はかなり容赦ない稽古をしてくると思いますから、気をつけてくださいね」


 訓練場でのガイバーのデータを収集を終えたエルフィスと零は一旦研究室に戻る為に廊下を歩いていた。ちなみにオリヴィエは訓練場を出たところで側近の方が現われ、王女としての仕事ができたため謁見の間へと戻り、クラウスは自分の部隊の鍛錬の監督をしに戻っていった。そのため零との稽古は一先ず午後からクラウスが担当する事になった。


 研究室に戻ったエルフィスはさっそく収集したデータを資料にまとめ始め、零は改めて研究室の室内を見渡してみた。エルフィスの研究室は色々な資料をまとめた紙束が大量にあり、紙に書かれたの内容を確認しようとしたが、ベルカで使われている文字のせいか、それとも書いた本人であるエルフィスにしか理解できないような文字で書かれていたため理解できなかった。


「あっ!!いけない、もうこんな時間じゃない!!」

「?どうしたんですかエルさん」

「今日は“あの子たち”の調整の日だった!!こうしちゃいられない!!」


 資料をまとめていたエルフィスは一度懐中時計を手に時間を見ると、突然大声を上げ、研究室を駆け回って必要な道具を集め始めた。零は一体どうしたのかと尋ねてみると、エルフィスは“あの子たち”やら“調整”だと言いながら急ぎ準備をしだした。


「あっ、零さん!一緒に来て下さい!!ついでにガイバー型のデバイスの形状などの話もしたいんで!!」

「えっ!?ちょっ、ちょっと!!?」


 エルフィスは必要な道具を手に、ガイバーの能力を反映させたデバイスの形状の話しついでに零も一緒に来るように言うと研究室を飛び出して行き、零も慌ててエルフィスの後を追うように研究室から飛び出した。


 廊下を走るエルフィスは道が分かっているためかどんどん進んでいくが、城の構造が分かっていない零は、走るエルフィスの後を追うのが精一杯で、エルフィスが途中の角を曲がる度に零は急ブレーキをかけて方向を変えてエルフィスの後を必死に追った。


 そして暫くした後、エルフィスは息を切らしながらある扉の前で停止し、零も少し遅れてやってきた。


「ハァハァ・・・・・こっ、ここですか、エルさん?」

「ええ、ふぅ・・・・」


 息を切らしているエルフィスと零は走ってきた事で心拍数が上がっている心臓を落ち着かせようと深呼吸をして呼吸を整えながら身だしなみを整える。そして息が整い心拍数も落ち着いた頃にエルフィスと零は、扉を開けて室内へと入った。


 室内にいた研究員はエルフィスの顔を見た途端、頭を下げて挨拶をするが、一緒にいた零には警戒するかのような仕草をする。しかし「この人は私の知り合いです」と言うエルフィスの言葉に、若干なれど警戒を解いてくれた。


 零は室内を見渡してみると、いくつもの液体の入ったカプセルが何本も置かれており、その中には剣や槍や斧といった形状をした武器が入っていた。カプセル内のデバイスを零は眺めていると、少しながらもシグナム達のデバイスであるレヴァンティンやグラーフアイゼンに似ている部分も多く見取れた。


「あっ、エルさん、あれってデバイスですか?」

「そうですよ。と言ってもまだまだ調整段階ですけどね・・・・・」

「あれがさっき言っていた“あの子たち”ですか?」

「いえ、私の心配していたのはこの子たちですよ」


 零の質問にエルフィスはカプセル内の武器がデバイスである事を教えてくれた。しかし先程エルフィスの言っていた“あの子たち”とはデバイスの事ではなく、エルフィスは目の前にあったカプセルを指差した。


 エルフィスの指差した方に零が視線を移すと、そこには他のデバイスの入っているカプセルとはかなり大きさが違う二つの小さなカプセルがあった。そのカプセルを覗き込んでみると、そこには赤髪と青髪の小さなお人形サイズの女の子が入っていた。


「えっ?これって・・・・・女の子ですよね?何でこんなに小さいんですか?」

「あれ?零さんは【ユニゾンデバイス】って見たことが無いんですか?」

「ユニゾンデバイス?・・・・確か術者と融合する事ができるっていう?」

「そうですよ・・・・・って零さんって結構デバイスについて知っているんですね?ちょっと意外です」

「実はユニゾンが出来る子が身内にいましたから。でも詳しくは知らないんですが、とりあえず“融合する事で力を発揮する”、という事だけなら分かります」


 カプセルに入っている身長30センチほどの大きさの女の子二人のことを、エルフィスは【ユニゾンデバイス】通称“融合騎”であることを説明してくれた。ユニゾンデバイスという言葉を聞いた零はふいにはやてとリインフォースの姿が頭を過ぎった。


 リインフォースは元々【夜天の書】の管制人格であり、術者と融合する事で術者の能力を底上げできるユニゾンデバイスだった。しかし闇の書の闇に機能の殆どを持っていかれたことではやてとのユニゾンが不可能になってしまった。


「ってことはこの子らには術者の方がいるんですか?」

「いえ、まだ未完成の状態で、まだまだ調整が必要でまだ術者はいない状態なんです。でもいずれはこの子達の属性と合う魔導騎士と出会って力を発揮してほしいと思っています」


 零の質問にエルフィスは二つのカプセルを撫でながらいずれは彼女達が本領を発揮できる魔導騎士に出会ってほしいと話してくれた。そんなエルフィスの表情はまるで子を思う母親のような感じだった。





































 第35話完成!

 いや~なんだがオリヴィエとクラウスがキャラ崩壊を起こしているかのような感じになってしまった。とはいえVividの方ではオリヴィエとクラウスはほんのちょっとしか出ていませんし、回想シーンはゆりかごに向かうオリヴィエとそれを止めようとするクラウスのシーンと、合宿でルーテシアの本でのシーンしか出てこないので具体的な性格が明確になっていませんから「これでもいいかな?」と思ってしまいましたw(でも一応お互い丁寧語で喋っていたそうです)

 でも作者は、ゆりかご暴走は聖王家の継承権の高い人が暴走を引き起こし、それをオリヴィエが止めに向かったと解釈しています。真相はどうなんでしょうか?

 しかしこの作品は一応StSまでにしようと考え中ですが、Vividも少し絡ませようと思っています。零とヴィヴィオとアインハルト・・・・・時を超えた出逢い的に感じに(笑)


 そしてPSPで発売するという新しいなのはゲーム。皆さんは知っているかもしれませんが、なにやらヴィヴィオとアインハルト、そしてもう一つの物語の主人公トーマが参戦するそうで、アインハルトとトーマの声優さんが誰になるのか非常に気になりますw

 ところでふと思ったのですが、イクスの使徒的な存在であるマリアージュ・・・・あれってゾアノイドに置き換えたらリベルタスみたいな感じになりませんかね?イクスがグリセルダな感じで・・・・・・どう思います?






 



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