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これが言いたい:新しい発想で東アジアの拠点作りが必要だ=篠田昭

 ◇「新潟州」地域主権の起爆剤に--新潟市長・篠田昭

 私は泉田裕彦・新潟県知事と1月25日に共同で記者会見を開き、新潟県と政令指定都市である新潟市が一体化する「新潟州構想」を発表した。なぜ「新潟州」なのか。その目的を説明したい。

 大きく言って二つある。一つは「県と政令市の二重行政を排しての行政効率化」、2点目は「地域課題を身近な基礎自治体で解決できるよう強化を図る」ことだ。

 県と県庁所在都市が同じような施設をつくるなど二重行政のムダは多くのところで指摘されている通りだ。今回の構想は、そうした弊害の払拭(ふっしょく)を目指している。

 さらに「基礎自治体の強化」を大きく打ち出すことについて、泉田知事と合意できた点を強調したい。新潟市は、日本で最も自立度の高い政令市を目指し15市町村が大同団結し、07年に本州日本海側で初の政令市を実現した。政令市の権限は県並みといわれるが、権限移譲されるのは道路の整備・管理など限定的だ。

 特に新潟市のように特定重要港湾や国際空港など国際拠点機能を持つ政令市は、広域の司令塔であり港湾管理者である県との調整がつきまとう。暮らしやまちづくりの分野でも自立度が低い。

 新潟市の水田面積は鳥取や高知などの諸県をしのぐが、政令市になっても農業の権限は一つも来ない。都市計画などまちづくりの権限も多くが県に握られている。

 一方、政令市には教職員の人事権がある。本市では教育に関するビジョンを策定し、地域と学校が徹底連携するようにした。少子化の流れの中で統廃合により旧町村から学校がなくなることがないよう、少人数学級や小中一貫校、隣接校との徹底連携など、独自の教育政策を展開していくつもりだ。

 しかし、現状では教職員の給与など財源は県教委が持っており、地域の教育に全面的に責任が持てない。市立が大半の小中学校と県立が大半の高校の間で政策が途切れてしまうのも全国共通だ。まちづくりや教育の分野でも、政策が首尾一貫していない。

 お隣の韓国では基礎自治体への権限移譲が急速に進んでいる。「広域市」になれば、まさに日本の都道府県並みの権限と財源が持てる。いま、政令市の市長会では国にあるべき大都市制度として「特別自治市」の新設を求めているが「地域主権の推進」を一丁目一番地政策としたはずの民主党政権でも、大都市制度創設の動きは見られない。

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 こんな状況を新潟から打破しようと掲げた旗が「新潟州」である。広域・産業政策の分野を新潟州に集中し、新潟を東アジアと向き合う拠点として都市機能を高める起爆剤とするのだ。

 消防の特別高度救助隊など政令市にしかない行政機能を全県に波及させる効果も引き出したい。新潟市を「特別区」に再編し、他地域では希望により広域連合制度を活用すれば基礎自治体の機能アップが実現する。暮らし・教育などの分野で基礎自治体が大きな裁量権を持てば、地域の満足度は飛躍的に高まる。

 今後、年度内に県と一緒に構想検討委員会の準備会を設置し、新潟州を確かな選択肢となるよう仕上げたい。現在行われている都道府県を再編する「道州制」議論には、一部に効率化を優先した「府県合併」を目指す動きもある。基礎自治体強化や地方への権限移譲をおろそかにしての府県合併は権限・財源を市民から遠くするもので、分権の流れに逆行するということも、この際指摘しておきたい。

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 「これが言いたい」は毎週木曜日に掲載します

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 ■人物略歴

 ◇しのだ・あきら

 新潟市生まれ。新潟日報社で記者、論説委員などを経て02年から現職。3期目。

毎日新聞 2011年3月10日 東京朝刊

 

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