経済

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クローズアップ2011:ガソリン急騰、全国平均145円 中東政変、家計直撃

中東の政情不安を引き金に1リットルあたり150円を超す給油所も=東京都内で2011年3月9日(共同通信)
中東の政情不安を引き金に1リットルあたり150円を超す給油所も=東京都内で2011年3月9日(共同通信)

 ガソリン価格が高騰している。石油情報センターが9日発表したレギュラーガソリンの全国平均小売価格(7日現在)は1リットル当たり145円50銭と、08年11月以来約2年4カ月ぶりに140円を突破した。前週(2月28日)から6円50銭上昇し、値上がり幅は08年7月以来の大きさ。中東・北アフリカの政情不安による原油高が波及したもので、さらなる上昇は避けられそうにない。賃金が伸び悩む中、ガソリン高騰は家計を圧迫し、景気の重荷となりかねない。

 ◇ドライバー「遠出避ける」

 東京都世田谷区の環状8号線沿いにあるセルフ式給油所「シンエネエクスプレス八幡山SS」。9日給油していた調布市の主婦(50)は「満タンではなく、こまめに入れて、遠出はできるだけ避けるようにしている」。練馬区の男性会社員(39)も「少しでも安いセルフ式で給油するしかない」。ガソリン高騰でドライバーの節約志向は強まっている。

 この給油所は7日、レギュラーガソリン価格を1リットル=144円と一気に6円値上げした。先月27日には128円だったが、わずか8日間で16円引き上げた。交通量の多い環状8号線沿いは首都圏有数の給油所激戦区。ライバル店の看板を見て価格を決めるケースも多いが、「原油高でやむをえず値上げした」(担当者)。だが、8日夜には143円と1円値下げした。「地域最安値が営業方針。利益が出るぎりぎりの価格」(同)と苦しい決断を明かした。

 ただ、近隣にライバル店が少ない都心では、160円台の看板を掲げた店も出てきた。品川区の給油所は「値上げしなければ営業を続けられない」と164円に値上げした。

 大阪市内では今週に入り、150円台の店も出てきた。「コスモ石油靱(うつぼ)SS」(西区)は7日から151円で販売。大口の法人向け価格はこれまで月単位で決めていたが、卸値をできるだけ早く反映させるため、今月から半月で改定する臨時措置に踏み切った。

 ニューヨーク市場の原油価格は7日に一時、1バレル=107ドル目前まで上昇し、08年9月下旬以来の高値をつけた。ガソリン小売価格の過去最高値は、投機資金流入を背景に原油が過去最高値の1バレル=147ドル台に達した直後の08年8月につけた185円10銭。石油情報センターは「中東情勢が沈静化する気配はなく、ガソリン価格は今後も上昇傾向が続くだろう。日本の石油元売りが原油を調達しているサウジアラビアなどに混乱が波及すれば、一時的に180円を突破する可能性も出てくる」と見込む。【宮崎泰宏、高橋昌紀、青木勝彦】

 ◇食料・交通費…値上げの波も

 原油価格高騰は、生活全般に影響を及ぼす恐れがある。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは、原油価格が1バレル=105ドルの水準が定着すると、2人以上の世帯のガソリン・灯油の支出は年間1万900円増、120ドルなら1万8000円増になると試算。これからドライブシーズンが本格化するが、「ドライブや行楽を控える人が増える可能性がある」と話す。また、「07年から08年にかけての高騰時より賃金が伸び悩んでいるため、ガソリン高を負担に感じやすくなっている」と指摘する。

 07~08年の高騰時は、高速バスやフェリーの料金が値上がりした。漁船の燃料費も上昇し、遠洋マグロの値上げや休漁が相次いだ。また、暖房を使う温室栽培の農作物なども値上がりしており、今回も生鮮食品などの価格に跳ね返ってくることが予想される。世界的な食料価格の高騰で、日本でもコーヒーや砂糖などが値上げされているが、消費者にはさらなる値上げの波が押し寄せかねない。

 日本経団連の米倉弘昌会長は9日、高松市での会見で、ガソリン高騰について、「かなり国民生活に打撃がある。コストアップで(経済の)減速要因になる」と懸念を表明した。日本経済は、新興国の成長にけん引され、景気が一時的に停滞する「踊り場」から脱する動きが出ているが、ガソリン高騰が水を差しかねない。

 一方、企業にとってはデフレ下で早急な値上げが難しい。07年に5~10%値上げしたクリーニング大手の白洋舎は「石油系溶剤や集配車のガソリンの値上がりでコストは増える」としつつも、「客離れを招きかねない」と値上げはしない方針。だが、企業が値上げを見送ると収益を圧迫する恐れがある。【井出晋平】

 ◇160円超え続けば、上乗せ課税停止 財政に影響、消費者混乱

 ガソリン高騰が進めば、政府がガソリン税の上乗せ課税を一時的に停止して価格を下げる措置が初めて発動される可能性がある。消費者には一定の安心となるが、価格が大きく変動することで混乱を呼ぶ恐れもある。

 この制度は昨年4月に導入され、ガソリンの全国平均小売価格が3カ月連続で160円を上回った場合、ガソリン税(1リットル53・8円)のうち上乗せ分(同25・1円)の課税を停止する。値下がりして130円を3カ月連続で下回ると上乗せ分が復活する。

 上乗せ分はもともと「暫定税率」として主に道路建設に回されてきた。民主党は09年衆院選マニフェスト(政権公約)で「暫定税率廃止によるガソリン値下げ」を掲げたが、財政難で実現できなかったため、ガソリン高騰に対応する新制度を急きょ導入した。

 ただ、消費者の買い控えや買いだめを誘発しやすく、業者が意図的に価格を操作する可能性も残る。また、発動されれば国・地方合わせて1カ月1500億円超の税収減となるため、財政に大きな影響を及ぼす。【久田宏】

毎日新聞 2011年3月10日 東京朝刊

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