「出ない」とみられていたのにやっぱり「出る」らしい。十一日は朝から石原慎太郎東京都知事の渋い顔で頭がいっぱいだった。次期都知事選の話だ。
都議会本会議の締め括(くく)りに登壇した石原氏。「国家破綻への危機感ゆえに」うんぬんと嘆き、憂国の士然として再び立つと表明したではないか。国家破綻とはまた大きく出たな、とコンビニ弁当を頬張りながら原稿を書きあぐねていた。
そこへ、グラグラッときた。机上のスチールラックが大揺れ。積み上げた本や資料、スクラップがドサドサッといっぺんに散乱した。十階にある論説室は物置をひっくり返したように足の踏み場もなくなった。
テレビが映し出す地獄絵に恐怖した。大津波の濁流が家や車を押し流し、街を丸ごとのみ込んでいく。すべてが失われた水浸しの更地、真っ黒な猛煙を噴き上げるコンビナート、揚げ句に原発の爆発−。絶句。
国家破綻の様相だ。人間よ、おごるなかれ。人間がいじめ抜いてきた自然がいよいよ激怒した。この危機を救う力が本当にあるのは、政治家ではない。
やっぱり自然を恐れ、敬い、苦しんだり、悲しんだりしている人たちに寄り添い、手を差し伸べることのできる温かい心の持ち主だけだ。今はそんな人たちで歯を食いしばって、できる限り涙の数を減らしたい。みんなが笑顔になれるまで、がんばろう!ニッポン。 (大西隆)
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