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【コラム】

筆洗

2011年3月11日

 十八世紀、米バージニア州のある町に、ウイリアム・リンチ大佐なる人物が私設法廷をつくった。彼の仲間たちは、無法者がいると聞くや自分たちで捕らえ、勝手な裁判でしばしば絞首刑にした▼それを雑誌に書き、世に知らしめたのは作家エドガー・アラン・ポーだったという(宮本倫好著『英語・語源辞典』)。そこから大佐の名が「法によらない私刑、特に死刑」や「集団による制裁」を指す言葉になったともされる▼一九九四年、大阪、愛知、岐阜の三府県で、少年グループが、四人の男性を次々に殺害した事件は、その態様から「連続リンチ殺人事件」と呼ばれる。その事件の最高裁判断で昨日、三人の被告の刑が確定した▼リンチ大佐の私刑とは違い、被害者には何ら落ち度がなく、被告らこそが無法者だった。だが、犯行当時は少年…。判決も揺れたが、名古屋高裁、最高裁がともに「なぶり殺し」と表現した残虐で非道なリンチへの刑罰は結局、「法による死刑」だった▼事件から十六年余。「死刑」確定に「ずっと頭に描いてきた二文字」と語った遺族の気持ちは痛いほど分かる。一方、被告の一人との交流で、更生の可能性を見いだし、助命の嘆願までしていた遺族が、この結果に「力不足だった」と語ったと聞けば、胸が詰まる▼「法による死刑」をはさむ二つの言葉。その間で思いが引き裂かれる。

 

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