きょうの社説 2011年3月11日

◎犠牲者を悼む 原因究明が遺族の救いにも
 ニュージーランド地震から2週間が過ぎ、被災地から毎日のように悲しい知らせが届い ている。死亡が確認された石川、富山県出身者は国際活動や海外で働く希望を膨らませ、語学研修や留学をしていた人たちである。

 その志半ばの夢が、夢をかなえるための「学びの場」で一瞬にして断たれた。地震災害 のこの不条理な現実を突きつけられれば、胸がふさがれ、家族にかける言葉も見つからない。

 多くの人が犠牲になった語学学校の入居するCTVビルは、がれき撤去が終了し、エレ ベーター部分を残して更地になった。損傷の少ない周囲のビルと比べて、その異様さは際立っている。直下型の激しい揺れや地盤の軟らかさだけが原因なのか。倒壊現場に足を運んだ家族から「人災じゃないか」との声が漏れたのも無理はない。

 実際、クライストチャーチを襲った昨年9月の地震で、損傷が生じたにもかかわらず安 全対策が講じられなかった可能性や、今回の地震前日に隣接ビル解体のため壁に穴をあけていたなど疑問を抱かせる情報がいくつもある。原因があいまいなままでは、「なぜ犠牲に」という遺族の問いはいつまでも消えず、そうした不信が心の傷をさらに深くする恐れがある。

 ニュージーランドのキー首相は建物倒壊に関し、刑事責任追及の姿勢も示した。残る安 否不明者の身元確認を急ぐとともに、原因を徹底的に究明する必要がある。それは悲しみにうちひしがれる遺族の願いであり、救いでもある。日本政府も働きかけを強めてほしい。

 北陸では4年前の能登半島地震で多くの被害が生じた。犠牲者、安否不明者は今回の方 が大きく上回る。犠牲者の無念や遺族の心痛に思いを寄せれば、ニュージーランド地震の教訓を他国のこととせず、北陸の耐震強化につなげることが大事である。耐震性に問題のある学校や病院などの補強は十分とは言い難い。CTVビルのような公共的な施設の耐震化は最優先の課題である。

 帰国した家族や負傷した人、難を逃れた人たちの継続的な心のケアも欠かせない。専門 家を加え、万全の態勢を整えたい。

◎東証・大証統合へ 資金呼び込む戦略あるか
 東京証券取引所と大阪証券取引所が統合に向けて協議を始めた背景には、世界的規模で 進む取引所の再編から乗り遅れることへの焦りがある。1400兆円もの個人金融資産を持ちながら、長引く日本経済の低迷で金融市場の没落に歯止めが掛からない。国境を越えて飛び交う投資マネーもさることながら、まず日本の強みである個人資産を呼び込む戦略がほしい。

 東証は現物株式の市場、大証は先物などのデリバティブ(金融派生商品)市場と、それ ぞれ得意な分野がある。両者の特徴を生かすことができれば、統合は大きな利益を生むはずだ。統合で経営の効率化を一挙に進め、伸びしろのあるデリバティブ取引に活路を見いだしたい。

 IT(情報通信技術)の発達で、マネーは瞬時のうちに世界を駆けめぐり、より魅力的 な市場へと集まってくる。大量の注文を即座にこなす売買システムの構築には多額の費用がかかる。開発の負担を減らすためにも、スピード感を持って統合へ向けた協議を進めてもらいたい。

 東証の時価総額は、新興国の追い上げで「アジアの金融センター」の地位が危うくなっ ている。時価総額は、中国の主要3市場(上海、香港、深●(=土ヘンに川))の合計額に及ばず、大証を加えても届かない。売買代金は2年連続で上海証券取引所に抜かれ、新規上場の企業数では大差を付けられている。市場の規模と取引額は競争力の源泉であり、東証はその点で中国に大きく見劣りする。

 海外では、ニューヨーク証券取引所などを運営するNYSEユーロネクストとドイツ取 引所が合併に合意したほか、ロンドンが米ナスダックの買収を検討するなど大規模な再編が加速している。アジアでもシンガポール取引所がオーストラリア証券取引所の買収で合意するなど、国境を越えた再編劇が起きている。

 東証が生き残っていくには大証との統合によって競争力を強化し、さらに海外の取引所 との再編に備えねばならない。統合は生き残っていくために必要だ。