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[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX 【修正版】
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:11
 はじめまして!

 Ms.Hayaseと申します。

 マブラヴ オルタネイティヴをプレイし、
 二次創作SS等を読んでいて自分でも書きたくなったので投稿させていただきました。

 申し訳ないけどタケルちゃんには、もう一度頑張ってもらいます。
 
 この話は、武と現代(?)から飛ばされた協力者が力を合わせて頑張るお話です。

 表向きの設定等は、プロローグに書かれています。ネタ注意。

 文章力は底辺に近いですが、頑張って書きます。
 
 あと話の流れが『非常に遅い』です。
 一つのイベントに最低5ページ最高で20は使うと思います。

 その他、以下の点にご注意の上、『よろしかったら』ご覧下さい。


☆注意点
・マブラヴ オルタネイティヴをプレイなさっている方を対象に書かれています。
・オリジナルキャラクターが登場致します。ただし無理があり過ぎることはしません。
 あくまで彼は協力者であり、脇役です。(原作知識を持っています)
・プロローグはネタですが、本編は真面目に狂言を混ぜつつ書いております。
・もちろんネタバレが含まれています。ネタも含まれています。
・独自解釈・設定が含まれています。
・原作からの台詞の引用がいくつもあります。
・文章が下手なのは仕様です。タケルちゃんと年一緒なんで勘弁してください。



◎修正について
矛盾してる表現や設定等の修正、読みやすさ向上のための修正は頻繁に行われます。
話の流れは変わりませんが、表現がどんどん細かくなっていく事が予想されます。

「前より読みにくくなった!」等あればご指摘願います。



●要注意
読みやすさや表現の向上等は致しますが、一度決めたシナリオには手を加えません。

あくまで『こんな物語があればいいな』と言う思いで書いております。
小説家志望ではないので、上から目線アドバイスは止めてください。

他作品との比較、表現力の優劣に対する罵倒、根拠の無い批判等はお控えください。



[26355] プロローグ               ※ネタ注意
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/06 12:34
011年10月22日午後20時29分-----日本帝国 首都 京都某所



ダダダダダダ・・・!!



「はぁ・・・・・はぁ・・・・くそ逃げ切れねぇ!」
悪態をつきながら走る。



俺は追っ手から逃げていた。
別に何かしたって訳じゃないぞ?

何故だか知らんが逃げないとヤバイらしい。







   【2時間前】

〈たーちあがーれ、けだーかーくまーえー 〉 (携帯の着信音)

「ん?」
突然電話がかかって来た。

「なんだよ、こんな時間に」
携帯を手に取り、画面を見る。

【090-2001-1022】

知らない番号だった。
数字には見覚えが・・・・・・いや、気のせいだろう。
一応出てみるか。

<ピ>

「もしもし?」

「君は狙われている。」

「は?」
突然何なんですか?

「窓の外を見たまえ。君の家の前を よぉぉ~~く見たまえ!」

「はぁ・・・・・」
カーテンを開けて外を見ると黒塗りの乗用車が1台。俺の家の前に止まった。
「黒い車が見えるかね。あれに乗っているやつらは敵だ。死にたくなければ私の言うとおりにしろ」

「はぃ?」
何その強盗が言いそうな台詞。
てか敵って何さ?

もう一度窓の外を見ると、車から人が降りてきた。3人とも黒いコートを着ていて、変な帽子を被っている。
「時間がない。死にたくなければ言うとおりにするんだ!」
なんかヤバそう。

「まず裏口から逃げるんだ!そして五条通りを直進。三つ目の交差点を曲がった所にあるロー○ンの駐車場まで行け!この電話は盗聴されてるんだ!はやく!」

<ガチャッ・・・・・・・ツーツーツーツー>

切れた。

窓の外を見た。
すると3人のうちの一人と目が合ってしまった!

「ひっ!」
マジやべーぞ これは!


とりあえず逃げることにした。

・・・・・・・・・・・・・・これなんてマト○ックス?


<ガチャ>

裏口を開け、音を立てないように出る。
隣の家の前まで来た。あいつらはまだ気づいていない。

このままいけば・・・・・・

「ワン!」
プロバ○ンダ犬め!なんて事をしてくれるんだ!

マズイッ!気づかれた!
犬が鳴き声をあげた瞬間、黒ずくめ三人組がこっちを向いた。

あれ?顔に見覚えが・・・・・

「!!!!」
こっちに走ってきたので逃げる。

走りながら考えた。

どっかで見たことあるんだよな・・・・・あの顔・・・・

どこぞのゲームで・・・・

「あ!!!!!」
思い出した!

マブラヴオルタの『鎧衣課長』じゃねーか!
つーかなんで三人もいるの?教えて夕呼先生。

あの人何気にこえーよ!しかも足むっちゃ速い。

とりあえず追いかけてくるからには逃げる!




    【現在】

「チッ!」
見つかっちまった。

だが、あと少しで言われた場所だ!



「うおおおおおおおお!!」
全力で走る。

無酸素運動。
体内に残るアミノ酸を分解し爆発的なエネルギーを酸素の供給無しに行う。

あと少しだ!

ノンストップで交差点を曲がる。


ロー○ンの駐車場には黒いワンボックス車が。
近づくとドアが開き、車内に引きずり込まれた!

そして俺を乗せると車は走り出した。

「そんな体力で大丈夫か?」

走っていたので、息が続かない。
だが、その台詞を言われちゃ返事をせねばなるまい。

少し楽になったので、返事しながら顔をあげる。
「だ、・・・・大丈夫・・だ・・・・問題な――――――ッッ!!」
俺の目の前に居たのは

「モ、モーフィ○ス!」
おおぅ、映画の撮影か?

「危なかったな。もう少しで”サコン”に捕まるところだったぞ」

「あいつらは・・・・何なんですか・・・・?」
ずっと気になってた。鎧衣課長が3人とかどういうことなの?

「さぁな、俺にも分からん。ただ”サコン”と呼ばれている。俺の役割は君を助ける事だ」
敵はエージェントみたいなもんか?
「と、とりあえずありがとうございます。」

「礼はいい。君にはやってもらわねばいけないことがあるんだ。」

「それって何ですか?」
まさか、これは例のアレか?
ザイ○ンを救う! とか 君は救世主だ! とかいう展開ではあるまいな?

「じきに分かる。」
とりあえず目的地に着くまで待つか。

俺が乗っているのは二列目の運転席の後ろ。

運転手は誰だろう?あの黒タイツ女か?
見ようとしたがシートが高くて覗けなかった。

で、助手席にいるのは・・・・・


ちょwwwおまwwww
「夕呼先生!!!!」
何でここにいるんですか アンタは!

「私は教え子をもった覚えはないわよ?”大隅鋼介”」
いや、あなたを先生にもった覚えもないのですが?

「説明は後よ。」
そーですか。

さて、俺はどうなっちまうのかね。





<キィィ・・・・>(ブレーキ音)

お?なんか大きい施設についたぞ。
看板がある・・・・み、み、み・・・・・・・・

「はああぁぁぁぁぁあああ!?」

【御剣量子力学研究所】

御剣!?
あの御剣?

俺はそんなの知らないぞ?そもそも、ゲームキャラが現実にいる時点でおかしいんですが。
何この展開?ドッキリ?ドラマの撮影?俺、映画出演ですか?

「さて、着いたぞ。」
モーフィ○スのおっさんが降りたんで、俺も降りる。夕呼先生も降りる。
施設に入ると、夕呼先生はどこかへ行ってしまった。
すると、おっさんに目隠しするように言われた。とりあえず従う。

おっさんに手を引かれ、歩くこと2,3分。

「外していいぞ」
目隠しキツイんだよ!縛るときはもっと優しくしてくれよ・・・・

目隠しを外して周りを室内を見渡すと、椅子が2つ向かい合っていた。

片方におっさんが座る。俺も向かいに座った。

「そろそろ、事情を話してもらっていいですか?」
マジ限界。そろそろネタバレしてくれ。

「うむ。君にやって欲しいことがあるのだが、その前に・・・・・・これが何だか分かるかね?」

おっさんが懐から箱を取り出した。ゲームのパッケージみたいだ。

「ゲームソフトですか?ちょっと見せてください。」
受け取ってタイトルを見る。

[マブラヴオルタネイティヴ]

は?オルタ?つーかこれ俺のじゃねーか!
いつ俺の部屋から持ってきたんだよ。

「それは君がいつもやっているゲームだろう?今回の件はそれに関係があるんだ」

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

はい?
アナタハナニヲイッテイルノデスカ?

「先日、この研究所でとある実験を行った際に興味深い一つの波長が観測されたんだ」
とある実験というのは虚数空間を観測する実験(?)だったらしい。
おっさんが紙を取り出したので見せてもらうと、いくつものグラフの中に他の線とは違う形の線があった。

「それを解析した結果、並行世界からのSOS信号だったんだ」

この線をどーやって解析すればそうなるんですか?そもそも並行世界ってどこの?
つーかその信号を発信したのは誰だよ?

おっさんは俺に構わず話を続ける。
「その並行世界ってのが、どうやらこのゲームの世界らしくてね・・・・・」

ナ、ナンダッテー!




ねーよ。

「説明が長くなるから、用件を率直に言おう。」

「・・・・・・・・?」
ドッキリでした!m9(^д^) とか言われるんだろうか。

「その世界を救ってもらう。ちなみに拒否権はない」



・・・・・・・(゜д゜ )


は?この人なんて言った?

その世界を救えだって?確かにゲームは何度もやってるから展開分かるけど!
BETAと戦うとか冗談じゃねーぞ・・・・・・・・・。

「無論、今の君では無理だろう。だがこちらからある程度手を加えられるのだ」
何?チートでも使えるってか?

「因果情報の書き換えによって君を衛士スタイルに変更したり、技術を覚えさせたり・・・」
マジで?

「ただし変えられるのは5つまで。そして君に対してだけ情報の書き換えができる」




ふむふむ、俺の体をマッチョにしたり戦術機の操縦技術を習得できるってことか。


俺はその後夕呼先生が来て1時間ほど説明を受けた。
拒否権はないっぽいし、オルタには行ってみたい。
BETAとか怖いけど、助けて欲しいというなら助けてあげようじゃないか!

タケルちゃんともお友達になりたいし、ヒロイン達にも会ってみたい。
鎧衣課長と夕呼先生にはもう会ってるがな・・・・・。

んで、受けた説明を整理しよう。





俺の仕事は、タケルちゃんの支援。
あくまで支援。

向こうの世界でのタケルちゃんは、少なくとも二週目の状態か三週目。
三週目なら俺の支援はいらないかもね・・・・・。

いや、このことすら忘れてるからどっちでもいいのか。

向こうの世界についたら今のことは忘れているっぽい。
どうやらこの世界は俺を連れて行くために用意された世界らしいのだ。

設定としては、ほぼタケルちゃんと一緒。
違うところは、

俺はタケルちゃんの居た元の世界ではなく、現代日本の世界で生まれ育っている。
アンリミアフター世界に飛ばされるが、戦死。←ここでタケルちゃんと会っているらしい。(ただしタケルちゃんは覚えていない)
細かい設定は向こうについてからの御楽しみらしい。
二回目はオルタ終了後に登場。夕呼先生と霞に会っている。
そして夕呼先生から話を聞き
「もし次の世界に白銀がいたら助けてあげて頂戴」と頼まれていること。

次に、因果情報の書き換えとしてはすでに3つ決まっていること。
衛士としての経験。
歴史情報。
オルタネイティヴ計画関係。

数式を覚えるというチートは使っちゃ駄目だってさ。
理由を聞いたら「創造主に消されるから」らしい。誰だよ?それ。


要約するとこんな感じかな?




んで、残りの情報の書き換えで俺が選んだのは・・・・・・
一つ目はプログラミング・兵器設計等のメカニックとしての知識。これは役立つだろう。
二つ目はタケルちゃん仕込みの3次元機動。アフターで会った武に習った設定で。


用件を伝え、二時間後。


変な大型の機械の端っこにくっついてるカプセルに詰められた。


機械に電力が入り、視界がぼやけ始める。

ザイ○ンじゃなくて、人類を救うことになった俺。
設定された条件で頑張るぜ!

「ふっふっふっふ・・・・・・タケルちゃん・・・・・・・俺が助けに行くからな!」



救世主(笑)が時空の狭間を超え、旅立った。






[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.1>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:35
2001年10月22日 白銀の家 <side武>



「ん……ま、まぶしぃ・・・・」

瞼越しの陽ざしで目が覚めた。
刺すような光を手で遮りながら ゆっくり目を開けた。
目に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。


「……?」

否、どこかで見たことがある・・・・・なんとなく懐かしいような・・・・
周りに目をやると、ポスターや机、ハンガーにかかった制服。


転げ落ちるようにしてベッドから出た武は、机の上にあったものを手にとった

GAMEGAY と書かれたそれは画面に反射した武の顔を映し出していた


「……ここは、オレの部屋か・・・・・?」

 視点を他に移してみると机の上に散乱した教科書に名前がしっかりと書いてある。

間違いない。この部屋は、自分の部屋だ。


「うーん、自分の部屋なのになんで・・・・・?」

おかしい。自分の部屋ならばそこで目覚めて当然だ。
どうして天井を見て懐かしいだなんて思ったんだ?


「!」


そんなことを考えていると 突然 武の頭に激痛が走った


「くっ・・・・!!!!」

(いってぇぇぇぇぇ・・・・・・!!!  なんだよこれは・・・・!)



 武は床に倒れこむと、頭を両手で抱え、左右に身を捩るようにして転がった。

(くそっ・・・・・一体なんだってんだこれはっ!!!!!!)




しばらく床に転がっていると 激痛は治まった。



(はぁ・・・・はぁ・・・・・これは病気かなんかか・・・・・?)

意識を整えながら 武は立ち上がろうとした


「!!!!!!」

また頭に激痛が走る
だが激痛と同時にいくつものイメージが武の頭に浮かんできた


BETA。

オルタネイティヴ計画。

戦術機。

横浜基地。

207衛士訓練部隊。

12・5事件。

A-01部隊。

00ユニット。

甲21号作戦。

あ号標的。

桜花作戦。

そして、戦友の顔。


「っ・・・・・!」
知らず涙が出てきた。

――――――純夏――――冥夜――――委員長――――たま――――彩峰――――美琴――――まりもちゃん――――伊隅大尉――――柏木――――速瀬中尉――――涼宮中尉――
 

守れなかった人たち


死んでしまった人たち



俺は勘違いや思い込み、覚悟の無さや甘さで多くの人を傷つけたり、死なせてしまった。
 
挙句の果て、逃げ込んだ世界で恩師や幼馴染を酷い目に遭わせてしまった。



「俺は・・・・・・何も出来なかった・・・・・・ッ!!!!」


皆を救おうとして



皆に救われていた







確かに 桜花作戦の成功によって、あの世界は救われたかもしれない。
  


だけど、俺は・・・・・・・・



守るべき人たちを 


救おうとした人たちを


戦友を


仲間を


恩師を



誰一人として救えなかった








「・・・・・・・・っ・・・・・・!!!

クッソオオオオオオオオオオオオッッ~~~~!!!!!!!!!!」


ベッドに突き伏し、武は嘆いた

俺には力はあった。

だが覚悟がなかった。



 武は、誰もいない部屋の中 一人悲痛な叫び声を上げた。





―――――――――――――――――――





 
1時間は経っただろうか・・・・・・
ようやくベッドから顔を上げた武は、涙や鼻水を拭おうとティッシュを探した


「~~~~っ!・・・・・・・・はぁ・・」


鼻をかみゴミ箱に投げ入れると、武は床に座り込み、現状の把握を始めることにした。



日付は・・・・・10月22日のはず・・・・
記憶を整理してみると 俺は二回ループしている事になる。

「・・・・?因果導体ではなくなったはずじゃなかったっけ・・・・」


夕呼先生がそんなこと言ってたな・・・・・

詳しいことは さておき 因果導体でなければループできないはず
純夏と結ばれたことで あの閉じてしまった世界からは抜け出せたはずだった

「あぁ・・・・訳わかんねぇ・・・・・次だ次!」
詳しいことを思い出そうとすると靄がかかったように記憶があいまいになり思い出せない

「ここは、まず俺の部屋だとして次に確認しなきゃならないのが・・・・」



外だ。



ここが あの世界なら 確か隣の純夏の家に戦術機の残骸が横たわり 周りの街はすべて廃墟になっているはず

もし廃墟でなければ 元の世界だ。
ゲームガイやいくつか役に立ちそうなものをバッグに詰める。


制服に着替えてバッグを背負い、部屋を出て、階段を下りる。











「おう、起きたか白銀君」



はい?

目を声のした方向へと移すと国連軍の軍装を纏った男が椅子に座っていた。

「そんな顔をするな。せっかくの感動の再会だというのに・・・・」

あの・・・・何を言ってるんですかあなたは?
そしてあなたはどうしてここで座っているんですか?
重ねてあなたは誰なんですか?


「おっと、自己紹介が遅れてしまったな。
 助っ人の”大隅鋼介”だ。よろしく白銀君。」

男は名前を名乗り、手を差し出してきた。
どうやら俺の名前や現われることを知っている辺り、敵ではなさそうだ。

とりあえずこちらも手を差し出し、握手をする。


「あなたはどうしてここに?助っ人ってどういうことなんですか?」

ここがあの世界だということは分かった。
男の座っていた椅子やその周りを見ると朽ち果てており、どう考えても元の世界ではなかった。

だが目の前にいる男には見覚えが無い。

元の世界、一度目の世界、二度目の世界での記憶を探るが眼前の男は知らなかった。


男はテーブルの前のもう一つの椅子を動かすと自分の向かいに置いた。

「まぁ、一旦座れ。話をしよう。」
男は俺を椅子に座るように促すと自分も椅子に座った。

「まず、私が何者かということから話そうか。」
こちらの世界に来てから横浜基地へ行くまで人に会ったことなど一度もなかった。

国連軍の軍装を身につけているということは軍人だろう。
敵ではないようだが、俺の事について知ってるのは妙だ。


「簡単に言えば君と同じなんだが、私は因果導体でも再構成体でもない。」

「!?」

何だって?

俺と同じ?
でも因果導体でも、再構成体でも無いって・・・。

ループ関係について知っているということは夕呼先生の因果律量子論を知っているということ。
つまり夕呼先生の知り合いか何かだろう。

もっともどうしてこの世界に俺が現れることを知っているんだ?

別の世界の記憶が流入でもしない限り、そこらへんの情報を知っている訳が無い。

一体どうなってるんだ・・・・・。



混乱する俺に構わず男は話を続ける。


「私は、君の居た元の世界ではなく、別の世界から来たんだ。それで今回が3回目。あくまで覚えてる限りだがね。」

別の世界?俺が居た元の世界ではないってことは他の確率時空か。


「私のループ条件は前の君と同じで”死”が引き金だった。だが君のような再構成体ではなく、その世界に居る元々の人物に乗り移る形だった。言うなれば”人間に憑依した幽霊”だな。」


ゆ、幽霊!?
乗り移るってよく元の世界でやってたドラマの設定であったな。
起きると別の人間だった! とか。


「初めてこの世界に飛ばされた時は、オルタネイティヴ5が発動した後だったんだ。
乗り移った人が衛士でな。戦ってたんだが戦死した。私が君を知っていたのはそこで君に会っているからだ。」

会っている?
俺はこの人と会った記憶なんてないぞ?


「ちょっといいですか。俺と同じでループしてるってことは分かりましたが、
俺はあなたに会った覚えがないんですけど。」


確かに霞を乗せた駆逐艦の打ち上げを見送ったあとで記憶が切れている。
その後に会った可能性が高い。


「ん?そうかね。覚えてないか。これは失礼した。多分君とは別の白銀君だったんだろう。」


「え?別の俺ですか?」

「そうだ。もし忘れているだけなら私と会った時に記憶の関連付けで思い出すはずだろう。
つまり私が会った白銀君は君ではない。」

そうか。確率時空は無限にあるんだ。
築地が猫だった確率世界もあったらしいからな。


「あぁそうだ。一つ忘れていた。君の主観でループは何回目かね?」


ループ回数聞いてどうするんだ?

一度目は飛ばされただけだからループじゃない。
二度目に目覚めたので一回目。そしてこの世界に来たので二回目。


「二回目です。世界の数で言うと三回目ですね。」

「ふむ。」

ループ回数によって何かあるのか?
いや、俺に会っていると言うんだから”どの”俺か確かめたいのだろう。


「そうか。君は桜花作戦を終えて元の世界に帰るはずだった白銀君か。」


「!!」

桜花作戦を知ってるだって?
つまりあの世界に居たってことじゃないか。

それならどうして接触して来なかったんだ?


「あの、桜花作戦を知っているってことは。あなたもあの世界に居たんですか?」


「あぁ、居た。と言っても君が、あの桜並木の前で消える直前に現れたんだがね。ちなみにその状況を桜の木の陰で見てたんだ。」

つまり二度目に目覚めた時は、桜花作戦が成功して俺が消えるちょっと前だったのか。
確か消える前、霞の後方 桜並木の陰に誰かいたような・・・・。


「君が消えた後、香月博士と社嬢に接触し、彼女達の記憶が消える前に話をしたんだ。
それで事情を話して私がループしたりしてる事を聞いてもらった。」

つまりそこで自分の状況を知ったってことか。
それなら最初の疑問も説明がつく。


「そして香月博士に『もし次の世界に白銀がいたら助けるように』と頼まれたんだ。」

「!!・・・・だから助っ人なんですね?」

よかった。敵ではなくて味方だ。
最初から敵だなんて思ってはなかったが。

それに様々な事情を知っているようだし、彼ほど心強い味方はいないだろう。

「あぁ、そうだ。私の役割は君を助けることだ。少しばかり手伝ってもらいたいこともあるがね。」

頼まれ事とはいえ、やっぱり対価は必要か。
事情を知っているのと、この世界の状況から言って無理なことではないだろう。

「分かりました。一緒に人類を救いましょう!これからよろしくお願いします!」

「あぁ、協力するからには全力でやる。君の守りたいものが守れるように。」

「ありがとうございます。」

やる事は決まっている。今回は頼もしい味方もいるし、俺だって三回目だ。
どうしてこの世界に舞い戻ってきたのかは分からない。

でもここに呼ばれた以上、俺に与えられた役割は一つだ。



「では行こう。皆を救うために」




その前に、ずっと気になっていたことがある。


「ちょっといいですか?鋼介さん。あの世界はどうなったんですか?」

あの世界は救われたのだろうか?
俺は死力を尽くせていたのだろうか?
最善を尽くせたのだろうか?
皆の死を犬死にしてしまわなかっただろうか?

消える前に夕呼からは「救世主」だの「人類を救った」だの言われてはいたが。


「あぁ、あの後地球と月のハイヴを全部潰した。
お前・・・いや、お前達がやってきたことが形になったんだ。ありがとう」


「そうですか。よかった・・・・」

俺は天井を見上げ、人類の勝利に身を捧げた人たちへと届くように祈った。


(皆・・・・世界は救われたぞ・・・・・安心して眠ってくれ)




そして全ての”シロガネタケル”に誓う。


------------今回こそは仲間を失うことなく、人類を救ってみせる-----------




覚悟を決め、シロガネタケルは歩き出した。









[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.2>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:12
<side鋼介>

「ふぅ・・・・」
どうやら最初の接触はうまくいったな。


俺は白銀の家の前で、車にガチャガチャと荷物を乗せている武を眺めている。

すると下にあった瓦礫に躓き、武がコケる。
「あ、あが~~~~~~!」

ドアの側面に頭をぶつけ、あの言葉を発する。

(ふっ・・・・・・こうもゲーム通りの人物だとはな。)

俺は元の世界の人間ではない。

(だが、この世界はゲームとは違うな。主に現実的な意味で。)
周りを見渡すと、絵ではなく、本物の質量を持った世界がある。


そう俺はこの世界がゲームとしてある世界の出身だ。

あくまで覚えてる限りだが。

それに俺は三度目じゃない。
まぁ、意識としては三度目なんだが、記憶としては”十度目”だ。

今回はうまく日本人で構成されたな。よかった。

まったく・・・・・・誰だよこんな筋書き用意したの・・・・・。



<一度目の世界>

ある日、起きると目に入った世界に俺は違和感を覚えた。
否、普通の士官用の個室だ。特に変なことは何もない。

ん?

ちょっと待て。

なんで俺は軍人なんだ?
どうして戦術機開発なんかやってるんだ?




<二度目の世界の記憶>


ある日、ゲットアップすると目に入った世界にミーは違和感を覚えたネー。
ノゥ、普通の個室ネ。特に変なことは何もナッシング。

ワット?

プリーズ ウェイト。

どうしてオルタネイティヴ5の資料を見ているんだ?Why?
Yes!早く地球からエスケープするんだ!



<三度目の世界の記憶>

ある日、起きると目に入った世界に私は違和感を覚えた。
否、普通の戦術機のコックピットだ。特に変なことは何もない。

うん?

ちょっと待て。

なにゆえ私は戦っているのだ?
そうだ、日本の夜明けを見る為だ!

「米軍機に告ぐ!英語などクソ食らえ!」





理由は分からんが、起きる度に別の人間になっていた。時にはBETAだった。

白銀武の場合は、特定の日に出現する再構成型ループ。
俺の場合は簡単に言うと、ランダムに出現する憑依型ループ。

原作の表現でいえば
記憶だけの時は転移実験の初期同様。事象は観測できるが干渉できない。
意識があるときは、転移実験の成功型。憑依した人物の体を操ることができるし、その人物の記憶も共有できる。


一度目の世界では、戦術機開発に携わる衛士だった。
とある基地で戦術機作ってたら基地にBETAが攻めてきて死んだ。

二度目の世界の記憶ではアメリカの政治家だった。
宇宙船に乗って逃げてたら途中で宇宙船が爆発して死んだ。

三度目の世界の記憶ではとある教導隊の隊長だった。
とある事件の際、撃墜された。

四度目の世界の記憶では戦車級だった。
佐渡島で蒼穹色の不知火に齧りつこうとしたら、踏み潰された。

五度目の世界の記憶ではCPの女性だった。
とある基地が襲撃に遭った時、とある設備の停止作業をしていたら闘士級に殺された。

六度目の世界の記憶では駆逐艦乗りだった。
フランス出身だった。

七度目の世界の記憶では戦艦の艦長だった。
艦橋にレーザー照射を受けて船ごと水漬く屍になった。
九段で会おうとか言われたけど、一体何だったんだろう。


<八度目の世界>

身を起こすと、そこは横浜基地の門兵の詰め所だった。

おっしゃキター!
おぉ、次は門兵か。

記憶だけとはいえ、いろんな体験したなぁ。

小窓から門を見ると誰かが外へ出ようとしていた。

ん?
あれは・・・香月副司令と社嬢!

状況からしてオルタのラストか。
よし、近づいてみよう

「お、おい何やってるんだよ?」←相方

「副司令が外へ出てるんだから周辺の警戒行くんだよ」

「いいのか?」

「香月副司令に関係することは最優先するように言われてるだろ?」

「そりゃ確かにそうだが。分かった。ゲートは一人でいいからよ。」

「すぐ戻ってくるさ」


桜の木陰から様子を伺う。
副司令と社嬢が男と話している。

しばらくすると男が光に包まれ、消えた。

うし、このタイミングで行くか。

「香月副司令」

「ッ!?・・・・・伍長?護衛はいらないっていったでしょう?・・・・まぁいいわ、持ち場に戻りなさい。」

「さっきのは白銀武ですね?因果導体の。」

「ッ!!!!!!」


その後、揉めまくり執務室に連行されて話をさせられた。

最初はかなり警戒されたが、知ってることを説明して理解してもらった。


そして、例の件を頼まれた。

「もしかしたら次の世界にも白銀がいるかもしれない。その時は助けてやって頂戴」


その後俺は何十年か生きていたが、病気で死んだ。

生きている間、次の世界を救うための知識を出来る限り頭に叩き込んだ。





----------------------------その時が来たときのために----------------------------






[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.3>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:12
ちなみに九度目の世界の記憶ではとある准将だった。
”ゴルフセット”のデータをとある衛士に託し、原子力空母とともに命を落とした。



そして『その時は来た』



十度目。
横浜基地の士官用個室。


起き上がり国連軍C型軍装に袖を通す。
少佐の階級章を手に取り、襟につける。

名前は大隅鋼介。言っとくがこの少佐の名前であって、俺本体の名前は当の昔に忘れた。
何せ別の人間に何度もなっているのだから、名前も変わっている。

もはや名前にはほとんど意味は無く、記号と化している。


基礎は作っておいた。
起きたのは一ケ月前。憑依した人物は帝国斯衛軍の少佐だった。(ちなみに赤)
横浜基地に連絡を取り、香月博士に事情を話して国連軍に転属した。
転属というか電磁投射砲のブラックボックス関係で一時的に出向している。

それと事情と言っても、すべてを話した訳ではない。

思わせぶりなことを言って食いつかせ、ある事を条件にいくつか情報の改ざんや下準備を頼んだ。

条件は 10月22日に”死人”を連れてくること。その死人が第4計画の鍵を持っていると伝えてある。

もし来なくてもこちらは一時出向だし、ちゃんとした出向の目的もある。
来なかったとしても横浜基地には何の損害もない。

俺が第4計画を知っていることは問題だろうが、香月博士には「計画を知っている殿下や紅蓮大将の元へ行けば問題ないでしょう」と言ってある。

それにこちらは斯衛の赤。殿下を裏切ることはしない。

それに裏切ったとしても香月博士には鎧衣課長という手駒がいる。
気づいたときには死んでるだろう。


そして今日が10月22日。

一緒に出向してきた部下は基地に待機させ、秘密裏に外出した。
普通、外出するには外出許可証がいるし、そもそも斯衛の赤が一人で外出することは不可能だ。

だが、ここで香月博士の名前を使うのだ。
ある意味この名前だけ使ってしまえば横浜基地では大抵の無理は通る。

そして”機密”という言葉。

『Need to know』 必要ならば知らされる。必要でなければ知らされない。

軍人としての鉄則を持ち出せばパーフェクトだ。


軍用ジープを運転し、荒野を走る事 数十分。
彼が出現する時間は原作で知っていたから、出現する直前に着くようにした。

撃震の残骸と、緑色の屋根の廃屋が見えてきた。彼の部屋の位置の窓を見るとカーテンがついている。

どうやら出現したようだ。




車を止め、家の中に入る。

どうやら世界への出現の際に再現されるのは武とその部屋だけらしい。
玄関から台所の方へ行くと、廃れたテーブルや脚の欠けた椅子が転がっていた。

ちなみにちゃんと靴は脱いだ。廃屋といえども他人の家だ。汚れようともそれは守らねば。

一度確認するか。本当に彼がいるのか。


台所の右手にある階段を音を立てないように慎重に上り、彼の部屋のドアを開ける。



「ぐ~~~~」
なんという寝相の悪さだ。

ベッドの上には気持ちよさそうに寝る白銀武の姿が。

部屋を見渡すと散らかっていた。


俺は転生者といえども、今の基本人格は斯衛の赤。
記憶も武家の生まれとしての厳しい鍛錬に耐え抜いた大隅鋼介としての物を持っている。

その煩雑さや部屋の散らかり様、そして武の寝顔になんとなくムカついたので
『モーニング鉄拳』を見舞いしようとしたが踏みとどまった。


ここは面倒事を起こさず、シンプルに行く。

一度下に降り、朽ちた椅子に座った。




数十分待つと、武が降りてきた。

俺を見ると驚いていたが、事情を説明すると意外と理解は早かった。


そりゃそうだ。あの世界にずっといたら人が変わるには十分だ。


「では、行こう。皆を救うために」



俺のやる事はこいつを助けること。




そして・・・・・・





俺のループの原因を解くためにこいつには少しばかり手伝ってもらわねば。






[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.4>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:12
<side武>


俺は鋼介さんの車に荷物を載せ、助手席に乗り込んだ。

そして鋼介さんも運転席に乗りエンジンをかける。



で、ずっと気になっていた事があるので聞いてみる。

「鋼介さん、なんで国連軍の制服着てるんですか?」

世界間を飛ばされているのだ。
自分のようにこの世界の自分は死んでいたり、目覚めた場所が俺と似ている場合がある。

それなのに既に軍服を着ている。
かなり前に飛ばされたと言っても、目覚めたのは一ヶ月前だって言ってたしなぁ・・・・。

「ん?あぁ、既に横浜基地に所属しているからだよ。所属と言っても帝国斯衛軍からの出向だがね。ちなみに色は赤で階級は少佐だ。」

「は?」

どうにか軍属になれたとしても、帝国斯衛軍ってどういうことだ?
それに赤で少佐って・・・・ちょ・・・おま・・・・・。

「さっき言っただろう。私のループ後の出現場所や時期はランダム。そして君のような再構成ではなく憑依型なんだ。君の体験した場合で言うと転移実験のような感じかな。」

俺の主観では転移したときも自分の体だったから何も感じなかったけれども、逆Verなのか?

それとも中身だけ入れ替わってるのか?
それとも・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」




「白銀君?どうしたのかね?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」






<side鋼介>





「ふぅむ。」


どうしたものか。
いきなり頭から蒸気噴出して訳の分からないことをブツブツ言っている。

白銀って確かよく人の前で考えごとをするんだっけか。
でもそれにしては様子がおかしい。

話の流れからすると・・・・・。
あぁ。なんだループ関係のことを理解しようとしたのか。


博士や俺ならともかく、こやつでは無理だったか。


おっと。そろそろ戻らねば怪しまれてしまう。
博士にも昼までには戻ると言ってあるしな。

さてどうやって再起動させようか・・・・・。

ふむ、こやつも軍人だ。
前の階級と名前で呼べば再起動するはずだ。

息を吸い、一気に放出する。
「白銀少尉!!」

「!?は、はひぃ!なんでありましょうか!?少佐殿!!」

「大丈夫かね?」

「は!問題はありません少佐殿!先ほどは失礼致しました!」


ふむ。この際だ。矯正してしまおうか。
絶対207訓練小隊の連中に会うと・・・・




「敬語抜きで!」



とか・・・・・




「同い年だから硬くならなくてもいいぜ?」



などと抜かすに決まっている。

修羅場を展開されて俺が巻き込まれては困る。
せめて公私の便は弁えてほしいものだが・・・・・・・。








<side武>



「白銀少尉!!」

「!?は、はひぃ!なんでありましょうか!?少佐殿!!」

うわ、びっくりした!
そうだ、協力者といえども相手は上官(?)だ。

ちゃんとしなきゃな。


「大丈夫か?」

「は!問題はありません少佐殿!先ほどは失礼致しました!」

それにしてもさっきの声、さすがは斯衛軍の佐官だな。
威圧するような声だった。
基地司令の声にも似たような威圧感があったがこれはまた別のものだ。

訓練兵達・・・・・・委員長とか彩峰にこれを使ったら真面目にやるようになるかな・・・・?

ッ! いかんいかん。また人の前で考え事をしてしまった。

それにしても少佐 そろそろ出発しなくていいのかな?
一人で出てきている辺り、絶対”外出”じゃなくて”抜け出してきた”だろうからな。


ちょっと心配だから声をかけよう。
「少佐?そろそろ出発しましょう。」

「そうだな。」
少佐は頷くと車を出発させた。

そうだ。俺の処遇はどうなるんだ?

彼は横浜基地へ出向している帝国斯衛軍の赤。
夕呼先生にも話は通してあるだろうし、基地にはすんなり入れるはずだ。

「少佐?一ついいですか?」

「少佐はやめたまえ。君とは同じ境遇の仲なのだから先のように名前で頼む。
ただし公私の便は弁えてくれ。これでも斯衛の赤なのでな。」

同じ境遇の仲って言われても・・・・。
それに斯衛の赤って時点で話づらい。

元の世界ならともかく、こっちの世界の人間の感覚に近くなっているからな。

だけど断る訳にはいけないだろう。


「分かりました。鋼介さん・・・・でいいですか?」

最初なんとなく出てきた呼び方だ。


「あぁ。それで構わんよ。で、何だね?」
おっと聞かなきゃ。

「俺の処遇はどうなってますか?」

「横浜基地での事はこれからだが、戸籍証明に関しては私が君の身元保証人になっている。
既にデータベースは書き換え済みだ。」

身元保証人?データベースの書き換え?

つまり”死人”の件はクリアか。
彼も斯衛の赤だし、月詠さんとモメることもなさそうだな。

斯衛ということは帝国とつながりがある訳だし、赤だから殿下への伝もあるだろう。
クーデター関係もどうにか出来そうだな。

階級や所属とかは夕呼先生と話してからだな。


「そうですか。ありがとうございます、」

「礼はいらんよ。白銀君。君を助けるのが私の役割だ。」

「分かりました。」
彼が助けてくれるのなら、それに報えるように”手伝い”を頑張ろう。

それにしても何をさせられるんだろうか。
家を出る前の話からすると兵器開発関係に詳しいようだ。

戦術機開発の手伝いとかかな?
聞いてみよう。

「あ、そういえば、俺がやる”手伝い”って何なんですか?」

「それは後で話そう。
まず基地についたら博士に会ってもらう。それで詳しいことを話すんだ。
博士には”第4計画の鍵を持った死人が来る”としか言ってないのでな。」

手伝いってのが気になるけど、まずやるべきことだ。

話からすると、彼のループ証明に俺が使われたってことだ。
そりゃそうだろう。彼自身の事を夕呼先生に信用してもらわないと俺だって動けない。

前の世界の夕呼先生の話だと
純夏から読み取ったイメージに俺のことがあったから、既に戸籍とか調べられてるんだよな。


死人出現の予言。話に食いつかせるのに”第4計画の鍵”。

鍵ってのは間違っちゃいないけど彼はすごいんだな。
興味を引き、夕呼先生とちゃんと交渉してるんだから。

おそらく彼が出した要求は俺を助けるための横浜基地への出向の口実作りってところか?


夕呼先生が得る利益は”第4計画の鍵”
俺が得るのは皆を守るのと人類を救うための階級や戦術機。
彼が得るのは兵器開発関係だろう。

表向きそうでもしなけりゃ斯衛の赤は動けないだろうし。


よし、段取りは決まった。

「分かりました。」


「では、少しばかり飛ばすぞ。昼までに戻らなければいけないのでな」

やっぱりか。早く行こうって言っておいてよかった。

返事をして彼はアクセルを踏む。




<ブオオオオオオオオオオオン!!>





荒野を赤と白銀の救世主が往く。






[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.5>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:13
2001年10月22日11時28分 
国連太平洋方面第11軍横浜基地 B19 副司令執務室



<side夕呼>


<カタカタカタカタカタカタ・・・・・・・> (キーボードを叩く音)


「・・・・・・・・・・・・」
削除。


<カタカタカタカタカタ・・・・・・・・・>



「・・・・・・・・・・ッ!!」
削除。



あたしは焦っていた。
この『天才のあたし』がよ?





二週間前にいきなり連絡を寄越して来た赤服。
電磁投射砲の不備とかで出向してきたからとりあえず会うことにした。


別件で話があるとか言うから護衛を下げて二人だけで話した。





最初はとうとう斯衛軍人の頭がバカになったのかと思ったわよ。

でもあいつの話は有り得ないことじゃなかった。
それに”因果律量子論”も知っていた。こいつに会った事もないのに。




そこまではいい。




だけど

「量子電導脳の基礎理論は間違っている」


「行き詰っているのは本当だろう?」


「鑑純夏や社霞に無理をさせてないかね?」


「第4計画の鍵である”死人”を連れてきてやろう」


あいつが口走ったのは機密情報のオンパレード。


あたしの頭の中にしかなかった『鑑純夏』と『死人』。




そして




「オルタネイティヴ4はいつから機密情報のバーゲンセールを始めたのかね?」




とか言ったもんだから銃を突きつけたら




「ハッハッハ、第4計画を誘致した国の要人を殺す気かね?」




とか脅してくるもんだから撃てなかった。



そしてあいつはあたしに”取引”を持ちかけてきた。

こちらからもいくつか条件を出したらあっさり呑んだ。








そして今日が約束の日。

あいつが”死人”を連れてくる日だ。


もしあいつの言うとおり、死んだはずの人間が来たらあいつの言ったことは本当になる。

つまり私の理論が間違っていることに直結する。


取引の内容が普通のレベルではない。

あいつの話が本当である確率がかなり高いということだ。

他にも未来情報を言ってくるもんだから調べたらその通りだった。


・・・・・・内容は調べる度にムカつくものばっかりだったわ。





理論の洗い直しを何度もやっては問題に突き当たりる。

新しい概念を考えても考えても思いつかない。




「なんだってのよ!!」



<ダン!>  (机を叩く音)







<ピ!> (通信装置)



『―――香月博士、基地ゲート前の守衛からの通信です 』




「・・・・・ッ!!つないでちょうだい」





『―――了解しました。』





『こちら基地ゲート。
―――”斯衛の方”と、共に来た”訓練兵”が副司令に面会を求めています。どういたしますか?』




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




『副司令?』





「その斯衛の方に話は聞いているわ。訓練兵の方も入れてやっていいわよ。」




『は!了解致しました。では失礼致します』





<ピ!> 







「とうとう、来たわね・・・・・・・・・・・ゾンビとサンタクロース!!!」







[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.6>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 10:13
<side武>



荒野を車で走ること20分。


見えてきたのは

廃墟に囲まれた台地に佇む巨大なレーダー。
基地へと続く坂道に植えられた桜の木。


「さて、もう少しで到着だ。」

「了解です。」

俺が最後に見た横浜基地はボロボロだった。
BETA襲撃を受け、正門のゲート付近と桜の木は無事だったものの地上施設はほぼ全壊していた。


目の前にあるのは綺麗な横浜基地だった。
つい数ヶ月前に稼動を始めた基地なのだから当然だろうけど。


あの世界とは”違う世界”だと改めて思った。




坂を上り、基地のゲート前に車が止まる。


「よし門兵に話を通してくる。ちょっと待ってなさい。」

車が近づくとゲート前に居た門兵二人が近寄ってきた。

鋼介さんは車を降りて、近寄ってきた門兵の一人と話し、詰め所へ向かう。


もう一人は車の近くで俺を見張っている。

彼は正規兵の制服を着てるからいいけれども、事前通告なしで来た訓練兵は警戒対象だろう。


夕呼先生を狙うやつらは多いからな。

反オルタネイティヴ4派、オルタネイティヴ5推進派、過激派、そしてG弾運用派。


挙げたらキリがない。



『人類に未来が残されるかどうかは、相克を乗り越えられるかどうかに掛かっている』


前の世界で消える前に夕呼先生に言われた言葉だ。

絶えず俺や皆の邪魔をしてくる米国。

HSSTやクーデター。全部あいつらのせいだ。




(邪魔するやつは潰してやる!)



そんなことを考えていると鋼介さんが詰め所から出てきた。


門兵たちが道の脇に下がり、ゲートが開く。



「おっと待たせたね。」
彼は車に乗り込み、エンジンをかけ直す。


「いえ。」
5分ぐらいだったので。全然なんともなかった。


・・・・・・いや、ずっと門兵にジロジロ見られていたからもっと早く戻ってきて欲しかった。


そりゃそうだ。

斯衛の人間に車を運転させている訓練兵。興味が沸かない方が変だ。




車が走り出し、門兵がこちらに敬礼をする。

彼が答礼を返しているので、俺も敬礼しておいたほうがいいのだろう。


「ッ」

敬礼を返し、車は来客用駐車場の方へ向かっていく。



「こっちの駐車場の方へは初めて来たなぁ。」

前の世界じゃ基地から出たときは毎回戦術機か、戦術機を載せたトレーラーだった。

通常車両の駐車場は、元の世界の柊学園の職員駐車場と同じだったから初めてではないが。

そもそも地下構造がとても広いから基地要員の車はすべてメインゲートから地下直行だ。



車を止め、彼が降りた。
「さて着いたぞ。どうだい?久しぶりの横浜基地は。」

俺も車を出て横浜基地に降りたつ。


「なんか・・・・・・帰ってきたなーって感じがします。」
主観ではそんなに時間は経ってはいないけど、気分的には懐かしい感じがした。


「そうか。では行こう。」
彼の後に続いて施設内へ入る。







基地要員が反対側から来て立ち止まる。

こちらに敬礼してくる。彼と俺は敬礼を返す。




やっぱり少佐って階級はすごいな。

道を通るほとんどの人が立ち止まり、彼に対して敬礼している。

止まるということは、道行く人のほとんどが少佐以下の階級ということになる。


俺は逆に訓練兵の制服を着ているから、毎回止まらなきゃいかんのだが。
なのに彼は悠々と歩きながら敬礼して進んでいく。





しばらく歩くと警備ブロックの検査室の前についた。


「すまんが、ちょっとばかり検査を受けてくれんかね。」


え?検査?


「どうせ簡易検査だ。すぐ終わる。
私が大丈夫だと分かっていてもあちらは規則でやらなきゃいけないことになっているからな。」


ふむ、規則は大事だ。
どこかの博士に聞かせてやりたいぜ・・・・・・・・・・。


「了解です」

部屋に入り、検査官からチェックを受ける。


前の世界じゃ色々受けさせられて4時間もかかったからな。

簡易検査でよかったぜ。



でもなんで血液検査があったんだろう?




20分後。簡単なボディーチェック、血液検査と基地についての講習だけで終わった。





検査室を出ると彼はいなかった。


「あれ?」
先に行っちゃったのかな?


「白銀武”特務”少尉ですね?」
ん?後ろから声をかけられた。


「は、はい。私で間違いありませんが。」
少尉?この基地内での設定か?
訓練兵の制服を着た正規兵っておかしいだろ。


それに”特務”って何?

だけど白銀武ってことは俺に違いない。
返事をしながら振り返る。


「大隅少佐から案内役を任されました、イリーナ・ピアティフ臨時中尉です。」


振り返った先には夕呼先生の秘書のピアティフ中尉がいた。



おっと、敬礼されているので敬礼で返す。

「―――ッ、白銀武特務少尉であります。よろしくお願いします。」


案内役を任されたってことは先に行っちゃったのか。
検査室の前で佐官が突っ立っている訳にはいかないしな。


改めて名乗り、案内をお願いする。

「では、こちらへどうぞ。」
彼女の後ろについていく。

確かB19ブロックの機密レベルってかなり高いんだよね。
入れるのは数少ない。


前の世界でB19ブロックに入れたのは俺と霞と夕呼先生と目の前のピアティフ中尉や純夏、
ラダビノッド司令や他数人ほどしか入れないらしい。


・・・・・・・・・無断で入った鎧衣課長もいたけどな。




それはさておき、ID認証付き機密ブロック直通エレベーターに乗り下層へ行く。



B19ブロックへ着くと中尉は執務室の場所を伝えてどこかへ行ってしまった。

さすがに話を聞かせる訳にはいかないから、連れて来たら持ち場へ戻るよう言われていたのだろう。





コツコツと廊下に靴音が響く。

副司令執務室の扉が見えた。




一度立ち止まり、深呼吸をする。




香月夕呼。
元の世界では俺を理解してくれる数少ない人で恩師。



だがこの世界ではオルタネイティヴ4を担う”魔女”だ。

前の世界では情報を小出しに出され、目隠しされ良い様に踊らされた。
俺が未熟で頼りなかったのも原因だが。


だが、今回はそうはいかない。
彼もいるし、俺だって成長しているんだ。


気合を入れ、扉へと歩く。



執務室の扉はID認証装置にIDパスを通さないと開かない。
入るにはパスを使うか、壁についているインターフォンっぽいのを使って内側からあけて貰うのだ。


<ピ!>


「白銀武特務少尉です。入室許可を。」


夕呼先生の部屋の前でこんなこと一度も言ったことなかったのに。
今まで普通に入れていたので新鮮さがある。



「入りなさい。」
夕呼先生の声だ!
でも何か硬い。



<カシュー・・・・・・> 




油圧式スライドドアが開く。



部屋の入り口まで行き、規則通りの台詞を言う。


「白銀武少尉、入ります!」






入ってドアの先に居たのは、彼と・・・・・夕呼”先生”ではなかった。







紛れも無い 『オルタネイティヴ第4計画提唱者・香月夕呼博士』 が居た。










[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.7>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/10 16:58
<side夕呼>







数分前。







「大隅少佐だ。入りますぞ」
赤服が執務室の扉を潜り、入って来た。


面倒だったのと仕事関係でこの階に入れるようIDは与えてある。
出向が終われば使えなくなる。


もちろんシリンダーの部屋には入れないようにした。



「とうとう来たわね・・・・・・。少佐、例の”死人”は?」
入って来たのはやつ1人だけ。


「あぁ、簡易検査を受けてもらっている。規則だからね。」


あぁ、面倒ったらありゃしない。

確かに工作員であるという可能性を考えると検査は受けさせるべきだが、

”死人”は確実に存在しないことが分かっている。
戸籍も死亡扱いになっているし。

どこかで生き延びている可能性も低い。
廃墟等は入れないようになっているし、避難住民居住区に居た形跡もなかった。難民キャンプも同様だ。

誰かに匿われていたという可能性もない。さっきのと合わせて鎧衣課長に調べさせた。



何故”死人”のデータがあったかというと、城内省に残っていたそうだ。



『故帝国斯衛軍白銀影行准将、【白壁】の息子 ”白銀武”』として。





経歴では1998 年の本土進攻の際、京都防衛戦で白銀影行准将は死亡している。

その息子である白銀武は当時14歳。横浜の親戚の元へに幼馴染や友人と共に避難していた。

その後BETAは本土を蹂躙。
その際親戚や一緒に避難してきた者共々行方不明。死亡扱いになっている。

通常、一般市民のDNA採取は行っていないが、家が白を賜る武家と言うこと死人のDNAも採取されていた。

そのサンプルを赤服が持ってきたので、今回来た奴の血液検査をして照合すればすぐ分かる。
血液採取するように言ってあるから、すぐ結果が出るわね。


「そう・・・・じゃ、”取引”については彼が来てからにしましょう。」

ほぼ確定だが、間違いがあってはいけない。


「承知。・・・・・・彼にはすべてを話すように言ってある。」


「わかったわ。」


”死人”が本物で取引が上手く行けば”鍵”とやらが手に入る。
既に目の前いる赤服の未来情報はほぼ正しいといって良い。



つまり死人もこいつも異世界からの来訪者。
実に興味深い。


赤服のペースに乗せられているのは気に入らないが、取引には十分な利益がある。

得たモノで計画が成功するなら良しとしよう。



『白銀武特務少尉です。入室許可を。』




来た。




「入りなさい。」
扉のロックを外す。




<カシューーーー>





「白銀武少尉、入ります!」



入って来たのは予想通り。”ガキ”だった。






だけど・・・・・・






容姿に合わない鋭い目だけは・・・・・・・・・・ガキじゃなかった。












<side霞>




私はいま、香月博士の部屋とは別の部屋にいます。


博士は私にある事を命令しました。



”これから来るガキをリーディングして嘘を言ってないか調べて頂戴”



他の人の思考を覗くのは好きではありません。



前に来た赤い服の人もリーディングするように言われたけれど、

あの人の考えている事は分かりません。




だって考えている事とやっている事が違いました。




香月博士と話している時には『ノイズの入った灰色』


黒いノイズやテレビの砂嵐のようなイメージは『無』を意味します。

何も考えていない。ボーっとしている状態だとあんなイメージです。




なのにあの人の口からは機密情報がたくさん出てきます。



私と博士しか知らない”純夏さん”の事まで。



話の内容から私の事も知っているようでした。



どうしてなんでしょう。





「・・・・・・・・・・ッ!!」


エレベーターの方からとても大きい気配がします。




彼なのでしょうか?


予定ではこの時間に来ることになっていました。




さっそくリーディングします。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」






『明るい太陽』








「・・・・・・・ッ!?」


色が変わりました。


『深い紺色の渦』









「・・・・・・・・・・・・・ッ」



また変わりました。



『白い直線と紫色のぼやけた霧』



直線は『強い意志』を表します。





「・・・・・・・・・・・・・むらさき・・・・・?」


人を思い浮かべるとぼやけた色になります。



誰のことなんでしょうか?








「―――――香月博士?」




考えていると大きい気配は博士の部屋に入っていきました。



博士の部屋には

『ノイズの入った灰色』  『赤い流れるような複数の枝』 

そして『白い炎』のようなイメージが見えました。




私の仕事はここからです。







私がやること。






『イメージを読んで翻訳すること』







ごめんなさい。





あなたの”心の中”を見させてもらいます。









[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.8>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 23:32
<side武>





部屋に入り香月博士の正面に立つ。
「初めまして、”香月博士”。白銀武です。」


彼女は夕呼”先生”ではない。
同じ”香月夕呼”であったとしても世界が違う。

確かに俺としては知り合いな訳だし、守るべき存在ではあるがそれを押し付けるのは我侭だろう。


「どうもご丁寧に。座りなさい。」

指し示された椅子に座る。
めんどくさそうな動作をする辺り、この人も堅苦しいことは嫌いなのだろう。



「白銀君。君が知っていることを話したまえ。
ループ関係については立証済みだから詳しく言う必要はない。」


部屋の隅に居た鋼介さんが口を挟む。
ループ関係について説明していちいち驚かれないのは楽だ。

「分かりました。ではまず、俺が辿った”この世界とほぼ同一の世界群”での出来事を話します。」


人類が滅亡したであろう一度目の世界。
人類が勝利した二度目の世界。

一度目の世界であった事を話さなければ彼女はまた聖母に成り損ねる。



「俺が経験した世界は二つです。一つ目はオルタネイティヴ4失敗した世界。」

「なんですって!?」
予想通りの反応だ。
だが驚く彼女に構わず話を続ける、

新潟BETA侵攻。
HSST。
天元山。

「―――そして12月24日にオルタネイティヴ4は取り潰されました。理由は簡単。理論には無理があり、00ユニットを作ることができなかったからです。」



「・・・・・・・・・・・・・」

何も言わないな。
理論に無理があることが現時点で分かっていたのだろう。


「続けたまえ。」
鋼介さんが間を繋ぐ、


「はい。」
そして世界の終焉。


「その後オルタネイティヴ5が発動。宇宙に逃げた人はともかくおそらく地球に残った人は全滅したでしょう。」

二度目の世界ではG弾の使われた横浜ハイヴの反応炉は生きていた。
残存BETAから反応炉へデータが渡り、オリジナルハイヴへと伝わっているはずだからG弾も対策済みだっただろう。

本当に全滅したかは分からないが。
だが俺があの世界で死んだことで”終わった”のだ。


「そして二つ目の世界です。こちらは俺が歴史変更したんでオルタネイティヴ4が成功しています。」

主観でいえばそうだが、それを実行してくれたのは博士や他の人物であって俺じゃない。
だが、俺がいなければ世界は救われなかった。決して自惚れなんかではない。
事実なのだ。



一度彼女の表情を伺う。
険しい表情だが、さっきよりはマシになった。


「歴史変更するなかで、一つ目の世界とは違う事件が起きました。」

それは”クーデター”だ。
天元山の噴火に伴う不法在留住民への対処がトリガーだった。


一つ目の世界では起きなかった所を見ると、あの事件で彼らの堪忍袋の尾が切れたんだろう。


「――――――という展開でどうにか殿下を脱出させ、最後まで抵抗していたクーデター軍は投降。クーデターは終結しました。」


この件については結構痛手だっただろう。
帝国軍の戦力が減り、佐渡島の作戦で多数の死者が出たのだ。


いや、あの数だったからこそ撤収が間に合ったんだ。
そうでなければ真野湾の戦艦は全滅し、純夏の救出が出来なくなっていただろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。


あれが最良の未来だってのか?俺は認めないぞ!!


どちらにしてもあの件でいろいろ狂ったのだ。起きないに方がいいに決まってる。
帝国軍の衛士やヴァルキリーズの人たちの命も助かるだろう。
何人か死傷したって大尉が言ってたな。



「長いから展開は後で聞くわ。対処もしてあげるから、オルタネイティヴ4の鍵を教えて頂戴」

よし、対処をしてくれるなら鍵を渡すべきだ。
カードは切れるときに切らないと後で使い物にならなくなったり、価値が下がったりする。


「はい。その前に俺がBETAと戦っている世界ではなく、他の世界で育った事は少佐から聞いていますか?」

数式を持っているのは元の世界の夕呼先生だ。
前提を話さないと内容が理解できなくなる。


「えぇ、聞いてるわ。ただの学生だったのよね?それでここに居る人間と役割は違うけど同じ姿形や性格と名前を持った人間が居るのよね?」

ナイス鋼介さん。
”第4計画の鍵を持った死人が来るとしか伝えていない”とか言ってたけど用意周到じゃねーか。
彼はかなり優秀なようだ。


「はい。そこで博士は物理教師だったんですけど、その世界の彼女がその鍵を持っていました。」


「ッ!!」
お?博士の様子が変わった?

なんか表情が変わったぞ。
目は細まってるし、口の縁はつり上がっている。


わ、笑ってる?


「あ~っはっはっはっはっはっはっは!!さすがは天才のあたしね!最高よ!!」
さすがに今回は突撃してこなかったか。
でも台詞は一緒だったな。本質も一緒だ。


「で!?それで取りにいったんでしょ?どうやったの!?」
こんなにはしゃいでいる博士は二度とお目にかかれないだろうな。
脳内フォルダに保存だ。


「ある装置を使ったんですけど原理はよく分かりません。けど俺を確率の霧の状態に戻してどうにかするって感じでした。」

無理してでも原理を聞いておくべきだったかな。
俺が覚えていられるか疑問だが。

「!・・・・・・なるほどね 」
納得のいったような顔をする博士。
ま、まさかあれだけで分かったっていうのか?

さすが天才。香月博士・・・・あんたすげーよ・・・・・。


「わかったわ。こちらの必要なものはもらったから、あなたの要求を言いなさい。
それと残りの歴史展開と対処方法、大事になりそうな情報も教えて頂戴。」

よし、これで完璧だ。
基盤は揃ったも同然だ。


「――――それと大隅少佐?あなたの要求通り”アレ”の手配もやっておいてあげるわ。」

ん?鋼介さんも何か頼んでたのか?
まぁ、知る必要が出てきたら教えてくれるだろう。


「御礼申し上げる。」
鋼介さんが礼を言う。


「礼なんていらないわ。約束だもの。」

とてもドライな香月博士。いや、彼女の立場なら当然か。
そんじゃ俺の要求をさっそく・・・・・。



「白銀君。ちょっといいかね。」

ん?何かあるのかな。



「何ですか?」

「君の処遇はこちらに案がある。というかその通りにしてあるから、その説明をする。」

え!?
その通りにしてあるってどういうことだ?
ちょっと待ってくれ、事情を知ってる彼なら変なことにはなってないだろうけど俺にもやる事が・・・。


「大丈夫だ。君のやる事の邪魔はしないようにしてある。安心したまえ。」

よかった。
「階級は大尉で私の直属だ!」とか突拍子もないこと言われるかと思ってた。

「博士、少しばかり白銀君に伝えることがある。その間博士は処理を頼む。」

「頼まれなくてもやってるわよ・・・・・・。―――白銀。」


「はい?」

この世界で博士に初めて名前で呼ばれた。
なんか懐かしい。


「さっきの情報、レポートにまとめて出しなさい。どうせ長くなるんでしょ?」

聞くのは時間かかるから、要点だけ教えろってことでしょ。
はいはい、わかってますよ。

「了解です。」

「では、博士。隣の部屋を借りるよ。」

「ど~ぞご自由にぃ~」

手をひらひらさせながら博士が返事をする。
なんか口調までめんどくさそうになってきたぞ。


「では、白銀君。こっちだ。」

執務室の隣、ソファーや机が置いてある部屋だ。
彼について行き、ソファーに向かい合わせに座る。


「で、君の処遇なんだが――――――」








<side夕呼>






さすがね。


鋭い目つきや雰囲気から感じてたけど、中身は”ガキ”じゃないのね。

話の要点をついて必要なことだけを選んで喋っている。


オルタネイティヴ4が失敗したとか言われたときはビックリしたわよ。

でも社からの報告を見る限り、嘘は言ってない。
あとは血液検査の結果だけ・・・・・・。


「――――――という展開でどうにか殿下を脱出させ、最後まで抵抗していたクーデター軍は投降。クーデターは終結しました。」


ふぅん。なかなか面倒なことがあったもんね。
アメリカがそこまで介入してただなんて驚いたわ。

よし、これを逆手にとって交渉材料に・・・・・・・。




「・・・・・・・・・・・・」




パソコンの画面に一つ報告が出る。


【検査結果報告―――99.9%一致。本人である可能性大】


これで完璧ね。
こいつの言っていることは本当だ。

面倒だから先に”鍵”の事を聞こう。後に聞いても同じだ。


「長いから展開は後で聞くわ。対処もしてあげるから、オルタネイティヴ4の鍵を教えて頂戴」

”鍵”・・・・・・。量子電導脳の基礎理論と数式のことだ。


あいつの経験したという最初の世界じゃ、どうして失敗したのかしら?
二度目で思い出したってこと?

突然訳も分からず状況の違う世界じゃ思い出せるはずないわよね。



「はい。その前に俺がBETAと戦っている世界ではなく、他の世界で育った事は少佐から聞いていますか?」

赤服が押しかけてきたときに聞いたわよ。
あぁ、あの時は本当におかしくなったのかと思ったわ。



「えぇ、聞いてるわ。ただの学生だったのよね?それでここに居る人間と役割は違うけど同じ姿形や性格と名前を持った人間が居るのよね?」

だったらあたしは何だったのかしら?


「はい。そこで博士は物理教師だったんですけど、その世界の彼女がその鍵を持っていました。」

物理教師ぃ~~?
楽な職業ねぇ・・・・・・・。

え?


その世界のあたしが”鍵”を持っているですって?

そうか、同じ状況のあたしじゃなくて異なる立脚点を持ったあたしが考え付いたのね!

天才やっててよかったわーー!!

「あ~っはっはっはっはっはっはっは!!さすがは天才のあたしね!最高よ!!」


最後に笑ったのはいつだったかしら?
こんな気分、久しぶりだ。


それでどうやって手に入れたのかしら?
もちろん直接取りに行ったんだろうけど。


「で!?それで取りにいったんでしょ?どうやったの!?」

世界を捻じ曲げて別の世界に干渉させるには・・・(ry
こいつのイメージを元にして・・・・・・(ry
でも、こうすると・・・・・(ry
ちょっと電力が・・・・・(ry

「ある装置を使ったんですけど原理はよく分かりません。けど俺を”確率の霧の状態”に戻してどうにかするって感じでした。」


ビンゴ!!


「!・・・・・・なるほどね! 」

あたしはやっぱり天才だわ!!
今とっても最高の気分よ!!


さて、対価をもらったから要求に答えなきゃね。

「わかったわ。こちらの必要なものはもらったから、あなたの要求を言いなさい。
それと残りの歴史展開と対処方法、大事になりそうな情報も教えて頂戴。」


今日は人生で最高の日だ。





さ~て、忙しくなるわよ~~!







[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <Start Line>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/08 14:18
<side鋼介>





ふむ。なかなか分かりやすい説明だ。
白銀君。成長したじゃないか。


原作の展開を考えるとちょっと心配だったが、さすがはあの悲劇を乗り越えた主人公。
似たような境遇にある私でも、あの状況であったならば壊れていただろう。


「わかったわ。こちらの必要なものはもらったから、あなたの要求を言いなさい。
それと残りの歴史展開と対処方法、大事になりそうな情報も教えて頂戴。」


よし、これで完璧だ。


香月博士には段取りを書いたデータファイルを渡してある。
取引が履行された際、開けるように言ってある。
仕事が速い彼女のことだ。今日のうちには済むだろう。

それとは別に私がやったデータの書き換えは二つ。

一つ目は白銀武の戸籍証明。
行方不明になっていたが難民キャンプに紛れ込んで生きていたことにした。
それを私が見つけ、保護。身元保証人に設定した。
どうせ他のやつらがデータを覗くのは本当に彼が現われてからだろう。
もし彼が出現しなかった場合、誤まった情報として処理されるか、見られる前に消すのだ。


二つ目は、彼の処遇設定。
【白壁】の子供となれば、斯衛軍へ所属させるように上は動くだろう。
そうなれば、彼は国連軍で活動できなくなる。

まず上への建前として、私の特務機動大隊に配属する。
私の部隊ならどんな任務でも言い訳が立つ。
これなら一応斯衛軍所属だ。

次に横浜基地への出向。
ここには警護リストの上位に載っている人物がいる。
そして月詠や白の三人、斯衛軍が駐留している。

そこで上層部へ出す彼の任務は【御剣冥夜】の護衛。
一人ぐらい増えても問題ない。
それにいくら護衛が居るといっても近くから監視しているだけだ。
訓練兵と言っても任務の一つや二つ降りてくる。
そうなれば任務によっては彼女達が随伴できない場合がある。
そこで白銀武を特務少尉とし、訓練部隊に紛れさせて護衛をさせる。

帝国での身分は斯衛軍所属の特務少尉で任務は【御剣冥夜】の護衛。
国連での身分は横浜基地207訓練小隊に所属する訓練兵。
彼本人は訓練の必要がないが、外の認識としてはただの武家出身者だ。
訓練過程を終了させ、任官させるまでの道筋も整う訳だ。

これで上層部は何も言ってこない。
横浜基地に居る理由は作れた。

これで彼女達が任官するまで彼は一緒に居られるだろう。
A-01 についてはXM3を作った時に斯衛軍からの教導任務として行って貰おう。

XM3を帝国と国連の合作とすれば、上の頭の固い連中も許可するはずだ。
任官後には、オルタネイティヴ計画の重要人物として横浜基地へ残らせる。

そして斉御司様を通じて殿下に謁見し、計画に白銀を組み込むことやクーデター対策、【身代わりの件】への対処を講じてもらうよう進言すれば後のことは問題ないだろう。

彼のやる事を助ける為、私は裏で動くのみ。
それが私に与えられた”役割”だ。

”彼”に頼まれたことでもあるしな。


「――――それと大隅少佐?あなたの要求通り”アレ”の手配もやっておいてあげるわ。」


よし、”アレ”が手に入ったらさっそく巌谷君に頼んで”例の武器”を作ってもらうか。

それに”アレ”は白銀君が駆るに相応しいものだ。
かの凄乃皇を守る為には必要なものであるし、それを目的として作られたのだ。

制御の為の土台は香月博士が作っているモノを用意してもらえば問題ない。
中身は私が前のこの世界で博士が完成させたものを覚えているから完璧だ。

”アレ”の技術を流用して不知火も強化すれば、A-01の搭乗機として十分なものになる。
帝国の次期主力機として推すのもいいかもしれんな。

巌谷君には悪いが、XFJ計画を上回るものを作らせてもらうよ。

「御礼申し上げる。」
当然礼を述べる。
取引と言ってもこちらから押し付けたようなものだ。

「礼なんていらないわ。約束だもの。」
これだけの要求でも第4計画成功と比べると、たいしたことないのだろう。

それはそうだ。
『世界規模の計画』と『個人のデータベースの改ざんや既にやっている事の延長』
後者の方が簡単に決まっている。

さて、白銀君に処遇のことを説明しなくては・・・・・・・・・・・・。


「白銀君。ちょっといいかね。」

その後処遇について話した。

最初は勝手に決められていたことに驚いたようだが、自分のやる事が出来ると知り
私の説明を一言一句聞き逃さないように集中していた。

だが、ある所に差し掛かると険しい表情をしていた。
前の世界とは違うイレギュラーがいくつもある。
前の世界とは自分の出自や環境が違ったのだ。
受け入れるには時間がかかる。


説明を終えると、白銀君は博士から情報端末とIDを受け取る。
割り当てられた部屋へ行き、レポートを作るようだ。

「では、白銀君。裏の事は私に任せておきたまえ。君は、君の”役割”を果たすんだ」

「分かりました。では博士、少佐、一旦失礼します。」
彼が退出し、私と仕事にとりかかった博士だけが残された。

「では博士、また後ほど。」

「りょ~かい。」
どこぞの突撃前衛長の口調で博士は返事を返すと目線をパソコンに戻した。

退出し、横浜基地のB17の通信ブロックへ向かう。










「これからが本番だ」










「さて・・・・」

まだ物語は始まっていない。



完全なイレギュラーである私がそのスイッチを押すのだ。













「始めよう―――――――”あいとゆうきのおとぎばなし”を」
















                  『与えられしは異なる舞台』



  
  
  『語り継がれるべき友の名前』



                                                    『その名を胸に刻み』



              
                   『駆け抜けるは”異形の魔窟”』

        


   
             『”他なる結末”の終わりに待つものは
                     
                            絶望の荒野か至高の楽園か―――』







          『―――――滅び行く世界に燃え上がる命の炎


           ――――――――――そして紡がれるもう一つの物語―――――――――』



  
      





            『これは私が体験した”あいとゆうきのおとぎばなし”である』








[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX <No.9>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/09 01:26




<side武>




俺は今、割り当てられたB4ブロックの士官用個室で情報端末を使い、博士に提出するレポートを作成している。今後の歴史展開について要点、状況、考えられる不測の事態、対処方法や要望など書く事は山のようにある。

この基地に着いてから博士の執務室で話すこと3時間。
その後何も食べていなかったのでPXへ行こうとしたが、”彼女達”に遭遇する可能性があったので諦めた。まだ会うわけにはいかない。

今は白稜の制服ではなく、横浜衛士訓練学校の制服に着替えている。
特務少尉の階級章は襟の裏につけておいた。何か問題が起きたときに持ってないとマズイ。


レポートを作成しながら、博士の部屋で鋼介さんから受けた説明を頭の中で整理していた。

斯衛軍の特務少尉で任務は冥夜の護衛。
国連軍の207訓練小隊に訓練兵として配属。

隙のないすばらしい設定だ。
彼が斯衛の赤であることや特殊部隊を率いていることを利用し、俺が人類の勝利の為に集中できるよう取り計らってくれたのだ。

XM3についても発案者は斯衛軍の俺。
制作するのは国連軍の香月博士。

帝国と国連のつながりも確保できるし、XM3が帝国へ早期のうちに広まり、今後展開されるであろう作戦がかなり有利になるのだ。
おそらくA-01の人たちと会う機会はあるだろうけど、同じ作戦で共闘することは無いだろうな。
佐渡島は帝国領内だから参加できるかもしれないけど、オリジナルハイヴはどうなるんだろう。

鋼介さんの話だとどうにかしてくれそうな気もするが、後で会って聞いてみるか。




でもまさか、親父が斯衛軍の有名人だったとはな~。


聞いたときは驚いたぜ。
家の色は白で、むちゃくちゃ強かったらしい。

それに【白壁】だなんて二つ名を持っているから知名度は全国レベルだと言う。
本土侵攻の時に死んじまったらしいけど。

鋼介さんは
『死力を尽くして最期まで諦めず戦い、民を守る為に散っていった』
と誇らしげに語っていた。
おそらく鋼介さんも京都防衛戦に参加していたのだろう。

親父も”死力を尽くして任務にあたり”、”生ある限り最善を尽くし”たんだな。
俺も親父の思いを無駄にはしない。”決して犬死になんてさせない”ぞ!

「よし」
レポートの完成だ。
時計を見ると作業を始めてから2時間近く経っていた。



(ぐぅぅ~~~~)



さすがに朝から夕方まで飯抜きはきついぜ。



<コンコン>(ノック音)



ドアを誰かがノックしている。
ん?誰だろう。


「どうぞ」



<ガチャッ>




「白銀君。レポートは出来たかね?」
入って来たのは鋼介さんだった。
ドアを開けた廊下側からは、遠いけれど喧騒が聞こえてきた。時間的に夕方だから人の移動が多いんだな。

「は!完成しております。」
もう既に俺は少尉だ。
少佐に対してちゃんとした態度を取らないとな。プライベートとの区別はしっかりしよう。

ぬぅ・・・・・やべー、腹減って死にそうだ。

「早かったね。ではレポートを博士に提出した後、衛士訓練学校の207教室へ来なさい。
月詠中尉に着任の挨拶だ。」
そうだった。特務少尉とはいえ、任務は冥夜の警護だ。
月詠中尉に挨拶しておかないとな。

ということは基地での警護関係の上司は月詠中尉になるのか。
今回は”死人”じゃなくてよかったぜ。

「了解しました。レポート提出の後、訓練学校の教室へ向かいます」
ちゃんと命令の復唱も忘れない。

「私も立ち会うから先に行ってるよ。では教室で待っているぞ」
少佐が部屋から退出し、俺は敬礼して見送る。
オリジナルハイヴ云々はまた後で聞いてみよう。


つーか、飯の時間ないし。


情報端末から記憶媒体にデータを送る。
転送すれば早いかもしれないけど途中でスパイとかに読まれても困るから手で持っていくしかない。
まだこの時期にスパイはたくさん残っているのだ。


それにしても腹減ったな。博士に頼んで部屋に出前してもらおうかなぁ・・・・・。



転送が終了した。端末を懐に入れ、部屋を出る。
B4ブロックは通常士官用の個室があるブロックの内の一つだ。

俺がいるのはそのブロックの一番奥。ここには”彼女達”の部屋がある場所と違い、IDを使わないと入れない。部屋自体にも鍵が付いている。
同じブロックのいくつかの通路の向こう側には”彼女達”の部屋がある。
だが、数多くある部屋のほとんどは使われていない。
彼女達の”背景”からするとあまり人に近づけるようなことは出来ないからだ。
多分、点呼の時だけあっち側の部屋に行くんだろう。


IDを認証システムに通し、機密ブロック直通エレベーターに乗り込む。



あぁ、鯖味噌食いてぇ。
否、合成ラーメンも捨て難い、



B19ブロックに着き、エレベーターを降りる。

着任の挨拶が終わったら純夏と霞に会わないとな。
いろいろやる事が多すぎてどうしても後回しになってしまう。


<カシュー>

執務室に入ると博士がパソコンに向かっていた。

「香月博士。レポートをお持ちしました」
記憶媒体を取り出し、博士に差し出す。

「あたしが堅っ苦しいのが嫌いなの知ってるでしょ?それとも前の世界のあたしはガチガチに厳しかったのかしら?」
うーん、俺もなんか言いづらいって思ってたんだよな。
博士がいいって言うのならお言葉に甘えよう。

「分かりましたよ博士。これでいいんでしょ?」
よし、これでいくらか気分が楽だ。

「それでいいのよ。」
博士は媒体を受け取ると、作業に戻った。
忙しそうなので退散する。


「では、用事があるんで失礼しまーす。」
俺が求めていた空気はこれだ!
この世界で唯一元の世界の一端を感じられる空間である。
















要望としてPXからの出前を追加しておいた。
人はこれを『職権乱用』と言う。














”腹が減っては戦は出来ぬ”と昔から言うじゃないか。
全ては人類の未来の為だ。 うん、そうに違いない。




















<side真那>







「白壁の息子か・・・・・」
大隅殿から受け取った情報シートに目を通していた。
”白壁”といえば帝国斯衛軍でも紅蓮大将に次ぐ実力者であった御仁だ。
家の色こそ私より下の白であったが、実力は大将直々に手合わせしたほどだ。

彼の訓練兵時代を知るものは白壁をこう呼ぶ。

『斯衛一の問題児』

武家出身という枠にとらわれない発言や周囲を巻き込んでの騒動を起こすなど、破天荒な人物であったという。

だがそこから来る奇抜な発想により、あのような強さを持っていたのだろう。

そして今回、冥夜様の護衛の任にその息子が就く事になった。
最近まで行方知れずだったが、難民キャンプで生き延びていたという。
それを大隅殿が見つけ、保護したという事だ。

そこまでは良い。
だが問題はここからだ。


あの女狐の計画に関わっているということ。


確かに女狐の計画が人類を救う為のものであるという事は間違っていないだろう。
それを誘致した榊首相を殿下が信頼しておられるからだ。


だが、女狐は同胞に対価を求め、駆け引きの材料にするなど好感は持てぬ。

その計画に”白壁”の息子が関わるとなるとその知名度を利用し、担ぐするような気がしてならん。
よもや帝国から国連への人質として送られらたとあれば女狐は活用せんとするだろう。

どちらにせよ後の着任報告で会うことになっている。
どの様な人物かは知らぬが、白壁の息子とあれば破天荒なことをしそうで心配だ・・・・・・。
任務とあらばそれを抑え、従事してくれることを願おう。

大隅殿は『強靭な意志をもった青年である』と仰っていた。
少なくとも護衛の任は全う出来るであろう。


「さて・・。」
部屋の時計を見る。
そろそろ訓練校の教室に向かわねばならん。


<コンコン>


「開いているぞ」

「真那様。お話があると聞き、参上致しました。」
部下である神代と戎が部屋に来た。

着任報告の際、私は冥夜様から離れることになる。その場合、冥夜様の護衛が手薄になってしまうからだ。
通常部下と私とで交代で護衛をしているが、今回の件で順番が狂った。

新たな護衛が来ることを伝え、冥夜様の護衛を強化するようにと命令した。

神代達が退出し、私も訓練校へ向かう支度をする。大隅殿が立ち会われるので失礼があってはならない。





白壁の息子。どのような人物か楽しみだ。








[26355] Muv-Luv Alternative CHANGE MATLIX <No.10>
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/09 21:28







午後7時38分 衛士訓練学校207教室






<side武>


「白銀少尉、入ります!」
教室のドアを開け、中に入る。

「おお、白銀君。来たか。」
少佐が教室の椅子に座っており、月詠中尉は彼の正面にいた。どうやら話をしていたみたいだ。

俺が敬礼すると少佐が立ち上がり、答礼を返す。

「さっそく顔合わせと行こうかね。……それでは自己紹介したまえ。」
少佐が手招きし、俺を月詠中尉の前に立たせる。

「お初にお目にかかります中尉殿。白銀武特務少尉であります。」
敬礼しながら挨拶する。

「月詠真那中尉だ。着任を歓迎する。貴様の働きに期待してるぞ―――白銀。」
中尉が答礼を返す。

今回はかなり状況が違うからちょっと緊張する。
月詠中尉の印象が前の世界の最後に会った時に近い。
同じ斯衛ってだけでこうも違うのか。

「護衛任務に全力を尽くします。斯衛の存在意義でもありますから。」
斯衛軍は政威大将軍や五摂家の護衛部隊だ。当然任務もそれに伴ったものになる。

「頼もしいな。さすがは白壁の息子だ。そこらの同年齢の人間とは雰囲気が違うぞ。」
中身が成人男性並みの年齢だから当たり前だ。
間違ってもそんな事を言ったりはしないが。

それに”白壁”か。
ここでも親父の名前が出るとはさすが有名人。俺も親父に負けない働きをしなきゃな。

「ありがとうございます。」


その後、少佐と中尉と俺で打ち合わせをした。
俺が護衛任務を担当することを冥夜に知られてはならないそうだ。理由はいくつもある。
そして特務少尉であることは神宮寺軍曹には伝達済みであること。

明日訓練部隊に配属されるので、朝飯食ったら軍曹のところに行かなくてはいけないな。

他にも色々護衛任務に関しての説明を受けた。
月詠中尉には俺が時々特殊任務で訓練から離れることを伝えた。
最初は顔を顰めていたが、
「貴様には役割があるのだ。それを全うすべきだ。」と言ってくれた。

数十分後、着任の挨拶が終わって解散となった。
少佐に色々聞こうと思っていたが、彼は用事があるらしい。
終わったらさっさと出て行ってしまった。



俺の為に皆頑張ってくれてるんだ。俺も全力を尽くす。




さて、純夏と霞に会わなきゃな。





その前に博士の所へ行って今後のスケジュールを聞く。


当分は訓練とXM3作りだそうだ。
β版が完成したら、A-01と独立警護小隊の機体に試験搭載。
教導等は夜やるらしいので訓練には支障がないだろう。


明日には彼女達に会う。
ちょっと緊張するが、気分を切り替えて行こう。




そして2人に会うためシリンダールームへ足先を向ける。





<カシュン>(扉の開閉音)




部屋には青白く光る脳髄の入ったシリンダー。
それを見上げる少女が居た。

入ると彼女はこちらを向いてちょっと首をかしげたような気がする。
表情変化がわかるようになったのは最近だ。


だが、彼女は”あの社霞”ではない。
目の前にいる彼女とは今回が初対面だ。

怖がらせないようにしなきゃな。






<side霞>








「ちょっといいかな。」


部屋に入ってきた男の人が声をかけてきました。



「はじめまして。もう知っていると思うけど、俺の名前は白銀武って言うんだ。よろしくな。」


「………」


未来から、別の世界からやって来たという人。
私や、純夏さんとの記憶を持つ人。

とても悲しい記憶を持つ人。
今までリーディングしてきた人の中で一番悲しいイメージを持つ人。

彼はその悲しみを乗り越え、この世界に来た。
それなのに…それなのに…命令とはいえ……勝手に覗いてしまった。


「おーい、社さん?」


「……ごめんなさい」


「え?}


「ごめん……なさい………っ…」


「………」



「――――――っ」
気がつくと彼に抱きしめられていた。

「気にしなくていい。読んでしまったのは仕方のないことだ。博士からの命令だったんだろう?」


………余計に悲しませてしまった。



「じゃあ、こうしよう。お詫びに一つだけお願い聞いてくれないかな?」

「………?…」

おねがい………?


「純夏の友達になってやってくれ。」

―――!

「じゃ、また来るよ」

彼が部屋から出て行こうとする。


「……どうして……許してくれるんですか……?」
私はいけないことをした。
なのに……

「許すもなにもないよ。ただ君が背負わされた”役割”のせいであって君が悪い訳じゃない。」


「………」


「それじゃ、また明日来るからな。またな~」


「………っ」




【バイバイは”別れの言葉”。『またね』は再会を約束する言葉】






「ま……またね…」








<カシュン>(ドアの開閉音)









「………」







【霞、一緒に思い出を作ろう】





【純夏と友達になってくれ】









彼は………私と仲良くしたかったのに。

私が謝ったばっかりに………。







【人を傷つけたら謝りたい……。”お詫びになるなら、何でもしてあげたい”…… 】









…お詫びになるならなんでもしてあげたい………











「…………」










白銀さん。






私はあなたに……………お詫びをしたいです………

















<side武>








午後10時27分  B4ブロック 廊下




純夏と霞に会った後、俺は雑用を済ませる為、基地の色々なブロックを廻り、今部屋に戻ろうとしている途中だ。







<コツ、コツ、コツ………>(靴音)








霞………。








『ごめん……なさい………』











俺の心の中を覗いた事を怒ってなんかいないし、悪い事だなんて思っちゃいない。

仕方なかったのだ。








明日あたりもう一回行って、話をしてみるか……………・。










<ガチャ>






部屋に入り、電気を点ける。




「お?」
机の上にちょっといびつな小さめの合成おにぎりと合成玉露の入った魔法瓶があった。


おや?手紙がついてる。













【明日、一緒にお話しましょう―――あと……”霞”…でいいです――――】












手紙の端には”うささん”の絵が描いてある。











「…………っ」




頭の中に霞との思い出をありったけ思い浮かべる。

彼女に届くように。









【一緒に、思い出を作ろうな。”霞”―――】








おにぎりは冷めていたけれど、おいしかった。

ありがとう霞。












[26355] 設定資料(随時追加)
Name: Ms.Hayase◆08f5c321 ID:a8fbbcdd
Date: 2011/03/09 01:46
設定 (話の進行に合わせて随時追加していきます)



【Muv-Luv Alternative CHANGE MATRIX】

マブラヴオルタネイティヴから派生した世界群の一つ。

『もし白銀武が元の世界へ帰れなかったら』という確率分岐と
『もし現代人がマブラヴの世界に来てしまったら』という確率分岐が偶然重なって出来た世界です。
派生したと言っても確率分岐の話ですから、原作とは関係ありません。


【CHANGE MATRIX】
マトリクス(またはマトリックス)は本来は「生み出すもの」と言う意味ですが
日本語に訳されるときは「基盤」や「基質」となるのでこちらを使わせてもらいました。
チェンジマトリクス。つまり【話の基盤を変えている】と言う意味です。

そりゃ二次創作ですので話の基盤を変えなければいけないですし。
どんなタイトルをつけたらいいか迷ってしまい、思いついたのがこれでした。
プロローグに映画【マトリックス】を思わせる描写や設定がありますが、
あれはネタですので映画は本編との直接的なつながりはありません。


ネタとタイトルが被っているのは偶然です。多分。




人物

【白銀武】 
主人公。男性。年齢は17歳(精神年齢は不明)

前の世界で桜花作戦を成功させ、人類の生存時間を30年稼いだ英雄。
鑑純夏と結ばれ因果導体から解き放たれて元の世界へ帰るはずだった。

次に目を覚ますと、またBETAと人類が戦っている世界に戻ってしまっていた。
状況を確かめようと外へ出ようとするが、自分以外誰もいないはずの家の中で、国連軍の制服を纏った男に出会う。

男は自分と同じ”異邦人”で、人類を救うために協力してくれるという。
イレギュラーの多い世界で”シロガネタケル”は人類を救う事を決意する。


【この世界の白銀武】

帝国斯衛軍の白銀影行准将の息子。
BETA本土侵攻の際、行方不明になり死亡扱いになっている。





【大隅鋼介】
オリジナルキャラクター。男性。年齢は39歳。(34の設定だと矛盾が出てくるんで39歳にしました)


<外面>

日本帝国の五大武家の一つの斉御司家分家筆頭、大隅家当主。
帝国斯衛軍に所属し、赤の武御雷を賜っている。階級は少佐。

試製99式電磁投射砲の機関部に不備が見つかり、それを手がけた国連横浜基地に帝国代表として出向している。

本来兵器廠とは何の関係もない彼だが、帝国技術廠・第壱開発局副部長 巌谷栄二陸軍中佐からの推薦があり、上層部も「特に問題はない」として許可した。

一ヶ月ほど前から彼の言動や行動に変化が現われた。
突然兵器開発に興味を示したり、ある日突然ヴォールクデータ単機で中層到達したり、今まで嫌っていた国連軍へ「自ら赴きたい」と知人の巌谷中佐に進言した等の噂が広まっている。


帝国斯衛軍”特務機動大隊”を指揮しており、部下からの信頼も厚い。
よく部下に変な物を身につけさせるのが問題点。

最近は指揮下の黒の斯衛達に黒いサングラスをかけさせているらしい。



―帝国斯衛軍特務機動大隊―
対BETA戦、対人戦に関わらず比較的危険な任務を遂行する部隊。
『どんな任務でもこなす』のがモットー。
おかげで『斯衛の万屋』という名で知られている。(要するに「何でも屋さん」である)
人員損耗率は任務内容に対して比較的軽微であることから優秀さが伺える。





<中身>

現代日本からゲームの世界に飛ばされた異邦人。
名前は覚えていない。

ある日起きると、別の人間になっていた。
この現象を『憑依』と本人は呼称している。

その人物の記憶や人格を共有できる。
憑依した人物が死ぬとまた別の世界の人物に憑依する。

持ち越せるのは記憶や技術のみ。(人格を持ち越すと異常を起しそうなので削除)

稀に憑依しただけで事象に干渉できない場合がある。
現実の表現で言うと選択肢無しのゲームをやっている状態がそれにあたる。
いわゆる”一元視点 ”である。

十度目の憑依で白銀武と接触し、自らの情報や経験、肩書きを使い、彼の支援を行う。



彼は何故白銀武を助けるのか。

香月夕呼に頼まれたからなのか。
それともこの世界が元々ゲームで展開を知っていたからなのか。


それは彼以外誰も知らない―――――。





【白銀影行】
故人。享年45歳。

この世界の白銀武の父親。
帝国斯衛軍第8大隊を指揮していた。
色は白ながらも生前の階級は中佐。
死後二階級特進で准将になっている。

白銀の瑞鶴を操り、卓越した近接戦闘技術で敵を後ろに通さなかったことから【白壁】の名で知られている。

1998年のBETA本土侵攻の際、京都防衛戦に参加。
BETAの群れへ吶喊しS-11を起爆。散っていった。




【香月夕呼】
女性。年齢は、ニジュウ…いえ、何でもございません。

横浜基地の副司令であり、物理学者でもある「オルタネイティヴ4」の最高責任者。「オルタネイティヴ4」の完遂を全てに優先しており、その為にはあらゆる犠牲を容認し、冷酷な決断をも下す。常にクールな佇まいを崩さず、本心を表に出す事は滅多に無い。自身の研究以外にも、作戦立案や兵器の改良など多方面に才能を発揮する本物の天才である。

【社霞】
女性。年齢は……あの、そんな目で見ないで……わかったよ!言わないよ!

香月博士の執務室の隣にある特殊な部屋にいる謎の少女。香月博士と行動を共にする「オルタネイティヴ4」の重要人物。基本的に無口であまり感情を見せず、話す時もポツリポツリと言葉を紡ぐ事が多い。ウサギの耳と尻尾のような飾りを着けている。

今回ちょっと出番が増えそうで増えない霞ちゃんです。
序盤は多いかもしれないけど中盤は出番が激減。終盤は原作と同じぐらいでの出現率となっております。






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