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[26529] 蟲達の作る因果律(伝奇モノ?)
Name: ピングーの首◆3ff6d448 ID:908f7153
Date: 2011/03/16 12:26


彼女は、ある時、自分は救われない人間だと言っていた。
その何気ない発言に、誰に、と俺は答えた。

今思えば、それは直感的な答えだったけれど、えてして的外れなものでは無かったと思う。
より彼女を知るようになって、俺はその時彼女が嬉しそうな顔をしたという事実だけに、ちょっと驚いて、その後に続ける言葉を見失ったが、より彼女に何か言葉を贈るべきだった。
もっとも、あまり口の廻らない俺が、何を言えたかという問題は有るのだけれど。

救われない人間、それは例えば自分の行動が、無価値、無意味な人間であるという事を指すのかもしれない。
それにしては、彼女は俺を助けてくれたし、そういう意味で彼女がろくでもない人間であるとは俺は思わなかった。
彼女は確かに、似合わない化粧をし、右耳にはピアス、髪は安っぽい金髪の長髪という不良然とした姿ではあったけれど、
その内面は、決して救えない人間であるという評価を人から貰うような人間ではなかった。

日の光の下で、彼女の安っぽい金髪の頭髪が作るエンジェルリングは、見ていて綺麗だ。
警戒心の無い時に見せるレアな表情、ぱちっとした切れ長の目、にっこりと白い歯を覗かせる可愛らしい唇は魅力的だし、時折、押し黙った顔は、ツンとした表情で、彼女の生まれの良さを醸し出し、隠されたお嬢様っぽい表情に見える。

寧ろ、救われない奴、と言えば、自分の事だと思っている。勉強は出来る、スポーツも中学の時に運動部に入っていたから、そこそこに出来る。しかし、高校に入り、自分を見失った俺は、何をするにも熱が入らない。

自分の事をまるで、第三者の様に感じるのは、子供のころからの癖だったが、ここまで酷くは無かった。

恐らく、周囲が進路、言い換えれば、夢というものを探し出す年代になって、改めて自分を見つめ直し、自分が空っぽで虚ろな人間だという事を、実感させられたのだ。白紙の進路希望調査が、俺を端的に現していた訳だ。

俺には、追いかける夢なんて無かった。自分の人生を振り返ると、ただ、怠惰に呼吸をしているだけの人間だったのだ。
自分の好悪を考えず、簡単に言えば、親に教えられた世間一般の価値基準という奴を信奉して生きてきた。
自分でも、環境適応型といえば聞こえは良いが、状況に流されてきたに過ぎない。
死んだ魚の目をしている、と言われるような人間だったのだ。うん、俺は、川を流される死んだ魚だったわけだ。

ただ、何時生きていたの、と言われると頭を悩ませる。生まれたときには、死んでいたのかもしれない。
貴方の息子は、死産だったんですよ、と母親に言った事は無いけれど。そんな事が言えるほど、俺は親不孝者じゃない。

夢なんてものは無いけれど、将来、俺は、何となく、成績が良いので高給取りのサラリーマンになれる、とか考えていたが、そうなったとしても、俺はきっと怠惰な獣権論者になるだろうと明確に察しがついた。
人間の中の獣の権利を訴え、獣の様に、腹と怠惰な心を満たす為にだけに爪を振るい、金を使う。
人の血の味を噛締めて、これが人の社会の厳しさだと安心するような冷血な肉食動物に。

でも、それに夢を持って生きていくなんて、この社会で旨く生きていく為の処世術の様なものなんですよ。
分業が完成された社会で、自分の居場所をここだと言い張り、自分の仕事に万進するためのビジネスライクな考え方なんですよ。だって、そうでしょう、仕事が夢なんて、夢の無い・・・。

君、社会に踊らされてるんですよ、君、この社会の歯車になっても幸せなんて無いんですよ、会社を定年したら、もう足元を掬われるような生き方で良いんですか、とクラスメートを捕まえて、自分の遁世的な意見をぶつけたくなってくる。
モチロン、そんな事はしないし、出来ないんだけれども。
だってそうだろう?そんな事を言うような奴よりも、夢を追ってる奴の方が国家の役に立つじゃないか。
日本国民として、社会性の有る生き方を享受しながら、怠惰に学生生活を送ってるような奴の言える事じゃない。
所詮、そんな考えは、甘っちょろい。理想論でもない。

そんな泡沫的な事を考えながら、クラスメートにそんな事を言った事は無い。
クラスの委員長なんてことを押し付けられてやってはいるが、本当はもっと人望の有るような奴がやるべきで、
将来の冷血な肉食動物候補が成るべきものじゃない。
眼鏡を掛けた委員長然とした外見が災いしたことと、部活にも何も所属していないもっとも暇な男として選ばれたわけだが、もっとも委員長になってはならない男が選ばれたのではないだろうか。
あまり声を大にして俺は委員長であるとは言えない。

そんな俺だったが、彼女と時を過ごす事によって、多少、いや、かなり、大分、いや、根本的に?生まれ直すことになった。彼女と出会って、俺は、産道を逆流し、腹の中に戻り、そして、押し出された。
腹の中で、彼女の栄養を貰い、俺は別の人間になった。新しい名前も貰った。

彼女は、不真面目で、不良品で、不都合な人間だったのだが、相当優しい、変わった奴だった。
変わっているというか、根本的に間違っているというか・・・、彼女のことを一言で言い表すのは難しい。
変わっていると言えば、自分を否定することになるし、間違っていると言えば、世界を否定することになるかもしれないからだ。

そうだ、彼女の事を語るには、彼女との出会いから一連の事件を語った方が手っ取り早いだろう。
俺が、彼女に語りかけ、彼女が意味不明な事を語りだしたあの屋上から始めよう。



「お前、うるせーんだよ。黙れよ、バーカ」

示伸(シノブ)舞は、制服のポケットから、煙草を取り出して火を付けると、グラウンドの方を向いて、煙を吐いた。もう本当に気分が悪いということを、体全体で表しているわけだ。

喫煙はもちろん校則違反な訳だけれど、俺は別に注意しようとは思わなかった。校則違反なんて堅苦しい事は言いたくなかったし、彼女の体の事が心配でも無かったからだ。
自己責任という言葉が俺は好きだし、煙草を吸うぐらいの自由が有っても良いじゃないか。
人に火を当てないぐらいのマナーは守るべきだと思うけれど、
個性が大事だと言うぐらいなのだから、其れ位の個性は受け入れるべきだと思う。

不良に眉を顰められて、怒鳴られたことは、人生で初めてだったが、俺は特に怖くも無かった。
優等生の委員長キャラとしては、足をガクガクと震わせながら、御免なさいとこちらが悪いわけでも無いのに謝るべきだろうか、とは思ったが、俺のキャラじゃなかった。

こう言っては悪いが、彼女は、はっきり言って小柄だったし、美人だったし、体つきは細いし、その派手な金髪と似合わない化粧でも、姐さんとしての威厳は皆無だったわけで。寧ろ、小動物キャラを進呈したい。
俺に言わせて貰えば、何故、彼女がクラスで不良キャラとして、皆に恐れられるポジションを維持出来るのか、前々から疑問だったわけで、とにかく、全く怖くなかった。
身長は、俺の方が20センチばかり高いし、彼女はどうしたって見上げるような形になる。
それは、優等生である俺と、不良である彼女との立ち居地をも示していたはずだった。

だから、俺はそのまま自信を持って委員長としての職務を全うした。

「いや、だから。昨日、休んでたろ。だから、君が副委員長に決まったんだ。
 シノブさんは、部活にも入ってないし、暇な奴は他に居なかったんだよ。
 7月に文化祭も有るし、さ。色々と決めなきゃいけないことが有るんだ」

示伸は、煙草の火をこっちに向けてきた。危ない奴だ。それに、受動喫煙の可能性が上がった。
俺は、内心、ちょっと苛々した。そんな切れ長の目で睨まれても、全然怖くねーんだよ、馬鹿!
むしろ、ちょっとドキドキするわ。

「俺はナ、昨日、大事な用事が在ったんだよ。それなのに、勝手に決めやがって。
 民主的に決まってねーだローが。大体、俺は、お前らの傘下には入らないって言ってんだろ!」

傘下?なんだそれ、何処かの不良グループとか暴力団とかの話だろうか?
彼女以外のクラスメートが、2-B団とかいうグループを結成していると思ったら、それは彼女の大きな勘違いだ。
そんなものは無いし、俺はどのグループにも属していないけれど、けっこう細かい幾つかのグループに分かれている。

取り合えず、傘下に入らないとかいう、何処かのヤンキーのグループに入る入らないという様な言葉は無視した。示伸の揚げ足を取っても、怒るだけで、和やかな会話には持っていけないだろうと思ったからだ。

「大事な用事があったなら、先に言って欲しかったな。前日に明日、副委員長を決めるって言っておいただろ?
 それに、多数決だから、一応、民主的だし」

もちろん、多数決は民主主義でも何でもないわけだが、そう言ってやった。正論で、取り合えずのジャブってところだ。
それに、学校での多数決は民主主義的な部類に日本では入っているのだ。

「数の暴力じゃねーのか、そーいうの。お前、俺の頭が悪いと思ってるだろ。
 判るんだよなー、目を見ると。お前が、本当は俺を軽蔑してるってのがさ」

そう言って、示伸はジャブを軽く受け止め、探るようにこちらを見てきた。まあ、一応、彼女の成績は、俺より悪いとは知っている。学校の成績なんて、とは俺は言わない。
日本は学歴社会だし、学業で人生を決めるルートもあるのだ。

ちょっと、どぎまぎしながら、俺はシノブと睨み合った。彼女は、煙草をスパスパ吸いながら、俺の目の奥を探るように睨んでくる。

俺は、彼女の栗色の目を見ながら、不思議に思った。彼女は、俺を睨んでいるようで、もっと違う何かを、じっと観察しているような気が、ふと、したからだ。彼女は、俺を見ているようで、見ていない?
俺の何かに気が付いてる、と唐突に思った。

彼女は俺の顔を見ながら、不思議そうな表情を浮かべ、

「お前、お前、俺が怖くネーんだな。死んだ方が良いとか、思ってんのか?殺されてーのか?」

唐突にそう言った。

「は?」

何言ってんだ?こいつは。確かに、お前は怖くない。自分より、だいぶ背の低い女子高生が怖いと思う男子高校生は少ないだろう。逆に、守ってやりたいとか庇護欲に駆られるものじゃないかな。
俺は別に死んだ方が良いとか、殺されたいとかの願望は無い。

「いや、何言ってんの、シノブさん」

殺すってどうやって。その右手の煙草で?俺を癌にでもするつもりですか。お前はもう死んでいる、お前の30年後、癌になる確率が1パーセント上がった、とか言うつもりだろうか。

それとも、俺を屋上から投げっ放しジャーマンスープレックスで放り出す気か?

「お前は、黙ってろよ。いや、そうじゃないな。父様なら、こう言うな。
 君には夢が無いでしょう、大丈夫ですか、私が力に成りましょうか。
 でも、私はそんな橋渡しみたいな事、言ってヤンねーからナ」

――トウサマ、という彼女の父の呼び名は、彼女の外見に似つかわしくなかった。
小市民的には、品行方正なお嬢様キャラが周囲を気にしないなら、言っても良いかもしれないというワードだ。
が、そんな事よりも、俺は冷や汗を掻いた。俺に夢が無いなんて、家の机の上にある俺の進路希望調査を
まるで見たかのような言葉を、どうして彼女は言うんだ?やっぱり、彼女は知っている?何を?

俺と彼女の立ち居地は、彼女の一言によって逆転した。
混乱する僕を他所に、青ざめた俺の顔を見て、彼女は人の悪い笑みを浮かべた。

「図星、みたいだな。死んでも良いってのも、夢が無いってのも。お前みたいな優等生っぽい顔をした奴が、
 そんな調子だと笑えるぜ。点取り虫君か、お前は」

俺は気が付いた。夢が無いってのは、俺の現状であり、死んでも良いってのは俺の無意識だと。
俺は、心の奥でそんな事を考えていたのだと。

「いや、何ていうか。シノブさん、変わってるなー。はは」

ハハ、ハ、と俺は体制を整える為に、乾いた笑みを顔に押し付けて誤魔化した。
適当な感にしても、ズバリと俺の内面を言い当てられたようで立場が無い。

この子の言っている事は、どうも支離滅裂、意味不明なのだが・・・。
何だ、感の異常に良い子なのか?確かに、そういう子って嫌われそうだ。
人の弱い部分を感覚的に突くような事をしていたら、周りから遠ざけられるのも頷ける。

「お前、名前、何て言ったっけ。殺されたくなかったら言えよ」
彼女は、ポケットから携帯用灰皿を取り出すと火を消した。

「・・・俺の名前は、長瀬達也だ。まだ新学期になって、日が浅いからってクラスの委員長の名前ぐらい覚えろよ」

「ナガセ、ナガセ、ね。まあ、ナガセ、お前の名前なんて、どうでも良いわけだけど。知ってるし。
 私が聞きたいのは、そうじゃない」

「シノブさん、俺は君が聞きたいことに素直に答えたつもりなんだけど?」

「だんまりか。ムカつくけど、まあ、良いや。おい、ナガセ。俺は電波なヤローなんだよ。こんな事言うと、お前は恐らく、俺が副委員長に相応しくないと思ってくれると思うから言ってやるわけだけど?つーか、近づかないで欲しいから言うわけだけど」

彼女には、パラボラアンテナが付いているのか。なら、俺が夢が無いということ、本当は死んでも良いと思ってるなんてことを
言い当てたとしても、不思議じゃないのか?ちょっと個性的なだけなら、俺がビビル必要は無いよな。
うん、こんな似非不良、小動物キャラにビビリたくない。俺は体制を立て直した。

「君に副委員長の資質があるかないかに関して言えば、正直、疑っているけど、みんなの意見で決まった事だからなぁ」

そうさ、みんなの意見だぜ。君だって、日本人のはずだろ?みんなの意見は大事だぜ。
折れろ、俺をビビらせた罰だ。折れてしまえ。仲良く、つまらない委員会とかに参加しようぜー。

「うーん、だけどな。お前は恐らく、その委員長としての権力を使って、もう一度、人選を考える機会を作りたくなる、と思うわけだよ、俺は」

彼女は、余裕綽々とした態度で、悪魔的な嫌な笑いを浮かべる。これから、俺にチョークスリーパーを掛けるぞ、ここにはレフリーは居ないぜっていう顔だ。俺が顔が徐々に酸欠で、色が変わる様子を楽しむって顔だ。

「ふ、ふーん?何だよ、言ってみてくれよ」

俺は、ちょっと青ざめた。既に、話に引き込まれていた俺は、彼女の制服の細い腕が首に廻っているような気がしてきた。

もしかして、さらに俺の秘密を言ってくるのか。彼女は、所謂、ハッカーで、俺が見てるエロサイトの名前ぐらいは言えるのかも知れない。そうだ、ハッカーだ。それなら、彼女が俺に夢が無いとか言ったのも頷ける。
俺は、昨日、夢をキーワードにネットでかなり調べたからな。フロイトだってバッチリだ。

「判った。君、ハッカーだろ。それって犯罪だぜ。良いのかなぁ。そんなことして。証拠なんて、調べれば出てくるんじゃないの?大人しく、副委員長になっちゃいなよ」

俺は、空想の彼女の腕に手を掛けた。はは、こんな腕、俺は何時でも振り払えるぜ。

「お前の好物は、干し柿。かなり、お爺ちゃんっぽいな。きちんと同化してねーから、現代に合わせられないんだぜ。
 それとも、同化して自分が自分で居られなくなるのが怖いのか?」

ぐっ、なぜソレを知っている。確かに、干し柿は好物だ。後半は意味不明だが・・・、彼女はハッカーではない?
干し柿についてなんて、調べた事が無いような気がする。

「なるほど、なるほど。そうそう、そうやって協力してくれるのか?ふーん、珍しいけど、悪い奴じゃねーな。
 バナーリアのショートケーキも好きなのか。なるほど、なるほど。俺もけっこう好きだ」

ぐっ、バナーリアのショートケーキ。俺の近所にあるケーキ屋じゃない。東京の親戚の伯母ちゃんがお土産に買ってきてくれる一品だ。俺の好物。

「もっとさあ、こいつが聞いて、恥ずかしい事とか言えよ。そうじゃねえと、気が変わらないだろ。
 え、中学校の時に、同じクラスの可愛い女の子のリップクリームを拾って持ち帰り、家で舐めた?
 え、しかも、その後日、その女子にそのリップを偶然拾ったとか言って返した。その女子が使う所を想像して、ほくそ笑んでた?うわー、こいつ変質者かよ。
 その女の子の名前は、はー、それ、隣のクラスのやつじゃん。
 エロ本は、隣町の本屋まで買いに行ってる。最近の好みは、女子高生縛り。まあ、同年代か。え、縛りってそういう意味じゃねーの」

な、なななっ!おいおい、俺の所謂、心に閉まっておきたいアルバムの一ページじゃないか!
いやいや、リップクリームを舐めた時は、周囲に人影は無かったし・・・、隣町の本屋だって、わざわざ、駅前じゃない商店街に
買いに行ってるんだぜ。

「チョーク、チョーク!」
俺は、見えない審判に助けを求めた。この女、良く判らないけど、反則技使ってきてるよ!

「ギブアップか?俺の口は堅いけど、副委員長にもなると、黒板の前に立つだろ?そんな時に、口を滑らしたら、たいへんじゃねーか。それとも、もっと言って欲しいのか?」

彼女は、俺の首をもっと絞めようというのか!この女は、インドニシキヘビだ。俺という小鹿は、体に巻きつくヘビに足をぷるぷると震わせながら、眼鏡を押し上げた。ヘビじゃない、この子は可愛い女の子さ!と念じながら。

「はは、リップなんて、子供の悪戯じゃないか。それに、エロ本なんて、大概の男のベットの下にあるモンさ」
そうだろ?そういうもんだろ。

「お前のエロ本は、押入れの中にあるみたいだけどな・・・。今時、DVDじゃなくて紙媒体好きってのも、あれなんじゃないか?」

「なぜ俺のフェティシズムを知っている!」
俺の脚は恐怖に、実際にぷるぷると震え出した。

「ギブアップか?」

「いやいや、いやさあ、その情報収集能力、副委員長に相応しいよ!最初は、乗り気じゃなかったけど、今なら心から言える!頼む!副委員長になって下さい!」

俺は、その場に土下座した。足の感覚が無くなった訳ではない。これは、作戦だ。この女を放っておいたら、そのうちに脅迫されるか、クラスでの立場が無くなるに違いない。
そうならない為の事前の策、いや、その後には、この女を懐柔し、良いように使ってやろうという策略だった。

「ふむ。お前の考えなんて、筒抜けなんだけど・・・、お前、本当に俺が怖くねーんだな。
 いや、どうなってるのか、わかんねーや」

彼女は、俺の前で、右足のローファーを脱いだ。黒のハイソックスを履いた右足をぷらぷらとさせる。

俺に、その足をどうするんだ?

彼女の行動は、俺の想像の斜め上をいくものだった。
彼女は、そっと土下座する俺の頭の上に足を置いたのだ。脱ぎたての暖かい足が、俺の頭に徐々に体重をかけ、俺の額はコンクリートに押し付けられた。

「ナガセ君、私から言います。副委員長に、成らせて下さい」

その言葉は、彼女の口から発する始めての敬語だった。
俺は、視界が段々と失われていくように、未来が影に覆われていくのを感じた。








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蟲師を呼んで、思いつきました。でも、敢えて、不思議な蟲は出さないけど。













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