きょうの社説 2011年3月15日

◎福島原発危機 「最悪」回避に総力挙げよ
 危機的な状況が続く福島第1原発で、今度は2号機の核燃料が一時、完全露出し、空だ き状態に陥った。原子炉の水位は上昇に転じたが、炉心溶融が進み、核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」につながりかねない衝撃的な展開である。

 東京電力の説明によると、海水を注入するポンプの燃料切れで冷却水の供給が止まった という。この非常事態に考えにくいミスであり、東電の危機管理が十分に機能しているのか疑問がぬぐえない。

 一連の原発事故は、大地震の揺れによる衝撃でなく、原子炉を停止した後、緊急炉心冷 却システムが機能しなかったことに起因する。想定を超える大津波に見舞われたとはいえ、事故が起こった後も、二重三重の手立てを講じ、事態の悪化に歯止めをかけるのが危機管理の基本である。

 核燃料の完全露出を防げなかったのは極めて深刻であり、東電の対応は後手に回ってい る印象がある。放射性物質の大量拡散だけは何としても食い止めなければならない。東電は最悪の事態回避へ総力を挙げてほしい。

 福島第1原発では1号機に続き、3号機でも水素爆発が発生した。原子炉圧力容器や格 納容器は大丈夫だったが、新たに2号機でも冷却機能が失われ、より深刻な状況に直面した。海外では1979年の米スリーマイル島事故で、原子炉が空だき状態になって炉心の燃料が溶ける重大事故が発生している。日本ではそうした事故はありえないとされてきたが、いまは最悪のシナリオも想定せざるを得ないほどの厳しい段階にある。

 電力不足が明らかになり、東電は地域ごとに交代で電気を止める「計画停電」に踏み切 った。だが、周知不足とあいまいな情報提供により、交通機関や医療機関、企業などに混乱が広がった。

 大規模停電に陥るのを避けながら、必要な電力量をいかに確保し、社会への影響を抑え ていくか。いまは原発危機と合わせ、深刻な電力危機を迎えている。綱渡りを強いられる困難な道であってもこの危機を乗り切らねばならない。場当たり的な対応は混乱を助長するだけである。

◎株価1万円割れ 震災不況にあらゆる手を
 東日本大震災による経済活動の停滞で、踊り場からの脱却が期待されていた景気が再び 悪化する懸念が強まっている。東京株式市場の平均株価は、日本経済の先行き不安から、また1万円の大台を割り込んだ。金融市場の不安払しょくと景気の腰折れ回避のため、日銀が追加金融緩和策として、基金による資産買い入れ規模の拡大のほか、短期金融市場へ18兆円の資金供給を決め、そのうち15兆円を即日実施したのは妥当な措置である。

 経済産業省もまず、被災企業に対する融資支援の強化策を示したが、日本経済が「大震 災不況」に陥るのを食い止めるため、政府、日銀は実行可能なあらゆる手を打つ必要がある。被災者・被災地の救援、復興事業を迅速かつ強力に行うことは、経済対策としてもきわめて重要であり、そのための財源確保と予算化の方策、道筋を速やかに示してもらいたい。

 週明けの東証は、大震災による不安心理が「日本売り」を呼んだかたちでもある。日銀 の過去最大規模の緊急資金供給は果断な措置といえ、当面、市場に安心感を与えよう。風説の流布などで市場が混乱しないよう、東証と大証が投資家に冷静な行動を呼びかけたのも適切な対応である。

 実体経済では、東北に部品や本体の生産拠点がある自動車、電機大手が全面的な生産停 止に追い込まれている。操業再開に全力を傾注してほしい。部品の調達が地震で不可能になり、自動車生産が止まるという事態は、2007年の中越沖地震でも起きた。生産リスクの分散というその時の教訓は、十分生かされたであろうか。各企業は、自然災害などの非常事態後も事業を継続できる計画、体制づくりを進める必要がある。

 国民の生活態度も景気を大きく左右する。被災者への同情、支援は当然としても、消費 生活や社会活動、催事などで過度の自粛、悲観ムードが広がると景気は悪化するばかりである。国難ともいえる状況ではあるが、被災地以外では「普段通りの生活」を心がけることが、結果的に被災者支援にもつながるのだと心得たい。