東日本大震災で被災した福島第1原発1号機は、発生から1日で炉心溶融という事態に至った。原子炉内の圧力を、弁を開いて放射性物質とともに外へ逃がすという「禁じ手」を使ったことで、最悪の事態は免れたものの、幾重にも用意された安全対策はことごとく不発に終わった。「想定外の事態」を繰り返す東電に、専門家からは批判の声が上がる。
原発の安全対策の至上命令は「止める」(緊急停止)「冷やす」(炉心の過熱を抑える)「閉じ込める」(放射性物質が漏れ出さないようにする)の三つ。今回、1号機が実行できたのは、最初の「止める」だけだった。
元原子炉設計技術者で、福島第1原発4号機の設計にも携わったライターの田中三彦さんによると、地震や津波の影響で非常用電源が動かせなくなったため、炉心に冷却水が注入できなくなった。その結果、圧力容器内の水位が低下し、炉心にある核燃料の集合体が水中から露出し始めた。
この状態が続いた結果、水による冷却ができず、燃料集合体の温度が急上昇。核燃料を覆うジルコニウム合金が溶け始めた。いわゆる「炉心溶融」だ。1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故では、この状態が続いた。
非常用電源が故障したのは、想定外の津波が原因。さらに炉内では、燃料棒を冷やすはずの水の水位が予想に反して下がり続けた。経済産業省原子力安全・保安院は12日の会見で「炉心溶融が発生したとみられる」と、最悪の事態を認めた。
田中さんは「原子炉圧力容器が最後のとりでだが、1号機の場合は営業運転開始(1971年)から40年がたっており、耐久性が落ちている可能性もある」と懸念する。
京大原子炉実験所の小出裕章助教(原子核工学)の話 外部に通じる弁を開くことで、格納容器が高圧により破損するのは防げた。だが、原子炉の水位が減って核燃料の一部が露出し溶け出したことは大きな問題だ。小規模な燃料溶融から、かなりの燃料が溶ける炉心溶融に近づいているのではないか。
毎日新聞 2011年3月12日 19時57分(最終更新 3月12日 20時03分)