きょうのコラム「時鐘」 2011年3月11日

 夜汽車の窓にぽつんと農家の灯が映り、すーと消えて行く。そこにささやかな命の温もりがあると語るのは、映画「寅さん」の名場面のひとつだ

ニュージーランド地震で死亡が確認された北川泰大元本紙記者が北朝鮮の取材から帰って来た時、先の場面を思わせる小さなコラムを書いた。宿舎のホテルの窓から夜の平壌市街が見えた。暗やみの広がる街にもいくつかの人家の灯があったという

ある時間になったら一斉に消えるのかと見ていたら、ひとつひとつバラバラに長い時間をかけて消えていった。それをずっと見続け、灯の下にある北朝鮮の人々と家族の息遣いを感じたと言うのだった。今、その時のように彼の命の灯がすーと近づき、遠ざかっていったような気がする

クライストチャーチからは「何で私だけが助かったの」と、助かっても喜べない言葉が伝わった。「何でこのビルだけが崩壊した」とのうめきも聞いた。きのうまで身近にあった命の灯が、家族や友人の前から静かに消えていく

それが天災の残酷さというものかもしれないが「なぜ、この若者たちの命が」の思いは消えない。