京都議定書目標達成計画において期待され削減手段としてカウントされている技術手段は、再生可能エネルギーをはじめとした代替エネルギーの大幅導入と、いっそうの省エネ努力である。ところで運輸部門や家庭用事業用の電力供給などからの二酸化炭素の排出削減が容易に進まないのは、これらのエネルギー供給については化石燃料に大幅に依存しており、そのインフラ自体が社会のあり方に密接に組みこまれているためである。

 これらのエネルギー分野では、省エネを除くと燃料転換(石炭から石油、あるいは石油から天然ガスといった、単位エネルギー獲得量あたりの二酸化炭素排出量が少ない燃料種への転換)くらいしか、二酸化炭素排出削減に効果的な方策が見当たらない。

 しかし、二酸化炭素を大気以外のところに貯めこむことができれば話は違ってくる。大規模な環境対策技術が社会に導入される過程の段階で、ある期間、一見、本質的な解決策とは思えない技術が採用されることは、これまでにも経験されたことである。内燃機関である自動車のエンジンからの排ガス中窒素酸化物について1970年代以降の環境規制の際には、発生そのものを抑える技術手段の採用は燃料電池自動車や電気自動車の本格実用化まで先送りされ、排ガス中からの触媒による汚染物質の除去という技術手段が成功を収めた。

 さて、世界では多くの意欲的な「脱化石エネルギー」技術開発が進行している。燃料電池のように実用化と大幅な普及が視野にはいりはじめたものもある。「地球温暖化問題」という環境のリスクを『気候変化』として取り返しのつかない形で顕在化させることなく、脱化石エネルギー技術へとスムーズに橋架けをしてゆくために、今後数十年の間、「二酸化炭素を大気以外のところに貯めこむ」技術、すなわち炭素隔離技術を採用することを、世界は模索しはじめている。

 本稿では、わが国でも技術開発が実施されており、実際に二酸化炭素の削減に寄与できる規模での実施が望まれている二酸化炭素地中貯留技術について解説する。

大隅 多加志(おおすみ・たかし)
1951年9月横浜市生まれ。1974年3月、東京大学理学部卒。東大海洋研究所で大学院生として研究生活に入る。78年4月、東京工業大学理学部化学科助手。同位体地球化学が専門で火山・地震・地下水などを研究対象とする。1987年4月から(財)電力中央研究所に勤務。2000年〜2004年に(財)地球環境産業技術研究機構に出向、現在は同研究機構を兼務。1988年から二酸化炭素の海洋隔離・地中貯留技術の研究開発に従事。
電力中央研究所編・エネルギーフォーラム社刊『地球環境2002-'03 地球温暖化の実態と対策』『地球環境2004-'05 温暖化対策の長期戦略』など分担執筆。

時事通信社『21世紀の環境とエネルギーを考える』Vol.27(2005年4月発行)より再掲


この連載の一覧

地球温暖化問題の切り札――二酸化炭素の地下貯留(1)

地球温暖化問題の切り札――二酸化炭素の地下貯留(2)

地球温暖化問題の切り札――二酸化炭素の地下貯留(3)

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