余録

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余録:年金問題の連環

 秦の始皇帝は賢明で名高い斉の后(きさき)にいくつもの玉環からなる連環を贈り、「斉は智者(ちしゃ)が多いと聞くが、この環(わ)が解けるか」と使者に問わせた。后は群臣に見せたが、解けるという者はいない▲すると后は槌(つち)を持ち出し、あっという間に連環をたたき壊して使者に手渡した。「お言葉通りに、謹んでお解きしました」--「斉后破環」という故事だが、どこかで聞いたような話だ。そう、アレキサンダー大王の「ゴルディアスの結び目」の伝説とよく似ている▲アレキサンダーは、解けばアジアの支配者になれるというひもの結び目を迷わず剣で断ち切った。うまく解いてみせれば支配者になれるという難問は今も存在しないわけではない。もつれた年金問題が、とうとう政権交代まで引き起こしてからまだ2年たっていない▲そもそも入り組んだ年金問題の連環を解いてみせると胸を張って政権を奪取した民主党だ。だがいざ解こうとすれば、主婦の年金切り替え漏れの救済策一つでもその難しさに頭を抱える。今は長妻昭前厚生労働相が乱暴にほどきそこねた環の組み直しにおおわらわだ▲この間、救済策を「知らなかった」という細川律夫厚労相の答弁はじめ混乱と迷走を露呈した政府である。あちら立てればこちらが立たずの複雑な連環をなし、しかも国民の視線が集まる年金問題だ。攻守所を変えた野党の絶好の攻撃目標になるのも因果応報だろう▲だが問題の環をたどれば自公政権時代の年金管理の不始末や怠慢にまで連なっているのはいうまでもない。ここは政争の因果をいったん断ち切り、与野党の共同責任で救済策の決定を急いだ方がいい。

毎日新聞 2011年3月10日 0時07分

 

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