浮穴さんの経験則によると、丸形のつり革は線路に平行（正面）に、三角形のつり革は線路に垂直（横）に設置されていることが多いらしい。

　これに関して鉄道総合技術研究所が興味深い調査をしている。つり革をとっさにつかむ際の「つかみやすさ」を評価する実験だ。

　通勤電車を模したシミュレーターで、時速130キロで走行中の車両の揺れを再現し、丸形と三角形のつり革を、線路と平行（正面）か垂直（横）かで向きを変え、さらに床からの高さを150センチから180センチまで10センチ刻みで設置する。そして、ブザーの合図で被験者にすぐにつり革につかまってもらう実験を繰り返したのだ（写真５はその実験風景）。

　被験者は105人の男女でそのうち有効回答は99人（男48人、女51人）。99人の平均年齢は43.1歳。平均身長は164.7センチ（男171.6センチ、女158.2センチ）だった。

　その結果が図６である。

　最も評価が高かったのは「丸形、正面、高さ160センチ」で「問題なくつかめた」の回答率は92％。逆に最も評価が低かったのは「三角形、正面、高さ180センチ」で「問題なくつかめた」の回答率は58％だった。

　「とっさにつかみやすいかどうか」という視点に絞って評価すれば、三角形よりも丸形の方が評価がおおむね高い傾向があり、一方、つり革の向きについては、線路に垂直（横）よりも平行（正面）の方が評価がおおむね高い傾向がある。これは「三角形よりも丸形の方が、また横向きよりも正面向きの方が瞬間的に手を入れやすいから」（鈴木浩明・人間科学研究部長）と考えられている。

　ただ「丸形よりも三角形の方が、また正面よりも横に設置されていた方が長時間持つには負担が少ないという利点もある」（斎藤綾乃・同研究所主任研究員）。このため、一概に良しあしを決めるのは簡単ではないらしい。

　床からの高さについては、180センチだと評価が全般に大きく下がることも分かった。日本人の平均身長からすると180センチはやや高すぎるようだ。

　以上、同実験により、「丸形・正面」のつり革はとっさにつかみやすく、「三角形・横」のつり革は長時間持ちやすいことに力点が置かれていることが確認できた。

　丸形は正面、三角形は横が多い――という浮穴さんの経験則が科学的に裏付けられた格好だ。