東日本大震災で東京電力福島第1原発1号機が炉心溶融を起こし、放射性物質が漏れたことは、経済産業省や東電など電力会社が強調してきた日本の原発の「安全神話」を崩壊させるものだ。国は「温暖化防止に役立つ低炭素エネルギー」として、国内の発電量に占める原発比率を大幅に高める政策を進めてきたが、今回の事故で国民に原発不信が広がるのは必至。国のエネルギー政策は抜本的な見直しを迫られることになった。
原発は現在、日本の電力の約3割を賄う「基幹電源」。政府は昨年6月に策定したエネルギー基本計画で14機以上の原発の新増設を掲げ、原発比率を4割程度に高める計画を示した。これを受け、現在17機の原発を保有する東電は福島第1原発での7、8号機増設などを含め、原発シフトを加速し、原発比率を09年度の28%から、19年度には48%に高める方針だった。
世界では79年の米スリーマイル島原発事故や86年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故後、原発への逆風が強まった。そんな中、日本が原子力政策を推進し続けて来られたのは、経産省や東電など電力事業者が「厳格な安全管理を徹底しており、深刻な事故は起きない」としてきたからだ。
91年の関西電力・美浜原発2号機の蒸気発生器細管破断事故や、95年の「もんじゅ事故」、99年の茨城県東海村の臨界事故では、原発への不安が高まった。しかし、電力会社はいずれのケースも、部品の施工ミスや設計ミスなど「想定外の事象が原因」と強調。07年の新潟県中越沖地震で東電・柏崎刈羽原発が全機停止した時も「原因は変圧器の火災。原発の設計構造そのものに問題はない」と、深刻な事故につながるリスクを否定してきた。
その上で、近年は「原発は温暖化対策の切り札」(経産省幹部)とアピール、国内での原発増設計画だけでなく、国の「インフラ輸出」策の柱にも位置付けてきた。しかし、地震後の津波で原子炉冷却用電源が損傷し、放射性物質が漏れた今回の事故は、原発の安全設計の根幹が疑われるもの。東電がこれまでアピールしてきた「(いくつもの安全装置で原子炉を守る)多重防護の考え方を徹底している」との言葉の信頼性は吹き飛んだ。
しかも、放射能漏れを起こした福島第1原発は71年の運転開始から40年がたつ老朽炉。東電は「今回の地震や津波は(安全対策の)想定を上回るもの」と説明するが、原子炉圧力容器や建屋に劣化が生じていなかったかなど、東電の安全管理体制が改めて問われそうだ。また、炉心溶融が判明して以降も、地元住民や国民への説明が後手に回り、12日夜に開いた会見でも「冷却水の維持に取り組んでいる」(小森明生常務)などと当面の対応策を繰り返すばかりだった東電の姿勢には批判も出ており、経営責任が問われるのは必至だ。
95年の阪神大震災を契機に原発の耐震性が問い直され、国や電力会社は耐震性能を高める措置を取った。しかし、地震に伴う津波への対策は十分ではなかったわけで、地震国ニッポンにおける原発の安全性は根幹から問い直されることになった。経産省幹部も「今回の事故で国のエネルギー政策の抜本的な見直しを求める声が強まるだろう」と認める。
原発増設計画を凍結せざるを得ない東電は当面、火力発電などで代替する考えだが、原油高や環境対応を考えれば、原油や石炭発電に先祖返りするのは難しい。太陽光発電など再生可能エネルギーの普及には時間がかかり、原発頼みを強めてきた日本のエネルギー政策は袋小路に追い込まれる可能性がある。【山本明彦、立山清也】
毎日新聞 2011年3月12日 20時21分(最終更新 3月13日 0時15分)