「霞が関の変革に向け、『壁』と闘ってきた。以前はできなかったことが、政治主導で動いた」。科学技術政策の「司令塔」とされる総合科学技術会議議員の相沢益男・元東京工業大学長は、政局の混迷ぶりから一歩引いた目で政権交代の成果を語る。
会議は、首相(議長)ら7閣僚と有識者議員8人で構成。07年に就任した相沢議員にとって菅直人首相は5人目の議長となる。
会議への従来の評価は「司令塔とは名ばかり」「各省が概算要求後の政策を評価するが、予算編成への影響力はない」だった。民主党が改組を公約に掲げ、昨年の事業仕分けで「抜本的見直し」を判定したのも同様の理由だった。
しかし、来年度予算案の策定で、会議が地球温暖化と少子高齢化の2大課題を「アクションプラン」に設定。概算要求前に、各省に解決策と達成目標を求め、意義の低い事業を削り、重複を回避。会議がかかわった予算は約899億円と前年度比35%増に急伸した。「以前の予算編成では、省庁縦割りどころか省内でも局や課の壁を崩せず、類似施策の寄せ集めだった」と相沢さんは分析し、菅首相を評価する。
ただし、政府の科学技術予算全体の約3%に過ぎない。拡大を目指したいが、その議論は進まず有識者議員のいらだちは募る。また前原誠司前外相の辞任や党内議員の相次ぐ離反など、政権の弱体ぶりは目を覆うばかり。次の一歩より先に、「霞が関の論理」が息を吹き返さないかと気がかりだ。【山田大輔】
毎日新聞 2011年3月9日 東京朝刊