社説
前原外相辞任/この「潔さ」どう見るべきか
数千万単位のカネが動いたという話ではないように見えた。閣僚を辞めるほどのことではないと周辺が説得しているとも聞こえてきた。結論が出るまでもう少し調整が要るのかなと思っていたら、前原誠司外相がすっぱりと辞任を決めた。 自身の調査によると、在日韓国人から2005年から5万円ずつ5回、計25万円の献金を受け取ったという。もちろん拍手を送るほどのことではないが、金額の多少だけを考えれば潔い辞め方と言えなくもない。 この「潔さ」にはしかし、幾つもの思惑や事情が込められているだろう。 次の首相候補に名を連ねる人にしては脇が甘すぎると、一段と批判が強まることへの恐れ。与野党の現在の力関係で国会審議をこのまま乗り切るのは無理だという判断。もっと言えば、菅直人内閣にとどまり続ける得失も見極めた上でのことかもしれない。 重要閣僚の一見、潔い身の引き方は現政権の敗走が始まったことを強く印象付ける。そして次の政権の形は一向に見えてこない。潔かったかもしれないが、この退任劇が政治への失望と不安をさらにかき立てたことを、民主党は深く自覚すべきだ。 政治資金規正法が外国人、外国企業からの寄付の受け取りを禁止する訳は、誰でも容易に想像がつくはずだ。日本の政治家が外国から悪影響を受ける素地になるからである。 民主党の代表も経験し、政権交代後、国土交通相を務め、現在外相の座にある議員の事務所が、その基本的なチェックを怠っていた。 辞任の記者会見で本人は「外相の地位にある者」としての反省を述べ、事務所の会計処理の「管理責任は私自身にある」と語った。形式的なミスを言い募ったり、秘書任せを強調したりするようなことはなかった。 疑問が二つ。こうすっきりと引責の結論を導き出せるのに、身内の管理に気が回らなかったのはなぜか。外相の事務所がこの状態では、ほかの議員のところでは外国人寄付の禁止規定がどの程度意識されているか。 こうした疑問点の検証が進むようにと期待を抱くのはもう無理だ。菅政権のエネルギーの衰えはそう感じさせる。「政権に力強さがあれば辞任は回避できた」(国民新党幹部)と与党内から嘆きの声が上がる。 2011年度予算関連法案の成立が全く見通せない。外相辞任を条件にした野党との打開折衝が行われた気配も伝わってこない。政権は押されっぱなしの状態だ。 前原氏自身が政権に見切りをつけ、沈没する船からいち早く逃げ出した。そう非難する声も民主党から上がる。計算のない「潔さ」は永田町ではあり得ないという観点を失うと、行方を見誤るのかもしれない。 永田町の旧弊を断ち切った透明で分かりやすい政治。つかの間、政権交代に託した有権者の希望は、ほぼ消えてしまった。罪深いこの責を、民主党が一丸となって引き受ける姿も、もう望めないのか。
2011年03月08日火曜日
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