経済産業省原子力安全・保安院は12日、東京電力福島第1原子力発電所1号機(福島県)で、燃料棒が損傷する「炉心溶融」が国内で初めて起こった可能性を明らかにした。同原発の周辺監視区域での放射性物質の測定で、セシウム137が検出され、燃料棒が溶けているとみられる。保安院は「燃料棒の被覆管が一部溶融している」とみているが、現在、同原発から半径10キロ以内に設定した避難地域を拡大する必要はないとしている。
同原発1号機では、東北沖大地震発生後から原子炉圧力容器内の水位が下がり、燃料棒が次第に露出し始めた。消防車が大量の水を供給しているが水位の低下は止まらず、現在では最大170センチまで露出している。その結果、燃料自体の熱が上がり、包んでいる金属が溶けると、ウランが核分裂した後に生成されるセシウムが検出される。
炉心溶融は、想定される原発事故の中でも最悪の事態で、外部に放射性物質をまき散らす恐れもある。圧力容器を覆っている格納容器の機能を維持するため、弁を開いて炉内の圧力を下げる作業を続けている。これまでに2万1000リットルを注水しており、今後電源の回復を急ぎ、さらに多くの量の水を供給する。格納容器内の圧力は7.54気圧と安定している。
【ことば】福島第1原発 東京電力初の原発として計画され、1号機が1971年3月、営業運転を始めた。福島県大熊町と双葉町にまたがる約350万平方メートルの敷地に、現在6基の原子炉が稼働する。燃料の核分裂反応によって生じた熱で水を沸騰させ、そこから生じた高温の蒸気でタービンを回して発電する「沸騰水型原子炉」で、総発電量は約470万キロワット。1号機は今年、営業運転開始からちょうど40年を迎える「高経年化原発」だ。
過去に起きた炉心溶融事故は1979年3月、米ペンシルベニア州のスリーマイル島原発の事故。給水ポンプが停止し、蒸気発生器への給水ができなくなって冷却が不十分になり、炉心の圧力が上昇、圧力を逃がす弁が開いた。原子炉は緊急停止したが、その弁が開いたままになり、冷却水が失われ続けた。このとき運転員が誤解して、非常用炉心冷却装置を止めてしまった。最終的に炉心の燃料、炉内の構造物が溶融する最悪の事態となり、周辺へ大量の放射性物質が放出された。1986年に起きた旧ソ連・チェルノブイリ原発事故では、炉心溶融の後に炉が爆発、放射性物質が広島に投下された原爆に換算して約500発分もまき散らされた。
■過去の起きた主な重大な原子力関連施設の事故■
キシュチム再処理施設高レベル放射性廃液タンク爆発事故(旧ソ連) 1957年9月29日
米国・スリーマイル島原発事故 1979年3月28日
チェルノブイリ原発事故(旧ソ連) 1986年4月26日
東海再処理工場アスファルト固化処理施設火災爆発事故(日本) 1997年3月11日
JCOウラン燃料加工施設臨界事故(日本) 1999年9月30日
毎日新聞 2011年3月12日 14時20分(最終更新 3月12日 15時23分)