電力自由化時代の電力システムとエネルギー有効利用 プロフェッショナルに学ぶ攻めの省エネパワーアップ講座
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3.大規模停電事故の背景にあるもの


停電事故はなぜ起こる?
さて、電力の自由化が世界各国で進みはじめてから2、3年経った頃、急に大規模な停電事故が各国で増えてきました。どうやら背景には電力の自由化があるのですが、そのあたりの関係をお話しましょう。
イタリアのローマやミラノでは2003年6月、猛暑によって設備が不足したため、地域毎に順番に停電させる「輪番停電」で600万人が影響を受けました。8月には今度はほぼ全土で、5700万人規模の13時間停電が起こりました。アメリカでは同じ8月、ニューヨーク、カナダなど五大湖周辺で5000万人が影響を受けた43時間停電という史上最大の事故がありました。この時の6000万kWというのは、東京電力管内が全部停電したのと同じ規模です。イギリスでもありました。中国では経済が12%伸長ですが、設備は通常10%増し程度でしかつくれないため、猛暑の時に地域を限って輪番停電を実施しました。評判の良いデンマークやスウェーデンでも設備不足でちょっと危ない感じになってきました。

世界最大の停電
これらの中でとくに北米の事故は世界最大であり、何か理由があるはずだと取り沙汰されました。東京電力規模、さらに地域面積でいえば日本がすっぽり入る規模です。停電による損失は約1兆円です。アメリカでは地域に分けて監視をしていますが、ちょうどその境目のところで起きたので、調整が不備であることも問題として指摘されました。
現象としても不思議なことが起こりました。まずある発電所が停電し、電気のバランスが崩れて電圧が降下、たくさんの電気が流れるので送電線が熱されて垂れ下がってきて、下の木に触れた。こんなこと日本ではありえませんが、それほどメンテナンスを怠っていたのです。こうしてエネルギーが行き場を失って異常な流れかたで巨大な潮流になって往復し、迂回し、オハイオからとうとうニューヨークまで行ってしまった。停電する瞬間は1分以内で全部が次々と消えていきますが、そこに至るまでには発生から約4時間かかっています。振動現象という現象が起こり、大停電になったのです。この背景には、湖の上には送電線を通せないので五大湖周辺は電気の流れが複雑にループ化されているという事情もあります。時に応じて電気の流れる経路や向きが変わるのです。
私はこの事故が起きて3日めにTBSに呼ばれ、調査結果がない時に推定で原因を考察したんですが、
(1.) 地理的にも歴史的にも複雑な地域であること
(2.) 送電経路が全体ではメッシュ状になっている反面、エリー湖周辺はループ状になっていて非常に複雑な潮流が生まれること
(3.) 競争環境下での設備投資インセンティブの欠如、つまり皆5、6年で儲けようと思っているのに、送電線などの設備を作るには数十年かかるので投資しようとしないこと、例えば東部の系統では送電線の設備投資は半分になったのに電気を買う量は倍になっている
(4.) いろいろな会社が合併してできたため(例えばミッドウェスト地域ではかつて23社の電力会社があった)、コンピュータのネットワークが不備であったり、保護装置が老朽化していたり、規格が複雑で協調がとれていなかったこと
(5.) 自由化の移行期間で法的な整備がうまくいってなかったこと
等を挙げました。この中で(3.)については日本も同様で、電力10社の設備投資は年々減ってきています。かつては毎年5兆円規模でしたが、今では2兆円を切る状態です。アメリカ同様、電力の規模は増えているのに設備投資は半分以下になってきていて、あと数年も経つと心配な状態です。そうはいっても日本ではそうすぐには大停電は起こりません。今までふんだんに設備投資をしていますし、オペレータなど運用者の教育レベルが非常に高く、トレーニングができているからです。アメリカではベテランの系統運用者の首切りをして、学校を出たばかりの若い人をただ座らせているだけなので事故があっても対処できない。この停電の時も「何があったかさっぱりわからない」「全体がわかる図でもあるといい」なんて言っています。よほど情報が不備だったか、オペレータが不慣れだったかなのです。こういう原因が重なって史上最大の停電事故が起きたと思われます。
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