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[26473] 【習作】マリア様が…覗きみてる!?
Name: 華依◆31d5f909 ID:f32b2db1
Date: 2011/03/14 15:11
『マリア様がみてる』の二次創作です。


・オリジナル主人公
・乃梨子や瞳子と同級生
・設定は部分的に原作改変あり
・現実世界では有り得ない設定があります
・基本的には三人称ですが、主人公視点での敬称がつけられています

 その昔、ネットの知り合いのサイトに小説を投稿していたことはあるのですが、その時はテキストファイルをメールで送ったらホームページに載っけてくれていたので、このような形で投稿をするのは初めてになります。
 ボキャブラリーが少なくなかなかうまい表現が出てこなかったり、似通った表現ばかりだったり、分かりやすく説明することが出来なかったり、文章的につながりが間違ってたり(それはイカンだろ)しますが、生暖かい目で見てくれると助かります。
 自分で見て読みにくい気がしたので勝手ながら一行空けるようにしました。
 主人公を『かなりチート』としていたのですが、外しました。(指摘を受けてWikiで『チート』の意味を調べたところ、自分の思っていた意味と違いがあったため)

2011/03/14





[26473] 第一話 取り敢えず入学式
Name: 華依◆31d5f909 ID:f32b2db1
Date: 2011/03/14 12:40
「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。

 ・・・・・・・・・・

(以下略)






「さて、どうなることやら」

 銀杏並木の道を歩きながら阿佐鞍華依はつぶやいた。

 特にお嬢様というわけでもない華依にとって、今日入学を迎えるリリアン女学園というカトリック系お嬢様学校は、ある意味未知の領域ともいえるものだった。

「ごきげんよう」

 どこからともなくそんな挨拶の言葉が飛び交う環境。さすがにすぐには慣れそうにないなぁと思いながら華依は道が二股に分かれるマリア像の前までやってきた。

 華依もこの場所に差し掛かった生徒がほとんどやっている『マリア像の前で手を合わせる』という行動をとる。

(皆は一体何を祈ってるんだろうねぇ)

 などと適当なことを考えながら十秒かそのぐらいの時間を見計らって祈るのをやめると、何事も無かったかのように高等部の校舎に向かって歩き出す。

 校舎の前まで来ると新入生が集まっている場所に向かった。

「んー…どこかなぁ」

 他の新入生と同じように自分のクラスを探していく…とは言っても華依の場合は苗字が『阿佐鞍(あさくら)』なので探すのは簡単だ。

「お…松組か」

 自分のクラスを確認すると教室に向かう。

 周りの生徒も自分達のクラスを確認しては教室へと向かうので、その流れに沿って華依も一緒に歩いていく。

 松組の下駄箱の前でカバンから自分の上履きを取り出すと、履いてきた靴を自分の名前が書かれた下駄箱へと入れる。

「ご…ごきげんよう」

 教室に入るとき一応誰にという事もなく挨拶をしてみるが、慣れてないせいもあるのかかなりぎこちなかった。

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 さすがに周りの生徒達は慣れているのか、ごく普通に挨拶を返してくれる。というか、この学校は幼稚舎から大学まであるので、だいたいの生徒はこの挨拶で育ってきている。したがって『慣れている』と言うより『当たり前』なのだ。

「貴方は外からの人ね、お名前は?」

 ちょうど教壇の手前辺りでおしゃべりをしていたグループの一人が話しかけてきた。ストレートの髪が肩に掛かるぐらいまであるのに何となくボーイッシュに見える女の子だ。

「阿佐鞍華依です、よろしくね」

 お嬢様学校と言う先入観もあって、何となく自己紹介が硬くなる。緊張のために笑顔も上手く出来てないのではないだろうかと自分で思ってしまうほどだ。

「私は笠松蘭子、で、こっちが新田美紀で、こっちが神田志乃。何か分からない事とかあったらどんどん聞いてね」

 こちらの言動を気に留める様子も無く、笠松さんがあとの二人も紹介していく。華依が紹介された二人に目をやると、二人とも笑顔で「よろしくね」と言ってくれた。

「ありがとう。じゃあ、その時には遠慮なくどんどん質問させてもらうわね、笠松さん」

 笠松さんに視線を戻してから答えると、急に三人の表情が変わった。驚いたというか、何かに気づいたと言った感じの表情だ。

「あぁ、えーっとね、華依さん、ここでは下の名前で呼び合うのが普通なのよ。あと、上級生には『さま』同学年とか下級生なら『さん』を付けるのが普通だから、その辺は気を付けといた方が良いかな」

 少し華依に近づいて笠松さんが声のトーンを落としながら説明してくれた。

「そうなんだ、それは全然知らなかったわ。ありがとうね、蘭子さん」

「いえいえ、どういたしましてー」

 華依がお礼を言うと蘭子さんは手を振りながら応えてくれた。

「それじゃ、ちょっと荷物置いてくるね」

 華依は一度自分の机にカバンを置いた後、先生が来るまで蘭子さん達とおしゃべりをしていた。






 講堂には新入生が集まってクラスごとに並んで座っていた。

「新入生代表、二条乃梨子」

 校長先生やPTA役員、教育委員会のお偉いさんなどの長い話を聞いた後、新入生代表の挨拶があり、入試でトップの成績だった二条乃梨子さんが挨拶を終えた。

 入学式も順調に終わり、ホームルームで先生からの注意事項を聞いた後、皆帰り支度をしたりおしゃべりしたりと放課後の時間を過ごしている。

 華依はしばらく席に着いたままで今日の出来事を色々と考えていた。蘭子さん、美紀さん、志乃さんとは仲良くなれたと思っている。その他のクラスメイトも華依のイメージする『お嬢様』といった感じはしないし、ごく普通の女子高生と同じような感じだった。

(派閥とか出来ると蘭子さんのグループになるんだろうなー)

 そんなことを考えていると、校内放送がかかった。

『1年松組の阿佐鞍華依さん、生徒指導室まで来てください』

 放送で名前を呼ばれて立ち上がったものの、生徒指導室の場所が分からない華依は蘭子さん達の姿を探して辺りを見回した。しかし、すでに下校しているのか見つけることは出来なかった…というかすでに教室内には誰も居なかった。

 取り敢えず教室から出て職員室の方へ歩いていくと、ちょうど一人の生徒が歩いていたので声をかける。

「すみません」

「ごきげんよう、何でしょう?」

 左右で髪をまとめている狸顔でかわいい感じのその生徒は、人懐っこい笑顔で応対してくれた。

「ご…ごきげんよう、えーっと…生徒指導室ってどこにあるんでしょうか?」

「生徒指導室なら、そこの階段を下りて右側に行ったらありますよ」

「そうですか、ありがとうございました」

 場所を教えてもらうと華依は勢い良く頭を下げてすぐに歩き出す。

「いえっ、あー、もしかしてさっきの放送で…」

 華依の勢いの良さに驚いた様子の生徒は何かつぶやくように言葉を続けていたが、その声は華依に届かなかった。

 言われたとおり階段を下り、右側に向かって歩いていくと『生徒指導室』と書かれたプレートが見える。その部屋のドアをノックするとすぐに「入りなさい」という声が中から聞こえた。

「失礼します」

 ドアを開けてそう言うと、華依は生徒指導室へ入る。中には二人の先生と一人のシスターが座っていた。先生の一人は華依の担任である。

「こちらへ座ってください」

 三人並んで座っている中央のシスターが椅子に座るよう指示する。ちょうど三人と向かい合う形だ。

「はい」

 華依が指示された椅子に座ると、向かって左側に座っている担任の先生が口を開く。

「何で呼び出されたかは分かっているわよね?」



[26473] 第二話 入学早々、生徒指導室にて
Name: 華依◆31d5f909 ID:f32b2db1
Date: 2011/03/14 12:40
「何で呼び出されたかは分かっているわよね?」

 生徒指導室に呼び出された華依が椅子に座ってから少し間を空けて、担任の先生が口を開いた。

「思い当たる節はいくつかありますが、そのどれに対してなのかは分かりかねます」

 実際はそのどれに対してなのかも予想は付いているというのに、華依は白々しく返答を返す。

「入学試験の結果に関して…と言えば分かるわよね?」

 華依の返答に対して大きなため息をついた後、少し睨み付けるようにして担任が言った。

「そうですね、まぁ、分かると言えば分かりますけど、それって入学式当日に呼び出されるほどの事でしたか?」

「なっ…貴方はっ!」

「まあお待ちなさい、そんなに熱くならないように」

「申し訳ございません、学園長」

 逆質問をするような形になった華依に対して担任が立ち上がりかけるが、中央に座るシスターによって遮られる。中央に座るシスターはこのリリアン女学園の学園長である。華依は外部からの受験者用学園説明会で学園長に直接質問をするという恐れ多いことをやってのけているので、実のところすでに面識は持っている。

「それで、貴方は総代を回避するためにやったということでいいのね?」

「はい」

 担任とはうってかわって静かに語りかけてくる学園長に華依ははっきりと答える。

「学園長…それはどういう…?」

「貴方には言ってなかったかしら、彼女は説明会の時に私に直接質問に来たのよ。『入試の成績が一番なら総代として新入生代表の挨拶をしなければならないのか?』とね」

 事情が飲み込めてなかった担任に対し学園長が説明を始め、一呼吸置いて学園長は話を続ける。

「入試で一番の成績になれば総代として新入生代表挨拶は決定であり他の人に変わってもらうことは出来ない、そう説明したら彼女はいったのよ。『それなら入試で一番の成績にならないように調整させていただきます』って…まあ、本当にこんな調整をしてくるとは思わなかったけれど」

「調整に関しては認めていただいたものと思っておりましたが違ったのですか?」

 学園長の説明が一段落したところで華依がたずねる。

「それについては調整の方法に問題があったとしか言えないわね」

 華依の質問に対して口を開いたのは右側に座っていた教師だった。立場としては学年主任である。

「華依さんの入試の回答欄、全ての教科で頭から5問だけ空欄にしてあったでしょう。それが我が校の入学に対して不謹慎だと捉えられててね、一時は入学を認めないということになりかねないほどの問題だったのよ」

「それでも、空欄にしてある部分以外は全問正解だったということもあって入学は認められたのだけれど、一度ちゃんと話を聞いてみなければならないということになったの」

 学年主任に続けて担任が補足の説明を入れる。

「そこで」

 学園長が一度言葉を切って、少し間を空けてからさらに続ける。

「貴方がそんなことをしなければならない理由について、出来ればお話していただけないかしら?」

 言葉のトーンこそ優しかったものの、華依は拒否が許されないような圧力を感じた。

「そうですね、お話します」

 華依は大きく息をはいてから話し始めた。




 ―――――

 華依は昔から勉強が出来る方だったので、中学で私立を受験するという選択肢もあったのだが、家庭の経済事情もあり中学はそのまま公立へ進学していた。

 中学では近隣の5つの小学校からほとんどの生徒が上がってくる。華依の通っていた小学校はそれほど人数が多くなかったこともあり、クラスのほとんどは別の小学校から来た生徒達ばかりだった。

 中学からは学期ごとに中間考査と期末考査があり、華依は一学期の中間考査で全教科満点を出したのである。それを当時の担任が公表してしまったがために華依はクラスでも浮く存在となったのだ。

 すでにクラスには出身小学校単位での派閥みたいなものが出来ており、華依はその最大派閥からのイジメの対象にされたのである。

 とはいえ、華依もすんなりイジメを受け入れるなんて事は無かった。直接危害を加えようとするものは避けるし、精神的にダメージを与えようとする言葉の攻撃は完全にスルー。教科書を破られたり鉛筆を折られたりといった嫌がらせに対しては、全く同じ事を相手派閥全員に返したりもした。

 そんな中で、相手派閥のリーダー的存在がついに痺れを切らした。夜中に華依の家へ火を点けたのである。

 火は華依の家と隣の家を焼き、華依の家族は全員無事だったものの、隣の家のおばあちゃんが焼死するという事態になってしまったのだ。

 結局、相手派閥のリーダーが放火犯としてすぐに補導され、華依の家族は父親の単身赴任先のアメリカへ引っ越したのである。

 華依は隣の家の人から言われたことが未だに頭から離れない。

『あなたが素直にあの娘にイジメられてれば、うちのおばあちゃんは死なずに済んだのよっ!』

 普通に考えれば言いがかりもいいところだろう。しかし華依がその言葉をスルーすることは出来なかった。

 父親の転勤はその年の終わりまでだったので、アメリカで華依は考えていた。日本に戻った時に同じようにイジメられないためにはどうすれば良いのかを。

 アメリカでは個性を生かす方向で教育が行われている。それを見ながら華依は『変な人ばっかり』と思っていたのだが、それが大きなヒントになった。

 まず華依がイジメられていた大きな理由は中間考査の点数だった。そこを回避するにはテストで良い点を取らないこと、それに関しては特に問題なく実行できる。意図的に間違えればいいのだ。

 ではイジメる側はどうしてイジメようと思ったか、それは恐らく嫉妬だろう。それなら嫉妬されないようにするには?

 華依の出した答えはそれほど難しくなかった。『変な人になればいいんだ』ということだった。

 答えを出した後の華依は行動が早かった。積極的に出かけては街で色々なものを見るようになった。さすがにアメリカだけあってサッカーよりはバスケットボールの方を良く見かけたが、さすがにバスケットボールでは嫉妬される対象になるだろう。そんな中で華依は面白いものを見つけた。

 レーシングカートだった。

 日本ではあまり見ることが無い分野、しかも女子がやっているのは見たことが無いし、レーシングカートをやっている人に対して日本人の女子が嫉妬する可能性はほとんど無いだろう。

 そして現在ライセンスも取得し、普通の自動車レースに出場できるほどの実力をもつ華依にとって、高校の選択肢が『レース出場できること』だった。しかし、さすがにそんな学校を見つけることは出来ず、もしかしたらここなら出来るかもしれないという理由で選んだのがリリアン女学園だったのだ。

 ―――――




「と、まぁこんな感じですかね」

 長い話を終えて華依が大きく息をはいた。



[26473] 第三話 薔薇さまとスール
Name: 華依◆31d5f909 ID:f32b2db1
Date: 2011/03/14 13:13
「ちょっとちょっと、華依さんっ」

 入学式の翌日、教室に入ると「ごきげんよう」の「ご」すら言わぬ間に美紀さんに教室の隅まで引っ張られる。

「おわっ、ちょっと…どうしたの?」

「昨日呼び出しされたって本当? しかも、生徒指導室って」

「え? …いや」

「何で呼び出されたの? 職員室とかじゃなくて、いきなり生徒指導室でしょ?」

「まぁ…それは」

「学園生活の問題だったら何でも教えるから、何でも聞いてね」

 志野さん、蘭子さん、美紀さんと、矢継ぎ早にまくしたてられ華依は呆気にとられる。

「私達だけじゃないわ、クラスの皆が華依さんのこと応援するから」

 そう言われて教室を見回すと、華依はクラスのほぼ全員に注目されていた。

「ぅぁ、いやっ、昨日の呼び出しはそういうのじゃないんだけど…」

「だったらどんな用件だったの? 職員室じゃなくて生徒指導室って普通じゃないわよ?」

「うーん、まぁ、何というか」

 華依は返答に困っていた。昨日学園側に言ったことを一から説明するのは御免こうむりたい。それは、言ってしまうとイジメの対象にされるかもしれないという部分と、説明が面倒くさいということである。学園側の言い分では『この学園にイジメをするような生徒は居ませんよ』ということなのだが、だいたいイジメで自殺者が出るような学校でも『イジメは存在しない』と言っているのだ、華依側としてもそれを鵜呑みにするわけにはいかなかった。

「入試でね、最初の設問をまるまる一つ飛ばしちゃってたところがあって、『分からないところでもちゃんと埋めておきなさい』ってね、そんな感じだったの。まぁ、後でやるつもりで忘れてただけだったんだけどね」

 咄嗟に思いついたのは『全教科』という部分を外して答えることだった。それを聞いた三人の顔には安堵の色が見てとれた。

「なんだー、でもそれで生徒指導室ってちょっと酷いよね。そのくらいなら職員室で済ませれば良いのに」

「入試問題の部分だし、その教科の先生とか学年主任も居たからそうなったんじゃないのかなぁ」

 心の中で『ナイス、辻褄合わせっ!』などとガッツポーズをとってみる。

「そっかー、でもそれなら良かった。心配しちゃったよー」

「ごめんねー、私も呼び出された時はびっくりしちゃったよ」

「でも入学式当日に生徒指導室に呼び出されるって、ある意味伝説になるかもしれないねー」

「そーだよ、そーだよ」

「きゃっきゃっ」

 教室内では朝の内に華依の生徒指導室呼び出しの件は落ち着くこととなった。






 昼休み、華依のクラスでは皆普通にランチを始めているところだが、教室の前の廊下は人だかりが出来ていた。

「なんか、廊下がすごく混んでるねー」

 お弁当を食べながら何の気なしに華依が言うと、一緒にお昼を食べている三人が同時に突っ込んだ。

「「「原因はアンタだ(でしょ)」」」

「うぉっ、な…何で?」

「今朝の出来事も忘れたのか、アンタはっ」

「呼ばれ方が変わってる気がするけど…でも、あれってそんなに?」

「まー、華依さんが通ってた中学校ではどうだったか知らないんだけど、少なくともここでは生徒指導室に呼び出されるって相当なことなのよ」

「それで、どんなのが呼び出されたのか皆興味津々なのね」

「そうそう、そういうこと」

 なんて話をしながらでもゆっくり食事を摂っていられるのは、クラスメイトが協力して廊下の生徒達を抑えてくれているからである。抑えるといっても、『教室内には入らないように』と注意する程度なのだが。

「中には2年生も居るみたいね」

「2年生まで来てるって…私はどこのパンダだ」

「華依さんを妹にしたいって言うんだったら、相当なつわものよねー」

「いや、うちは両親ともに健在だし離婚する予定も無いから」

 ボケとしてはいかがなものかと思いながら突っ込んでみた華依に対して、三人が目を丸くする。

「華依さん、スール制度って聞いてない?」

「あー、聞いた気がする。ロザリオ渡してどうとかって言ってたような…」

「そうそうそれそれ、それの妹ってことよ」

「それの妹? うーん、ごめん、良く分からないや」

「やっぱりか、まー多分この学園にしか無いと思うんだけどー」

 それから三人によるスール制度の解説が始まった。

 基本的には上級生が下級生を導くというスタンスのこの学園、その中でも一対一の特別な関係をスールと呼んでいる。スールの中では上級生の側を姉またはグランスールと呼び、下級生の側を妹またはプティスールと呼ぶ。そして、スールの契りを交わしたことを示すものがロザリオなのである。ロザリオは上級生がまだスールの契りを結んでない下級生にスールの申し込みをして、下級生がその申し込みを受けた時に上級生から首に掛けてもらうものらしい。

 一度スールの契りを交わすと基本的に姉が卒業するまでスールの関係であるのだが、あまりにも妹として素行が悪いと姉からスールの解消を突きつけられることもあるらしい。ついでに言うと、妹からスールの解消を申し出るというのは今まで有り得なかったのだが、去年それをやって大騒動を引き起こした人が居るらしい。

(ど…どんな学校だ、ここは)

 内心頭を抱え込む華依には気づかない様子で、三人組の会話は華依を置いてけ堀にしたままさらに続いていた。

 大騒動を引き起こした人は山百合会という一般の学校では生徒会に当たる役員だったため、そのことが公になってから一般の生徒達の間にもスール解消の騒ぎがあったこと。そして、その張本人がスール制度としてはそれまで有り得なかった下級生からの申し込みによって復縁すると、スール解消していた一般の生徒達もほとんどが復縁したということだった。

 この辺から三人組の説明はスールから離れて山百合会へと移っていった。

 スールの中でも特殊なのが山百合会幹部の妹になるということらしい。山百合会の幹部の妹になるということは、三年間山百合会の幹部になるも同然で、形だけ選挙というものは行われるらしいが、基本的に選ばれるのは妹なのだそうだ。実際、今年の山百合会幹部を決める選挙では、元山百合会幹部の妹三名と新人一名で対決したらしいのだが、2年生だった新人を差し置いて1年生だった幹部の妹が当選したということだ。

「あれ? でも妹で1年生って…」

「あー、去年の白薔薇さまは3年生だったんだけど、その時に妹にしたのが1年生だったのよ」

「学年飛ばしのスールもあるのかー」

「まー、結構特殊な例ではあるけどねー、なくはないね」

「で、『ロサ・ギガンティア』って何? っていうか、薔薇の学名だよね?」

 華依のそんな質問から三人組の講義は山百合会システムへと移行する。

 山百合会幹部はトップが三名、基本的には3年生がなるものだが今年は2年生が一名居る。トップの三人はそれぞれ『紅薔薇さま』『黄薔薇さま』『白薔薇さま』という立場になるのだが、基本的な呼び方は『ロサ・キネンシス』『ロサ・フェティダ』『ロサ・ギガンティア』となるのだそうだ。なお、『さま』の部分までを含めた呼び名であるため『ロサ・キネンシスさま』という言い方はしないそうだ。

 そして、それぞれの薔薇様の妹が『つぼみ』と呼ばれる存在で、それぞれ『ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン』『ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン』『ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン』と呼ばれるらしい。現在、白薔薇さまには妹がいないので白薔薇のつぼみは空席ということである。

 つぼみに妹が居る場合にはそれぞれのつぼみの名称の後に『プティスール』を付ければいいということだ。この辺まで来ると三人組も説明が面倒くさくなったのか、軽く流す感じで次の話題へと移行する。

「そう言えば、紅薔薇のつぼみと黄薔薇つぼみは2年松組だし、紅薔薇さまは3年松組ってことは運動会でご一緒できますわね」

 そんなこんなで四人は雑談を続けていたのだが、廊下は予鈴がなるまで人だかりが出来ていた。


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