東京電力株式会社福島第一原子力発電所の 原子炉の設置変更(1号、2号、3号、4号、 5号及び6号原子炉施設の変更)に係る安全 性について 平成11年3月 通 商 産 業 省
目 次 T 審査結果 U 変更申請内容 1.ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料の採用 2.雑固体廃棄物の固型化処理の追加 V 審査方針 1.審査の基本方針 2.審査方法 W 審査内容 1.原子炉施設の安全設計 1.1 炉心 (1) 核設計 (2) 熱水力設計 (3) 動特性 (4) 機械設計 1.2 核燃料物質の貯蔵設備及び取扱設備 1.3 固体廃棄物の廃棄設備 2.運転時の異常な過渡変化の解析 2.1 解析結果 2.2 評価 3.事故の解析 3.1 解析結果 3.2 評価 4.立地評価のための想定事故の解析 X 審査経過
T 審査結果 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更に関し、同社が 提出した「福島第一原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(1号、2号、 3号、4号、5号及び6号原子炉施設の変更)及び同添付書類」(平成10年 11月4日付け申請、平成11年3月5日付け一部補正)に基づき審査した結 果、当該申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以 下「原子炉等規制法」という。)第26条第4項において準用する同法第24 条第1項第4号の基準に適合しているものと認められる
U 変更申請内容 1.ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料の採用 福島第一原子力発電所3号炉にウラン・プルトニウム混合酸化物燃料を取 替燃料の一部として採用する。 なお、この変更に伴い、核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設の構造及び設 備の記載を、最近の記載形式に合わせる。 2.雑固体廃棄物の固型化処理の追加 福島第一原子力発電所1号、2号、3号、4号、5号及び6号炉の雑固体 廃棄物の処理方法に固型化処理を追加する。 これに伴い、固体廃棄物貯蔵庫の貯蔵容量を変更する。
V 審査方針 1.審査の基本方針 審査においては、福島第一原子力発電所1号、2号、3号、4号、5号及 び6号原子炉施設の変更について、原子炉等規制法第26条第4項において 準用する同法第24条第1項第4号に定める許可の基準に適合していること を判断するため、変更後においても所要の安全設計等が確保されていること をその基本的事項について確認することとした。 2.審査方法 (1) 審査は、申請者が提出した「福島第一原子力発電所原子炉設置変更許可 申請書(1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉施設の変更)及び 同添付書類」に基づき行うこととした。 (2) 審査に当たっては、書類による審査のほか、必要に応じ現地調査を実施 することとした。 (3)「反応度の異常な投入又は原子炉出力の急激な変化」における「制御棒 落下」の評価については、申請者が行った解析を審査するほか、別途に解 析を行い確認することとした。 (4) 審査に当たっては、原子力安全委員会が用いることとした以下の指針の ほか、法令で定める基準等を用いることとした。 @「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」 昭和39年5月(平成元年3月一部改訂) A「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」 平成2年8月 B「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針」 平成2年8月 C「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針」 昭和55年11月(平成2年8月一部改訂) D「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」平成2年8月 E「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針」 昭和56年7月(平成4年6月一部改訂) F「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針」 昭和59年1月(平成2年8月一部改訂) (5) また、旧原子炉安全専門審査会がとりまとめた以下の報告書も活用する こととした。 @「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」 昭和49年12月 A「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法につい て」 昭和51年2月 B「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適用 について」 昭和52年2月 C「取替炉心検討会報告書」 昭和52年5月 (6) さらに、原子炉安全基準専門部会がとりまとめた以下の報告書も活用す ることとした。 @『「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化について』 昭和60年7月(平成2年8月一部改訂) A「発電用軽水型原子炉の燃料設計手法について」 昭和63年5月 B「沸騰水型原子炉に用いられる9行9列型の燃料集合体について」 平成6年3月 C「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」 平成7年5月 D「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料 の取扱いについて」 平成10年4月 E『「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウム に関するめやす線量について」の適用方法などについて』 平成10年11月 (7) そのほか、平成5年7月に当省が取りまとめた「発電用軽水型原子炉施 設に用いられるMOX燃料について」を活用するとともに、先行炉の審査 経験等をも参考とすることとした
W 審査内容 本原子炉施設の変更に関する原子炉施設の安全設計、運転時の異常な過渡変 化の解析、事故の解析及び立地評価のための想定事故(重大事故及び仮想事故) の解析について検討した結果は、次のとおりである。 1.原子炉施設の安全設計 原子炉施設の安全設計については、ウラン・プルトニウム混合酸化物(以 下「MOX」という。)燃料の採用に関連するものとして炉心、核燃料物質 の貯蔵設備及び取扱設備について、雑固体廃棄物の固型化処理の追加に関連 するものとして、固体廃棄物の廃棄設備について検討を行った。 1.1 炉心 本変更は、3号炉の炉内の燃料集合体548体のうち、取替燃料の一部としてM OX燃料集合体を最大240体(炉内の全重金属初期重量に対するMOXペレット の重金属初期重量割合で約31%)装荷するものである。 MOX燃料集合体は、燃料棒の配列を8行8列、燃料集合体最高燃焼度を 40,000MWd/tとし、MOX燃料棒とウラン燃料棒(一部ガドリニアを含む。)で 構成される。 集合体平均プルトニウム富化度は、原料のプルトニウム組成比に応じて変 化させ、ウランの反応度寄与も含めて集合体平均ウラン235濃縮度約3.0wt% 相当以下(燃料集合体平均プルトニウム富化度約2.7〜5.3wt%、燃料集合体平均ウラン 235濃縮度約1.1〜1.3wt%)としている。また、ペレット最大プルトニウム富 化度10wt%、ペレット最大核分裂性プルトニウム富化度を6wt%としている。 原料のプルトニウム組成比は原子炉級(核分裂性プルトニウム同位体含有率 約58〜約81wt%)としている。 本変更に関して炉心の核設計、熱水力設計及び動特性並びに燃料集合体の 機械設計の妥当性について検討を行った。 (1) 核設計 炉心の核設計においては、以下に示す事項を満足することが要求される。 @ 運転に伴う反応度の変化を安定に制御できるとともに、最大の反応度 価値を有する制御棒1本が完全に引き抜かれた状態であっても、高温状 態及び低温状態において常に炉心を臨界未満にできる設計であること。 A 予想されるすべての運転範囲において、反応度フィードバックが急速 な固有の出力抑制効果を有する設計であること。 B 炉心は、原子炉冷却系、原子炉停止系、計測制御系及び安全保護系 (以 下「プラント各系統」という。)の機能とあいまって、通常運転時 及び 運転時の異常な過渡変化時においても、燃料の許容設計限界を超え るこ とのない設計であること。 ここで、燃料の許容設計限界を超えないこととは、具体的には以下の 3点である。 ・最小限界出力比(以下「MCPR」という。)は、許容限界値以上で あること。 ・燃料被覆管は機械的に破損しないこと。すなわち、燃料被覆管の円周 方向平均塑性歪が1%以下であること。 ・燃料エンタルピは許容限界値以下であること。 このため、審査に当たっては、MOX燃料が装荷された取替炉心(以下 「MOX炉心」という。)の核的特性を踏まえ、核設計手法、反応度制御 等について検討を行った。 解析に用いられている核設計手法については、「発電用軽水型原子炉施 設に用いられる混合酸化物燃料について」(以下「1/3MOX報告書」 という。)において妥当性が確認されている核設計手法が使用されている。 同報告書において、この設計手法は、ボイドの発生及びその分布、異なる 濃縮度の燃料棒及び燃料集合体の混在する体系等に対応できる汎用性の高 い核設計手法であり、MOX燃料集合体内のプルトニウム富化度分布や燃 料集合体の相互間の影響も評価が可能であるとしている。 過剰増倍率は、燃焼に伴う核分裂性物質の変化、減速材の温度上昇及び ボイド変化、燃料棒の温度上昇、キセノン、サマリウム等の中性子吸収物 質の蓄積並びに中性子の漏えいによる反応度変化を補償するように設計さ れており、過剰反応度の制御は、制御棒に加えて、燃料に含まれる可燃性 中性子吸収物質であるガドリニアで行われる。 炉心の過剰増倍率が最大となる低温状態において、最大反応度価値を有 する制御棒1本が完全に引き抜かれた場合でも、炉心を臨界未満に維持で きることが示されれば、すべての運転モードを包含して、最大反応度価値 を有する制御棒1本が完全に引き抜かれた場合でも、常に炉心を臨界未満 とすることが満足されることとなる。 MOX炉心については、制御材及び可燃性毒物の反応度価値が相対的に 低下する特徴があるが、従来と同様、反応度制御系により制御できる。平 衡サイクル(9×9燃料(A型)及びMOX燃料を装荷した取替炉心、 9×9燃料(B型)及びMOX燃料を装荷した取替炉心)においては、最 大反応度価値を有する制御棒1本が完全に引き抜かれた場合でも、サイク ル初期から末期を通じて低温状態でも炉心を臨界未満とすることができる ことを確認した。 急速な固有の出力抑制効果をもたらす反応度フィードバック特性として は、ドップラ効果及びボイド反応度効果がある。MOX炉心は、MOX燃 料が装荷されていない炉心に比べドップラ係数及び減速材ボイド係数がよ り負となる特徴を有しており、これらの係数は、各サイクルを通じて負の 値になるように設計される。減速材温度係数はサイクル末期の低温時には 正となる可能性があるが、その値は小さく、これらの反応度係数を総合し た出力反応度係数は各サイクルを通じて負の値となるように設計される。 スクラム反応度曲線については、燃焼による劣化を考慮し2つの設計用 スクラム曲線(サイクル早期炉心用スクラム曲線及びサイクル末期炉心用 スクラム曲線)を設定し解析を行っている。 また、9×9燃料(A型)、9×9燃料(B型)及びMOX燃料に加え、 新型8×8ジルコニウムライナ燃料及び高燃焼度8×8燃料が混在する場 合があるが、燃料の濃縮度分布、ガドリニア分布、水対燃料比等により反 応度、減速材ボイド係数、ドップラ係数等が燃料設計ごとに大きく異なら ないように設計されること、反応度の高い燃料を分散して配置することに より、これらの核的特性は混在する燃料の特性の中間的なものとなる。平 衡サイクル以外の場合についても同様に考えることができる。 したがって、異なる種類の燃料が混在する場合についても、各サイクル を通じて、最大反応度価値を有する制御棒1本が完全に引き抜かれた場合 でも、常に臨界未満にでき、かつ、ドップラ係数及び減速材ボイド係数は 負の値になるよう、また、スクラム反応度曲線は設計用スクラム反応度曲 線に包含できるように設計される。 MOX燃料のプルトニウム同位体組成の違いによる核的特性への影響は わずかであることから、これらの炉心特性の評価は標準組成で行われてい る。 さらに、W2に示すように、プラントの各系統の機能とあいまって、運 転時の異常な過渡変化時においても燃料の許容設計限界を超えることはな いことを確認した。 なお、臨界近接時の制御棒の反応度価値の制限値を0.013Δk以下とし、 運転員の制御棒の引き抜き操作の補助装置である制御棒価値ミニマイザに より制御棒の最大反応度価値を0.013Δk以下になるように制限しており、 制御棒落下等の影響を小さく抑えるように設計される。 したがって、変更後においても本原子炉の核設計は、妥当なものと判断 する。 (2) 熱水力設計 炉心の熱水力設計においては、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化 時において、プラントの各系統の機能とあいまって燃料が損傷しないよう、 以下に示す許容設計限界を満足することが要求される。 @ MCPRは、許容限界値以上であること。すなわち、炉心内の99.9% 以上の燃料棒が沸騰遷移を起こさないように定められた値以上であるこ と。 A 燃料被覆管は機械的に破損しないこと。すなわち、燃料被覆管の円周 方向平均塑性歪は、1%以下であること。 このため、審査に当たっては、MOX炉心の核的特性及び物性を踏まえ、 解析手法、MCPRの許容限界値及び熱水力設計、燃料棒線出力密度等に ついて検討を行った。 解析には、「1/3MOX報告書」において妥当性が確認されている核 設計手法並びに「発電用軽水型原子炉の燃料設計手法について」及び 「1/3MOX報告書」において妥当性が確認されている燃料設計手法が 使用されている。これらの手法にMOX燃料の特性を適切に取り込むこと により挙動を評価することが可能であるとしている。 また、「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法 について」及び「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決 定手法の適用について」等において妥当性が確認されている炉心熱設計手 法が使用されている。 MCPRの許容限界値については、MOX燃料の製造時におけるプルト ニウム富化度調整に伴う局所出力分布の不確かさを考慮し、上記手法を適 用して評価された値(MOX燃料が装荷された場合の値1.07)を用いるこ とができる。また、MOX燃料は高燃焼度8×8燃料と集合体形状が同一 であり、新型8×8ジルコニウムライナ燃料、9×9燃料(A型)及び9 ×9燃料(B型)と圧力損失特性はほぼ同等であることから、これらの燃 料は互いに熱水力的な共存性を有しており、通常運転時の熱水力特性の評 価の結果、MCPRの運転制限値を満足して運転可能であることを確認し た。この中で、反応度が最も高くなる特性を持つ燃料のみで構成された炉 心の評価がなされていることから、より低い反応度の燃料と混在する場合 に対してもMCPRの運転制限値を満足して運転可能である。 さらに、W2に示すように、通常運転時の熱的制限値を遵守することで、 運転時の異常な過渡変化時においても、MCPRの許容限界値を下回らな いことを確認した。その際、異なる種類の燃料の混在を考慮して、炉心ご とに核的特性や燃料の伝熱特性として保守的な条件が設定されており、着 目する燃料について最も厳しい状態でMCPRが評価されている。 燃料被覆管の円周方向平均塑性歪については、燃料の性質、寸法等を考 慮して検討を行い、1%塑性歪に対応する燃料棒線出力密度の設計用出力履 歴に対する出力余裕は、従来のウラン燃料が70%以上であるのに対し、M OX燃料については、燃料寿命を通じて65%以上であることを確認した。 したがって、MOX燃料が装荷された場合においては、燃料被覆管の円周 方向平均塑性歪を1%以下とするための条件として燃料棒線出力密度を設 計用出力履歴の165%以下とすることは妥当である。これによりW2に示す ように、通常運転時の線出力密度を44.0kW/m以下に制限することによって、 通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時においても、燃料被覆 管の円周方向平均塑性歪は1%には達しないことを確認した。 したがって、変更後においても本原子炉の熱水力設計は、妥当なものと 判断する。 (3) 動特性 原子炉を安定に運転するためには、出力振動が生じてもそれを容易に制 御できる設計であることが要求される。すなわち、燃料の許容設計限界を 超える状態に至らないよう十分な減衰特性を持つか、あるいは出力振動を 制御し得ることが要求される。 このため、審査に当たっては、原子炉の安定性に係る限界基準、運転上 の設計基準、解析手法等について検討を行った。 本原子炉では、ボイド変化に伴う不安定な出力振動が生じないように設 計されるとともに、反応度外乱に対しては、ドップラ効果等に基づく負の 出力反応度係数による自己制御性を有するように設計される。また、強制 循環によって水力学的な乱れを抑えることにより、負荷変動や外乱に対す る安定性あるいは沸騰による中性子束ノイズ特性の向上が図られる。 さらに、安定性の余裕を確保するために、安定性制限曲線が設けられる とともに、冷却材再循環ポンプが1台又は2台トリップして低炉心流量高 出力領域に入った場合には、選択制御棒挿入機構によって、あらかじめ選 択された制御棒が挿入され、低炉心流量高出力領域での運転を制限するよ うに設計される。MOX燃料が装荷された場合の流量制御による出力自動 制御は70%炉心流量以上、105%炉心流量以下の範囲で行われる。 本原子炉においては、チャンネル水力学的安定性、炉心安定性、領域安 定性及びプラント安定性について、限界基準(減幅比<1、減衰係数>0) を満たすように設計される。さらに、炉心安定性及びプラント安定性に対 して限界基準に余裕を持たせた運転上の設計基準(減幅比≦0.25、減衰係 数≧0.22)を適用することとしている。これらの基準を適用することは妥 当なものと判断する。 MOX燃料が装荷された場合の安定性の評価に当たっては、国内BWR において実績のある計算コードを用いて解析が行われている。また、MO X炉心では、MOX燃料が装荷されていない炉心に比べ減速材ボイド係数、 ドップラ係数がより負側であること、遅発中性子割合が小さくなること等 が考慮されている。 チャンネル水力学的安定性、炉心安定性及び領域安定性については、異 なる種類の燃料が混在する炉心も考慮した厳しい出力分布の条件を用いて、 さらに、炉心安定性及び領域安定性については、安定性が最も悪くなると 予想されるサイクル末期について炉心全体を十分な数の領域に分けた解析 が行われている。これらの解析結果は、いずれの安定性についても限界基 準を満足し、さらに、炉心安定性については、運転上の設計基準を満足し ており、炉心は十分な減衰特性を有していることを確認した。 また、プラント安定性については、運転中の圧力の変化(圧力制御装置 設定点0.069MPa増加)、制御棒の操作(制御棒引抜き10セント(即発臨界 になる反応度の1/10))及び炉心流量の変化(再循環流量制御設定点10% のの増加又は減少)等の運転中に予想される外乱に対して安定に応答し、 燃料の許容設計限界内で安定性に係る限界基準及び運転上の設計基準の値 を満足する十分な減衰特性を有していることを確認した。 さらに、キセノンの空間振動の安定性については、空間振動を抑制でき る範囲内の負の出力反応度係数を有していることを確認した。 これらにより、本原子炉は出力振動が生じてもそれを容易に制御できる 設計であるものと判断する。 したがって、変更後においても本原子炉の安定性に関する設計は、妥当 なものと判断する。 (4) 機械設計 燃料集合体の機械設計においては、使用材料、使用温度、圧力条件、照 射効果等を考慮し、以下に示す事項を満足することが要求される。 @ 燃料集合体は、原子炉内における使用期間中に生じ得る種々の因子を 考慮しても、その健全性を失うことがない設計であること。 A 燃料集合体は、輸送及び取扱い中に過度の変形を生じない設計である こと。 B プラント各系統の機能とあいまって、通常運転時及び運転時の異常な 過渡変化時において、燃料の許容設計限界を超えることのない設計であ ること。 C 炉心を構成する燃料棒以外の構成要素は、通常運転時、運転時の異常 な過渡変化時及び事故時において、原子炉の安全停止及び炉心の冷却を 確保し得る設計であること。 このため、審査に当たっては、MOX燃料の燃料被覆管の応力、累積疲 労等の機械設計について検討を行った。 燃料棒の設計評価には、「1/3MOX報告書」において妥当性が確認 されている燃料設計手法が使用されている。この手法は、「発電用軽水型 原子炉の燃料設計手法について」において妥当性が確認されているものに、 MOX燃料ペレットの物性、核的特性、照射挙動(熱伝導率、燃料ペレッ ト径方向出力分布、核分裂生成ガス放出率等)が反映されているものであ る。 燃料被覆管の応力については、MOX燃料の燃料棒寸法、燃料棒内圧等 を統計的に考慮した応力評価の結果、通常運転時及び運転時の異常な過渡 変化時において、応力の計算値と許容応力との比である応力設計比の95% 確率上限値は1以下である。なお、形状が複雑な端栓部については、有限 要素法を用い決定論的に求められた応力の計算値が許容応力を下回ってい る。 燃料被覆管の累積疲労については、MOX燃料の炉内滞在期間を7年と し、その間の起動停止や負荷変化による応力サイクルを考慮して累積疲労 係数が評価されており、この値は、許容限界値(1.0)に対し十分余裕が ある。 MOX燃料は、核分裂生成ガス放出率がウラン燃料に比べ若干高めであ ることから、燃料棒の伝熱特性の低下及び燃料棒内圧の上昇がウラン燃料 に比べ大きくなる特徴がある。このためウラン燃料で従来より行われてい る初期ヘリウム加圧、ペレットの高密度焼結に加え、MOX燃料では、プ レナム体積を大きくしている。これにより、燃料中心温度は、燃料寿命を 通じて融点に対して十分低く抑えられ、また通常運転時及び運転時の異常 な過渡変化時においても、燃料棒内圧によるMOX燃料の燃料被覆管の応 力は許容応力を超えないよう設計されている。 これらのほか、フレッティング腐食、燃料被覆管の水素化、燃料被覆管 のクリープ圧潰、ペレット−燃料被覆管相互作用、寸法形状安定性等につ いても検討した結果、燃料の健全性を失うことのない設計とされている。 なお、MOX燃料は、燃料ペレット内にプルトニウム含有率の不均一性 が生じる可能性があるが、この不均一性は燃料の健全性に影響を与えない 範囲としている。 MOX新燃料は、ウラン燃料に比べて発熱量が大きいが、強度に有意な 影響を及ぼすものではなく、また、集合体形状及び構成部品は高燃焼度8 ×8燃料と同一である。これらのことから、MOX新燃料の輸送及び取扱 い中に受ける通常の荷重が問題となることはないと判断される。 さらに、W2に示すように、プラントの各系統の機能とあいまって、運 転時の異常な過渡変化時にも、燃料の許容設計限界を超えることはないこ とを確認した。 また、炉心を構成する燃料棒以外の構成要素は、通常運転時、運転時の 異常な過渡変化時及び事故時において想定される荷重の組合せに対し、原 子炉の安全停止及び炉心の冷却を確保するために必要な構造及び強度を維 持し得るよう設計される。 したがって、変更後においても本原子炉の燃料集合体に関する機械設計 は妥当なものと判断する
1.2 核燃料物質の貯蔵設備及び取扱設備 本変更は、取替燃料の一部として、MOX燃料集合体を3号炉の使用済燃 料プール並びに1号、2号、3号、4号、5号及び6号炉(以下「1〜6号 炉」という。)の共用施設である使用済燃料共用プールにおいて取扱い及び 貯蔵するものである。 本変更に係る核燃料物質の貯蔵設備及び取扱設備の設計においては、以下 に示す事項を満足することが要求される。 @ 使用済燃料貯蔵設備は、想定されるいかなる場合でも、臨界を防止でき る設計であること。 A 使用済燃料貯蔵設備は、崩壊熱を十分に除去し、最終的な熱の逃がし場 へ輸送できる系統及びその浄化系を有すること。 B 燃料取扱設備は、移送操作中の燃料集合体の落下を防止できること。 C 使用済燃料及びMOX新燃料の貯蔵設備及び取扱設備は、放射線業務従 事者の線量当量を合理的に達成できる限り低減できるように、放射線防護 上の措置を講じた設計であること。 D 使用済燃料共用プールは、MOX使用済燃料が貯蔵される場合でも、共 用の観点から、原子炉の安全性を損なうことのない設計であること。 このため、審査に当たっては、使用済燃料貯蔵設備における燃料の臨界防 止、使用済燃料貯蔵設備の除熱能力並びにMOX燃料集合体の取扱い及び放 射線防護等について検討を行った。 使用済燃料貯蔵設備における燃料の臨界防止については、使用済燃料プー ルではアルミニウム製及びボロン添加アルミニウム製のラック、使用済燃料 共用プールではステンレス製のラックを使用し、燃料集合体間隔を適切にと ることにより、設備容量分の燃料を貯蔵し、かつ、プール水温及びラック内 燃料位置等について想定される厳しい状態を仮定しても実効増倍率は0.95以 下に保たれる。 使用済燃料貯蔵設備の除熱能力については、使用済燃料プールにおいて、 原子炉ウェルと燃料プールを仕切るプールゲートを閉じた時点で炉心から取 り出した燃料1回分取替量から発生する崩壊熱と、それ以前の燃料取替で取 り出した使用済燃料から発生する崩壊熱の合計として定義する通常最大熱負 荷を燃料プール冷却浄化系の熱交換器で除去し、プール水温が52℃を超えな いように設計される。さらに、燃料サイクル末期における全炉心の崩壊熱と、 それ以前の燃料取替により取り出された使用済燃料から発生する崩壊熱の合 計として定義する最大熱負荷は、残留熱除去系を併用して除去し、プール水 温は65℃以下に保たれる。なお、使用済燃料共用プールについては、1〜6 号炉の各号炉の使用済燃料プールで19ヶ月以上冷却された使用済燃料が貯蔵 され、その貯蔵容量は1〜6号炉炉心装荷量の合計の約200%であることか ら、MOX使用済燃料が貯蔵されることによる除熱能力への影響は小さく、 従来と同様、除熱性能は確保される。 MOX燃料集合体の取扱設備は、燃料集合体の移送操作中の落下防止のた め、二重ワイヤ等の適切な保持機能を有するように設計される。 MOX新燃料の取扱い及び貯蔵時の放射線防護上の措置については、放射 線業務従事者の線量当量を合理的に達成できる限り低くするように、MOX 新燃料の表面線量率がウラン新燃料に比べて高いという特徴を考慮し、必要 に応じ一時的な遮へいが使用され、使用済燃料プールで保管される。また、 使用済燃料の貯蔵設備及び取扱設備の放射線防護上の措置については、従来 と同様、遮へいに必要な水深を確保した状態で、水中で取扱い、使用済燃料 プール又は使用済燃料共用プールで保管される。 原子炉施設の共用については、使用済燃料共用プールにMOX使用済燃料 を貯蔵した場合でも、燃料の臨界防止、除熱能力、取扱い及び放射線防護上 の措置はウラン使用済燃料と変わるものではなく、原子炉の安全性を損なう ことはない。 したがって、変更後においても核燃料物質の貯蔵設備及び取扱設備の設計 は妥当なものと判断する。 1.3 固体廃棄物の廃棄設備 本変更は、1〜6号炉の雑固体廃棄物の処理方法に固型化処理を追加する ものである。これに伴い、固体廃棄物貯蔵庫の貯蔵容量も変更される。 本変更に係る固体廃棄物の廃棄設備の設計においては、以下に示す事項を 満足することが要求される。 @ 原子炉施設から発生する放射性固体廃棄物の処理施設は、廃棄物の破砕、 圧縮、焼却、固化等の処理過程における放射性物質の散逸等の防止を考慮 した設計であること。 A 固体廃棄物貯蔵設備は、原子炉施設から発生する放射性固体廃棄物を貯 蔵する容量が十分であるとともに、廃棄物による汚染の拡大防止を考慮し た設計であること。 雑固体廃棄物の固型化処理は、放射性物質の散逸等の防止を考慮した設計 とされる。具体的には、当該処理は、第5固体廃棄物貯蔵庫内で行われ、排 気は、フィルタで処理することにより、排気中に含まれる粒子状放射性物質 を低減するように設計される。 雑固体廃棄物の固型化処理は、第5固体廃棄物貯蔵庫に固型化処理のため のエリアを設けて行われることから、固体廃棄物の貯蔵容量が少なくなるが、 変更後においても、1〜6号炉の貯蔵容量は200リットルドラム缶で約 284,500本相当であり、原子炉施設から発生する放射性固体廃棄物を貯蔵す る十分な能力を有している。また、変更後においても固体廃棄物貯蔵庫は廃 棄物による汚染の拡大防止のための機能を損なうものではない。 したがって、変更後においても固体廃棄物の廃棄設備の設計は妥当なもの と判断する。 2.運転時の異常な過渡変化の解析 3号炉の取替燃料の一部としてMOX燃料を採用する変更に伴い、安全保 護系、原子炉停止系等の設計が妥当であることを確認するため、「発電用軽 水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(以下「安全評価指針」とい う。)に基づき、運転時の異常な過渡変化として、下記の事象の解析が行わ れている。 @ 炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化 ・原子炉起動時における制御棒の異常な引き抜き ・出力運転中の制御棒の異常な引き抜き A 炉心内の熱発生又は熱除去の異常な変化 ・原子炉冷却材流量の部分喪失 ・原子炉冷却材系の停止ループの誤起動 ・外部電源喪失 ・給水加熱喪失 ・原子炉冷却材流量制御系の誤動作 B 原子炉冷却材圧力又は原子炉冷却材保有量の異常な変化 ・負荷の喪失 ・主蒸気隔離弁の誤閉止 ・給水制御系の故障 ・原子炉圧力制御系の故障 ・給水流量の全喪失 解析に当たっては、MOX燃料の装荷に伴い、減速材ボイド係数、ドップ ラ係数、限界出力特性、局所出力ピーキング係数等が変わることを考慮し、 解析条件が設定されている。また、プルトニウムの同位体組成の変動につい ても考慮されている。 審査に当たっては、「安全評価指針」に基づき、上記のそれぞれの事象に 応じて以下に示す項目を具体的な判断基準として、解析の評価を行った。 なお、「原子炉起動時における制御棒の異常な引き抜き」の解析の評価に 当たっては、「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針」 (以下「反応度投入事象評価指針」という。)及び「発電用軽水型原子炉施 設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取扱いについて」(以下「反 応度投入事象取扱報告書」という。)も用いた。 @ MCPRは許容限界値1.07以上であること。 A 燃料被覆管は機械的に破損しないこと。すなわち、燃料被覆管の円周方 向平均塑性歪が1%(表面熱流束は、定格の165%に相当)以下であること。 B 燃料エンタルピは許容限界値以下であること。すなわち、燃料エンタル ピの最大値は、「反応度投入事象評価指針」に示された許容設計限界を超 えないこと。 C 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力である 8.28MPa[gage](84.4kg/cm2g)の1.1倍の圧力9.11MPa[gage](92.8kg/cm2g) 以下であること。 MOX燃料が装荷された場合の解析結果及び評価は、以下のとおりである。 2.1 解析結果 MCPRについては、従来と同様に炉心の条件に応じた設定がなされて いる。すなわち、スクラム時の反応度曲線が運転サイクル末期に劣化する ことから、運転サイクルを炉心平均燃焼度で2つの期間に分け、さらに混 在する燃料の組合せに応じて場合分けし、通常運転時の異常な過渡変化の うち、定格出力状態から始まる過渡変化時にMCPRの変化が最も大きい ものに着目して、その通常運転時の熱的制限値が決められている。 具体的な場合分けとMCPRの運転制限値は、以下のとおりである。 (1)サイクル早期炉心(サイクル早期炉心用スクラム曲線が適用される期 間の炉心) @新型8×8ジルコニウムライナ燃料が装荷されている場合 ・新型8×8ジルコニウムライナ燃料 1.25 ・高燃焼度8×8燃料 1.29 ・9×9燃料(A型) 1.31 ・9×9燃料(B型) 1.31 ・MOX燃料 1.29 A新型8×8ジルコニウムライナ燃料が装荷されていない場合 ・高燃焼度8×8燃料 1.27 ・9×9燃料(A型) 1.29 ・9×9燃料(B型) 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 1.26 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 以外 1.29 ・MOX燃料 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 1.27 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 以外 1.28 (2)サイクル末期炉心(サイクル末期炉心用スクラム曲線が適用される期 間の炉心) @新型8×8ジルコニウムライナ燃料が装荷されている場合 ・新型8×8ジルコニウムライナ燃料 1.36 ・高燃焼度8×8燃料 1.41 ・9×9燃料(A型) 1.45 ・9×9燃料(B型) 1.44 ・MOX燃料 1.41 A新型8×8ジルコニウムライナ燃料が装荷されていない場合 ・高燃焼度8×8燃料 1.38 ・9×9燃料(A型) 1.42 ・9×9燃料(B型) 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 1.38 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 以外 1.41 ・MOX燃料 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 1.36 9×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合 以外 1.39 この値以上に維持して運転していれば、サイクル早期炉心において、9 ×9燃料(B型)及びMOX燃料のみが装荷されている場合に最も厳しい 過渡変化である「給水加熱喪失」及び9×9燃料(B型)及びMOX燃料 のみが装荷されている場合以外でもっとも厳しい過渡変化である「負荷の 喪失(タービン・トリップ、タービン・バイパス弁不作動)」並びにサイ クル末期炉心においてもっとも厳しい過渡変化である「負荷の喪失(ター ビン・トリップ、タービン・バイパス弁不作動)」でも、許容限界値1.07 を下回ることはない。 燃料被覆管の機械的破損については、表面熱流束の最大値が「出力運転 中の制御棒の異常な引き抜き」において約121%となるが、燃料被覆管の1% 平均塑性歪に対応する表面熱流束値165%を下回っている。なお、解析は、 引き抜かれる制御棒周辺の局所的な炉心挙動の評価が必要であり、各燃料 設計の平衡炉心について行われている。本事象は、あらかじめ定められた 制御棒引抜阻止信号近傍の出力で収束することから、異なる種類の燃料の 混在による影響はほとんど受けない。さらに、安全保護系のバイパス条件 等に保守性が考慮されている。したがって、異なる種類の燃料が混在する 場合に対しても解析結果は保守性を有している。 燃料エンタルピの最大値は、「原子炉起動時における制御棒の異常な引 き抜き」において、9×9燃料(A型)で約95kJ/kg(約23cal/g)、9× 9 燃料(B型)で約105kJ/kg(約25cal/g)、MOX燃料で約102kJ/kg(約 25cal/g)であり、これらは、燃料の許容設計限界を超えない。なお、解 析は、引き抜かれる制御棒周辺の局所的な炉心挙動の評価が必要であり、 各燃料設計の平衡炉心について行われている。ここで、解析に用いる制御 棒価値等には保守性が考慮されており、異なる種類の燃料が混在する場合 に対しても解析結果は保守性を有している。また、本事象において浸水燃 料の存在及び燃焼の進んだ燃料を考慮しても、浸水燃料の破裂やその他の 燃料の破損は生じない。 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力が最大となるのは、サイクル 末期炉心の「負荷の喪失(タービン・トリップ、タービン・バイパス弁不 作動)」においてであり、約8.67MPa[gage](約88.4kg/cm2g)となる。こ れは、原子炉冷却材圧力バウンダリの最高使用圧力の1.1倍を下回ってい る。 2.2 評価 「1/3MOX報告書」において「安全評価指針」に示された事象をその まま用いることができるとしている。 運転時の異常な過渡変化として取り上げられている事象については、「安 全評価指針」に基づき、「炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化」、「炉 心内の熱発生又は熱除去の異常な変化」及び「原子炉冷却材圧力又は原子炉 冷却材保有量の異常な変化」のそれぞれに対して、解析の結果が厳しくなる 事象が選定されており、事象の選定は妥当なものと判断する。 また、解析に用いられる条件及び手法は、以下に示すとおり妥当なものと 判断する。 @ 事象の解析に当たっては、通常運転範囲及び運転期間の全域について考 慮し、サイクル期間中の炉心燃焼度変化、燃料交換等による長期的な変動 及び運転中予想される異なった運転モードを考慮して、判断基準に照らし て最も厳しくなる初期状態が選定されている。また、解析は、原則として 事象が収束し、支障なく冷温停止に至ることができることが合理的に推定 できる時点までが包含されている。 A 解析に当たって考慮する安全機能は、原則として「発電用軽水型原子炉 施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針」(以下「重要度分類審査 指針」という。)において定めるMS−1及びMS−2に属する系統及び 機器による機能としている。また、機能を期待しているMS−3に属する 系統及び機器についても信頼性が十分であると考えるので、その機能を期 待することは妥当なものと判断する。 安全保護系の動作を期待する場合には、安全保護系作動のための信号の 種類及び信号発生時点が明確にされている。 原子炉のスクラムの効果を期待する場合には、スクラムを生じさせる信 号の種類を明確にし、適切なスクラム遅れ時間を考慮し、かつ、当該事象 の条件において最大反応度価値を有する制御棒1本が、全引き抜き位置に あるものとして停止効果が考慮されている。 B 解析に使用されている計算プログラム等は、いずれも実験結果等との比 較により、その妥当性が確認されている。解析に使用されているモデル及 びパラメータは、解析結果が厳しくなるよう選定されており、また、パラ メータについては「1/3MOX報告書」に従い、MOX燃料の特性がプ ルトニウムの同位体組成の変動の影響も含めて事象に応じて適切に反映さ れ、不確定因子が考えられる場合には、適切な安全余裕が見込まれている。 以上のように、事象の選定、解析の条件及び手法は妥当であり、2.1に 示すように解析結果は判断基準を満足していること等から、変更後において も本原子炉施設は「安全評価指針」等に適合しているものと判断する
3.事故の解析 3号炉の取替燃料の一部としてMOX燃料を採用する変更に伴い、工学的 安全施設等の設計が妥当であることを確認するため、「安全評価指針」に基 づき、事故として、下記の事象の解析が行われている。 @ 原子炉冷却材の喪失又は炉心冷却状態の著しい変化 ・原子炉冷却材喪失 ・原子炉冷却材流量の喪失 ・原子炉冷却材ポンプの軸固着 A 反応度の異常な投入又は原子炉出力の急激な変化 ・制御棒落下 B 環境への放射性物質の異常な放出 ・主蒸気管破断 なお、他の事象については、MOX燃料の装荷による解析条件の変更はな く、9×9燃料に関する解析結果が変更されるものではない。 解析に当たっては、MOX燃料の装荷に伴い、減速材ボイド係数、ドップ ラ係数、限界出力特性、局所出力ピーキング係数等が変わることを考慮し、 解析条件が設定されている。また、プルトニウムの同位体組成の変動につい ても考慮されている。 審査に当たっては、「安全評価指針」に基づき、上記のそれぞれの事象に ついて以下に示す項目を具体的な判断基準として、解析の評価を行った。 なお、「原子炉冷却材の喪失又は炉心冷却状態の著しい変化」における「原 子炉冷却材喪失」の解析の評価に当たっては、「軽水型動力炉の非常用炉心 冷却系の性能評価指針」(以下「ECCS性能評価指針」という。)も用い、 「反応度の異常な投入又は原子炉出力の急激な変化」における「制御棒落下」 の解析の評価に当たっては、「反応度投入事象評価指針」及び「反応度投入 事象取扱報告書」も用いた。 @ 炉心は著しい損傷に至ることなく、かつ、十分な冷却が可能であること。 A 燃料エンタルピは「反応度投入事象評価指針」に示された制限値を超え ないこと。 B 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力である 8.28MPa[gage](84.4kg/cm2g)の1.2倍の圧力9.94MPa[gage](101.3kg/c m2g)以下であること。 C 原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力は、設計圧力の1/0.9倍の圧力 427kPa[gage](4.35kg/cm2g)以下であること。 D 周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと。 MOX燃料が装荷された場合の解析結果及び評価は、以下のとおりである。 3.1 解析結果 これらの事故時において、炉心は著しい損傷に至ることなく、かつ、十分 な冷却が可能である。なお、「原子炉冷却材の喪失又は炉心冷却状態の著し い変化」における「原子炉冷却材喪失」においては、燃料被覆管の温度の最 高値は9×9燃料(A型)で約654℃、9×9燃料(B型)で約638℃、MO X燃料で約647℃であり「ECCS性能評価指針」に示された制限値1,200℃ を下回っている。また、燃料被覆管の酸化層厚みの増加は極めて小さいもの であり、「ECCS性能評価指針」の基準を満足している。 燃料エンタルピの最大値は「制御棒落下」において、9×9燃料(A型) で約776kJ/kg(約186cal/g)、9×9燃料(B型)で約775kJ/kg(約185cal/g)、 MOX燃料で約738kJ/kg(約177cal/g)であり、「反応度投入事象評価指針」 に示された制限値からさらに燃焼の進行並びにガドリニア又はプルトニウム 添加に伴うペレット融点低下分に相当するエンタルピを差し引いた値である 837kJ/kg(200cal/g)を下回っている。なお、解析は、落下する制御棒の周 辺の局所的な炉心挙動の評価が必要であり、各燃料設計の平衡炉心について 行われている。ここで、解析に用いる制御棒価値等には保守性が考慮されて おり、異なる種類の燃料が混在する場合に対しても解析結果は保守性を有し ている。また、本事象において浸水燃料の破裂及びペレット−被覆管機械的 相互作用に起因する燃料破損による衝撃圧力等の発生によっても、原子炉停 止能力及び原子炉圧力容器の健全性は損なわれない。 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、「原子炉冷却材ポンプの軸 固着」において最大となり、約8.31MPa[gage](約84.7kg/cm2g)であり、原 子炉冷却材圧力バウンダリの最高使用圧力の1.2倍を下回っている。 原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力は、「原子炉格納容器内圧力、雰 囲気等の異常な変化」における「原子炉冷却材喪失」において、約3.2kg/c m2gであり、設計圧力の1/0.9倍を下回っている。 敷地境界外における実効線量当量は、「放射性気体廃棄物処理施設の 破損」において最大となり、約 1.1×10−1mSvであり、周辺の公衆に対し、 著しい放射線被ばくのリスクを与えるものではない。 可燃性ガスの発生に関しては、水素濃度がドライウェル内で最大約 3.2vol%、 酸素濃度がドライウェル内で最大約4.5vol%であり、可燃限界である水素 4vol%及び酸素5vol%より低い。 なお、上記の「原子炉格納容器内圧力、雰囲気等の異常な変化」における 「原子炉冷却材喪失」及び「放射性気体廃棄物処理施設の破損」については、 9×9燃料に関する解析結果が変更されるものではない。 3.2 評価 「1/3MOX報告書」において「安全評価指針」に示された事象をその まま用いることができるとしている。 事故として取り上げられている事象については、「安全評価指針」に基づ き、「原子炉冷却材の喪失又は炉心冷却状態の著しい変化」、「反応度の異 常な投入又は原子炉出力の急激な変化」、「環境への放射性物質の異常な放 出」及び「原子炉格納容器内圧力、雰囲気等の異常な変化」のそれぞれに対 して、解析の結果が厳しくなる事象が選定されており、事象の選定は妥当な ものと判断する。 また、解析に用いられている条件及び手法は、以下に示すとおり妥当なも のと判断する。 @ 事象の解析に当たっては、通常運転範囲及び運転期間の全域について考 慮し、サイクル期間中の炉心燃焼度変化、燃料交換等による長期的な変動 及び運転中予想される異なった運転モードを考慮して、判断基準に照らし て最も厳しくなる初期状態が選定されている。また、解析は、原則として 事象が収束し、支障なく冷温停止に至ることができることが合理的に推定 できる時点までが包含されている。 A 解析に当たって考慮する安全機能は、原則として「重要度分類審査指針」 において定めるMS−1及びMS−2に属する構築物、系統及び機器によ る機能としている。また、機能を期待しているMS−3に属する系統及び 機器についても信頼性が十分であると考えるので、その機能を期待するこ とは妥当なものと判断する。 事故に対処するため、必要な系統、機器については基本的安全機能別に、 解析の結果を最も厳しくする機器の単−故障が仮定されており、必要な運 転員の手動操作については、時間的余裕が適切に考慮されている。 安全保護系の動作を期待する場合には、安全保護系作動のための信号の 種類及び信号発生時点が明確にされており、工学的安全施設の動作を期待 する場合には、外部電源が利用できない場合も考慮されている。 原子炉のスクラムの効果を期待する場合には、スクラムを生じさせる信 号の種類を明確にし、適切なスクラム遅れ時間を考慮し、かつ、当該事象 の条件において最大反応度価値を有する制御棒1本が、全引き抜き位置に あるものとして停止効果が考慮されている。 B 解析に使用されている計算プログラム等は、いずれも実験結果等との比 較により、その妥当性が確認されている。 解析に使用されているモデル及びパラメータは、解析結果が厳しくなる よう選定されている。また、パラメータについては、「1/3MOX報告 書」に従い、MOX燃料の特性がプルトニウムの組成変動の影響も含めて 事象に応じて適切に反映され、不確定因子が考えられる場合には、適切な 安全余裕が見込まれている。 「制御棒落下」の評価に用いられる燃料エンタルピの制限値については 「反応度投入事象報告書」に従い、燃焼が最も進んだ燃料ペレットの融点 低下並びにガドリニア又はプルトニウム添加による燃料ペレット融点低下 を考慮して適切に設定されており、妥当なものと判断する。 なお、「反応度の異常な投入又は原子炉出力の急激な変化」における「制 御棒落下」については、申請者が行った解析を審査するほか、別途に解析 を行い、その妥当性を確認した。 以上のように、事象の選定、解析の条件及び手法は妥当であり、また、3. 1に示すように解析結果は判断基準を満足していること等から、変更後におい ても本原子炉施設は「安全評価指針」等に適合しているものと判断する
4.立地評価のための想定事故の解析 原子炉の立地条件の適否、すなわち、周辺公衆との離隔の確保の妥当性を 確認するため、「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすに ついて」(以下「原子炉立地審査指針」という。)及び「安全評価指針」に 基づき、重大事故及び仮想事故として「原子炉冷却材喪失」及び「主蒸気管 破断」が選定されている。これらの事象については、MOX燃料の装荷によ る解析条件の変更はなく、従来の解析結果が変更されるものではない。 重大事故については、敷地境界外におけるγ線による全身に対する線量は、 「主蒸気管破断」において最大となり約5.8×10-2mSvである。また、小児の 甲状腺に対する線量は、「主蒸気管破断」において最大となり約22mSvであ る。 仮想事故については、敷地境界外におけるγ線による全身に対する線量は、 「原子炉冷却材喪失」において最大となり約1.2mSvである。また、成人の甲 状腺に対する線量は、「原子炉冷却材喪失」において最大となり約100mSvで ある。 また、仮想事故については、全身線量の積算値は「原子炉冷却材喪失」に おいて最大となり、西暦1995年の人口に対して約 0.18万人Svであり、西暦 2025年の推計人口に対して約0.18万人Svである。 したがって、変更後においても本原子炉の立地条件は「原子炉立地審査指 針」に適合しているものと判断する。 また、『「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニ ウムに関するめやす線量について」の適用方法などについて』を踏まえ、「プ ルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめ やす線量について」を用いた被ばく評価を行わないことは妥当と判断した
X 審査経過 本審査書は、東京電力株式会社が提出した「福島第一原子力発電所原子炉設 置変更許可申請書(1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉施設の変更) 本文及び同添付書類」(平成10年11月4日付け申請、平成11年3月5日 付け一部補正)に基づき審査を行った結果を取りまとめたものである。審査の 過程において、現地調査を実施したほか、通商産業省原子力発電技術顧問の専 門的意見を聴取した。 当該原子炉設置変更許可申請に係る審査過程で意見を聴取した通商産業省原 子力発電技術顧問は以下のとおりである。 平成11年3月現在 顧 問 氏 名 所 属 阿部 清治 日本原子力研究所 飯嶋 敏哲 (財)原子力発電技術機構 石川 迪夫 (財)原子力発電技術機構 石塚 信 (財)原子力安全技術センター 岩田 修一 東京大学 大橋 弘忠 東京大学 岡 芳明 東京大学 木下 幹康 (財)電力中央研究所 久木田 豊 名古屋大学 近藤 駿介 東京大学 斯波 正誼 (財)原子力発電技術機構 鈴木 篤之 東京大学 早田 邦久 日本原子力研究所 伯野 元彦 東洋大学 藤城 俊夫 日本原子力研究所 古田 照夫 (財)原子力発電技術機構 松本 光雄 核燃料サイクル開発機構 三島 嘉一郎 京都大学 宮zア 慶次 大阪大学 吉川 榮和 京都大学 (敬称略、五十音順)