前原誠司氏の外相辞任は、ようやく「前原カラー」で本格稼働を始めた日本外交を、再び停滞モードに引き戻しそうだ。外相が短期間に交代する事態に、外務官僚は「ここ数年、頻繁な交代には慣れている。大臣が誰でもプロの仕事をやる」と冷ややかな視線を送り、民主党政権が掲げる「政治主導」は外交分野で失速しつつある。【犬飼直幸、西田進一郎】
「私が外相になってから、あなたは6人目の日本の外相だ」。前原氏は6日の記者会見で、他国の外相からこう揶揄(やゆ)されたことを明らかにした。外相就任直後の昨年9月には、国連総会の場で別の国の関係者から「せっかくミスター岡田(元外相の岡田克也民主党幹事長)と知り合いになったと思ったら、また代わったのか」と残念がられたという。前原氏は「国益を損ねることを自らしてしまった」と肩を落とした。
前原外交も半年近くが過ぎ、軌道に乗りかけていた。外務省関係者によると、2月中旬に訪露した際、ラブロフ外相は氷点下13度の中、建物外に出て前原氏の到着を待ち、外相会談の会場でも「セイジ、ここだよ」とファーストネームで呼んで、座席を指したという。「ロシア側も『前原氏は話ができる人』という感じになってきた」(外務省関係者)という評価も出ていた。
日中関係でも楊潔〓(ようけつち)中国外相との個人的な関係づくりを進めるなど、中国側が当初抱いていた「タカ派」イメージの払拭(ふっしょく)に努めた。4月には外相として初めて訪中し、楊外相との信頼関係を強化するとともに、中国外交を統括する戴秉国(たいへいこく)国務委員とも会談する意欲を見せていた。
外務省内では、「戦略的なバランス感覚に優れ、安心感があった」(幹部)などと評判は上々だった。一方、突然の外相辞任でも幹部同士が「誰が大臣でも、プロとして支えなければならない」と確認し合うなど、動揺は少ない。
外交日程の練り直しも続けられる。前原氏が週末を使って外遊する「弾丸出張」として4月に予定していた中国やサウジアラビアなどの訪問は、いったん白紙となった。主要8カ国(G8)外相会議(3月14~15日、パリ)は新外相または副外相が出席▽日中韓外相会談(3月19~20日、京都)は新外相が出席--などを念頭に調整が進められている。
毎日新聞 2011年3月8日 東京朝刊