地殻工学講座 地質工学分野
環境から資源まで“人類と地球”に関わる
工学的課題への地球科学の挑戦
21世紀を迎え、資源・エネルギー需給の逼迫、地球環境汚染、地震・豪雨等による自然災害など“人類と地球”に関わる深刻な課題が顕在化しつつあります。
また、社会基盤整備の多様化・大型化、コスト縮減にともなって、土木構造物の立地や基礎地盤に要求される地質条件は厳しいものとなっています。
このような“人類と地球”に関わる多様な課題について地球科学的視点から理解し、工学的解決を模索する「地質工学」の役割がますます重要となっています。
地質工学分野では、化石燃料を始めとする資源・エネルギー開発、地球環境保全、防災、土木構造物建設など地球工学分野における多様な課題について幅広い研究を進めています。
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研究テーマ・開発紹介
(目次)
物理探査情報の3-D可視化技術の開発とその利用
物理探査技術とこれに付随する情報処理技術は、金属鉱床など地下資源探査を目的として開発され発展してきました。これらの手法は、地下構造を高精度で把握するとともに、得られた情報を他の情報と合わせて処理し、新たに利用価値の高い情報を生み出すことを目的としています。
また、地下の工学的評価や開発計画に対して地質情報を的確に反映させるため、地下構造を三次元的、可視的に表現する3-D可視化技術の開発も必要となっています。
ここでは、「GISを用いた空中電磁探査デ-タの3-D可視化」に関する研究の例を紹介します。空中電磁探査とは、空中から、例えばヘリコプターを用いて、地下構造を三次元的に把握する手法であり、地下浅部から得られる地質情報は、資源開発分野にとどまらず、土木工学、砂防工学、環境工学等の様々な工学分野への利用が期待されています。
図-1 |
図-2 |
空中電磁探査から得られた浅層地盤の比抵抗分布データは、斜面の風化・変質の程度や厚さを反映したものであり、この情報と地形情報を始めとするGIS情報とを合わせて処理することにより、土木構造物の基礎地盤や地すべりなど斜面の安定評価に関する地質情報を広域的、立体的に得ることが可能となり、ハザードマップ作成を始め、防災や地域開発計画への利用を図る必要があります。
海底化石燃料資源の探査及び評価技術の開発
21世紀において人類が直面する恐れのある危機の一つに石油に代表されるエネルギー資源の枯渇があります。石油は、その埋蔵が偏在しているため、現在でも政治・経済の動向に敏感で、需給が非常に不安定なものとなっています。このため石油資源に替わりうる新たな安定したエネルギー資源の開発をおこなうことが重要な課題となっています。
このような中で注目されているのがメタンハイドレート(Methane Hydrate:MH)です。MHは永久凍土地帯や温度の低い海底の未固結層に含まれ、我が国周辺では南海トラフを始め海底域に広く分布していることが分かってきました。海底のメタンハイドレートの探査技術としては反射法地震探査が有力です。
図-3は、MH層とそれに付随するフリーガス(Free Gas :FG)層の存在を示唆する海底疑似反射面(Bottom Simulating Reflector:BSR)の地震探査記録の例です。
天然ガスの探査手法の一つとして用いられるAVO(Amplitude Versus Offset)解析やMH賦存量の評価手法の開発など、MH層特有な性質に基づいた解析技術についての研究をおこなっています。
図-3 |
軟岩斜面の劣化及び崩壊特性に関する研究
軟岩は我が国や東南アジア諸国を始めとして世界各地に分布し、硬岩に比べて強度が小さくて変形性が大きく、また、自然環境の影響を受けて劣化しやすいなど、軟岩特有の様々な性質を有しています。
軟岩の劣化特性や劣化抑制対策、及び岩盤評価手法などに関する研究に取り組んでいますが、ここではスラビング(Slabbing)に関する研究を紹介します。
急勾配をなす軟岩斜面では、断層や節理など地質構造的な不連続面が認められない場合においても、斜面の劣化や浸食に伴って地形面に沿って新しい分離面を形成して、岩盤崩壊を生じる現象がみられます。この現象がスラビングです。
軟岩において60度以上の急勾配の切土がおこなわれている国々では、スラビングによる切土のり面崩壊は、一般的な現象として知られております。しかしながら、我が国ではスラビングについてはほとんど認識されておらず、そのような現象が生じた場合、もっぱら断層や節理あるいは何らかの原因によって形成されたとする潜在亀裂など、既存の不連続面の緩みや剥離、すべりなどによるものとして説明がなされているのが現状です。
1996年2月に発生した豊浜トンネル岩盤崩壊を始め、軟岩地帯における水際斜面の岩盤崩壊の一部はスラビングによる可能性があります。
我が国におけるスラビングによる岩盤崩壊の実態を明らかにするために、岩石海岸や貯水池湖岸を対象に現地調査をおこなうとともに、その発生のプロセスやメカニズムについての研究をおこなっています。
図-4 浸食洞形成によるスラビング崩壊のFEM解析(局所安全率分布)