2011年3月14日
出版不況と言われるなかでもライトノベルは別だ。「ラノベ」と呼ばれ、主に文庫で刊行される若者向けのキャラクターイラスト付き小説を指すが、その手法はベストセラー「もしドラ」のようなビジネス本にも応用されている。
少し「経済」してみよう。「出版月報」によると、2004年のラノベ販売額は265億円。09年には301億円に達した。文庫全体の販売額は1322億円だから、その2割にも相当する規模だ。
そのさなか、ラノベ界の「老舗」雑誌が発売中の4月号で休刊した。角川書店の「ザ・スニーカー」だ。累計約600万部を発行し、ラノベの代名詞的な「涼宮(すずみや)ハルヒ」シリーズを連載していた。
業界が好調なだけに、雑誌の消失には驚愕(きょうがく)した。「部数は約2万部で近年は減少していない」(坂本浩一編集長)から、ファンも憂鬱(ゆううつ)になっているはず、と思ったがそうでもないらしい。ラノベに詳しい文芸批評家の坂上秋成さんは「驚きは少ない」と話す。理由は、ラノベ雑誌の消費のされ方と、作品ラインアップの多様化にあるという。
「ザ・スニーカー」は、アニメ化などのメディアミックス戦略の嚆矢(こうし)になり、「学園もの」と呼ばれるラノベブームを引き起こした。創刊は1993年4月。ネット環境が整備される前夜だ。
「90年代は、ファンのコミュニティーの場が雑誌しかなかった」と坂上さんは話す。例えば雑誌の情報をもとに、学校で趣味の合う友人と直(じか)に話すことが、数少ない「対話方法」だったというのだ。
今はどうか。ネット上には、幾つも情報サイトやコミュニティーがあふれる。隔月しか刊行されない雑誌を待たずに、早く情報を手に入れられるようになってしまった。さらにラインアップも多様化した。出版社が続々と新規参入し、新刊点数は09年までの5年で27.9%も増えた。ラノベ専門雑誌は7誌にもなる。
ラノベは一般文芸より、読者ニーズを早く的確につかむ必要がある。雑誌にも付録にフィギュアをつけるなど、ファンを引き付ける戦略が採れる利点はあるとはいえ、コミュニティーの場としての役割は想像以上に小さくなってしまったようだ。
「ザ・スニーカー」は今後、ネットでの情報提供に力を入れるという。「老舗」がブランドをどう生かすのか。ひょっとしたら、苦戦が続く文芸誌全般のヒントになるかもしれない。(高津祐典)
出版社:角川書店 価格:¥ 980
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