きっと、だいじょうぶ。

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きっと、だいじょうぶ。:/22 みんな一緒でなくていい=西野博之

 小学校高学年の女の子がつぶやく。「学校で何が疲れるかって、トイレに行くにも女の子同士が一緒じゃないと安心できないことだよ」。いつも一緒じゃないと、陰でどんな悪口を言われるかわからないのだそうだ。自分の表情から気持ちを悟られるのが嫌だから、毎日マスクをして過ごしているという。

 この子の話を聞きながら、トモコのことを思い出した。学校の規律や友だちグループの窮屈な雰囲気が合わなくて、小学校3年から学校に行かなくなった。そして、卒業までをフリースペースで過ごした。当時を振り返って彼女は語る。「学校に通っているうちに、自分がありのままでいられなくなっていた」

 その後いったん学校に戻り、高校を卒業してアルバイトを15カ月続け、お金をためて世界一周の旅に出た。「みんなと同じように大学に行き、就活をして、定年まで働き続けるという生き方に疑問と違和感を感じて、日本に居続けることが苦しくなった。他の世界を見てみたい」。日本を離れる4カ月前に我が家に泊まり、世界一周の計画を朝方まで熱く語った。

 「1年したら帰る」と言い残し、19歳で日本を離れたトモコは、インドで20歳を迎え、アジア、中東、ヨーロッパを回り、南米にたどり着いた。訪れた国はなんと20カ国。日本を出て間もなく3年の月日がたとうとしている。彼女はいまアルゼンチンのタフィーという美しい小さな田舎の村で暮らしている。

 ホステルで働きながらツーリストガイドや旅行会社のライターをしたり、英語を教えて生計を営んでいるという。日本を離れるときは英語で15と50の区別がつけられなかった子が、スペイン語を使って英語を教えているというのだから、驚きだ。

 海外で暮らすトモコから最近こんなメールが届いた。「日本人は世間とか普通とかにとらわれ過ぎて、自分の考えや価値観を持とうとしない。南米では自分の意志を持っていないと何もできない」

 冒頭の話のように、マスクという仮面をかぶり、周囲の目を気にして他人と同じ行動をとりたがる日本の子どもたち。続けてトモコは語る。

 「今自分がいる世界だけがすべてじゃない」「地球の裏側で全く正反対の文化や価値観で生きている人と出会い、今までの価値観や既成概念がぶち壊される瞬間が一番ショックで、一番楽しい」。不登校経験はマイナスではなかったと語る彼女の生きざまから、学ぶことはたくさんある。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は20日

毎日新聞 2011年3月6日 東京朝刊

 

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