きっと、だいじょうぶ。

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きっと、だいじょうぶ。:/21 関わり続ける覚悟=西野博之

映画「月あかりの下で」より
映画「月あかりの下で」より

 定時制高校に通う生徒の入学から卒業までを追ったドキュメンタリー映画「月あかりの下で」を観(み)た。08年3月に統廃合のため廃校となった埼玉県立浦和商業高校の定時制が舞台である。

 入学してきた生徒40人のうち37人が不登校体験者。ヒールをはいて、机の上に寝そべる女の子。授業に出ずに職員室にたむろする子どもたち。このシーンだけを見た大人たちからは、「なんだ、この態度は。なぜ先生は叱らないのか」「生徒にこびているようで情けない」、そんな声が聞こえてきそうだ。

 だがこの学校の先生たちは、まずもって生徒を否定も拒絶もしない。ここにたどり着くまでに、学校や社会の中で、先生や友だちからさんざん拒絶されてきた経験を持つ子どもたち。家庭でも、親からのさまざまな暴力にさらされてきた子どもたちがいる。だからまず、学校の中に生徒の居場所をつくるのだと。

 傷を抱えて入学してきた生徒たちは、まず先生たちを試す。どこまでやったらキレルのか。手を上げるのか、処罰という名で自分を追い出すのか。かつて出会った先生がそうであったように。だから派手な服装を身にまとい、暴言を吐きながら突っかかる。

 いま日本の多くの学校現場には、校則に違反するような行為が一つでもあれば容赦なく処罰する「ゼロトレランス」(寛容度0)方式と呼ばれる考え方がアメリカから持ち込まれるようになった。一人一人の子どもが抱えている困難な生活環境に想像力を働かせたり、配慮をしたりということなどはしない。

 その一方で、この定時制高校では、法に触れるような行為を犯し停学や退学になりそうなシーンでも最後の切り札「レッドカード」は使わない。粘り強く関わり続ける。

 もっていき場のないいらだちや寂しさに共感してくれる教師がいる。悩み、苦しんでいる友を見捨てない仲間がいる。思いを発信すれば、応答してくれる人がいる。

 かつて学校で夢を潰されフリースペースで中学時代を過ごしてきた子どもの中には、もう一度夢を紡ごうと、定時制高校を志望する子も少なくない。受験希望者が増える一方で、定時制高校の再編・削減計画が進行している。

 「浦商で生きる希望をもらった」。涙ながらに卒業生が訴える。地域に定時制の灯を消さないこと。そして、こんなふうに子どもと関わり続ける覚悟をもった教師がいる学校の存在は、今を生きる多くの子どもたちの願いでもある。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は3月6日

毎日新聞 2011年2月20日 東京朝刊

 

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