社説

文字サイズ変更

社説:女性の起用 「埋蔵資産」開花させよう

 野村ホールディングスが1925年の創業以来初めて、女性を常勤役員に起用する。中川順子さん(45)で、財務統括責任者(CFO)という、グループの財務を取り仕切る重要ポストに来月就く。

 野村だけではない。資生堂ではナンバー2の副社長が女性で、日本銀行でも初の女性支店長が誕生するなど、女性を要職に就ける人事を最近目にするようになった。女性の進出がまだまだの日本社会では、「ようやく」といった感じだ。大いに歓迎すると同時に、一日も早くこうした人事がニュースではなくなるよう、動きを加速させねばならない。

 女性の活躍の場が増えることは、当然、女性の利益になる。女性であるがゆえに、夢をあきらめねばならないといった不幸を早くなくしたい。ただ、それによる恩恵を受けるのは女性にとどまらない。停滞している日本経済を活性化し、成長に弾みをつける最有力の策としても、女性の能力活用に力を入れるべきだ。

 米大手証券のゴールドマン・サックスは、日本人女性の就労率が男性と同等まで高まれば、日本の国内総生産(GDP)が15%も増加すると試算したリポートを昨秋まとめた。その言葉を借りるまでもなく、女性は、日本が潤沢に抱えながらも活用しきれず無駄にしている最大の“埋蔵資産”ではないか。

 例えば、日本人女性の学歴は先進国中で際立って高いものの、大卒者の就労率となるとほとんど最下位である。管理職に占める女性の比率にいたっては、米、英、独が40%前後であるのに対し、日本は9%程度のままほとんど変化していない。民間企業だけでなく、研究者や政治家に占める女性の割合でも日本は他国に大きく後れをとっている。

 6歳未満の子を持つ女性の就労率が日本の場合際立って低いことからみても、育児と労働の両立がネックになっているのは明らかだ。

 最大の問題は、長年指摘されていながら保育所の不足など遅々として改善しない育児支援態勢の貧弱さだろう。米欧では家事や育児の手伝いに外国人労働者を雇うケースが珍しくないが、日本では、そうしたサービスの利用も著しく困難である。

 国、企業とも、やれることはまだまだたくさんある。野村の例などが示すように、変化の兆しは見えるが、スピードが問題だ。

 人口の減少、高齢化の進行を考えたとき、日本に猶予の時間がないことは明らかである。女性が活躍できる環境づくりを成長戦略の最優先事項と位置づけ、対策を急ぐ必要がある。貴重な資産が大量に海外流出を始める日が、近い将来、訪れないとも限らないのである。

毎日新聞 2011年3月10日 2時30分

 

PR情報

スポンサーサイト検索

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド

毎日jp共同企画