参院予算委員会は10日、社会保障に関する集中審議を行い、専業主婦ら第3号被保険者(3号)の年金切り替え漏れ問題を巡って与野党が論戦を展開した。防戦に追われていた政府・民主党側は、年金政策では自民党政権時代から課長通知がまかり通っていた、と指摘して一矢を報いたが、野党側はひるまず、細川律夫厚生労働相、同省の岡本充功政務官の資質や責任問題を激しく追及、辞任を迫った。ただ、野党も公平性を重視した政府の新救済策をバッサリとは切り捨てられず、一方の細川氏も岡本氏の更迭こそ否定したものの、官僚への「監督不行き届き」は認めざるを得なかった。【山田夢留、鈴木直】
この日野党は、「政治主導」を掲げながら課長通知を理由に官僚を処分した政府を攻撃しようとしていた。それを最初に質問に立った民主党の川合孝典氏は逆手に取った。
「自公政権では事実上の運用3号状態が続いていたんですよね」
政権交代前から、保険料を納めず年金を受け取ってきた人たちがいた実態を強調した川合氏は、旧社会保険庁が記録の誤りに気づいた際に本人に変更を求めた措置も課長通知だったと指摘した。さらに「自民党のそうそうたる議員も私たちの菅直人首相も公明党の坂口力先生も、この問題は課長通知でやっていたのが事実だ」と野党をけん制したうえで、「与野党を問わず取り組むことが国民の期待だ」と野党側に協力を呼びかけた。
しかし、自公政権時代をチクリと刺す与党側の手法に野党は一層反発。まず、追及されたのは1月下旬に初めて「運用3号を知った」と答弁した細川氏。自民党の世耕弘成氏は、課長通知を出すことを決めた昨年12月14日の厚労省の年金記録回復委員会に細川氏が出席した事実を指摘し、「知るチャンスはあったはずだ」とただした。
細川氏は「冒頭にあいさつして退席したので知らなかった」と反論したが、世耕氏は「こんな大臣のもとでは、大法改正はできない」と厚労相としての資質を問いただした。
一方、野党の攻撃は、昨年12月に官僚から通知の説明を受けたのに細川氏には伝えなかった岡本政務官にも向いた。公明党の草川昭三氏は「課長が大臣への説明を行わなかったために更迭されたのに、大臣に説明しなかった政務官は給与返納だけとは身内に甘い」と批判し、岡本氏の更迭を要求。細川氏は処分の正当性を主張した。
政府が3年間と区切った新制度は(1)2年を超えて保険料を後払いできる特例納付の実施(2)後払いできない人も、未納期間を年金加入期間としては認める--が柱。だが、野党側はいくつかの課題を指摘している。
一つは、後払いできなくても年金を満額給付する運用3号(8日付で廃止)申請者のうち、15日に運用3号に基づく年金が支給される493人の扱いだ。改めて新制度を適用するため、過払い分が減額される。細川氏は「減額の可能性があることを通知する」と表明したが、10日の参院予算委で自民党の宮沢洋一氏は「憲法違反に当たる」と指摘した。
未納期間に関し、加入期間に算入しつつ給付はゼロとするのが新制度の特徴だ。しかし、細川氏は9日の衆院厚労委員会で、低所得で保険料を払えなかったであろう人は過去にさかのぼって保険料免除扱いとすることも「念頭に置いて検討している」と語った。免除扱いなら国民年金の国庫負担分は給付されるが、十数年も前の所得が低かったことを証明するのは難しい。
それでも、運用3号より公平な新制度には野党も正面切って反対しにくい面がある。野党内には、細川氏の自発的辞任などと引き換えに、成立を認めるべきだとの空気も漂う。
毎日新聞 2011年3月11日 東京朝刊