きょうの社説 2011年3月16日

◎放射能漏れ拡大 国難に立ち向かう姿見えぬ
 東日本大震災で大きな被害を受けた東京電力福島第1原発で、危機的な局面が続いてい る。1〜3号機は冷却機能が失われ、安定的な「冷温停止」状態とされていた4号機でも火災が発生し、放射性物質が漏れた。いずれも炉心には大量の核燃料が残っている。高温を発する燃料棒を冷やすための注水作業がうまくいかなければ、炉心が爆発したり、溶けて外部に流れ出す可能性も否定できない。米スリーマイル島の原発事故に匹敵する重大な事態が今、現在進行形で起きている。

 放射能汚染がじわじわと広がっていく悪夢を世界中が不安視するなか、歯がゆいのは政 府と東電の情報開示の遅さ、対応の手ぬるさである。福島原発では、東電や関連企業の社員、自衛隊員らが被ばくの恐怖と戦いながら、懸命の注水作業を進めている。そうした命がけの作業の手順をだれが中心となって考え、指示を出しているのか。この「国難」を、どうやって乗り切ろうとしているのか。危機管理の中枢にいる人の顔や戦略がさっぱり見えてこない。

 政府は15日、福島原発の事故に対応するため、統合対策本部を東電内に設置した。放 射性物質が住民の健康に長く深刻な影響を及ぼしかねない事故が起きているというのに、政府対応が後手に回っている証拠である。重大な決断を迫られる局面があるかもしれないのだから、政府と東電が早いうちから一体となって危機に立ち向かうのは当然だろう。

 放射性物質は、目に見えないだけに不安を増幅させる。だからこそ、現在起きている事 象を具体的に、だれでも分かるように説明することが重要だ。国民が求めているのは、これから考えうる事態や対処方法についての冷静で詳しい解説である。事態を十分に把握しているとは思えない菅直人首相が、メッセージを読み上げる程度では国民の不安は解消されない。

 仮定の話をすると、不安をあおるという理屈は分からぬでもない。しかし、仏核安全局 (ASN)は既に今回の事故の深刻さについて、スリーマイル島原発事故を上回るとの見解を示している。直面している危機の詳細を積極的に開示していく時期に来ている。

◎避難者50万人超 物資の供給も一刻を争う
 一時水没した倉庫の中から泥まみれのチョコや菓子を探して口にする人たちがいる。飢 えにおびえ、わずかな食料を分け合い、命をつなぐ姿に胸が痛む。

 東日本大震災は発生から5日が経過し、避難所に身を寄せる人たちは50万人を超えた 。壊滅的な被害を受けた地域ではスーパーやコンビニが消え、食べ物の調達さえままならない。スーパーが残る町でも長蛇の列ができ、たちまち在庫が底をついた。

 水や食料、医薬品などの物資供給は一刻を争う。冬型の気圧配置が強まり、東北では真 冬並みの寒さに戻るという。灯油などの燃料や毛布も早く届けたい。

 政府は物資輸送について、自衛隊を中心に実施する方針を決めた。各地の駐屯地を集積 場とし、自治体や企業からの物資を輸送機やヘリ、輸送艦で運ぶ。被災地向けの食料がどれほど集まっても現地へ届かなければ意味がない。組織力をもつ自衛隊に輸送を任せるのは妥当な判断である。

 東電の計画停電により、都内などでは住民の買い占めが広がり、食料や防災用品などが 品薄の傾向にある。商品の少なくなった店頭をみた消費者が不安になり、買い占めに走るという悪循環もみられる。そうした動きが広がれば、物資を優先すべき被災地への供給に悪影響を及ぼしかねない。

 現場の物資輸送は自衛隊が担うとしても、全国的な供給体制を調整するのは政府の責任 である。物資供給の責任者を明確にし、併せて冷静な行動を促す情報発信を強化してほしい。

 計画停電にしても、電力需要を直前まで見極める今の方法は混乱が大きいとして、経済 界からは契約電力量の削減など、需要側が電力使用の総量規制で対応した方が望ましいとの声もある。しばらく続くとすれば、より混乱の少ない仕組みに改善する必要がある。

 電力需給のデータは東電が握っているとはいえ、経済や生活など社会全体に及ぶ影響ま で一企業が見極めるのは無理がある。物資の安定供給やエネルギー確保にしても、未曾有の危機にあっては政府が前面に立たねばならない。