<分析>
【ワシントン古本陽荘、斉藤信宏】米国で11会計年度(10年10月~11年9月)の予算審議が難航している。昨年11月の中間選挙で下院過半数を握った野党・共和党が予算案に反対。大幅な歳出削減を盛り込んだ新たな予算案を提出し、対立が激化したためだ。18日まで2週間の暫定予算を組んだものの、与野党に歩み寄る気配は見られない。日本も11年度予算関連法案の年度内成立が困難になり、政府は「つなぎ法案」を提出する方針だが、米国では期限までに妥協が成立しなければ、96年以来15年ぶりに米連邦政府の業務が停止する事態に陥る。
「共和党は小さな支持基盤を満足させるため、国民の職を犠牲にしようとしている」--。民主党上院のリード院内総務は8日、予算成立に向け妥協姿勢を示さない共和党に対する怒りを記者の前でぶちまけた。
昨年11月の中間選挙で圧勝した共和党は、下院に87人の新人議員を抱える。多くが、連邦政府の役割縮小を求める保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会運動)」の支持を受けて当選した。
現在審議中の11会計年度予算の審議が終われば、次はすぐに12会計年度予算の議論が本格化し、財政削減をめぐる議論は延々と続く。任期2年の下院議員にとって、茶会運動から「安易に妥協した」と烙印(らくいん)を押されれば再選が危うくなるのは必至。このため「小さな政府」という原則論から降りることができないという事情がある。
共和党が多数を占める下院が2月に可決した予算案は、当初予算を610億ドル(約5兆円)以上削減する内容。一方で民主党が多数の上院で審議している予算の削減幅は65億ドル程度で、差は大きい。
一方、キニピアック大学の世論調査(2日発表)によると、連邦政府閉鎖が「良いこと」と答えたのは46%で「悪いこと」の44%をわずかに上回り、世論も真っ二つ。
対立に拍車をかけているのが共和党州知事が進める州予算削減の動きだ。中西部ウィスコンシン州では、ウォーカー知事が医療保険の負担増などを提案。予算縮小に向け大ナタを振るう共和党知事の姿は、連邦議会の共和党議員には圧力となってのしかかっている。
米証券大手ゴールドマン・サックスは、下院で可決した610億ドルの歳出削減を盛り込んだ共和党案が米国経済に与える影響を分析。11年4~6月期と7~9月期の成長率を1・5~2%程度押し下げるとの見通しを示した。同社のエコノミストは「回復途上にある米国経済に深刻な影響を与えかねない」とコメントし、「米景気を二番底に突き落とすだろう」(シューマー議員・民主)との懸念を裏付ける形となった。
ただ米財政赤字は12年度まで4年連続1兆ドルを超える見通しで、「このままでは財政破綻への道をたどる」との共和党の主張への共感も、着実に米国民の間に浸透している。財政規律重視か景気優先かをめぐる対立は、容易に解けそうにない。
暫定予算の期限が切れると、米政府は国防・安全保障や入国管理、年金給付などを除くほとんどの業務を停止する事態に追い込まれる。中央省庁の業務も停止し、政策立案ができなくなる。
国立の博物館はすべて閉館。ビザ発給業務も止まる。米国への渡航者の大半を占める電子渡航認証システム利用者は影響を受けないとみられるが、米国内での観光には大きな支障が出そうだ。前回、クリントン政権下で96年度に政府機関が閉鎖された際には、野党・共和党への国民の批判が急速に高まり、前年の中間選挙で大勝した共和党の勢いが逆にそがれる結果になっている。
米政府は昨年10月から11会計年度(10年10月~11年9月)に入ったが、11年度予算は今も暫定状態が続いている。11年度の予算教書によると、同年度の米連邦予算の規模は約3兆8000億ドル。昨年12月、米下院で社会保障費などを除く約1兆1000億ドルの歳出法案が可決されたが、上院では与野党の対立から採決に至らなかった。このため、米議会は歳出規模を前年並みとする暫定予算を3月上旬まで延長、さらに18日まで2週間延長し、現在に至っている。
米政府では大統領に予算案を提出する権限はなく、大統領が予算教書で示した規模や方向性に基づき、与党議員らが予算案を提案、議会で審議することとされている。
毎日新聞 2011年3月10日 東京朝刊